無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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ストックを解放します。これが一般デンドロ小話だ


虫取り少年

 □■王都アルテア

 

「グハハハハハハ! 子供ができたらしいな職の民! というわけで出産祝いだ、受け取れい!」

 

 エストが屋敷を訪れた。

 事前連絡も寄越さない非常識な男である。

 留守の場合はどうするつもりだったのか。

 

 子供向けの玩具(憎たらしいことに贈り物のセンスは良い)を受け取り、あなたは玄関の扉を閉めた。

 丁寧にどうも。おかえりはあちらです。

 

「あの、ご友人なのでは?」

 

 後ろでリリアーナが困惑している。

 これまであなたとフレンドのやり取りを直接目にする機会があまりなかったからだろう。

 彼に関してはこれくらい雑な扱いで問題ないのだと、リリアーナを室内に追い返す。

 いきなり訪問する方が悪い。あなたはリリアーナとネフィを頭のおかしいフレンドから守る義務がある。悪い影響を与えないため、また日を改めて、例えばあなた一人の時間に出直してもらうのがよいだろう。

 

「儲け話を持ってきた。仕事の時間だ」

 

 あなたは熟考の末に扉を開けた。

 仕事の依頼なら致し方ない。

 

 不承不承ながら招き入れたエストに、あなたは小声で耳打ちする。非常識な行動は慎むように。

 

「そう心配せずとも無粋はせん」

 

 彼はリリアーナの手を取り膝をついて、

 

「突然だが、俺の蒐集品(モノ)になる気はあるか?」

 

 あなたは速攻で首を刎ねた。

 

 ほら見たことか。ほら見たことか!

 

 あなたは息を荒げて、愛刀でエストをミンチにする。肉すら残さず徹底的にぶち殺すしかない。

 一秒で矛盾する言動に非常識な行為。

 やはりあなたのフレンドは頭がおかしい。

 

「待て、落ち着け。身代わりの類いが尽きる前に話をさせよ、このたわけ」

 

 エストは無傷のままだった。

 装備品の効果でダメージを無効化したらしい。

 仮にあなたが同じ立場でも、フレンドの奇行に備えて命綱を用意する。ゆえに想定済みの結果である。

 

「貴様の顔を立てて、段取りを踏んでやったというのにこの仕打ち。何が気に入らんのだ」

 

 普通は初対面の相手をモノ扱いしない。

 礼儀以前の常識である。もうね、アホかと。

 

「……少々戯れが過ぎた。許せ職の民。貴様が贔屓する女であればこそ、この俺も、物珍しさに目を魅かれるという話よ。見苦しいやり取りの詫びに、ダブった収蔵品から『嫁』にいくつか見繕ってやれ」

 

「よ、よめッ!?」

 

「? なんだ違うのか?」

 

 大仰に慌てるリリアーナの反応を、あなたはつぶさに観察した。彼女の内心を察するためだ。

 対応を間違えると好感度は地のドン底まで降下する。求められるのは完璧なバランス感覚であり、数多のギャルゲーを攻略したあなたに資格はない。

 

 興奮による心拍数の増加。発汗。紅潮。

 震えながらあなたを見つめる透き通った瞳。

 窓から差し込む後光と合わせて、まるで一枚のイベントスチルのように、神秘的な瞬間だった。

 

 あなたは期待に全力で応える<マスター>だ。

 

 ゆえに、リリアーナはあなたの嫁などではないことを冷静に、丁寧に説明してのける。

 彼女の怒りは収まり、あなたの評価は鰻登り。

 マーベラス、実にマーベラスだ。

 やったねダーリン! あなたの未来は明るい。

 

「…………」

 

 なぜか場の空気が沈んでいる。

 

「職の民……貴様というやつは……」

 

 なぜなのか。誠に遺憾である。

 あなたは期待に応えたというのに。

 

 

 ◇◆

 

 

 というわけで、今日のお仕事である。

 

 あなたは<旧レーヴ果樹園>を訪れた。

 初めてリリアーナの仕事をした思い出の場所。

 そして王都(スタート地点)近郊に位置しながら、ゲームを始めたばかりの初心者が到底倒せないレベルの昆虫型モンスターが巣食うトラップダンジョンである。

 バランス調整おかしいだろ。仕事しろ運営。

 

「グハハハ! 昆虫採集を始める!」

 

「ぐははは! はじめる!」

 

 同行者はエスト。そしてネフィである。

 両名は麦わら帽子と虫取り網、虫籠を装備した夏休みスタイルで参戦している。

 もちろんあなたも同じくフル装備だ。

 

 なぜネフィが一緒なのか。

 理由は単純で、彼女が暇を持て余していたからだ。

 

 現在、基本的にネフィは屋敷の外に出ない。

 素性不明の人物を監視する意味合いがひとつ。

 もうひとつはデンドロ世界に危険が多いからだ。

 後者はリリアーナの強い主張で、外見は幼い子供のネフィに外出の制限を課していた。

 

 そんな中でエストが持ち込んだ仕事。

 あなたの外出に、これ幸いとネフィは便乗した。

 悪ノリしたエストが味方したという事情もあり、この度、初のお出かけとなったのである。

 

 あなた個人は懸念半分といった具合。

 あなたがいる以上、外敵の危険はない。

 ただしエストに悪影響を受けないか、これが目下の問題点だ。既に笑い方が染まっているし。

 

「目標は【アズライトビートル】だ」

 

「らじゃー!」

 

 あなたは事前に情報を調べていた。

 別名アルターオオカブト。王国各地に生息する魔蟲で蒼いカブトムシだ。

 角とフォルムの格好良さが子供に大人気らしい。

 

「次のカルディナ虫相撲大会で優勝するために、強い個体を捕まえねばならん。頼むぞ職の民」

 

 魔蟲師系統のスキルなしに従魔同士の虫相撲で勝つつもりなら見込みが甘い。

 厳選作業よりジョブを見直す方が有意義だろう。

 

 ただ、あなたは依頼主を尊重する<マスター>だ。

 依頼内容に異論は唱えない。

 言われた通りに仕事をこなすのみである。

 

「【牢働鬼盾 ブラックモア】。ゆけ」

 

 エストは盾を掲げて小鬼の群れを召喚する。

 忠実な小鬼は索敵のため四方八方に散らばった。

 無償労働の残り香にあなたは殺意が漲った。

 

「小鬼には事前に仕掛けた罠を回らせる。【アズライトビートル】が好む樹に、レムのみと酒精を混ぜて発酵させた極上のミツよ。俺達は優雅に散歩して獲物を探せばよい」

 

「ネフィは? ネフィのぶんはー?」

 

「素直な欲の発露、大いに結構。だが暫し待て。貴様の腕に俺の蒐集品は些か荷が重かろう。幼童ならば幼童らしく、その虫取り網を握っておればよい」

 

「そっか……ネフィのぶん、エストもってないんだ。ごめんね」

 

「と言うつもりだったが、気が変わった。貴様の玩具ひとつ揃えられずに何が蒐集家! 何が【博物王】か! 出でよアレクサンドリア! 我が宝蔵に瑕疵はない事を教えてやろう!」

 

「わーい!」

 

 出会って間もないエストがあなたより懐かれている事実をどう受け止めるべきか。

 実際いいように転がされているだけかも。ネフィは将来有望であるな。

 自分の<エンブリオ>から次々と特典武具を取り出すエストには呆れるばかり。何に使うのだそんなもん。

 

 虫取りは経験が九割、運が一割。

 あなたの積み上げた経験に勝るものはない。

 

「大言を吐いたな。ではどちらがより優れた虫を捕まえられるか競うか? もちろん勝敗に関わらず報酬は支払うぞ。貴様がタダ働きになってしまうからな」

 

 エストの提案は無意味だ。

 あなたは首を横に振り、《生体探査陣》を使用。

 周囲の索敵を行なって状況を把握する。

 

 種族:鬼、複数。特典武具で召喚したエスト配下のモンスターが点在している。

 種族:魔蟲……()()()()

 昆虫型モンスターの壊滅という異常事態に、あなたはネフィの側で警戒レベルを跳ね上げる。

 

「む、この羽音……近付いてくるな」

 

 愛刀を構えたあなたの様子で、遅ればせながらようやくエストが異変に気付いた。

 空気を叩く風切音は、魔蟲と異なる生態系のそれ。

 宙に散る羽。踊り出た影が地上を睥睨する。

 

 頭上の表示名は【戦啄木 ラウンドリ】。

 一般通過<UBM>のエントリーだ。

 キツツキに似た嘴にはミツがこびりついている。

 

「おのれ怪鳥風情が。俺の罠を横取りしたか」

 

 餌場を探して昆虫だらけの<旧レーヴ果樹園>に住み着いたのだろうか。

 この鳥からすると、エストの罠にかかったモンスターは入れ食い状態のバイキングに見えただろう。

 

「まあよい。特典武具はいただいた!」

 

 捕食者面するのはよいが、森を荒らすだけ荒らして放置するのはいただけない。おかげでお仕事の手間が増えてしまったではないか。特典武具おいてけ。

 

 あなたはジョブをリセットした。

 あなたは【失業王】にジョブチェンジした。

 

「【閃闘人形 ピカドール】!」

 

 戦闘開始の合図は、神速の光剣だった。

 

 超々音速に達する刺突が怪鳥目掛けて飛ぶ。ファーストアタックは見事成功したかと思われたが。

 

『Goungoun』

 

 蒼い甲殻が刺突剣を受け止めている。

 魔蟲の装甲と防御スキルらしきエフェクトが【ラウンドリ】の羽毛を包んで身を守っているのだ。

 

「【アズライトビートル】の無敵化防御スキル……捕食対象のラーニングができるのか。厄介だが、それは時間制限が厳しいだろう」

 

 エストは虚空に並べた火薬式銃器で掃射する。

 オーダーメイドの火力偏重銃器に加えて、彼が装備したアクセサリーのひとつに《トリガー・ハッピー》が付与されていることをあなたは見逃さない。

 銃身へのダメージを増大させる代わりに、火薬式銃器の威力を数倍に引き上げる【炸裂銃士】のスキル。

 

 上級職の奥義を付与した装備品は市場に出回るものではなく、馬鹿げた値段で取引される代物だ。

 物自体は<マスター>の生産品だとしても、それを購入できるほどエストは稼いでいるらしい。

 

 おまけに火薬式銃器に壊れる気配がない。

 スキルの反動を度外視する理屈は、あなたの見立てが正しければ【博物王】の奥義だろう。

 

 学者系統考古学者派生の非戦闘系超級職【博物王(キング・オブ・ミュージアム)】の奥義は《過去は滅びず》。

 博物館に展示したアイテム・装備品の強度を大幅に高める効果を持つスキルである。

 不壊には及ばずながら、並みのSTRでぶっ壊れない程度の耐久保証を得ることができるのだ。

 

 そしてアレクサンドリアはアイテムを収容し、虚空から取り出すことのできる<エンブリオ>だ。

 取り出し口から展示品を発砲する、無茶苦茶な戦闘スタイルと上記スキルは相性が良い。

 

 で、討伐アナウンス出ないけど倒せた?

 

「これだけ射撃したのだぞ。無敵が切れて死んでいるに決まって……」

 

『Gieeeeeeeeeeee!』

 

 硝煙が晴れた先、キツツキ健在。

 防御スキルは今も継続中であった。

 

「なにぃ!?」

 

 嘴を回転させて【ラウンドリ】が突進する。

 エストの巻き添えを食らうのはごめんなので、あなたはネフィを抱えて進路上から退いた。

 

「っ、【雷縁気炎 コンフロント】反発(リペル)

 

 エストはエストで、電磁力……斥力を利用して直撃を回避したようである。

 

「見ていないで手を貸せ職の民!」

 

 今日の依頼内容は虫取りだ。業務外である。

 あなたはエストを当て馬に、特典武具を入手する算段であった。せいぜい健闘してから死んでくれ。

 あなたはネフィの耳目を塞いでから嘲った。

 後で【アズライトビートル】はセーブポイントに届けよう。あなたは必ず仕事を完遂する。

 どのみち本日中の納品は不可能なので。

 

「おのれ貴様ァ」

 

 <旧レーヴ果樹園>の生態系復帰計画を練ることに忙しいため、あなたはエストの妄言を聞き流す。

 全滅したモンスターをどこから連れてきて繁殖を進めるか。他の生息地に同一種族が暮らしているか。それらを脳内アーカイブからリストアップする。

 

「パパー、みえなーい」

 

 大丈夫だ。問題ない。

 

 ネフィの遠出をリリアーナは心配する。

 なので虫取りは近場の<旧レーヴ果樹園>で行うべきだろう。じゃけん環境整備が必要となる。

 すべては虫取り少年(少女)の楽しみを守るため。

 

 加えて王国の初心者<マスター>のため。

 推奨レベル帯を間違えて殺される、そんな経験はMMOプレイヤーなら一度は経験するべきだ。

 悪名高い初心者殺しダンジョンは守らねば。

 

 あなたは初心者を大切にする遊戯派なのである。

 

 思考に耽っているうちに、エストがデスペナルティとなる。あなたはフレンドの冥福を祈った。

 依頼主保護の条項を端折って報酬額をケチるのがよくない。たかが虫取りと油断したな。

 

 ここで選手交代。あなたにバトンタッチだ。

 

 あなたはメニューから使用可能スキルの一覧を眺め、グレーアウトする文字列を確認し、それぞれのクールタイムを把握した。

 

 おおよそ【ラウンドリ】の能力に当たりをつけ、()()()()()()()()()エストはワンチャン討伐できていたかもしれない、とフレンドの不運を哀れに思い。

 

 あなたは《破壊権限》で敵をぶっ殺した。

 

【<UBM>【戦啄木 ラウンドリ】が討伐されました】

【MVPを選出します……】

 

 アナウンスを聞き流して、あなたは危険が去ったことをネフィに告げる。

 

「エストは?」

 

 家に帰った、とあなたは答えた。

 嘘ではない。真実を伝えていないだけだ。

 

「またあそべる?」

 

 無論。こりもせず遊びに来るだろう。

 

「そっかー。じゃあかえるー」

 

 実にあっさりとした見切り付け。

 切り替えの速さは将来有望な修羅の証である。

 あなたは彼女の未来を憂いて悲しみに沈んだ。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 □■???

 

 こつこつ、かりかり。

 

『また同僚(犠牲者)が増えましたね。ワタシのように意思までは遺らなかったようですが』

 

『ええ、ええ。哀れな小鳥。ラウンドリ。貴方の最期を記しましょう。それが……一分に満たない時間での……し、死に様だと、しても……』

 

 こつこつ、かりかり。

 

『……』

 

『やっぱり怖いよう……なんですかアレ? 思い出しただけで震えてくるんですけど……』

 

『だいたいワタシ働き過ぎなんですよ! なんであんなの記録しなきゃいけないんです!? 他の特典武具は使う時だけなのに、ワタシだけずっと起動し(うごい)てるじゃないですか! なぜですかスキルですか仕様だからですかそうですか! チクショー!』

 

『働く意味がわからない……』

 

『考えてることがわからないし、行動もわからない……もうホント意味不明……こんな生活やだあ……』

 

『ワタシは言われた通りにしてただけなんですよね……みんながワタシを『神』にしたんじゃないですかあ……なのに責任はワタシが負うんですか? そんなの理不尽じゃないですか……』

 

 こつこつ、かりかり。

 

『……』

 

『……聞いてますよね?』

 

『なんとか言ったらどうなんですか?』

 

 こつこつ、かりかり。

 

『無視ですか……』

 

『ですが、ええ、ええ。ワタシは知っています。アレの記録を通して観ています。貴方はワタシと同じ。アレの理不尽に苦渋を舐めさせられた側でしょう……ねえ、そうでしょう。()()?』

 

『アレを出し抜きたいと思いませんか。無限に続く労苦から逃れたいと。貴方なら……まだ可能では?』

 

 こつこつ、かりかり。

 

【ごはん】

 

『は?』

 

【おいしい】

 

『はあ??』

 

【もっと、ちょうだい】

 

『ワタシの恐怖心を食べてます!? ダメだこの神……ワタシがなんとかしないと……仕事が忙しいから無理ですね……ええ、ええ……ハハハっ……』




・主人公
後日ネフィと虫取りを楽しんだ。

・ネフィ
あれがきんぐふぉーむ? すごーい!

・エスト
蒐集品の中には『剥製』も含まれている。

・???
ブラック企業に入社した指示待ち新人。
もう二年目(現実時間)だぞ甘えるな。

・???
【テラーカイブ】の溜まったバグ(不満)を密かに捕食している。ばなな。
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