無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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本日二話目の更新です


箱入り娘と筒入り娘

 □■王都アルテア

 

 ネフィは王家所有の屋敷から外に出た。

 貴人を歓待する事を想定した屋敷は、王都で指折りに治安が良い、高級住宅地に似た区画に建っている。

 基本的に送迎用の馬車に乗って移動するような貴族・豪商の御用達であるため、子供が一人で通りを歩いている光景は大変悪目立ちする。

 

 彼女は視線を察して身を隠す。

 騒ぎを起こして保護者に迷惑をかけてはいけない、と判断するだけの知能が発達していた。

 無職とリリアーナの前では、幼子のような振る舞いを見せるばかりだったネフィが。

 

 事実。先程まで彼女は、年相応の内面を持ち合わせるばかりであった。

 要因は《ピジョンズ・ブートキャンプ》の教育番組に後押しされたからである。しかし前提として……彼女は知識とスキルを受け止める器を有していた。

 

 そのように、創られていた。

 

「ここがいいかな?」

 

 選んだ隠れ場所は建物の裏手。

 空の木箱が転がっている。

 子供一人がぎりぎり入れる寸法で、おあつらえむきに古布が敷き詰められていた。

 

 ネフィは箱に入り、布に包まる。

 暖かさと重みが睡魔を誘い……

 

(……あれ? なんか揺れてる?)

 

 眠りから覚めた時、彼女は異変を悟る。

 

 散発的な振動と金属音、そして銃声。

 血生臭さを伴う戦闘の気配だった。

 

 木箱の隙間から外の様子を覗き見る。

 どうしたことでしょう。見慣れた王都の街並みはどこへやら、のどかな平原と青空が広がる。

 

 目線の高さと振動から推測すると、どうやら馬車の荷台に木箱が積み込まれてしまったらしい。

 ネフィは羽根のように軽く、木箱の中に人がいると、積み下ろしの人間が気付かなかったのだ。

 荷役は寝ぼけていたに違いない。めっ。

 

 彼女が眠りこける間に王都は後方へ。

 馬車は<イースター平原>を抜けて東方面に向かっている。否、向かっていた。

 

 半ば現実逃避染みた現状把握の後。

 ネフィは馬車を襲う集団を注視する。

 馬車の商人と護衛を蹴散らすのは、()()だ。

 

『GoGoGo』

 

 ソレを指す語彙をネフィは持たない。

 <マスター>なら皆がこう呼ぶだろう。

 

 ――ゴーレム。

 

 円筒状のボディに腕部とカタピラ(無限軌道)を付けた鉄塊。

 その数、数百を超えて凡そ一千。

 画一的で統一された外装の造兵軍団は、一糸乱れぬ行軍で、右腕の鉈と左腕の機関銃を浴びせる。

 

「くそっ……指揮官を探せぇ! 頭を取れば、このゴーレム共は停止するッ!」

 

『GoGoGo、GAGAGA』

 

「う、うわァァァァ!?」

 

 また一人、血煙に変わる。

 返り血を浴びたゴーレムは無機質なまま、汚れを拭わずに敵の殲滅を継続する。

 

『ジョンスンさん、これでは馬車に近づけません。ガタノトーアを少し減らせますか?』

 

「ええまあ。では休憩させてもらいましょう」

 

『最初から休んでいたような。謎です』

 

 ゴーレムの一部隊が石化、崩壊する。

 背後から飛び出す、これまた円筒状の物体。

 ガタノトーアと呼ばれたゴーレムから腕と武装を外したシルエット。内側から少女の声が響いているが、真っ黒に艶消しされた表面は中身を覆い隠している。

 

「死ねェェェェェェ!」

 

『わわっ』

 

 襲撃者の一味と見て、護衛が反撃。

 手にした長剣で斬りかかるが……。

 

『あの、すみません。どいてもらえますか?』

 

 刃はかすり傷ひとつ与えられない。

 

『危ないので離れてほしいです』

 

「あーダメダメ。逃げちゃうから。ジョンスンくーん。まとめて殺っちゃってー」

 

 三人目。女の号令で機関銃が掃射される。

 黒い筒ごと巻き込む形の包囲網だ。

 腕利きの護衛は無数の弾丸に撃ち抜かれる。

 普通なら黒い筒も無事では済まない。

 

「死亡確認ヨシ! ご安全にー」

 

『やり過ぎではないでしょうか……』

 

 彼女達は“普通”ではない。

 

 敵の全滅を確認して現れた襲撃者は四人。

 

 糸目の男。眼鏡の女。

 ヘッドホンの男。そして黒い筒。

 

 彼ら彼女らは<テン・コマンドメンツ>。

 慈善団体の汚名を被る自称犯罪クランであり。

 四人は拠点のカルディナから、とある目的で王国に遠征中のメンバーであった。

 

 そんな事情をネフィは知る由もない。

 よくて強盗殺人、という評価である。

 身の危険を感じて彼女は息を潜めた。

 

「ちょい待ち。まだ一人いるね」

 

(…………!)

 

 眼鏡の女は木箱を開ける。

 

「こんにちはお嬢さん。突然のとこ悪いんだけど、君は()()知ってる?」

 

 へらへらと笑う女が掲げたのは、肉と骨で構成された種子……あるいは『卵』のようなモノだった。

 

「お姉さんはコレの出所を探しているんだけどね。しっかし、なーかなかどうして見つからない。せいぜい末端の売人や、こいつらのような運び屋くらいでさ。もう困っちゃって」

 

「…………い」

 

「んー?」

 

「し、知らないっ」

 

 ネフィは震える声を絞り出した。

 眼鏡の女と目を回せないよう俯いて。

 彼女が手にするモノを視界に入れないように。

 

 

 

「――『嘘』は、よくないなあ?」

 

 

 

 眼鏡ノ女ト、眼ガ合ッタ。

 

「……ッ」

 

「アタシはね。()()()()()()()()()なんだ」

 

 歪な姿勢でネフィの顔を覗き込む、一対の硝子。

 

「ねえお嬢さん。アタシは質問してるわけだよ。情報が知りたくてね。それなのに、それだってのに、嘘を吐くだなんて。君、随分と悪い子のようだね」

 

「知らない、知らない知らない!」

 

『……ユーさん』

 

「おっと失敬。怖がらせちゃったかな? だいじょーぶ大丈夫。お姉さんはたしかに悪党だけれど。こっちの女の子は、君に手を出したりしないからね」

 

「出す手も足もありませんからね」

 

『ユーさんに加えてジョンスンさんまで。冗談を言う場面でしょうか。謎です。……さて』

 

 黒い筒の色が抜ける。

 塗装の奥から中身が透けて見える。

 溶液が満ちた水槽に一糸纏わぬ少女が浮かぶ。少女は筒の内側で、ネフィの前で膝を屈めた。

 

『私はアイです。初めまして。よければ、あなたのお名前を教えてください』

 

「ね、ふぃ」

 

『とても素敵な響きですね。……え? なんですかナハトさん。「綴り」? では聞いてみましょう……ネフィさん。文字ではなんと書くのですか?』

 

「……分かんない」

 

『そうですか。謎です』

 

 ネフィとアイが話す最中、他の三人は念話でやり取りを交わしていた。そして結論を出した彼ら(男性二人は理由をつけて逃げ、代表者はユーにお鉢が回った)は再びネフィに問いかける。

 

「ネフィちゃん、お願いがあるんだけど。アタシ達についてきてくれるかな」

 

「やだ」

 

「わーお即答。【虚飾魔王(ロード・イリテュム)】のアタシもビックリだ」

 

 存在しない【魔王】を自称する女、ユー・エヌ・オーウェンは手遊びで眼鏡をかけ直す。

 

「じゃあ仕方ない。この『卵』を製作した連中を探せる人間にお願いするしかないや。至極残念だよ。よもや、あの無職の手を借りる事になろうとはね」

 

「……!? ダメッ!」

 

 ネフィは王都を振り返る。

 何でもできる無職。かの人物は、ネフィにとって、また別の意味合いを有している。

 無職の参入。それだけは、何としても避けたいと感じたネフィは咄嗟に言葉を発していた。

 

「一緒にいく。だから、パパはダメ」

 

「「『……パパ?』」」

 

「…………」(『あまりの驚きにペンが握れません。びっくり仰天おったまげー』)

 

 

 ◇◆◇

 

 

【オタクに優しい】<UBM>発見・討伐情報スレ91【ギャルと同義】

 

3:名無しの<マスター>

本当に<UBM>は実在するのか?

我々の妄想じゃあないのか?

 

4:名無しの<マスター>

目撃情報と遭遇例に偏りがひどい

 

5:名無しの<マスター>

その謎を解明するため

我々調査隊はアマゾンの奥地に向かった

 

6:名無しの<マスター>

何かしら理由があるんだろうよ

 

7:名無しの<マスター>

アマゾンの奥地ならね!

 

8:名無しの<マスター>

わりい俺しんだ

 

9:名無しの<マスター>

その後、調査隊の姿を目にした者はいない……

 

10:名無しの<マスター>

お前らここをどこだと思っている?

情報スレだぞ有意義なレスをしろ

 

11:名無しの<マスター>

お前はここをどこだと思っている

掲示板だぞ?

 

12:名無しの<マスター>

情報が吐けるなら燻ってないよねえ

 

13:名無しの<マスター>

オタクに優しいギャルがいると聞いて

運命の女性はここですか……?

 

14:名無しの<マスター>

帰りな

 

15:名無しの<マスター>

13が可哀想だから<UBM>の情報出すね

 

逸話級【支援学鳩 テレピジョン】

レジェンダリア奥地の森に生息?

周囲にミーム汚染を垂れ流すカス

 

16:名無しの<マスター>

悪名高い鳩胸カスじゃん

 

17:名無しの<マスター>

知らん。どんなやつ?

 

18:名無しの<マスター>

スキップ不可能な30秒広告

 

19:名無しの<マスター>

説明すると推定で映像を拡散する能力持ち

近くのフィールドにいると無差別で対象

視界一杯にマッチョな鳩の筋トレ動画が流れるので、しばらく周りが見えなくなる

 

20:名無しの<マスター>

戦闘中にくらってデスペナしたわ

あれ何らかの法に違反してるだろ

 

21:名無しの<マスター>

なお本体は弱いのか姿を一切見せない

 

22:名無しの<マスター>

広告閉じる×ボタンはわかりやすくしろ!!!!

 

23:名無しの<マスター>

でも最近はめっぽう被害を聞かんよな

誰か討伐してたりしない?

 

24:名無しの<マスター>

知らん

 

25:名無しの<マスター>

知らなーい

 

26:名無しの<マスター>

スレにいる人とは限らないので……

 

27:名無しの<マスター>

だから<UBM>討伐報告は義務教育だろって

 

28:名無しの<マスター>

もう倒されてると知らず探し回ったあの日

 

29:名無しの<マスター>

そういや【フリーザー】は? 既出かもだが

 

30:名無しの<マスター>

あの名前で鳥じゃないの詐欺だよね、鷺だけに

 

31:名無しの<マスター>

あんたサムすぎるよ

 

32:名無しの<マスター>

バリバリの武闘派虎なんだよなあ

 

33:名無しの<マスター>

討伐されたという報告は上がっていないな

Wiki編纂部でも情報を募集している

 

34:名無しの<マスター>

あれ王国支部ならいけるだろ

同じ氷属性じゃんね

 

35:名無しの<マスター>

無茶を言わないでくれ……【凍結】の状態異常は対応できるが、相手も似通った能力持ちだ

しかも古代伝説級のステータスと、攻防に優れたスキルを併せ持っているからな

 

36:名無しの<マスター>

そういやうちのオーナーが挑戦してたな

 

37:名無しの<マスター>

ほう結果は?

 

38:名無しの<マスター>

言わせんなよ恥ずかしい

全滅デスペナや

 

39:名無しの<マスター>

そのパターン本当に恥ずかしいことあるんだ……

 

40:名無しの<マスター>

その点でいくと【バクシーン】は明快やね

 

41:名無しの<マスター>

あの牛やべーよな。畜産業が壊滅したもん

 

42:名無しの<マスター>

お? 感染者差別か?

 

43:名無しの<マスター>

インフルで仕事場に来るようなもんだろ

パンデミックやぞ自重せい

 

44:名無しの<マスター>

病毒系耐性持ちが全滅したという……やべー

 

45:名無しの<マスター>

牛さん討伐レイドにいたワイ

MVPのフレンドリーファイアで無事デスペナ

 

46:名無しの<マスター>

許せねえ……許せねえよ<超級>

 

47:名無しの<マスター>

いつもそうだ! あいつらは鼻歌混じりに<UBM>を討伐して去っていく! 俺たちの事なんざ考えちゃいねえ!

 

48:名無しの<マスター>

あ、あの……被害が広がる前に倒すのは良い事じゃ……

 

49:名無しの<マスター>

それはそれ! これはこれ!

 

50:名無しの<マスター>

ティアンの被害はゼロに!

懸賞金と特典武具と名誉は俺に!

 

51:名無しの<マスター>

進めば二つ! 奪えば全部ぅ!

 

52:名無しの<マスター>

だいたい<超級>は周りを気にしなさすぎ

毒ガスだの巨大質量兵器だの

 

53:名無しの<マスター>

その辺は外れ値じゃないっすかねえ

 

54:名無しの<マスター>

自分が無事なら平気なんだろ

 

55:名無しの<マスター>

【神獣狩】の罠にかかって一敗

 

56:名無しの<マスター>

【殲滅王】の戦闘に巻き込まれて一敗

 

57:名無しの<マスター>

キャッスルぶっ壊されて一敗

 

58:名無しの<マスター>

なんか首切られて一敗

 

59:名無しの<マスター>

野生の修羅がいますね

 

60:名無しの<マスター>

でも周りにいたのシシャモさんだけだったんよ

 

61:名無しの<マスター>

じゃあ犯人そいつだよ

 

62:名無しの<マスター>

まーた“断流”ですか

 

63:名無しの<マスター>

違うよ! 船の上で、刀持って唸ってたし!

 

64:名無しの<マスター>

黒では?

 

65:名無しの<マスター>

ちなみに周囲で変わった事はあった?

意味わからん初見殺しの可能性

 

66:名無しの<マスター>

え? えーと……たしか影……そうだ

空の上に大きな雲があったで! どうや皆!

 

67:名無しの<マスター>

はーつっかえ

 

68:名無しの<マスター>

解散

 

69:名無しの<マスター>

<UBM>の情報を期待した私がバカだった

 

70:名無しの<マスター>

なんでだよぅ!?

 

71:名無しの<マスター>

柳葉だ。俺は信じるぞ。

 

72:名無しの<マスター>

ご本人降臨!?

 

73:名無しの<マスター>

名乗るな

 

74:名無しの<マスター>

しかしだな。誰だか分からないだろ。

 

75:名無しの<マスター>

騙りかもしれないし試させてね

青海波領の昨日の海賊討伐数は?

 

76:名無しの<マスター>

112。

 

77:名無しの<マスター>

ご本人ですね。ちな全て彼のキルスコアです

 

78:名無しの<マスター>

そんな交番みたいなのある?

 

79:名無しの<マスター>

新しい魔剣を編み出すために人を巻き藁にしてるという噂は本当じゃったか……

 

80:名無しの<マスター>

いや襲われたら斬るだろ。常識的に。

それと俺は斬ってないからな。

 

81:名無しの<マスター>

その常識は天地専用です

 

82:名無しの<マスター>

証拠は?

 

83:名無しの<マスター>

俺は斬ってないからな。

 

84:名無しの<マスター>

子供だってもう少しマシな回答をする

 

85:名無しの<マスター>

いやだから、斬ってないんだよ。

というより斬れなかったんだ。

 

86:名無しの<マスター>

はいこの話はしゅーりょー!

 

87:名無しの<マスター>

おい待て。まだ話は終わってないぞ。

 

88:名無しの<マスター>

シャラップ! こちとら特典武具が欲しいんじゃ

 

89:名無しの<マスター>

グハハハハ! ならばスレの民よ

カルディナの俺を訪ねよ!

 

90:名無しの<マスター>

お、俺様! 何故このようなスレに!?

 

91:名無しの<マスター>

うん、大々的な宣伝と情報集めを兼ねてな

 

この俺が貴様らに特典武具を貸してやろう

代わりに特典武具か、()()()()()()>を寄越せ

まあ金品でも構わんが、この俺の蒐集品をレンタルするのだ。最低一億はかかると心得るがよい

 

92:名無しの<マスター>

うおおおお! 俺様バンザイ! 万歳!

 

93:名無しの<マスター>

ところで凖<エンブリオ>って何?




テンコマ
【呪禁博士】ナハト:秩序・善
【像将軍】ジョンスン:中立・悪
【■■■■】ユー:秩序・悪
【無垢王】アイ:中立・中庸
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