無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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短めですがキリが良いので更新


増殖文字化けマンチキン

 □■錬金術師の研究棟・上層

 

 カルルは火炎放射器に似た武器を構える。

 背負ったガスボンベに繋がるホースを後方、今し方破壊して乗り越えた壁の奥に向けた。

 

 そこにはカルルを追って現れる警備の兵が。

 侵入者を排除するために、彼らは刃を振るい、魔術を唱え、カルルを攻め立てていた。

 

 噴霧される朱色の毒。

 積み重ねたダメージ量で効果を増した特典武具【ドラグブラッド】の毒霧は、瞬く間に彼らを溶かす。

 

『……』

 

 まとわりつく雑兵を排除したカルルは、続いて前方のネフィ達に狙いを定める。

 

 狩られる。

 

 獲物を値踏みする無機質の瞳。

 本能の奥底に刻まれた恐怖が呼び起こされる。

 初めて触れた殺意にネフィはすくんで動けない。

 

「待った。まずは話をしよう【神獣狩】! アタシに戦う意志はない!」

 

 ユーが両手を挙げて進み出た。

 

 その呼びかけを無視した白熊は行動に移る。

 胡散臭い女の提案に応えて何になる、と。

 なぜなら半数に《看破》が機能しないからだ。

 謎の筒(アイ)と、胡散臭い女(ユー)、正体不明の敵を前にカルルは手を緩めない。

 ユーに《真偽判定》が反応しない事も疑念を深める。狩人の嗅覚は、獲物の殺意を嗅ぎ当てた。

 

「ちょっと、返事も無し? 酷いなあ」

 

 無口な<超級>は問答無用で猛毒の霧を撒き、朱色と乳白、二種類の霧が周囲に充満する。

 

 自爆上等のようだがカルルは無事だ。

 状態異常の判定を無効にする代わりに破損する【健常のカメオ】を、<超級エンブリオ>ネメアレオンのスキルで不壊化するコンボで毒を防いでいる。

 

「う……えほ、ゴホッ」

 

『いけません。ネフィさん、これを』

 

 強化された毒をレジストしたのはアイだけ。

 耐性を持たないネフィは【猛毒】に罹患して、みるみるうちに生命力(HP)が減少してしまう。

 アイが自分の【快癒万能霊薬(エリクシル)】を渡さなければ彼女の命脈は尽きていた。

 

「個人生存型の常套手段とはいえ、流石に参ったね。【快癒万能霊薬】を突破するレベルの【猛毒】だよ……カルルくん、議会は何を考えて君を派遣したのかな? それとも独断かい?」

 

『……』

 

「お喋りに付き合ってはくれない、と」

 

 同時にユーは内心で舌打ちする。

 会話に乗ってこない相手は“罠”にかけられない。

 

(まあ【カメオ】持ちに通じる訳もなし。というわけでコンボBと洒落込むぜ、ナハトくん)

 

(了解です)

 

 念話で機を図って<エンブリオ>を起動する。

 

 先程までのコンボAは両者の協力技。

 指定単語の発言を条件に【沈黙】をはじめとする各種デバフをかける霧、ナハトのニブルヘイムと。

 単純に本人のリアルスキルで会話を誘導するユーの話術を組み合わせたもの。

 

 対してこちらのコンボBは、一種のバグ技。

 

「《カバーストーリー》――『【猛毒】は呪怨系状態異常である』」

 

 ユーの宣言は真ではなく偽である。

 正しく【猛毒】の区分は病毒系状態異常だ。

 アーキタイプ・システムに管理された<Infinite Dendrogram>の法則は変わらず。

 

 しかし、世界は()()()()()()()()()()()

 

 今この場所、この時に限り、偽りのテクスチャに覆われた【猛毒】は呪怨系状態異常として扱われる。

 神秘のヴェールに隠された【虚飾魔王(■■■)】ユー・エヌ・オーウェンの【■■■■ ■■■■】は、現実だって上書きしてのけた。

 

 カルルは法則が塗り替わった事を肌で感じ取った。が、それがどうしたと鼻を鳴らす。

 

 状態異常は状態異常。効果は変わらず。

 アイのような無効化や、治療回復・耐性の獲得ならともかく。言葉尻を繕って何になるというのか。

 

「何にでもなるし、何とでもするとも。舌先三寸で石を黄金に変えるのがアタシの特技でね」

 

 女詐欺師は腹黒メガネ。

 光を反射する眼鏡は真実を覆い隠す。

 

「ここからは呪いの専門家にお任せだ」

 

 ネフィは体力の減少が止まるのを感じた。

 

 霧の向こうで符が舞い散る。

 呪いとして騙られた【猛毒】が肉体から吸われ、凝り固まり、輪郭を得て具現化する。

 

 溶解する四本足の腐獣。

 それを編み出し従える男は無言。

 

「……」(『行け』)

 

 因果応報の呪詛がカルルを逆襲する。

 

『…………!?』

 

 ナハトのメインジョブ【呪禁博士(ジュゴン・ドクター)】は呪術師系統の派生、東方の解呪職(ディスペラー)

 陰陽師系統との複合超級職であり、呪怨系状態異常の回復に特化したスキルを備えている。

 

「……」(『《人を呪わば穴一つ》』)

 

 その奥義とは即ち()()()()

 解呪した呪怨系状態異常を倍化して、その効果を帯びた式神を編纂するスキルだ。

 呪詛は数を束ねる度に濃縮される。今回はカルルと倒れたティアン十人分の【猛毒】が重なり、膨れ上がった呪いがカルルと拮抗する。

 

 ――我が古巣、天地の術師か。

 

 ――おまけに私の前で無敵を誇るとは。

 

 ――なるほど、なるほど。実に小癪。

 

 されどカルルは<超級>。手札一つにメタを張った程度で完封できるほど生易しい存在ではない。

 

 状態異常が通じない? それがどうした。

 狩りの手法は毒だけではないのだからと。

 

 効果が薄い【ドラグブラッド】の代わりにカルルが取り出した装備は緋色の長弓だ。

 矢をつがえて引き絞り放つ。

 その一射は太陽に等しい輝きを伴い、爆炎がカルルごと腐獣を焼き尽くした。

 

 伝説級武具【魁一番星 ステラ・ステラ】。

 使用者の五体と引き換えに火属性の超級魔法と同等の爆撃を起こすスキル《彗星一条(ステラ・ステラ)》が決まる。

 

 高熱で霧が蒸発し、蒼炎が瓦礫を舐める。

 げに恐ろしきは<超級>。カルルは着ぐるみが煤ける程度でダメージ皆無だった。

 更に爆心地で平然と第二射を構えている。

 最低でも一人は生き残ると考えたからだ。同類の個人生存型、アイは事実ノーダメージ。

 

 しかし、そんな白熊ならぬ灰色熊の姿はネフィの視界に入らない。

 最後方で戦闘の推移を見守る彼女が視認しているのはアイ、ユー、ナハトの三人。それは全員が先の爆破を生き延びた事を意味する。

 

『……?』

 

 ネフィとカルルの間、テンコマメンバーの遮蔽物になるように聳え立つ壁がある。

 熱で溶けている。炭化している。跡形もなく吹き飛んでいる。だが、重なり層になったその壁は超級職奥義クラスの攻撃をしかと耐え抜いた。

 

 ガコン、バコン。

 壁役を担ったゴーレム達が石化して崩れ落ち。

 

 顔を出した男へ、カルルは二の矢を射った。

 

「やはり現場に出ると危険ですね」

 

『……』

 

 黒煙が晴れた後も男は健在だった。

 

「いえ、死にそうですよ。見て下さいこの腕。【炭化】してます。もう戦えないので後退しても?」

 

「『【炭化】は呪怨系状態異常である』」

 

「……」(『治しました』)

 

「ブラック企業も真っ白な労働環境。やはり僕は裏方に徹する方が好みでs」

 

 カルルは隙だらけの相手を爆破する。

 

「あの」

 

 ガコン、バコン。ドカン。

 

「ですから」

 

 爆破が通じないならばと捕鯨砲で肩を抉る。

 散弾銃で顔面を吹き飛ばす。

 ガコン、バコン。ガコン、バコン。

 それでも男は、ジョンスンは斃れない。

 

「……いい加減にして貰えますか」

 

 カルルがもっと雄弁な性格なら、こちらの台詞だと言い返しただろう。

 

 ――先程ドラグペインで仕留めた筈だ。

 

 ――だが、デスペナルティは確認しなかった。

 

 ――よもや二人目の同類か?

 

 然り。【像将軍(ゴーレム・ジェネラル)】ジョンスンもまた、カルルやアイに近しい生存に特化したビルドの持ち主だ。

 二人との違いは生存するトリックの方向性。

 彼は無敵を名乗らない。不死を語らない。

 並み居る個人生存型と比較して、ジョンスンの耐久は一段も二段も落ちる程度でしかない。

 

 彼のビルドはHP極振りだ。

 ジョブは平均的な【将軍】シリーズのため、前衛超級職ほどステータスが伸びない。それでも。

 

 ジョンスンのHPは()()()()()()()

 

 最初は彼も一般的な<マスター>だった。

 TYPE:レギオン【岩千徴収 ガタノトーア】。『HPを代替コストとしたゴーレムの召喚』を能力特性とする<エンブリオ>で戦う、普遍な統率者。

 

 とある無職のジョブプランで奴はハジけた。

 ゴーレム指揮特化超級職【像将軍】のスキルはガタノトーアを変貌させたのである。

 

 第一のスキル、《軍団》。

 将軍職の基本であるパーティ枠増大のスキル。

 ガタノトーアはコストがあれば幾らでもゴーレムを即時召喚できるため、枠の補充は容易だった。

 スキルレベルが上昇した現在は数千体のゴーレムを指揮下に入れる事ができている。

 

 第二のスキルは《密集方陣(ソリッド・ランパート)》。

 常時発動型(パッシブ)の奥義である。

 配下全体に寄与するバフは『従属キャパシティ・パーティ内のゴーレム一体につきHPと防御力を1ずつ、従属キャパシティ・パーティ内のゴーレム全体に加算する』効果を持つ。

 五〇〇〇のゴーレムを指揮すると、全体のHP・防御力が固定値で五〇〇〇増加する。

 とはいえHPの数値は微々たるもの。他のステータスが平均的なガタノトーアのゴーレムにとって、さしたる影響はない。

 

 真の問題児はガタノトーアの側。

 ゴーレム召喚に支払うコストより、《密集方陣》で増加するHPの方が多かった。

 ゴーレムを自壊させた時、残存HPがジョンスンに返還される仕組みになっていた。

 つまりどうなる? つまりこうなる。

 

「《ロイガー・リバイバル》」

 

 ジョンスンはゴーレムを呼び出し、破壊する。

 

「《ロイガー・リバイバル》《ロイガー・リバイバル》《ロイガー・リバイバル》《ロイガー・リバイバル》《ロイガー・リバイバル》《ロイガー・リバイバル》《ロイガー・リバイバル》」

 

 召喚、自壊。そのサイクルでジョンスンに余剰HPが増設されていく。

 チリも積もれば山となり。暇さえあれば積み重ねた貯蓄は九桁に達した。

 今もなお増設を繰り返して、擬似的なダメージの回復を実現している。

 

 超級職と<エンブリオ>の完全シナジー型。

 異なる仕様同士が噛み合った結果、<超級>の個人生存型に匹敵。HPに限れば【獣王】すら凌駕する化物が生まれたのである。

 

 それでも首を、首を斬れば死ぬ。

 心臓を抜けば死ぬ。状態異常で死ぬ。

 紙ぺらの防御力では、単純な攻撃力で死ぬ。

 個人生存型とは過分な評価だと彼は宣う。

 今回のようにユー、ナハトを組み合わせると大半の状態異常が通じない無尽兵機となり、億超えのダメージチェックが必要だ。

 

 与えた端から傷が再生していくジョンスンにカルルは嫌気が差した。

 故に……目標を切り替える。

 

 都市迷彩柄の外套を羽織り、【神獣狩】のスキルで気配と物音を遮断して密かに回り込む。

 最も弱く無力化しやすい相手をカルルは優先する。

 

 即ち――最後列にいるネフィを。




・主人公
一方その頃、ツメを食い込ませて壁や天井を這い回っていた。

・リリアーナ
今そんな事してる場合ですか!?

・ユー
文字化けバグ。だいぶ悪さをしてる。
テンコマでは珍しい本職の悪党。

・ナハト
天地スタート組。嫌気が差して出奔した。
好きなことは音楽鑑賞。嫌いなものは騒音。

・ジョンスン
増殖バグ。自認は商売人。
性格面で主人公と相性が悪い。

【ステラ・ステラ】
捏造した二次オリ特典武具。
カルルはデメリットを踏み倒して連射する。もう少し戦闘バランス考えろ運営。
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