無職さんのデンドロ履歴書 作:リリアーナを照れさせ隊
□■錬金術師の研究棟・上層
「――あ――」
ネフィは恐怖で身を竦ませる。
自分の同類を事もなげに殺害する埒外の悪党、彼らと交戦してなお不死身の無敵。
彼女からして見れば、一言も発さず、内側を窺い知れない正体不明の白熊はまさしく怪物であった。
投網が無力な少女を捉え、捕える。
同行者は頼れない。
ネフィが目にした通り、テンコマメンバーはティアンの命を必ずしも重視していない。
ナハトとアイは比較的善良寄りだが、<超級>と交戦中に関係の薄いネフィを守る余裕と意思があるかと言えば、答えは否である。
同類はいる。だが、味方はいない。
毒に斃れ、血に沈む人造の兵士達。
彼らを置いて逃げ出したネフィは、彼らの終わりを間接的に招いたネフィが、自分だけ助かろうと考えるのは虫が良すぎる話だ。
『――君、随分と悪い子のようだね』
ユーの見立ては正しかった。
自分を受け入れてくれた人に、本当の事を知られたくないからと嘘を吐いて、隠し事をして。
行き先を告げずにこんな場所まで来てしまった。
(ママ……たすけて)
届くはずのない祈りを捧げた。
「――《バリアブル・ガード》」
それが奇跡と言うのなら。
奇跡を起こさなければ助からないと言うのなら。
彼女は奇跡を起こすだろう。
ネフィを庇護する光の障壁。
其は亡国の朽ちた盾。
しかして、最も気高き王国の剣。
守れなかった、その後悔を繰り返さないために。
「まったくもう……心配をかけて」
護るべき娘を庇護するために。
「でも――無事でよかった」
「ママ……!」
リリアーナ・グランドリアは馳せ参じた。
王国でも名の知れたティアンの登場に、居合わせた<マスター>の反応は分かれる。
カルルは僅かに動揺と迷いが生じた。
手段は問わないという指示、だが
今回カルルは王国での指名手配を避けるためにティアンの殺害を避けている。
――
――王国の近衛騎士団が、何故ここに。
そんな<超級>の困惑を、詐欺師は好機と見た。
(お嬢さんとリリアーナの関係はなんとなく察せる。「敵の敵は味方」の精神で三つ巴は回避でき……いや誘拐未遂で訴えられるか? ようし拗れる前に主導権を握って誘導しようそうしよう)
ユーは仲間と目配せしてから、リリアーナに呼びかけた。
「合図したら走って。援護する」
「……! かたじけないです!」
ユーの発言に《真偽判定》が反応しない事から、リリアーナは彼女を暫定的な味方と認識する。
「《シャッフル・ミラージュ》――今!」
リリアーナがネフィを連れて駆け出す。
同時に
ユーが使用したスキルは【高位幻術師】の奥義。
映像だけでなく音や気配までも本来ある位置とは違う場所へ写し出す幻影魔法だ。
リリアーナだけではない。
テンコマメンバーの幻影も姿を見せた。
幻の撹乱で全員の位置をカルルは見失う。
『……』
カルルはゴーグルのような装備を取り出す。
アクセサリー枠を埋めるその装備は、見えない存在を認識する高性能な探知機だ。
複数のセンサーで本体を確認したカルルは、最優先の防衛目標……砦の奥に向かうリリアーナを狙う。
即席のトラップを設置しての足止め。
非致死性の麻痺毒で動きを制限し、何としても砦の敷地内から侵入者を追い払う算段だ。が、しかし。
『GoGo、Gomenne』
『……!?』
捕らえたはずの本体は
重ねた【神獣狩】の《クイックトラップ》で連鎖する罠を張り巡らせた時には、都合三名分の気配と足音が、戦場から遠ざかっていた。
残る半数はトラップの地雷原で孤立して、しかし立ち位置は真逆。
【呪禁博士】と【像将軍】、おまけに詐欺師がカルル足止めの包囲網を敷く。
『…………』
「どうして逃げなかった、って顔だ。うんうん。疑問はごもっとも」
「……」(『逃げたら追ってきますよね』)
「僕、走るの苦手なので」
「こういう連中なんだな」
(目的は“伯爵”との接触と交渉だ。全員で突撃しなくていいし、アタシがベターだけど必須じゃあない)
防衛線の突破という戦術的勝利を勝ち取ったユーは、最大限の嘲笑をカルルに贈る。
「それに、<超級>に一杯くわす機会なんて……中々ないだろう?」
騙されてやんの、まーぬけ。
ぷーくすくす。無敵すごいでちゅねー。
そんな内心が聞こえてくるようだ。
『…………』
――スラムの犯罪者もどきが。
カルル、キレた。
◇◆◇
□■錬金術師の研究棟・地下一階
あなたはネフィの居場所を突き止めた。
抹消された痕跡を探して東奔西走。
あまりにプロ犯罪者の手口である。
あなたはロスト中の【超詐欺師】に遭遇しないかと、不謹慎にも興奮が収まらなかった。
時間が許すなら就職条件を知りたいものだ。
しかし残念無念また来年。
今回お仕事のご縁には恵まれず。
あなたの今後のご活躍をお祈りしています。
ぶっちゃけそれどころではないのである。
あなたはリリアーナの手前、焦燥を隠していたが(普段以上の奇行で筒抜けであった)。
斥候系統、探偵系統、密偵系統カンスト。
各種ジョブスキルの同時並列使用。
あなたの鍛えたスキルをもってしても、ネフィの追跡は難行であった。
「お願いします。あなたが頼りですから」
そこまで言われちゃあ、やるっきゃない。
あなたは依頼主を尊重する有能な<マスター>だ。
スキルに頼るのは二流の証拠。
スキルを使いこなすのが一流である。
あなたはリリアーナの言葉で本気を出した。
あなたは地道な聞き込み、調査、リリファンへのカツアゲを重ねた結果、あなたはネフィが街の外に出た事を突き止めたのである。
マーベラス、実にマーベラスだ。
やったねダーリン。明日はホームランよ!
やはり積み上げた経験は決して無駄にならない。
怪しい砦の門扉を乗り越えて、鉤爪でニンジャ・カベノボリ・ジツを披露したあなただったが。現在はネフィと似た気配の警備に足止めを受けていた。
「【上級剣聖 ソードマスター】、《レーザーブレード》」
あなたは剣士の首を刎ねる。
「【下級魔術師 メイジ】……《マッドクラップ》」
愛刀で魔術師の首を刎ねる。
毛髪のおかわりで愛刀は絶好調だ。
個々は大したことがないが、なにしろ数が多い。
あなたはリリアーナなら遅れを取るまいと彼女を先行させた。その判断が誤りだとは考えていない。
まさか野生の<超級>が砦を徘徊しているとは夢にも思わず。当然である。そんなポンポンと<超級>に遭遇してたまるか。どんな時も怠るな索敵。
ともあれ。
あなたは立ち塞がる警備……無尽蔵に湧き出る人造人間も、その生産者の顔も、よくご存じだ。
清楚の皮を被ったマッドアルケミストの戯言を思い出して、あなたは久方振りに殺意が漲った。
ここまで精神が殺伐に近づいたのはカドモン王国以来である。半ば作業となった殺戮に、あなたは修羅の国を想起してますます殺意が漲った。
あなたは背後に愛刀を振り抜く。
手を横に、あら危ない。頭を刎ねれば大丈夫。
『――《
愛刀は爆散した。
「……!?!?」
嗚呼、なんということでしょう。
あなたの愛刀【分御髪】が木っ端微塵に。
犯人は転がり落ちた首を拾い上げる。
首を刎ねたら人は死ぬ。常識である。
その常識が通じない巨漢をあなたは知っている。
【
冗談みたいなアバターの<超級>が何故ここに。
発狂したあなたは愛刀の柄を投げつけた。
別に、愛刀の破片同時が蠢いてくっつき出したからでは断じてない。自動修復にしたって限度がある。この毛フェチ、とうとう妖刀の常識を捨てやがった。
あなたはスペアの妖刀で追い首刎ね。
しかし斬りつけた手応えはゴム毬のようで、頚椎どころか肌に刃が通らない。
アルベルトが手刀を振るうと玉鋼製の刀は豆腐より脆く崩れた。あなたは憤慨した。妖刀一本を入手するのにどれだけのコストが必要だと思っているのだろう。
斬撃の完全耐性と武器破壊。
アルベルトの<エンブリオ>が攻撃に由来する瀕死強化復活スキルである事は広く知られている。
だからといって、通りすがりの罪の無い無職に対してこの仕打ち。あまりにも非情が過ぎた。妖刀はひとたび……ひとたびヒビが入れば、二度とは……。
あなたは元気な愛刀を振るった。
妖刀の権能、風雷雨の魔法攻撃だ。
案外と脆いものでアルベルトは体をショートさせてあっけなく倒れ込む。
あなたはガッツポーズした。
勝利のブイサインが誇らしげにちらつく。
愛刀は不満気だが。アルベルトは毛がねえから、
『《
《看破》したアルベルトのHPは1残っている。
『《
HPゲージが回復する。
『《
ジョブスキルと<エンブリオ>のシナジーは時に美しく、時に苛烈に、あなたを悩ませるものだ。
推定【殿兵】の《ラスト・スタンド》なる汎用スキルの効果。五秒間の食いしばりと、復活スキルのコンボだろうとあなたは予想した。
そして。
新たに三属性の耐性を獲得したアルベルトは、所有する高威力特典武具での“殲滅”を開始する。
あなたの足元から迫り上がり、うねる水面。
アルベルトが装備した三叉槍は深海の極限環境を再現する特典武具である。使用者に対するセーフティは存在しないため、本人を含めた周囲は水圧と窒息、極寒の水温で命を奪われる。
あなたは海賊系統の《海上歩行》スキルを使い、水に沈まないよう対策する。
更に【荒波武者】の奥義《八艘飛び》で加速した。
辺りが潮で満ちる前に三叉槍の破壊を目論む。
アルベルトは空いた手で金剛杵を掴んで、勢いよく水面に叩きつけた。放射状に伸びた雷霆が水面を伝ってあなたを襲う。逃げ場は空中のみだ。
『……』
そこまでが誘導である。
アルベルトは深海をドーム状に操り、雷を無作為に反射させて全方位範囲攻撃を実行してのけた。
波は《潮流探知》で予測できるが、意思の無い攻撃というものは発生が読みづらい。
あなたは被弾覚悟で、咄嗟に付与魔法を唱えた。各種耐性がダメージを最小限に抑える。
カルディナ決闘ランカーの戦術にあなたは舌を巻く。そういう力比べは闘技場でやれ。
そも、いきなり襲ってくるなPK反対。あなたはカルディナ議会に抗議することも辞さない覚悟である。所属の<超級>は制御してもらわなければ困るのだ。
アルベルトの返答はいかに。
『……』
答えはお暴力。まるで話が通じない。
やはり<超級>は頭がおかしい連中ばかりだ。
なおアルベルトの側も近しい感想を抱いている。
いきなり現れて
許しておけぬ。放置してはおけぬと。
あなたとしては本意でない戦闘。ここでアルベルトに殺されている場合ではないのだ。
リリアーナとネフィを探さねばならぬ。
あなたは劣化複合スキル《
猛攻の影で密かに離脱を試みる。
姿を隠したあなたに、アルベルトは慌てず淡々と三つ目の特典武具を行使した。
それは使用者をも切り裂くかまいたち。正確無比にして機械的な攻撃があなたの背中を襲う。
あなたは にげだした!
しかし まわりこまれてしまった!
あなたは【殲滅王】のスキルを失念していた。
固有スキル《スカー・マーキング》はダメージを与えた相手の現在位置とステータスを把握する。
あなたは既に一撃をもらっている。
ゆえに【殲滅王】からは にげられない!
あなたは天地の逃避行を思い出して舌打ちした。
いつまで経っても変わらない思い出。
精神汚染は忘れた頃にやってくる。
どいつもこいつも<超級>というやつは。
逃走を封じられ、メインウェポンの愛刀は耐性を獲得されたので通用しない。
なので、あなたは攻め方を工夫する。
手持ちの毒を《ポイズン・ミスト》で散布。
人体に害を与えず、金属を腐食させる毒霧だ。
毒術師系統のスキルにより効能を高めた毒で、アルベルトの持つ武器と、彼の本体が溶解する。
え、本体まで? 嘘でしょ。
棚ぼたの戦果に小躍りしたのも束の間。
『《
スキル停止で水嵩が引いていく中。
破損した武器を捨て、毒耐性を得たアルベルトは巨大な鎧を展開している。
確認できた銘は【紅徹甲 エグザデモン】 。
『《
あなたの目利きを裏付ける宣言でアルベルトを取り込み、鮮血を流す大鎧。
棺桶を連想してあなたは嫌な予感がした。
『《
六度目の瀕死を意味するスキル。
攻撃を加えていないあなたはわけも分からず困惑するしかない。自傷して何がしたいのだ、と。
けれど<超級>が無意味な自爆をするとは到底考えられず……いや、あるかな? あるかも。
爆発的に膨れ上がった威圧感であなたの脳裏に走馬灯が駆け巡る。
『――
凶悪な攻撃力の拳が振り下ろされて。
叩き潰されたあなたはミンチになった。
各陣営の目的
主人公&リリアーナ:ネフィ救出
テンコマ:“伯爵”との交渉
カルル:侵入者(自分以外)の撃退
アルベルト:施設の防衛
“伯爵”:???
カルルのゴーグル
捏造した特典武具。デボンス◯ープ。
【白眼竜 ホワイトアイズ】のMVP特典。
解除不能な【盲目】の状態異常になる代わりに、視覚に頼らない感知能力を得る。
ユー
詐欺師系統カンスト+α。
当然【魔王】でも【超詐欺師】でもない。偽装と似て非なるスキルを持つジョブ。
《紅に染まる鋼》
古代伝説級【紅徹甲 エグザデモン】の装備スキル。
使用者にHPを1まで削る固定ダメージを与えた後、削った数値分の攻撃力と防御力を鎧に付与する。
アルベルトは固定ダメージ耐性を獲得、かつ20万超えの物理攻撃力・防御力を得る。