無職さんのデンドロ履歴書   作:リリアーナを照れさせ隊

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名前の無い怪物

 □■錬金術師の研究棟・居住区画

 

 あなたは悲しんだ。

 しかし、嘆いてばかりはいられない。

 

 あなたはグリゴリの頁を引きちぎる。

 

 ――《猿叫(チェスト)》、《(エクリプス)

 

 ノータイムでアルベルトが闇球に包まれる。

 あなたは【闇王(キング・オブ・ダーク)】の奥義を、劣化複合スキルで拡張して瞬時に檻を作り出す。

 

 対生物に特化した闇属性の超級魔法だ。

 一定量のダメージを与えるまで相手を内に捕らえて逃がさない初見殺しの鬼。

 あなたは一度、本家当代【闇姫】の即死コンボを受けて殺されている。模擬戦ではあったが。

 

 発動までの時間と予兆は、MPを注いだ魔法拡張スキルにより実質無視する事ができる。

 TYPE:ボディの宿命でステータス補正が低いアルベルトにとっては十分な致命傷となる。

 闇属性の耐性を持たない本日の彼が選ぶ道は二つにひとつ。デスペナルティか生き地獄である。

 

 あなたはグリゴリの頁を引きちぎる。

 

 ――《スペリオル・インターン》、【破壊王】

 

 あえてカルルに聞かせるための宣言。

 それは《破壊権限》という切り札の開示。

 あなたは拳を振りかぶり、分身体を殴る。

 

『……』

 

 されど“無敵”は破れず。

 当然だ。ジョブリセットを繰り返した現在のステータスでは、ネメアレオンの出力を上回れない。

 狩人は鋭敏な感覚で、あなたの攻撃を恐るるに足らずと見極め、逆襲せんと殺到する。

 

 固定ダメージの炸裂。感染する猛毒。

 あなたは平然と受け止めた。

 まるでカルルの立ち振る舞いを真似るように。

 

『……!』

 

 効かず、斃れず、まさに無敵。

 カルルは確信する。また同類か、と。

 同時に仕掛けを推測するが、手持ちの装備では対処が困難だろうと狩人は感じ取った。

 

 今のあなたは【■■】の加護を持つ。

 <超級>の……<マスター>の身では。

 あなたを殺す事など到底不可能である。

 

 互いに有効打の無い千日手。

 あなたとしても、手間暇をかける道理はないため、攻略法に基づきカルルを排除にかかる。

 

 あなたは愛刀を持ち替えて、分身体を一人ずつ、星の彼方にぶっ飛ばしていく。

 すなわち場外さよならホームラン。重力圏外まで飛ばせば、あなたが仕留めるまでもなく、無限の宇宙でスペースデブリになる。

 

『……ッ!』

 

 カルルにとっては焼き直し。

 苦汁を舐めさせられた【破壊王】との戦闘で、シュウが使った盤外戦術であるからして。

 同じ手が通用すると思われている、つまり対策していないと()()()()()()()

 

 カルルは《瞬間装着》で装備を戻した。

 特攻態から白熊の着ぐるみへ。

 ノックバックを無効化する【ぽーらーすたー】で、意地でも引かない構えである。

 

 あなたは顔面を狙って愛刀を振る。

 ダメージは通らないが、着ぐるみの目元を覆い、一瞬視界を制限する事はできるわけで。

 愛刀の代わりに白熊の頭を鷲掴み。

 投げ技の姿勢に移ったあなたをカルルは嘲笑う。

 

 音を耳にするまでは。

 

『……?』

 

 何かを擦るような、耳障りな不協和音。

 それは世界が悲鳴をあげる音。

 カルルの周囲は軋み、虚空に亀裂が走る。

 

 カルルの【ぽーらーすたー】は惑星上の絶対座標に留まり、意に沿わない移動を否定するものだ。

 不動の極星。ならばとっかかりにすればいい。

 

 カルルを持ち手に――空間を挽き千切る。

 

 バフで一時的に攻撃力を伸ばし、破壊不能対象を破壊する《破壊権限》を以て、空間に干渉。

 世界の修復力が働いて、壊れた空間は元の状態に戻ろうと“穴埋め”を行う。同時に生じた幾つもの歪みは空間上の物体を強度関係なく破断する。

 

 空間破壊の起点に居るあなたはもちろんそれに巻き込まれるが、【■■】は異物(<マスター>)由来の現象を無効化する。そもジョブの仕組み上、自傷が成立しない。

 ゆえに気にせず、あなたは空間破壊を実行した。

 

 それでもカルルは死なないだろう。生存に特化した<超級>だ。五体満足で生き延びるに違いない。

 だが、一手誤った。【ぽーらーすたー】の使用中は移動できない。空間の修復に巻き込まれる、すなわち、“穴埋め”した疵口に縫い止められるのだから。さながら()()()()に混ざる埃のように。あるいはトラバサミに囚われた獣のように。

 

 カルルは半ば空間の裏側に挟まった状態。

 アルベルトと同様に身動きが取れない事を確認して、あなたは<超級>に背を向ける。

 

 あなたは『怪物』の首を刎ねた。

 

「――……ッ!?」

 

 否、仕留め損ねた。

 敵は骨肉の鎧を纏っている。速度差は十分、しかし単純な厚みと防御判定で防がれたのだ。

 

 あなたはグリゴリの頁を引きちぎる。

 

 ギアを一段階上げ、姿を消したあなたの追撃。【迷彩王(キング・オブ・ステルス)】の《五感迷彩(フル・ステルス)》と、【奇襲王(キング・オブ・レイド)】の奥義《サドンデス》の組み合わせだ。

 自らの存在を隠蔽して条件を満たした、防御力・耐久力・耐性を無視する死角からの三倍撃である。

 

「こ、の……化け物が……!」

 

 怪物の世迷言にあなたは耳を貸さない。

 淡々と敵を排除するのみである。

 

 三の太刀は鍔迫り合いになった。

 怪物は力比べを嫌って自分から後退。合わせて、あなたは相手を瓦礫の山に吹き飛ばす。

 

「ぐ……ぉ」

 

 敵はHPが高いらしく相当しぶとい。

 何が変わるということはなかったが。

 強いて言えば、倒れた怪物の側にはホムンクルスの兄妹が隠れ潜んでいた。

 

「にーちゃん……」

 

 逃げ遅れたのか。なぜ顔を出したのか。

 構わず離れろと言いかけて怪物は止まった。

 不用意な言葉は逆効果になる。ゆえに……

 

「《クリムゾン・スフィア》」

 

 怪物は努めて冷酷に建物へ放火した。

 魔法の火は隣接する家屋に燃え移り、ホムンクルスの住まいは次々と燃え尽きていく。

 

「え……なんで」

 

「黙れ。死にたいか」

 

「で、でも! 怪我して」

 

 言い淀む幼子の足元に刀傷が刻まれる。

 怪物が言葉を遮るために振るった跡だ。

 

「俺はお前達とは違う。ずっと……全てを壊したいと思っていた」

 

 怪物は更なる異形に変貌する。

 背面を突き破って生える腐肉の翼。

 左右五本で対になる怨念の骨刀。

 素顔を髑髏の面で覆い隠して。

 

「よく聞け――俺は、怪物だ」

 

 恐怖で逃げ出した幼子達が見えなくなるまで、怪物は微動だにしなかった。

 

「……意外だな」

 

 怪物は五体満足で無事である。

 それはあなたも動かなかったという事。

 

「俺なり、あいつらなりの背中を襲えたはずだ」

 

 あなたは不満げに鼻を鳴らす。

 ()()()()()、もっと悪辣な嘘を吐くべきだ。

 憎悪と殺意を振り撒き、暴れ、相互理解が不可能であるとなおよし。

 

 続けてあなたは断りを入れる。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 故に、彼が怪物として死ぬ事を望むなら。

 あなたはこの場この時の一戦に限り、禍根を捨てて、英雄として振る舞うのである。

 

 無論、その代償は高く付いた。

 あなたは怪物を無惨に殺害する。

 持てる力と武具の全てを以てぶち殺す。

 

「……【怪物王】モンストロ」

 

 名乗りは不要。この場限りの因縁である。

 あなたはただ怪物(モンストロ)を討伐するのみ。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 ■レイドボス討伐戦

 

 モンストロの前で、無職は武具を一新する。

 

 不揃いで統一感のない組み合わせだった。

 回転する盾。機械の鎧。冷気を纏う袴。

 浮遊する妖刀六振り、両腰に一振りずつ。

 普通こうはなるまいと思わせる装備構成。

 

 対するモンストロは十刀流だ。

 単純計算で相手より二手、攻め手が多い。

 

 十の武器を振るうは【怪物王】の奥義。

 《カオティック・ルール》――自身の装備可能枠を編集するスキルである。

 

 肉体を改造する【怪物王】の宿命として、ヒトの形からかけ離れてしまうという点が挙げられる。

 腕が無ければ籠手や武器を装備できない。

 足が増えたら靴が二対必要だ。

 そのため、肉体部位に適した装備枠の追加・削除を可能とする奥義が与えられた。

 

 例えば、籠手の枠を削除して武器枠に換える。

 あるいは上限を超えて装備枠を増やす。

 装備枠の数が通常の上限14枠を超過すると、枠1つに付き全ステータスに10%ずつマイナス補正がかかるという制限はあるが。

 

 モンストロの肉体には占めて666個の凖<エンブリオ>が組み込まれている。

 ジョブのスキルと補正を後付けし、改造部位のステータスを【怪物王】の固有スキル《カオティック・シェイプ》で割合加算した彼は、超級職ティアンの枠組みから外れた能力を誇る。

 

 奥義でその都度最適な装備構成を選択し、無数のジョブスキルを行使する怪物。

 その戦い方に継ぎ接ぎの妖を冠した人物を思い浮かべる者もいるだろう。

 

 奇しくも両者の戦術は同じ。

 数多の技巧を束ねる無限の可能性だ。

 ならば勝敗は純粋な力量で決する。

 

「――《虎歩(コホ)》」

 

 超音速の縮地で【怪物王】が馳せる。

 刃重ねた十刀流。逃がれ得ぬ籠目の軌跡。

 

 無職は腰の一振りに手を添えた。

 片手を柄に、片手を鞘に。半身の形。

 浮遊刀は捨て置いて居合いの構えを取る。

 

 静かにモンストロの腕が滑り落ちる。

 

 否……腕だけに限らず。

 両断された胴から、首がころりと転がった。

 遅れて鍔鳴りが不自然に反響する。

 

 ()()()()()を納刀した無職は、首級を掲げて勝ち鬨を上げんとするも、怪物は死の間際に鬼札を切る。

 

『Gaaaaaaaaaaaa』

 

 最終奥義《カオティック・ドゥーム》。

 歴代【怪物王】の到達点、種族キメラの非人間範疇生物(モンスター)に成り果てる業である。

 

 さらには、

 

『《七星(セプテントリオン)》』

 

 食いしばり(ラスト・スタンド)で《蝕》を突破したアルベルトが。

 

『……』

 

 空間の狭間でスリンガーを射出するカルルが。

 

「……《人を呪わば穴一つ》」

 

「《永劫に生きよ、無為と成りて(ガタノトーア)》」

 

 乱戦を生き延びて、しかし無職に連続で首を狩り落とされた者達が。

 

「欺瞞を剥ガセ』

 

 隠蔽スキルを強制解除された無職に、

 

『《虚飾の終焉(ジ・エンド・オブ・ヴァニティ)》――なンテね』

 

 共通(世界)の敵に襲いかかった。

 

 

 ◇◆

 

 

 一人の男がいる。

 

 彼が陣取るのは王都の東に広がるエリア<イースター平原>。初心者向けのマップであり、普段はレベリング目的のビギナーで賑わう狩場だ。

 

 常ならぬ静けさは男の重圧に怯えたモンスターが姿を隠しているため。獲物がいないので人間も自ずと他のエリアに移り、珍しい強者に場所を譲った。

 

 王国の著名人“無限連鎖”のフィガロ。

 

 三時間以上に及ぶウォーミングアップを切り上げて、彼は待ち人を出迎えた。

 

 ――《大蛇(オロチ)

 

 姿を消した状態で放たれる、神速の抜刀剣を()()()()()()したフィガロ。数十倍の強化で超々音速の域に踏み込んでいるのだ。当然、反撃の余裕だってある。

 

「《極竜光牙斬(ファング・オブ・グローリア)》――」

 

 袈裟斬りから懐で跳ね上がる剣。

 膨大な光がV字をなぞって迸る。

 

「――《終極(オーヴァー・ドライブ)》」

 

 極光の直線上にある全てが蒸発、消滅する。

 この状態のフィガロは都市圏に攻撃の余波が届く事を気にして、水平に剣を振るえない。

 それなら上空に撃てばいいよ。何もないからね。

 脳筋らしい実にシンプルな答えであった。

 

「さあ、始めようか」

 

 挨拶代わりの一当てを終えて、どうにか直撃を避けた無職に、決闘王者は死合を申し込むのだった。




仕上がったフィガロ、参戦――。

・主人公
レベルをコストに支払った。世界は救われた。

・カルル
壁尻。

・アルベルト
闇属性耐性つけたら《蝕》で幽閉できそう。

《カオティック・ルール》
マイナス補正は基礎ステータスにかかる。
加算値は別計算のため、装備とスキル山盛りで踏み倒せる。無法。
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