無職さんのデンドロ履歴書 作:リリアーナを照れさせ隊
□■<イースター平原>
あなたは心臓の高鳴りが治まらない。
突如湧いて出たフィガロとの遭遇。
明らかな待ち伏せと、初撃必殺を易々と回避するどころか超級武具を繰り出す極まり度合いに、精神が殺伐とするのもやむを得ないだろう。
本来、あなたは回避の必要がない。
フィガロが最大の武器【グローリアα】を使っても、【邪神】あなたの防御を貫けないからだ。
だというのに。回避を強いられる。
光輝を放つ刃の重圧は計り知れない。
修羅の国で磨かれた生存本能が、咄嗟に、ひとつひとつの動作に反応してしまう。
あなたは……フィガロを恐れていた。
危険に反応して【邪神】は眷属を産み落とす。
大地と雑草から変生したソレらは群れを成して殺到し、フィガロにあっさり屠られる。
鎧袖一触、一騎当千。有象無象の眷属では彼を足止めすることすら叶わない。
「子供のままでいいのかい?」
変身できるならミスティコを服用している。
それをしないのは、あなたにとっての想定外。
あなたは第三王女の姿から別の容姿に変われない事に戸惑っていた。正確には《インターン》で【邪神】に就職した瞬間から変身を解除できず、【邪神】のジョブリセットも不可能となっている。
メインジョブを切り替える事で、どうにか普段使いのスキルを行使している状態である。
「トムの話は本当みたいだね」
フィガロにあなたの情報は筒抜けだ。
出所は【猫神】トム・キャットのリークである。
カルルやアルベルトを退けて北上したあなた。
野生の<超級>というおかわりと交戦しながら、あなたはひたすらに北を目指して歩き続けた。
そこで警告を告げに現れたのがトムだった。
『流石に見過ごせな……え、戻れない?』
修羅あなたは間抜け顔の首を刎ねた。
しかし一匹討ち漏らしたようで。
まんまと逃げ帰られてしまったらしい。運営側が一勢力を贔屓するなど実にいただけない話だ。
閑話休題。
あなたは邪魔者に容赦しない。
道を阻む者は誰であれ、排除する。
全て、全て……あなたが願う希望のために。
あなたはグリゴリの頁を連続で破る。
グリゴリの固有スキル《スペリオル・インターン》は回数に限りのあるストック制である。
ストックは最大五つ、一日に一つ回復する。
あなたは既に五枚分、否、それ以上の
今のあなたに出し惜しみという概念は存在しないし、関係が無い。
ガコン、ガコンと。
背後で回転を続ける銀の盾、あるいは水盤。
あなたが獲得した三種の神器の一つがあるから。
伝説級特典武具【選濯器 ラウンドリ】。
その効果は『クールタイムの配分』である。
スキルに優先順位を付けて、他のスキルの使用不能時間を延ばす代わりに、指定したスキルのクールタイム経過を早める事ができる。
習得スキル数が多いほど補填時間は増える。
あなたは戦闘向きでない無数のジョブスキルを冷却に回して、普段使いする《インターン》ほかメインのスキルを連打するのだ。
フィガロ相手に温存は悪手である。
彼を最も倒しやすいのは今この瞬間だ。
一秒過ぎるごとに強化が積み重なるのだから。
《修羅道戦架》――【阿修羅王】の固有スキル。
武器装備枠を拡張して六つの浮遊武器を操る。
あなたは数打ちの妖刀を随行させた。
《ラスト・バーサーク》――【狂王】の最終奥義。
ターゲットを抹殺するまで止まらない暴走狂化。
あなたのSTRとAGIは五倍化、被ダメージは五分の一に軽減され、MPとSPの消費量がゼロになる。
《
サブ超級職のスキルを全て使用可能になる。
奥義のほか、系統の基本スキルを並列起動して。
剣士系統の《居合い》は【剣王】と上級職・下級職でカバー。あなたは倍速で腰の得物を抜刀する。
魔剣再演《
拙い技の、更に技巧を欠いた劣化版である。
しかしバフを積んだあなたの速度は超々音速に到達している。ステータスの暴力で魔剣を再現して。
――斬撃は一刀で止まらない。
あなたは時間が停止したように見える視界で、抜刀と同時に刀を持ち替える。
AGI一〇〇万オーバーでの一瞬、システムは抜刀モーションが連続しているものとみなし、あなたの超加速状態は継続した。
装備とスキルの補正があなたを後押しする。
【超闘士】の装備枠拡張はもちろんのこと。
再就職したジョブスキルは最大レベルに。
あなたが獲得した三種の神器の一つ。
逸話級武具【強育盤組 テレピジョン】。
ディスクを模った意匠の機械鎧は、ただ映像を垂れ流すだけで、低レベルのスキルを訓練できる。
腰の二振り。浮遊する六振り。
八の太刀による絶え間ない抜刀術。
――《
あなたは勝利を確信した。
そんな予測を……【超闘士】は超えていく。
フィガロは順番に妖刀を斬り伏せた。
――は?
全く同時でないなら対処できると宣うように。
愛刀から八の太刀まで見事に相殺された。
あなたは正気を疑い、この世の神を呪った。
次は自分の番だ、と。
フィガロは一転して攻勢に移る。
激しく動揺するあなただが、身の守りは万全だ。
【邪神】の加護は突破できないのだから。
そんな余裕は……頬の肉を抉られて霧散する。
あなたが傷口に触れると、手に血が付着した。
話が違う。あなたは錯乱したまま突貫する。
暴走あなたを待ち受ける、フィガロの次なる一手は漆黒の騎馬。煌玉馬【
飛行機能を持たない【黒曜】は陸上戦闘特化。
乗るよりフィガロが走った方が速いと揶揄される欠陥機ではなかったのか。
地属性魔法の礫が散弾の如く飛来する。
冷静になれば大したことはない。
あなたのHPからすれば微々たるダメージだ。
直後、あなたのHPバーは消し飛んだ。
――は??
フィガロが投擲したのは魔法の【ジェム】。
驚くなかれ。ただの消費アイテムではない、あなたの見立てでは【炎王】の奥義《
あなたは灰の山から這い出て天を仰いだ。
まさか【邪神】の不思議防御を突破されるとは、あなたはついぞ知らなかったからだ。
それも《ラスト・バーサーク》でダメージを抑えているのにである。
「おや、HPはゼロのはずだけど」
やはりフィガロは危険だ。
あなたのHPを
あなたは頭上にHPバーを表示した。
残量ゼロのゲージがひび割れ、砕けると。その下から色味の異なる次のHPバーが解凍される。
あなたが獲得した三種の神器の一つ。
神話級武具【冷闘袴 フリーザー】。
複数あるスキルのひとつ《黎冬戸》は『
現在あなたはHPを最大値の十分の一に分割して、ゲージごとに冷凍保存している。
今回は一本目のゲージがブレイクされた。あと九回、同じ攻撃を受けたらあなたは死ぬ。
フィガロの眼光が鋭さを増した。
あなたは必死に思考を巡らせる。考える間に、狂化で突貫するためゲージが吹き飛ぶばかり。
狂暴化あなたは原因を考えても対策を実行できない。もう考えるだけ無駄である。
同じようにフィガロは見切りをつけた。
ここからは無意味な消耗戦ではなく。
<超級>
「――《
フィガロの武器は【グローリアα】の二刀流。
――は???
あり得ない。あなたは即座に否定を口走る。
【グローリアα】は全世界サーバーに一個しか存在しないオンリーワンのナンバーワンである。
そしてフィガロの必殺スキルは、使用した装備が
よく目を凝らして《鑑定眼》を使用すれば、あなたはフィガロの武器の詳細を確認できるだろう。
右手の白剣は【グローリア・アルプァ】。
左手の黒剣は【グローリア・アルブァ】。
あなたがバーベナに贈与したネタ武器である。
闘技場に借金のカタとして差し押さえられた双剣は、巡り巡って製作者に牙を剥いた。
白剣は灼光と六桁単位の固定ダメージを。
黒剣は漆黒と数十万回分の判定の固定ダメージを。
それぞれ限界突破した強化であなたを斬る。
あなたは死なぬ。【邪神】の加護がある。
そして装備品も同様に不壊不朽……、
「疾ッ」
三種の神器、ぶっ壊れる。
あなたの無敵を学習したフィガロの一手。
希少極まりない固定ダメージを与える魔法の【ジェム】。あなたの分割したHPでは耐えられない。
余剰ダメージが装備品にまで波及する。
特典武具も妖刀も、全部が全部、まとめて粉微塵の木っ端微塵になる。あなたは発狂した。
おまけにフリーザーのHP分割が途切れ、あなたは残機をも失ってしまう。あなたは狂乱した。
あなたは意図的に眷属を産み落とす。
無意識に発動するものとは比較にならない強さの個体が、フィガロを止め、止めて……。
「――■■■」
バーサーク・フィガロの双剣で狩られる。
な、なら物量で装備消滅まで耐えれば……。
「《燃え上がれ、我が魂》――《
投擲物強化の特典武具と、破裂する投槍の組み合わせ。あなたの眷属は爆散して全滅だ。
一糸纏わぬ姿のあなたは拳を引かない。
子供の体格でリーチ不足だとして、余計に踏み込めば良いだけのこと。無敵とステータスは健在だ。
「《
フィガロは華麗なステップで身を翻す。
足元で燃え上がる靴の効果で、あなたを挟んだ対角線上に移動する。
紅い花弁を散らして景色を塗り替える特典武具。
黄金の劇場で、あなたはドレスを纏う。
それは投影された幻影である。あなたを害するデバフではないため、フィガロを利することもない。
「墳ッ」
装備から外していた【黒曜】を《瞬間装着》したフィガロは、基本の強化だけで地形を操作する。
地中から隆起した壁であなたを囲った。
……限界が訪れなければ、彼はそのまま、あなたを生き埋めにしたのだろう。
コル・レオニスは必殺スキルの発動中、秒間1%ずつ最大HP上限を削るという。
全身の血液が沸騰する痛みに苛まれて、システム上の命を全焼させたフィガロは膝をついた。
流れ込む経験値をあなたは感じた。
死亡エフェクトとリソース変動処理。
つまるところ、あなたの粘り勝ちである。
あなたは本気で安堵した。
同時に、ドレスの幻影が残留する事実に震えた。死後強まる呪いか。悪影響がないからよいが。
精神的に疲労したあなたは朦朧とする視界で“ありうべからざる夢”を見る。
天駆ける黄金に跨った、騎士の姿を望む。
――――…………は。
彼女は死んだ。あなたの目の前で。
だからこれは、きっとご都合主義な夢だ。
「…………、……!」
騎影が上空から急降下する。
何やら叫んでいるが、あなたの聴覚は鈍い。
「……な………、…………い……」
救いようがない己を嘲笑う。
あなたはいよいよ壊れてしまったらしい。
だってそうだろう。王国の国宝に騎乗した女騎士の幻覚と幻聴まで発症したのだから。
「一体何をしているんですか、あなたは――!!」
ああ、本物も言いそう言いそう。
高クオリティの幻にあなたは乾いた笑みを浮かべて、束の間の幸福に浸ろうと彼女に近寄る。
「騙して悪いが、死んでもらうぞ」
頭上に気を取られたあなたの背後で、いつの間にか半裸の男が大砲を突き付けている。
「《ストレングス・キャノン》」
何が起きているのか理解できず、あなたの頭蓋は破裂した。
こんな餌に誰が釣られクマー
《魔剣再編》
補助無しなら認定され得る妙技。
スキル頼りの抜刀をシステムは認めない。
追記:修正箇所
固定ダメージ魔法は流石に苦しい言い訳。
ハイエンドの創作魔法ならワンチャン……?
作者は【邪神】関連の読み込みが足りない。
無職が腹を切ってお詫び申し上げます。
追記の追記
フィガロの強化を挟むと消費アイテムでも【邪神】突破できないですね。考えてみればそれはそう。
初回の【黒曜】も装備してないという事で……何卒……
バーベナも腹を切ってお詫び申し上げます。