無職さんのデンドロ履歴書 作:リリアーナを照れさせ隊
詳細は前書き・後書きをご覧くださいm(_ _)m
□■少し前 王都・作戦会議室
「結論から言うぞ。リリアーナを囮にする」
「ええ……」
シュウの発言に全員がドン引きした。
ひょっこり現れたリリアーナに戸惑う最中、ただ一人シュウだけは先を見据えて話を切り出す。
「話が見えないのだけれど」
「無職を止める話し合いだろ? 最初から趣旨は変わっちゃいないさ。ただ……そうだな。リリアーナ、まずは簡単に情報共有してくれるか」
「私さっき生き返ったばかりなんですが」
「ええと……はい。みなさんご存知の通り、先日、私は一度死にました」
正確には、死の間際で光の塵になった。
通常ティアンは死亡すると遺体が残る。
光の塵に還るのはモンスターや、仮初のアバターで活動する<マスター>に限った話だ。
だが、リリアーナ達ティアンの視点では、どちらも『死』である事に変わりがない。
「そして気が付いた時、私は王都の噴水前に立っていました」
「噴水……? っ! セーブポイント!」
それは<マスター>にとって身近な現象だ。
死亡後、直前のセーブポイントで復活する。
当たり前の現象で、あり得ない現象でもある。
デンドロで不死身を許されるのは<マスター>だけであり、ティアンの命はたった一つだけ。
「でも、そんな事があり得るの?」
「この特典武具のお陰なのでしょう」
リリアーナは肩のマントを揺らした。
逸話級武具【聖鎧布 ブロークンシルド】。
浮遊する光の盾を操り、一定量のダメージを無効化するスキルを持つ装備である。
「これには三つのスキルがありますが、最後の一つは黒塗りで内容が分からないままでした」
「《
「ええ」
秘された【聖鎧布】のスキル。
彼女が瀕死に陥った事でその可能性は開花した。
第三スキル《
致命傷を受けた時、使用者と装備をリソースに変換。事前に構築した経路を通ってセーブポイントに帰還し、三日間かけてリソースから肉体を再形成する。
メイヘムで要石を破壊された【ブロークンシルド】はついぞ使用する事なく、誰にも知られないまま、特典武具のスキルとして継承された。
「代償にレベルが下がるのと、一度発動すると暫く使えないので、そう何度も頼れませんが……」
「それでも命を天秤にかけたら破格だろう。レベルはまた上げ直したら済むからな」
彼らは知らない。リリアーナの蘇生がどれだけの綱渡りで成功したものであるのかを。
このスキルは常に失敗のリスクを内包する。
リソースの変換と再形成は、初代フラグマンすら一〇〇%の成功率を担保できなかった術だ。それも『完全に分解前と同じ』状態に戻す場合で、である。
ましてや肉体を回復して蘇生するなら。
セーブポイントまでの移動距離が伸びるほど、《騎士廻生》の成功率は著しく低下する。部分的にリソース化したまま戻れない、あるいは装備品と肉体が混ざり合って形成されてしまう可能性だってある。
分解したリソース……リリアーナのレベルに加えて、特典武具そのものに蓄積された一部分を、『推進剤』と『魂の保護膜』に転用しているが。
最悪、総リソース量と消費が釣り合わなければ、そのまま消滅してもおかしくはない。
(“天秤の化身”の仕組み。【殺人姫】の劣化“化身”にも酷似する……やはり彼女の成長は急務だね)
明記されない危険性まで自力で辿り着いたのは、居合わせた面子の中ではインテグラのみだった。
生と死の狭間を反復横跳びするに等しい賭けに勝利したリリアーナは、そうと知らず、涼しい顔で渡された【リソース・チャージャー】を使う。
これは経口摂取するタイプ? そんなわけないでしょう私は騙されませんからね……え、特別製。本当に? じゃあその……お塩いただけますか。
「はむっ。
「美味しそうだのう……じゅるり」
「食うなよネメシス。とりあえずリリアーナが復活した理由は分かった。けど囮ってのは」
「文字通りだ。奴は必ず反応する」
然もありなん。
リリアーナの死で暴走しているのだ。
幻覚だろうと偽物だろうと何かしらのアクションを取るだろう。ましてや彼女は本物である。
無職はリリアーナを、
「その隙に俺が殴る」
「……雑じゃないですー?」
「シンプル過ぎるくらいでちょうどいい。【キムンカムイ】なら気付かれずに接近できる」
神話級特典武具の気配遮断は、初撃を与えるまで、シュウの存在を無職に悟らせない。
マリーは【絶影】の奥義《消ノ術》が使えるが、こちらはSP消費が激しいため時間制限がある。加えてシュウの予想通りならマリーでは攻め手に欠けるのだ。
(もし仮に……奴がテレジアの姿を取ったとして、対処できるのは
アルティミアは論外だ。無職の目的は【原始聖剣 アルター】、それをわざわざ持ち出してどうする。
あえて餌で釣るという考え方もあるが、その場合アルティミアはテレジアに変身した無職と相対し、芋蔓式に【邪神】の存在が露呈しかねない。
収監中の【犯罪王】? 今居ないスライムの話をする意味があるか? いやない。
「安心しろ。リリアーナは危険に晒さない。というより万が一で死なれたら……今度こそ収拾がつけられないからな。囮とは言ったが、距離を置いてもらう」
「本当でしょうね」
「ああ。ついでに【黄金之雷霆】を借りるぞ」
「…………ごめんなさいね。聞き間違いかしら。国宝を貸せと言われた気がしたのだけど」
「間違ってねえよ」
アルター王国の国宝。第一次騎鋼戦争で破損したオリジナル煌玉馬のひとつ。最近になり<遺跡>で修復が行われ、実戦に耐える事は講和会議で実証済みだ。
「不意を打つなら飛べた方がいい。【セカンドモデル】だとスペック不足だ。【
無職の速度帯を考慮すると、緊急回避の《電磁縮地》を持ち、歴戦の経験で騎乗者を補助できる歴戦の名馬が必要だ。
(攻撃性能は期待できないがな。修復で<マスター>の手が入っちまってる。異物無効化の対象内だ。逆にフィガ公の【黒曜】は通じる可能性があるか……)
「そういう訳だ。フィガ公。露払いを任せる」
「? 分かったよ。あと一人の方がやりやすいな」
「頼もしいこった。後で必要なものを手配するとして」
段取りを決めたシュウは最後に確認する。
「リリアーナ。いけるか?」
「……」
「もう蘇生の命綱は使えない。【ブローチ】なんて気休めだ。無職の状態が掴めない以上、最悪お前が殺される可能性だってある」
「危険に晒さないのでは?」
「心構えの話だ。何が起きても受け入れられるか」
リリアーナは静かに瞳を閉じる。
これまでの思い出が脳裏に浮かぶ。
頭のおかしい無職の奇行。
非常識な暴挙の数々。
後始末にどれだけ走り回ったことやら……あれ、おかしいですね。目から水が……。
そんなの今更ですよ。ええそうですとも。
やってやりますよこんちくしょー。
口まで出かけた言葉を彼女は飲み込む。
「あれでも命の恩人なので」
リリアーナは微笑んだ。
仕方ないですよね。あの人ちょっとあれですし。
ただし。リリアーナが従うのはシュウではなく。
「この身、この剣、我が誓いは王国の為に。王家と民を脅威から守護するのが我ら近衞騎士なれば」
この場において彼女の主人はただ一人。
いと尊い王家の血筋、その継承者である。
「近衛騎士団副団長リリアーナ・グランドリア。殉じる覚悟は出来ています」
女騎士は王女の前で跪いた。
「――どうぞご下命を、殿下」
「……だから、アナタが死んだらダメなのよ?」
「食べカスついてるぞリリアーナ」
「…………〜〜〜ッ! い、今のは無しです!! やり直し、やり直しを要求します!!!」
◇◆◇
□■<イースター平原>
「覚悟は出来ていると言いましたけど……」
リリアーナは顔を引き攣らせた。
広がる光景が見るに堪えないからである。
「すみません。帰っていいですか?」
どう切り取ってもこちらが悪。
極悪非道の大罪人が如き振る舞い。
リリアーナは騎士の誓いが根本から揺らいでいる。
「いいぞ」
「え?」
「むしろ先に帰ってくれるとありがたい。リリアーナの役目は終わりだ。後始末は俺がしておく」
「はぁ……」
あまりに扱いが雑過ぎる。私、必要でした?
リリアーナは釈然としない気分で帰還した。
帰り道、彼女は【黄金】に不満を吐露したというが、それはまた別の話である。
「――近衛騎士に【邪神】の事情を説明するわけにはいかないものね?」
「……ハンプティか」
シュウの隣に、卵に似た楕円の薄い膜に覆われた少女が腰掛けている。
管理AI2号ハンプティダンプティは人の目が無くなった事を確認して姿を現したのだ。
「例の件だが」
「無理ね」
「……やっぱりか」
「ええ。このままコレがデスペナルティになっても、【邪神】はジョブから外れない」
首無し死体は【死兵】の《ラスト・コマンド》でかろうじて形を保っている状態である。
脳髄がミンチになったのでもはや指一本動かせないはずだが、無職はまだ意識を保っていると、ハンプティは同僚の
代替脳として【邪神】が機能しているためか。
流石にシュウとハンプティの会話は聞こえていないようだが、今は待機スペースで中指を立てている。
やはり<超級>はどいつも頭がおかしい。
「【邪神】は生まれついての超級職よ。そしてジョブリセットができない。歴代の【邪神】は死亡で代替わりをしてきたけれど」
「<マスター>は
「デスペナルティが明けたら、また世界の危機ね。結界とドーマウスを抜きにした【邪神】の成長速度なら七日間でいくつか国が滅ぶかしら?」
「笑えねえな」
会話する間にリミットは近付いている。
「こいつのアバターに手を加えるか、ログインさせないってのはどうだ」
「まず前者は無理よ。それができるなら私達は苦労していない。後者は……<マスター>は自由だから、管理AIでも意見が分かれているわ」
彼らは目的達成のため、世界の滅亡を望まない。
だが一枚岩ではない。同意見だとしても、立場とニュアンスには差異が生じる。
大半の管理AIは排除を唱えるだろうが、意見の一致には時間がかかる。
「――シュウ?」
「問題ない。策がある」
シュウは首無し死体の側に立ち尽くす、黒髪の乙女に視線を向けた。
「寝てるコイツに伝えてくれ。ちょっと今から死体蹴りするってな」
『ええ、ええ……ご随意に。ワタシにはなんら関係のない話です』
「…………!」
『……』
『やかましいってんですよ貴方達!?』
黒髪の乙女は無言で死体を見下ろす。
極上の美酒を味わった後のように満足げな顔で、破損した刀に毛髪を与え、片方に喧しい本を持つ。
妖刀は膨張して元通りに修復された。
妖……刀……? バケモノではなくて?
『ええ、ええ……「くたばれ」だそうです』
「マジで自分の状況分かってんのかクマー」
シュウは黒髪の乙女に近寄った。
乙女の腰に吊るされた小瓶に触れると、
「ふんッ」
その膂力で容器を粉砕する。
「今のこいつは一種のバグだ」
本来なら世界で唯一の特殊超級職【邪神】。
それがテレジアと無職の二人、同時に存在している。この世界のシステムを作り上げた管理者がどこまで想定していたのかは不明だが、自浄作用はあるだろう。
「こいつのネタは特典武具と<エンブリオ>のシナジー。どちらが欠けても成立しない」
だからシュウはミスティコを破壊した。
核の小瓶を失った魔人、黒髪の乙女は何も言わずに消滅する。次のご馳走を心待ちにしながら。
特典武具がスキルの効果ごと破損する。
死体はシュウが初めて見る姿に変化した。
■■■本来のアバター。首無しであることは変わらないので、結局のところ顔は分からずじまいだ。
「まだ【邪神】は残っているわね」
「ま、だろうな。この程度でリセットできるならテレジアも苦労しない。だから……こうするのさ」
シュウは左手の紋章を掲げた。
「来い、《
戦艦の<超級エンブリオ>。
その必殺スキル、
シュウは機械仕掛けの巨神に搭乗する。
「……【グローリアγ】は要らないな」
シュウは破壊対象の強度を推し量る。
無職の《ラスト・バーサーク》はフィガロ死亡時に途切れており、他の耐性スキルは【邪神】のそれを除いて発動していない。
また【邪神】のレベル自体も、《インターン》のコストで消費しているので100に満たない程度だ。
成長途中で未完成の状態なら、シュウの目論見は成功率が高まるというもの。
「流石に初めての試みだが」
シュウは《
破壊不能対象を破壊できるスキル。
たとえ『概念』や『法則』であったとしても、攻撃力が対象の強度を上回れば破壊が可能だ。
シナジーの片翼を欠いた事で、不安定になっている【邪神】と無職の
神話級特典武具と<超級エンブリオ>、オンリーワン同士の組み合わせで成立するバグ技だからこそ、今回のような横紙破りが成立する余地が生まれる。
「いくぜ――」
彼の名はシュウ・スターリング。
通りすがりの【破壊王】である。覚えておくべし。
「――《
無職はデスペナルティになった。
・リリアーナ
天然ボケ(原作準拠)。
周囲のボケが強過ぎるために埋もれているが、ポテンシャルは高い。
《騎士廻生》
分かる人向けに例えると霊体化。