“元”砂隠れの影依使い   作:ナスの森

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神の写し身との出会い

 

 その日の砂嵐はいつもよりも一層激しかった。

 

 そんな嵐の日に里外の警備として砂漠に放り出された“あなた”は、つくづくツいていないと思っていた。

 

 ――だが砂嵐の中での出会いは、“あなた”の運命を変えることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 忍五大国の一つとされる風の国。

 砂漠に囲まれた地理の都合上、資源や生産力に乏しいこの国は、「砂隠れの里」と呼ばれる、国の軍事力たる忍里を保有している。

 第三次忍界大戦後、この里は国が軍縮を進めた関係で勢力が弱まり、自給自足の厳しい土地柄故、衰えていく一方だった。

 

 そんな五大国の擁する隠れ里の中で総合として最も力の弱い砂隠れに、“あなた”は生を受けた。“あなた”の両親は、里の中では名の売れた忍であると聞かされていましたが、物心着いた直後、その両親を戦争で命を落とし、“あなた”は幼くして親を亡くしてしまいました。

 

 けれど、“あなた”は決して孤独ではありませんでした。そんな“あなた”を憐れに思い、死んだ両親に変わって“あなた”を育ててくれた1人の老婆がいたのです。

 その老婆は、それよりも前の大戦で息子夫婦を亡くし、さらには可愛がっていた孫からも里を抜けられた過去を持っていました。老婆は戦争で両親を亡くし、次第に心が歪んでいった孫をアナタに重ね、今度こそはと、同じ過ちを繰り返さないために“あなた”を育てる決心をしたのです。

 

 やがて、里を抜けた“孫”と同じく、“あなた”には傀儡師として類い稀なる才能を有していることを、老婆は知ることになりました。

 孫の件があった老婆は、傀儡の技術に関するモノはなるべく“あなた”には触らせないようにしていたのですが、ここはそもそも傀儡の術の本場である砂隠れの里。

 忍になることを目指していた“あなた”が、傀儡の術について一度も興味を持たないわけがありませんでした。

 一度、傀儡に着手し始めた“あなた”はメキメキとその才能を開花させるようになります。

 今まで砂隠れの里の中の先人の作品とはかけ離れた特徴を持つ傀儡。木材だけでなく、金属材すらも主材料とし、他国の工芸品を思わせる装飾を取り入れた、黒を基調とした今までにはない傀儡の数々。

 巧みにそれらの傀儡を操ってみせる技術。

 それらの、まるでかつて里を出て行った孫を辿るような傀儡術の才能に、老婆は危機感を抱くようになりました。

 

 また、そんな老婆に追撃をかけるように、他の傀儡使いにはない“あなた”の異常性の一端を、老婆は垣間見ることになります。

 それらの傀儡を操るのに用いられる、“あなた”の指から伸びる、()()()()()のチャクラ糸。

 通常、傀儡術を始めとした忍術を発動するのに用いるエネルギー体――チャクラと呼ばれるソレは、何の性質変化もない状態で人体から放出された状態では、流動する青い光として見えるものです。

 当然、過去の操演者たちが傀儡を操るとき、その操り糸たるチャクラ糸はすべて青色でした。

 

 しかし、一度里を出て行った孫と重ねて“アナタ”を見てしまった老婆は、アナタが傀儡を操っている現場を凝視し、そしてその傀儡を操る糸の色が通常のチャクラ糸の色とは違っていることを目撃してしまったのです。

 

 無論、それ以外に“あなた”にはこれといった異常性は見受けられず、そのチャクラ糸もまた通常のチャクラ糸と異なる性質は見受けられませんでした。しかしそれでも、老婆は直感したのです。

 

 孫を思わせるような、才能だけではない。

 ――この子は、他の、歴代の傀儡使いたちとは異なる“ナニか”があると。

 

 それでも、孫のような過ちを犯させないと既に決心していた老婆は、それを知っても尚、いつものように貴方に接しました。

 傀儡師及び傀儡使いとしての道を歩み始めた“あなた”に対し、老婆はより注意深く目を見張らせるようになりましたが、それと同時に、老婆にとって“あなた”は紛れもない愛情を込めて育てた子供でもありました。

 その始まりはかつて出て行った孫と重ねたことだったとはいえ、その成長を一から見守ってきたのです。

 “あなた”もまた幼い頃に失った両親からの愛に飢える必要もない程、老婆から愛情をもらっていたため、孫のような危うさは見受けられませんでした。

 

 

 ――あぁ、この子なら大丈夫じゃろう。

 

 

 終ぞ何の危うさも見せることもなく、里の傀儡部隊に配属された“あなた”の背中を見送り、老婆はそう安堵するのでした。

 しかしその安堵も、束の間なのでした。

 

 

 

     ◇

 

 

 砂一色で支配された世界。

 常人ならばジリジリとその命を脅かされないその砂嵐の中を、“あなた”は歩いていた。

 砂が目に入らぬように常備していた毛布で身を包み、顔を地面に向けて蹲るような体勢で歩いていく。

 

「あぁ、ツいてないなぁ・・・・・・まったく」

 

 身を隠す毛布の下で、“あなた”はやれやれといった笑みを浮かべながら1人ごちた。

 老婆に拾われてから月日は流れ、15歳となった“あなた”は、里の中忍の1人として傀儡部隊に所属していました。

 そんな“あなた”でしたが、ある日、里外警備の者が病で倒れたことで、急遽その代わりとして“あなた”が里外警備に当たることになりました。

 それを快く引き受けたまではよかったのですが、そんな日である今日に限って、巡回場所である里外の砂漠にて大規模な砂嵐に見舞われたのです。

 “あなた”とて、砂隠れの忍であり、そして風遁使いの端くれ。

 いつものような砂嵐は既に慣れっこだったのですが、今日に限ってはいつもとは比べものにならないくらいの規模でした。

 

「早く止んでくれないかなぁ・・・・・・っと」

 

 その時でした。

 唐突に砂嵐は弱まり、視界が多少鮮明になった“あなた”の目に・・・・・・砂に埋もれたナニかが目に映りました。

 何事かと思い、“あなた”は即座に駆け寄ります。

 そしてしゃがみ込み、手慣れた手つきで邪魔な砂をどけていきます。

 

 すると――次第にその正体が顕わになっていきます。

 まず最初に砂の中から現れたのは、少女らしき死体の後頭部でした。

 その正体が人であることを悟った“あなた”は、物憂げに目を閉じ、その少女の後頭部を撫でました。

 

「・・・・・・あぁ、可哀想に」

 

 実のところ、この砂漠で行き倒れた死体を見かけることはそう珍しいことではありませんでした。

 風の国は砂漠に囲まれた土地柄故豊富な土地には恵まれず、自給自足が困難な国です。飢餓者がこうして砂漠を彷徨い、餓えや砂嵐によって命を落としてしまうことはザラにあることでした。

 そして――大抵の亡骸は砂に埋もれて人に発見されることすらなく、1人孤独なまま風化していくのです。

 そういう意味では、この少女はまだ幸せだったと言えるでしょう。

 何せ、こうして骸が“あなた”という人に見つけられたのですから。

 

 “あなた”は邪魔な砂を退け続け、少女の遺体を掘り続けます。

 見慣れた死体ではありますが、それでも一度見つけた以上、“あなた”は放っておくことはできませんでした。

 

 しかし――掘り続けているうちに、その遺体が尋常なものではないということに気が付きます。

 

「なッ・・・・・・」

 

 次第に顕わになっていく少女の全身でしたが・・・・・・その体は、全身が血まみれでした。

 それに加え、人間が生きていく上で必要な部位の殆どが欠損しており、それらの箇所からおびただしい量の血の流れた後がありました。

 この少女の死因は・・・・・・明らかに砂嵐や飢餓によるものではなかったのです。

 

 斬られた跡、抉られた跡、噛まれた跡、凍傷・・・・・・様々な傷と欠損が少女の体に刻み込まれていたのです。

 明らかに人為的と思われる傷が多数あり、少女が今まで如何に戦いに明け暮れていたのかを物語っていました。

 

 思わず、“あなた”は周囲を見渡し、なにか戦闘の痕跡のようなものがないかを確認しましたが、それらしきモノは一切見当たりません。

 ――とりあえず、砂隠れに戻ったらみんなに注意するように言わないと。

 この少女にこれだけの傷を負わせたナニカが、まだこの砂漠にいるかもしれない――その存在の危険性を認識した“あなた”はそう思い、他にナニか手がかりがないか、再び少女の遺体を観察します。

 

 そこでまず目に付いたのは、少女の見慣れない衣服でした。

 股までの長さの、白を基調とした可愛らしいワンピース。そのワンピースよりも下の股部まで露出した黒いハーフパンツ

 その上に茶色の外套を羽織った奇妙な出で立ちをしていたのです。

 

 どこかの氏族特有の服装なのだろうか、と“あなた”は推測します。

 

 それ以外、分かることはありませんでした。

 唯一分かるのは、この少女が戦いに明け暮れ、その末にこの凄惨な傷を負って命を落としたのだということだけでした。

 

 これ以上手がかりは得られないと踏んだ“あなた”は、最期に少女の顔を一目見てから、簡単な墓でも建ててやろうと、少女の遺体を抱き起こします。

 

 

「――――あ・・・・・・」

 

 

 そして――その少女の顔を見て、“あなた”は目を見開き、唖然としてしまいました。

 体型から少女らしき年齢であることは、分かっていたつもりでした。

 しかしその素顔を見て、アナタは言葉を失い、呆然とする他ありませんでした。

 まるで、体中を言葉にならないナニカが迸り、金縛りにあったような感覚。

 それは、“あなた”の人生で今まで感じたことのない感覚でした。

 

 風に靡く草原を思わせるような、一つに纏められた流麗な翠色の髪。

 幼さとあどけなさがありつつも、可憐な美しさを保った素顔。

 

 きっと、明るい綺麗な笑顔が似合う少女だったのだろう。

 しかし、そんな笑顔を曇らせてしまう程の戦いに身を投じていたに違いない。

 

 

 

 嗚呼――なんてことだ。

 

 泣きそうな表情で、“あなた”は少女の遺体を見下ろします。

 

 ――なぜ、このような少女が、こんな凄惨な最期を遂げなければならない?

 

 ――なぜ自分は、この少女がまだ生きていた時に出会えなかったんだろう?

 

 なぜ? なんで? どうして?

 

 そんな言葉が、幾度ともあなたの脳裏で反芻していきます。

 

 

 

 そう、“あなた”は、既に死体となっていたこの少女に、恋をしてしまったのです。

 

 

 

 誰かを好きになったことがない“あなた”にとっての初恋は、この死体の少女だったのです。

 “あなた”はこの少女のことを何ひとつ知りません。

 どんな声をしているのか、どんな表情をするのか、どんな性格なのか。

 大切な家族がいたかもしれません、なにかやり残したことや、未練や後悔があったかもしれません。

 ですが、それを知ることは既に叶わないのです。

 

 そんな何も知らない少女に対して、“あなた”は一目惚れをしたのです。

 

 一粒の涙が、“あなた”の頬を伝い、少女の頬へと落ちていきます。

 嗚呼、こんなやるせない恋があるかと、“あなた”は動かぬ少女の体を抱きながら心中でそう嘆きます。

 

「・・・・・・墓を、作ってあげよう」

 

 悲壮な面持ちのまま、“あなた”はそう呟きます。

 そのようなことをしたところで、この少女にとって慰めになるかどうかは分かりませんが、それでも何もないよりかはマシだと。

 元よりこんな殺風景な砂漠の中で朽ちていくことなど、何よりもこの少女には似合わない。ならばせめて、この少女がここで亡くなったという証明だけでも残してあげようと思いました。

 本当ならば、砂隠れの里に持ち帰り、戦争で亡くなった先人たちの慰霊碑のところできちんと弔ってあげたいと考えましたが、元より彼女は砂隠れの者ではありません。そんなことは許されないでしょう。

 

 そして、何か周囲に墓石になるようなモノはないかと、見渡そうとしたその時でした。

 

 

 

「・・・・・・ぅ・・・・・・」

 

 

 

「・・・・・・え?」

 

 僅かに、少女の体から発せられた声が、耳に入りました。

 幻聴かなにかかと思い、“あなた”は再び少女の死体を抱いたまま見下ろします。

 その傷は、到底生きていられるものではありません。

 

 それでも・・・・・・僅かに吹き返した生命の鼓動が、そこにあったのです。

 

 

「ハ・・・・・・ァ、ハァ・・・・・・」

 

「なッ・・・・・・!?」

 

 今度こそ、幻聴などではありませんでした。

 

「・・・・・・生きてる・・・・・・この傷で?」

 

 そんなバカな、と“あなた”は狼狽えます。

 こんなあどけない少女のどこに、これほどの生命力があるのだというのだろうか?

 

 そんな疑問が頭を過ぎりましたが、“あなた”の感情は悲愛からすぐに僅かばかりの歓喜へと変わりました。

 何せ、己が恋した、既に死んでいると思っていた少女が生きていたのですから。

 まだ少女が生きていると分かった以上、墓を作るのは時期早々なのですから。

 

「しっかり!僕の声が聞こえる!?」

 

 少女の体を抱き起こしながら、“あなた”は少女にそう呼びかけます。

 ・・・・・・そして、その声に応えるかのように、少女の目は僅かに開かれました。

 その光景に、“あなた”は嗚呼、と僅かな歓喜の声を上げます。

 まだ、希望はあります。

 

 しかし、返ってきたのは“あなた”の声に対する返答ではなく・・・・・・途切れ途切れの譫言でした。

 

「・・・・・・ぁ。だ、れ・・・・・・ウィ、ン・・・・・・?」

 

 そんな譫言を言ったきり、少女は目を閉じ、また意識を失ってしまいました。

 それを見て焦燥感に襲われた“あなた”は再び、少女に向かって目を覚ますよう呼びかけましたが、一向に反応がありません。

 

「くそッ・・・・・・!!」

 

 歯を食いしばり、焦りのあまり“あなた”は地面を殴りつけた。

 こうしている間にも、先ほど僅か吹き返した命の灯火すら、少女から消え去るとしているのを、“あなた”は鮮明に感じ取っていました。

 ――なにか、なにかないのか。この少女を死の壺からすくい上げる方法は。

 必死に頭をこねくり回し、“あなた”は考える。

 

 巫山戯ろ、こんな所で終わらせてたまるか。

 もっと、この少女のことを知りたい。

 この少女のことを救ってあげたい。

 この・・・・・・どうしようもなく一目惚れをしてしまった少女に、死んで欲しくなどない。

 

 ナニか、ナニかある筈だ・・・・・・この少女を助けられる、そんな都合のいい方法が・・・・・・。

 

 

 

 

「・・・・・・ある」

 

 

 

 

 一周してクリアになった思考の末、“あなた”はそう呟きました。

 この少女を救う方法に、“あなた”は一つだけ心当たりはありました。

 そして、それは己の手で可能であるということも。

 “あなた”は確かに、この少女の命をつなぎ止める方法を知っていました。

 

 “あなた”は、育ての老婆から聞かされた昔話を思い出します。

 老婆にはかつて、“サソリ”という孫がおりました。

 別名“赤砂のサソリ”の異名を持つ彼は今でこそ砂隠れの里を抜け出した抜け忍ですが、それでも凄腕の傀儡師及び傀儡使いであったとして、“あなた”は彼に対して純粋な憧れを持っていました。

 

 そのサソリが侵した禁忌について、老婆が“あなた”に話してくれたときがありました。

 まだサソリが里を抜け出す前、里の傀儡部隊に所属していた彼には、“コムシ”という1人の友がいました。

 

 ある時、そのコムシが里の任務で右腕を失うことになり、サソリは己の傀儡の技術を応用して、失った腕の変わりとなる義手をコムシに作ってあげたのでした。

 まるで最初から自分の体のように使える義手をサソリからもらったコムシはサソリに感謝の言葉を告げて去って行きましたが・・・・・・その後、最初の悲劇が起こるのでした。

 

 コムシの義手に仕込まれていた隠し武器の毒を、あろうことかコムシ自身が食らい、彼はそのまま命を落としてしまったのです。

 今にして思えば、サソリはわざとそうなるようにコムシを嵌めたのかもしれないと語ったときの、老婆の表情を“あなた”は今でも覚えていました。

 

 ですが、その悲劇は序の口に過ぎませんでした。

 ある日、コムシが亡くなってからしばらく立ち、一向に傀儡の工房から姿を見せることのないサソリを不審に思い、当時の老婆が急いでサソリの工房へと向かうと・・・・・・そこには人傀儡へと作り替えられたコムシと、それを仕上げたサソリの姿がありました。

 そしてサソリは・・・・・・そのコムシだった人傀儡を操り、老婆に襲いかかったのだと言いいます。

 

 ・・・・・・ここまでが、老婆から聞いた話でした。

 

「・・・・・・人傀儡・・・・・・」

 

 老婆の話を思いだし、おもむろに“あなた”はそう呟く。

 そう・・・・・・それこそが、この少女を助けられる唯一の方法でした。

 欠損、もしくは使えなくなった部位を傀儡のパーツで補うのです。

 この少女の場合だったら・・・・・・ほぼ全身に傀儡のパーツを宛がわなくてはならないでしょう。

 それでも、少女の命を救う方法は確かに存在していました。

 そして・・・・・・“あなた”ならばそれが可能だということも。

 

 ここで注目すべきなのは、生身の人間の体に取り付けられた傀儡の部品は、以前の体と同じように動かすことが可能であるということ。

 それはつまり、素体となった人間の命さえ助かっていれば、操り手など必要としない、自由意志のままに動く人傀儡を作ることも可能であるというです。

 皮肉なことに、そのコムシという子が確かな一例として存在することに、“あなた”は感謝することになるのでした。

 

「・・・・・・」

 

 再び、“あなた”は死にかけの少女を見下ろします。

 少女が助かる方法は確かにあります。

 ですが、その方法を“あなた”は躊躇していました。

 

 己がこれから行おうとしている愚行は、かつてサソリが侵した禁忌と何ら変わりないということくらい、理解しています。

 このような無垢な少女の体を傀儡に置き換え、生かすことなど、それは果たしてこの少女にとって良きことなのか。己は、少女の命を救うこと“だけ”を優先するあまり、彼女に残された最期の尊厳すらも奪おうとしているのではないかと。

 

 さらにはその禁を犯したが最期――“あなた”は、砂隠れの里に居続けることは不可能になるでしょう。

 なぜ老婆が自分にあのような昔話をしたのか・・・・・・それが理解できないほど、“あなた”は愚かではなかったのですから。

 

「・・・・・・」

 

 

 

 そして、暫しの思考の末、“あなた”はついに決断するのでした。

 

 

 

「・・・・・・申し訳ありません、チヨ婆さま」

 

 

 

 里を抜け出し、己のこれからの生の全てをこの少女に捧げる覚悟を、“あなた”はついに決めました。

 禁忌を犯したと責められ、里を追い出されても。

 己がした仕打ちをこの少女に恨まれ、殺されることになったとしても・・・・・・“あなた”は、里ではなく、ただ目の前の少女1人を選ぶのでした。

 

 

 

 

 そして、時は暫く立ち――

 

 

     ◇

 

 

「・・・・・・なぜじゃ」

 

 あの日と同じ悪寒を感じ、チヨ婆と呼ばれた人物は一目散に“彼”の工房へとかけだした。

 ・・・・・・まさか、いやそんな馬鹿な、と己に言い聞かせながら工房へと入ると、そこには、チヨ婆が見慣れた彼の姿があったのだ。

 ・・・・・・傍に、見たことのない傀儡を侍らせながら。

 

「なぜじゃ、()()()?」

 

 その傀儡を見た時、チヨ婆は一瞬でそれが何なのかを見抜いた。

 元々、彼が作る傀儡は他のと毛色が異なっていたが、それでも・・・・・・こんなに()()()()傀儡など、一つしか心当たりがなかった。

 

 傀儡に作り替えられながらも、生来の美しさを保ったままのソレ。

 明るい翠色の髪の少女の顔をしたその傀儡は・・・・・・一切のハイライトを写さぬ表情のまま、チヨ婆を視線で射貫いていた。

 

 それを見て、彼もまた“孫”と同じ禁忌に手を出したのだと知り、チヨ婆はただただそれを受け入れ難いと言わんばかりに、視線で彼に縋った。

 

「嘘だと言っておくれ、カグイ・・・・・・なぜ、おぬしがこんな真似を!? こんな年端の行かぬ娘を人傀儡になど、何故じゃ!?」

 

 この10年以上、いなくなった孫の代わりに、手塩と愛情を込めて育ててきた子が、このような真似(人傀儡)に手を出すことが、信じられなかった。

 その彼――カグイと呼ばれた彼は、悲しそうに、申し訳なさそうに、目を伏せながら言った。

 

「・・・・・・申し訳ありません、チヨ婆さま」

「・・・・・・カグイ?」

「人傀儡には手を出さないこと・・・・・・あの日、遠回しにチヨ婆さまが言った言いつけを、僕は破ることにしました。今まで僕を育ててくれた恩を、このような仇で返す形になってしまったこと・・・・・・本当に申し訳ないと思っています」

「カグイ、なぜ、なぜじゃ・・・・・・」

 

 チヨ婆はただ何故と彼に問うことしか、できなかった。あの日、彼が里外の警備の任務から帰ってきてから、彼の様子がほんの少しだけおかしかった。顔を合わせたときはそんな違和感も消えるのだが・・・・・・どうにもそれから彼の工房に籠もっている時間が増え始めたのだ。最初はそれほど集中したい程の自信作を作っているのか思っていたのだが、サソリの時を思い出し、嫌な予感を感じたチヨ婆はここに一目散に駆け出したのだ。

 あの日、サソリの友――コムシがサソリの手によって人傀儡に作り替えられた、この場所で。

 まるであの日を再現するかのように、その悪夢はチヨ婆の前で再演されていたのだ。

 

「許してくれとは言いません。チヨ婆の期待と、里を裏切ったことは事実です。・・・・・・本当は、チヨ婆が来る前にここを去ろうと思っていたのですが・・・・・・さすがに勘のいいお方ですね、貴女は」

「あ、あぁ・・・・・・」

 

 崩れ落ちる、チヨ婆。

 もう、二度と繰り返さないと誓った筈なのに。

 あの日、サソリから距離をとり続けてしまったがために、両親が死んでないと嘘を付き、本当の意味で向きあわなかったがめに、サソリは里から抜けてしまったのだと、チヨ婆は考えていた。

 だから、もう二度と繰り返さないため、この子にはきちんと真剣に向き合ったつもりだった・・・・・・それなのに、それなのにワシはまた・・・・・・!!

 

「そんな貴女だからこそ、この里に必要とされるのでしょう。・・・・・・今までお世話になりました。どうか元気でいて、チヨ婆さま」

 

 最後に、優しく微笑みながら、彼――カグイは姿を消していった。

 カグイはチヨ婆から背を向け、チヨ婆は崩れ落ちたまま顔を上げずにいた。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 ――そんな2人の様子を見守っていた人傀儡の少女が、カグイと共に去る直前、後ろめたそうに此方から目を逸らしていたのを、チヨ婆が気付くことはなかった。

 




人物紹介

・カグイ
砂隠れの抜け忍。名前の由来は「シャドール」→「影依」→「カグイ」と安直なモノ。戦争で幼くして両親を失った経緯から、チヨ婆から孫であるサソリと重ねられ、育てられる。途中で傀儡師、傀儡使いとしての才能もあることが発覚し、チヨ婆からは余計にサソリと重ねられている。
自分を育ててくれたチヨ婆には恩を感じているが、結果的に偶然発見したウィンダちゃんの方を選ぶ。
ウィンダちゃんを人傀儡化(シャドール化)させることで生きながらえさせる道を選ぶが、チヨ婆から見れば年端も行かない少女を殺して無理矢理人傀儡化してるようにしか見えなかった。

・エルシャドール・ミドラーシュ(ウィンダ)
なぜか重傷の状態でNARUTO世界に転移していたガスタの巫女さん。主人公に惚れられ、人傀儡化(シャドール化)させられることで生きながらえる。
結果的に主人公が里を出て行く原因になってしまったため、主人公やチヨ婆に対してかなり負い目を感じている。
OCGにおいては特殊召喚一回しか許さないウーマン。コイツを出された暁にゃあ大抵のデッキが詰む。


・チヨ婆
ただただ不憫。主人公の説明不足も原因なため、この人は何も悪くない。
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