ちなみに今回、原作の展開的には進展はありません。 むしろ次回から展開が進む感じですね、ハイ……。
一応、次回で第一章は終わらせたいと思っていますので、気長にお待ちいただければと思います!
それでは、本編をどうぞ!
「……馬鹿なっ。 槍は確かに貴様の頭を捉えたはず……!」
自身の一撃を受けても立ち上がる男に、星は驚きを隠せないでいた。 星の後ろにいる眼鏡の女性とおっとり少女も同様だった。 違う反応を見せていたのは香風ただ一人だった。
「あぁ、お前の一撃はきちんと俺に当たっていたさ。 おかげで
「では……では何故!貴様の頭に
星の言う通り、彼女の槍は男の頭――――正確には顔面に確実に入ったはずなのに、彼の顔からは一滴も血が流れておらず、流れているのはチビにつけられた頭の小さな切り傷からの出血のみだった。
「さぁな……名前呼んだだけで殺しにかかってくるような野蛮な奴に教えるほど、俺はお人好しじゃあないんだぜ?」
「”呼んだ”だけ……? それだけで貴様は香風の尊厳を傷つけたのだぞ! そんな貴様を、私は決して許さんぞ!」
「はぁ……? ほんとに何言ってんだアンタ? なんで名前を呼んだだけでそうなるんだよ? っつか、そんなこと言ったらお前らだって呼んでるじゃねぇか」
「我らは苦楽を共にした仲間だ! どこの馬の骨とも知らん貴様が、軽々しく口にしていいモノではない!」
(……こいつ、頭大丈夫か?)
星の鬼気迫る様子に、男は内心呆れと若干引いていた。 確かに知り合ったのはついさっきだが、それでも呼んでもいいと言われた名前を呼んで、今度はその知り合いに殺されかけ、理由が許可をもらった名前を呼んだというのだから、男にとってははた迷惑な話だ。
「とにかく、訂正をしないのなら貴様は殺されても文句は言えんぞ!」
「訂正? 何を訂正するっていうんだ?」
「香風……彼女の”真名”を呼んだことを訂正なさい!」
「…………”真名”? そういえばさっきも言ってたな、それ」
眼鏡の女性の言葉で頭に昇っていた血が引いていき、少しずつだが落ち着きを取り戻していき、さっきのやり取りに出てきた単語を思い出していた。
「なぁ、その”真名”ってのはなんなんだ?」
「貴様、この期に及んでとぼけるつもりか?!」
「まぁ落ち着けよ……って、最初に吹っ掛けたのは俺の方だったか。 分かった。 俺が悪かった」
男はそう言って頭を下げて謝罪した。 それを見た星は鋭い視線のまま男を睨みつけ、槍を構えたままだったが、やがて構えを解いた。 が、表情はいまだ怒気が含まれていた。
「フンッ……最初からそうすればよかったものを……」
「星ー」
「ん? どうした香風。 もう訂正させたから何も心配は……」
「シャン、お兄ちゃんに真名許したよ」
「……………………は?」
「「え?」」
香風の口から告げられた事実に、三人の頭が理解するのはそれから一分もかからなかった。
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「……その、なんだ……すまなかったな」
「すみませんでした……」
「すみませんねー、風達もきちんと事情を聞いておけば良かったですねー」
「あ、いや、俺の方こそ悪かったな……。 事情を知らなかったとはいえ、散々言っちまった……すまん」
あの後、香風から事情を聞いた三人が申し訳なさそうに俺に頭を下げて謝罪をしてきた。 それに対して俺も今までの彼女らへの暴言等について謝罪した。
「いや、お主がすでに香風から真名を許されていたとは知らず、話を聞く前に刃を向け、その上殺しかけたのだ……本来なら謝罪だけで済む問題ではないのだ」
「いやまぁ、確かに殺されかけたのは事実だが、結果的に死ななかったんだから良かったじゃねぇか。 俺もアンタをぶん投げたり罵ったりしたし……」
「詫びと言ってはなんだが、どうか我が”真名”を受け取ってほしい」
「……なぁ、さっきも聞いたがその”真名”ってのはなんだ? さっきの様子だと気軽に呼んで良い感じじゃなったようだが……」
「……お主、本当に”真名”を知らぬのか? ……その格好を見た限りだと、ここらの者では無いようだが……」
星は俺の服装をジロジロと見ながら聞いてくる。 ちなみに俺の格好は白のシルクハットに白のスーツ。 スーツの上にはコートを羽織っていて、そのコートの背中には”正義”の二文字が大きく刺繍されている。
「まぁ、そうだな。 俺はここら辺の出身……というか、恐らく
ないからな」
「……
俺の返答に眼鏡の女性が首を傾げながら質問してくる。 ……まぁ、そうだよな。 普通はそういう反応してくるよな。
「あー、そうだな……。 んじゃ、まずは俺の自己紹介から始めようか」
そう言って俺はその場に腰掛け、長話になると思うから座るように四人に促した。
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突然だが、俺は一度死んでいる。 死因は落雷による電撃死だった。 そして次に気づいたらそこは真っ白な空間だった。 だが、全く何もないというわけでもなかった。
その真っ白な空間に、一台の卓袱台とその卓袱台で緑茶をすすって飲んでいる一人の老人がくつろいでいた。 老人は俺を見ると手招きをして茶に誘った。 最初は不可思議な出来事に混乱していたが、
「まぁ落ち着いてくれ。 落ち着かんと考えることもままならんぞ」
と老人に言われ、なんとか冷静になった俺は誘われるがままに老人とお茶をすることにした。
老人の話によると、俺の死因となった落雷は誤って落とされたものらしく、老人はその謝罪の為に来たらしい。 その老人の正体は『神』らしく、俺の死期はまだだいぶ先だったらしい。 老人こと神は謝罪と共にお詫びとして別世界に転生させてくれるらしい。 その際、”特典”とやらを一つつけてくれるらしく、せっかくだからと俺は知っている漫画の体術、”六式”を特典としてもらい、無理言って使いこなす練習期間を設けて貰ってその期間のうちに六式を極め、ついには六式最強の技、
練習期間を終え、ついに転生する時が来た。 俺は老人に礼を言い、転生してもらうように促し、老人も俺の……自分でいうのもなんだが、練習に真面目に取り組む俺の姿を痛く気に入っていて、こんな若者は久しぶりに見たととても喜んでいた。 そして老人は手を翳し、そして……。
俺の視界は、上下にブレていた。
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「……とまぁ、簡単にだが纏めてみたが……」
「「「「……………」」」」
これまでの経緯を細かく、けれどもできうる限り簡潔に説明した。 対して四人の反応はまさに”開いた口が塞がらない”というものだった。 まぁ、そりゃそうなるよな。
「……お主の言っていることはあまり理解できんが、そのお主が会得した……えっと」
「あぁ、”六式”か?」
「そうだ、その六式とやらは一体何なのだ? 治術といっていたのだから、何かしらの武術だと思うのだが……」
「……そんな武術、あっちでも聞かなかった」
「あー……まあ、口で説明するより、実際に見せたほうが早いな」
星とシャンの言葉に俺は実際に六式の技を見せようと立ち上がり、四人から少し離れる。
「じゃあ、今からやって見せよう。 シャン、そいつで俺を叩き割る様に振り下ろしてくれ」
「……なんで?」
シャンは俺の言葉に不思議そうに首を傾げる。
「いいから。 俺のことは気にするな。 力の限り思いっきり振ってこい」
「……分かった。 …………はぁぁ!」
俺の言葉にシャンはまだ納得していなかった様子だが、やがて武器を振り上げ、俺に向かって振り下ろしてきた。 ぶぉんと風を切る轟音とともに迫りくる刃。 二人の行動を見守る星。 眠たげな眼で、しかし瞳は俺とシャンを見つめ続けるおっとり少女。 いきなりの展開に目を見開いて口元を抑える眼鏡の女性。 そして刃は吸い寄せられるように俺の頭上へ向かっていき……。
―――――――ガキィィィィィィィン!!!
まるで金属同士がぶつかった音が荒野に響き渡る。 自身の目の前に広がる光景に四人は驚きの表情で見ていた。 なぜなら……
「……痛ってぇなぁ、やっぱり。 もうちょっと硬度を上げればよかったか?」
シャンの斬撃を受けてなお、叩かれた部分を擦りながらぼやく俺の姿があったからだ。
……にしても、シャンのあの攻撃めちゃくちゃ痛ぇな……。 ただもんじゃないってのは分かってたが、想像以上だぞ。
「……風、稟。 聞くが私の目と耳はおかしくなっているのか?」
「い、いえ……星、私も見えてましたし、聞こえてもいました……とても信じられませんが」
「今、お兄さん……正確には、おにーさんの頭と香風ちゃんの斧から金属同士の衝突する音が聞こえてきましたねー」
目の前に起きた事実に信じられないといった様子で見る星と眼鏡の女性。 おっとり少女は相変わらずのんびりとした感じで説明した。 おっとり少女の方はなかなか観察力があるな。
「あぁ、そっちの人形の嬢ちゃんの言う通り俺はシャンに斬られる瞬間、全身を鉄のように固くして防御した。 これが”鉄塊”と呼ばれる体術の一つだ」
「体を鉄のように……? そんなことが本当に可能なのか?」
「でなきゃ、俺は今頃血だらけになって地面に横たわっていたはずだ」
星が信じられないといった様子で尋ね、俺は肩を上げておどけて見せる。
「この”鉄塊”はさっきも言ったように体全体を極限までに力ませることによって鋼鉄に匹敵する硬度になって防御する。 さっきあんたの槍を防いだのも、この”鉄塊”によるもんだ」
「……先の香風の斬撃、そして私の槍を受けてなお立っていられるところを見る限り、本当なのだな」
「さて、次は”鉄塊”とは別の防御用の体術を見せよう」
「ほ、他にもあるのですか?!」
俺の言葉に眼鏡の女性は驚く。 そんな彼女を軽く流して今度は星の方を向く。
「よし、じゃあ……えっと、あんたのことは何て呼べばいいんだ?」
「む……そういえば名乗っていなかったな。 我が名は性を趙、名を雲、字を子龍。 趙子龍だ。 そして、こっちが……」
「戯志才といいます」
「…………」
星こと趙雲と眼鏡の女性こと戯志才が名乗り、あとはあのおっとり少女だけなのだが……。
「…‥……」
「風? ……まさか」
「……ぐぅ」
「ね、寝てる……!?」
まさかの展開に流石の俺も驚きを隠せず、目を見開いて少女の方を見た。
「寝るな!」
「おぉう!? ……いやはや、おにーさんの技に思わず寝てしまいましたよ」
「いや、そんな寝る要素どこにもないと思うが……」
「いいから、風! 早く名乗りなさい!」
「あぁ、はいはい。 風は、程立といいますー。 それで、お兄さんの名前は?」
「ん? ……あ、そういえば名乗っていなかったな。 俺は
「うむ、分かった。 では柏崎、次は何を見せてくれるのだ?」
「あぁ、そうだった。 んじゃ趙雲、今度は趙雲が俺に攻撃してきてくれ」
「今度は私がか……? 先の”鉄塊”とは別の防御手段と言っていたが、今度はどんな技なのだ?」
「あぁ、次に見せるのは”紙絵”だ。 どう違うのかといえば、”鉄塊”が『剛』の技とするなら、”紙絵”は『柔』の技だ」
「……どういうことだ?」
「まあやって見せるから、本気で俺を突いてきてくれ」
「お主が言うならば……」
趙雲は不思議に思いながら槍を構え、俺も体の力を抜くように深く息を吐く。 シャンも戯志才たちの近くに行き、俺達を見守る。
「では、行きますぞ!」
「おう、ドンと来い」
「…………はぁぁぁぁぁああ!!」
気合の声とともに、趙雲は地を力の限り蹴り、俺に向かって槍を突き出す。 そして槍は俺に当たろうとして―――――――。
「”紙絵”」
「っ!?」
俺はそれを難なく避けた。 細かく言えば槍は俺の左肩を狙って一直線に狙ってきたが、俺の左肩はまるで風を受けた紙のようにひらりと紙一重に避けた。 彼女の名誉のために言っておくが、彼女の突きは決して遅くはない。 確かに、さっきの怒りに任せた突きに比べれば遅い方だが、それでも一般人からしてみればかなり早いと思えるくらいには早かった。
「い、今……何が起きた……!?」
「今のが”紙絵”。 相手の繰り出す攻撃に合わせて体を沿わせて避ける、『柔』の技だ」
「これが、”紙絵”……か」
「ちなみに、この”紙絵”は、簡単に言えば相手の動きを先読みして避けてるだけに過ぎないから、一瞬でも読み間違えたら攻撃は食らっちまうからそこだけは注意するべきだな」
「動きの先読みって……そんなことは普通は出来ませんよ?」
戯志才の言うことも最もだ。 普通はこんなこと出来はしない。 まぁ、この技自体、アレを使わないと余程の動体視力が良くない限り実現不可能だしな。
「まあ、そんな簡単には出来ないしな。 この体術自体」
「ではその体術を会得しているお主は、普通ではないということになるが……?」
「……さて、次は防御ときたから次は攻撃だな」
((((あ、話逸らした……))))
なんだか四人の視線が痛く感じるが、気のせいだと割り切って近くの岩まで移動する。
「じゃあ次は、”指銃”だな」
「し……がん?」
「なんですか、それは?」
「なあ戯志才。 質問を返すようで悪いが、人を打ち抜くには何を使うべきだと思う?」
戯志才に問われ、俺は聞き返すと戯志才は困惑した。
「え? ……打ち抜く、とまではいきませんが思いつくのは弓矢ですね」
「ふむ、まあそうだよな。 ただ、この”指銃”を会得していれば、そんなものはいらないんだ」
「はあ?」
戯志才は俺の言葉にさらに困惑した様子で、眼鏡をくいっと手で上げる。 他の三人も戯志才ほどではないが、困惑している様子だった。
「まあ見ていなって。 ……”指銃”」
俺はそんな四人に背を向け、人差し指を立てて指先を岩の方に向け、勢いよく突きつける
―――――――ズボンっ!!
俺の指は岩に深々と刺さり、その指を岩から引き抜いて趙雲たちの方へと向く。
「ほい、終わったぞ」
「む? 終わったのか? 特に何も起こってはいないが……?」
「いや、起こったさ。 岩の方をよく見てみな」
「岩の方って……特に何も………!!?」
「せ、星……! 岩に、穴が……!?」
俺が岩の方に親指で指し示すと、戯志才たちは岩の方を見て驚愕に目を見開いた。 そりゃそうだ。何もなかったはずの岩に、指一本分の穴が開いていれば、誰だって驚くさ。
「岩に穴が……!? お主、岩に向かって何かしたようだが、まさか……!」
「あぁ、その穴は俺が開けた」
「そんな馬鹿な!? そんなことすれば岩に穴どころか、傷付けることすら不可能ですよ!?」
「その前に突き指しそうですけどねー」
戯志才と程立の言う通り、普通の人間がやれば二人の言う通りになるだろうな。 俺もこれを会得するまでにかなりの回数突き指したりケガをしたなあ……。
「二人の言うことも最もだが、これが事実だ」
「……もしや、あの岩が我々のような人体だった場合は……」
「あぁ。 簡単に貫けるな。 鎧とかも、厚さによってはだが、例外はない」
「……お主、本当に一体何者だ?」
「おいおい、趙雲。 俺のことをとやかく言えるか? お前だってあの突きはかなりの熟練者じゃなきゃできない速さと精度だぞ?」
「それをいとも簡単に防いだり躱したのもお主なのだが……?」
「ま、それは置いといてだ」
「お兄ちゃん、誤魔化すの下手だね」
うるせぇやい。
今度は別の岩の前に立ち、次の説明を始める。
「さて、次に見せるのは……”嵐脚”だ」
「嵐脚……響きから察するに、足技か何かか?」
「そうだ。 足を高速に蹴ることによって発生するカマイタチで相手を斬る技だ」
「……もうツッコむ気も起きません」
俺の説明に戯志才はどこか疲れた様子で聞いていた。 現実では起きることのないことが起き続けているんだから、反応するのも疲れてきたんだろう。
「それじゃ、いくぞ。 ……”嵐脚”」
俺は片足を上げて狙いを岩に定める。 そして―――――――。
―――――――スパンっ!
俺の放った”嵐脚”の刃がまっすぐに岩に飛んでいき、岩をすり抜けていった。
「……? お、終わったのか?」
「あぁ、あの岩はもう切れたはずだ」
趙雲が何も変化がないことに不思議に思い、俺に尋ねて俺もそれに答える。 するとシャンがその岩に近づき、触れてみた。 すると―――――――。
―――――――ガララっ、ボゴォン。
「わぁ……」
「なっ!? い、岩が……!?」
シャンが触れた部分から岩がずり落ちて崩れた。 それを見たシャンと戯志才は驚いていた。
「……お主のやることには、もはや驚く気にもならんな」
「流石に慣れたか。 ま、後二つに関しては移動モノだし、もしかすれば趙雲も会得できるものかもしれんぞ」
「何だと!? それは本当か!?」
俺の言葉に、趙雲は今さっき言っていたばかりなのに早速驚いていた。
「あぁ、趙雲の突き、あの動きは俺の移動技の一つに近かったからな。 もしかすればこの二つは出来るんじゃないかと考えている」
「なんと……私にも、お主のような化け物染みた体術の一部を……! 柏崎、早くその技を見せてくれ!」
趙雲は表情を輝かせながら俺に次の技を見せるようにせかす。 ……よっぽど嬉しかったんだな。
「あぁ分かった。 それじゃ次は移動に関してだ。 まずは”
「そる?」
「言葉で説明するとだな、地面を十回以上蹴って高速で移動する技だ。 ……こんな風にな」
「なっ……!? い、いつの間に……!?」
俺は”剃”で瞬時に趙雲の後ろに移動した。 あまりの速さに趙雲も驚き、後ずさった。
「と、このようにただ速く移動するだけだから、趙雲の今の速度なら、いずれこの域にたどり着けるさ」
「な、なるほど……。 私は、いままでこの速さには自信があったのだが……どうやら私は、まだ未熟だったというわけだな」
「いや、普通はあれ位速かったら大したものだがな」
「いや、お主の速さを見せつけられ、その上私もいずれ出来ると分かったのだからな。 これを未熟と言わずに何と言う」
なるほどな。 趙雲の向上心には頭が上がらんな。 ……まぁ、俺も六式を完全に極めるまで、かなり頑張ったしな、うん。
「それで、次の技はなんだ?」
「あぁ。 次は”月歩”といって、簡単に言えば空を飛ぶ技だな」
「なんと……空をか!」
「っ!」
俺の言葉に趙雲は興味深そうに聞き、なぜかシャンも表情を一気に変えて俺の言葉に耳を傾ける。 ……空を飛ぶことに興味があるのか?
「この”月歩”は”剃”の応用で、空中で強く蹴りを入れて、飛ぶいうより浮かぶといった方が正しいか」
「ふぅむ……空中で蹴りを、か……。 言葉だけ聞くとかなり難しそうだな」
「まあそうだろうな。 よし、今から実践して見せるから、少し離れてくれ」
「あぁ、分かった」
「………………………」
なんだかシャンが俺に食いつくように見るな……。 そんなに空を飛ぶことに憧れているのか?
「”月歩”」
俺は強く地面を蹴って飛び上がり、そのままの勢いで片足で空を蹴り、続けざまにもう一方の足で蹴り、それを繰り返し続けて宙に浮かぶ。
「……本当に浮かんでいる」
「……お兄ちゃん、すごい……!」
「……風、今日は天気がいいですね」
「稟ちゃーん。 現実逃避なんかしてないで、風達も星ちゃんたちの話に混じりますよー」
俺の”月歩”を見て四人とも様々な反応を示す。 趙雲は驚きながらも感心したように、シャンは目を輝かせて感動しているように見え、戯志才はどこか遠い目をしたような感じになっており、程立はそんな戯志才を引きずりながら俺たちの方へと歩いてくる。
ちなみに、ひとしきり”月歩”で飛び続け、疲れてきたから地面に降り立つと趙雲からいたく気に入られ、真名とやらを預けられることとなった。 ちなみに真名とはその人の魂のようなものであり、たとえ家族であろうが許可のないものが勝手に呼んだら、殺されても文句は言えないという風習のものだった。 ……それであの剣幕だったのか、納得した。 あと、星というのが趙雲の真名らしい。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「お兄ちゃん、今のどうやってやるの……! 教えて!」
「……で、どうなってんだこれ?」
”月歩”を終えて地面に降り立つと、星から真名を預けられて話そうとした時だった。 シャンが俺にしがみついてきたのだ。今までどんなものにも興味を示さなかったのに、急に眼の色変えて教えを乞うてきたのだ。
「あー……おそらく、いや確実にだがお主の先程見せた技。 たしか……えっと」
「”月歩”か?」
「そう、その”月歩”が、香風の琴線に触れる触れたらしくてな」
「……もしかして、空を飛んでみたいとかか?」
俺が聞くとシャンはしがみつきながら力強く頷く。
「あー……それは別に構わないが……」
「ん? どうした?」
「……”月歩”もそうだが、六式は習得するにはかなりの時間と労力が必要なんだよ。 一朝一夕で習得できるものでもないし……」
「ならシャン、お兄ちゃんと一緒にいる」
「いや、それはそれでどうなんだ……」
「ならば、お主も我らと一緒に旅をせぬか?」
「星!」
星が提案すると戯志才が声を上げる。
「む……どうした稟。 お主にとっても心強いのではないのか? 腕に覚えのある武芸者が一人増えるのだぞ?」
「それは……そうなのですが! 彼は身なりを見るに、どこぞの貴族か何かかと思いますし、もし貴族の関係者だった場合、面倒なことになりますよ!」
「むぅ……たしかに、お主のような剛の者との面倒後とならば楽しいが、管が絡むと途端に面白みがなくなるからなぁ……」
「分かりましたら、行きますよ。 ほら、香風も」
「あ……」
「ではでは~♪」
戯志才はそう言ってシャンの手を取って歩き始める。 星も渋々とした様子で戯志才たちに続き、去っていった。
そして、一人荒野に取り残された俺の前に姿を見せたのは、周囲を取り囲む騎馬の群れだった。 ……多分、これほどまでの騎馬武者とかにリアルで囲まれたのは生まれて初めてなのかもしれんな……。
俺を取り囲む兵士の一団は黙ったまま、やがて一糸乱れぬ動作で間に道を開け、その間からこっちにゆっくりと三人の女性が歩いてきた。