真・恋姫†無双 革命 ~曹魏の暗殺者~   作:リュオネイル

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お待たせしました! 第三話です!
はい、いきなり関係ない話ですが、FGOはもうすぐで7周年ですね! 今はカウントダウンイベントで色々と盛り上がっていますね!
ハンティングクエストとか、ピックアップガチャとか……ピックアップ……バクシ……ウッ、アタマガ……!
さ、さぁ! そんなこんなで本編の方、どうぞ!


第三話

「華琳さま。 こやつが例の賊でしょうか?」

「……どうやら違うようね。 連中はもっと年かさの、中年の男たちだと聞いたわ」

「どうしましょう。 連中の一味の可能性もありますし、引っ立てましょうか?」

 

 上から、黒の長髪にデコが広い女性、金髪にツインテールを螺旋状に巻いた少女、右目が薄青色の短髪に隠れている少女が、取り囲んでいる俺を見て話し合っていた。 内容から察するに、『例の賊』というのは、さっき会った男たちのことだろう。

 

「そうね……。けれど、逃げる様子もないということは……連中とは関係ないのかしら?」

「我々に怯えているのでしょう。 そうに決まってます!」

「怯えているというよりは、面食らっているようにも見えるのだけれど……」

 

 金髪少女の言う通り、いきなり騎馬武者の集団に迫られたら怯えて逃げ出すか呆気にとられるかのどちらかしかない。 現に今も呆気に取られているし。

 

「あ~……ちょっといいか?」

「……あら、言葉は喋れるようね。 私の言葉は通じているかしら?」

「あぁ。大丈夫だ、通じている」

 

 恐らく、今呼び合っている名前は真名と思われる。 したがって三人の頭角らしき金髪の名前だけは呼ばないようにしよう。 ……見ただけでしか分からないが、黒髪と薄青髪の二人……なかなかの手練れと見た。 またさっきのような面倒事は避けたいしな。

 

「俺は柏崎 弦一郎だ。 貴方たちの言うところの性が柏木、名が弦一郎だ。 まず最初にここはどこで、そして君たちの名前を伺いたい」

「へぇ……身なりからして、かなり上の方の貴族だと思っていたけれど……どうやら、それなりの礼節はあるようね。 柏木、といったわね。 ここは苑州の陳留。 そして私は、この地の太守をしている者よ」

「太守……ということは、陳留の役人の長、ということか」

「そうよ。 そこまで分かったなら、今の自分の立場も分かっているわよね?」

「……まあ、確かにこんな身なりの男が、こんな荒野で一人佇んでいるということ自体、怪しいからな」

「分かっているなら結構。 春蘭、引っ立てなさい」

「はっ!」

 

 新発の少女の指示で黒髪の少女がサッと素早く馬から降り、近くの兵士から荒縄を受け取って俺の体を縛り付けていく。

 

「おいおい、別に抵抗なんざしねぇから拘束する必要はないと思うんだが?」

「黙れ! 貴様、確かに身なりは良いように見えるし礼儀を弁えている様だが、そうやって我らが隙を見せた所で襲うこともあるのだからな!」

「なるほどな。 もっともな意見だ。 お前さんは実に先読みが上手いな」

「ふふん、そうだろ」

 

 彼女の正論に俺が感心すると彼女はドヤ顔になった。 ……こいつ、案外チョロいでは?

 

「まってー」

「……華琳さま。何やら人が」

「待ちなさい、春蘭」

「……む?」

 

 俺が縛られている時、少し遠くの方から誰かが走ってくるのを薄青髪の少女が確認し、金髪の少女が拘束を止めるように指示を出す。 黒髪の少女も足音が聞こえていたのか、拘束する手を止めて音のする方に視線を向ける。

 そして、近づいてきた人物の正体は……。 さっき星たちと一緒に別れたはずのシャンだった。

 

「シャンか。 どうした、星たちと一緒じゃなかったのか」

「やっぱりお兄ちゃんのこと、気になったから……もどってきた」

「おいおい、気になったからって……。 わざわざ一人でか?」

 

 シャンの後ろの方を見るに、星たちの誰も見当たらない。 つまり、シャンは一人で戻ってきたことになる。 ……俺が気になったから、ただそれだけの理由で。

 

「うん。 ……戻らなくても、平気だった?」

「いや、戻ってきてくれたことは良かったと思っている。 せっかく知り合いになったのに、また一人にされたからな……ありがとよ、シャン」

 

 俺の反応にシャンは少し不安そうに見てきたが、正直この世界に来てからの知り合いなど全くいなかったから、シャンのように少しの間でも知りえた者ならありがたいものだ。

 

「貴女は? この者を知っているの?」

「貴様、名を名乗らんか!」

「えーっと……。ちょっとまって。 こういうときは、ちゃんとしたやつ……」

 

 俺と親密に話すシャンを見て知り合いと判断した金髪の少女がシャンに問いかけ、黒髪の少女が威圧的にシャンに名乗りを促す。 そんな黒髪の少女の威圧をモノともせずにシャンは何かを考えていたが、やがてすっと背を伸ばしてまっすぐに金髪の少女を見上げて見せた。

 

「シャン……じゃなかった。 わたくしは、性を徐、名を晃、字を公明と申します。 以前は長安で騎都尉(きとい)を務めておりましたが、今は(いとま)をいただき、野に下っております」

「おぉ~……なんか如何にも武将っぽい名乗りだな、シャン」

「えっへん」

 

 キリッとした表情で名乗りを上げるシャンにほんわかしたシャンしか知らなかった俺は思わず感嘆の声を上げる。 すると名乗りを終えたシャンはまた元のほんわかした状態に戻り、胸を張った。 ……張るほどの胸、無いけどな。

 

「騎都尉の徐公明……確か、車騎将軍(しゃきしょうぐん)楊奉(ようほう)殿の麾下(きか)にそんな名の子がいたわね。 都の周りに巣くう賊退治で名を上げたと聞いたのだけれど……」

「あー、それシャンのこと」

「それほどの人物ならば、こいつはお前の侍従なのか?」

「……ちがうよ。 シャン、もうそんなに偉くない。 今はただのシャン」

 

 金髪の少女がシャンの名前を反芻し、記憶していることを口に出す。 シャンはそれを肯定し、黒髪の少女の問いには首を横に振って否定した。

 

「だとしたらどういう関係だ……?」

「んー……。 頭をごつーんってした関係?」

「……わけがわからんな」

 

 うん、当の本人の俺からすれば分かるが、聞くだけだと第三者にはわかりづらい……というか、理解できないだろうな。

 

「いずれにしても、これの正体を確かめる一助にはなるわ。 それに徐公明殿が真名を預けたとなれば、少なくとも凡百の庶人ということもないでしょう」

 

 ほう……真名はそういう信用問題にも関わってくるんだな。 真名の重要性が明確に分かった瞬間だった。

 ……その重要な真名、シャンとはなりゆきで呼ぶことになってしまったんだが……うるさくなりそうだし、黙っとこ。

 

「では徐公明殿。 私たちに同行いただけるかしら? もちろん、私の客人として」

「お兄ちゃんも一緒なら」

「構わないわ。 ……どうする? 柏崎 弦一郎」

「貴様に選択肢はないぞ。 まあ、華琳さまの客人というなら、相応の態度はとってやる」

「まあ、俺にここで拒む理由もないしな。 それよりも……この縄を解いてくれないか? さすがに痛いんだが」

 

 そう言って俺は体をよじらせて拘束している縄を示す。 言われた少女は仕方なしに縄を解いていく。

 

「まだ連中の手がかりもあるかもしれないわ。 秋蘭は半数を率いて辺りを捜索。 春蘭は私と共に一時帰還するわよ」

「はっ!」

「御意」

 

 金髪の少女が指示を出し、薄青髪の少女は兵士の集団を纏め、出発し、縄を解き終えた黒髪の少女は馬に乗って金髪の少女の横に位置する。

 そして俺は、待望の町へと向かうことになった。 ……多少、流れが想像していたのとはかけ離れてはいるが。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「なら、もう一度聞く。 名前は?」

「柏崎 弦一郎」

「では柏崎 弦一郎。 お主の生国は」

「……まあ、日本になるな」

「……この国に来た目的は?」

「分からん。 特にこれといった目的もない。 目が覚めたらあの荒野にいた、とだけ」

「……ということは、ここまでどうやってきたかもわからない、と?」

「それはさっき説明したが……わけがわからんと言ってだろう?」

 

 華琳の出城にある街に連れて来られて、食堂らしき店に入ってもう何度もこのやりとりをしていた。

 

「……華琳さま」

「埒があかないわね。 春蘭」

「はっ! 拷問にでも掛けましょうか?」

「おいおい、拷問にかけようが何しようと構わんが、今言った以上のことは説明できん」

「しかも、本当に頭をぶつけただけの関係だったとはね」

「後は、こやつの持ち物ですが……」

 

 俺に問いかけをしていた薄青髪の少女――――秋蘭は俺の服から探って取り出したものを見る。 俺たちが囲む卓の上には、ハンカチと持っていた小銭が少々……と、なぜか拳くらいの大きさのカタツムリ二匹だ。

 

「そうね……まずは、この菊の細工はなかなか見事なものね。 これは、あなたが作ったの?」

「いや、それは俺の生国での通貨だ」

「ふむ……見たこともない貨幣だけれど、その日本という国は、西方にでもあるの?」

「いや、日本というのはこの国から東……つまり、東方にある」

「東方に……? 苑州(ここ)より東は、徐州と青州、それから海しかないわよ?」

「貴様ぁ……っ! こちらが下手に出ていれば、のらりくらりとワケの分らん事ばかり……!」

「いや、あんたは下手に出ていないだろ」

 

 むしろ問いかけが始まった段階から睨んでたよな? めっちゃ視線が痛かったんだが?

 

「当たり前だ! 貴様相手に下手に出る理由がどこにある!」

「はぁ……春蘭。 私の頭痛の種を増やさないで頂戴」

「……で、ですが」

「それで、話は変わるんだが……」

「なに?」

「貴女がこのあたりの太守、ということは理解したが……名前までは伺っていなかったからな。 今呼び合っているその名……真名というんだろ? シャンに教わったんだが」

 

 とりあえず、あの賊から助けてくれたのはシャンという事にして、程立たちのことは伏せておくことにした。 星はあの様子から察するに、役人騒ぎに巻き込まれるのを面倒に思っているらしい。 すれ違いで命を狙われたとはいえ、最初は助けて貰ったわけだし、その上迷惑まで掛けたのでは、さすがに申し訳ない。

 

「そういえばそうね。 私の名は曹孟徳。 それから彼女達は、夏侯惇と夏侯淵よ」

「フンッ」「…………」

「そうか。ではよろしく頼むよ、曹操、夏侯惇、夏侯淵」

「あら、私は姓と字しか言ってないのに、よく名まで分かったわね」

「まぁ、そこは俺がさっき説明した()()()に関係するしな」

「あの話……? あぁ、秋蘭の問いかけに答えた()()ね」

 

 華琳――――曹操が言っているアレとは、俺が転生した云々の話だ。 この話をしたところ、質問した秋蘭――――夏侯淵と曹操は眉を潜め、春蘭――――夏侯惇は理解していないのか、顔をしかめて首を捻っていた。

 

「あぁ。 俺が住んでいた国、日本で曹操たちのことを知っているからな。 『三国志』という、魏の曹操を代表に劉備や孫権などが出てくる、実際の歴史に基づいた小説でだが」

「……はぁ?」

「……ん?」

「…………?」

 

 俺の説明に首を傾げたりさらに顔をしかめて考え込む三人。 まぁ、いきなりこんなこと言われても分かるわけが……。

 

「……その前に、一つ答えなさい」

「……ん?」

「どうして今、貴方はその地名を口にしたの? それは、ただ冀州(きしゅう)の魏郡を示しているというわけではないわよね?」

「少なくとも、俺は冀州がどこで魏郡がどこに存在するかは知らんな」

「貴様、いい加減にせぬか! 魏だの何だの、意味不明な事ばかり言いおって……! ここは陳留で、魏郡はもっと北だぞ!」

「春蘭。 少し黙っていなさい」

「う……は、はい……」

「……信じられないわ」

「……華琳さま?」

「以前戯れに、このさき私が支配領域を広げた時の勢力図を思い描いてみたことがあるのよ」

「そんなこと考えていたのか……」

 

 気が早いというか、先を見据えているというか……。

 

「馬鹿者。 華琳さまほどの才覚のお持ちの方なら、国のひとつやふたつやみっつやよっつ建ててもおかしくなどないわ!」

「いや多いわ」

 

 漫才をする俺と夏侯惇を無視して曹操は話を続ける。

 

「この陳留を第一歩とし、中原を我が手に収め、辺境にまで名を轟かせ……その時、要となるであろう地の名が……」

「……魏、ですか」

「もちろん、ただの戯れよ。 今それを口にしたところで、子供の絵空事にしか過ぎないもの。 ……でもそれを、会ったばかりのあなたが知っていた。 そして、私が名乗った曹孟徳でなく、操という私の名を知っていた……貴方、一体何者?」

「まさかこ奴、五胡の妖術使いでは……!」

「華琳さま、お下がりください! 未来の魏王となるべきお方が、妖術使いなどという怪しげな輩に近づいてはなりませぬ!」

「いや適応早いな、お前。 ……一応言っておくが、俺は決して五胡の妖術使いじゃ決してないからな」

 

 夏侯淵の発言に反応した夏侯惇は瞬時に俺と曹操の間に入り、両手を目いっぱいに広げて防ぐ姿勢を取る。 それに対して俺は冷静に、かつ慎重に言葉を選んでなだめる。

 

「では、一体何なのだというのだ! 早く言わぬか! 言わぬと……!」

「それを今から説明するから大人しく聞けというに……」

 

 俺はこれまでのことを含めた事実を説明するために、興奮し続ける夏侯惇をなだめるのに尽力した。 ……結果として、曹操の一言によって大人しくなったが。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「……で、結局それは、どういう事なのだ?」

「だから、俺は生前の世界……この時代の世界とは違うが、ずっと先の世界の、しかも違う次元の世界から来た人間だという事だ」

 

 まさか現代世界から三国志……しかも知っている人物は少女たちの名前と一致している世界に転生するとはな……。 現実は小説より奇なり、とはよく言ったもんだな。

 

「……秋蘭、理解できた?」

「……ある程度は。 しかし、にわかには信じがたい話ですな」

「しかし、実際に俺はここに今存在しているし、そうでないとそもそも曹操の質問に対する辻褄が合わないんだよ」

 

 まぁ、真名という風習自体、俺の世界でもなかったんだがな。

 

「……ふむ」

「なら、今から色々聞くから、答えてくれ。 ……今の時代の王朝、漢王朝か?」

「あぁ、そうだ」

「んで、現皇帝の名前は……霊帝、だったな?」

「その通りよ。 もしかして、そのあたりの知識も、さっきの小説から?」

「あぁ。 ……んで、夏侯淵。 あんたの字は妙才でいいよな?」

「あぁ、相違ない。 ……ちなみに、姉者の字は……」

「もちろん知っている。 元譲だろ?」

「……ふぅむ」

 

 夏侯淵の問いにあっさりと答えた俺に夏侯淵は唸る。 ……いままでのやり取りを見ていて、夏侯淵を納得させられれば、この場は収まるな。

 

「じゃあ柏崎。 この漢王朝は一度、新という国に滅ぼされているわ。 しかし、それを一から復興した人物は知っているかしら?」

「んぁ? ……あぁ、光武帝だろ? 皇帝を名乗る前は劉秀。 劉景の七男の」

「……大した教養ね」

「ま、学校に歴史に関する本とかあったからな」

「……学校?」

 

 聞き慣れない言葉を聞いた夏侯淵が首を傾げた。 あぁ、そうか。 この時代には学校はない代わりに、私塾とかがあったんだっけ?

 

「あぁ、学校っていうのはこの時代でいえばデッカイ私塾みたいなものでな。 私塾は個人で運営するもんだが、学校は国が運営をして一定の年齢以下の国民全員に義務として勉強させているんだよ」

「なるほど……基本的な学力を平均的に身につけさせるためには悪くはないわね」

「それで、だ……さっき言った漢王朝の出来事は俺の世界じゃ、千年以上も昔の話だ」

「……お兄ちゃん。頭、ごつーんってしたのが悪かった?」

 

 おいシャン、その頭イカレた人を見るような心配の目を向けるのやめろ。

 

「いやだから、俺だって頭痛いなーとは思いながら話してんだよ……。 言っておくが、俺は至って正常だからな」

「……そういう御託はいい。 それで、結局のところ貴様は何者なのだ」

「だから、それを今一から十まで説明したつもりだったのだが……?」

「その一から十までが分からんかったから聞いているのだ!」

「なら……例えばだ、夏侯惇。 夏侯惇が何かしらの理由で死んで……」

「華琳さまを遺して私が先に逝くことなどありえぬわ!」

 

 だぁあ! 説明しようとしている矢先に口を挟むな!

 

「例えだ、あくまで例え話で、だ。 ……それで、目が覚めるとそこは見慣れない場所で、そうだな……秦の時代の項羽(こうう)劉邦(りゅうほう)に会ったようなもんだ。 なんなら、太公望とか秦の始皇帝とかだな」

「……はぁ? 項羽と劉邦といえばはるか昔の人物だぞ! そんな昔の英傑に今の私が会えるものか」

「それが今の彼の状態だと言っているのよ」

「な……なんと」

 

 曹操の言葉に目が点となって驚く夏侯惇。 やっと俺の状態に気づいてくれたか…‥なんだか、色々と疲れるな。

 

「確かにそれならば……柏崎が華琳さまのお考えになっていた魏という国の名を知っていたことも、説明が付くな。 ……しかし、夢幻のような話だな」

「……南華老仙(なんかろうせん)の言葉に、こんな話があるわ」

「どうした急に?」

「南華老仙……荘周(そうしゅう)が夢を見て蝶となり、蝶として大いに楽しんだあと、目が覚める。ただ、それが果たして荘周が夢で蝶になっていたのか、蝶が夢を見て荘周になっていたのかは……誰にも証明できないの」

「あぁ、聞いたことがある。 胡蝶の夢ってやつか」

「本当に大した教養ね。 それも学校というやつのおかげかしら?」

「まぁな。 昔、古文を習う時間に教えてもらったからな」

 

 学校を卒業してから何年も経つが、意外なところで役に立つもんだ。 テストの日に一夜漬けで覚えた知識も捨てたもんじゃないな。

 

「な、ならば華琳さまは、我々はこやつの見ている夢の登場人物だと仰るのですか!」

「そうは言ってないわ。 けれど私たちの世界に、弦一郎が迷い込んできた事だけは認めるしかないわね。 目の前のこれが、魑魅魍魎の類でないのなら、だけれど」

「は、はぁ……」

「それで分からんなら、諦めろ。 華琳さまにも理解しきれぬ事を姉者が理解しようとしても仕方あるまい」

「なんだ、それなら私が理解できるはずがないではないか! 早く言え、秋蘭!」

「おい、お前はそれでいいのか、夏侯惇」

 

 しかし、訳の分からんままにされても困るし……かといって説明したところで理解できないと断定されたばかりだし……。

 

「そうね……なら、こうしましょう。 色々難しいことを言ったけれど、この柏崎弦一郎は天の国から来たのだそうよ」

「…………はぁ? 何言ってんだ曹操、そんなんじゃ余計に……」

「なんと‥…。 こんな風采の上がらないヤツが、天の遣いと仰るのですか?」

「いや通じるのかい!」

「先の世から来たなどという突拍子もない話をするよりは、そう説明した方が面倒がないのよ。 貴方もこれから自分のことを説明する時は、天の国から来たと、そう説明なさい」

「それいい。 わかりやすい」

 

 曹操の提案にシャンはとてもノリ気だった。 ……まぁ確かに、さっきの説明をして妖術使いだとか勘違いされるよりかは……マシか。

 

「しかし、未来人も遣いも似たようなもんだと思うが……」

「なら、五胡の妖術使いと呼ばれて、兵に槍で突き殺される方がマシ?」

「そんなんで死なねぇが……面倒だから天の遣いで行くわ」

 

 説明する毎に警戒されちゃ、時間がいくらあっても足りないしな。

 

「さて。 大きな疑問にカタが付いたところで、もっと現実的な話をして良いか? 柏崎」

「あぁ。 俺が会ったっていう賊の話か?」

 

 どうやらあの三人を追って曹操達はあの荒野を走っていたらしい。 俺を見つけた経緯については、シャンと同じで追いかけていた最中で流れ星を見つけて様子を見に寄っただけだという。

 

「そうよ。 あなた、そいつらの顔を見たのね」

「その賊っていうのが俺の会った三人組という話なら確かだな。 ……そういえば、シャンも覚えているはずだが?」

「シャン、みんな同じ顔に見えた」

「いや、全然違ったじゃねぇか……背格好も違うし」

 

 どんだけ興味ないんだよ……。

 

「で、どうなんだ? 柏崎も同じ顔に見えたのか?」

「そんなわけあるか。 俺が会ったのは、頭らしきひげ面のおっさんと、頭が俺の胸位のちっこいヤツ、俺の一回りか二回りはデカい図体の大男。 連中の名前までは聞いてないがな」

「……少なくとも、聞いている情報と外見は一致するわね。 ……そいつらの顔を見れば、見分けは付くかしら?」

「顔については特徴的な三人だったからな。 多分、顔とか恰好を見れば、すぐに分かると思うが」

「そう。 ……なら私たちの捜査に協力なさい」

「よし、了解した」

 

 俺は二つ返事で了承した。 断っても右も左も分からん今のままじゃ、行き倒れて死ぬだけだしな。 この先、どうなるにせよ曹操に協力して存することはまずない……筈だ。

 

「……ずいぶんとあっさり引き受けるのね」

「まぁ、協力するからには、それなりの礼も出るだろうしな」

「なんだ、ただの金目的か」

「当たり前だ。 持っているといっても見ての通り小銭だけだし、ここの貨幣じゃないなら無一文にも等しい。 例え天の国出身だとしても、霞では腹は膨れないんだよ」

「まぁ、理想をただ並べて正義のために……などと(さえず)るよりは余程ましよ。 ……いいわ。 貴方が役に立つ間は、城に部屋を用意させるわ」

「十分だ。 感謝する」

 

 役に立つ間は……か。 それなら六式のことを説明して傭兵とかでも雇ってもらえば、しばらくは生きていけるな。

 

「んで、シャンはどうする? さっきの名乗りだと、今は自分の意思で野に下ってると思うが……。 曹操に協力するってことは、また役人と同じことをするってことになるが……」

「んー……。 曹孟徳さんはいい政事をしているって聞くし……それに、お兄ちゃんについていくって言ったし、お兄ちゃんが残るなら、シャンも残る。 ……それでいい?」

「都で騎都尉まで務めた貴女を拒む理由はどこにもないわよ。 歓迎するわ、徐公明」

 

 シャンの言葉に曹操は微笑みながら頷く。 どうやら、シャンの再就職先も決まったようで、安心したな。

 

「シャンのことは、シャンでいい」

「……えぇ。 なら、これからは私の事も真名で呼んでも構わないわ、香風。 春蘭、秋蘭も構わないわね?」

「はっ」「御意」

 

 曹操の問いに迷いなく頷く二人。 すると曹操は思い出したように俺に視線を向ける。

 

「あぁ……そういえば、弦一郎の真名も聞いていなかったわね。 教えてくれるかしら?」

「ん? ‥…なんだ、俺のことも真名で呼んでくれるのか? 短い付き合いになるかもしれんのに?」

「あなたの態度次第だけどね。 呼ぶかどうかは、また決めるわ」

「なるほどな。 ……しかし、生憎だが俺には真名はない」

「ん? どういうことだ?」

 

 俺の言葉に首を傾げる夏侯惇。 まぁそんな反応にもなるわな。

 

「天の国には真名はないんだよ。 強いて言えば、弦一郎という部分が俺の真名にあたるな」

「……っ!」

「な、なんと……」

「むぅ……」

「……どうした、三人とも」

「真名をいきなり呼ぶのは……ちょっとない」

「その言葉、お前だけには言われたくないからな、シャン」

 

 そもそも、自身の真名の一部を呼称にしていて、それが名前だと思って呼んだら殺されかけるって……これ、かなり質の悪い初見殺しだよな。

 

「うむ。 少々、予想外だったものでな……」

「ならば貴様は、初対面の我々にいきなり真名を呼ぶことを許したと……そういう事か?」

「まぁ、そういう事になるな。 こっちの風習に従うなら、だが」

「むむむ……」

「そうなのか……なんと豪気な奴だ」

「そう……。 ならば、こちらもあなたに真名を預けないと不公平よね。 弦一郎、私のことは華琳と呼んで良いわ」

「……いいのか?」

 

 知らなかったこととはいえ、俺の真名を教えただけで呼んでもいいものか?

 

「私が良いと言っているのだから、構わなくてよ」

「夏侯惇たちはそれでいいのか?」

「……私は、どこの馬の骨とも知れない輩にいきなり真名を……とは思ってはいるが……」

「じゃあ春蘭は、弦一郎の名前を呼びたいとき、ずっと貴様で通すつもり?」

「う……ううむ……」

「シャンはお兄ちゃんって呼んでる」

「い、いや……兄呼ばわりは、さすがに……な」

「俺もいきなり妹が二人も増えたら困るわ」

「秋蘭はどう?」

 

 俺達三人のプチ漫才をスルーして曹操は夏侯淵の方を向く。

 

「華琳さまのお考えのままに」

「秋蘭! お前まで……!」

「私は華琳さまのお決めになった事に従うまでだ。 姉者は違うのか?」

「ぐ……っ。 い、いや、わたしだって……だな!」

「……そこまで嫌なら、無理して呼ぶ必要もないし、俺も曹操とかで呼ぶから」

 

 意見の不一致で腹に一物を抱えられるより、そっちの方がまだマシだ。 ……要するに、信頼関係をきちんと築けたら預けて貰って呼べるようにすればいいし。

 

「あなたが真名の意味をどう捉えているのかは知らないけれど、私たちにとっての真名は己の魂の半分なのよ。 知らなかったこととはいえ、あなたの真名を呼んだことに変わりはないし、あなたの真名を預かったのならこちらの真名も預けるのが筋というものよ」

「……ふむ」

 

 どうやら、俺が想像していた以上に彼女らにとっての真名の存在は重いらしい。 これ以上拒否を続けてもそれはかえって失礼に値するだろう。 ここは素直に受け取るのが得策だろう。

 

「……分かった。 そういうことなら、預からせていただく」

「結構。 なら、これから私のことは華琳と呼びなさい。 良いわね、春蘭も」

「は、はぁ……」

「では、これからよろしく頼むぞ、華琳」

 

 そして俺は、曹操こと華琳の所に厄介になることとなった。

 




お、終わった……! 終わったぁぁぁぁぁぁ! 第一章、二週間近くにわたってようやく完結したよ! えらい長いことかかったなぁ…‥。 合計約三万字以上……長すぎじゃね? 一話ごとに一万字は長いし皆飽きないかな?
とまぁ、いろいろと心配事とかありますけど、これからは出来る限り投稿していきますので、応援のほど、よろしくお願いします!

それで、話は変わりますが、実はこの三話を執筆中、思いついたネタがあるのですが、それを番外編として書こうと思っています! なので、第二章は少し先になりそうですが、気長に待っていただけると、非常に助かります!
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