真・恋姫†無双 革命 ~曹魏の暗殺者~   作:リュオネイル

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はい、お待たせしました第四話です!
今回は一章単体で終わるので、一話に纏めさせてもらいました! なので、若干長く感じるかもしれませんが、根気よくお付き合いいただけるとありがたいです!
今話から新しく登場する子は……原作をプレイ済みの方はご存じだと思いますが、分からないという方に向けてヒントを出します! 一人目は少女趣味、二人目は品行方正の天使、三人目は無邪気で破天荒、です!
分かりましたか? では、前書きもここまでにして本編、行ってみましょう!

2022/07/27 誤字脱字報告 受理&訂正しました。

報告ありがとうございました!


第二章 一門の絆
第四話


「「「いただきます」」」

「美っ味……! 本場の中華粥、美味いな!」

 

 この世界で食べる本物の中華料理は、幸いな事に俺の舌に昔から馴染むようだ。 朝食のお粥一つ取っても、起きたばかりの胃袋に優しい味が広がる。

 

「能書きは良いからさっさと食え。 それともこんな粥が珍しいか」

「俺は美味い物は味わって食う派なんだよ。 それに華琳達だって、そんなに急いで食べてるわけじゃ……」

「……ごちそうさま」

「って、早!? シャン、もうちょっと落ち着いて食べろよ? 早食いは胃の消化に悪いぞ」

 

 まぁ俺の場合、生命帰還(せいめいきかん)があるから大丈夫だが。 それでも急な用事でもない限り急いで食べはしない。

 

「…………?」

 と、そんなこんなで、俺が華琳に拾われてから早くも数日が過ぎていた。 俺がこの数日の間にしたことを纏めると、シャンからこの世界の基本的な知識を教わった事、華琳や秋蘭たちの情報収集に付いて回った……こんなところだな。 情報収集するだけで、華琳たちは特に盗賊を追い掛けるわけでもなく、この街で待機しているだけだった。

 

「華琳さま。 遅くなりました」

 

 俺たちが朝食を摂っていると、秋蘭が華琳の近くにやって来た。 秋蘭がやって来たという事は……。

 

「構わないわ。 ようやく返事?」

「はっ。 たった今、州境(しゅうさかい)に出した使いの兵が戻りました」

「そう」

 

 華琳の返事は基本的に短い。 まるでこの後相手が何を言うかが分かっているかのように、軽く先を促すだけだ。

 

「やはり、豫洲(よしゅう)へ立ち入る事はまかりならん……だそうです。 こちらから逃げ込んだ賊は、向こうの兵で対処すると」

「……まあ、そうでしょうね」

 

 南華老仙の著書”太平要術(たいへいようじゅつ)”を盗んだ賊は、俺達の証言とその後の情報収集で、ここのすぐ南西の隣にある豫洲という所に逃げ込んだことが分かった。

 華琳がこの街で数日待機していたのは、豫洲に追跡の兵を入れるための許可を待っていたからなんだが……。

 

「断られると分かってたかのような口ぶりだな」

「他所の兵に自分の領を我が物顔で歩かれて、気分の良い領主などいないわよ。 私が豫洲の州牧(しゅうぼく)や郡の太守から同じことを言われても、同じように答えるでしょうね」

「……州が違えど、同じ漢の中なのにな」

「郡が違うだけでも、越境は大問題―」

 

 ちなみに、分からない人の為に説明するが、さっきから華琳やシャンの言う『郡』というのは、州の中にある一つの小さな単位のことだ。 もっと分かりやすく言うなら、現代日本でいうところの漢王朝が日本国、州が都道府県で、郡は市町村に当たる。 みんな、勉強になったな! ……誰に向かって言ってんだ、俺?

 まぁとにかく、華琳は苑州にある陳留という郡の長……日本でいえば市長と地域の警察署長を足した位の地位にあたるのだ。 ……そう考えると、華琳は結構偉いんだな。

 

「香風の言う通りだ。 ……それとも、天の国の常識は違うのか?」

「う~ん……市民の通行ならともかく、役所関係になるとな」

 

 確かに刑事ドラマとかじゃ、地域……たとえば東京の警察庁と神奈川の警察署とのシマとかそういうのはたまに見かけるが……あれと似たようなもんか? 結局、今も昔も……この場合、今も未来も、というべきか。 縄張り争いは大変という事か。

 

「しかしそうなると……豫洲の人間が賊を捕まえたら、太平要術の書も向こうの人間の手に渡るって事になるな」

「ええ。 その件は向こうには伝えていないけれど、そうなるでしょうね」

「……伝えてないのは、許可をもらうのに必要な情報じゃないからか?」

「あら、よく分かってるじゃない」

 

 ……なんというか、華琳も豫洲の人間も、どっこいどっこいな気がしてきたんだが……。

 

「どうした柏崎、難しい顔して。 粥が喉に詰まったか?」

「俺は爺さんか。 いや、そうじゃなくてだな……追い返されると分かってて、何故向こうに兵を出した?」

「黙って他州から賊に入られても、良い顔をする領主などいないからよ」

「それに向こうで賊がこちらから逃げてきたと触れ回れば、それこそ陳留……ひいては太守たる華琳さまのお立場が悪くなるだけだからな」

「追い返すが、声は掛けていけ、というわけか……。 やれやれ、本当に面倒なことだな」

「役人の仕事は、みんなめんどくさい」

 

 さすが元役人のシャンが言うと説得力が違うな。 確かにそんな面倒事だらけじゃ、暇も欲しくもなりそうだな。

 

「いずれにしても、これでこの街に留まる理由はなくなったわ。 食事を終えたらすぐに陳留に戻るわよ」

「「はっ」」

「弦一郎も支度をしておきなさい」

「あぁ、分かった。 ……協力するといった以上、タダ飯喰らいの穀潰しなんて烙印を押されるのは勘弁だ」

「その通り。 貴方をここに置くのもタダではないのよ。 ……そのぶんは、きっちりと働いてもらうから、そのつもりでね」

「了解した。 ……ところで、肉体労働以外に何かやれとかあるか?」

「あら。 他に払えるものがあって?」

「いやな、俺は事務仕事とかは苦手だからな……腕には覚えがあるから、そっちの方で仕事をしたいんだが……」

「そう。 なら、貴方には事務の仕事を多めに向けるわ」

「おい、話聞いてたか華琳? 俺今事務関係は苦手だって言ったよな?」

「ええ。 苦手だからこそ、早い内に慣れさせてあげようとしてるんじゃない。 武力だけで物を言えるのは、ケダモノか賊くらいよ」

 

 ぐぬぬ……余計なこと言わなければよかったか……。

 

「……お兄ちゃんの天の知識とかじゃ、ダメなの?」

「……こいつが時々言う天の国の良く分からんやつか」

 

 失礼だな。 確かにこの時代の人たちからすれば俺の知識なんて分らんだろうが、華琳や秋蘭なら価値を見出せるんだぞ。 ……内容によってだが。

 

「それこそ不要よ。 弦一郎の言う未来の技術や知識がこの時代にないのは、まだ誰も必要としてないからだもの。 本当に必要な事柄なら、それを心から欲する者が自ずと見いだすはず。 ……なにより、それはその術を会得するために心血を注いだ先達を愚弄する行いだわ」

「まあ確かに、俺が考えたものというわけでもないしな」

「何より……身の丈に合わない術は、身を滅ぼすだけだもの。 ……知識も、権力もね」

 

 ……最後にぽつりと口にした華琳の一言、どこか実感がこもっていたな……。

 盗賊の件以外で俺に何が出来るか分からないが、俺にできる方法で華琳からの借りを返していくべきだな。

 

「…………あ」

「……なんだ、まだ何かあるのか。 もう秋蘭も飯を食い終わってしまったぞ」

「ああいや、大したことじゃないんだが……」

「だからなんだ。 わたし達もこれから帰投の準備で忙しいのだ。 十数えるウチに済ませねば……」

「なぁ、陳留に帰るのは、皆馬に乗るんだよな?」

「それが?」

 

 今思えば、あの荒野の真ん中からここに連れてきた時も歩きだった……しかも俺、馬乗ったこと、無かったな…………。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「……別に馬に乗れなくても問題ないでしょうに」

「まあそうなんだけどな」

 

 あれから数日後。 俺は陳留に続く道を、馬に乗る華琳たちの隣で一歩一歩歩いていた。

 ……自分の足で。 幸い、俺は六式を会得する過程で足腰を鍛えているために特に苦労はしていなかった。

 

「お兄ちゃん。 シャンの後ろ……乗る?」

「いや、大丈夫だ。 気持ちだけ受け取っておこう、ありがとうなシャン」

 

 俺に気遣ってかシャンが声をかけてきたが、俺はやんわりと断る。 前にふれあい広場とかでポニーに乗せてもらったことがあるから分かるが、乗るだけでも技量が必要なのだ。 だから乗り慣れていない今じゃお荷物になってしまう。 まだ何も役に立ってないのにいきなり荷物扱いはナシだ、ナシ。

 

「だが、馬にも乗れんで今までどうしていたのだ。 不便ではなかったのか?」

「あぁ……それはだな」

 

 バスや電車なんて分らないだろうし……自転車はさらに分からないよな。 だとすれば……自動車だろうな。 馬車や荷車はあるし、車は分かるか。

 

「車……箱に車輪の付いた車、とかだな」

「金持ちか!」

「いや、いたってごく一般的な中流の家庭だ。 俺らくらいは大抵持っている」

「……軒車(けんしゃ)に乗れるのは貴族か金持ちだけなのだが……天の国とは、すごい所なのだな」

 

 確かに古代中国は乗り物にもランク付けがあったんだか……ホント、こうしてみると今と昔はすごい落差なんだな、と思った。

 

「そんなに車が良いなら、荷駄隊の車にでも乗っていろ」

「それはそれで本当に荷物みたいになるから勘弁したいな。 それなら歩く方がまだマシだ」

「大体、馬に乗れないなら出城にいる間に練習していれば良かったでしょう」

「……それが分かってたら、してたんだがな」

 

 基本的な知識のみじゃない。 とにかくこの世界で、俺は何が分かんないのかも分かんない状態なんだ……という事だけはよく分かった。

 

「陳留に着いたら、今度は馬の乗り方を教えるね」

「あぁ、お願いするよ、シャン先生」

「それと、シャンに空を飛ぶ方法教えてね」

「あぁ、それもあったな。 分かった、時間のあるときにな」

「……何を言っているのだ、お前たちは?」

 

 華琳たちとそんな話をしながら、小高い丘を越えれば……。

 

「ほれ、柏崎。 その陳留が見えてきたぞ」

「…………あれが」

 

 春蘭が指をさして声をかけ、丘の向こうを見た。 そこには想像以上に高い城壁に囲まれた巨大都市だった。

 

「ふふん。 驚いたか」

「ああ……正直、想像を超えてたよ」

 

 こっちの世界でちゃんとした街を見るのが初めてなのもあるが……今まで滞在していた出城の街とは比べ物にならないくらいに大きい。

 

「ふふふ。 そうだろうそうだろう」

「なんで春蘭さまが偉そうなの?」

「……見ぬフリをしてやってくれ、香風」

「……予想はしていたが、華琳は凄い偉いんだな」

「……一郡を任されただけのただの太守よ。それ以上でも、それ以下でもないわ。 驚くのはそれくらいにして、早く歩きなさい。 いつまでも貴方の感傷に付き合ってる暇はないわよ」

「それはそうだが……見れば見るほどデカいな……城門」

 

 それからしばらくして……俺たちはようやく、陳留の城門の前にたどり着いた。 すると前の城門が開き、一つの人影がこちらにやって来た。

 

「お帰りなさいませ! お姉様!」

 

 やって来たのは華琳と同じ髪の色をした少女だった。 一目見ただけで意志の強さを感じさせる切れ長の瞳に整った顔立ち。 それは華琳の呼びかけを聞くまでもなく、華琳の親族だと分かる。

 

「秋蘭、誰だあの子は? 華琳の妹か何かか?」

 

 少女の姿を少し離れた所から眺めつつ、俺は隣にいる秋蘭に小声で確かめる。

 

「この陳留の金庫番を任されている、曹洪という。 実の妹ではないが、華琳さまの曹一門に属するお方だ。 ……それと」

「あぁ分かっているさ。 勝手に真名を呼んだりしないさ。 面倒事はごめんだしな」

「それもだが……お前はしばらく黙っていろ。 華琳さまから何か言われても、最低限の事しか答えなくて良い。 分かったな?」

「……? 分かった」

 

 秋蘭の言葉の真意は分からなかったが、真名みたいな特殊な風習のある世界だ。 ここは助言通りにするのが賢明というものだな。

 

「いま戻ったわ、栄華。 ……けれど、なにもここで出迎えなくても良かったのよ?」

「遣いも受けましたし、見張りからも遠くにお姿が見えたと報告がありましたので……いてもたってもいられなくて。 あぁ……御髪もお衣装も砂だらけで。 お風呂とお召し物の支度をさせてますから、すぐにお使い下さいまし」

「ふふ、ありがとう。 留守中は変わりはなくて?」

「はい。 柳琳(るうりん)もいましたし、華侖(かろん)さんも…………彼女なりに、よくやってくださいましたわ」

 

 この曹洪というのも、春蘭たちみたく華琳のことが好きなんだろう。 弾む声も向ける視線も、何もかもが華琳への親愛の情に溢れている。 ……華侖ってやつの事を説明する時に微妙な間があった理由については……聞かないようにしよう、うん。

 

「それと、その……お姉様。 ……新しく迎えたお客人がいるとか」

「……ふふっ。 そうね、いらっしゃい」

「応」

「はーい」

 

 華琳の呼びかけに従い、俺とシャンが華琳の隣に踏み出すと……。

 

「あらあら、まぁまぁ……!」

「…………?」

 

 曹洪はシャンの姿を見るなり瞳を輝かせて頬をほころばせる。 ……その頬が、若干紅潮しているように見えるのは俺の気のせいだろうか。

 

「ふふっ。 とっても可愛らしいですわね……。 お姉様、この子は?」

「遣いに持たせた連絡の通りよ。 私の元でしばらく働いてくれることになったわ」

「そうですの!」

「…………?」

 

 曹洪は華琳の紹介にぱっと花の咲いたような笑みを浮かべると、シャンの顔を覗き込むように身を屈めて見せる。

 

「わたくしは曹洪と申しますわ。 あなたのお名前は?」

「ああ、俺は柏崎 弦一郎。 で、こっちが……」

「徐晃。 ……でも、シャンのことは香風でいい」

「香風さんですわね。 なら、わたくしの事も真名の栄華でお呼びになって?」

「……わかった」

 

 ………………んん?

 

「それと香風さん。 客人用のお風呂の支度もしてありますから、良ければお湯をお使いになってくださいまし」

「わーい」

「…………」

 

 いままでのやり取りにどこか違和感を感じた俺はちらっと秋蘭に視線をを送ると、秋蘭は無言で首を振ってみせる。

 そうか。 ここも黙っておいた方が良いのか……。 なんか納得できんが。

 

「それから……良ければ、お召し物も用意させていただきますわ。 それにぼさぼさの御髪もちゃんと整えないと、可愛いお顔が台無しですわよ」

「……うん?」

 

 ……うん? なにやら話の雲行きが怪しいような……傍から見れば曹洪は面倒見のいい子なんだろうが……。

 

「お姉様、よろしくて?」

「ふふっ。 好きになさい」

「後は、そうですわね……。 うん……身だしなみがなっていないのはそれで良いとして……口調に気品が感じられないのは、おいおい躾ければ良さそうですわね……。 都の役人を務めていたというから、最低限の学問は修めているのでしょうし……後は、家での振る舞いとお作法を仕込んで、わたくしへの奉仕の仕方も……。 ふふ……ふふふ…………」

「…………ひっ。 お、お兄ちゃん……」

「…………あぁ」

 

 曹洪のも様子がおかしくなり、背筋に悪寒を感じたシャンは怯えるように俺の背中に隠れて引っ付いてきた。

 ……あぁ、うん。 ちょっと、というかだいぶクセがあるのも華琳と一緒というわけか。 後は……。

 

「栄華」

「あ……。 ふふっ、もうしわけありません。 つい癖で……」

「……ずいぶんな癖だな」

「ご安心なさって。 お姉様のお手つきの子に手を出すような真似は、誓っていたしませんわ」

「私の期待を裏切らないで頂戴」

「……お手つき?」

「気にしたら負けだ、シャン。 というか気にするな」

「……うん」

 

 シャンはちゃんと反応を返してくれるようだな。 うん。 そのはずなんだが……。

 

「それと……弦一郎」

「ああ、俺の事はちゃんと見えているんだな。 シャン以外に見えなくなってたりしないよな?」

「寝言は寝ている間にしておきなさい。 栄華、改めて、もう一人紹介するわ。 ……弦一郎、もう一度名乗りを」

 

 華琳が改めて、ってわざわざ言った辺り、曹洪(コイツ)が俺の事を無視していたことは理解していたんだろう。

 

「応。 俺は柏崎弦一郎。 訳あって……」

「はい、それで結構ですわ。 お姉様の連絡には目を通しましたから、もう十分」

 

 ………………はぁ?

 なんだ、この温度差? 華琳やシャンとの差がかなり落差があるんだが?

 

「栄華。 彼はこれでも例の事件の貴重な情報源よ。 必要以上にはしなくていいけど、相応の扱いはするように」

「それは……どうしてもですの? お姉様」

「どうしてもよ」

「……はぁ。 承知いたしました」

 

 さっきまでの甲斐甲斐しい態度から一変。 曹洪は不服しか感じられない口調で肩の力を落とすと、俺から微妙に視線をずらしたまま、渋々口を開いてみせる。 ……コイツ、絶対承知してないだろ絶対。

 

「では、(うまや)の隅に藁を積んでありますから、好きにお使いなさい。 使った藁は間違って馬が食べてしまわないように、ちゃんと片付けて下さいまし。 よろしくて?」

「よろしいわけねぇだろうがふざけてんのかお前!?」

 

 しかもさらっと馬の方に気を遣うようなこと言ってたぞ!? コイツの中で俺は馬以下か!?

 

「……栄華」

「ですがお姉様……!! 香風さんのような可愛らしい子ならいざ知らず、こんな臭くて汚らわしいのは厩に置く経費ももったいないのですけれど!」

「私は、同じ事を二度言わせる子は嫌いよ」

「ぐ…………っ」

 

 今の一言は華琳の殺し文句だったのか、曹洪はしばらく何かを考えているようだったが……。

 

「……分かりましたわ。 お部屋を用意させていただきます」

「……まぁ、なんだ。 世話になる間は、その分ちゃんと働くさ」

「当たり前ですわ。 あなたがここで暮らす中で、どれだけのお金が無駄に掛かっているか……ちゃんと理解して過ごして下さいまし。 それと、今後はわたくしの視界に入らないでくださる?」

「……は? 視界の中?」

「今はお姉様の指示で、我慢して話していますけれど……わたくし、本当は愛らしい女の子しか視界に入れたくありませんの。 よろしくて?」

「…………分かった」

 

 可愛い女の子を見ていたい……それはさっきの反応で十分分かった。 その気持ちも分からんでもないが、それを面と向かって言い切れるのは呆れを通り越して逆に感心するレベルだわ。 ……態度は色々と癪に障るが。

 

「ならわたくしは先に城に戻っていますわ。 春蘭さん! お話がありますので、一緒に来てくださいまし。 ……あと香風さんも、お風呂にご案内いたしますわ」

「おう。 ……では華琳さま、お先に」

 

 春蘭は華琳にぺこりと一礼して、曹洪の方へ馬を向かわせるが……もう一人、呼ばれたシャンは俺の服の裾をぎゅっと掴んだままだった。

 

「うぅ……お兄ちゃん、一緒に来て」

「そうしたいのは山々だが……俺も一緒だと曹洪が怒るし面倒なことになるからなぁ……。 まぁ、シャン一人でも大丈夫だろ? 華琳」

「えぇ。 栄華は自分の言った事には責任を持つ子よ。 手を出さないと誓った以上は、大丈夫でしょう」

「……だそうだ。 折角だ、風呂をゆっくり使わせてもらってきな」

 

 この世界……というか、昔は風呂はかなりの贅沢だ。 現代のように蛇口を捻れば水が出てくるわけでもないし、湯を沸かすための薪も準備には手間もかかる。 それを準備したという事は、曹洪(アイツ)は本当にシャンを歓迎するつもりなんだろう。 ……俺には何もないどころか馬以下の扱いだったが。

 

「…………わかった」

 

 シャンの小さな背中を優しく押してやり、シャンは春蘭たちのもとにぱたぱたと駆けて行く。

 シャンの先の方では春蘭と侃々諤々(かんかんがくがく)の言い合いをしながら、男嫌いの少女は城門の向こうに消えていった。

 

「……あれが曹家の金庫番、か……」

「えぇ。 少し変わっているけれど、優しくて賢い子よ」

「…………」

「どうしたの? 私の顔に何か付いていて?」

「……いや、何でもない」

「なら我々も行くぞ、柏崎。 いつまでもこんな所にいても仕方がない」

「……あぁ、そうだな」

 

 ……曹家にとっての『少し』とは一体どの程度の許容範囲があるんだ? そう思いながら、俺は華琳と秋蘭に続いて陳留の都に足を踏み入れるのだった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「ほう……これが華琳の城か……立派なもんだ」

 

 陳留の城下町を抜け、やがてたどり着いたのは華琳の居城。 ここも入り口で見た城門の偉容から続くに相応しい、立派な城だ。

 

「街を歩いている間もそればかりだったわね。 もう少し他の言葉は思いつかないの?」

「あのな……見慣れている華琳と一緒にするなよ。 こういうのは初めて見るもんだから、驚きもするさ」

 

 あまりの感想の語彙力の無さに華琳が呆れ、俺が肩を竦めて軽く返すと、第三者の声が聞こえてきた。

 

「あ、お姉様、秋蘭さま! お帰りなさいませ!」

「えぇ、柳琳。 いま戻ったわ」

「申し訳ありません、お姉様。 栄華ちゃんと一緒にお迎えに出ようと思ってたんですが……華侖姉さんがどこかに行っていて」

 

 柳琳って呼ばれた彼女も、華琳や曹洪に負けないくらい可愛らしい少女だ。

 

「……なぁ秋蘭。 あの子も華琳の親戚か?」

「うむ。 曹純といって、栄華と同じく曹家一門に属するお方だ。 華侖は実の姉だな」

 

 なるほど、やっぱりそういう関係か……。 親戚同士で一緒に住んでいれば、年の近い同姓ならお姉ちゃんと呼ぶこともあるもんな。

 

「ところで……曹洪の時のような注意するところはあるか? 黙ってた方が良いか?」

「いや、特にないな」

 

 特にない? ……さっきの例もある、最初は様子見にしておこう。

 

「姉さん、城下で見ませんでしたか?」

 

 あの曹洪が意志の強さが第一印象だったが、彼女はそれよりも優しいというか、穏やかという雰囲気が先に来る感じだな。 探している姉のことも、素直に心配している感じだ。 恐らく、几帳面で細やかな性格なんだろう。 丁寧に整えられた明るい髪も、曹洪や華琳のそれよりもどこか柔らかい感じがする。

 

「大通りを抜けてきたけど、見た限りの場所にはいなかったわね」

 

 しかし、油断はしない……! 一見優しそうに見えて曹一門の人物は今のところ要注意人物だからな……!

 

「それと……弦一郎」

「あぁ」

 

 改めて曹洪のガン無視案件を脳裏に浮かべ、俺は少し大げさに仰々しく曹純に向けて頭を下げるが……。

 

「はい、お話は聞いています。 盗賊の情報提供者の方ですよね? 私は姓は曹、名は純……字は子和(しわ)と申します。 以後、お見知りおきを」

「…………」

「……どうかなさいましたか?」

 

 俺の無反応に曹純は首を傾げる。

 

「……弦一郎」

「お、おう……そ、そうです。 俺……あぁいや、私が柏崎弦一郎です」

「どうした柏崎、様子が変だぞ?」

 

 い、いやだって……な? いくら何でも予想外すぎるだろう……ある意味不意打ち過ぎて思考が追い付かんぞ……。

 

「あ~……俺の事は弦一郎で構わない。 ……その、よろしく、頼む」

「はい。 こちらこそよろしくお願します、弦一郎さま」

「っ!? い、いや、さまとかはいらん! 名前だけで十分だ!」

「そうですか? では、弦一郎さんとお呼びさせていただきますね?」

「……あ、ああ……」

 

 そう言って柔和な笑みを向けてくれる曹純からは、一切の邪気が感じられず、少なくとも、ごく一般的なレベルで俺を歓迎してくれているのが目に見えて分かった。

 

「それと柳琳。 部屋の件だけれども……」

「あ、そうそう。 栄華ちゃんは厩の隅でも使わせておけって言ってましたけど、お客さまをそんな所にお通し出来ませんから……一番手前の客間を掃除しておきました。 ……もしかして、お姉様か秋蘭さまのご指示でしたか?」

「……いいえ。 それで構わなくてよ」

「ふふっ。 なら良かったです」

 

 …………誰だ、この子も曹一門の人物だから危険があるかもしれんとか何とか言ってたのは……。

 

「あの、弦一郎さん……」

「うぉお!? ……な、なんだ?」

「栄華ちゃん、男の方がすごく苦手で……。 もし城門の所で会っていたら、きっとお気に障ることがあったと思いますけど……どうか、許してあげてください。 本当は、すごく心配りがあって、優しい子なんです」

「……いや、大丈夫だ。 気にしていない」

「そうですか。 良かったです!」

 

 そんな懇願するような顔で許してやってくれとか言われちゃあ、イエスとしか答えられんだろうが……。 くっ、ほんとに不意打ち過ぎてある意味の強敵だぞ、彼女は。

 

「それじゃお姉様。 私、華侖姉さんを捜してきますね」

「ええ。 私たちも見付けたら声を掛けておくわ」

「よろしくお願いします! それでは、秋蘭さま、弦一郎さん、失礼します」

 

 曹純は俺達にもう一度可憐な花のような微笑みを見せ、足早に城の奥へと去って行った。

 

「…………」

「……な? 特に注意するところはなかったろう?」

「……あぁ、そう……だったな……」

 

 注意するどころか、そんなところ微塵も感じなかったんだが……。

 

「弦一郎。 先に行くわよ」

「なあ、華琳……」

「何?」

「さっきの……曹純といったか? 本当に華琳の親戚か? 天使の間違いじゃないか?」

「天の遣いは貴方でしょうが。 馬鹿な事を言ってないで、先に行っているわよ」

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「向こうが食堂で、その先あるのが謁見の間だ。 朝議やそれ以外に集まるときは、だいたいあそこを使う」

 

 客間に案内するついでに、俺は秋蘭に通り道にある施設を軽く教えてもらっていた。

 

「この辺りは倉庫だから、中に入ることはそれほどないだろうな」

「なるほどな。 ……秋蘭、一ついいか?」

「なんだ?」

「華琳の一門は、あともう一人いるんだよな? 曹純の姉の……真名しか知らんから名前が呼べんが」

「華侖……曹仁のことだな」

「そうだ、その曹仁。 ……その曹仁というのは、曹洪の時のように注意することはあるか? ……もしかしなくとも、曹純と同じ類か?」

「ふむ、華侖か……」

 

 ……ゑ。 曹洪と曹純はすぐに出てきたのに、曹仁は出てこないのか? 春蘭ならともかく、秋蘭ならそういう事になれていると踏んで聞いたんだが……。

 

「まあ……会えば分かるだろう」

「いや、それが分からんから聞いているんだが?」

 

 今のところ男嫌いの変わり者、天使で三人目が一体どっちに行くか予想がつかんだよな……。 曹家全体から見れば前者、しかし曹純の姉と考えれば後者の可能性も……。

 

「華琳の親戚は、今のところ二人だしな……」

「親戚というなら、私や姉者も親戚だぞ」

「あぁ、そういえばそうだったな。 確か、父親が秋蘭たちの実家側だったか」

「よく知っているな。 我らの親とは兄弟にあたる」

 

 つまりは従妹という事だな。

 

「……それじゃ、曹洪たちは?」

「そこは知らないんだな。 あのお三方は、華琳さまの祖父の代で別れているはずだ」

「そこまで遡るのか。 俺たちの方だとそれはもうほぼ赤の他人だな」

 

 そこまでいくと叔父か……大叔父とかだろうか。 いずれにしても、そんな親戚の集まりなんて正月の宴会ぐらいだぞ……。

 

「天の国は随分と情が薄いのだな。 こちらでは、四代五代遡る事も珍しくないが」

「そうか……」

 

 だとすると、春蘭と秋蘭もカウントに入れるとして……。 変わり者二人、常識人二人……。

 

「駄目だ、余計に分からなくなってきたな……曹仁のことが」

「あたしのこと、呼んだっすかー?」

「あぁ。 曹仁がどういう人物かと……ん?」

 

 俺はいきなり聞こえてきた別の声に気づき、辺りを見回す。 しかし、どこにも声の主らしき姿はなかった。 建物の間の通路だから死角は多いが……声の通り方からして隠れているようでもないが……。

 

「……上だ、柏崎」

「上? 上に何が……!?」

 

 秋蘭の言葉に屋根の上に目を向ければ……。

 

「うっすっすー♪」

「…………」

「秋姉ぇ、お帰りっすー!」

 

 屋根の上に少女が座っていて、ニコニコと人懐っこい笑顔を見せながら、こっちに元気よく手を振ってくれた。

 

「うむ。 華侖も久しいな」

 

 髪の色や姿は華琳に近く、親戚だと分かるんだが……口を開いた瞬間から、今まで会った曹家の三人とは全く別の子だと分かる。

 

「ねえねえ、秋姉ぇ。 そっちの人は誰っすか?」

「華琳さまの連絡にあったろう。 今回の件の参考人でな……」

「柏崎弦一郎だ。 よろしくな」

「かしわざきげんいちろー、かしわざきげんいちろー……。 なんだか長くて言いにくいっすね」

「呼びにくかったら、隙に呼んでくれて構わんよ」

「なら、んー……弦一(げんい)っちっすかねぇ」

「弦一っち、か……」

「ダメっすか? 秋姉ぇはどうやって呼んでるっすか?」

「私は柏崎と呼んでいるな」

「かしわざき……。 んー……かしっち? かしぽん……ざきすけ……かしわざきすけべたろう……」

「あぁもう、弦一っちでいい。 それでいいから」

「じゃあそうするっす!」

 

 ……なるほどな。 確かにこれは、実際に会ってみないと分からんな。 悪い意味でないのがせめてもの救いか。

 

「それで……曹仁はなぜそこにいるんだ? もしかして、大事な書類が風で屋根に飛ばされたとか……」

「あはは、曹仁なんて固いっすよー。 華侖でいいっす」

「……それは真名だろう? 真名は信用している相手しか呼んではいけないというものじゃないのか?」

「そういうの難しいから、よく分かんないっす。 弦っち、さっき華琳姉ぇや秋姉ぇのことも真名で呼んでたし、それならいいかなーって」

 

 彼女は彼女なりにちゃんと見ていたのか、はたまた何も考えずに直感だけで言っているのか、よく分からんが……彼女の素直な振る舞いは、決して嫌な部類じゃない。

 

「……それなら、良いか。 なぁ秋蘭?」

「私は止める立場にはないよ。 華侖がいいと言うなら、それで構わんさ」

「えへへ、そうっすよ」

「じゃあ、そういう事で決まりとして……話を戻すが、華侖はなぜそんな所に?」

「ひなたぼっこしてたっす!」

「ひなたぼっこ…………」

「でも、屋根の上は思ったほどあったかくなかったっす……」

 

 今日は日は出てはいるが、そこまで日差しは強くはない……確かに日向ぼっこに向いている日和じゃあないな。

 

「お日様に近い方が、あったかいって思ったんすけど」

「……それなら、いい方法がある」

「え、ほんとっすか?! 教えてほしいっす!」

「じゃあ、まずは自分の部屋に戻るだろう?」

「戻るっす!」

 

 華侖はそう言って、その場で立ち上がって……。

 

「おいおいちょっと待て!? 今は戻らなくていい! 話を最後まで聞け!」

「あ……わかったっす!」

「次に、布団を持って日の当たる場所を探す。 そうだな……出来れば風の吹きこまない所が望ましいな。 風が当たれば、その部分が寒くなるからな」

「ふむふむ。 確かに風が当たるのはイヤっすね」

「でだ、そのまま布団を被って陽の当たる所に転がれば……後は分かるだろう?」

「…………おー! それ、いいっす! すごくいいっすよ弦一っち、すごいっすー! ……あ、でもそれ、いつ裸になればいいっすか?」

「……………………………は?」

 

 華侖の突拍子もない言葉に思わず開いた口が塞がらなかった。 は、裸って……え? なぜ脱ぐ? 布団被っているのにか?

 

「……一応聞くが、なぜ脱ぐんだ?」

「えー。 裸になったほうが、あったかいのが体に沢山感じるっすよ?」

「…………」

「……私の方に振らないでくれ」

 

 どういうことだと呆れながら秋蘭の方を向くが、振られた秋蘭は困り果てた様子で返す。

 あぁ、これもしや秋蘭たちも諦めている感じだな。

 

「……それなら、別段裸にならんでもいいが……布団を被るときでいいだろう。 自分の部屋なんだから」

「なるほど……だったら、やってみるっす!」

 

 そう言って華侖は再びひょいと立ち上がると、そのままこっちに向かって駆け出そうと……って!?

 

「お、おい華侖! ちょっと待て!?」

「えー。 さっきから待ったが多いっすよ、弦一っち」

「あたりまえだ! 今そこからこっちに飛び降りようとしただろ! そんなのは危ないだろうが!」

 

 たかが一階の屋根と言えど、どれだけ低く見積もっても三メートルの高さはある。 俺や春蘭みたいに鍛えているのかもしれんが、万が一という事もある。

 

「このくらい大丈夫っすよー。 ね、秋姉ぇ」

「……いや、私もやめた方が良いと思うぞ」

「むー。 そんなことないっすー! 試してみればわかるっすー!」

「おいおいだから待てって……!」

「姉さん、そこで何をしているの!!」

 

 あくまで平気だと言い張る華侖。 こうなったら手遅れになる前に”月歩”で……と思ったその時だった。 華侖の反論を遮るように、曹純の声が響いたのは。

 

「あ、柳琳! 弦一っちから、ひなたぼっこのいい方法を教えてもらってたんす。 弦一っち、すごいんすよー!」

「……いつまでも来ないと思ったら、何をしているの、弦一郎。 秋蘭もいて」

「あぁいや……秋蘭と話していたらな、ちょうど華侖と会ってな」

「そう……」

「もぅ、屋根の上なんて危ないっていつも言ってるでしょ……。 早く降りて……ううん、降りて来ないで!」

「どっちっすか、柳琳」

「あぅぅ……」

「……分かった。 華侖、ちょっとそこで待ってろ」

 

 俺はそう言って地面を靴のつま先でトントンと小突く。

 

「?」

「えっ……弦一郎さん?」

「待ってろとは……どういうことだ、柏崎?」

「なにをするつもり?」

「なに、ちょっと()()()()()()()()()()だけだ」

 

 俺の言葉に不思議そうに首を傾ける四人。 その視線の中、俺はその場で軽く数回ジャンプして足を温める。

 

「迎えに行くって……どういう」

「”月歩”」

 

 俺は足に力を入れ、”月歩”を発動させ、あっという間に華侖のいる屋根にたどり着く。

 

「………………」

「華侖、ちょっと失礼するぞ」

「……へ? きゃぁ!?」

 

 俺は呆然としている華侖の膝裏に手を回し、すぐさま背中にも手を回して抱き上げる。 いわゆる『お姫様抱っこ』というヤツだ。 俺はそのまま華侖を抱き上げたまま屋根から跳躍し、登った時と同じように”月歩”を使って下に降りる。

 

「ほら、もう大丈夫だ」

「「「「………………」」」」

「……ん? どうした?」

「あ、お兄ちゃん」

 

 ひとまず華侖を降ろすことに成功した俺はさっきから黙っている華琳たちを不思議に思っていると、建物の脇から姿を見せたのはシャン達だった。

 

「おぉシャン。 あれ? 春蘭も一緒か。 風呂はもう終わったか?」

「いや、厩に馬を戻しに行っただけだ。 先に香風を客間に案内することになってな」

「…………」

 

 俺が春蘭達と話す間も曹洪は俺から明らかに距離を取って、自分から俺が視界に入らないようにしてくれている。 男嫌いといっても、自分からもちゃんと距離を取ろうとしているあたり……曹純の言う通り、根は悪い奴じゃないんだろうな。 まぁ、向こうもこっちに接触する気はないだろうし、距離さえとればお互い不幸にはならんだろう。

 

「あ、そうだ華琳」

「!!!!!! ちょっとあなた!!!!!!」

「うぉ!? な、なんだ曹洪!? どうした!」

 

 おい曹洪、距離を取るつもりじゃなかったのか!? 視界に思いっきり入っているが!?

 

「どうしたもこうしたもありませんわ! どうして貴方のような下賤な輩がお姉様の真名を口にしていますの!!!」

「げ、下賤な輩……ずいぶんな言い方だな、おい」

 

 曹洪の言い回しに面食らっている俺を前に、曹洪のテンションはおかしな方向に跳ね上がったまま。

 

「あぁ……お姉様の大切な真名が穢れてしまいますわ。 いや、もう穢れてしまったに違いありません……この穢れは、その口を切り裂いて血で清めるしか……!」

「おいちょっと待て! まず俺の話をだな……!」

「誰がこれ以上汚らわしい男の声など聞くものですか! もう……こちらから距離を置いていれば少しはマシだろうと放っておけば!」

「だぁあ畜生! このままだと埒があかん! ……そうだ、曹純! 助けてくれ!」

 

 俺は今のところ常識人枠である曹純に助けを求める。 彼女なら今の曹洪を止めてくれる……そう考えて声を掛ける。

 

「………………」

 

 が、呼ばれた当の本人はなぜか呆然として俺の声に反応しなかった。

 

「き、聞こえなかったのか……!? な、なら秋蘭!」

「………………」

「チクショー秋蘭もか!!」

「お姉様のみならず、秋蘭さんの真名まで……! もう許しませんわ! その口、いえその上顎ごと引き裂き、二度と言葉を発せなくさせてやりますわ!」

「ってか、さっきから猟奇的だなお前は!?」

 

 頭に血が上って俺に掴みかかってきて俺は抵抗している所に、救いの手が差し伸べられる。

 

「栄華」

「お姉様……! 待っていてくださいねお姉様! 今、私がこの男の頸を刎ね、穢れた名を浄化いたしますから……!」

「だから、お前さっきから思考がおかしいって言ってるだろうが……!」

「栄華。 その手を離しなさい」

「お、お姉様……!?」

 

 華琳の異様な雰囲気におかしくなっていた栄華の思考が冷静になり、サッと俺から離れた。 ……助かった。

 

「いや、悪いな華琳。 ついでに悪いが、曹洪に説明してやってくれないか? 華琳が俺に真名を……」

「そんなこと、今はどうでもいいわ」

「…………は?」

「お、お姉様!?」

 

 曹洪がギャーギャー騒いでいた、本人も魂の半分だと言っていた真名を……どうでもいいだと!?

 

「…………弦一郎」

「ど、どうした華琳!? お前、真名は重要だって言ってたじゃないか! それをお前、どうでもいいって……」

「貴方…………さっきのは、なに?」

「……は?」

 

 さっきって……なんのことだ?

 

「貴方、華侖のいる屋根に登ったとき……」

「……あぁ。”月歩”のことか」

「それは、何?」

「え? ……あぁ、あれは」

「すごいっすー!」

「うおわぁ!?」

 

 俺が”月歩”について説明しようとした時、華侖が俺の背中に抱き着いてきた。 彼女の着ている服装がかなり薄いのか、彼女の特徴的な部分がダイレクトに当たる感触が背中から感じた。

 

「すごいっす弦一っちー! 空を、空を飛んでたっすー!」

「だぁああ落ち着け華侖! 今からそれを説明しようと……!」

「お兄ちゃん、あれやったの……!? シャンも、シャンももう一回見たい!」

 

 空を飛んだと聞いて一度”月歩”を見たことのあるシャンはそれだと判断し、もう一度見せろとせがむ。

 

「なっ……香風さん……!? や、やっぱり貴方は許されざる存在ですわー!!!」

「ちょっと弦一郎! いいから早くさっきの出来事について説明なさい!」

「ねえねえ弦一っちー! あれって、ウチでも出来るっすかー! 出来るなら教えてほしいっすー!」

「お兄ちゃん! はやく教えて……!」

「ちょっ……ちょっとお前ら……一旦落ち付けぇぇぇぇえええ!!!」

 

 息をつく暇もないほどに問い詰めてくる四人に、俺はただ叫ぶことしかできなかった……。

 

「………なんなのだ、一体? ……なぁ柳琳、秋蘭。 一体何があったんだ?」

 

 この集団の中で状況を呑み込めていないか春蘭は、いまだに呆然としている曹純と秋蘭に聞いていたのだった。




はい、これにて第二章は終了です! 次回からは各恋姫たちとの個別ストーリー、拠点ストーリーに入っていきます!
予定としては、拠点ストーリーは全員やる予定でいますので、長すぎれば一人のみですが、原作では濡れ場のあるストーリーもありますので、そのせいで短くなった場合は他の子とのストーリーと一緒にして行こうと考えています! アニメで例えるならAパートとBパート的なものですね!

……さて、ここで皆さんに質問なのですが、この先主人公の能力はこのままでいきますか?
というのも、ワンピース要素として六式を入れているわけですが、やはりワンピースといえば悪魔の実の能力者が華を持っていることが多いんですよね。 もちろん、能力なしでもかっこいいキャラは存在します。 しかし、六式を研究するためにアニメを見直していますがCP9でもカクやジャブラ、ルッチのような能力者が活躍(?)しているのを見て、六式と能力者……でもいいかなぁと思っちゃったんですよね……。 一貫性がないと言われればそうなんですが、でもやっぱりワンピースを書くなら、能力者にしてみたいと思っちゃったんですよ……。 しかし、六式使いの主人公が珍しいと言って見に来て下さる方がいるのもまた事実。 その方たちの期待を裏切ることは、出来ればしたくないという自分も、また存在しているんですよね……。
 長い言い訳を書き連ねてきましたが、端的に言えば主人公を能力者にするか否か、ですね。 一応、能力者にするためのイベントも用意はしてあるので、希望される方がいれば、すぐにでも調整は可能です。
 この質問をアンケートにしますので、よろしければ答えていただけると幸いです。 一応期間は第二章の拠点ストーリーのラスト、予定ではシャンか華侖&柳琳のストーリーまでとしています。 ぜひ、アンケートにご協力お願いします!
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