真・恋姫†無双 革命 ~曹魏の暗殺者~   作:リュオネイル

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おはこんにちばんは! リュオネイルです!
拠点フェイズを投稿してしばらく経ち、様子を見てみたらなんと作品のバーに色が!! これには作者の私、テンション爆上がりでしたよ(笑)
バーに色がついたのなんて今作品で初めての事でしたから、尚更ですね(笑)
さて、今回は予告通り、夏侯姉妹と曹仁&曹純の拠点フェイズです! 少し長いかもしれませんが、最後まで読んでいってください!


拠点フェイズ その2 夏侯姉妹・曹仁&曹純

Aパート 夏侯姉妹 『華琳さまの家臣の務め』

 

ドンッ!!

 

「っ!? な、なんだ?!」

 

 突如、ノックも無しに開かれたのは俺に用意してくれた部屋の扉。 そこから足音高く入ってきたのは……。

 

「柏崎弦一郎ぉ!」

 

 先日俺と試験と称した一騎打ちを繰り広げた夏侯惇こと春蘭と、その妹の夏侯淵こと秋蘭の二人だった。 入ってきた二人の様子はなにやら物々しく、春蘭ならわからなくもないが秋蘭もとなるとただ事ではないと瞬時に思ってしまう。

 

「……どうした二人とも? なんか物々しいようだが……」

 

 まさかとは思うが、昨日の件で春蘭がどこか痛めたのか? それにしては春蘭は昨日の戦う前と同じようにピンピンとしているように見える。 となると、他国からの襲撃か? ……いや、それもないか。 相手が華琳ならいざ知らず、実力を少し知った程度の俺にそこまでの重要人物でもないはずだ。 だとすると……なんだ?

 

「そのような事、貴様が知る必要はない!」

「うむ。 大人しく、我々に付いてきてもらおう。 悪いようにするつもりは無いが……逆らえば、分かっているな?」

 

 ……どうやら、華琳には内密に、そして極秘のようだな。 威圧感に近い二人の気配は明らかに俺に向けられたものだ。 この殺気、特に春蘭からは肌がピリピリするほど強く感じられた。 ……昨日の一騎打ちと同じような殺気を、連日に浴びることになるとは思わなかったが。

 

「分かった。 黙って付いてくればいいんだな」

「そうだ、大人しくキリキリ歩けっ!」

 

 そのまま俺は春蘭に押され、引っ立てられるようにして、部屋を後にして……。

 

「……………おい」

 

 俺が連れて来られたのは、城の密会場所のようなところでも、町に降り立ったと思ったらはずれにあるあばらに向かうわけでもなく……。

 

「どうした」

「どうした、じゃない。 おい、極秘の任務かなんかじゃないのか?」

 

 まさかとは思うが、真昼間の、しかも人の往来の多いこの道のど真ん中で極秘の任務でも話そうというのか?

 

「……極秘の任務? なんだそれは?」

 

 俺の言葉に春蘭は不思議そうに首を傾げる。 いや、首を傾げたいのは俺の方なんだが?

 

「いや、だから春蘭達のあの様子からして、なにか厄介事……しかも、華琳には相談できない事柄だと思ってな。 それほどの極秘な任務を俺に行ってくると思ったから、黙って付いてきたが……街についても何も無いからおかしいと思ったんだよ。 それで? 街中に連れてきた理由は?」

「? 理由もなにも、買い物に来たに決まっているだろう。 普通、今までの流れで分からんか?」

「帰っていいか?」

「なんでだ! 今来たばかりだろうが!」

「想像の百倍どうでもいい内容だからに決まっているだからだろうが! なんだ、あんな物々しい雰囲気の理由が買い物!? ふざけるのもたいがいにしろよお前!?」

 

 春蘭の予想の斜め上(悪い意味で)の回答に俺はつい怒鳴り声をあげて春蘭に返す。 だってしょうがないじゃん。 六式の能力を使って極秘の任務に就けると思ってたのに、それがただの買い物だったんだもん。 そりゃ怒りもするっての。

 

「…………秋蘭。 わたしは何か間違っていたのか?」

「いや、ごく普通だと思ったが……?」

「ほら! 秋蘭が普通だと言うなら、わたしは間違っておらん! おかしいのは貴様の方だ!」

「いやそれはおかしいだろうが!!」

「……………」

 

 俺と春蘭の漫才を見て表情薄い秋蘭の、こめかみ辺りがピクピクとしきりに痙攣しているのが見えた。 ……コイツ、俺と春蘭で遊んでいやがるな……!

 

「貴様がどこの国に住んでいたのかはどうでも良いが、我が国には我が国の()()()()があるのだ! 貴様も華琳さまに拾われた身ならば、その流儀に慣れてもらおうか!」

「……あぁ、わかった。 わかったよ。 だが、俺を誘うときはあんな殺気出さんでも別にいいからな」

「……別に、殺気など出してはおらん!」

「嘘だろ……!? あんな殺気、昨日お前と一騎打ちした時の殺気と同じくらいのものだったぞ!」

「それは気のせいだ!」

「それは無茶があるだろうが!?」

「なんだとぅ!」

 

 俺と春蘭の漫才に一旦は満足したのか、落ち着いた秋蘭が呆れた様子で俺たちの間に入る。

 

「やれやれ。 二人とも、漫談はその辺りにしておけ。 吟味する時間が無くなってしまうぞ」

「む、それは一大事だな」

「なんだ、そんな大事な買い物だったのか?」

 

 吟味する時間がかかるという事は、選ぶのにそれ相応に気を使う、特別な品を買うってことだしな。 ……この二人が気を使うって言えば、思い当たる節しかないが。

 

「当然だ。 本来なら、貴様など連れてくるような買い物ではないのだ。 私は気に食わんが、秋蘭がどうしてもと言うのでな……」

「だったら連れて来なけりゃいいだろうが」

「なんだとぅ!」

「なんだ、やるかぁ!?」

「姉者」

 

 俺のつぶやきに春蘭が食って掛かり、俺もそろそろ頭に血が上り始めてそのまま取っ組み合いになりそうになった時、秋蘭が春蘭に待ったをかける。

 

「う……うむ」

「柏崎も、こちらに他意はないのだ。 時間が許すなら、我々の吟味に意見をもらえると助かるのだが……構わんか?」

「……まぁ、秋蘭がそう言うなら」

「なんだその言い方はッ! わたし達の決めたことに不満があるとでもいうのかっ!」

「姉者」

「う……うむ」

 

 なんだこれデジャヴか?

 

「なら、大人しく付いていくさ。 それで? 何を買うんだ? 意見が欲しい時は言ってくれ」

「ふんっ、手間を掛けさせおって。 それなら最初のように素直にそう言えば良いのだ!」

「姉者」

「う……うむ」

 

 おい、天丼ネタも三回ともなると流石に飽きるぞ。 ……と言いたかったが、言ったら言ったでめんどくさそうだからこのまま黙っておこう。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「あれはなかなかに掘り出し物だったな、秋蘭」

「だな。 次の会議に掛けて、華琳さまの判断を仰ぐことにしよう」

「…………」

 

 あれから少しして、二人の買い物はさっきの店で三件目。 鍛冶屋で武器を少し見た後、露店で馬具を流し見、乾物屋で保存食の話をしていたくらいで、全部軍用の備品の話だった。

 もちろん、真剣な顔して軍事用語を飛び交わせる二人の間に、素人の俺が意見を挟む余地など、どこにもないが……。 俺、なんでついてきたんだ?

 

「おお、秋蘭。 あんな所にあったぞ!」

「ほほぅ。 これはなかなか……」

 

 次の店はなんだ? 武器に馬具、糧食ときて次は砦か城壁の工具でも見積もってもらうのか……。

 

「柏崎。貴様も来い」

「おいおい、砦の作り方なんぞ、俺にはさっぱりだぞ?」

「砦……? 何を言っている貴様。 いいからこっちに来い」

「……これは?」

 

 秋蘭が両手に持って広げているのは、何重にも重なったヒラヒラの生地に、豪勢なフリルが幾つも付いたワンピースのような感じの服だった。 ……ここ、三国志の世界なんだよな?

 

「……一応なんだが、ひとつ聞いても良いか?」

「なんだ?」

「……この服、春蘭のか? もしそうだとしても服の大きさからして春蘭には合ってないようだが……」

「な………………………っ!?」

「ふむ。 それも悪くないな……」

 

 俺の質問に、春蘭は素っ頓狂な叫びをあげて目を丸くし、秋蘭はワンピースを着た春蘭を想像したのか、なんか無駄にさわやかな様子で頷いていた。

 

「しっ! しししししっ! 秋蘭まで……っ!」

「お客さまの着られる大きさの物、お出ししましょうか?」

「あるのか?」

「そりゃもう」

 

 春蘭が顔を真っ赤にして慌てていると店内から店員であろう女性が出てきた。 春蘭くらいの大きさのサイズがあるのか聞くと店員はにこやかに答える。 それを聞いた秋蘭は顔をニヤつかせて春蘭に目を向ける。

 

「ふふっ、どうする? 出してもらおうか、姉者」

「くぅぅっ! 秋蘭までばかにして……っ!」

「なんだ違うのか? 春蘭達の服を買いに来たんじゃないのか?」

「ち……っ! 違うに決まっているだろう! 馬鹿か貴様は! わたしの服など、別にどうでもよいわ!」

「いや、姉者ももうすこし洒落た服を着て欲しいのだが……」

 

 春蘭の否定的な言葉に秋蘭は苦笑して呟いたが、当の本人には届かなかったようだ。

 

「じゃあ、誰の服を買いに来たんだ?」

「この服は、華琳さまのだっ!」

「なに、華琳のか?」

「うむ。 この服が華琳さまに似合うかどうか、たまには男の視点からの意見が聞きたくてな」

「わたしはそんなものは必要ないと言ったのだぞ。 だが、秋蘭がどうしてもと言うから……だな!」

「姉者も、華琳さまがより魅力的になるなら、その方が良かろう?」

「そ、それはそうだが……男などの目から見れば、華琳さまはどんなお姿をしていても魅力的だろう!」

「だから、より、と言ったのだ」

「ぐぅぅ……」

 

 なるほどな……だから手近なところで俺に白羽の矢が立ったわけか。

 

「分かった。 男の俺の視点から見て、華琳に合う服を選べばいいわけだな?」

「そうだ。 華琳さまの服を選ぶなど……男としてこんな名誉な事はそうそうないぞ? 光栄に思えよ」

「…………なんでそう上からの物言いなんだよ」

 

 まぁ、武器や食料についての意見というわけではなかったから、助かったと言えばいいのか、違うのか……。

 

「で、柏崎は男としてどう見る?」

「ふむ……男として、ねぇ」

 

 あの華琳が、こんなフリルの付いたいかにも少女らしい服を、嬉しそうに着るのだろうか……。

 

「おい、柏崎」

「なんだ、春蘭」

「言っておくが、華琳さまのお姿を、そのイヤらしい妄想まみれの脳味噌で想像したら、今すぐ叩き斬ってやるからな!」

「……おい秋蘭。 お前のとこの姉はいったいどういう教育をしているんだ?」

「……気にしないでやってくれ」

「おい! それはいったいどういうことだ!」

「やかましいわ! お前、さっき秋蘭の言ったこともう忘れたのか!?」

「貴様、わたしを馬鹿にしているのか! 忘れているわけがないだろう!」

「だったら今の発言がおかしいことに気づくだろうが! 俺が華琳の服を着た姿を想像しないで、どうやって意見しろって言うんだ!」

「貴様……っ! わたしが理解しきれんからと言って、適当な事を言っているのではないだろうな!」

「いまさっきお前がそうしろって言ったんだろうが!」

 

 そしてさらりと自分で馬鹿だって認めてるんじゃねぇか。

 

「……まあまあ。 姉者のことは放って置いて良いから、忌憚のない意見を聞かせてくれるか? 柏崎」

「し、秋蘭……」

「……あぁ、分かった。 しかし、考えてみれば華琳の着る服なんだし、俺じゃなくて本人を連れてくればいいんじゃないのか?」

「それでは意味がないだろう!」

「なんでだ?」

「うむ。 華琳さまはお忙しい身。 買い物に出る暇も、それほど取れるわけではない」

「だから我々が華琳さまの代わりとなって、華琳さまにより似合う服がないかどうか探して回っているのだ!」

「なるほど。 で、華琳が買い物に出たときにそういう服を勧めるというわけか。 ……華琳はそういう気遣いはあまり好まないんじゃないのか?」

 

 あのいかにも何でもこなしそうな完璧人間の華琳が、誰かの勧めた服を着るとは到底思えないんだが。 それも、こんな事前準備みたいなことをしてまでな。

 

「もちろん、聡い華琳さまのことだ。勘付いてはいるのだろうがな、いまだ気付かぬ振りをしていて下さる」

「……そういうものか。 大変だな、家臣というのも」

「ふふっ。こちらも華琳さまのためならばこそ。 愉しくこそあれ、苦になどならんよ」

「よし。 店主、それを一着貰うとしよう」

「まいどありがとうございます」

「…………は?」

 

 俺と秋蘭が話しているその横で、いつの間にか春蘭が服を選んで購入していた。 予想もしなかった出来事に俺は開いた口が塞がらなかった。

 

「どうした、変な顔して。 何かおかしなことでもあったか?」

「いや……春蘭、お前話を聞いてたよな? なぜ買った?」

 

 さっき華琳の代わりに服の下見をするだけだと言っていたのに、ここで買って華琳に持って行ったとしても、アイツは受け取らんだろ。 ……何かしらの理由をつけて受け取る可能性もなくはないが。

 

「何故だと? こんな店頭で見ただけで、本当に華琳さまに似合うかどうか分かるものか。 ならば、実際に試してみるしかあるまい」

「……春蘭、言ってる意味が分からんぞ?」

「何だ、さっきからわたしを馬鹿にしているような素振りをしておいて、貴様も似たようなものではないか。 馬鹿者めが」

「……秋蘭、これは喧嘩を売っていると捉えていいんだよな?」

 

 春蘭の呆れたような口ぶりにだんだんと堪忍袋の緒が温まってきたのを感じ、それをなんとか抑えながら秋蘭に尋ねる。 ……コイツ、俺の獣厳に耐えたから別にいいよな? 六式使わずの純粋な拳叩きつけても別に構わんよな?

 

「落ち着け、柏崎。 ……その服はだな、華琳さまの身代わり用なのだ」

「……身代わり? あの、影武者とかの意味のか?」

「馬鹿か貴様は! 華琳さまに代われる者などいるはずがなかろう!」

「姉者は黙っていてくれ。 話がややこしくなる」

 

 俺の疑問に春蘭が目を吊り上げて返すが、秋蘭に冷たく諫められる。

 

「…………しゅうらぁん」

「……偶に思うが、ひどいな秋蘭」

「身代わりといっても、人形だがな」

 

 スルーか。 本当に冷たいな……まあ、話が進まないから、こういう奴がいるといいんだが。

 

「華琳さまそっくりに作った等身大の人形に、候補に挙がった服を着せてみて、本当に似合うかどうか更に確かめているのだ」

「ああ、そういうことか。 ならこの服は、その着せ替え華琳さま用の服ってことか」

「ふん。 ようやく理解したか」

 

 春蘭のどや顔はこの際無視するとして……。 しっかし、人形遊びの歴史は古いというが、まさかこの時代から等身大の着せ替え人形(ドール)の歴史があったとは……。 歴史っていうのは分からんものだな。

 

「……ん? そういえば、一つ聞いて良いか?」

「何だ。 言っておくが、人形とはいえ華琳さまのお姿ゆえ、着せ替えの現場には立ち会わせられんぞ?」

「そんなことは別にどうでも良いが……。 その人形、一体誰が作ったんだ?」

 

 ただの着せ替え人形とはいえ、等身大サイズの人形作りなど、誰でもできるわけがない。 そういった職人がいるのなら、一応名前くらいは把握をしておきたいしな。

 

「わたしだっ!」

「…………は?」

「その華琳さま人形を作ったのは、このわたしだ!」

「うむ。 それは私も証言しよう」

「はぁ!? 春蘭が!? 手先が不器用そうな春蘭がか!?」

「おい貴様、今喧嘩売っているだろう、そうなんだろう?」

 

 俺の驚愕の反応に春蘭はこめかみをピクピクと痙攣させる。 あきらかにキレているな……ということは本当なのか……全く信じれんな……。

 

「……いや、すまんな。 意外な奴が作ったというからな……」

「何故驚く。 わたしが作ったと言っては不服か?」

「別に不服とかじゃないが……」

 

 春蘭が作った1/1スケールの華琳さま人形……。 春蘭の華琳への愛情はよく分かるが、本当に春蘭の作った人形で華琳の代役が務まるのか?

 

「私が言うのも何だが……凄いぞ」

「……マジか」

 

 秋蘭がここまで言うのなら、そうなのだろうな……。 春蘭が満足した出来でも、不満があるなら秋蘭は間違いなく駄目だしするだろうし。

 

「さて。 ここでの用事は済んだ。 次に行くぞ、次!」

「うむ」

「……は? おい、まだ買うのか?」

「まだ一着しか買っておらんのだぞ? 貴様はこの程度で、華琳さまに助言できると思っているのか?」

「姉者、今日はどのくらい回るとしようか?」

「そうだな、まだ日も高い。 ゆっくり回って、もう十軒は固いだろう」

「じゅ……っ!?」

 

 十軒も回るだと……っ!? 武器屋とかはそこまで回っていなかったはずなんだが……どんだけコッチに力入れてんだコイツ等!?

 

「姉者……」

「そ、そうだよな秋蘭。 流石に十軒は多いよな……」

「……もう五軒は回れるだろう。 弱気が過ぎるぞ」

「チクショウ、ここに味方はいないのか!?」

 

 そういえばこいつ等姉妹だったわ! そりゃ考えも多少違いはあれど似ている所もあるわな!

 

「そうだな。 すまん、このわたしとしたことが、あまりに弱気な発言だったな。 ならば二十軒は巡るぞ!」

「増えてんじゃねぇか!?」

「うむ、さすが我が姉者!」

「オイコラ戻ってこい妹の方! お前までそっちに行ったら収集付かねぇだろうが!」

「というわけで、次も正直な意見を頼むぞ、柏崎」

「ありがたく思え! だが、変な妄想をしたらその場で叩き斬るからな! 覚悟しておけよ!」

「ふざけんなぁ!!」

 

 俺の怒りの叫びも空しく、春蘭に引きずられるようにして買い物に連れまわされることとなった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「…………疲れた」

 

 あのあと、何軒回った事だろうか。 十八を超えたところでもはや数えることをやめたが……どう考えても、最初に行った二十軒の倍近くはいっている気がする……。

 

「いまいちだったな。 今日は」

 

 そう言う割には行く先々で買ってただろうが、お前は。

 

「うむ。 めぼしい収穫は無かったな」

 

 しれっと言ってはいるが、春蘭よりも買っている服の数、多いからな秋蘭。

 

「……お前ら、よくそんな元気があるな……」

 

 ちなみに俺の両手と背中には、大量の荷物が縛り付けられている。 察しのいい奴には分かるだろうが、これ全部この二人が買い込んだ着せ替え華琳さま用の衣装なんだよな……。

 

「やれやれ。 鍛錬が足らんぞ、柏崎」

「そうだぞ。 華琳さまのために働いたのだから、もう少し嬉しそうにしたらどうだ?」

「うん、あのな? それとこれとは別だろうが秋蘭。 春蘭、お前俺が意見を言おうとする度に睨みつけてただろうが」

「だが、市井の服も質が落ちたな。 この程度では華琳さまのお眼鏡にかなうことは難しかろう」

「そうだな……。 やはり、国を大きくして腕の良い職人を多く招くしかないか……」

 

 それでいいのか、国を大きくする理由……。 俺としては華琳に合いそうな、可愛い服も色々あったが……。 どちらかといえば、こいつ等の基準が高くなり過ぎている気がするんだが……。

 

「えぇい、そんな時間があるものか! 華琳さまはこの一瞬も、気高く優雅に成長しておられるのだぞ! 今この時を美しく着飾れる服を手に入れるためには、今を何とかせねばならんのだ!」

「……ふむ。 確かに」

「納得するんかい、そこで」

「別に私は、姉者の言うことにすべて反論したいわけではないぞ?」

「……そうなんだろうがな」

 

 そこはせめて反論しろよ。

 

「それに柏崎、お主としても、華琳さまのより愛らしい姿が目に出来るのだ。 悪い話ではあるまい?」

「……まぁ、それはそうだがな」

「不服そうな物言いだな」

「気のせいだ」

「でだ、柏崎。 貴様は何か良案はないのか? 天の国とやらの知識、役に立てるのは今しかないぞ?」

「お前な……はぁ、そうだな……無いもんをねだってもしょうがないしな……」

「……案はないのか?」

「ん? 案って言うと……こんな服がある、とかでいいのか?」

「あぁ、構わない。 それを教えてもらおう。 出来るだけ具体的な形が指示も頼む。 今いる職人たちで何とか出来るやもしれん」

「なるほど。 それは妙案だな」

「ふむ……まぁ、それだったら、考えてみよう」

 

 今考えても、この時代で造れるかどうかわからんし、名称を言っても理解されないしな。

 

「は? 今から行くに決まっているだろう」

「……おいちょっと待て。 今なんて言った?」

「今から行くと言ったのだ。 聞こえなかったのか?」

「できれば聞きたくなかったわ! ふざけるな、もう夜は近いんだぞ!?」

「何を言っている貴様! まだ夜は長いぞ! 秋蘭も構わんな?」

「おい秋蘭、お前も何か言ってやr」

「見損なうなよ、姉者」

「うむ! それでこそ我が妹!」

「このバカ姉妹がぁぁぁぁぁ!!!」

 

 こうして俺は、深夜テンションになった姉妹に引きずり回され、終わるころには朝日が差し込んでいたのだった。

 

Bパート 曹仁&曹純 『恥ずかしいとは思わないっす』

 

「ん……ゲッ……!」

「あー、弦一っち!」

「……おい、柏崎。 人の顔を見て「ゲッ!」とはなんだ」

「お前……あの後の睡魔との戦いを知らんからそんなことが言えるんだよ……」

 

 春蘭達との買い物から数日後、街の散策に出ていた俺の前に見慣れた二人が歩いていた。 一人はさっき言った買い物の当人の一人、春蘭ともう一人は曹家の一人である曹仁こと華侖だ。

 二人の手には、何か食べ物の包みらしきものを持っている。

 

「んで、二人は何しているんだ? 買い食いか?」

「ぬ……いや、巡回だ」

「弦一っちもどうっすか? この店の小籠包はとっても美味しいっすよー」

「華侖、余計な事を言うなっ」

「ふっ、ずいぶんお気楽な巡回だな」

「だ、黙れ! これは街の警護を兼ねた立派な巡回だ」

 

 春蘭と華侖のやり取りを見て思わず笑う俺に春蘭はあくまで巡回だと言い張る。

 

「まぁ確かに、例え買い食いが目的だろうが、春蘭が歩くだけで街の治安は良くなるだろうよ」

「? どういう意味だ?」

「いやなに気にするな」

「人聞きの悪い。 人が呑気に食べ歩きでもしていたかのように……。 ふん、わたしはもう城に戻る」

「あ、春姉ぇ、帰っちゃうっすか?」

「ああ。 バカの相手はお前に任せた。 ではな」

 

 春蘭はばつの悪そうな顔をしつつ、小籠包を袋はしっかりと持って去っていった。

 

「バカって……どの口が言うんだ、どの口が」

「ねえねえ弦一っち」

「ん?」

「ほら、口を開けるっす!」

「モガッッ!? ――――ッッ!!! アッツゥッ!?」

 

 華侖に呼ばれ、振り向くといきなり口元に強烈な熱さを感じた。 華侖が手に持っている小籠包の包みを俺を口へ押し付けていた。

 

「ほらー、口開けないと、唇が火傷しちゃうっすよー?」

「ええい、止めろ! 無茶するな!」

「遠慮しないで食べるっす! はい、あーん」

「いや、あーんして食べるようなもんじゃないだ……」

 

 グシャッ、ベチャッ

 

「あ」

「グァァァアアアァァァ!!!?」

 

 華侖と妙な攻防を繰り広げている中、不意に華侖の指が小籠包を潰し、激アツの肉汁が至近距離にあった俺の顔めがけて噴射された。

 

「アッツ! 熱い!?熱いぞぉぉ!!?」

「うわわわ、もうしわけないっす! ……でも、弦一っちが早く食べてくれないからっすよ?」

「ぐぉぉ……って、お、俺が悪いのか、これ……?」

「はい、あーん♪」

 

 肉汁の熱さに悶えながら疑問を浮かべる俺に構わず華侖はにこやかに笑みを浮かべ、まだ形を保っている小籠包を俺に差し出す。

 

「……あーん……むぐっ」

 

 俺としてもこれ以上、火傷したらたまったものではないから、素直に小籠包をいただく。

 

「ふふふー、どうっすか?」

「もぐ、むぐ……あぁ、すごく美味いな。 一番美味しいと思う肉汁は、俺の顔に飛び散ったがな……」

「それは弦一っちが、早く食べないからっす」

「…………あぁ、うん」

 

 これ以上は反論しても意味がないと考えた俺はもう投げやりな返答をすることにした。

 

「じゃ、今度は肉汁たっぷりのものをもう一個! はい、あーんしてあげるっす」

「いや、もういいぞ」

「え? なんでっすか?」

「俺はさっき昼飯を食べたばかりでな。 腹は減っていないんだ」

「そうっすか?」

 

 実際、腹は空いていないのは本当だ。 それに人通りの多い真ん中で、あーんをしてもらうのはさすがに羞恥を覚える。 あと、絶対にまた火傷するからな……。

 

「それじゃあ、自分で食べるっす。 あむっ……ん~、美味しい♪ アッツアッツの肉汁が、口の中にじゅわっと広がっていくっす~」

 

 華侖は小籠包を口いっぱいに頬張る。 モグモグと食べながら、天にも昇る心地といった顔をする。

 

(しっかし、自由というか……マイペースな奴だな。 天真爛漫という言葉は、華侖のためにあるようなものかもな……)

「……それで? 華侖は春蘭と何してたんだ?」

「え? 何って、ふたりで美味しい店を探して、食べ歩きしてただけっすよ?」

「やっぱりな。 そうだろうと思ってたが」

「春姉ぇも今日はヒマだと言ってたっすから。 なんで急に、お城に戻っちゃったんですかねー?」

「まあ、それはなぁ……」

 

 いくらサボっていたわけじゃないにせよ、のんびりしている姿を見られたくないんだろう……特に俺とかには。

 

「弦一っちは何をしてたっすか?」

「俺も特にこれといって用はないな。 ぶらぶらと散歩の最中だな」

「それはちょうどよかったっす。 だったら、弦一っちが食べ歩きに付き合うっす!」

「ああ、それなら構わんぞ」

「へへー」

 

 そう決まるや、華侖は俺の隣に来て、肘に腕を絡めてきた。

 

「おい……付き合うのは構わんが、別に引っ付く必要はないだろう」

 

 華侖の行動に俺は努めて冷静に華侖の腕を引き離す。

 

「え? なんでっすか」

「…………」

「あたし、さっきまでも春姉ぇと、ずっと腕を組んでたっすよ?」

「それとこれとは話は別だ。 俺と華侖は男と女だ」

「え~? 女同士は良くって、女と男は駄目なんすか?」

「いや、駄目という事はないが……」

 

 俺と華侖はまだ初対面からさほど経っていない。 そんな男女が腕を組むなど、色々と問題があるはずだ。 ……まぁ、華侖だからという理由で納得されそうだが。

 

「う~ん、よくわからないっす。 でも……考えてみると、弦一っち以外の男の人とは、腕組んだことないっすね」

「まあ、そうだろうな」

 

 華侖の周り―—――重臣も文官も、女性ばかりだからな。 知り合いとなったらそれと同じで今みたいになるだろうな。 いずれにせよ、華侖は人とのスキンシップをするのが大好きな子みたいだ。 まあそれ自体は悪いことではないんだが……。

 

「とにかく、だ。 淑女は男と気軽に腕を組んだりするのは良くないことだ。 お前にそんな気はなくとも、誤解を生んだりするからな」

「はへ? 何を誤解するっすか?」

「…………………」

 

 そこから説明が必要なのか……。

 

「ぶー、もうつまんないっす」

「……なんでそこで拗ねるんだ」

「それってつまり、弦一っちはあたしとは仲良くできないってことっすかー?」

「い、いや、そんなことはないが」

「じゃあ、腕組んでいいっすね♪」

「お、おい……!?」

 

 華侖は言うや否や、素早く隣に移動し、また腕を絡めてきた。

 

「だから、今は駄目だと言っているだろう!」

「弦一っちとだけっす。 他の男の人とは、絶対に腕を組まないっす。 それだったら、いいっすよね?」

「どういう理屈だ……?」

 

 男としては、今のは嬉しいというのが正直なところだが……って、いかんいかん! 俺が誤解してどうするんだ……!

 

「えへへー♪」

「…………っ!」

 

 さらに密着してくる華侖。 ……それは、柔らかく、ぽよぽよと弾む弾力、服の上からでも分かる感触が、肘に当たっている。

 

(こ、コイツ……! こんな挑発的に……!)

 ……って、だから誤解するなっての! そもそもだ。 華侖は男女を意識してはいない。 ……そう思えば、デカい子供の世話を焼いていると思える。 ……デカいというには、色々無理があると思うが……。

 

「ほら、行くっす」

「あぁ、分かったよ……」

 

 結局、華侖の勢いに押しきられてしまった。 俺は華侖に腕を引かれ、通りを進んでいった。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「ねぇ、あの人って……」

「えぇ、曹仁様よね?」

「横にいる男は誰だ? まさか曹仁様の……」

「いや、そうとしか思えんだろ。 だって、あんなにくっついて……」

(…………妙に視線が痛ぇ……)

 

 通行人の眼差しが俺と華侖に集中する。 まぁそれはそのはず。 曹家のお嬢様の一人が、白昼堂々と見知らぬ男と腕を組みながら通りを歩いているんだからな……いやでも視線を集めるわな。

 

「弦一っち、ほらあの店!」

 

 しかし、その視線に気づいている俺とは正反対に華侖はまったく気づいていない。 きょろきょろと露店を見回しながら、美味しい食べ物を探すのに夢中といった様子だ。 ……ある意味、それが羨ましいと思うが。

 

「すっごく美味しそうな匂いがするっすー! あの店、入ってもいいっすか?」

「あぁ」

 

 正直、周囲の視線が痛いから、俺も店に隠れたい気分だったから、ちょうど良かった。

 

(にしても、よく食べるな……)

 

 あれから一緒に歩きはじめて、もう三~四軒は食べ歩きをしている。 それでも太らないのは、常に体中から取り込んだエネルギーを発散しているからだろうな……。

 

「こんにちはっすー!」

「いらっしゃい……えっ! そそ、曹仁様!?」

(分かる、分かるぞ店主。 自分の店にいきなり名家……それも自分の住んでる太守の家のお嬢様がいきなり来たんだ。 そりゃ驚くわな)

「華侖でいいっすよ」

「いいぃ、いえ! そ、そんな滅相もない!」

(会ったばかりの店主に、いきなり真名呼び許すとか……)

 

 自由にもほどがあるぞ……。

 

「このお店、とってもいい匂いがするっす! これって何の匂いっすか?」

「は、はい、これは豚骨と魚、野菜から出汁をとった汁の匂いでして……」

「ほー」

「我ら下賤の食するものですから、曹仁様のようなお方の口にあうかどうかは……」

「こんないい匂いなんだから、美味しいに決まってるっす! 弦一っちも食べるっすか?」

「そうだな。 せっかくだし、俺もいただくとするか」

「分かったっす! じゃあ、それをふたつくださいっす!」

「へ、へぇ! かしこまりました!」

 

 席に着き、美味しそうな匂いのスープをふたり分注文する。 後は盛り付けるだけだったのか、料理はすぐに運ばれてきた。

 

「ど、どうぞ……」

「おー」

「それではどうか、ごゆっくりと……!」

 

 華侖の反応が不安なのか、店主はスープを置いてそそくさと厨房に引っ込んだ。

 

「美味しそうっすね!」

「そうだな。 これは食欲をそそられる匂いだな」

 

 スープの見た目は俺も知っている中華スープとほぼ変わらない。 豚肉と野菜がたっぷりと入っていて、汁もとろみが効いている感じだ。 浮かんでいる赤いのは唐辛子か何かだろうか……?

 

「いただきまーすっ!」

「いただきます……んぐっ」

「んん……ごくっ……」

「おぉっ、これは……少し辛いが、美味いな……」

「おおおおおおおおおおおーーーー!!」

「ぶっ!?」

 

 俺がスープに舌鼓をうっていると突然、華侖が叫んで席を立ち、スープを口から噴き出しかけた。

 

「おじさん! 店主のおじさん!」

 

 そんな俺の様子を気にも留めず、華侖は目をキラキラと輝かせ、厨房に向かって呼びかける。

 

「はは、はい!? な、何か問題でも……」

「美味しいっす! 最高っす! ほっぺが顔から落ちるっす! おじさんは天才っす!!」

「っっっ!!」

「どうしたらこんなに美味しくなるっすか!?」

「い、いや、え、えっと…………」

「おい……あの人、曹仁様だよな?」

「曹仁様が絶賛してるぞ。 あの汁、俺も頼んでみよっかな……」

「ほんと美味しいっす! あたしこのお店、また絶対に来るっすよ!」

「あ、ありがとうごぜえやす!」

 

 華侖の褒めっぷりに店主は感謝感激だ。 周りの客たちも俺たちの飲んでいるスープが気になったらしいし、これ以上ないくらいの最高の宣伝だな。

 

「おい華侖、わかったから早く食べな。 せっかくの美味しい汁が冷めるぞ」

「ああ、それもそうっすね」

 

 俺は華侖に座るように促し、華侖が座ったのを確認して改めてスープを堪能する。 出汁も効いているし、唐辛子などの香辛料も色々と入っているようだ。 飲むたびに増してくる辛さに、どんどん汗が噴き出してくる。

 

「美味い……! 飲むたびに辛さが増してくるが、そこがまた良いな!」

「そうっすね! って、あははっ、弦一っちの顔、汗だくになってるっす」

「そう言う華侖こそ。 ふぅ、しかし暑いな」

 

 あまりの暑さに俺はたまらず、シャツのボタンを開ける。 すると……。

 

「うん、もう体が熱すぎっす。 こんなの着てられないっすよね!」

「ん? ああっ!?」

 

 華侖が言うが早く、おもむろに服を脱ぎ始める。

 

「お、おい! 何をしている、止めろ!」

「え? なんでっすか? 弦一っちだって、脱いでいるっすよ?」

「俺の場合は前を開けただけだ。 華侖はそれ以上脱いだら、裸になるだろうが!」

「はい、裸になるっす!」

「それが駄目だと言っているだろうが!!」

「えええぇ?」

 

 そうやりとりをしながらも、どんどん脱ごうとする華侖。 俺は身を乗り出し、慌てて衣服を整えさせる。 幸いに周囲の客は、こっちの様子に気づいていない。

 

「ぶー」

「ぶー、じゃない……」

(はぁぁぁ……ビックリしたな……。 脱ぎ癖があるのは分かってはいたが……)

 

 よもやこんな店の中で、裸になろうとするとは……しかも本人はとくに羞恥心を見せずに。

 

「なんで駄目なんすか? 柳琳みいつもそう言って、裸になるのを止めるっす」

「お前は女だろ? しかも淑女だ。 淑女が人前で、肌をやたらと見せるのは良くないんだよ」

「肌? そんなのいつも見せてるっすよ?」

 

 華侖は不思議そうに自分の体を見た。 確かに彼女の普段着から、彼女の服は露出度が非常に高いからな……。

 

「……確かにそうかもしれんが、その、だな……」

「何っすか?」

「華侖はそれでも服を着てだな……つまりだ、大事なところは人の目に触れないように、隠しているわけであって……」

「おっぱいとか、あそこのことっすか?」

「声がデケェ……! もう少し大きさを抑えろ……!」

「んー、でも、別にあたしは隠したくって服を着ているわけじゃないっす。 みんなと一緒に可愛い服を着たいだけっすから」

「………………」

 

 難しいな……。 どう言えば納得するか……。

 

「とにかく、だ。 人前で裸になるのはとても恥ずかしいことだ。 脱いだら駄目だ。 分かったか?」

「でも、あたしは恥ずかしいと思わないっす。 あたしが恥ずかしくないなら、別にいいんじゃないっすか?」

「……あのな、一般的の認識でだな」

「難しい話はわからないっす」

「……………………」

 

 ……埒があかん。 今日の所は一時撤退とするか。 ひとまず、ここで裸になるのはやめてくれたようだし。 根は良い子なんだが……妹の柳琳が苦労しているわけだ。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 店を出た後も、俺と華侖はふたりで街を散歩した。

 何かにつけて裸になろうとするから、俺も油断はできなかったが、それでも楽しい時間はあっという間に過ぎていき、気がつけばもう空は赤く染まっていた。

 そして城に戻った、俺たち二人を出迎えたのは……。

 

「もう、姉さんったら」

「どうしたっすか?」

 

 おかんむり状態の柳琳だった。 彼女は声こそ荒げないが、その表情はかなり怒っているのが目に見えて分かった。

 

「どうしたじゃないの。 姉さんの部隊の人員表、今日のお昼までに出してくれるはずだったでしょ?」

「あ……………」

 

 どうやら華侖は、自分の仕事をすっかり忘れていたらしい。

 

「忘れて街へ遊びに行っていたのね?」

「あはは……まったく、これっぽっちも覚えていなかったっす……」

「やっぱり」

「……すまない。 俺もずっと華侖と一緒にいてな。 俺が街で連れ回していたからな……」

「いいえ、わかってます。 姉さんの方が弦一郎さんを連れ回していたんでしょう?」

 

 少しはフォローしようロしたが、柳琳はお見通しのようだ。 さすが妹、姉の行動心理を見事に看破しているな。

 

「あはは、そうっす。 弦一っちと美味しい店を探して、今まで歩き回ってたっす」

「人員表は?」

「柳琳、そんなことよりっす! 辛いけど、ものすごく美味しい店を見つけたっすよ!」

「そんなことって……」

「おい華侖、まずは仕事の話をした方が……」

「柳琳も食べに行くっす。 明日とかどうっすか?」

「もう、姉さん。 その前に、人員表を提出して」

「そんなのまた今度でいいんじゃないっすかー」

「それじゃあ困るの。 部隊の人数が正確に把握できないと、次の出陣に必要な兵糧も計算できないから……」

 

 そんなやりとりをしている二人――――正確には柳琳に近づいてくる人物がいた。 曹家の金庫番こと曹洪だ。

 

「柳琳」

「あっ……栄華ちゃん」

「人員表はそろいまして? ちょうど今から、貴女の執務室へ取りに行こうと思ってたのですけど……」

「それがまだ……」

「まだですの? 困りますわ。 わたくし今日中に、出陣に必要な戦費を纏めて、お姉様にお渡しするつもりでしたのに」

「ごめんね? 明日には必ず……」

「頼みましたわよ?」

「うん……」

 

 曹洪はそう言って去って行った。 柳琳と曹洪の会話中、柳琳は申し訳なさそうな表情で一杯だった。

 

(気の毒な……)

「あっ、弦一っち! 見て見てっす! 綺麗なちょうちょが飛んでるっすよ?」

「……華侖」

 

 ……コイツ、困った妹の状況を、本気で理解していないのか。 その間にも、通りがかりの将軍たちが、次々と柳琳に仕事のことで声をかける。

 

「なるほど……うむ、わかった。 それでは柳琳の言うように、部隊の編成を見直すとしよう」

「はい、その方向でお願いします」

「では、新たな槍の調達は、先ほど聞いた商人に話を通せばいいのだな?」

「はい、すでにある程度、話は進めてありますので……」

「承知した」

 

 部隊の編成から武具の手配まで、将軍たちへ的確な助言や指示を繰り出していく。

 

「るー様……シャンの部屋……窓、壊れて開かなくなってる……」

「まあ、それは大変、すぐに大工を手配するわね」

 

 その中にはそれは柳琳の仕事か?というような微妙な案件も含まれていたり……。

 

「はー」

 

 ひとしきり将軍たちの相手を終えて、柳琳は大きく息を吐いた。

 

「お疲れさま、だな。 大変だな、柳琳のお役目は」

「い、いえ、大したことでは」

 

 便利屋といえば言葉が悪いか。 しかし、みんなが困っていることは、何でも彼女に相談しているみたいだしな……。

 

「専門……というか、柳琳の、本来の仕事は何だ?」

「そうですね……お姉様がご対応なさるほどの案件ではなくても、将軍それぞれの判断では決めかねることの相談に乗ったり……。 他にもお姉様の代わりに、会合などへ出席したり……」

「要は華琳の名代みたいなものか」

「は、はい。 大それた言い方になりますけれど」

「なるほどな。 柳琳も曹家の一員だからな。 だが、そうなると……普通、姉である華侖がそういう役目を引き受けるべきじゃないのか?」

「まあ、そうなのですが」

 

 俺の疑問に柳琳は軽く苦笑いする。 ……うん。 疑問に思ってから改めて考えてみれば、確かに華侖は良い子なのは間違いではないが……華琳の名代という点では、柳琳の方が適任だな。

 

(……そういえば、当の華侖はどうした?)

「姉さんってば。 またどこかに消えてしまっているし……」

「……ふふっ」

 辺りを見回してみるが、華侖の姿どころか影さえも見えなくなっていた。

 

「そういえばさっき、綺麗な蝶を見たって言ってたから、追っかけて行ったんじゃないのか?」

「ふふふ、姉さんらしいです」

 

 柳琳はおかしそうに笑う。 自由奔放な華侖()に苦労しながらも、姉妹の絆は強いみたいだな。

 

「まったく……アイツももう少し、柳琳の仕事を手伝ってくれればいいのにな」

「いえ、それはいいのですが……ただ、曹家の一員としての自覚が、あまりに希薄なのがちょっと……」

「まあ、自由人だからな……華侖は。 その辺り、俺からも話してみるか?」

「そ、そんな。 姉のことで、弦一郎さんのお手をわずらわせるだなんて」

「別にわずらわせるというほどでも……。 だが柳琳、本当に大変そうだからな。 俺でよければ、微力ながら手伝うぞ。 いつでも気軽に声を掛けてくれ」

「弦一郎さんに手伝っていただくなんて、ますますとんでもないことです。 弦一郎さんはお客さまで、それにお姉様から警備隊と……ええっと」

「あぁ、六式の指導係か?」

「そう、そうです。 その六式の指導係まで任されているのに、これ以上ご迷惑をおかけするわけには……!」

「うーん…………」

 

 柳琳は虚宿した表情で首を振る。 これが姉の方なら、「なら、早速手伝って欲しいっすー!」とか言って、遠慮無しに俺を引っ張り回すだろうに……。 姉妹のはずなのにここまで性格が真逆だとかえって面白い。

 

(顔だけ見れば、やはり姉妹だと思うんだが……)

「………………」

「………………」

「え……? あ、あの……」

「ん? ああ、すまんな」

 

 いかんいかん、顔の事を考えてたら、ついジッと見ていたようだ。

 

「顔に何かついていますか?」

「いや、華侖と柳琳は似ているなと思ってな」

「ふふふ、そうですか? 自分ではあまり似ていないと思うのですが」

「まあそういうのは、自分の視点じゃ分からないよな。 しかし、ホントによく似ているな。 性格は真逆なのに」

「そうですよね」

「柳琳はどの角度から見ても、良いところ出のお嬢様だからな。 礼儀も良い、言葉遣いもキチンとしているしな」

「ありがとうございます。 両親からも、厳しく(しつけ)を受けましたから」

「ああ、育ちの良さが滲み出ているな」

「そんな……」

「それが華侖はどうしてああなったのか……。 あ、いや、別に悪い意味で言ってはいないが……」

「ふふふ、いいんですよ。 困った姉なのは本当ですから」

「はは……いやしかし、華侖は長女だし、当然彼女も厳しく育てられたんじゃないのか?」

「はぁ……そこが不思議なんです。 妹の私から見ても、厳しい躾は受けていました。 それなのに……」

「場所問わずの脱衣癖に育ったと……」

「あはは……」

 

 俺の冗談に、柳琳は苦笑いを浮かべるだけだった。 反論しないという事は、もはや周知の事実だから諦めているだけか……。

 

「姉さんにも困ったものです」

「あれはもう生まれついての才能か何かだろうな、きっと」

「姉さんは人に何を言われても、まったく堪えませんからね」

 

 よもや、そのしわ寄せで妹の柳琳に姉以上の厳しい教育を受けていたのでは……? 俺はなんとなくそう思った。

 

「だが、華侖はそこにいるだけで周りの人を明るい気分にさせてくれる。 こう……幸せにするというか。 そうだ、今日立ち寄った店でもな……」

「はい?」

 

 ふと今日一緒に食べ歩きした時のことを話してみた。 あのスープの料理屋での一件だ。

 

「まあ、そんなことが」

「ああ。 店主もすごく喜んでいてな。 ああいうのは、華侖のような純粋無垢な性格でないとできないからな」

「ええ。 そこが姉さんのいいところですね」

 

 姉のことを褒めてもらえて、柳琳は嬉しそうに顔をほころばせた。 華侖本人に自覚はないんだろうが、アイツはアイツなりに、曹家の威光を世に知らしめている気はするな。 ……ただ、脱衣癖だけは勘弁願いたいが……。

 

「……ああ、それでさっきの話だが」

「はい」

「困っているんだったら、本当に手伝うぞ? 警備隊はともかく、指導係といっても、まだその予定はないからな。 何か仕事をしていた方が俺としても気分は楽だしな」

「先程も言ったのですが、弦一郎さんは大切なお客さまです。 そのように考える必要は少しもないと思うのですが……」

「いや、俺はただ純粋に柳琳を手伝いたいと思っているんだ。 もちろん、迷惑であれば遠慮するが……」

「め、迷惑だなんて……」

「なら、手伝わせてくれ。な?」

「…………。 はい、弦一郎さんがそこまでおっしゃってくださるなら……」

「おっ、手伝ってもいいのか?」

「は、はい」

 

 なぜかわからないが柳琳は照れ臭そうにうなずいた。

 

(……まさか、好意の押売りだったか……?)

 

 しかし、俺だって与えられた役割ばかりこなすだけじゃなく、少しでも役に立とうとは思っている。 出来ることだったらなんでも協力するつもりだ。

 それから俺は、早速柳琳の仕事を手伝うことにした。 彼女の部屋へ移動し、残っていた書類整理を一緒にする。 書類の量も大したことはなく、仕事はすぐに片付いた。

 

「本当にありがとうございました」

「いや、これぐらいお安い御用さ」

「弦一郎さんって、本当にお優しいんですね」

「そんなことはないぞ? ……これで、少しは役に立てたか?」

「少しだなんて。 弦一郎さんが手伝ってくださったおかげで、今夜は早く夕餉(ゆうげ)が食べられそうです」

「それは良かったな。 じゃあ」

「え……?」

「また明日。 困ったら、いつでも声を掛けてくれ」

「あ…………。 ……弦一郎さん……もっとちゃんと、何かお礼をしたかったのに……」

 

 少し暗い部屋の中で、柳琳のつぶやきがしたのを、部屋を離れている俺には届くことはなかった。




お……終わった……!
書き終わって総合文字数を確認したら……まさかの一万五千文字越え! これには書いていた作者もびっくり!(笑)
通りで時間がかかるわけだ……今度からは抱き合わせじゃなくて単体で書くか……まぁ、この第2章のは一応抱き合わせで書く予定ですが(鋼の意志)。
次回は曹洪と徐晃ちゃんことシャンちゃんの拠点になります!
では、長くなるのもアレですので、今回はここまで! 次回もお楽しみに!
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