No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~ 作:Easatoshi
ペコリーヌの出来心で行われた、宇宙船のコンピューターを使ってのログ解析により表示された座標は、オルガとスペシャルウィークらが最初に目覚めた『ラディウム・ぷると/11』にあると指していた。
一度は基地に戻ろうとしたオルガ達はすぐさま月面へと進路を変更、たどり着いた先でオルガ達は墜落した貨物船を発見。 調査の過程で生命反応と裏腹に生存者の姿は確認できず、ついでに貨物船の残骸を物色した。
調査の最中、墜落船の積み荷を開けた際により高濃度の放射線が漏れたりして一悶着はあったが、データログや色々な機器の設計図等と言った収穫を得られ、オルガ達は満足だった。
そして今、オルガ達は本来の予定通り基地へ帰還。 戦利品の確認に今後の方針について話し合っていた。
<■■ ログ損傷 ■■ 記録断片の読み出しは可能>
<アノマリーが星々を求めてやってくる。 逃げろ。>
「そうして何か物騒なログかと思いきや・・・・・・この『ハイパードライブ』の設計図を入手したって訳だ・・・・・・俺達の宇宙船向けのテクノロジーって辺りがおあつらえ向けだな」
「やってくれたわねペコリーヌ、お手柄よ」
照れるペコリーヌを肘で小突くキャルの表情はどこか嬉しそうだ。 成果なしに躓きかけた矢先でまさかの収穫に、ペコリーヌの出来心に感謝するオルガ達はとても上機嫌だった。
仕様に寄れば、このハイパードライブという物はざっくり言ってしまえば、数百光年の距離がある恒星間を一瞬で移動するワープ装置と言う事になるらしい。 それは、先ほど宇宙ステーションの訪問時に遭遇した、あの貨物船団が使用した技術と同じ物らしい。 オルガが言うには、これはその個人の宇宙船向けの小型な代物らしいが。
何光年ものワープという絵に描いたようなSFの産物に皆が浮き足立つ中、必然的に次の大きな目標はこのハイパードライブを実装して、試運転を行ってみようと言うことになったのは言うまでもないが、ここで問題が一つ発生する。
それはハイパードライブの実装に必要なパーツと燃料、そのどちらもが持ち合わせがなく不足している事。 そしてそれらに必要な部品は、少なくとも現状自前で用意することが出来ない『マイクロプロセッサ』が必要になるらしい。 幸い、部品自体は先程の宇宙ステーションで、テイオーが物資の販売を行っている取引ステーションを発見し、そこでも取り扱っているようなのだが・・・・・・。
「先立つものが、ねぇんだよな」
オルガは困ったように頭を掻いた。 肝心のパーツを手に入れるための資金がない。
必然的に金策を求められると言うことになるのだが、そうなると今度は別の問題も出てくる。
「お金を稼ぐって事は、勿論何日もかかる場合ってあるんですよね?」
「この基地を拠点にやってくのに全然物が足りないよー・・・・・・食べる物だって食べなきゃだし」
「仕事紹介して貰うにも、なんかギルドとかの信用がないと受けられないんだっけ?」
「そうなれば当面は物を売って種銭を稼がなければいけない訳だな」
「やばいですね・・・・・・思った以上に収入を得る方法、限られてるわけですね」
「基地も作りかけ、金策もままならない。 手を付けなきゃいけないこと山ほどあるわね」
オルガ達はいざ直面した様々な問題に頭を抱える。 これまではそれ以上の生存の脅威に晒されてそれどころではなかったが、こうして落ち着いて考える余裕が出来た途端に現実が押し寄せてくる。
頭の痛くなる問題に皆が困った様子であるが、ただ一人オルガはこの状況を内心喜んでいたりもした。
皆の悩む様子そのものを喜んでいるわけではないが、こうして大勢で話し合って問題を解決しようとする姿勢は、オルガにとって好ましいものだった。
(以前なら、何でも出来る人間だけがやれば良いって、俺一人で抱え込んじまってたもんな)
オルガはかつての鉄華団のワンマン運営を思い出し、苦笑を浮かべる。
団員は自分が守らなければならないと無理が祟った結果、結局は誰にも相談出来ないまま崖っぷちに向かって走り、結局は危険にさらしてしまった。
その際には副団長のユージンからも、もっと自分を頼ってくれと言われていたのも、それ以前にビスケットからも無茶をして仲間を危険にさらそうとしていると言われた事もあった。
オルガはそうした失敗を踏まえて異世界の旅を続け、出会った仲間達と過ごす内に理解した。 自分達は未熟だが、未熟なりに話し合う事も出来る。 頼れる人達だってもっと存在すると。
問題が山積みな事実に変わりはないが、それでもこうして仲間達と一緒に困難と向き合っていく姿を、オルガはどこか心地よく感じていた。
「・・・・・・なんだけど、オルガはどう思う?」
オルガが考えにふけっていると、シャルロットが話しかけてきた。
どうやら、先程からオルガが黙っていたせいで、話を聞いていなかったと思われてしまったようだ。
「ああ悪い、少し考え事をしてた」
「もう。 ・・・・・・一先ずはお金の掛からない基地の設営を、もう一段階進めようって話し合ってたんだ。 お金を貯めてハイパードライブをって考えたけど、地盤固めの方が大事かなって」
「……そうだな」
シャルロット達が話し合った内容によると、ハイパードライブを先に完成させても、行った先で不備があれば戻ってこれるかどうかも分からない。 幸い大半の星系には、今日行ったような宇宙ステーションが点在しているらしく、そこのテレポートモジュールを使って戻ってくることも可能だが、それはこちらにも同様の『基地テレポートモジュール』を設置することが必須となる。
そうなれば、そのモジュールは勿論動かすための電源設備等も拡充する必要があるわけで、いずれにせよいまテレポートをするのは時期尚早であると結論づけた。
「どうかな? オルガは先にハイパードライブ完成させる方?」
「……いいや、異論はねえ。 完璧だ」
オルガがシャルロットの提案に賛同すると、シャルロットをはじめ皆が嬉しそうに微笑んだ。
オルガはそんなシャルロット達の笑顔を見て、こんなにも相談し会える仲間達が得られたことの嬉しさを噛みしめていた。
(もしあいつらともう一度会えたなら、こんなふうに……)
オルガは、かつて共に戦った鉄華団の仲間たちの顔を思い浮かべながら、彼女達の提案に沿う形でTO・DOをまとめることにした。
一先ずは基地の拡張。 電源周りとテレポート機器の実装。 そしてそれを実現するには、つい先日テイオーがやりかけるもハプニングに巻き込まれ、うやむやになった『埋没したモジュール』の発掘作業の再開が不可欠であると結論づけた。
「今日は夜になる前にできる限り集めるぞ。 皆はそれでいいか?」
「うん、僕は大丈夫だよ!」
「はい! 私も一生懸命頑張ります!!」
「へへんっ、今度こそ頑張っちゃうもんねー!」
「任せてください!☆ 私はその間に皆のご飯を用意させていただきますね!」
「オッケー、じゃあアタシはペコリーヌと一緒に食材の調達をするわ」
「うむ、了解だ。 では残りの5人はモジュールの回収作業だな。 埋没している間隔にそこそこの距離があるから、私とシャルロットでオルガ団長達を運べばスムーズに行くだろう」
「よし、話は決まりだな……じゃあ早速始めるか!!」
皆がおー!と声を張り上げて、早速行動を開始する。
「……よしっ、これだけ集めりゃ何とかなるだろ!」
地面を掘り返しては埋没したモジュールから『回収データ』をサルベージするオルガ達のグループは、ウマ娘達とオルガ自身の俊足、回収後一纏めにした後のシャルロットやラウラの基地までのピストン輸送によって、絶大な回収効率を誇っていた。
これだけあれば大半のデータを復元することが出来るかもしれないと、オルガは確信めいた感情を抱いていた。
「皆、お疲れ様!」
「おかげでかなりの数の回収データが集まった。 感謝するぞ!」
「へへんっ! ようやくこのテイオー様の面目躍如ってのが果たせたね!」
「いっぱい動いたせいでお腹が空いちゃいました。 そろそろ夕飯ですし、基地に戻りません? きっとペコリーヌさん達が夕飯の準備をして待っててくれてますよ!」
「おう! じゃ、そろそろ基地に帰るか!」
こうして、オルガ達は夕食のために基地へと戻ることになった。
しかしオルガ達は知らない。 基地に戻った後でまた一悶着あると言うことを……。
「ごめんなさい! 『栄養プロセッサ』がちょっと調子悪くて、私の特製レシピが使えなくなっちゃったんです!」
「マジかよ……」
帰還後、基地の前で大量の食料を背に申し訳なさそうにする、ペコリーヌとキャルから告げられたのは、全自動調理器たる栄養プロセッサのトラブルであった。
ペコリーヌの料理は絶品であり、その味を知るオルガ達にとってそれは由々しき事態である。
だが、幸いなことに基地内には彼女達の集めてくれた食材が残っているため、何よりペコリーヌ自身の料理の腕前もあるので、炊事場と浄水装置さえ何とかしてしまえば、少々時間は掛かるが対処は可能かに思われた。
オルガ達は早速回収したモジュールから、基地内においてそのような機能を実装できないかデータを復元してはみたが……。
「……ダメだ、建築資材や他のモジュールは見つかったんだが……料理に関するテクノロジーだけは何にもねえ」
オルガはせっせと集めたデータから、本来のお目当てである『基地テレポートモジュール』や『電池』『ソーラーパネル』等の設計図を始め、様々なデータの復元に成功。 むしろ成果だけなら大成功だった物の、しかし今この場において最も欲しい料理関係のデータは遂に入手出来ず、頭を抱える羽目になった。
スペシャルウィークとトウカイテイオーは、ショックを通り越して放心状態だった。
「そんなぁ……せっかくペコリーヌさんの美味しいご飯が食べられると思ったのに……」
「オナカスイタヨー……」
「どうしようか……こうなったら石を削ったり火を起こして調理してみる?」
「ふむ、原始的だがサバイバルの知識が役に立つかもな」
その内ラウラ達は、ある物で現状をしのぐことを提案する。 もしペコリーヌに出会っていなければ、そうやって食材を調理するつもりであっただけに覚悟は座っているが、今から調理し始めると勿論時間は掛かる。
肉や野菜はまだしも、主食のパンは調理までに中々時間が掛かるのは避けられないだろう。
そんな中、ペコリーヌはふとオルガに歩み寄り、彼に対し耳打ちをした。
「オルガ君、その」
「……どうした?」
オルガの相づちに、ペコリーヌはなお小声で話を続ける。
「あの、えっと……さっきの栄養プロセッサ、なんですけど」
「何だ? お前にしちゃ妙に歯切れが悪いじゃねぇか」
オルガは首を傾げた。
「いえ、その……実はですね……」
関わった人間を圧倒するハイテンションの彼女が、珍しく言い淀む姿にオルガは怪訝な眼差しを送った。
「実は、パンを焼くだけなら標準のレシピが今の状態でも使えるんです」
「!」
唐突なカミングアウトにオルガは驚くが、ペコリーヌが周囲に聞かれぬよう小さい声で口にしたその言葉を、キャルは聞き逃さなかった。
「ちょっとペコリーヌ!? まさか、アンタ『アレ』を……?」
「違いますキャルちゃん! 私だって『アレ』を人様に食べさせるのはちょっと――――」
「何だよ。 勿体ぶらねぇで教えてくれても良いだろ?」
オルガの催促に、ペコリーヌは観念したように口を開く……その前に、一言断ってオルガだけをひったくるようにして共にその場から遠ざかり、他に誰にも聞かれないよう再度注意を払った上で、彼にその難色を示す理由をこっそりと耳打ちする。
「標準のレシピじゃ小麦粉の他に『野生酵母』を別で入れる必要があるんです」
「おう、それで?」
「その野生酵母が問題で……『フェシウム』って成分を栄養プロセッサで発酵させる必要があるんですけど――――――ゴニョゴニョゴニョ」
「――――!?」
申し訳なさそうなペコリーヌの口から告げられた内容は、オルガを絶句させるには十分だった。 キャルも遠い目をしながら顔をそらしている。
「ま、マジかよ……パン一つ作るのにそんな事すんのか……」
「だから、小麦の中に元々ある酵母菌だけで発酵できるようレシピを改良したんですけど……」
「作れなくはないからって、それは……」
「「え!? パンだけなら調理できるんですか(の!?)」」
突然の声かけに三人は背筋を震わせ振り返ると、そこには目を輝かせたトウカイテイオーとスペシャルウィークが立っていた。
「き、聞いてたのか?」
オルガ達は戦慄した。 どうやらウマ娘の聴覚はこちらの声を捕らえていたらしい。
「パンだけなら作れなくはないって部分だけですけど!」
「人が悪いよペコリーヌ! パンだけでも作れたなら、出し惜しみする必要なんかナイヨー!」
……都合の良い部分だけ。
「え? あぁ……でも、はい」
「お腹空いたー! 早く作ってー!!」
「他に必要なレシピがあるなら私取ってきますよ!? ペコリーヌさん、キャルさん! 何が必要なんですか!?」
距離を詰めて問い掛けるスペシャルウィークに、ペコリーヌは困ったように笑いながら言葉を濁すしかなかった。 材料のフェシウムの出所を明かすわけにもいかず、当然それを教えてまで取りに行って貰うなんて言うのは論外だ。 しかしこのままでは空腹に掛かったウマ娘が、またも一人で飛び出してしまう可能性を考えると沈黙を守ることも出来ない。 選択を迫られる三人だったが、そんな時逆上気味に立ち上がったのはオルガだった。
「ああ分かったよ! 取ってきてやるよ!! どうせ空腹は待ってはくれねぇんだ! 取りに行きゃいいんだろ!?」
「……オルガさん?」
突然激高するように叫ぶオルガにスペシャルウィーク達は圧倒されるが、オルガはむしろヤケクソ気味に言葉を続けた。
「途中でどんな地獄が待ち受けようと……お前に……お前等に……俺が材料取ってきてやるよぉ!!!!」
そして皆が制止をする前に、今度はオルガがマルチツールを片手に飛び出して行ってしまった!
「ちょ、ちょっとオルガ!? どこ行くのよ!?」
「材料取ってくるんだよ! お前等はシャル達の手伝いと――――基地にシャワールームでも作っといてくれ!!」
「……は?」
スペシャルウィークとテイオーが首を傾げるも、その疑問に答えることなく今度はオルガが一人で森の中に入って行ってしまった。
慟哭にも近い叫びを上げるその意味を、ペコリーヌとキャルだけが察するように引きつった笑みを浮かべていた。
オルガは森の奥深くで、早速フェシウムの採取に取りかかろうとしていた。
だが、オルガの表情は険しい。 その理由は、ペコリーヌの口から告げられたフェシウムの入手方法にあり、オルガは正にその入手元の前に立って息を呑む。
つい昨日、彼女が抱えながら肉の美味しい大人しい生物だとのたまっていた、二本足の動物の前に。
「要するに、メシ食わせときゃ簡単に得られるって寸法だろ……?」
オルガは覚悟を決め、フェシウムを手に入れる為の手段を実行すべく、インベントリ内にて『炭素』を合成、あらゆる動物の餌になる『クリーチャーペレット』を生成した。
「……よし、これでいいだろう」
作りたてのペレットを動物の前に投げ置いて様子をうかがうと、動物は餌の匂いに釣られペレットを食べ始める。
その様子を見て、オルガは静かにその場から少し距離を取った。
動物はオルガが作ったペレットを食べると、餌をくれたオルガに好意的になったのかこちらへと近づいてきた。
そしてオルガの前で背を向け、小刻みに震えてながらその場に屈みこんだ。
(おいおい、何も俺の前ですることねぇだろ……)
そう思いながらも、オルガはさっさと必要な物を回収してしまい為、動物の意図を察して黙々と様子をうかがっていた。 しかしいつまで経ってもオルガが望む物は出てこない。
何事かと思って動物の身体に『分析レンズ』を当てて調べてみると、そこでようやくオルガは理解した。
動物の下腹部が、不自然に膨れたままになっているのを。
「……何だよ、詰まってんじゃねぇか」
オルガはため息交じりに呟くと、動物の腹をさすってやることにした。
「いいから出せ。 俺だってこんな事したくねぇんだ、ほらあくしろよ……」
動物が必死になって踏ん張っている。すると少しだけ動きを見せたと思った瞬間……。
「うわっ!?」
形容しがたい物体が動物のアレから飛び出してきた。 オルガが慌てて身を引いて躱したそれは、勢いよく地面へと落下する。 身も蓋もなくハッキリと言うならば動物の排泄物だ。
「うげぇ……ペコリーヌから聞いてたけどこれがフェシウムの原料って言うのがなあ……」
そう、嫌そうな顔をするオルガの言う通り、フェシウムとは嫌な臭いの元となる結晶状の化合物……言わば糞便臭の原因となる成分である。 これを栄養プロセッサで発酵させることで、どういう訳か野生酵母を抽出することが出来るというのだ。*1 言ってみれば動物の糞から取り出した酵母菌でパンを発酵させるという訳なのだが、あのペコリーヌが食べ物に違いないとは言え、これを安易に勧めることを流石に躊躇したというのも納得だろう。
「むしろこれが分かってたからレシピを改良したんだろうな……クソッタレ、あいつらにだけは絶対に話せねぇな」
嫌そうな顔をしているオルガだが、ここまでやった以上はフェシウムを回収しないことには話が進まない。なのでオルガは目を背けながらも、さっさと動物の糞からフェシウムの結晶を回収する。
「ああクソ、最悪だぁ……ペコリーヌ等がシャワー作っててくれるの期待するかぁ」
アイテムの回収は全自動でエクソスーツが行ってくれるものの、動物の糞に間接的に触れることに関してはどうにもならない。
「あーもう、この世界に来てからずっとこうだぜ? 何なんだよこの世界は、マジでありえねーぞ!」
そんな愚痴をこぼしながらも、オルガは必要分なんとかフェシウムの回収に成功した。
これで後はさっさと基地に戻り、こっそりフェシウムを発酵させて野生酵母を抽出するだけで済むはずだ。 後のことは知らない。勝手にやってくれとばかりにオルガはその場を後にしようとした――――その時だった。
「さてと……帰るか――――ん?」
気が滅入りそうなのを我慢して重い腰を上げようとするオルガだったが、不意に今し方出すものを出したはずの動物が震えている事に気がついた。
よく見れば、フェシウムの原料を排出した部分が心なしか震えていることに気付く。
「お、おいちょっと待て……まさか」
嫌な予感を覚えつつも、オルガは身を引いて慌ててその場から離れようとした。 しかし悲しきかな、無理な姿勢で屈んでいたことが祟って足が痺れ、立ち上がろうとしたところでもつれ倒れ込んでしまった。その瞬間、先程まで苦しそうにしていた動物の腹から轟音が鳴り響く。
この子に起こりうる惨状を、オルガは直感的に察してしまった。
「まま、待ってくれ! これ以上の用を足すだけだったら、わざわざ俺の前で出す必要なんかないだろ!? 俺以外ならどこにでも出してくれ!! 何度でも出してくれ!! 鉄華団団長の俺の前だけは――――――!!!!!!」
……何が起きたかを詳細に語るにはあまりに見苦しいので、擬音のみの抽象的な表現にならざるを得ない事は悪しからずでお願いしたい。
それからと言うもの、見るも無惨になりながら辛くも帰還したオルガを出迎えたのは、全身が汚れたオルガのあまりの臭気に、優れた嗅覚がアダとなって卒倒するウマ娘二人に、汚れたまま基地の中に入らないでとシャルロット達には怒られ、あまりに踏んだり蹴ったりな扱いだった。
唯一救いがあるとすれば原料のフェシウムについて悟られなかったのと、事情を悟ってエクソスーツの洗浄を手伝ってくれたペコリーヌとキャルの優しさが身に染みたと言うことだろう。
海水で体の汚れを落としながら、小声で話し合うオルガとペコリーヌ達は神妙な面持ちだ。
「ねぇアンタ、本当にあの子たちにあんなのを食べさせる気でいるの?」
「……食えるように加工はしてあるんだからよ。 そう悪く言うもんじゃなぇぞ」
そう言うオルガの口ぶりは歯切れが悪い。 レシピさえ知らなければ、スペシャルウィーク達はただおいしいパンを頬張ると言う、一見無邪気な光景が繰り広げられるだけなのだろう。 しかし事情を知る自分達から見れば、だまし討ちに近い後ろめたさがあるのは致し方のないことだった。
「俺は止まんねぇからよ……責任は全て俺がとるぞぉ」
「少しは立ち止まって考えた方がいいと思いますね☆」
「……いずれにせよ、アタシ達地獄に堕ちるかもしれないわね」
必死でごまかすようなオルガに対し、ため息交じりのペコリーヌとキャルの呟き。 それは容赦なくオルガの良心に訴えかける。
「今は食事が数少ない楽しみなんだ……あんなに食べたそうにしてるウマ娘なんか見たらよ。 どうにかしてやりてぇと思っちまうんだよ」
「……事情だけは話した方が良いような気するけどね」
そう言われてしまえばキャルも無碍に突っぱねられなくなってしまう。 こうなったらと覚悟を決め、ペコリーヌ共々地獄に付き合うこととした。
和気藹々と食材を調理するスペシャルウィークやラウラ達の残酷なまでに楽しげな姿を遠目に、オルガ達はこみ上げる感情をこらえながら、その後に訪れる食事の時間に思いを馳せるのであった。
この後、しっかりレシピがバレたので落とし前をつけさせられた。