No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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300(光)年だ……


第11話

 朝一番、オルガ達の基地は剣呑とした空気に包まれていた。

「分かった!? ダンチョー! 頼むから本当に大事なことはちゃんと言って!! もう少しで大事(ガイドライン違反)に発展する所だったんだからね!?」

「酷いですよオルガさん! 無害だからって『アレ』をその、食べさせようとするなんて!」

「「「すみませんでした」」」

 オルガとペコリーヌ、キャルは正座させられ、残り四人が取り囲んで非難の声を上げていたのだ。

 特にオルガに至ってはエクソスーツを着ているにもかかわらず、中にいる人間を直接殴られたかのようにアザや鼻血を流し、精も根も尽き果てたように項垂れていた。

 

 先日の食事から一日経ち、興味本位でレシピを調べてみたシャルロットの手によって、パンに使った『野生酵母』のレシピが発覚。 材料を取りに行って戻ってきたオルガの状況もあって、全てを察した彼女により情報は何も知らなかった残りの三人に共有。

 それからと言うもの激高した面々によって三人は夜通し問い詰められ、特にわざわざ知っていて材料まで律儀に取りに行ったオルガは、黙って食べさせる気満々だっただろうとやり玉に挙げられ、すっかりボロボロに叩きのめされてしまったと言うわけだ。

 

「はあ、もういいよ……自分だけ食べずに難を逃れようとはしなかったし、今回は許してあげる」

「ただし! 今後はこういった際どい食材を黙って食べさせようとはしないでもらいたい!」

「「「はい」」」

 流石に堪えただろうと思ったのか、シャルロットとラウラの口から許しの言葉が放たれた。

 オルガ達も流石に安堵したのか、揃って肩の力を抜いていく。

「ううっ、それにしてもアレが材料だなんてあんまりですよ……」

「こんなでもきちんと調理できちゃう機械が悪いのかなぁ……とにかく、暫くパンは見たくないや」

「……本当にすまねぇ、返す言葉もねえ」

 トラウマを植え付けられ、気分が悪くなったウマ娘達に頭を下げるオルガだが、そんな彼の様子にシャルがため息をつく。

「全くもう。 気にするくらいなら最初からやらなきゃ良いってのに……それはそうとして、いつまでも落ち込んでいられないから、気分変えていこ!」

 呆れたように、しかしこの気まずい空気をなんとかしたいと、シャルロットは元気づけるように声を上げる。

 それを受けてオルガも少しは気持ちを持ち直したのか、「そうだな……」と小さく呟いて顔を上げた。

 

 

 

 

 

 それからの材料集めは割と順調に進んだ。

 エクソスーツに納められた情報に従い、この世界でも価値のある部類にして比較的入手しやすい資材として知られる『銀』『金』『プラチナ』をかき集めるため、オルガとIS組は宇宙空間でそれら資材をかき集めるために小惑星帯の採掘を行った。

 地上に残ったウマ娘達と美食殿組は食料集めの継続に基地の設営を続け、入り口のすぐ傍である真っ白な砂浜に、簡素だが立派な宇宙船の『離着陸場』も設けることもできた。 これは別の星系に飛び立つ記念すべき日に、少しでも格好をつけたいというトウカイテイオーの希望だった。

 資金と材料……特に必要だった『マイクロプロセッサ』も入手し、念願の『ハイパードライブ』の導入は最終局面を迎えていた。

 

 

「よし……これで準備OKだ」

 そして波乱のパン祭りから1週間後、オルガは離着陸場に佇む自身の宇宙船にインストールした、燃料満タンのハイパードライブにご満悦だった。 いつでも飛び立てるようエンジンを稼働しつつ、離陸を待ちわびるよう待機するラディアントピラー号の姿は絵になる光景だった。

「これで、本当に星系を飛び越えてワープが出来るんだよね?」

「謳い文句を信じるなら、な。 まあ、昨日の宇宙ステーションで見た貨物船の姿を見りゃ、そんなヤバいもんでもねぇだろ」

 期待の色を隠せないシャルロットに、オルガはヘルメットの上から頭を掻いて答える。

 

 今日の目標は昨日手に入れた設計図通りに製作した、このハイパードライブを利用した恒星間のワープにある。 とは言え安全性のテストの為、とりあえずオルガの宇宙船一機分だけをかき集めて作ったこの装置に一抹の不安もあるが、一方でそれ以上にワープとい未知の体験を前に皆が色めきだっている様子だ。

 

「行き先は300光年先の星系だったな」

「光の速さで300年かかる距離を一瞬で飛ぶなんてやばいですね! えっと、確かそこで燃料の設計図も回収するんでしたね」

 ペコリーヌが基地のコンピュータが算出した座標を見ながら確認すると、オルガは肯定して答える。

「ああそうだな。 今回こいつに注入した燃料は丁度往復一回分しかねぇ。 だがここで設計図を回収して帰ってこれば、今後は好きに宇宙を旅できるって寸法だ!」

 オルガの言葉に皆が歓喜の声を上げた。 そこにトウカイテイオーが歩み寄ってオルガに提案を持ちかけた。

「ねぇねぇダンチョー! ボクもついてっていい?」

 期待に胸躍らせる彼女の申し出に対し、驚く一同。 しばしオルガは腕を組んで考え込む素振りを見せる。

(同行、か)

 人材も物資も色々と足りていない現状、一緒に行く仲間は多いに越したことはない。

 しかし今回のワープに関しては当然ながら少なからずリスクはある。 当然だ、失敗すればヘタをするとこの星系に帰ってこれず、仲間が分断される危険性があるからだ。

 自分一人がしくじるだけならまだしも、仲間を巻き込むことを恐れるオルガにとってはありがたくも手放しで歓迎することは出来なかった。

「ダンチョー、帰ってこれなくなるリスクがあるのはボクも分かってるよ」

悩むオルガの気持ちを察したのか、トウカイテイオーはそっと手を差し出しながら言葉を続ける。

「でもね、ボクだって鉄華団の仲間なんだ。 オルガ一人に危険なことをさせられないよ」

「テイオー……」

仲間(家族)を危険な目に遭わせたくない気持ちは同じなんだよ! だから、もっとボク達を頼って!」

 そう言ってはにかむテイオーの手を、オルガは照れくさく笑って握り返した。

「わーったよ、頼りにしてるぜ? 不屈の帝王!」

 オルガとテイオーのやりとりを見ていた面々から歓喜の声が舞い上がる。

「――あと一人ぐらいは一緒に乗り込めるのよね? アタシも付き合うわ」

 彼らのやりとりに感銘を受けたか、キャルも同行を申し出た。彼女もやはりオルガを一人で行かせたくなかったようだ。

そんな彼女に、オルガは感謝の念を抱きながら首を縦に振った。

「ああ、よろしく頼むぜ」

「……ごめんねオルガ、こうなるなら僕が一緒について行くべきなのに」

 彼女達のやりとりを見ながら、残念そうに口を開くシャルロット。 自他共に認めるオルガの恋人を名乗るのなら、いの一番に同行を申し出るべきだと彼女は思っているが、先述の通りハイパードライブは一つしか製作していない。 それに絶対防壁で守られているとはいえ、安全かどうかを検証できていない機械をISに搭載し、跳躍先で生身で放り出されるリスクを鑑みたからこそ、オルガの宇宙船に搭載する運びとなったのだ。

「すまねぇなシャル。 それにラウラもだが、二人にはISを基地を運営する皆の為に使ってやって欲しいんだ」

「分かってるよ……オルガ、僕の目が届かないからって浮気しちゃダメだよ?」

「するかよ」

 恋人同士の軽口を叩く2人に皆が苦笑しつつ、いよいよ出発の時を迎えた。

 

 オルガの宇宙船に3人が乗り込み、残りがそれを手を振って見送ってくれている。

「オルガ! 気をつけてね!」

「無茶だけはするな、オルガ団長!」

「テイオーさんも! 無事に帰ってきてくださいねー!」

「キャルちゃーん! 新しい食材を期待してますよー!」

 見送りに来ていた面々がそれぞれの言葉をかけていく。

 それに応えるように手を振るオルガ達を乗せた宇宙船が、ゆっくりと垂直離陸する。

 手を振って見送る皆がいる地上が離れていく姿を見ながら、必ず帰って来るという決意を胸に秘め……オルガは操縦桿を握りしめ一気に大気圏を離脱した。

 

 

 やがて見えてきた宇宙空間に、否応がなく高まるオルガ達の緊張。

 視界一面に広がる無数の銀河。 まるで宝石箱のように煌めく星の海の中を、一隻の宇宙船が飛翔していく。

 どこまでも続くような闇と光の狭間の中で、彼等の乗る宇宙船は加速を続け……そして静止した。

 船内のコクピットに広がるHUD、そこには新たに追加したハイパードライブにより、他の恒星系へのワープ機能が追加されているのが確認できる。

 オルガはコンソールを操作すると、続いて浮かび上がるはオルガの現在いる星系とその他星系を内包する巨大な銀河。

『ユークリッド銀河』……それが俺達のいる銀河系の名前か」

 かつて訪れた異世界の話で自分の元々いた世界も同じかは定かでないが、それでも自分達が元いた銀河系の名前は天の川銀河だった筈。 本当に別の宇宙に来てしまった事実を改めて突きつけられ、オルガはどこか感慨深いものを感じていた。 

「……っと、いけねぇ。 今はワープが先だ」

 が、それは後回しにして今はやらなければならないことがある。

 操縦席のすぐ後ろに座っているトウカイテイオーとキャルに、これから行う事を改めて問い掛ける。

「二人とも、今からいよいよハイパードライブを起動するぜ。 本当に良いんだな?」

 あらためて二人の意思を確認するも、決心の固い二人は迷い無くうなずいた。

「……行くぞお前等!」

 緊張は隠せないものの決心は強いテイオー達を見て、これ以上の問いかけは不粋と判断したオルガは、迷うことなくハイパードライブを起動した。

 

 

 ――――その瞬間、オルガ達の乗るラディアントピラー号は亜空間に突入! 極彩の上下左右の概念のない摩訶不思議な空間を通り抜ける形容しがたい違和感に、思わず顔をしかめる三人。

「っぐ……!? なんだこりゃあ……!!」

「ぴぇえ……なんか変な感じ……」

「な、何よこの雰囲気……これが異次元空間ってやつなのかしら……? うっぷ」

 如何ともしがたい違和感に音を上げたのはキャルだった。

 吐き気を訴える彼女に、慌てて背中をさするトウカイテイオー。

 一方、オルガは眉間にシワを寄せながらも、計器類の数値を確認していく。

 むちゃくちゃに動く計器類の数字を前に、オルガは本当に成功するか内心不安だったが――――それは杞憂に終わった。

 時間感覚すらあやふやになる中、突然前方に輝く光が見えたのだ。

 

 

――――出口だ。

 

 機体はひとりでに光に導かれるように更に速度を上げていく。 それに伴い機体を包み込む違和感のようなものは徐々に収まっていき……そして、ついに……異空間をくぐり抜けたオルガ達の前に広がる光景は、見慣れぬ星々と変わらず煌めく恒星の大海。

 オルガ達の歓喜の声と共に目前に広がったそれは、ハイパードライブが紛れもなく成功した事実を告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

ネイビーズ 星系

ユークリッド銀河  Biscuit Griffon が発見

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダリィ……気が乗らねぇ」

 青々とした空の広がる、昼下がりの中央トレセン学園が屋上でエアシャカールは憂鬱に呟いた。

 鋭い目つきに左半分をたくし上げたくせっ毛のパンクな見た目を裏切らない、つっけんどんで誰に対しても歯に衣着せぬ態度である一方で、理論派で数学に聡いインテリ系でもあると知られている。

 そんな彼女はノートパソコンを乱雑に閉じ、仰向けになって青空を見上げる。 この日の彼女の気分と裏腹に、雲一つない快晴だ。だが、その目はまるで曇天のように暗い。

 それもそのはず、彼女がこうして屋上で過ごす理由は天気とは関係ないところにあった。 その理由とは――

 扉が開く音がしたかと思うと、エアシャカールは心底面倒くさそうに舌打ちをする。

「よ、相変わらずシケた顔してんな!」

「うっせぇ」

 現れたのは長い芦毛をたなびかせた容姿端麗の、しかし破天荒な行動で一悶着を起こすことで知られる学園屈指の問題児。ゴールドシップである。そんな彼女を見て、不機嫌そうな顔を隠そうともしないシャカールに、全く気にせず近寄っていく。

 彼女の隣にあぐらを掻くと、いつもの豪胆さを感じさせる笑みを浮かべて口を開く。

「ここんとこずっとトレーニングにも身が入らねぇんだってな?らしくねぇぞ?」

「うるせえよ、お前に関係ねぇだろ」

「おーおー、すげーうんざりしてんじゃねーか! どうしたんだよ、やっぱり『例の件』が関わってんのか?」

「関係ねえよ。 ただどいつもこいつも辛気くせえ顔してて、同じ空気吸ってんのがいい加減タリィんだよ」

 突き放そうとするようなエアシャカールの物言いではあるが、言葉とは裏腹にどこか弱々しい様子を感じ取り、ゴールドシップの自称ゴルシちゃんレーダーが反応を示したようだ。

「お、シャカール。 お前もそう言うの気になるタチってか、お? お?」

 ウザ絡みするゴールドシップに、シャカールは眉間に深いシワを寄せため息をつく。

「関係ねぇって言ってんだろ? 第一……」

そこで一旦言葉を区切り、ゴールドシップの様子を一瞥して続けた。

「行方不明者が出たってのはお前のチームの連中だろがうよ。 気にしてねぇフリしてウザ絡みしてんじゃねぇよ」

 エアシャカールは指摘する。

 

 それはドリームトロフィーリーグの行われた一ヶ月前に遡る。

 スペシャルウィークの保護者にしてウマ娘並みに速く走れ、火星の王を自称する変わり者として名を知られていたオルガ・イツカと、その仲間達である三日月とマクギリスが忽然と姿をくらました。 盛大なウィニングライブの後別れも告げず、一向に帰ってこないままに遂に捜索願まで出た三人に対し、特にオルガを実の兄のように慕っていたスペシャルウィークの泣いている姿が痛々しかった。

 

 そんな彼女が所属チーム『スピカ』と共に立ち直ろうと奮起して三週間後、スペシャルウィークはチームメイトのトウカイテイオー共々、オルガ達の後を追うように突如二人して行方不明になってしまった。

 朝方の学生寮の部屋から痕跡一つも無く神隠しに遭い、二人の同室の住人であったサイレンススズカとマヤノトップガンが慌てて寮長に相談。 立て続けに起きた失踪事件に学園内で必死の捜索が行われるも見つかることはなく、遂には彼女達までも警察のお世話になるまでに事態は悪化したのだ。

 

 その事に触れられたゴールドシップは一瞬図星を突かれたように硬直し、しばし目を泳がせた後に深々とため息をついた。

「あの三バカをはじめ、スペに加えてテイオーまで居なくなっちまってよぉ、流石にマックイーンも憔悴して張り合いねぇんだよ。あの二人はいっつも一緒にいて、仲良しさんで、それが当たり前だったのにさぁ。 あいつ、日に日に元気無くなってってさ……こんな感じで絡んでもノってくれなくってさ、このゴルシちゃんも張り合いねーんだよぉ」

「チッ、それで俺に何で絡んでくるんだよ……」

 舌打ちしながらエアシャカールは呆れた表情を浮かべた。

 だが、ゴールドシップはそれを意にも介さず、シャカールの肩に手を置いた。

「だってよ、そこにきてお前までそんな辛気くさい面してたら、誰がアタシの絡み相手になってくれんだよぉ」

 エアシャカールはゴールドシップの手を払う。

「だから俺にどうしろってんだ? 行方不明者でも探せってか? それこそ警察の領分だろ――――って!」

 ゴールドシップはしれっとエアシャカールのノートパソコンを勝手に操作していた。

そして、とあるページを表示させる。

「おい! 勝手に人のパソコン触ってんじゃ「いーじゃん減るもんじゃねーし――――お、おい何だこれ?」……あ? 人が真剣に話をしようとしてんのに何を……」

 血の気の引いた顔でゴールドシップが見せつけた画面を見た瞬間、シャカールは戦慄した。

 

<■■ 時が来れば お前は我々を見いだすであろう ■■■■16 16 16 16 16 16 16■■>

 

「……俺のパソコンに何かしたか?」

 ゴールドシップは首を横に振った。

「……何も弄っちゃいねえ。 だけど蓋を開けた途端こんなメッセージが届いてたんだ……心当たりあんのか?」

「……知るかよ」

 ゴールドシップの問いに対し、シャカールは吐き捨てるように答えた。

そうこうしているうちに予鈴が鳴る。

「……もう行かねーと遅刻しちまうぞ。ほら、とっとと教室行け」

「あ、ああ……じゃーな」

 ゴールドシップをあしらいながら、怪しげなメッセージを見てしまったことに不安を覚えつつも、シャカールもノートパソコンを抱えてその場を立ち去った。

 

彼女の脳裏にへばりつく奇妙な数字の羅列に、例えようのない違和感に苛まれながら。

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