No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~ 作:Easatoshi
第12話
そこは、オルガ達の見慣れない星々の集まりだった。
「やったねダンチョー! 本当にワープ成功しちゃったもんね!」
「ああ、まさかこんなに上手くいくとは思わなかったぜ!」
「いって貰わなきゃ困るわよ。 でもま、ワープ中は違和感でどうにかなりそうだったけど、無事に成功して何よりだわ」
狭い船内で喜びを分かち合う三人。 特にトウカイテイオーは隣のキャルにひっついて歓喜の声を上げるあたり、その喜びようの程が窺えるだろう。
(キャルの言う通りだ。 無事に成功してくれて何よりだ)
少なからず不安に感じていたワープ試験の結果に、オルガは内心安堵していた。
自分一人ならまだしも、一緒についてきてくれた仲間二人を巻き添えにすることは絶対に避けたかったからだ。 リスクを承知の上で共に旅に出た彼女達の選択を否定はするまいが、それでも鉄華団の団長として二人を無事に安全に帰すことは使命であるとさえ考えていた。
(……おっと、あんまり自分一人で背負いすぎるのは良くねぇか――――ん?)
ラディアントピラーの音声ガイダンスから聞こえてきた言葉に、ふとオルガは反応した。
<宇宙船モニタリングシステムレポート:ハイパードライブ ERROR ■■>
<ワープ燃料 残り僅か>
<燃料用資源の探索開始...探索中...探索中... ...>
<発見 ワープ燃料用資源までの距離:16 16 16... 16... 1...6... 16kls 燃料用資源へのガイドを開始しますか?>
「おおそうだ、忘れてた」
ハイパードライブの材料集めの最中に見つけた燃料の『ワープセル』は、回数にしておよそ一往復分。 あるものを使わせて貰っただけで、そのレシピ自体を入手しているわけではない。 むしろレシピの在処を検索した結果が、300光年離れたこの『ネイビーズ星系』にあるのだから、手ぶらで帰ってしまえば今後の予定に差し支えてしまうかもしれない。
「じゃあよろしく頼むぜ」
<了解。 ガイド開始ルート探索中...>
オルガがガイダンスに従って材料の在処を検索すると、指し示す先にあったのは一つの青い惑星。
スキャナーを作動させ、惑星の詳細をチェックする。
EDN-3RD
惑星
氷に閉ざされた土地
二酸化物
フロストクリスタル
活性化銅
コバルト
攻撃的センチネル
「氷の惑星……か、それよりも」
オルガはスキャン結果の最下部に書かれている『攻撃的センチネル』の存在が気がかりだった。 あの灼熱の惑星で襲いかかってきたドローンの存在が思い出される。
「ダンチョー、このセンチネルって」
不安げなトウカイテイオーの言葉にオルガは無言でうなずいた。 今回の探索もまた何かがある。 そんな予感を感じずにはいられなかった。
「……悩んでてもしょうがないわ。 早いところ用事を済ませちゃいましょ」
「そうだな。 皆気を引き締めていくぞ!」
オルガは座標の指し示す惑星『EDN-3RD』に向かうべく、パルスドライブを起動。 亜光速巡航により小惑星帯を容易く突き抜けつつ、一気に件の惑星へと距離を詰めていく。 果てしない宇宙の旅を身近にした文明の機器を頼もしそうに見つめつつも、それらがいよいよ大気圏突入を控えたところで、突然レーダーが警告音を発し始めた!
オルガが異変を感じ取ったのも束の間、突如として巨大な貨物船が目と鼻の先に、青白い輝きと共にワープアウトしたのだ!
「これはッ!?」
緊急的にパルスドライブが激突回避の為に強制解除されるも時既に遅し、大型貨物船はオルガたちの船と接触! 身体全体を揺する衝撃と船内の悲鳴に意識を刈り取られそうになりながらも、何とかオルガは阿頼耶識のコネクターを介してラディアントピラーの姿勢制御を試みた!
しかし、オルガはノイズの走る宇宙船のキャノピー越しに、絶望的な光景を目の当たりにする。
遠ざかっていく破砕したメインエンジンの残骸と貨物船の激突した痕跡、そして目前に迫っていた青い惑星の大気圏に飲み込まれていく瞬間を。
「ダ、ダンチョー!!」
「やばいわよ!! このままじゃ地面に激突よ!!」
激しい揺れと共に厚い雲に突入し、パニックに陥った二人の声にせき立てられながらも、オルガは必死に頭を回しながら冷静に努めようとした。
メインエンジンは破損、推進力を得るのに十分なエネルギーは発生できない。 幸い姿勢制御スラスターは生きている……そう判断すると、オルガは力一杯操縦桿を握りしめる。
「クソッタレ! 不時着するしかねぇ!!」
オルガは堕ち行く船を飲み込む惑星の重力に抵抗を試みるも、その言葉と同時に船体が大きく揺れ動いた。
それはまるで何かに押し潰され揺すられているような感覚だった。
身体を三次元的にシェイクされながらも計器を確認すると、機体にかかる大気圧に異常な変動が発生している。 どうやらこの星の大気には巨大な積乱雲があったようだ。
機体の空中分解という最悪のシナリオに戦慄する三人、しかし次の瞬間。
轟音と共に雲の外に放り出され、ようやく見えた地上の光景――――雪の舞う夜空の下、寒々とした青黒い海に木々の生い茂る銀世界がそこにあった。
「ピエェッ!! もう地上が見えてるよぉ!!」
「――――オルガ!!」
「ああ分かってる!!」
恐らくはキャルの意図も同じ所にあるのだろう。 オルガは瞬時に機体を海に不時着させる決断を下した!
高高度からの落下において水面に叩き付けられるのも危険には違いないが、硬い地面に機体を擦りつけるよりはまだマシであった。
水面の接触により機体がバウンド、そして一気に船体が大きく傾く!
機体が地面に落ちた野球ボールのごとく凄まじい勢いで跳ねる中、それでもなんとかバランスを保とうとスラスターを吹かし姿勢を制御する!
コクピットに響き渡るきしみ音は機体の断末魔の叫びなのか、それともパイロットである自分達の悲鳴か!?
ギリギリまで減速を続けながら、ついにラディアントピラーの船首が海岸に接触する。
そして遂に機体は限界を迎えた。 打ち上げられた魚のように地面に打ち上げられた機体のキャノピーが、ついに気密を保てなくなった。 隙間の空いたキャノピーに冷たい空気が流れ込み、傷だらけになったそれは付け根もろとも引き剥がされた!
「「「ッ!?」」」
外界との隔たりを失った三人、更に都合の悪いことに期待と身体を固定するベルトも破損した! 三人はそれぞれ銀世界へ身体を乱雑に放り投げられた。
オルガはとっさの判断でブースターを作動! かつ激突の衝撃を和らげる為派手に地面を転がり、粉雪を巻き上げる! それでもオルガの全身に耐えきれない衝撃が走った――――
ネイビーズ星系 Miho Nishizumi が発見
■■惑星 ―氷に閉ざされた土地―
気候 轟音を立てる氷の暴風
センチネル 憎悪
植物 生命レベル 高4
動物 生命レベル 低2
「ゴハッ! と、止まるんじゃねぇぞ……」
オルガ団長、ヘルメット内に吐血して
「……痛ってぇ……!! く、くたばってる場合じゃねぇ……二人は、キャルとテイオーはどうなった……!?」
なってしまうも、オルガ自身の気力ですぐに蘇生する。 とっさの機転で肉体的なダメージをある程度緩和出来たためだろう。
<警告:テクノロジーに致命的ダメージ>
しかしやはり地面に叩き付けられたショックは大きかったようだ。 オルガはエクソスーツの
どうやらジェットパックの機能不全と共に、ストレージを破損してしまったようだ。 手持ちのアイテムは散乱し、何とか手元を離れずに済んだマルチツールも損傷が酷い有様だった。
そんな満身創痍の中で、雪の上に横たわる身体を軋ませながら何とか起き上がる。 一緒に放り出された二人にも同じだけのダメージに見舞われたかもしれない。 そう考えていると、少し離れた位置に共に投げ出された同乗者達の姿を見た。
「お、おい!! 返事をしろ!! キャル!!」
そこにはトウカイテイオーを抱えるようにして、共に雪に埋まりかけたキャルの姿があった。 オルガは痛む身体にムチを打ち、足を引きずりながら二人の下に向かう。
「キャル! 大丈夫か!? キャル!!」
「うっ……くあぁ……そ、そんな大声出さないでよ……怪我に響くでしょ?」
呼びかけながら彼女達を掘り起こすオルガに対し、キャルは頭からうっすら血を流しながら、か弱い声でそう返した。
テイオーも気絶しているだけで、幸い怪我事態は避けられたようだ。 地面に叩き付けられる直前に、キャルがテイオーを身を挺して庇ったのだろう。
幸いにして二人の生存はこれで確認された――――しかし。
「色んな所ぶつけて、身体の骨が、折れちゃった……みたいね……!!」
「!!」
キャルのエクソスーツは特に損傷が酷かった。 幸い生存の要である『危険防御システム』と『生命維持システム』に異常は発生していないが、オルガ同様その他の機能が全て著しく破損していた。 何より目に余るのが、あり得ない方向に曲がってしまったキャルの右側の肩周りと脚部だろう。
「全くの無傷なのは、あたしのマルチツールぐらいかしら……テイオーも、怪我は無いけどバックパックを故障してるみたいね……!!」
「もういい!! 無理に喋んな!」
「う、うう……痛たた……あれ? ボク生きてる……って!!」
オルガとキャルのやりとりを聞いて意識を取り戻したのか、トウカイテイオーが目を覚ます。
隣で横たわる重傷のキャルの存在と、同じくスーツをボロボロにしたオルガを見て、ただ事でない様子を察したようだ。
「まさかキャル、ボクを庇って……!?」
キャルはまだ動く方の左腕を差し出して制止する。
「自分を責めるのはナシよ? アタシが勝手にやった事なんだから、謝ったら許さないわよ?」
「で、でも!」
「……そうだな、キャルの言う通りだ。 それよりも現状の確認だ」
キャルの意思を汲んで、オルガはテイオーを窘め今現在置かれた状況を整理する。
宇宙船ラディアントピラーは片翼とメインエンジンをもぎ取られ大破、キャノピーまで剥がれて気密を保つことは出来ず、激しく煙を上げている。 嵐が過ぎ去るのを待つ待避場所として使うことも叶わないだろう。
次に自分達のエクソスーツ。 これも酷い、皆一様にストレージを破損し万一に持ってきた資材は全て散らばった。 回収しようにも雪が吹雪いて銀世界に埋もれてしまっている。 今から律儀に回収するのは砂漠の砂から砂金を回収するがごとし、現実的でない。 マルチツールもテイオーの分も含め破損、使用不能である。 無事なのはキャルの物だけだろう。
「資材もかき集める道具も無いんじゃ修理もままならねぇな……」
「え、でもキャルのマルチツールがあるんじゃ――――」
テイオーの疑問にキャルが首を横に振る。
「アタシの奴は武器のテクノロジーしかインストールされてないし、それに無事って言っても燃料を補給する機構も壊れてるわ……これを直すには部品そのものをどこかで回収しなきゃ」
トウカイテイオーは肩を落とした。
正に八方塞がり、とは言えこのまま手をこまねいていれば座して死を待つばかりだろう。
救援は恐らく期待できない……とにかくこの状況から脱するために、立ち直るための資材が必要だろうとオルガ達は話し合う。
その時であった。 大破したラディアントピラーの通信機器に着信音が聞こえてきたのは。
機体の大半の機能がやられていると思っていたが、まさか無線機は生きていたのだろうか?
「……ひょっとして、さっきぶつかった貨物船からだったり?」
「だったら話は早ぇ! ぶつかった落とし前はキッチリつけて貰うぜ!」
期待と怒りが入り交じった複雑な感情だが、助かる見込みはあると期待を抱きながら、オルガはキャルの介抱をテイオーに任せて機体に駆け寄った。
そして着信相手の情報を見た際に飛び込んだのは『16/16/16/16』と書かれた謎の数字だった。
息を呑むオルガだったが、こちらが着信を受け入れる間もなく無線機は勝手に応答を開始する。
<通信要求... 発信源:不明... あなたは決して kzzktt ひとりでは――教えて欲しい、あなたが何者なのか。 私は kzzkttk>
<あなたは私を置いて去った kkzzktt なぜ kzzttkk>
「何を言ってやがる……?」
オルガは困惑する。 どうやら、今になってあの謎の通信相手が交信を試みてきたようだった。
しかし現状は緊急事態だ。 得体の知れない相手とやりとりをするヒマはない。
<もちろんそうだろう そう言うと思っていた kkkttkzzz あなたも皆と一緒 kzzttkk>
「おい! いい加減にしやがれ! どこの誰のこと言ってやがる!? こっちは呑気に相手してる場合じゃねぇんだ!」
訳の分からないことを一方的に語る何者かに、怒り混じりに受け答えするオルガ。
こんなやりとりをするヒマがあるなら助けにでも来て欲しい、そう言う苛立ちを露わにするが……しかし返事はない。 チャンネルを開いたまま何度も問い掛けるが、通信機器からは何も返ってこない……そして、遂には機器から火花が上がり、完全にとどめを刺されたようだ。
しばし頭を抱えて項垂れるが、束の間を置いてオルガのスーツに座標が転送されてくる。
「何なんだ一体……」
「ダンチョー?」
外を振り返ると、キャルに肩を貸して介抱しながら一緒に歩いてきた、トウカイテイオーの不安げな姿がそこにあった。
「どうだった? 救援は来てくれそうなの?」
オルガはぐっと堪えて首を横に振った。 期待を持たせてやりたいが、下手な嘘は余計に不安な二人を落胆させかねないだろうと。
当然のように気落ちするトウカイテイオーたちだったが、合わせて奇妙な座標を受け取ったと、その上で今はとりあえずそこを目指そうと告げた。
「……信じていいの?」
「分からねぇ。 だがこんなメッセージを律儀に送ってくるんだ……信じて行ってみるしかねぇだろう」
「そうね。 ここに居たって何も変わらないんだから。 ……冷やかしだったらぶっ飛ばしてやるわ」
「「だな(だね)」」
完全に蛇足だけど、実は異世界オルガ書く際にお題をこの『No man's sky』にするか、もしくは『メトロイド フュージョン』にして、オルガが自分の能力やグランドオルガの力を奪い去った『X』と戦う話を書くか悩んでた時期があったり。
2023/6/16
ちょっと矛盾点が見つかったので一部修正しました。
マルチツールも故障か、テイオーに至っては紛失した。
↓
マルチツールもテイオーの分も含め破損、使用不能である。