No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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第14話

 キャル達と別れてそろそろ小1時間は歩いただろうか?

 スーツの上からでも刺すような寒さを掻き分け、銀と緑のコントラストに囲まれた舞吹雪く白い大地に足跡を残しつつ、オルガはたった一人ひたすらに歩き続けた。

 命綱の危険防御システムは辛うじて生きているものの、ジェットパックもストレージも破損。 スキャナーの一部が機能不全で探索範囲が劇的に落ちている中、オルガは道中にてソジウムを回収しながらの強行軍を余儀なくされている為に、その歩みは決して速くはない。

 しかし、それでもオルガには止まっている暇はなかったのだ。

(とんでもねぇ事になっちまったもんだ……俺達はこんな所で何やってんだってんだよ!!)

 オルガはこの場に至るまでの経緯を思い返し、内心毒づいていた。 少々のリスクは想定していたが、まさかの貨物船との衝突事故でここまで状況が悪化してしまうとは思わなかったからだ。 いきなり現れたあの貨物船に恨み言の一つでもぶつけてやりたいが、それよりも今はキャルとテイオーの救助とこの極寒の星からの脱出が先だ。

 だが幸いなことにスーツのガイダンスによれば、当初目指していた『ワープセル』の設計図があるポイントにおいて、宇宙船やスーツの修理に必要な物資が手つかずの状態で放棄されていると確認できた。 エクソスーツのガイダンスには何度も導かれてきた為に信用の出来る情報ではあるのだが、別の相手とは言えつい先程何もない墜落船に誘導された身として、つい身構えて考えてしまうのは致し方のないことであった。

「……まあ良いさ。 悩んでいてもしょうがねぇ。 もし罠だったとしても、最悪力尽くで突破すりゃいいだけのことだからな――――ッ!!」

 オルガは咄嗟に近くの茂みに飛び込んだ!

 次の瞬間、青い光を放つ球体のような何かが頭上を通り過ぎていった。 茂みに隠れながら木々の隙間から様子を窺うと、それはやはりセンチネルのドローンのようだった。 その数3体。

(ちっ! またこいつらか! この星にはウヨウヨいやがるな!)

 オルガは舌打ちしながら思う。 この『EDN-3RD』へ不時着してからというもの、ずっとこんな調子なのだ。

 どうにもこのセンチネルはこの惑星を特に厳戒態勢の元で巡回しているらしく、実はキャル達と別れた後も度々こうして遭遇し、足止めを食らう羽目になっている。 キャルから預かった武器があるものの、残弾はこのツール内に装填されている分のみ。 攻撃を仕掛ければ、当然ながら無線で仲間を呼んで来るというおまけ付きだ。 今回も仕方なくやり過ごす事も考えていたが、しかし――――

 

<気象警報:嵐が接近中>

 

 それは唐突にオルガの身に降りかかった。

(クソッタレ! 今度は何だ――――な!?

 オルガの目に飛び込んできたのは、バイザーに投影されているインジケーターの文字だった。 惑星を探索中、急激な気候の変動が齎された際には警告のアナウンスと共に、視覚にも訴えかけるよう気温等のインジケーターに『STORM』と表記される。

『EXTREME STORM』だと……?」

 オルガの目に飛び込んできたのは、一単語多い『EXTREME STORM』の表記。 ただ事では無さそうな雰囲気を感じ取るオルガだが、それは正しかった。

 何故なら突然白く視界を遮るような勢いを増す猛吹雪と共に、見たことのない超低気温により見る見る内に、危険防御システムのエネルギーを奪い去られていったのだから。

 

 その気温、驚異の-202.7℃。

「ふ、ふざけんな……!! こんなの耐えられるか!!」

 満タンでも3分は持つかどうか怪しい危険防御システムのエネルギー残量が、残り後30秒を切るまでに急激に悪化した。 エネルギーを拾いながらのやっとこさの進軍をセンチネルに妨げられ、降って湧いたこの馬鹿げた数字を前に焦りを隠せない。

 オルガにはもう隠れて進行する選択の余地はなかった。

(こんな所でモタモタしてたらあいつらが危ねぇ! ……こいつで行くか!!

 決意を込めるようにキャルから預かったマルチツールのグリップを握り込み、オルガは武器の発射モードを選択する。

 選んだ武器は『ボルトキャスター』。 バースト射撃でフルオートに比べ制圧力は劣るものの、弾速に優れ弾道のブレが発生しにくいそれは、正規の訓練こそ受けているものの使ったことの無い武器をぶっつけ本番で使わざるを得ないオルガにとって、奇襲攻撃を成功させる手助けになる武器であった。

 

 覚悟を決め、オルガは道を阻むセンチネルドローンの前に飛びだした!

 突然の襲撃者に赤いランプを灯し威嚇するセンチネルドローン、対するオルガは身を低くした姿勢で突貫! 手早く銃口を向けてストックを肩に当て照準を定める。

 

 引き金(トリガー)を引く! ――――光弾がばら撒かれる! 1体に命中! 爆散!

 

 驚いた2体のドローンが直ぐさま警報を発する! 指切りにより引き金に掛けたままの指を再度引き、間髪入れずに2回目の速射! もう1体を排除!

 

 残されたのは真ん中のドローン! 仲間を呼ぶ警報を発し終えた時、オルガとドローンの距離は目と鼻の先!

 ――――オルガはストックを肩から放すと、銃床を相手のドローンめがけて振りかぶり、異世界の旅で人外と化した強大な膂力を生かし打撃!

 ドローンは叩かれた勢いで表面に凹みを作りながら雪に埋まる――――間髪入れずにマウントポジションを取り、数回打撃を繰り返す! 

 

 

 

殴打! 殴打! 殴打!

 

 

 

――――沈黙。

 

 その間僅か数秒。

 最期のセンチネルドローンは煙を噴き上げながら、物言わぬスクラップとして銀世界に横たわる。

「……何とかなるもんだな」

 オルガは頬の汗を拭うような仕草でヘルメットのバイザーを撫でた。 ひとまず敵を排除したものの、悠長に構える暇は無い。 直ぐさまここにセンチネルの援軍が駆けつけてくるだろう。 ただちにここを離れようと腰を上げたオルガだが、ふとスキャナーがセンチネルドローンの残骸に何かを探知した。

 見るとそこには、センチネルが抱えていた補給物資の存在のようで、一部はオルガのスーツやマルチツールと互換性を持っているようだった。

「ありがてぇ! ただでさえ物資が足りてねぇんだ、何個か頂いておくか!」

 残骸からはマルチツールにも使用可能な武器の『発射弾』と、その他機能強化用のテクノロジーモジュールのようだった

 オルガはそれらを持てる範囲で剥ぎ取っていくと、いずれここに来るだろう援軍を振り払うようにその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で負傷したキャルと、エクソスーツの故障で低体温症になりかけたトウカイテイオーは、雪の降りしきる中放棄された墜落船の中で、身を寄せ合いながら互いに身体を温め合っていた。

 「寒い……凍え死んじゃいそうだよ……」

 震えながら呟くトウカイテイオー。 風防の気密はしっかりしている為外に出ているよりは幾許かマシであるが、下がった体温が中々戻らない上に室温が氷点下を切っていては、体力を奪われるのは致し方の無いことだった。

 その言葉を聞いているのかいないのか、キャルはテイオーを抱き寄せた。

「……大丈夫よ。きっとオルガは戻ってくるわよ。 それまでこうしていなさい」

「怪我してるのに、傷に響かない?」

「このくらいどうってこと無いわよ。 それに、アタシも寒くてしょうがないのよ。 だからもう少しだけ、このままにしておきなさいよね?」

「うん、わかった。 ありがとね」

 テイオーは感謝の言葉を述べると、力を抜いて空を仰ぎ見る。 治まることの知らない雪に白く彩られるも、なお一面に広がる暗闇の空。 心を吸い込まれてしまうような原初の恐怖に身震いしそうになる。

 そんな心細さの中、2人は互いの鼓動の音を聞き合うようにして身を寄せ合った。 そしてどれほどの時間が経っただろうか?

 静寂を切り裂くようにふとした瞬間に2人の耳に、スーツからの警告音が響き渡った。

 

<気象警報:嵐が接近中>

 

 じっと待っていたキャルとトウカイテイオーが慌てて身を起こす。 それは遭難してから丁度小一時間が経過した頃だった。

 辛うじて生きていた墜落船のインターフェースモニターに、目を疑うような外気温の低下が描かれ始めたのだ!

「な、なんなのよこれ……-100……-128……-165……-200!?」

「嘘!? 何かの間違いだよぉ!!」

 -200℃を下回る強烈な外気温の低下、それに伴う猛烈な吹雪が容赦なく機体を襲う。

 風防の外が瞬く間にホワイトアウトしていき、計器類は次々とエラー音を吐き出す。 透明なカバー一枚を隔てた先で踊り狂う、にわかに信じがたい極度の冷気を前に、2人が恐怖の色が混じった驚愕の声を上げた。

「ははっ、こ、これは夢なんだよ……悪い夢に決まってるよ……!!」

 室内の気温低下を感じ取るテイオー、凍死の危険性が差し迫る状況に引きつった笑いさえ浮かび上がる。

「し、しっかりしなさいテイオー! きっと一時的な現象のはず――――っ!?」

 

 キャルがテイオーを宥めようとしたその瞬間――――風防に一滴の雨がしたたり落ちた。

 しばしの間を置いて、また一滴。 もう少し間を置いて、一滴。 次第にそれは間隔を狭め、ぽつぽつと雨嵐に変わっていった。

 そしてそれは、風防を滴り落ちていく過程で白く蒸発し消えていく。

「あ、雨が……!?」

「蒸発、しちゃった!?」

 キャルとテイオーは混乱する。 雨? この吹雪の吹き荒れる、-200℃を下回る環境で液体の雨が降り注ぐ。

 水は混ざり物が無ければ、0℃を下回る時点で凍り付くのが当たり前なのだが……そこまで考えた辺りでテイオーはスキャナーを、風防に降り注ぐ雨に向けてみた。

 

 分析の結果、雨の正体は液化した窒素と酸素の混合液であった。

「えっと……これって……?」

「まさか……()()()()って奴じゃ……?」

 2人は目の前で起きた事象に対して理解が追い付かない。 この星の大気も、窒素をベースに酸素や二酸化炭素の存在する、地球によく似た大気組成だった筈。

 そしてそれらはいずれも極度の低温で液化することが知られ、一部は工業用にも用いられている。

 スケールが大きすぎて状況の把握に時間がかかったが、つまりは惑星の気温が急激に下がり過ぎて、大気が沸点を下回り液化し始めたのだ。

 なまじ理解をしてしまったが為に、2人の脳裏に浮かび上がる恐怖を助長していく。

「……どうすればいいの?」

 横目で見るキャルの目に映るテイオーの姿は弱々しい。 その身の震えは寒さなのか絶望から来るのか、身体を縮め身を震わせるテイオーの姿は、ハツラツとした彼女が空元気さえ振り絞れず、心が折れかけている様子を残酷なまでに訴えかけていた。

「や、やだよ……!! ボクは、ダンチョーと3人で、スペちゃん達の居る基地に戻るんだ……!! トレセン学園の皆とだって……!!」

「……!!」

「死にたくない……!! こんな所で凍って死ぬなんてやだよ……!! 早く戻って、来てよ……ダンチョー……!!」

 キャルは苦虫を噛みつぶしたように顔をしかめながらも、身を震わせるテイオーを強く抱きしめる。

 1人じゃ無い、アタシはここに居ると、キャルは強く訴えかけるように抱擁する。

 

 全てを白く染め上げる極寒の環境は、生命の生存を許さない。

 生きとして生ける者にあまりに過酷な世界は、2人の少女の希望さえも奪っていく。

 それでも、諦めない。絶対に死なない。 オルガの帰りを待つと、皆の元へ無事に帰還するとスペシャルウィーク達と約束した。

 

 それが2人の生きる理由だから。

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