No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~ 作:Easatoshi
「なんだこりゃぁ……」
テイオーの唐突な問い掛けに首を傾げるオルガが見た自身の左腕。 センチネルハードフレームの火炎放射を受けて焦げていたそれは、いつの間にか白い装甲に覆われいた。 垂直に曲がった大きなショルダーガードの側面には、赤い斜めのラインが描かれていた。
「さっきまで普通のスーツだったはずだぞ? どうなってやがる?」
「……オルガ、なんかバックパックまで変わってるわよ。 白くて角張った奴に」
「直すついでにイメチェンでもしたのダンチョー?」
トウカイテイオーとキャルの問い掛けにオルガは先程までの行動を振り返っていた。 確かにテイオーの言う通り、オルガは壊れたスーツを修復する為にセンチネルの部品を――――
「おおそうだった、センチネルからかっぱいだ部品使ってスーツを修理したんだよ。 機能の向上が見込めるって分析出てたからな」
その言葉にオルガ以外の一同が引きつった顔を浮かべた。
「だ、大丈夫なんですか団長?」
「センチネルの部品をインストール出来るなんて聞いたことないけど……」
みほとタカキも若干引き気味だ。しかし当の本人は涼しい顔をしている。
「なんだよタカキまでよ……現地調達なんか昔からよくやってたろ」
「そうですけど……「あれ? オルガさん、ひょっとしてその左腕って『獅電』の左腕じゃないかな? バックパックも」
「! ……そう言えば」
みほの問いかけにオルガは改めて、自身の一部変化したエクソスーツの装甲を見て確信する。 最初の世界では結局乗らずじまいで、異世界に行って初めて登場したり、あるいは等身大の強化スーツとして着用した『王の椅子』そのものだった。
「あいつらの部品使った影響で変質しちまったって事か? ……まあよく分かんねぇけど、普通に動いてるなら良いんじゃねぇか? しっかし腐れ縁だな
「ま、ダンチョーには似合ってるし……問題ないならいいんじゃない?」
「いいんだ……」
なんてことは無いと言わんばかりのオルガと歩調を合わせるテイオーにみほは頭を垂れた。
「……」
そんな皆の様子を見ていたはずのタカキが、何かを考えるかのように沈黙していた。 その視線の先にセンチネルの残骸を映して。
「どうしたタカキ?」
「!! ああそうだ!! こんな所でじっとしてるわけにはいかない!! 早く避難しなきゃ――――」
<警告:センチネルの脅威を検出しました>
皆のエクソスーツから一斉に警告のアナウンスが響き渡った次の瞬間、彼らの影を覆うように突如として大きな何かが空中から出現!
それは二足歩行の巨大な何かだったが、着地するなり振動でオルガ達が腰砕けになる圧倒的質量を見せつけた。 舞い上がる雪の隙間からオルガが見たのは、4~5階建ての建築物ほどに巨大で角張った二本足に支えられる橙色のロボット。
バイザーに投影される分析データには『センチネルウォーカー』と書かれている。 周囲には先程駆除したばかりのドローンやハードフレームも引き連れている。
「な、何なのよアレ……センチネル?」
「あんなにでかいの見たことないよー!」
戦車道の面々も身を強ばらせているが、特にテイオーとキャルは初見の為か一層困惑の色を強めている。
彼女達二人にしてみれば、センチネルと言えばドローンのそれしか見たことが無いのだから。
「オイマジかよ!! まだいやがんのか!?」
オルガはマルチツールを構えて抗戦しようとするが、その銃口をタカキが被さって制止する。
「ダメです団長!! 今は逃げましょう!!」
「お前等の乗ってきた車両があれば十分戦えんだろ! 俺が時間稼ぐから早く乗り込んで「そっちじゃ無いんです!!」
タカキの言葉の意味は直ぐに解った。
堂々と現れたセンチネルウォーカーの背後、吹雪の向こう側から地面の雪が大きくせり上がりはじめたのだ。
「この星の脅威はセンチネルだけじゃありません!!」
そしてそれは膨れ上がった雪の山をたたき割って中から現れた。 やって来たセンチネルウォーカーとほぼ互角のサイズ。 装甲のような硬そうな殻に覆われ、丸みを帯びた胴体を支える四脚はまるで昆虫の脚のように節を持ち、特に前肢は長く強靱で何かを叩き潰すには絶大な効力を発揮するであろう。 見た目からして凶暴そうな虫のような生物が、なんと背後からウォーカーに襲いかかった!
「来たッ!!」
「!?」
ウォーカーはあっさりと現れた巨大生物になぎ倒される。 その間オルガ達は呆気に取られていた。
「な、なんなのよアレ!? あんなでかいのが一瞬で倒れたわよ!?」
「『
「見りゃぁ分かる!!」
「早く避難して!! 恐らく
「仲間がいるの!? ワケワカンナイヨー!!!!」
こちらを棚上げにして、突如現れたエイクリッドと呼ばれた巨大生物と戦闘になるセンチネル達を尻目に、みほとタカキが先導する形でオルガ達全員の避難を促した。 慌てて車両に入り込み急速前進! センチネルとエイクリッドの激戦区と化したモノリスから離脱した。
コロッサス車内、ひとまず難を逃れたオルガ達は荒れた息を整えていた。
「危なかったぁ……あ、あんなのと戦ったらボク達、タルタルステーキにされちゃうよー!!」
「う”っ! ……そんな身も蓋もない事言うのはやめなさいよ。 でも、これで一安心かしら?」
「……!! いや、まだだ!!」
その場からの脱出には成功したものの、しかしオルガは確かに機体の背後から敵意を感じ取った。 そしてそれは正しかった。
機体ごと地面が大きく揺れ始め、何事かと感じる間もなくすぐ正面の雪の地面が割れ、さっき襲いかかってきたエイクリッドと同種の別個体が出現!!
「危ない!!」
みほが指示を出す前に、運転手のとっさの機転で出現したエイクリッドの側面を通過し回避! そのまま止まることなく離脱を図るが、しかしエイクリッドはこちらの車両の追跡を開始する!
「追ってくるよー!?」
テイオーの言葉通り、エイクリッドはまるで獲物を追う飢えた捕食者のごとく執拗に追いすがる。
そればかりか、その巨体からは想像できない俊敏な動きで距離を詰めてくる。
「クソッタレ!! 素直に行かせちゃくれねぇってか!?」
「足を止めたら他のエイクリッドに追いつかれる可能性があるけど……仕方ない!!」
焦りの表情でみほはやむなく、反転して追いかけてくるエイクリッドを撃滅するよう、他のチームに指示を出そうとするが――――それに待ったをかけたのはキャルだった。
「反転しちゃダメ!! ――――オルガ!! マルチツールを返して!!」
キャルは毒づくオルガに手を差し出し、貸していたマルチツールの返却を求める。 その目つきはどこか覚悟を決めているような、あるいは何かを決意したように強い意志を感じさせるものだった。 オルガは黙ってマルチツールを彼女に返す。
「どうするつもりなんだ? まさかあの化け物と戦うつもりなのか?」
オルガは差し出されたマルチツールを受け取るキャルに対し問いかける。 対してキャルは何も言わずコロッサスの運転席側に移動した。
「キャルさん!?」
みほの制止も聞かず、キャルは上部にあるハッチからおもむろに身を乗り出しながら、無線機越しに車内のオルガ達に告げた。
「マルチツールのくせに『マインビーム』もついてないけどね、一つだけ他には無い機能があるのよ」
キャルは迫り来るエイクリッドに向け銃口を向ける。 しかしそれは片手で銃口を突きつけるだけで、両手をしっかりレシーバーに添え射撃の構えを取っているような雰囲気ではない。
「それはね……」
キャルは目を閉じ呪文を唱え始める……すると、銃口の先から朱く輝く魔方陣が展開され――――そこから一本の赤い光線が発射された!
それがエイクリッドの脚部に命中し、頑強なエイクリッドの脚部を付け根からもぎ取った! それだけでは無い、キャルの魔法はデバフの効果が含まれており、それによりエイクリッドの全身の動きが一時的に鈍くなる。
転倒に加えデバフにより、ロクに身動きのとれなくなった巨大生物を見送りながらキャルは不敵に笑う。
「杖の代わりに魔法の媒介に使えるのよ!」
こちらが動きを止めずに敵の足止めに成功したことで、追っ手の脅威は無くなったと見て良い。 そう確信し車内に戻るキャルを待ち受けたのは、感嘆に沸く仲間からの一斉の称賛だった。
特にトウカイテイオーはその中でも輪をかけて興奮気味だ。
「凄い、凄いよキャル! 車内のモニターから見てたけど今のって魔法だよね! ゲームとかでしか見たこと無かったよ!」
「ふふん、剣と魔法の世界の住人なら出来て当然よ! ……ま、減った魔力を補うのにスーツのエネルギーを食うんだけどね」
目を輝かせるテイオーに胸を張って自慢げに語るキャル。 最後の一言が小声なのは秘密にしておきたいようだ。
「まさかエイクリッドの脚部を一撃で貫通出来るなんて……今の戦車砲と良い勝負じゃないかな?」
「威力は
「……そうね、それじゃあ皆! このままランデブーポイントに移動しましょう!!」
<<<<<<<了解!!>>>>>>>
一同は一斉に回収地点へと車両を進めた。
ランデブーポイントというのは、丁度オルガ達三人が不時着した場所だった。
どうやら宇宙船が墜落した正確なポイントをいち早くに割り出して、こちらを救助しにきたらしい。
<気象情報:嵐が過ぎました>
ご丁寧に液体窒素の雨も止みはじめ、極限まで低下していた気温が急上昇をはじめたらしい。 みるみるうちに液化した窒素が気体に戻り、真っ白な蒸気を上げて気体として溶け込みはじめたようだ。 モニターに映る景色にモヤがかかり始めて見づらいことこの上ない。
「一体どうなってんだよこの星はよ……勘弁してくれ」
「こんな危険な星早く離れたいよー! ……って、あれ? ボク達の乗ってきた船の前に誰か居るね?」
「……よく見たらアタシ達が避難した墜落船も運ばれてるわね。 他に別働隊が居たのかしら」
墜落地点改め回収地点、そこには墜落したラディアントピラーの残骸に加え、テイオーやキャルの言うように彼女らの避難していた墜落船と、一人の何者かがラディアントピラーを検めていた。
「回収に来てくれた俺達の船長ですよ、団長」
様子を見ていたオルガの後ろから、タカキがその一人の人物について話をした。 どうやらタカキや戦車道の皆をとりまとめている、あの貨物船の船長らしい。
「そっか、ちょっくら挨拶に行ってこねぇとな」
「……お礼参りは勘弁してくださいよ?」
「わーってるって」
落とし前をキチっとつけに来た、それもかつての仲間達だった彼らを恨む道理は無い。 オルガは『コロッサス』のハッチを開けて車外へと足を運んだ。
真後ろでタカキとみほがが暖かな視線を送っていたことを、オルガはこの時気付いていなかった。
「ふう……ここまでグシャグシャだとスクラップにする以外無いなあ……幸い貴重な『阿頼耶識』対応のコックピットブロックは生きてるみたいだけど」
船長とタカキが呼んでいたその人物は男性の声がする。 身長はそこそこに、全身がゲックよりも一回り横に広くずんぐりとしているのがエクソスーツの上からでも分かる程だ。
独り言の内容からするに、タカキがいるのだから当然かも知れないが、阿頼耶識のことについても知っている様子だ。
オルガは声をかけるべく、彼の背後に立って声をかけようとした……すると、オルガの目は自然と彼のバックパックに目線が行った。 オリーブカラーを基調とした色のエクソスーツ、そのバックパックの中心部に書き込まれた白い花びらのようなマーク。 それはかつての団員の一人がデザインした、決して散らない鉄の華の証。
「でも、中にいた人達が無事で良かった……今度こそ、この証を最期まで守り抜かなきゃいけないからね……」
彼は言葉を続けた……その声にオルガは、決して忘れられない
「……そうだよね? オルガ」
振り返りバイザー越しに映る彼の顔は、オルガの懐かしき追憶を呼び覚ますにふさわしい人物。
生きてさえすれば鉄華団が道を誤らずに済んだであろう、『ビスケット・グリフォン』その人だったのだから。
ビスケット登場! タカキといい、ようやく旧鉄華団の面々を合流させられた……!