No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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第20話

シャルロットの残していた情報から、彼女達の行き先は簡単に見つかった。

 丁度惑星の自転とは逆方向の位置にあったため、オルガ達は大気圏を一旦離脱。 パルスドライブを使用して一気に目的地上空に辿り着いた。 当然だが、出発時には日が傾きかけていた為に、自転と逆方向に飛んだ先は既に夜空に変わっていた。

 星々の煌めきと月明かりだけが頼りの中、一行は着陸態勢に入る。

「この辺りか」

 全員着陸のちに各々の宇宙船から降り立つと、オルガはマルチツールを取り出す――――が。

「あ、やべぇ……不時着の時に壊してたの忘れてた」

「そう言えばボクも……」

 テイオー共々、不時着の衝撃でツールを破損していることを今思い出し、げんなりとした面持ちになる二人。

 それを見ていたビスケットもバツが悪そうに、代わりに自分の物と思われるマルチツールを背後のツールラックから取り出した。

 ビスケットの物は顕微鏡と言った実験器具にトリガーを取り付けたような、白っぽい代物だった。 ジャミングが酷くおおよその位置しか分からなかった信号を、マルチツールの分析機能の1つである『ターゲットスイープ』機能を使用し詳細な位置を特定する。

「ここから大体2.2キロぐらいか……みほ、お願い出来る?」

 みほは無言でうなずくと、エクソスーツのコンソールに手をかざし、近場の平地にエクソクラフトを呼び出した。 先程もお世話になったコロッサスの巨躯が出現する。

「さあ皆、乗り込んで」

 オルガ達はみほの後に続いてコロッサスのハッチの中に入り込んでいくが、しかしテイオーだけはその場で屈伸等の柔軟運動を行い、中に入る素振りを見せない。

「どうしたテイオー、早く中に入れ」

 テイオーは首を横に振った。

「折角だけど、ボク走りたくなってきちゃった。 この乗り物と一緒に併走するね♪」

 その言葉に全員が首を傾げた。

「お前なあ……さっきまで凍死しかけてたんだぞ? 本当に大丈夫なのか?」

「うん! スーツの生命維持装置のおかげで体調は万全だから、寧ろ動かないと身体がなまっちゃうよ!」

「……分かった。 ただ変にペースは上げんなよ?」

 呆れたように笑みを浮かべるオルガだが、先に乗り込んだビスケットやみほ達は目を丸くしている。

「併走って……どういうこと?」

「このコロッサスって結構速度でるけど、あの子置いて行かれちゃうんじゃ?」

 心配と言うよりは困惑する一同だったが、オルガは気にしない素振りで言った。

「ま、本人もああ言ってるしよ。 いいんじゃねぇの? なあ」

「なあ、って……本当にいいの?」

 不安げに問いかけるみほに、テイオーがハツラツとした声で返す。

「えっへん! 不屈のテイオー様の辞書に、不可能の文字は無いのだー!」

 

 

 

 

 その言葉はこの後において直ぐに思い知らされることになる。

「ほ、本当に併走出来てる……」

<へへん! ヨユーヨユー! これ位の速度なら何時間でも走れちゃうもんねー!>

 車内のモニターから嬉しそうに走るテイオーの姿にビスケット達は目を丸くしていた。

 舗装されていない草地を走るコロッサスに、テイオーはウマ娘の面目躍如とも言うべきか、当たり前のようについて行くことが出来ていた。 これにはみほ達も感嘆の声を上げるしかなかった。 まあ、彼女達あんこうチームやビスケットにとっては未知の種族故に致し方ないだろう。

「テイオー。 距離もお前の脚質なら適正かも知れねぇが、ここは競技場じゃねぇんだ。 あんまイレ込むんじゃねぇぞ?」

<分かってるよー!>

 つい先刻まで命の危機に遭ったとは思えないほどに、元気良く返事をするテイオー。 寧ろわざとらしく脚を大きく持ち上げて、自慢のテイオーステップさえ披露してみせる彼女の様子を見るに、無理をしているような気配は感じられない。 テイオーの言うように、本当に体調は万全であることが窺えた。

 オルガは呆れたように笑うと、改めて操縦席にあるモニターを見やった。

(そうこう言ってる内に距離は残り1キロを切ったな……そろそろ見えて来る筈なんだがよ――――ん?

 突如として、モニターに奇妙なノイズが走った。 それは距離が近づく度に頻出し、画面に映る計器類にエラーを及ぼすようになっていった。 それはもちろんオルガと同様に、みほ達やビスケットも異変を察知した。

「あれ? おかしいな……機器に変なノイズが走ってる」

「……ひょっとして、無線の妨害電波と同じやつじゃないかな?」

 車内にいる同乗者達の呟きに、みほはその場に停車するよう指示を出す。 ゆっくりと速度を落とし停車するコロッサスに、テイオーは立ち止まり振り返ってきた。

 

<どうしちゃったの皆? 目的地はもうすぐそこだよ?>

「ああ、ちょっと待ってろテイオー。 コロッサスの計器類にエラーが出てんだ」

「少し調べてみようか。 何か分かるかも知れない……タカキ、聞こえる?」

<ちょっとノイズが強いですけど、やってみます>

 ビスケットは基地にいるタカキに分析を行うように頼むと、彼の声と共に信号の詳細な分析課程が車内のモニターに同期、投影されるが……それをじっと眺める内にみほ達は何かを思い出したように語る。

「……あれ? この波形ってひょっとして」

<エイハブウェーヴ……の可能性がありますね>

 タカキの発した言葉に、オルガは目を見開いた。

「お、おいつまりなんだ? あそこには稼働中の『エイハブリアクター』でもあるってのか?」

「かも知れない」

 オルガ達の口にするエイハブリアクター、それはオルガ達の生まれた世界において広く利用される、経年劣化と機械的損傷にも強く外部燃料無しに半永久的に稼働する動力源である。 リアクターが生み出すエイハブウェーブなる波動を発生させることで出力を賄うのだが、副作用として電気によって動くあらゆる機器に対し何らかの干渉を及ぼしてしまうため、機器に影響を及ぼさない宇宙空間における艦船の動力源兼重力発生装置や、緊急時以外市街地への立入りが許可されない人型巨大兵器『モビルスーツ』の駆動用エンジンに使われることが多い。

 みほ達の世界においても、同様の機器が競技用としても存在していることから彼女達も知っているが、そんな機器から発せられる波形をこの世界においても確認したことで、オルガ達の動揺は隠せない。

「だとしたら、この計器類の異常やジャミングの原因に合点がいくかも……もうちょっと分析を進めてみて、個体識別も出来るかも知れない」

「お願いタカキ君、もうちょっとだけ頑張ってみて」

<やってみます>

 タカキは更に波形の詳細な分析を進めた。 切れの良い指の操作で投影されたウィンドウを操作し、解析を加速させる。 その間外で待ちぼうけを食らっているテイオーの地団駄にも似た足踏みの音が重なり、一定のリズムを刻んでいるようにも思えた。

<もう、皆して何やってるの? エイハブリアクターって何なのー? データを共有してボクにも見せてよー!>

「だったらお前も中に入ってこい。 お前が外で走りたいって言ったんだろ?」

<えー! それもヤダー! 走りたくて外に出たんだからヤダヤダヤダー!>

「ったく……ちったぁ落ち着け、後で説明してやっから「「<こ、これは!?>」」

 わがままを言うテイオーを面倒臭そうにあしらうオルガのやり取りを、みほ達とビスケットの驚きの声が遮った。 何事かと思ってモニターを覗いてみると、オルガは目を見開いて絶句した。

 

 ビスケット達の予想通り、波形の正体は紛れもなくエイハブウェーブだった。 しかし、何の機器に搭載されているエイハブリアクターだったのか、その正体も詳細に記されており……それこそがオルガ達の度肝を抜いたのだ。

「「「ツインリアクターシステム……『ASW-G-08 ガンダムバルバトス』ッ!?」」」

<そんな……どうしてバルバトスが!?>

 オルガとみほ達の驚愕の叫び声は、見事にシンクロした。 コンソールに表示されている文字を見て、やはり自分達の推測は正しかったと確信したからだ。

<……バルバトスって、ナニソレ?>

 ……よく分からずに首を傾げているトウカイテイオーを余所に。

「モビルスーツだよモビルスーツ! 人型の形をしたロボットだよ! それも俺達の仲間の乗ってた奴!」

<よくわかんないけど……ひょっとしてマッキーがしきりに言ってた『バエル』とか言う奴?>

兄弟機(シリーズ)だ! つまりなんだ、ああっ……!!」

 モビルスーツと言われても今一ピンとこないばかりか、マクギリスの信奉するソレと勘違いしている様子のテイオーに、オルガは頭をかきむしり言葉をひねり出した。

 

「あの信号の中心にはミカがいるかも知れねぇって事だ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一同は電波障害にあうコロッサスを降り、テイオーに先導される形で走って目的地を目指していた。 ここにいる全員が、先程の分析結果を受けて逸る心を抑えられずにいた。 帰ってこないシャルロット達の心配も勿論あるが、それと同じぐらいにオルガは焦っていたのだ。

 何故なら、もしオルガ達が見つけた信号の発信源にいるのが三日月ならば……ようやく待ち望んでいた相棒との再会を果たせる事になるから。

(ミカ……!!)

 身体の重いビスケットの肩を担ぎながら、みほ達を引き連れてオルガは走る速度を上げた。

「ねえ! 本当にミカは向こうにいるのかな!?」

「その前にシャルやスペ達の心配だろうが! 話はそれからだろうが!」

「とか言っちゃって、ダンチョーが一番気にしてんじゃないの!?」

 否定は出来ない。 オルガにしてみれば、始まりである幼き日の出来事から、度重なる異世界の転生を経ても共に苦楽を乗り越えた存在なのだから。

 シャルロット達のような異世界で出会った()()()()とはベクトルは違えども、大切な相棒に違いは無い。 そんな存在と遂に再会を果たせるとなれば、否応なく心躍るというものだ。

「残り200メートル……あ、何か土煙上がってるよ!

 テイオーの言う通り前方には何かを掘り返すような音と共に砂塵が立ち上っており、それが徐々に大きくなっている事が分かる。

 そして、砂塵の向こうに透けて見える巨大な影――――そこから察するに、何かが確かに存在するのは明白であった。

「急ごうダンチョー! ボクらも早くミカに会いたいし!!」

 テイオーはそう言いつつオルガ達に自身の後に続くよう強く促した。

「お、おいテイオー!」

「ちょ、ちょっと待って! 僕達そんなに速く走れない……ゲホッゲホッ!」

「ハァ、ハァ、ビ、ビスケット君、しっかり……」

 しかしみほ達も賢明に後に続こうとするものの、ウマ娘やオルガと違い人間の体力では息切れを起こしており、特にオルガに肩を貸して貰っていたビスケットはその肥満が祟り、既に過呼吸気味にバテてしまっていた。 しかしそれでも重たい身体を引きずって何とか懸命に歩こうとはする。

「んもう! ちゃんと身体鍛えとかなきゃダメだよー! 特にビスケット!」

「お前と一緒にしてやんなよ……<トウカイテイオー! それにオルガ団長! 戻って来てたのか!?>

 突如、上空から拡声器を通した少女の声がする。 オルガとテイオーには聞き覚えのある声だった。

 

 すると、立ち上る砂煙の向こうから飛来する人型の何か……IS『シュヴァルツェア・レーヴェン』の黒い装甲を身に纏ったラウラだった。

「うわ! 本当に人が飛んでる!」

「これがISって言う機械なんだ……」

 重力を無視して空を飛ぶ装甲を纏った銀髪の少女の姿に息を呑むみほ達とビスケット、ラウラはそんな彼女達にも目をやる。

「む、見慣れない顔だな……団長の仲間か?」

「ようラウラ、元気そうじゃねぇか」

 オルガは右手を上げながら、空を降りてくるラウラに話しかける。 それを見たみほ達は咄嗟に敬礼する。

「に、西住みほです! オルガさんと同じお、大洗学園で戦車道を嗜んでます!」

「……()()()? あ、ああ、よろしく頼む……私はラウラ、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 突如として現れたISなる未知の機械を駆るラウラの存在に、流石に上がり気味になっているみほ達。 ラウラも戦車道なるワードに訝し気になったものの、しかし日々の鍛錬によって磨かれた礼節からなる、軍隊式の敬礼をもって出迎えた彼女達に悪い感情は無かったのか、直ぐさま温和な笑みを浮かべ同じようにドイツ式だが敬礼で返す。

「ハァ、ハァ、ぼ、僕はビスケット・グリフォン……鉄華団でオルガの参謀をやっているんだ……ふつつか者だけど、よろ、しく……」

 一方、ビスケットは呼吸を整えようと必死で深呼吸を繰り返す。

「大丈夫か? 随分と息が上がっているが」

「ほら、こうなるからちゃんと痩せとかなきゃ! 心配しないで、この人達はオルガのキューチの仲って奴で、ボク達の命を救ってくれた張本人だから! ……まあ、ある意味元凶でもあるけど

「うう、面目ない」

「……よく分からんが、色々あったんだな」

それを横目に見ていたテイオーは苦笑しつつビスケットの背中をさすっていたが、その様子にラウラはやや呆れたように呟いた。

 

「……ああそうだ! オルガ団長、シャルのメッセージを見てここに来たんだな?」

「ああ。 スペ達の反応が消えたって言うからよ、俺達も近くまで乗り物に乗ってきたんだが……機器の調子が急に悪くなって途中から徒歩に切り替えたんだよ」

 ラウラの問い掛けにオルガは肯定する。

「うむ、私も咄嗟にISを展開したが、アレの前では調子が悪くなるから余りそうしたくは無かったんだがな……団長達と分かっていたらそうはしなかったんだが」

「――――バルバトスが、発見されたんだろ?」

 ラウラは驚愕した。

「……知っていたのか?」

「途中から機体から出るエイハブウェーヴ……まあその、こちらの乗り物の計器にバルバトスの反応が出ていたんだよ」

 続けてビスケットが経緯を説明するが、ラウラはしばし目を泳がせた後にため息をつく。

「その通りだ、現在私を含む4人総出で発掘中だ……私の記憶よりも()()()()()()()、間違いなくあれはミカのバルバトスだ」

 随分と大きいと言う部分にビスケットとみほ達は疑問符を浮かべる。 彼らにしてみればガンダムは元々大きな乗り物であるという認識だけに釈然としないものの、ラウラはそれを遮ってとにかく一緒に発掘現場へ来るように促した。

 

 ラウラに引き連れられる道中、オルガは恐らくは互いの認識に齟齬があるのだろうと当たりをつけ、補足説明をしはじめた。

「ラウラ。 ミカのバルバトスがイヤに大きいって言ったな。 恐らくなんだが、多分俺の知る()()()()()()()()()()()()なんだろうよ」

 ラウラは黙って話を聞く。 オルガは続けた。

「俺がお前とシャルのいた世界にやっかいになってた時、ミカのバルバトスや俺の獅電もどういう訳かISに変化しててよ、それこそ直接身に纏う等身大の全身鎧になっちまったんだ。 元々は巨大な乗り物なんだよ」

 ……つまり私達の知るモビルスーツとやらは、そもそもが小さくなった後の代物だったという訳か」

「ああ。 多分お前等が発掘に難儀してるのも、ビルみたいにでけぇそいつの全身を掘り起こさなけりゃならねぇからだ。 それも稼働中のリアクターのせいで機器の不調に悩まされながらな……違うか?」

 ラウラは心底面白く無さそうな表情で、黙って両の手を開いてオルガの前に突き出した。 両手は土で焦げ茶色に汚れていた。 ……暗がりで気付きにくかったが、よく見ればレオタードのようなISスーツに覆われていない白い地肌の部分も、同じように土が所々にうっすらとついているのが月明かりによってようやく確認出来る。 どうやら相当掘り返すのに苦労していたようだ。

「……大当たりだ。 帰りが遅れてすまないが、おかげですっかり夜になってしまった」

 だろうな。 ため息をつきながら話すラウラに、オルガはそう返した。

「アレ大きいし設計古くて構造が複雑だから、整備班の皆もいつも苦労してたんだよね……」

「だよね……おやっさんもメンテには随分頭悩ませてたよ。 オルガ達の言うように、本当に人一人分のサイズだったら……いや、それはそれで苦労するかぁ」

 みほ達とビスケットも悩ましげに語る。

「……そう言えば団長、キャルはどうした?」

「ああ、アイツは基地に残って残りのメンバーと共に基地の設営を頼んでる。 ここに居るみほ達以外にも大所帯引き連れてるからよ。 鉄華団はもっとでっかくなるぜ」

「ふむ、無事なら何より……おっと、あれだ団長」

 ラウラは話しながら、視線を前に向けた。

 オルガ達は息を呑んだ。 視線の先……明らかに今し方掘り返したであろうクレーターが存在し、その中央には遠くからでも分かるくらい、一際大きな巨躯が佇んでいた。

 

 白を基調に青と赤のトリコロールカラーで構成された塗装は所々剥げ、首と右腕がもげてしまっている人型と呼ぶには無残な出で立ち。 しかし残されたその他の部分は見た目のぼろさと裏腹に、しっかりと形を保っているスマートかつ精悍なボディラインは見る者に迫力を醸し出すに十分過ぎるものだった。

 

 紛れもない、オルガのよく知るバルバトスの残骸だった。

 

 オルガ達は直ぐさま掘り返されたクレーターの崖に立ち、発掘済みのバルバトスを上から下へと見下ろした。

 崖下では鬼気迫る勢いでマルチツールをバルバトスの足下に向け、地面を掘り返すスペシャルウィーク達3人の少女の姿がそこにあった。

 彼女達は無心で地面を掘削していたが、尋常で無い採掘効率で掘り進められるマルチツールにしては、実に少しずつの面積しか掘り返せていないようだった。 これもエイハブウェーヴの干渉で機器の効率が落ちているのだろう……だが作業も既に大詰めだったのか、残された足下をじきに片付けると、その場に膝から崩れ落ちて四つん這いに項垂れていた。

 

「ふえぇ~~ん!! やっと発掘終わりましたぁ!! もうお腹ペコペコ~……」

「実家の雪かきだってもうちょっと早く終わるべぇーーーー!!!!」

「すっかり夜になっちゃった……でもこれで、バルバトスの中を調べること出来るし、持ち帰りの準備もね。 後はサルベージする方法だけど――――あ!

 どうやらシャルロットがこちらに気付いたようだった。 3人は揃って崖の上のオルガ達に気付くと、両手で大きく手を振って見せた。

 オルガ達は崖を飛び降り、ゆっくりブースターを噴かせて緩やかにクレーターの底へと着地し、発掘作業に従事していた彼女達の元へ足を進めた。

 全員泥だらけだったが、特に怪我はないようでオルガは内心胸を撫で下ろす。

「ったく、皆して何やってんだ……」

 オルガが呆れたように笑う一方で、彼女達もまた安堵した表情を浮かべ語りかけてきた。

「オルガさん! 良かった、無事だったんですね!?」

テイオーちゃんも無事で良かったです! ……あれ、キャルちゃんは?」

「キャルならこの人達の仲間と一緒に基地で待ってるよー!」

 テイオーは身を翻し、後ろに立っていたビスケットやみほを紹介する。 ビスケットは会釈し、シャルロット達に自己紹介を始めた。

「ビスケット・グリフォン……鉄華団の旧メンバー、オルガの参謀をやっていたんだ。 いつもオルガが世話になってます」

「あ、どうもこちらこそ……私はシャルロット、そっちの人は?」

 シャルロットはみほの方にも目を向けた。みほは小さく微笑むと一歩前に出て、ペコリと頭を下げる。

「初めまして。私、西住みほと言います。 オルガさんとは大洗学園の戦車道チームで一緒に戦っていたの。 こっちは武部沙織さん、五十鈴華さん。冷泉麻子さんに秋山優花里さん……」

「ほうほう、あなたが噂のシャルロット殿……オルガ殿の恋人にして西住殿の恋のライバル、と言う奴ですな?」

!! ちょ、ちょっと――――」

 みほの側に居た優花里の口を、テイオーが慌てて塞ぐ―――――も、一歩遅かった。

 

 ほんの少しだが、シャルロットの身体から冷たい覇気のような何かが漏れ出したのを、その場に居た全員が僅かに感じ取った。 触れてはいけないモノに触れた……そう言わんばかりに一同、思わず身震いしてしまう……みほを除き。

 

「やだなあ秋山さんったら……私達はあくまで家族だって言ったじゃない」

「……へえ、オルガとは()()()()()()なんだ」

 シャルロットの目はどこか笑っていない感じがする。 それも心なしか、あくまで家族の部分を強調している気がする。

《font:275》「うん。 血のつながりは無いけど、妹分として()()()()()()()()()()()()()家族なの」

「そうなんだー。 それにしては()()()()()()って単語が聞こえた気がするけど、まさか()()()()を差し置いてオルガが浮気してるんじゃ無いかって心配だったんだ」

「そんなことはないかな? いくら()()()()()()()()()()()()()()からって、それは家族同然の関係だよ。 少なくとも()()ね?」

「ふぅん……あははっ」

「ふふふっ」

 何気ない一言から始まった重苦しい雰囲気、紛れもなくコレは修羅場というものだ。

 お互い朗らかに会話をしているはずなのだが、見た目のやりとりとは裏腹にとても嫌な雰囲気が漂っている。

 空気が冷たく、そして重い。 シャルロットとみほの間には確実に火花が散っていると見ても良い。

 

 剣呑な雰囲気を漂わせる二人に対し、オルガは背中から冷や汗が流れ落ちるのを感じた。

 ペコリーヌ風に言うならこれは、やばいですね☆の一言しか出てこない。

 一触即発の雰囲気に合って、次に一斉にその矛先を向けるのは元凶たるオルガだった。

 

「「オルガ(さん)?」」

「!!」

 

 同時に名前を呼ばれて身を震わせるオルガ。 まるで心臓を直接鷲掴みされたような感覚さえあった。

 にこやかに笑みを浮かべながらもその眼の奥底には、確かに鬼を宿らせるシャルロットとみほの姿があった。

(勘弁してくれ……!!!!)

 恐怖のあまり声すら出せなかった。

 今までの人生においてここまで怖いと思ったことなど一度もなかったし、これからも無いだろうと思ってた。

 戦場での命のやりとりとはまた違うベクトルのプレッシャーを、目の前にいる二人からひしひしと感じ取る。

 オルガはその威圧感に押し潰されそうになるのを必死に耐え忍んでいた。

「ちゃんと説明してくれないかなあ? 彼女は()()()()()()()()()()()

「妹分でも、これからも()()()()()()()()()()()よね?」

 間違いない、彼女達二人は選択を迫ってきている。 そう言った意識を向けたことが無いわけではないが、みほの方からもそこまで重い感情を向けられていたのは意外だった。

 そしてなによりもシャルロットとみほに対し、浮気などできようはずも無いオルガにとって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が余計に混乱を招いていた。

「ま、待ってくれ!!」

 その混乱が、オルガに唐突に膝を突かせるという突拍子も無い行動に突き動かした。

「みほは俺の妹分だしシャルも恋人には違いないんだ! お互い距離が近すぎて虫の居所が悪いのなら原因である俺の命を持って行けば済む話だろ!!」

「「――――へっ?」」

 これにはシャルロットとみほは呆気に取られるしか無かった。 構わずオルガは何度も地面に頭を叩き付けるように頭を垂れる。 ……否、文字通り叩き付けていた。

 周囲にはオルガが緊張のあまり錯乱してしまったようにしか見えず、一同に動揺が走る。

「俺ならどうにでも殺してくれ!! 何度でも殺してくれ!! 首を刎ねてそこらに晒してくれてもいい!! お前達、お前達の関係だけは――――「ちょっとオルガ!! ストップストップ!!」

 見かねたシャルロットとみほが頭を打ち付けるオルガを前に、ひざまずいて彼の動きを制止する――――しかし。

 時既に遅し。 オルガのヘルメットのバイザーは割れ、破片が顔中に突き刺さって血みどろになっていたでは無いか。 見るにオルガは既に虫の息、今にも卒倒しそうな程に肩を震わせている。

 

「ハァ、ハァ……」

「オルガ……」

「まさか、この流れは――――」

 地面に突っ伏すように倒れ込むオルガ。 その左腕……そして人差し指は進むべき道のりを指し示すように、掘り返した直後のバルバトスを指差していた。

 

 

 

 

「だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

「「オ、オルガーーーー!!!!(さーーーーん!!!!)」」

 

 

 

 

 

オルガ・イツカ、修羅場に耐えきれず無事死亡。




 修羅場ってコレで良かったかなあ? とか考えてみたり。
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