No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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第21話

 オルガは赤い光の反射する無機質な黒一式の空間に佇んでいた。 目先には階段が設置され3対の離着陸場と思わしき台座が鎮座しており、振り返ればいくつもの黒いアーチが4連続した先に、下方から白い輝きに照らされた黒い球体が浮かんでいる。

 何者かの手によって作られたであろう空間に突如呼び出され、その上どこか意識の浮いたような気分に囚われるオルガは、その現実感の無さに困惑していた。

(ここはどこだ? 俺は確か……)

 オルガは記憶を探るように思考を巡らせるも、自分は先程シャルロットとみほの修羅場に萎縮するあまり、自ら頭を打ち付けてあっさり死んでしまうという、我ながらなんとも無様な死に様を見せつけてしまったくだりしか思い出せない。

「はぁ……何やってんだ俺……」

 オルガはため息をつくと、自分が今いる場所を改めて見渡す。

 辺りは明かりにこそ照らされているものの、上下左右全てに果てしなく続く黒い空間が広がっていた。

「タダでさえ分かんねぇことだらけの世界だってのに……そんな簡単にくたばって「オルガ?」!!」

 突如、背後から男性の声がした。 今振り返った先には誰もいなかった……その筈だったのに。

 恐る恐るオルガが振り向くと、4つ並ぶアーチの向こう側……丁度黒い球体のオブジェが浮かんでいる手前にその存在は立っていた。

 色合いや細部こそ異なるが、自分と同じエクソスーツに身を包む何者かがそこにいたのだ。

 背丈はそう高くなく、この距離においてスモークの強いバイザー越しでは顔は窺えない。 ……しかしオルガには感覚で理解出来る。

 聞き覚えのある声……全身から漂う、農場に佇んでいそうな純朴そうな少年と、敵対するものに容赦ない狂犬のような獰猛さ併せ持つ矛盾したようなまなざし。 それはかつてオルガと共に駆け抜けた親友。

 

「ミカ?」

「やっと、会えた」

 

 オルガはゆっくりと、しかし次第にしっかりとした足取りに変化してアーチをくぐり抜け、男の前に立った。

 この距離ならハッキリと見える。 バイザー越しにあの青い目が……『三日月・オーガス』の顔が。

 オルガは思わず彼の名を呼ぶ。 すると彼は、少しだけ口角を上げて笑っていた。

 オルガも釣られて笑い、そして涙が溢れてきた。ずっと探していたかけがえのない相棒との再会。

「この野郎! 随分心配したんだぞ! お前一体どこにいたんだよ!」

 三日月もばつが悪そうな、しかし嬉しさを隠しきれないように笑みを浮かべて話す。

「ごめん、こっちの世界に迷い込んだ途端、色んな星を旅する羽目になったんだ。 俺もオルガのこと探してたんだけど、この広い宇宙じゃ……」

「……そうか。 ありがとな」

 どうやら同じ考えで、自分のことをいの一番に探そうとしていたようだ。 離れていても強い絆があるのだと再確認し、2人は言葉を続けた。

「でも、オルガがまさかここに来てるなんて思わなかった」

「俺もだよ。 ……活動拠点作ってるんだけどよ、その近くで何でかお前のバルバトスが掘り返されてな。 その最中にちょっとトラブって」

「また死んだの?」

 オルガはぶっと噴き出した。 三日月はクスリと笑う。

「……ああそうだよ。 異世界転生するようになって、簡単に死んで生き返るようになっちまったからな……ってか笑うなよ」

「ごめんごめん」

 おかしそうに笑う三日月に、一応本当に死んでいるんだぞ不貞腐れてみせるオルガ。

「ミカはどうなんだよ、ここに来てるって……この場所のこと知ってるような口ぶりじゃねぇか」

 オルガが問いかけると、口をつぐむように三日月が真顔になると、こう言った。

「……『アトラスステーション』って言うらしいよ。 俺もよく分かんないけど……ここ以外にもあって、いつも後ろのよく分かんない言葉を話す変な物があるんだ……別に興味ないんだけど、何だか行く先々でついつい入るんだ」

「妙に引きつけられるってか」

 三日月は「うん」と一言うなずいた。 それはオルガがEDN-3RDで見つけたモノリスを想起させる。 よく分からない質問を投げかける代物で応えるのも億劫だったはずが、ついつい律儀に質問を返してしまうと言った記憶があったため、オルガは三日月が同様の感覚に囚われているのだと結論づける。

『アトラス』って名前もどっかで聞いたような気がするが……まあいいや)

「……積もる話はあるけどよ、今は俺達の元に帰って来いよ。 ビスケットとタカキ、それに今までの世界で会った仲間達も集まりつつあるんだよ……ラウラだって基地で待ってんだ」

 そうだね……早くアイツにもあって安心させなきゃ」

 三日月の方に手をやろうと、オルガは彼に向かって手を伸ばす。

 

 

 しかしオルガが伸ばした手が触れた瞬間、その手は三日月の身体をすり抜けた。

 これには双方、驚いたような表情を見せる。

「お、 おい、どうなってんだよ!? なんで触れられねぇんだよ!!」

 何度も肩に手を置こうとするが一向に触れられない。 オルガは三日月に触れられない焦りから、段々と手つきがガサツになっていく。一方、そんなオルガとは対照的に、三日月は冷静に触れようとするオルガの手つきを見つめていた。

 まるで何かを確かめるように、三日月はオルガの手に視線を向けて、そして自分の腕をオルガの腕に重ねる。

 当然ながら、三日月の手もオルガの身体をすり抜ける。 一体どういうことかと焦っていると、三日月が目を見開いてこちらをたどたどしく指さした。

「オルガ、全身を良く見て。 透き通っててノイズが走ってるよ!」

「はあ!?」

 三日月の言う通りに全身をみてみると、確かにオルガの全身は半透明になってノイズが走っていた。 言うなればそれは電子データ……ホログラフのような状態になっているようにも思えた。 どうしてかとオルガは自身に起きた状態を把握出来ずしばし困惑していると、しばしの沈黙を挟んで突然謎のアナウンスが空間内に響き渡った。

 

 

<16 ■■ 16 ■■ 16 ■■

 

アトラスプロトコルを開始

 

■■ 16 ■■ 16 ■■ 16>

 

 

 

警告 ■■ アトラスステーション 侵入検知

侵入 侵入 侵入

警告:異常信号を検知

 

 

 

 

 視界が大きく揺れ始め、自身の身体が足下から崩壊を始めた!

「オルガ!?」

「クソッタレ! -kkttzztt- 一体どうなって -ktzt- がる!?」

 自身の声や視界にノイズが走り、それは次第に大きくなってくる。 それまるでオルガという異物をこの場所から排除しようとせんばかりに、彼の存在そのものが消されようとしているかのようだ。

 オルガの意識は徐々に薄れていく。 感情の起伏がそう強くない三日月にしても、この状況に驚き珍しく声を荒げている。

 何とか消えまいとあがいてみようとするも、そんな抵抗など無意味だと言わんばかりに不可解な消滅現象が加速する。

 既にオルガの肉体は下半身が崩壊するように完全に分解された。 そして、その粒子は空間へと拡散していく。 消滅まであと僅かだ。

「ミカ! プロミス/48 -kkttzztt- プロ -kkttzztt- って星を目指せ! そこに俺達鉄 -kktzzt- の帰るべき家がある!!」

「オルガ!」

 焦る三日月を前に、消えゆくオルガがしてやれる事は道標を作ることだ。 オルガは最後の力を振り絞り、三日月に告げる。

「ミカァ! 止まんねぇ限り -kkttzztt- 道は続く!! 俺はいつもお前の先にいるぞぉ!!」

「!」

「だからよ…… -kkttzztt- -kkttzztt- 止まるんじゃ -kktzz- ねぇぞ! -kkttzztt-

 視界に走るノイズの悪化と共に意識が遠のいてゆく。 しかし伝えるべき事は確かに伝えた筈だ。 後は三日月を信じるしかない――――消えていく身体に運命を委ねようとしたその瞬間。

 

「オルガ! これを――――」

 今まさにオルガの意識が途切れるその瞬間、三日月はインベントリから何かを取り出し、それをこちらに突き出したのだ。

 

――――一緒に掴んだであろう何かの種子をこぼしながら、赤く輝く何かを。

 

 

 

 

 

「ミカァッ!!!!」

「「わわっ!!」」

 オルガが目を覚ますと、そこには夜明け前の空を背景にこちらの顔を覗くシャルロットとみほの顔だった。 どうも二人は、自身を看病してくれていたらしい。

 オルガは上半身を起こし、辺りを見渡す。 そこは、一度死ぬ直前にいた時と同じ掘り返された採掘現場、側には心配そうにこちらを見ていたビスケット達や発掘されたままのバルバトスがあった。

「良かったぁ……また復活したのに目を覚まさないから気が気じゃなかったよ」

 胸をなで下ろすシャルロット……しかしオルガはそっと彼女の身体をよけると、仲間達に目もくれずブースターを噴かし、一直線にバルバトスのコックピットに飛んだ。 立ったままの姿勢で埋まっていたために少し高度があったが、エクソスーツのブースターによって易々とバルバトスの胸元にあるコックピットハッチに辿り着く。

「まだ機能はしてるみてぇだな……」

「どうしたのオルガさん! 一体何をしているの!?」

 みほの声かけさえも無視してコックピットハッチを解放する。 すると開けた瞬間、中から赤い輝きが放たれ、えんじ色のオルガのエクソスーツを深紅に照らす。 腕で頭部を庇うように覆うが、光は直ぐに収まるとオルガは顔を隠していた腕をどけると、コックピットの中にそれはあった。

 

 意識が遠のく直前に一瞬だけ見えた、三日月が投げつけたであろう赤い()()がシートの上に存在した。

「ミカ……!!」

 それは野球ボールのような大きさの不規則に輝く球体で、見る者を深淵へと誘うような奥深さが込められている。 周囲には、それを取り出す際に溢れたであろう植物の種が散らばっていた。 オルガは球体を種と一緒に手に取り、それをスーツの機能で分析してみる。

 

 

 

『キャプチャード・ナノデ』

帯状に切り替えられた準恒星の回路基板を含むアトラスシード。

 

注意:マトリックスをこの次空間と交信させないこと。

 

 

 

「何だこりゃあ……?」

 ついさっきまでの出来事は単なる夢ではなかった――――それはこの奇妙な光る球だけでなく、一緒に手に取ってこぼれ落ちた種子の存在から間違いは無いだろう。 だとしたら、一方で三日月は一体何を手渡してくれたのか、得体の知れない置き土産に謎は深まるばかりだった。

「こっちの種は……って、アイツ!

 オルガにはその種がなんなのか、見慣れた縦割れの細長い形状から直ぐに見当が付いた。

「ダンチョー!」

 オルガが振り返ると、トウカイテイオーを初めとする面々がブースターで飛び上がり、機体に取り付くようにしてオルガと距離を詰める。

「いきなり我先にバルバトスのハッチを開けてどうしたんだよ!」

「こっちは心配していたのに、声ぐらいかけてくれたって良いじゃないですか!」

 心配する素振りを気にも留めなかったことに対し、次々に不満の声を上げる仲間達。 流石にこれはマズイと今更ながらに気づいたオルガは申し訳なさそうに謝罪の弁を述べる。

「ああすまねぇ! ちょっと気になることがあってな……」

 目を覚まさないオルガを気にかけてくれていたのに、随分と雑な対応をしてしまったと反省し、オルガは改めて仲間達に向き直り頭を下げた。

「……オルガ団長、ミカはいなかったのか?」

 声を上げたのはラウラだった。 彼女は開けっぱなしのコックピットに目線をやりながらオルガに問いかける。 オルガは無言でうなずくと、ラウラは酷く落胆したように頭を垂れた。

「そう、か……」

「いつから埋まってたか分からないバルバトスにいなかったのは寧ろラッキーだよ、ラウラ」

 慰めるようにラウラの肩を持ってやるシャルロット。 そう、三日月はバルバトスに最初から入っていなかった。 それは間違いない、何故なら。

 

「……ミカに会ってきた。 俺がこっちに戻ってくるまでの、少しの間だけな」

 オルガの発言に、皆が驚きを持って反応を示す。

 当然だ。 皆の認識からすればオルガはつい先程まで倒れていて、皆固唾を呑んで復活の瞬間を見守っていたのだから。

「俺も復活までの間また夢でも見てたのかって思ってたけどよ、確かにアイツはこれを俺に託したんだよ」

 オルガは三日月と会っていたやり取りを話しながら、コックピットの中で見つけた赤い球体……『アトラスシード』と言う聞いたこともない何かを皆に見せつける。

「これがその……託された何かか? 一体これは何なんだ?」

「キャプチャード・ナノデって言うらしいが、俺も分からねぇ。 それにコイツは向こうで俺が消える直前に手渡された筈なんだが、何でかそこのコックピットの中にあったんだ」

 まるで導かれたみたいに、オルガがそう付け加えるとラウラは反論する。

「だったら本当にミカに会っていた証明にならないだろう……その不思議な球体が見せてた幻覚の可能性は?」

 訝しげな顔をするラウラに、オルガは一緒に見つかった種子も放り投げて渡してやった。 

 

 その瞬間ラウラ達は目を見開いた。

「――――この種は!

 三日月と触れ合ってきた彼女達なら、ソレの意味する所はなんとなしに理解したはずだ。 オルガは不敵に笑う。

「納得してくれたか? ……ったく、食った後のゴミぐらいちゃんと捨てとけってんだ」

「……少し釈然としないが、だがミカに会ったのは間違いは無いだろう」

「アイツとは必ず再会出来る。 俺には分かるんだよ……さてと、皆帰るか」

 このバルバトスもサルベージして、な。 そう付け加えてオルガは皆に基地に帰るよう呼びかけ、皆も生き生きとした表情でそれを受け入れた。

 

 サルベージの準備を進めながらオルガは考えていた。

 本当に得体の知れないこの球体が三日月を騙って呼びかけたのなら、わざわざこの種子の存在など気にも留めないはずだ。

 これは三日月を知る者なら間違いなく、彼を象徴する要素(ファクター)の1つであると理解するだろう。 オルガは確信する。

 

 

 

 

 

そう、この種子が『火星ヤシの種』であると知っているのなら。




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