No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~ 作:Easatoshi
星々の煌めく夜空の元、基地に帰還したオルガ達。
再会を果たした戦車道の面々、旧メンバーのビスケットとタカキを新たにメンバーに加え入れ、一同は返り咲きの意を込め新たな鉄華団の立ち上げとそれを祝うパーティーの準備を進めていた。
「基地の方はこんなもんでいいか! そっちはどうだペコリーヌ?」
<こっちもバッチリです! 後は配膳をするだけですね☆>
「そっかぁ!」
調理担当のペコリーヌと無線のやり取りをしつつ、オルガは仮に設けた調理場に目をやりながら、無事増築の完了した本基地を眺めていた。
新たに加わった仲間達が大所帯という事もあり、7人に合わせて建築した今までの木造基地のスペースでは手狭も良い所であった。
そこで基地に残ったキャルやタカキ達にあらかじめ増築のための資材集め等をお願いし、オルガ達の帰還と共にそれを実施する流れとなった。
「これで、随分と基地が大きくなるな」
「本当に良いのかいオルガ? 僕達一気に大人数で押しかけちゃったけど、ごめんよ。 基地の拡張なんて手間を急に押し付ける形にもなったし」
一緒に作業をしていたビスケットがどこか申し訳なさそうな声を上げるが、オルガは全く気にしない様子で答えた。
「仲間内で水臭いことは無しってお前も言ったろ? 気にすんな……これでまた鉄華団が大きくなれる、それも平和的に返り咲けるかも知れねぇんだ。 喜ばしいじゃねぇか」
「……そうだね」
オルガはビスケットと共に大きくなった基地を見てしみじみと思う。
(……本当に、こうしてまた皆と一緒にいられるなんてな)
簡素な作りだった基地は、ビスケット等がイサリビの船内で用いていた技術等を流入させることで一気に立派な建築物に変貌した。
今までの木造の部品に加え、白っぽい金属製のパーツや土台も追加された基地は、いよいよ持って絵に描いたようなSF風の
戦車道の面々の為に大幅に増やされた居住スペースと宇宙船の離着陸場にエクソクラフトの整備格納庫、面積を増築した談話室。 男女別のトイレにシャワースペース、倉庫。 ビスケット達が持ち込んだ基地の設備の設計図により、生活に必要なありとあらゆる設備を設けることが出来た。
一カ所だけ不自然に空いている空間はあるものの、それは今離れに設けてあるペコリーヌ達の仮設の調理場を移築する予定地だ。 増築の作業に当たって祝賀パーティーの調理作業と競合するため、一時的に離れた場所に作る必要があったからだ。 移築自体は簡単にできる為、これはパーティーの後にでも行えば良いだろう。
一回りも二回りも広くなったこの基地は、増えたメンバーと大きくなる鉄華団、そして
<オルガ、掃除も完了したよ! いつ始めても大丈夫だよ!>
<早く配膳始めよダンチョー! もう待ちくたびれたよー!>
「落ち着けテイオー……料理は逃げねぇんだからよ」
<うん。 ボクもそうなんだけど、何よりスペちゃんが>
<もう! テイオーさんったら、私を口実に急かさないで『グゥゥゥゥ……』あっ……>
無線機越しに聞こえてきたスペシャルウィークの腹の音に、オルガは軽く噴き出した。
「わーったわーった! 聞こえたかペコリーヌ、それに皆。 折角終わった所悪いが、直ぐにでもパーティー始めようぜ!」
オルガの言葉に、全員が歓声を上げた。
***
オルガ達は新たに拡張したばかりの食堂に集まり、テーブルの上にペコリーヌ特製の手料理を並べていく。
今回は新たに加わったメンバーも入れて一気に大所帯になったこともあり、大皿料理を中心に肉、野菜、穀物、果物等色とりどりの食材を使った料理が並ぶ。
「今日は腕を振るいました! 新しく用意したキッチン様々ですね☆」
いつもは『栄養プロセッサ』を使用して調理行程を全自動で賄っていた(レシピ自体はペコリーヌ謹製)オルガ達。 しかしその機械の不調によって現在使用不可に陥ったことで、マルチツール等手元にある機械を駆使したり、原初の人類さながらに石器を作ったりして手作業で何とか賄っていた状態だった。
だが、そうなると栄養プロセッサの調理過程によって解毒が成されていた食材等は調理出来ず、さしもの高い調理スキルを持つペコリーヌを持ってしても、一品料理を安全に作り上げるには中々骨が折れた様子だった。(それでも美食家としての性か、何処となく生き生きと作業に取り組んではいたが)
そこに来て栄養プロセッサと同等の調理工程を手動で行える、宇宙での生活に適切かつ優秀な炊事場を与えられたペコリーヌが、今まで以上に張り切って調理に励むのはある意味当然の帰結と言えよう。
結果、普段よりも数段豪勢な食事が出来上がり、一同から感嘆の声が上がった。
「すっげえ……。 これ全部お前が作ったのか?」
「はい♪ スペちゃん達他の皆も手伝ってくたのもあって頑張っちゃいました! 久しぶりに料理の腕を振るえて私的にも大満足です!」
オルガは目の前に広がる光景に思わず息を呑んだ。
普段は美食家として舌を肥やし、その味を探求することに余念の無いペコリーヌ。 そんな彼女は作るのも好きと言うだけあって、腕によりをかけたと言うことが何処となく煌めきを感じる目の前の料理の出来映えから想像に難くない。
「お世辞抜きに言う……美味そうじゃねえか」
「ふふん! 栄養プロセッサも便利ではありますけど、できる限りは自分で調理したいですね! それが、食材として命をくれた者達に対する礼儀というモノですよ! オルガ団長!」
「違いねぇ!」
オルガの率直な感想に、ペコリーヌが胸を張って答える。オルガもその言葉に同意すると、二人は互いに笑い合った。
「オルガさん! 私もうお腹ペコペコですよ!」
「うむ! 私ももう待ちきれん! そろそろ始めようじゃないか!」
香しい芳香を放つ赤々とした『ピルグリムベリー』のジュースが入ったがらスコップを片手に、スペシャルウィークとラウラがパーティーの開始を催促をする。
「そうだな。んじゃあ始めるか。みんなグラス持ってるか?……よしそれじゃあ、今日は俺達の新しい拠点の完成。 そして戦車道の皆やビスケット達が戻ってきた! 言うなれば鉄華団の返り咲きだ! 乾杯!!」
「「「「「「かんぱーーーーーーい!!!」」
オルガの音頭に、全員が声を上げて応える。そして、オルガは手に持ったグラスを掲げる。
全員もそれに倣ってそれぞれの手に持つ飲み物の入ったグラスを掲げ、いよいよ宴が始まった。
皆一斉に、ペコリーヌ特製の『ピルグリムジュース』を呷った!
そして、その甘美な味わいと独特の苦みと渋みをたたえた奥深い風味に皆が虜になる――――が。
疑問符を浮かべたのはペコリーヌと、彼女の料理の腕を知るオルガ達6人だった。
「っぷはぁ! これは美味しいなあ! 凄く上品な味がするよ……って、どうしたのオルガ?」
ジュースの味に舌鼓を打つビスケットだが、首を傾げるオルガ達にふと疑問を抱いて声をかけた。
「ん、いやまあ……なんて言うか」
「いつもと味が、違う気がしますね?」
オルガとペコリーヌが目を見合わせて答える。
「確かにな」
「うん、間違いなく美味しいんだけど……ペコリーヌの言う通りちょっとだけ、いつもと感じが違う」
ラウラとシャルロット二人の言葉に、スペシャルウィークとトウカイテイオーもうなずいて同意を示す。
「……? そういう、ものなのかい?」
「良いんじゃ無いですか? とても美味しいですし……あ、料理も頂きます!」
今一腑に落ちないビスケットと、折角の楽しい雰囲気を楽しもうとみほ達と一緒に料理に手を進めるタカキの姿。 そんな彼らを前にオルガ達は目を見合わせ、はにかんだ。
「まあいいか。 よしお前等! 今日はとことんまで行くぞーーーー!!!!」
オルガの号令に、少しだけ出鼻をくじかれた感のあるシャルロット達を中心に、おーーーーー!!っと拳を突き上げるのだった。
(……なんだろう、ちょっとだけ……やばい気がしますね☆)
ペコリーヌの脳裏に一抹の不安がよぎりながら。
そして小一時間後、彼女の予感は見事に的中した。
「……僕、なんか身体が熱いよ……♡ 何だかムラムラしてきちゃった♡ オルガに鎮めて貰わなきゃ♡」
「あー♡ シャルロットさん、抜け駆け禁止ですよー♡ ふしだらな女は私のお母さんだけで十分ですから―♡」
「ふにゃぁぁああああっ、み、みなひゃぁん♡
それは乱痴気騒ぎと呼ぶにふさわしい光景だった。 呂律の回らないスペシャルウィークに煽られるように、半脱ぎになってオルガを巡る女の争いを今にも始めそうなシャルロットとみほ。 散らばった料理に突っ伏すようにして無心に頬張り続けるラウラの目に正気の色は見当たらない。 キャルは酔った他の戦車道の面々に残りの料理を口に突っ込まれ悶絶している。 トウカイテイオーは眠りこけ、気分を悪くしたビスケットがタカキに介抱されている。 その隣では盛大に真っ白な希望の華を床にぶちまけ仰向けに倒れるオルガの姿。
またの名を、地獄絵図が繰り広げられていた。
ただ一人、薄々危険を察知して惨事を回避したペコリーヌだけが、その光景を引きつった笑みを浮かべながらありありと眺めていた。
「……やばいですね☆」
原因は見当がついている、最初の乾杯に呷ったあのジュースだ。 一口目に感じた芳香と苦みは、実はアルコール発酵によるものだった。 無論意図して仕込んだものでは無く、なまじ高性能になった調理器具によって張り切りすぎてしまい、意図しない作業工程が発生してしまったのだとペコリーヌは推測した。
そして誰もがそれを知らずに飲んでしまった事で全員に酔いが回り、収拾がつかなくなってしまったのだ。
ペコリーヌはジュースを飲んだ後、万一を考えてあらかじめ別で用意した浄水を飲み続け唯一無事だったが、それでもこの場に立ちこめる酒精の匂いだけで頭がくらくらしそうになる。
こんな状況でまともに動けるのは自分しかいない。 そう思った彼女は、ひとまずはスペシャルウィークの主催する卑しか女杯を食い止めるべく、彼女達の間に割って入る。
「ダメですよスペちゃん、それに皆さん! あんまり羽目を外しちゃめっですよ!」
指を立てて顔を近づけスペシャルウィークを制止すると、彼女によって煽られ今正に女の戦いを始めかけていたシャルロットとみほもペコリーヌに振り返る。
「ペコリーヌも、参戦するの?♡」
「ペコリーヌさんまでオルガさんを狙ってるんだぁ♡ 私達皆ライバルだね♡」
「へっ?」
酔っぱらっているせいか、妙に色っぽい声で迫ってくる二人に思わず一歩引く。
そんな二人の様子に、他の参加者達は大いに盛り上がる。 その盛り上がりに、ペコリーヌの頬が引きつった。
(あっ……これは)
直感で嫌な予感を察したペコリーヌはつい後ずさりそうになるが、それを背後に回り込むはスペシャルウィーク。
「……げまへん」
「え?」
ペコリーヌが突然のスペシャルウィークの行動に驚きを見せていると、スペシャルウィークは目を見開いて叫ぶ!
「オルガちゃんはあげまひぇん!!」
そして次なる行動は、ペコリーヌをタンクたらしめるたわわな胸部装甲を鷲づかみ!
「ひゃぁん!! す、スペちゃん!! ダメですよぉ!! それ以上いけない!」
これには流石のペコリーヌも動揺を隠せない。
この期を逃すな、そう言わんばかりにシャルみほコンビが黙っていなかった。
二人はスペシャルウィークに加勢するように同時に飛びかかると、スペシャルウィーク共々ペコリーヌを押し倒して両側から彼女を拘束する。
それはまるで、獲物を捕らえて逃さない肉食獣のような動きだった。
「ちょ!? みなさ~ん助けてくださいよぉ!」
三人に抱き着かれもみくちゃにされ、ペコリーヌはつい助けを求める。
「いやー、なんか楽しそうだねー。私達も混ざっちゃおうかなー」
「ほうほう! こうすればペコリーヌ殿の立派な装甲もタジタジというわけですな!」
「……お、おいっす~☆」
だがしかし、キャルに暴飲暴食を強いる酔った戦車道の面々に期待など出来るはずもない。 比較的正気を保っているタカキとビスケットも満身創痍。 とてもじゃないが、自身を助けに集団に飛び込んでいく気力はなかった。
「ペコリーヌひゃぁん!! おるがちゃんはわたひのおにいちゃんなんれひゅよぉ!! かぞくなんれひゅよぉ!!」
「だめだよスペちゃん!♡ オルガさんは私のお兄さんなんだからぁ♡ ペコリーヌさんもぉ、皆して私の家族を取らないでぇ!♡」
「でも恋人は僕なんだぁ!♡」
「ああもう、いい加減にしてくださいよー!」
酔いによって羽目を外したシャルロット達はかつての団長のごとく止まらない。 このままではペコリーヌの身はそれこそ口で言えない事態にまで発展しかねないだろう。
(こうなったら)
何とか彼女達を制止しようと、やむなくペコリーヌは強硬手段に出る。
「皆さん……ちょっと失礼しますよっ!」
ペコリーヌはティアラにあるような『王家の装備』の力を一部開放し、自分の身体を光らせる。
そして、その光が収まる頃には、彼女は『プリンセスナイト』と呼ばれる姿になっていた。
言うなればペコリーヌが己の力にこれでもかと倍率をかけた状態であり、身体能力が大幅に強化されている。
「お酒は飲んでも……飲まれちゃいけません!」
そう言い放つと、ペコリーヌは酔って騒ぐ一同を無理矢理引き剥がすべく、何処からともなく取り出したマルチツールを地面にかざし、その力を一気に解放した!
それはさながら剣より放たれし光の奔流のように、羽目を外した者達をたちどころに吹き飛ばした!
「あーーーーれーーーーーーーー!!!!!!」
「ぎゃーーーーーーーー!?」
「ひぃやぁ~~~~ん!!?」
「あばばばばばばばばばばばばばばばばっ!!!!!!」
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…………
光が収まった後、肩で息をするペコリーヌの周りには、テーブルや食器の残骸と思わしき破片が無残に爆散した食堂の室内と、全員仲良く「止まるんじゃねぇぞ……」と言わんばかりに指を立ててうつ伏せに気を失うシャルロット達の姿があった。
皆焦げて気を失っているが、幸い可能な限り手加減したこともあって、ペコリーヌの攻撃を内部で受け止めた基地の機能も含め目立った外傷はない。
「……あはは、結局パーティーが滅茶苦茶になっちゃいましたね」
爆心地で一人立ち尽くすペコリーヌは、最早乾いた笑いを浮かべるしか無かった。
こうなってはお開きにせざるを得なく、ペコリーヌは軽くため息をつくと仕方なく気を失った仲間達を次々に部屋へと運んでいった。
一人一人を丁寧にベッドに寝かせ、残す所はオルガただ一人になった。
一人で皆をベッドに運んだ疲れからペコリーヌも流石に息が上がるが、それを堪えてオルガの身体を抱き上げ、彼の部屋へと運び込む。
そっと部屋の奥にあったベッドに寝かせるも、オルガが起きる気配は無い。 相当に深い眠りに落ちているようだ。 振り返ってみれば、最初に酒に酔ってダウンしたのも彼で、終始こちらの騒動など気にも留めず眠りにこけたままの状態だった。
(オルガ君はお酒に余り強くないんですね……)
口元を拭いてあげる内に、ペコリーヌの表情に柔らかな笑みが浮かぶ。
団長として日々皆を引っ張ろうとする彼の寝顔は、年相応の青年のように無垢で粋がった雰囲気など微塵も感じない。
そんなオルガの事を皆が慕っていたように、ペコリーヌもまた彼のことを好ましく思っている。 「…………」
無防備に眠るオルガの頬を指先でつつくと、彼は僅かに顔を歪めて寝返りを打つ。
その様子に思わず微笑むと、ペコリーヌは彼の頭を優しく撫でた。
「シャルちゃんや今日であったみほちゃんといい、随分モテるんですね。 ちょっと焼きもち焼いちゃいます」
そう言いつつも彼女の声音はとても穏やかだ。
「パーティーの場で酔い潰れる前に言ってましたね。 本当に浮気をするつもりなんて無かった。 シャルちゃんとみほちゃん、その二人と親密に暮らしてきた記憶が当然のように共存していたんだって……勿論、酔ったお二人は納得がいかずに詰められてたみたいですけど」
ペコリーヌはクスリと笑う。
「……でも私、
眠りこけるオルガから返答は無い。 しかしペコリーヌは独白する。
「……今目の前に居る貴方は、
ペコリーヌは暗い天井、そして窓の外に広がる星々の輝きを瞳に映しながら、ポツポツと言葉を紡ぐ。
「オルガ団長。 もし貴方が私の気持ちを理解してくれるなら、私はどうしたら良いんでしょう?」
ペコリーヌはその問いを眠るオルガに投げかけるが、無論返事は無い。 静かな夜の空間に彼女の声だけが響く。 その声色には優しさの中に戸惑いが混じったような複雑な心境が感じ取れる。
彼女は困ったように小さく笑みを浮かべながら、オルガの頬を優しく撫でてやる。
するとオルガはくすぐったそうに身を捩り、やがてまた穏やかな表情で深い眠りに落ちていく。
「ふふっ、わかってますよ。 貴方も自覚していなかった事を急に答えなんて出せないですし、私も同じです」
ペコリーヌは彼の頭をそっと抱き寄せると、自分の胸元へと導いてやった。
トクントクンと、彼女の鼓動の音がオルガの手のひらに伝わっていくのを感じる。
「だから……その時が来るまで、私も答えを探しておきますから、ね?」
慈愛に満ちた眼差しをオルガに送りながら、そっと彼の手を離す。
ゆっくりと彼の元から離れ、明かりの差し込む廊下に足を踏み入れた時、ペコリーヌはそっと室内に振り返る。
「おやすみなさい……オルガ団長」
ペコリーヌははにかんで軽く会釈を済ませその場を離れた。 自室に戻る最中、静かに扉の閉まる音が耳元に響く。
<エンティティ・アルテミス! 君の信号を受信した。 これが最初か? これが最後か?>
記憶が混在しているのは、何もオルガ一人では無かったと言うお話。
(ヒント:オルガ騎士君ルート)