No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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第24話

「お前も、元気そうで何よりだよ!」

 オルガと黒いスーツの少年、キリトは互いに作った拳骨を合わせ再会を喜ぶ。

「って事は、そっちの女は……」

「ええ、久しぶり! 随分大所帯を引き連れてるのね。 これが貴方の言う鉄華団なのかしら?」

 片割れもヘルメットを取ると、橙色の長髪をスペシャルウィークみたくクラウンハーフアップに結んだ髪型の女性。 キリトの恋人である『アスナ』だった。

「やっぱりアスナか! なるほどな、ペコリーヌの話を聞いた時から薄々予感はあったんだよな!」

「彼らもオルガの知り合い?」

 隣にいたビスケットが問いかけてくる。

「ああ、スペやテイオーのいた所みてぇにVR技術が発達した世界があってな。 そのゲーム内で()()()あった時に知り合ったんだよ」

 含蓄のある言い回しをするオルガの説明に、キリトとアスナは苦笑いする。

 実際の所はとんでもない修羅場だったからだ。 1万人が同時接続する立ち上がったばかりのVRMMO『ソードアートオンライン』が、開発者である『茅場 昭彦』自身の手で文字通りのデスゲームに変貌。 ゲーム内で死亡すると、ログインするために必要なVR機材『ナーヴギア』から電磁波が発せられ脳を焼き切られ死亡してしまうと言う、極めて絶望的なリスクを背負わされ殺伐とした状況に置かれていた。

 そのゲームをクリアしたのが他でも無い、ここにいるキリトにアスナ、そしてオルガ達率いる仲間達の奮闘によるもので、のべ2年もの歳月をかけてようやく生還したというのが本当のところだ。 一悶着なんていう言葉では到底片付けられない、良くも悪くも濃密な時間があった事をここに簡潔ながら記しておく。

「……で、オルガ。 どうしてお前がここに居るんだよ? この『スペースアノマリー』を知ってる奴なんてこの宇宙に殆どいないだろ?」

「まあ色々あってな、ナーダって言う名前の奴に家に招待するってここに呼び出されたんだよ。 急に球体の入り口が宇宙空間に現れてよ」

 オルガはナーダと言う人物に、キリトがそう言ったこのスペースアノマリーなる場所に呼び出されたくだりから、これまでに起きてきた出来事をキリトとアスナに語った。

 

 これまでに自身が異世界転生を繰り返しており、突然訳も分からずにこの世界に呼び出された事。

 ここにいる仲間達がかつてオルガが巡った異世界の住人で、彼女らと旅の過程で再会を果たしながら、かつての鉄華団を再結成している事。

 そして、道中で謎の人物に導かれるままに『アルテミス』なる人物のIDを手に入れ、ここに行き着いたと言う事を。 オルガは仲間達の紹介も簡潔に交えながら、可能な限りの情報をキリト達に話す。

「そっか……オルガにも色々あったんだな」

「正直この世界もゲームなんかじゃないかって思ってたけど、オルガの言葉を信じるなら本当に別世界があるんだね……」

 アスナは彼女につられてヘルメットを外したキャルやウマ娘2人の揺れ動く耳を見ながら、そう呟いた。 確かにウマ娘を初めとする異種族やISにモビルスーツの存在、戦車に乗るのが乙女の嗜みとする世界など、本来ならばあり得ないだろう。

 しかし現実として目の当たりにしている以上、オルガの置かれた境遇も相まって信じざるを得ない。

「それじゃ改めて……これからもよろしく、鉄華団」

「へへーん! キリトもこれからよろしく! 機会があったらボクとゲーム勝負もしようね!」

「ネトゲ廃人をなめんなよ?」

 手を差し出してきたテイオーにキリトは握手を交わし、互いに笑い合う。

「おっと、長話になっちまった。 そろそろナーダって奴を探さねぇとな」

「だったら俺が案内する。 ここの連中とも顔なじみなんだ、ついてきてくれ」

「サンキュ」

 キリトとアスナはオルガ達を先導し、ここスペースアノマリーの案内も兼ねてナーダなる人物の元へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 道すがら、仲間達……特にテイオーと戦車道メンバーの一部は興味津々で、周囲の建造物一つ一つに目を輝かせていた。

 元々好奇心の強い彼女にとって、未来技術の粋を集めたSF世界の産物は新鮮そのものなのであろう。

「ねえねえ、この四角いホログラムに囲まれた球体って何? ここに来た時からずっと目についてたんだ」

「それは『ネクサス』って言うんだ。 俺らみたいな一部のトラベラー相手に研究目的の調査を依頼する端末だ」

「ふーん、要するに何かのミッションを受注する機械って事」

「ゲーム的に言うならな」

 テイオーに尋ねられたキリトがかみ砕いて説明をする。 そう言った依頼をする為の機械と言う事は、得られたデータをまとめて調査する研究者がいると言う事なのだろうか。 オルガがそのように考えていると、その考えを読んだであろうキリトが先んじて口を出す。

「このスペースアノマリー自体が『ポーロ』って言うゲックによって作られた施設なんだよ。 他にも色々研究目的で居座ってる奴はいるし、変わり種としたらグルメな芸術家なんかも居るぜ?」

「考えを読むなよ……」

「そんな顔してたからな」

 得意げに言うキリトにオルガは乾いた笑いを浮かべた。

「その芸術家ったら、随分偏屈で彼の満足する料理を作るの大変なんだから! まあ、おかげで実際の調理技術が鍛えられるから、キリト君に振る舞う分も美味しく作れるんだけどね!」

「……律儀に料理振る舞ってんのか? 随分と親しげ何だな」

「まあ、キリト君と一緒にここを拠点にしてるから。 他の住人と一緒によく食事を振る舞ったりもしてるわね」

「色んな人種が居るから食材集めが大変だけど……まあ、宿代みたいなもんと思えば」

「ここに住んでるのか?」

 オルガの質問をキリトが肯定する。

「定住って程じゃないけど、活動拠点にはな。 この場所は空間の狭間にあって、宇宙なら大抵の場所で入り口を呼び出せるから色々手間が省けるんだよ」

 その言葉にオルガは、拠点の惑星付近の宙域で急に入り口が出現した理由にようやく合点がいった。 今までこの建物が隠れていた事に気付かなかったわけではなく、本当にどの場所にでも現れる事が出来るのだと理解したのだ。

「ダンチョー! こんな所で止まってないで先に行こうよー!」

「グルメな人が居るとなれば、私も人肌脱がなくてはいけませんね!☆」

「研究者がいっぱいいるなら、エクソクラフトの研究している人とかいるかな?」

「ええ色々。 マルチツールに宇宙船から、基地の設備やスーツ自体も研究してる人がいるわ。 この辺の説明はキリト君の方が造詣が深いけど」

「ふむ、ならISのデータも提供してみようか。 ひょっとしたらこれ向きの新技術を開発してくれるかもしれん」

「だったら僕も見てもらおうかな? ラファールのアップデートも出来たら嬉しいし」

「アタシのマルチツールにもマインビームをつけてくれるかも知れないわ」

「できれば基地で農業もやりたいです! 食料品が全然足りてないですし……後は走る場所ですね!」

 女性陣が男性陣を置き去りに好き勝手に話を盛り上げているようだ。 置いてきぼりを食らうオルガとビスケット、それにタカキとキリトは互いに顔を見合わせる。

「なんて言うか……色々新しい事が起きすぎて頭の整理がつかねぇ」

「全くだよ。 女三人で姦しいというか……」

「はは……そう言えば俺達、ナーダって人に会いに行かなきゃいけないんでしたっけ」

「興味津々でそれどころじゃ無さそうだな……いっそアスナと誰かに引率してもらえないかな――――「おや、お帰りキリト、それとアスナ」

 ネクサスの前で皆が盛り上がっていると、すぐ近くのスロープから誰かが降りてきた。

 青と白のエクソスーツを着用しているも、むき出しの頭部は猫のような口元と白いひげ、紫の透き通った触手のような複数の管が首の部分に相当するように胴体と繋がれている奇妙な出で立ち……一目見て宇宙人と分かるような人物がキリト達の前にやってくる。

『アリアドネ』

「ああ、ただいまアリアドネ。 少々手間だったけど、例の惑星に前哨基地を建てといたよ」

「貴方達が無事で何より。 ……後ろのトラベラーは新たな客人かな?」

 彼はアリアドネと言う名前らしい。 キリト達と一緒に居たオルガ達に目線をやりながら問い掛けてきた。

 翻訳の必要も無い、流暢な地球の言葉でこちらに語りかけてくる様子に、キリトとアスナを除く皆が驚きを隠せないようだ。 しばし呆気にとられたが、すぐに気を取り直し代表たるオルガが自己紹介をする。

「ああ……俺は、鉄華団団長。 オルガ・イツカだぞ……」

「相変わらず芝居がかってるな」

 息も絶え絶えな様子で自己紹介するオルガの振る舞いはキリトにとっても見慣れた物なのだろう。 アスナ共々苦笑しながらその言葉を聞いている。

「ふむ、あなたがナーダの言っていた……ようこそトラベラー仲間よ」

 奇妙な挨拶だが、何がともあれ好意的には受け取ってくれたようだ。

 アリアドネと呼ばれた宇宙人は歓迎のジェスチャーをとりながら、オルガ達に言葉を投げかける。

「ここではあなた達は安全で、歓迎される存在だ。 特にそこの……オルガ・イツカ、イテレーション2394829084924924924G。 マッチングは完璧。 この場所はあなたとその仲間達を迎えるためにデザインされた」

「? お、おう……」

 よく分からない言い回しに首を傾げるオルガだが、しかしハキハキとした言い回しに煙に巻くような印象は見受けられない。

「ここは多くの者にとっては故郷ではない。 しかし、常に自分を歓迎してくれる惑星間の隠れ家のような場所なのだ。 どれ、私がこの場所を案内しよう。 皆も歓迎してくれるはずだ」

「アリアドネ、だっけ? 一緒に僕達を案内してくれるの?」

 聞きに徹していたテイオーが、身を乗り出して話に割り込んでくる。 その瞳は期待で輝いていた。

「ふむ、好奇心旺盛なトラベラーだ。 あなたのような存在は『ヘリオス』を喜ばせるだろう……特にあの者は、あなたのような若い旅行者から話を聞ければ活力を得られるだろう。 アスナ、共に案内しよう」

「分かった。 じゃあキリト君、私はアリアドネと一緒にここの皆を案内するわ。 キリト君はオルガ達と一緒にナーダの所まで案内してあげて」

「ナーダはこのスロープの一番上だ、トラベラー・オルガ。 ……それでは皆、ついてきて欲しい」

 女性陣は和気藹々と、アスナとアリアドネに連れられてこの場を後にする。

「元気な女性陣だことで……さ、あっちはアスナ達に任せて俺達は」

「ああ、ナーダって奴に会いに行かねぇとな」

 目につくもの全てに気をとられて色々と話が脱線していたが、ようやくオルガ達は目的を果たす事が出来そうだ。 オルガ、ビスケット、タカキはキリトに先導される形でスロープを上っていく。

 

 

 

 

 

「オルガも顔が広いというか、行く先々で異世界の仲間達と合流するよね」

「ああ。 今回のキリトもそうだが、ひょっとしたら他にもこっちの世界に招かれた奴もいるかも知れねぇな」

「だとしたらこの宇宙の隠れ家にも人が訪れてるかも知れませんね。 こうも異星人が多いと、俺達みたいな人間だったら案外すぐに分かるかも「あ、そう言えば」

 道すがら話していたオルガ達だが、タカキの言葉を遮るように何かを思い出したキリトが言葉を挟む。

「人間って言えば、何人かちょくちょくこのスペースアノマリーに招かれてるな。 特に最近よく顔を合わせるのは二人組だ。 顔つきからしてビスケットとタカキ……だっけ。 みたいに確か白人だったけど」

「本当か?」

「思い当たる節ある? オルガ」

 ビスケットから問われるが、こうも異世界を渡り歩いていると白人の知り合いぐらいあまり珍しいものではない。 誰と言われてもオルガには思い当たる節がむしろ多すぎた。

「正直多すぎてピンと来ませんね……なんか特徴とかあったか?」

「ん、まあ。 その人とはそれなりに親しいって言うか、目上の人として世話になってるからよく覚えてる」

 オルガの問い掛けにキリトは答える。

「まず一人目は俺やアスナとそう変わらない年頃の女の子だ。 ウェーブのかかったピンク色の髪で、ちょっとつっけんどんとしている。 でも立ち振る舞いに気品があるし、どことなく優しさのようなものがあるな……確か貴族だって言ってたな」

「ほう」

「そしてもう一人は中年男性だな。 メガネをかけた細身に見えて体格の良い……ちょっと頭のその、頭頂部的な意味の寂しい人って言うか」

「言うなよ」

 何かを察したオルガがキリトを制止してやる。 まだ見ぬその人物の名誉を考えた結果だろう、キリトも察したか外見の特徴は言わない事にした。

「特にその男性だけど、元いた所じゃ教師をやってるらしくって科学には目がないって言ってた。 元の世界の技術レベルから中世の住人かなって感じだったけど、頭脳は紛れもない天才だった。 俺やここの住人と触れあう度に滅茶苦茶技術を吸収してるんだ。 何なら新しい発明品を自分で生み出すくらいで、今じゃ俺の方が教えを請うぐらいだよ……正直憧れてたりする」

 そう言うキリトの表情は照れくさそうな、しかしどこか誇らしげな笑顔を浮かべていた。

「ああそうそう、確かその二人組は人を探してるって言ってたっけ」

「オルガの事?」

 ビスケットは質問するが、キリトは首を横に振って否定する。

「いや違う……確か名前は――――お、着いた」

 どうやら話に夢中になっている内に目的の場所に着いたようだ。

 

 

 

 

 

 

 扉のない開放的な小さいアーチのすぐ向こう側には広間が見える。 キリトに連れられ中に入ると、正面には端末とその奥にはネクサスのある宇宙船発着場……オルガ達がつい先程まで居た場所を望むベランダがあり、右の壁際には植物を植えているプランター。 それを眺めるように、ゲックと思わしき背の低いずんぐりした爬虫類人が植物の手入れをしている。

 反対側の左手には小さな作業機械のと思わしきパーツ立ち並ぶワークベンチらしきもの。 その側にはマントを羽織った縦長い機械の頭を持つ……コーバックスと言われる人種が佇んでいた。

「おや、お帰りなさいキリト。 任務の件で随分ご足労をかけましたねェ」

「ただいまポーロ。 今日はたまたま再会した仲間を連れてきたんだ」

 来客、もといキリトの帰還に気付いたように、右側のゲックが手を止めてこちらを振り返る。

 先程キリトが口にしたこのスペースアノマリーの設計者であるゲック、それが彼なのだろう。 その口調や纏う雰囲気からは、一目見ただけで物腰丁寧で穏やかな人物像が窺えた。 

「見慣れない人達ですねェ。 お知り合いですか?」

「ああ、昔の顔なじみなんだ。 紹介するよ」

「俺は、鉄華団団長……オルガ・イツカだぞ……」

 いつもの今にも死にそうなリアクションでお約束の自己紹介をするオルガ。 キリトがポーロと呼んだゲックは目を丸くしてこちらを見ており、ビスケットとタカキは苦笑いするしかない。

「私はポーロ……あなた、怪我や病気にうなされているのですか? このスペースアノマリーなら優れた治療設備がありますよォ?」

 あ、いや……俺は別に、そんな……」

「世話無いよオルガ。 僕はビスケット」

「タカキと言います。 以後お見知りおきを」

「どうもよろしく皆さん。 貴方達とも今後共に仲良くやっていけると嬉しいですねェ」

 リアクションを真剣に受け止められ、心配される様子にたじろくオルガに対し、他二人の自己紹介はいたってシンプルに恙なく終わる。

「君がアルテミスのIDを持っていたエンティティ・オルガだな?」

 すると反対側の壁際でこちらのやりとりを見ていたであろうコーバックスも、こちらに歩み寄って来た。

 身長はオルガと同じぐらい、2メートル前後はあるだろうか。

 その細長い体躯と表情のない機械らしい無機質な顔。 しかし、その口調と電子音そのままな声色からは落ち着を感じ、オルガを気遣っていたポーロとはまた違った知的な雰囲気を醸し出していた。

 敵意のようなものは感じない。 オルガは歩み寄ってきたコーバックスに問い掛ける。

「どうやら俺を呼んだのはアンタみてぇだな」

 アルテミスという名前を引き合いに出し、そんな彼のIDを持っていると知っている人物。 何よりキリトに連れられてこの部屋にやって来たのだ。 二人居て片方の名前はポーロと来た。 それでは未だに名乗りを上げていないこの人物こそが――――

 

 

 

「私は祭司ナーダ、コーバックスの異端者だ」

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