No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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第26話

 ペコリーヌ達の()()()()()()粗相により、図らずともキリト達やスペースアノマリーの面々とちょっとした宴会を行い、ほぼ全員が腹を膨れ上がらせた状態でこの場所を立ち去ろうとしていた。

「うぷっ、流石にこんなに食べたの初めてというか……」

「シャルロットさん、消化薬ならあるけど……ううっ」

「ありがとうみほ……」

 互いに大きく膨らんだ腹を摩りながら、シャルロットに消化薬を手渡しするみほ。 心なしか宇宙船に乗り込む時の動きに圧迫感が見える。

「お腹、膨れるというか……」

「これ絶対太っちゃうよー……」

「体重がやばいですね☆」

「……いっそ基地に帰ったら全員で運動しなければな」

「食べた直後は勘弁よ……」

 まさに死屍累々。 これから再び宇宙に飛び出そうとするにしては緊張感のない光景だが、それもまた彼ららしいと言えるだろう。

 今からこの調子では、帰った後の運動や再度の食料調達などを考えて気が滅入るのも無理はない。 しかし、満腹感に一部眠気さえ覚えながらもオルガ達は気を取り直して宇宙船に乗り込み、いよいよ出発の準備を整えた。

「もう出発か、随分慌ただしい一時だったよ」

 宇宙船に乗り込んだ彼らを、キリトとアスナが見送りにきた。 オルガら同様キリト達も膨らんだ腹部を重そうに担ぎ、困ったような笑顔を浮かべていた。

「キリト」

「まさかペコリーヌと一緒になって、ここの連中が卒倒するまで料理を振る舞うとは思わなかったよ。 あのグルメのクロノスが卒倒するなんて尚更な……なあアスナ」

「あはは……ごめんなさいオルガ。 私も自分以外に料理に聡い娘がいたものだから、ついはりきっちゃった」

「ついって……おま……」

「あんなに沢山の料理を作れたのは楽しかったですよ! またやりましょうアスナちゃん!」

「……勘弁してくれ」

 健啖家を含め全員卒倒するレベルの満漢全席を作ったのを「つい」だとか「またやりたい」で済ませるのは流石にどうかと思うオルガだったが、それを言ったところでどうにもならないのは分かり切っていたので言うのをやめておいた。

「まあ、なんだ。 気が向いたらいつでも遊びに来てくれ。 鉄華団はいつでもお前を歓迎する」

「また近い内に、な」

 遠慮がちなキリトに対し、トウカイテイオーが話に割って入る。

「本当にいいの? 住むスペースぐらいなら幾らでも確保出来るよ?」

「ああ。 さっきオルガにも話したけど、現状活動拠点としてはこっちの方が都合が良いんだ。 ……俺やオルガもと好きに行き来出来るようにしたんだ。 いつでも会えるだろ?」

「……そっか、キリトが言うならそうする」

 テイオーはどこか腑に落ちない様子だったが、ひとまずはキリトの意思を優先しUSGケリオンに乗り込んだ。

「またな。 近い内に会おうぜ」

 オルガもキリトと互いに握り拳を合わせると、同じくケリオンに乗り込み発射の準備をする。

 オルガとしてもキリトを是非基地に招きたかったが、無理に催促するのも気が引けた。 ならば今自分がすべき事は三日月ともう一人、ナーダ達と約束したアルテミスの捜索だ。 無論他にもいる可能性のあるかつての仲間達も、自分達の元へと探し集める必要がある。

「相変わらず、やることが山積みだな」

「だね……結局僕達はスペースアノマリーを見て回る暇もなかったし」

「食料集めもやりなおし、ですね」

 オルガはビスケットやタカキ共々、生暖かい目線をスペシャルウィークに注ぐ。 別段怒っている訳でもなく恨み節のつもりはないのだが、スペシャルウィークはばつの悪そうな顔でたじろいた。

「うう、面目ないです……」

「今度こそ体重増えちゃったかもね……何なら一緒にスペちゃんもラウラと一緒に鍛えてもらう?」

「……体重計と相談します」

「お互いがんばろう……僕もがんばるから」

 体型が少なからず気になるのか、ビスケットも共にダイエットに参加する意思を見せた所で、オルガはケリオンを発射シークエンスに移行させる。

「ま、何にせよ一旦基地に帰ってからだ。 行くぜ?」

 オルガを合図に鉄華団所属の宇宙船とISが一斉に垂直離陸、そのままスペースアノマリーの出入り口へと飛行した。 宇宙空間に繋がる光のゲートを潜るべく、オルガ達の船は閃光に包まれた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ウマ娘にIS、ランドソルと戦車道……か。 オルガもそうだけど、まるでゲームの登場人物だな」

「良かったのキリト君? 一緒に行かなくて」

 かつての仲間と彼が率いる大所帯を手を振って見送った後、不意にアスナが問いかけてきた。

 元の世界でも長きにわたってソロプレイヤーを続けてきたキリトだが、その一方で孤独感に苛まれてきたことは恋人であるアスナもよく知っている。

「今は良いんだ。 今は、な」

 無論、キリトとてオルガを見送ったことを後悔していない訳ではないが、さりとて自身の判断が間違いではないとも思っているのだ。

「一緒にいたらあいつらに気づかれてしまう。 俺自身も確信を持っていないのに……無用のトラブルを招くのはごめんだ」

 そう言って、キリトはインベントリにしまったあるモノを取り出した。

 それは野球のボールのような大きさで、自ら紫の輝きを放つ不思議な球体だった。

「あの時に見つけた不思議な球だよね、キリト君」

 アスナの言葉にキリトが頭を垂れる。

 これは彼女と共に旅をした道中にて立ち寄った、無機質な漆黒の建築物の中で発見した。 

『ステート・ファジュア』と名のついた『アトラスシード』なる物質。 何のためにあって何を為すための物なのかはまるで分からない。

 

 キリトは一度この球体の正体を突きとめようと、危険を承知でスーツとの接続を試みたことがあった。

 しかし結果はスーツの過負荷と暴走を引き起こしかけた為に中断、その時の余波によってキリトは気を失ってしまい、目覚めるまでの夢の中で形容しがたい何かに襲われた事を覚えている。

 今となっては、その時に見た夢が何だったのかは思い出せない。 しかし夢の中で感じた現実感の欠如、違和感。 それが目覚めた後から今に至るまで、ずっと引きずっているような感覚に囚われるのだ。 一体自分はあの夢の中で何を見てしまったのか、そればかりが頭の中を反芻する。

「まだ、違和感ある?」

「……ああ」

 力ない返事を感じ取ったアスナが、キリトの手を握った。 彼女の柔らかな温かさがスーツ越しに感じ取れる。

「大丈夫だよ、キリト君。 私はここにいるから」

「アスナ……」

「誰が何を言おうと、私と一緒に過ごした時間や感情は本物だから」

 そしてこの手の温もりも。 キリトは頭の中でそう反芻すると、心の中のわだかまりが少しだけ和らいだ気がした。

(ああ、そうだよな)

 この先、キリトが自らの疑念に対する答えを見いだしても、この感覚だけは決して変わらない。 そう心に刻み込むように、アスナの手を強く握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「収穫はゼロ……これで2ヶ月目、か」

 窓の外もすっかり暗くなったIS学園の職員室。 教職員が皆寮に戻っていった一人きりの空間の中で、『織斑 千冬』はデスクトップPCに向き合いながらため息をつく。 その目元には隈ができており、凜とした佇まいな普段の仕草からはにわかに信じがたい、憔悴した雰囲気を醸し出している。

 彼女がこうして残業をしてまでデスクワークに精を出す理由はただ一つ、この学園でさる大事件が発生し、その対処に追われているからだ。

 千冬は手元にスマートフォンを取り出し、自分が受け持つ生徒達の集合写真……とりわけ仲の良い専用機持ちのメンバーの写真を画面に映す。

 その写真には5人の人物に赤くチェックマークが記されていた。

 

 シャルロット・デュノア、ラウラ・ボーデヴィッヒ。 教職員のマクギリス・ファリド。 そして、三日月・オーガスとオルガ・イツカ。 皆、()()()()()()姿()()()()()()()()()()だ。

「……どこにいったんだ、お前達」

 目頭を押さえて天井の蛍光灯を仰ぐ千冬の表情には、疲れの色が滲み出ている。

 

 最初に行方が分からなくなったのは、オルガと三日月、そしてマクギリスの3人だった。 ある日の朝を期に部屋にあった制服も、私物も何もかもが消失しもぬけの柄になった上、監視カメラにも彼らが出て行った姿がどこにも映っていないことから、またしても第三者の襲撃があったのかと学園全体が騒然となった。

 シャルロットとラウラを始め、主立った生徒が制止を振り切って捜索に向かおうとしたのを、何とか必死に説得して宥めつかせたのも束の間、そのしばらくの後にシャルロットとラウラ自身までも完全に消失した。

 おかげで学園内に戒厳令を敷く羽目になり、マクギリスも教職員の間ではルックス面で人気があったという事もあって職員達の気の落ちようは見るに堪えないものがあった。

 自身もこうして表沙汰になって無用の混乱を招かないよう、さる独自のルートから行方不明者の5人を捜索し続けているが、成果は芳しいとは言えない状況にあった。

 手詰まりな状況に頭を悩ませていると、不意に職員室の出入り口の扉を叩く音がした。

「失礼します」

 聞き慣れた少年の声と共に部屋の扉が開かれると、入って来たのは今やこの学園唯一の男子にして血の繋がった弟の姿。

「一夏か……」

『織斑 一夏』、実弟にして彼女の受け持つクラスの生徒達の一人にして、中心人物でもある。

「……千冬姉、今日もまた一人で仕事してたんだ」

「馬鹿者、学校では織斑先生だ」

 軽く睨みをきかせて叱責するも、しかし一夏は意に介さずにこちらに歩み寄る。 その面持ちは程度は違えど、こちらと同じように疲れを感じさせるようなものだった。

「家族として、だよ。 ……今の千冬姉は全然覇気がない、相当疲れているんだろ?」

「……当たり前だろう」

 そう返すと、一夏の表情は更に重々しくなる。 彼女の知るかつての一夏は、もっと朗らかに笑う好青年だったはずだ。

 憔悴感から陰気さえ滲ませる今の一夏からは見る影もない。

「オルガ達がいなくなってさ、丁度2ヶ月経つんだよな……ファリド先生も」

 ぽつりと呟かれた言葉に、彼女は小さく溜め息をつく。

 2ヶ月という月日は、それだけの期間を一夏に、そして学園の生徒達に精神的な打撃を与えるには十分過ぎた。

 千冬は隣の席から椅子を引っ張り、一夏に座るよう促すと彼もそれに倣い腰掛ける。

 腰は重々しく、座るなり項垂れてぽつりと語り出す一夏。

「千冬姉に止められてさ、学園に残った俺達でも出来ることを考えたんだ……普段通りの生活をして、いつでも帰ってくる3人を迎え入れられるようにしようって……分かっていたんだけど、な」

 そこに来てシャルロットやラウラまで失踪した。 そんな状態だと幾ら元気を装った所で空回りになるだけなのは言うに及ばず、クラスの空気も険悪で腫れ物に触るような重々しさに支配されるのも時間の問題だ。

 意志が強く、頑固な所があるのは家族としてよく知る一夏の性格だ。 残された仲間達と共に制止を振り切ろうとした姿から、こんな状況になっては今からでも捜索に飛び出したいのは間違いが無いはずだ。 それを何とか諫めて学園に残らせて、しかもその割に状況が進展させられないでいるのだから、彼としても内心我慢の限界が近いだろう。

「済まない……私が頼りないばかりに」

 謝罪の言葉を口にする千冬だが、それを一夏は制止する。

「よしてくれよ。 千冬姉のせいじゃないし、もっと堂々としないと……やつれて卑屈になっていく姿なんて見たくない」

「……そう、だな」

 千冬はふと笑うと、一夏も作り笑いだが口元を緩ませた。

「今日はもう休もう。 ほら、一緒に寮に戻ろうぜ」

 一夏に促されるまま席を立とうとした――――その時、千冬のスマートフォンが振動する。 着信相手は、非通知。

 誰の着信かと思ったが、このような状況下で非通知の電話をかけられる人物に何となく心当たりがあった。

 無言でスピーカーホンを入れると、向こう側からは予想通りの人物の声が聞こえてきた。

<はろはろー! 久しぶりだねちーちゃん! いっくん!>

 電話の主は女性だった。 それも一夏が同じ部屋に居ると理解した上での挨拶である。

 

「……何の用だ束」

<つれないなぁちーちゃん! このお友達の束さんが折角わざわざ電話をかけてきたってのに! さみしーぞー!>

 声の主、『篠ノ之 束』は呆れ半分の千冬に場にそぐわないハツラツとした雰囲気で語りかける。

 彼女はこの世界におけるISとそのコアを開発した天才科学者であり、同時に自分本位なきらいがあり場の空気など意識しない天衣無縫な性格の持ち主でもある。

 そんな彼女が幼馴染みである自分達を含め周囲を振り回そうとするのは、いつもの事であった。

 しかし今は、それどころではない。千冬は苛立ちを抑えつつ、束の用件を尋ねる。

「済まないがこっちは取り込み中だ。 冷やかしなら構ってる暇は<オルガ・イツカ>

 彼女の口から出たその名前に、千冬と一夏は真顔になった。

<散々束さんの邪魔立てをした三日月って奴やバエルバカ、何なら他にいっくんの女友達が2人くらい行方不明になったんだってね>

「……お見通しか」

 千冬は内心動揺していたが、冷静に務めて返事をする。

 治外法権を謳うも実質有名無実になりつつあるIS学園において、外部からの介入を防ぐためにオルガ達が行方不明になったことは箝口令を敷いている。

 そんな中でも世界をも振り回す天才科学者の彼女がその事実を知っていることは、まああり得る話ではあると千冬は認識している……しかし、問題はそこでは無い。

「お前にしては私達以外の名を口にするとは、どういう風の吹き回しだ?」

 束はその天才的な頭脳と引き換えか、対人能力が壊滅的で興味の無い相手について、名前を呼ぶことすら面倒くさがるなど徹底的に冷遇する悪癖がある。

 それはオルガ達に対しする態度が正にそれで、辛うじて三日月だけは認識はしているが、それは目の上のタンコブとしての忌々しい相手と認識する故にある。

<んー、まあアレかな? ぶっちゃけ人捜しを手伝ってしんぜようと!>

「……?」

 千冬と一夏の頭に疑問符が浮かんだ。

<先に言っておくけど、ちーちゃん達にとっては選択の余地はないと思うかな? まずこの世界をどれだけ探し回ったって、絶対に見つけられっこないし>

「待て、どうしてお前の口から人助けなんて言葉が出る?」

「俺達だってオルガの為を思ってがんばっています、絶対に見つけ出してみせますよ」

 千冬と束の問答に一夏も割って入る。 成果が芳しくないのは分かっているが、生きていると信じて探している所に、決して見つけられないと水を差すように断言されてしまうのは気分の良いものではないだろう。

 しかし束はそんな2人に呆れたようにため息をつく。

 表情こそ窺えないもののその声色は、まるで聞き分けのない子供に対するようで、そして何より馬鹿にするようなものだった。

 だが、次の瞬間には一転して、真剣味を帯びた口調に変わる。

<見つけられないって言ってるでしょ>

 しかも今まで聞いたことのないような冷たい声で。 聞いたことも感じたことも無いような彼女の真剣な雰囲気に、一夏は息を呑んだ。

()()()()()()()()()()()()()()()んだよ? どう探したって見つけられないよ。 それにね、人捜しを協力するってのは束さん自身の為。 ぶっちゃけ打算>

「待て、()()だと……?」

 打算だと今束は口にした、シンプルな動機だがそれはオルガ達が彼女にとって必要であるからだろう――――理由はさておき、千冬にとっては前者こそが引っかかった。

 

<うん、残り二人も間違いないね☆ 5人とも別の世界に行っちゃったのだ!>

「「別の世界だと(だって)!?」」

 荒唐無稽な回答に千冬と一夏が驚愕する。 すると束はわざとらしく大きなため息をついた。

<話の腰を、折らないで。 一々オウム返しされたんじゃうっとーしーんだよ>

 す、すまん」

 千冬の謝罪に束は不機嫌そうに咳払いをした後、言葉を続けた。

<とにかく。 束さんとしてもこんな事態になったんじゃ協力せざるを得ないって話。 癪だけど特に5人の中でオルガ・イツカって奴が、束さんの目的には必要不可欠なんだよ>

「……手伝ってくれるなら感謝します。 でもどうして、どうしてオルガが束さんにとって必要なんですか?」

 大体彼女が動く時は、IS学園やその関係者達を振り回すことが多々あった。 その上で今し方話の腰を折ったばかりで恐縮するのもあり、一夏は恐る恐る束に問いかけた。

 

 しばしの沈黙を挟んで、束は告げる。

<ねえ二人共>

 その声音はいつものおちゃらけた雰囲気など微塵も無い。 ただ一言、あまりに衝撃的な言葉を千冬達に告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<もうすぐ世界が終わるって聞いたら、どうする?>

 

 

 

 

 

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