No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~ 作:Easatoshi
放棄され荒れた宇宙ステーションの中には言った一同に抱かせた印象は、スラム街そのものだった。
乱雑に廃材が散らばり、メンテの不十分さから大半の区画が封鎖され、宇宙船ドックを中心に掘っ立て小屋やテントの中に代替品となる機材が設置され、正規のショップが立ち並ぶショッピングモールと言うよりは、文字通りの
本来なら青々と光り輝く照明も、光量の不十分な非常用の赤色灯のみが点灯し赤く仄暗く、本来なら最奥に見える球体型のステーションコアなるメインコンピューターは適当に転がされ、代わりに等身大のガンダムバエルを象った白い像が佇んでいた。 その足下ではここを根城にしているのだろう海賊達がひざまずき、バエル像を拝んでいる様子が窺える。
マクギリスのアグニカ教とやらがそれなりには功を成しているのだろうか、荒れているなりには一定の秩序は保たれているようにも思えた。
それはそれとして、出会い頭にマクギリスから放たれたその一言を言い終わる前に、オルガのけじめがマクギリスの顔面に突き刺さったのは言うまでもない。
「まあ、そうなるでしょうね」
冷めた目線を送りながら呟くは鉄華団の面々をこの自由の声のアジトたる、放棄された宇宙ステーションを案内していたジュリエッタである。 彼女は共に出迎えたガエリオと共にオルガ達が自由の声の手下共に襲われた事、特にペコリーヌ等はそれ以前にも一度撃墜され、一歩間違えれば死んでいたかも知れなかったというのだから、けじめとして一発入れないと気が済まないと息巻いていたことを知っている。
ちなみに彼女とガエリオに非が及ばなかったのは、マクギリスを止めようとしていたことがあのアジテーションのメッセージの中に含まれていた事も大きかった。
「グハッ……ず、随分ご挨拶だな」
殴られた頬を拭いながらも、マクギリスはオルガの鉄拳を甘んじて受ける様子だった。
「当たり前だろ! ペコリーヌ等を危ない目に遭わせやがったんだからよ!」
「……その件に関しては本当に済まない。 こちらの落ち度と言わざるを得ない」
改めてマクギリスはオルガに謝罪する。 オルガはわざとらしく鼻で荒っぽく息をすることで、ここに来てようやく溜飲が下がったような思いだった。
「ったく。 孤児上がりの俺らならともかく、何だって
「むしろ俺達は反対だったんだがな……」
異を唱えたのはガエリオだ。 ジュリエッタも会話に入ってくる。
「訳も分からずこの世界に飛ばされて、見知らぬ地で生きていくなら先ずは後ろ盾になる組織が必要だと思いました。 それがたまたまこの自由の声なる組織で――――」
「反アトラスとか言う主義を掲げる傍らで海賊行為を行う連中……関わる内に実態を知って離れるつもりだったんだが、マクギリスは違った」
「……いかにも、我々が来る前はもっともな主張と裏腹に、貨物船や惑星状への基地への一方的な破壊行為……彼等のあまりにも無秩序な悪行は目に余るものがあった。 故に我々はバエルの威光を持って彼らに秩序をもたらそうとした」
そう言ってマクギリスが指差す先には、ステーションに来るなり目についた巨大なバエル像がある。
オルガは苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。 オルガにとっては鉄華団を振り回した曰く付きで、数々の転生先でも色んな意味で辟易させられたそれをあまり快くは思っていない。 そして何より、足下で像を礼拝するカルト染みた光景は、一つの嫌な想像をかき立てられる。
「で、結果は?」
「確かに問題行為の頻度は減りました、が」
「一部はより先鋭化して周囲の被害は結局プラマイゼロ。 下手したら組織だって動く事を覚えた分悪化したかも知れない」
「全然ダメじゃねぇか……」
ジュリエッタとガエリオのダメ出しに、何よりそんな状況でもめげる様子のないマクギリスに、オルガは頭を掻いて呆れ果てるしかなかった。 ジュリエッタ等もどこかで疲れたような面持ちでいる辺り、相当に現状に手をやいている姿が容易に想像出来てしまう。
なんとなく気まずい空気が生まれ言葉を発しにくくなるものの――――ふとした切っ掛けでそれは破られる。
「……?」
何やら辺りに、肉の焼ける美味しそうな匂いが漂った。 最も早く反応したのは肉好きを公言するジュリエッタであった。
「なにやら、香ばしい匂いがしますね」
「本当だ。 さっきまで埃っぽかったんだがよ「さあさあ皆さん! 順番に並んで下さいね! 焦らなくても肉の在庫はやばいぐらいにありますよーーーー!!!!」
ふと離れた所を見ると、あるテントの一角に人だかりが出来ていた。 よく見ればその中ではペコリーヌがテント内に設けられた簡単な厨房において、他の仲間達と共にせわしなく動き回りながら調理にかかっていた。 熱の入った網の上に肉と野菜の串を並べては、焼き上がったそばから海賊達が目の色を変えて我先に料理を奪っている。
「おいペコリーヌ?」
オルガが心配して声をかけるが、彼女の代わりに料理の受け渡しを手伝っているキャルが代わりに返答する。
「あ、聞きなさいよオルガ! ペコリーヌったらまた料理をここの住人に振る舞い始めたのよ!」
「スペースアノマリーの人達より食べ盛りだから、調理の手が収まらないんですーー!!」
「ったく! 愛想が良いのは結構だけど、所構わずに料理し始めるのもいい加減自重しなさいっての――――わわっ!」
「だ、大丈夫ですかキャルさん!!」
スペシャルウィークやシャルロット、みほ達も突然始まったペコリーヌの食事会にてんてこ舞いのようだ。
キャルは足を滑らせて尻餅をついてしまい、それをスペシャルウィークが心配そうに介抱する。
「おいっすオルガ君!☆ この人達美味しいものを中々食べられなくて凄く鬱屈していたんで、私が調理役を買って出たんです! 余った食材は後で分けてくれるそうですから、オルガ君も後で一緒に食べましょう! あ、次に焼く食材は――――」
よだれを垂らしたジュリエッタが、ペコリーヌの調理するテントの前にすっ飛んでいった。 程なくして海賊共ともみ合いになってバーベキューの串を奪い合う彼女の姿が見られた。
「ケンカしちゃだめですよー! 料理なら一杯ありますからー!」
「なんつーか……まあ」
殺傷沙汰を避けたとは言え、つい先程まで命のやりとりをしていた組織の相手に挨拶代わりに料理を振る舞える、そんなペコリーヌの底抜けな明るさと図太さにオルガは感服するしかなかった。
「……なんとなく、あのペコリーヌってのはジュリエッタと声が似てる気がする」
彼女らのやりとりを見ていたガエリオがふと呟いた。 言われてみれば、性格や外見など全然違っているが、その声については一人二役のようにも聞こえていた。
「じゃあ、俺はあいつらがお前の所の娘っ子に粗相をしないよう見張りに行く。 ついでにご自慢の料理も味合わせてもらうか」
「そっか」
ガエリオもまたジュリエッタの後を追った。 そんな中でジュリエッタが頬張った肉を飲み込んだ所を見せると、オルガに対し声をかける。
「オルガ・イツカ、貴方に返す物があります! 後で積み荷を用意するので!」
「……?」
疑問符を浮かべるオルガだが、ジュリエッタはふと柔らかな笑みを浮かべて告げた。
「もう、私達の側には必要の無い物ですよ!」
そう言い残して、バーベキューの争奪戦を再開した。
「ふむ……彼女も粋な言い回しをするものだ」
マクギリスも察したように、不敵な笑みを浮かべている。
「何のこったよ」
「後のお楽しみさ……それはそうとして、オルガ団長」
マクギリスはオルガを真剣な表情で見つめたると、オルガもその意図を汲み取り一度咳払いして話を聞く事とした。
「君は、『アトラス』や『センチネル』というものをどの程度知っている?」
オルガは束の間を置いて返答した。
「どちらもちょくちょく耳にするが、正直言ってこっちの世界に来てから分からねぇ事だらけでピンとこねぇ。 特にセンチネルってのは、いつも出会い頭に襲ってくるポンコツロボットのイメージしかねぇよ」
「ふむ……」
率直な感想を口にするとマクギリスは少し考えるような仕草を見せる。
センチネルという名前自体、スペシャルウィーク達を乗せて初めて宇宙に出た時、次の目的地の星をスキャンした際に名前を知って、着陸後に理由も分からずに攻撃を仕掛けられ、以降も同じような目に遭わされた厄介者でしかない。
アトラスにしても、このエクソスーツのOSが『アトラスシステム』と言う名前なのと、コーバックスなる種族がその名の神を信仰していると、ビスケットやタカキがそう教えてくれた事を記憶している。 尤も彼らにしても抽象的というか、そう詳しくはない様子だったが。
そんな断片的だが何とか知り得た情報を、オルガはマクギリスの質問に対し答えた。
オルガの説明を聞いて、マクギリスは何か納得するように口を開く。
「ふむ、『神』か……確かに彼ら、3大種族達はそのように扱っているようだな。 尤も、ヴァイキーンについては今は昔といった感じらしいがな」
3大種族……ゲック、コーバックス、ヴァイキーンの事だろう。 彼らについても、この世界で過ごす内にオルガにもおぼろげながら実態が見えてきた所だ。
かつては『はじまりの民』と呼ばれた武闘派ながら、今は一転して穏便で商業を重んじる爬虫人類ゲック。 アトラスについては信仰という姿勢は取っているが、実利重視の彼らは原理主義的ではない。
機械の身体に集合意識の中から生まれ出た魂が宿りいずれは帰って行く、科学と知識を探求するコーバックス。 アトラスへの信仰心が一番深いのはこの種族だ。
最後は戦いの中で生きる好戦的な獣人で、かつては信仰していたアトラスに今は唯一敵対的な意識を持つヴァイキーン。 彼らはセンチネルに対しても積極的に攻撃を加える事がある。
「3大種族についてもこんな所だと思っている」
「その通りだ、オルガ団長。 関わり方は違えど我々を含む彼らの後ろ側には、常にアトラスとセンチネルの存在がある。 それも我々をどこかで常に監視するかのようにね」
オルガの認識は正しかったようで、マクギリスはそのように答える。 続けて彼はある事を語り始めた。
「センチネルとは惑星の生態系や資源の保護、宇宙空間における犯罪の取り締まりや、あらゆる公的な施設の防衛を担う……言わば秩序を保つ治安維持の役目を持っている。 そしてこれらは、神であるアトラスの一部が機械の身体を持って顕在した存在らしい」
「……随分、ファンタジーな話じゃねぇか。 こんな科学だらけの世界にしては似つかわしくねぇな」
オルガは苦笑するが同時に興味深くもある。
「第一よ、治安維持だって言うんなら出会い頭に撃たれる理由が分からねぇ。 百歩譲ってむやみに生き物を殺したり、過剰な採掘繰り返したなら言われても仕方ねぇけどよ」
今し方マクギリスが告げたセンチネルの役割……衛兵という意味の名を持つ彼らの意義を考えれば、一番最初に襲われた理由は敵対生物の殺傷にあるとオルガは結論づけた。
しかしあれは先に襲われたのは自分達で、いいとこ過剰防衛ぐらいしか自分達が咎められる理由はない筈だ。
「あらゆる破壊行為に対して不寛容過ぎる理由は不明だ。 しかもその攻撃は、我々トラベラーと称される存在に対してのみ特に苛烈に行われる……現にならず者の略奪行為には通報がなければ、治安の維持もままならないのに対し、我々についてはほんの些細な事で襲われる始末だ」
「なんだそりゃ……理不尽じゃねぇかよ」
ぼやくオルガにマクギリスは笑う。
「そう、理不尽だ……そんな身勝手な秩序を振りかざす、得体の知れない何かに常に付きまとわれるなど、到底我慢出来ないと思わないか?」
(ああ、そうかい)
マクギリスやこの自由の声なる連中が、どうして反アトラス・反センチネルを掲げ、海賊行為を繰り返すのかその意図がなんとなく見えたような気がする。 彼らの言う自由とは、奴らの嘘……センチネルの欺瞞をはねのけアトラスに監視されない、本当の意味での自由意思を求めているのだろう。
「オルガ団長、君とは気心の知れた間柄だと私は思う」
オルガが理解した事を見透かすようにマクギリスが言った。
確かに、オルガにとってマクギリスとはただの知り合いではない。
彼の判断が結果として危機を招きこそしたものの、最後まで鉄華団を裏切らず筋を通しきった。 異世界の旅を含めても行動を良く共にした事もあり、既に彼もまた同じ飯を食った仲間とも呼んでよい存在なのは間違いない。
「再び、共に駆け上がろうとは思わないか?」
マクギリスはその手をオルガに差し伸べた。
以前の自分なら話の流れでそう決めていた事もあった。 オルガはその手を――――
「お待たせしましたマッキー君!! ペコリーヌ特製バーベキューです!☆」
差し出そうか一瞬悩んだ際に、それを遮るようにやってきたペコリーヌが、焼きたての肉を差し伸べられたマクギリスの手に渡したのだ。
「お、おいペコリーヌ「ほらほら、オルガ団長も! ずっと難しい顔をしてますね? こういう時はお腹いっぱい食べたら元気になれますよ!」
オルガの口におもむろに肉の串を突っ込むペコリーヌ。
「うぐぅっ!!」
肉の串が喉を貫通……とはならなかったが、焼きたての大きな肉片が噛まずに喉へ送られた事で窒息。
口に出す事無く、オルガはいつもの人差し指を立てたポーズで卒倒。 他界した。
「あれ? 焼きたての美味しいお肉でほっぺが落ちちゃったんですね?」
「ほっぺと言うか……」
「命が、落ちたんじゃないかな……?」
ペコリーヌを追ってやって来たラウラとシャルロットが、床に倒れたオルガを見て何やら上手い事を呟いた。
お知らせ:今回は筆が乗ったので明日の同時刻(6/18 12:17)にて次話を投稿致します!