No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~ 作:Easatoshi
マクギリス達と一旦別れ、オルガ達鉄華団一行はフリージア星系に帰還した。
「やーっと帰ってきたな」
「そんなに長く居たわけじゃないけど、なんか懐かしい感じがしますよね」
「ああ、そうだな。 異世界の地だろうと、帰れる家があるってのはいいもんだ……が、悪いが基地に帰る前に宇宙ステーションに寄ってくれ」
タカキは疑問符を浮かべるが、オルガはそれに答えるようにマクギリスから預かった『偽造パスポート』を取り出した。
「コイツをステーションコアに読み込ませる必要あるらしいんだよ。 何でも渡航歴を綺麗に細工する為だとか言ってたが……」
「まあ、曰く付きでしたからね……やる事も非合法というか何か……」
「じゃあ、寄り道ついでに他に必要なものの買い出しもしちゃいましょう!」
「よっしゃ、それじゃあ目標は宇宙ステーション――――」
宇宙ステーションに向けていざ出発、そう思ったオルガ達に冷やかしを入れるがごとく謎のアナウンスがイサリビ艦内に響き渡った。
突然のアナウンスに騒然とするオルガ達だったが、その内ビスケットとタカキにみほ達はため息をつくだけで、特に驚いたような素振りを見せない。
「またか、センチネルの貨物スキャンだ……」
「? なんだそりゃ?」
心底うんざりしたようなビスケットの言葉にオルガが反応すると、みほとタカキが変わって説明してくれる。
「禁制品なんかの怪しい積み荷がないか、こうやって抜き打ちでチェックされることがあるの……もし見つかった場合は直ちに差し出さないと攻撃を受けちゃう」
「まあ大丈夫ですよ皆さん。 俺達、変な積み荷を積んでいないことは事前に確認済みですから――――」
「……は?」
しかしタカキの言葉とは裏腹に、センチネルは禁制品の摘発を宣言した。 これにはタカキも面食らった面持ちで、ただ間の抜けた声を上げるしかない様子だ。
<フリージア プライム 管轄コア接続 ■■ 違法貨物を検出 ■■ 直ちに降伏せよ!>
「タカキ、話が違うじゃねぇか……」
「そんな! 俺達確かに積み荷のチェックしましたよ!?」
「私も一緒に見てたよ!? 一体何が検査に引っかかったの!?」
一同大混乱。 オルガはタカキに詰め寄り、みほは大慌てでビスケットと一緒にコンテナを調べ始める。 しかし、いくら調べても禁制品などは出てこない。 これには他の仲間達も焦りを禁じ得ない状況だ。
「ど、どうなってんのよ一体……なんかの間違いじゃないの「あれ? キャルさんお尻の所に何かついてますよ?」え」
困惑するキャルに対し、スペシャルウィークが唐突に彼女の尻にくっついていると言うそれを引き剥がした。
それはどうやら植物の茎というか新芽のようで、押し花のように平らに潰れキャルのスーツの尻周りにエキスが染みついている有様だった。 ほんの少し、蠱惑的な香しさがあった。
「何だか見覚えありますね……それにこの香り」
「あ、これさっきの人達に料理を振る舞ってた時に使った野菜ですね! 良い香りがするからすり潰して香草代わりに使っていたんです☆」
スペシャルウィークの疑問に答えたのはペコリーヌだった。 どうやら彼女曰く、その植物は自由の声のアジトにて誰かが栽培していたもののようで、良い香りがするからと肉の串に振りかけて使っていたらしい。 それを聞いて潰れた新芽を見た瞬間、ビスケット達が青ざめた。
「そ、それはまさか……!!!!」
「嘘!! キャルさんがそれを持ち込んじゃったの!?」
震える指先でスペシャルウィークの持つ潰れた新芽を指すと、キャルが何かを思い出したように叫び声を上げた。
「思い出した!! ペコリーヌの手伝いしてた時にアタシ尻餅ついちゃって、多分その時に……!!」
「まさかこれが……!!」
事実に気づいて同じように青ざめていくキャルやスペシャルウィーク達。 その答えを、タカキが神妙な面持ちで告げる。
「『ニップニップのつぼみ』……禁制品です!!」
一同が驚くのも無理はない。 ならず者達の間で取引される植物の類で禁制品とくれば、おおよそどんな代物なのかは想像に難くない。
そんな中でペコリーヌは目を丸くする。
「え、でも私達食べても何もなかったですよ?」
「食べる分にはね! 実際に『ゲックニップ』って言うゲック達の食品の材料にもなってるけど*1、加工の仕方によってはそう言うクスリになったりするんだ!!」
「え、ええ……食べた後で知りたくなかった」
またしても意図しない食に関するトラブルに、スペシャルウィークは頭を抱えた。 しかし困惑するのも束の間、摘発者達は彼らのやり取りを暢気に待つつもりはなかった。
<反応を認証:服従の意思なし。 アクション:現地の宇宙規制をセンチネル迎撃機に移譲...>
「!! お、おい!!」
艦内に響く無慈悲なアナウンスは、彼らのやり取りに先方がしびれを切らした事を意味していた。
「ちょっと待ってくれ!! 俺達だって知って違法薬物を持ち込むつもりはなかった!! 没収するんだったらさっさと持って行ってくれ!! ここまで来てアンタ等とわざわざ事を構える気はねぇ!!」
慌ててオルガが応対に出て止めに入るも時既に遅し。 ブリッジ越しに見える宇宙空間に複数の宇宙船がワープアウトする兆候が確認された。
数にしておよそ30機以上、一般に出回っている宇宙船のどのタイプとも異なる、オレンジカラーの鋭角的なデザインの宇宙船が一斉に出現。
現れるなりこちらに赤い光――――フォトンキャノンと思わしきレーザー兵器を用いて攻撃をしかけてきた。
最早酌量の余地はないらしい、攻撃が命中しイサリビの艦内が大きく揺れ、艦内全域に一斉に非常サイレンが鳴り響いた。
混乱し、悲鳴を上げる仲間達。 オルガは舌打ちすると仲間達にすぐさま対応の指示を出した。
「総員戦闘配置だ!! ビスケット達やみほ達はさっきと同じようにイサリビの指揮と砲手を務めてくれ! テイオーとスペ達も可能ならそっちについてみほ達の補佐につけ! 残りのメンバーは宇宙船で出て応戦だ!」
「! 了解!!」
「オルガ、皆も気をつけて!!」
「任せとけ!」
ビスケット達にイサリビの指揮を任せ、オルガ達は宇宙船ドックに走って行く。
「ったく!! 別に楯突こうなんて言ってねぇだろ!! トチりやがって!!」
「オルガ、ごめん!! アタシのせいで!」
「キャルちゃんのせいじゃないです! 私がこの植物の正体を知ってたら!!」
ドックへの廊下を駆けながら、キャルとペコリーヌが申し訳なさそうに謝る。 対するオルガは苛立ちながらも、その怒りは仲間達には向けていない。
「ああ? ちょっとしたトラブルなんかいつも通りだろうが!」
「未知の食材を探し求めるのが、美食殿のモットーでしょ!?」
「うむ! あのバーベキューはとても美味かった! あの料理や作った人間のどこに罪がある!」
シャルロットとラウラも、オルガ同様にペコリーヌ等を責めたりはしなかった。
むしろ彼女達の面持ちには、美味い飯を用意しそれを手伝ってくれるペコリーヌらに感謝はすれど、恨むような気持ちは一切ない。
ペコリーヌはつい感極まるような気持ちで、目頭を押さえながら言葉を口にした。
「ありがとうございます皆さん!! 気を取り直してバシバシ囮務めちゃいますからね!!」
「ペコリーヌが武器を使えないなら、アタシもさっきのオルガみたいに直接魔法を叩き込んでやるんだから!」
「なぁに、文句なら気の短いセンチネルの野郎にぶつけてやらぁ! 行くぞお前ら!!」
そうこうしている間に宇宙船ドックに辿り着いたオルガ達は、遠隔操作で宇宙船のキャノピーないしハッチを解放すると、飛び込むように機内へ乗り込み、同時にシャルロットとラウラの二人は瞬時にISを展開する。
「どうだビスケット、みほ! センチネルの動きは!?」
<先ずは1機撃墜したよ!>
<でも数に圧されて砲塔が各個撃破されそうです! オルガさんは出撃後に直ちにセンチネルの迎撃機を砲塔から遠ざけて下さい!!>
「任された!」
オルガがUSGケリオンを発進させ、ペコリーヌのプリンセスストライク、続けてシャルロットとラウラも出撃する。
宇宙船ドックから飛びだしたオルガ達を待ち受けるのは、激しい攻撃に晒されるイサリビの外板とセンチネルの猛攻。 装甲に突き刺さる光の雨を前に、第二の我が家を好き勝手蹂躙するセンチネルに怒りさえこみ上げた。
オルガは操縦桿を握る手に力を込め、憎き敵達に咆吼する。
スラスターを吹かし、イサリビの巨体にまとわりつくセンチネルの迎撃機に突貫する――――
うって変わりイサリビの艦内、スペシャルウィークとトウカイテイオーは艦内の通路を走り回っていた。
オルガの指示でみほ達の補佐につけと言われてみた彼女達だが、二人以外のメンバーは皆何かしらの戦闘スキルを持っているのに対し、自身はまだ付け焼き刃の領域だ。 ペコリーヌのように攻撃スキルは無くとも宇宙船を所持していて囮を務められるわけでもない。 一見役職とは裏腹に手持ち無沙汰に見えなくもないが、実際の所は激務であった。
<二人共急いで!! 別の貨物ブロックでまた火災だ!>
「いぃ!?」
「またですか!? ああもう! さっき消火したばかりなのに!」
ビスケットの指示、あるいは自発的に艦内を動き回り、攻撃を受けて発火した施設の消火に修理と負傷した人員の救助。 所謂後方支援として、俊足のテイオー達はその才能を遺憾なく発揮していた。
絶え間ないセンチネルの攻撃により少なくないダメージがイサリビ艦内を蝕むも、動きも速くフィジカルに優れる利点を武器に、時には破損した機材を強引に取り除ける彼女達の迅速な対応により、これでも被害は最小限に抑えられていた。
そして今、大きな衝撃と共に船体が大きく揺れる。
消火器やリペアツールを手に廊下を走るウマ娘達を遮るように、天井から破片が降り注ぐ。
「危ない!!」
慌てて立ち止まる二人の目の前に、崩れてきた端材が激しく音を立てて積み重なった。 間一髪潰されずにすんだ二人はホッとしたように胸を撫で下ろす。
しかしすぐに顔色を変えると、持っていた機材を側に置いて崩れた天井の破片を撤去する作業に入る。
「ああもう!! 艦内に火事が起きてるのに!!」
「これじゃキリがないですよ!! まだ優花里さん達への補給も済んでないのに――――」
<まずい!! 二人ともそこから逃げて!! 通路ブロックの気圧が下がってる!!>
崩落した破片を担いでは端に避け、悪態つきながらも迅速に撤去作業を進めるテイオー達に、ビスケットの悲鳴に似た叫びが無線機越しに響く。
気圧低下? そのワードに二人の脳裏に嫌な光景が想像される。 この宇宙空間でそれが置きうる状況は――――
次の瞬間、崩落した通路の反対側の曲がり角の壁に、突如大穴が空いた。
艦内の通路ブロックの空気と共に、崩落した天井や消火器にリペアツールが、スペシャルウィークとトウカイテイオーもろとも引き寄せられる!!
テイオーは咄嗟に右手でスペシャルウィークの腕を、空いたもう片方の腕は老化の側面に備え付けられる手すりを強く握りしめ、その上でジェットパックも全開に宇宙空間への吸い出しに対抗する。 今この手を放せば、2人とも猛烈な勢いで宇宙空間に放り出されるだろう。 その上外は激戦区だ。 オルガ達が賢明に戦っている中で無防備な2人が飛び出せば、センチネルの餌食になってしまう事は想像に難くない。
「スペちゃんも手すりを掴んで!!!! 吸い出されたらおしまいだよ!!!」
「わ、分かってます!!」
空気の吸い出される音にかき消されそうになりながらも、テイオーの声に従ってスペシャルウィーク自身も手すりを掴み負圧に耐える。 猛烈な勢いでブロックの空気が吸い出されて行く内に、遂には重力を発生するシステムにも障害が起きたのか、勢いの弱まる空気の吸い出しと共に身体が徐々に浮かび始めていた。
そして静寂が訪れた。
吸い出しが終わったと思えば、今度は無重力に切り替わる。
力で耐えていた状態とは裏腹に、慣れない浮力に包まれた状態に2人は文字通り宙に浮いた状態に陥った。
慌てたように声を上げているスペシャルウィークだが、それはテイオーの耳に届かない。 それもその筈だ、真空状態では音を伝える空気が無いのだから、ウマ娘の聴力が優れていても意味を成さないだろう。 心電図のような規則正しい電子音だけがスーツに響き渡る中、トウカイテイオーは逸る心を抑えて無線機のスイッチを入れた。
「スペちゃん大丈夫!? 真空状態じゃ音は伝わらないよ、無線機を入れて!」
スペシャルウィークもそれに気付いたように、同じく無線のスイッチを入れた。
<驚きましたよもう! テイオーさんも大丈夫ですか!?>
「何とかね! ホントどうなるかと思ったよ……」
<無事かい2人とも!? 通路ブロックに穴が空いたけど、吸い出されてない!?>
ビスケットの安否を確認する無線が聞こえてくると、テイオーはビスケットに状況を説明する。
「ボク達は大丈夫だよ! 何とか宇宙空間には放り出されなかったよー!」
<でも落ちてきた天井の破片と一緒に、ツールと消火器が吸い出されちゃいました! ごめんなさいビスケットさん!>
<いいよそんなの! それより2人が無事で良かった! 何時までも真空状態じゃスーツの酸素も持たない、早くそのブロックから離れて!>
「う、うん! 了解したよ!! でもそれはそれとしてこのまま消火に向かうけど、代わりの消火器はこのルートからだとどこからが近い?」
<! いや、消火はもう大丈夫! 火災の起きた区画も真空状態になって火は消えたみたいだ! それよりも、今は一旦戻ってきて優花里達への補給を優先して!>
ビスケットからの通信を聞いて、トウカイテイオーとスペシャルウィークは顔を見合わせる。
そしてビスケットからの指示に従い、2人は一旦引き返す事にした。
引き返す間際、テイオー達は無言で背後を振り返る。 静かに佇む壁の大穴の向こうはどこまでも冷たい宇宙空間が広がっている。 音も無い光だけが無数に広がる虚空は、2人に本能的な原初の恐怖を実感させられるあまりに息を呑む。
<……行こうテイオーさん。 皆が待ってます>
「うん……」
そうして、2人はビスケット達の元へ戻っていった。
ラウラとシャルロットは、イサリビの艦船側面に穴を開けたセンチネルの迎撃機一機を猛追。 怒りのままにアサルトライフルを叩き込み撃墜する。
「よし! また一機落としたぞ!」
<だけど僕達ももう手持ちの武器が尽きそうだよ、一旦艦内に戻って補給しよう>
「……そうだな」
ラウラとシャルロットは、互いに顔を見合わせる。 レールガンやアサルトライフル、ロケットランチャーの弾薬やエネルギーもそろそろ底をつき始め、特にラウラ自身は集中力を求められるAICの使いすぎにより、既に疲労困憊であった。
とは言え今の一機で合計20近い迎撃機を撃墜、ようやくセンチネルの攻撃が弱まってきたその矢先だった。
警告インジケーターに、センチネルの増援が到着しつつある事実が無慈悲に告げられた。
「新手か!?」
<そんな!! これじゃキリが無い!!>
ラウラとシャルロットが焦りを帯びた声を上げる。 こちらが優勢に転じ始めていたとは言え、海賊よりも厄介な敵が増援を呼んだとあれば、このままでは全滅は免れない。
<皆、機体の状態は!?>
シャルロットは無線でオルガやペコリーヌに状況を確認する。 返事がすぐに返って来るも、その声は切羽詰まっていた。
<良くはねぇ! 武器弾薬をしこたま積み込んだおかげで何とか数機は墜としてるが、敵の数が多すぎて機体がボロボロだ!>
<私もです! キャルちゃんのおかげで私も2~3機は自力で倒せました! でもこのままじゃやばいです!>
<損傷率がもう半分を超えてるわ! アタシの魔力もそろそろ尽きかけてるし、武器弾薬もよ! 正直これで増援呼ばれたら持ち堪えらんないわよ!>
皆、消耗を強いられて機体の損傷も目立ち始めていると告げる有様だった。 そんな中でセンチネルの迎撃に回っていた自身等に、ビスケットからの連絡が入る。
<皆! イサリビのダメージが深刻になりつつある! もうこれ以上は戦えない、撤退しよう!>
<! そうか……!!>
<『緊急ワープユニット』でこの星系から脱出します! 残りの迎撃機は私達が足止めします、皆さん急いで戻って来て下さい!>
焦りが声色からも聞いて取れるビスケットやみほからの連絡に、皆が一斉に押し黙る。 オルガも苦虫を噛みつぶしたように悔しさを滲ませた声で返答する。 不本意ではあるが、圧されていてジリ貧の状況に理解があったのだろう。
<わかった、皆の命が優先だ。 聞いたなお前ら!?>
オルガは撤退に同意する旨を伝えると、すぐさま通信を切った。 どのみち既に継戦能力は限界に達しつつあり、いずれにせよイサリビに補給と修理に戻る必要があったのだ。 少なくとも今飛び回るセンチネルの残りに対しては、みほ達砲手が対応してくれている。
皆がイサリビの方角を見つめると「撤退の準備を急ぐ」の一言をオルガが告げた。 すると、他の4人もそれぞれ了解の意を示したのであった。
「悔しいがこれ以上は戦えないな……」
<うん、素直に撤退しようラウラ……ほとぼりが冷めるまで他の星系に批難しよう>
ラウラも疲弊した身体に鞭打って、シュヴァルツェア・レーヴェンのスラスターに点火する。
一斉にイサリビの宇宙船ドックを目指し飛行を開始するも、機体の損傷に各々ムラがあるのか、元々優れた機体性能を持つペコリーヌのプリンセスストライクはそれ程でないが、オルガの乗るUSGケリオンは目に見えて遅れていた。
「大丈夫かオルガ団長?」
<こんくらい何てこたぁねぇ……って言いてぇが、流石に修理が必要だ>
心配するような声を上げるラウラだが、オルガ自身も窮している様子を隠さず、やっとの思いで先行する4人の後を追う状態だ。
見かねたシャルロットが殿を務めつつも機体を押してやろうと、オルガの元にUターンしたその瞬間だった。
<――――大変だ! もうセンチネルの増援がやって来た!!>
無線越しのタカキの慌てた声と同時に、厄介なタイミングでセンチネルの増援がワープアウト! 現れたその増援を見て、思わず皆が一様に唖然とする。
迎撃機の時よりも更に巨大な反応と共に現れたのは、自身等のイサリビと同じ巨大サイズの艦船――――断面の細い長方形のような船体と側面に多数設けられた砲口を持つ、センチネルの主力艦と思わしき戦艦。
呆気にとられたようなオルガの呟きの後に、センチネルの主力艦はドックと思わしきハッチから艦載機を発進させながら、側面の多数の砲口からイサリビへ向け一斉射撃する。 イサリビの外板にセンチネルの攻撃が突き刺さり、これまで懸命に防戦に努めていたイサリビの砲口が瞬く間に刈り取られていく。
<わあああああああああああああ!!!!>
<お、おい!?>
<優花里さん!? 優花里さんッ!! 大丈夫ですか!?>
<だ、大丈夫です西住殿!! ギリギリ攻撃は掠めました! だけど砲台が――――!!!!>
<まずい!! このままじゃオルガ達の回収まで持たない!!>
抵抗の手段が失われ、現れたセンチネルの増援に追い詰められつつある中、イサリビの艦内からビスケットやみほ達の悲痛な叫びが響き渡る。
イサリビの艦隊はセンチネルの攻撃で見る見る内に削り取られ、瞬く間に窮地へと陥っていく。 ビスケットの言う通り、オルガの速度に合わせていては艦内に戻る前に母艦を失ってしまうのは避けられない。
するとオルガは何を思ったか、イサリビのドックへ進めていたケリオンの軌道を反転させ、何とセンチネルめがけて特攻を仕掛けたのだ!
「オ、オルガ団長!? 何を!?」
ラウラは慌ててオルガへ呼びかけるが、オルガはなおも敵に向かって前進!
<足の遅い俺に構うな!! まだ弾を積み込んでる俺が囮になってやるから、その隙にお前らはイサリビと一緒に逃げろ!!>
<無茶だよ!! それにオルガが残るくらいなら僕だって――――>
<団員を
シャルロットは溜まらずオルガの後を追おうとするが、それをラウラは咄嗟に飛びかかり羽交い締めして制する。
「何するんだよラウラ!! 離して!!」
身を捩らせて抵抗するシャルロットを、しかしラウラは力強く押さえ、そして一睨みした。
「――――撤退するぞ!! 団長の気持ちを無碍にするな!!」
「――――!!!!」
ラウラは無意識に込めた目力と、そして自然と下唇を噛むような仕草により、興奮するシャルロットの押さえ込みに成功する。
その瞬間、オルガは2機のセンチネルに向けてフォトンキャノンを連射、シールドを剥がしながらロケットランチャーを叩き込み1機撃墜! しかしもう一機から反撃を受け、機体の後端から遂に煙を上げる。
「オルガッ!!」
<行けって言ってんだろッ!! 心配すんな! 俺は死んでも死なねぇからよ!! お前らが逃げたら俺も逃げる!! だから行けッ!!>
ボロボロに打ち砕かれ壊されていくケリオンの姿に後ろ髪引かれる思いだが、それを堪える仲間達の意も汲んだシャルロットは、渋々ラウラ達と共にその場を離れた。
<ああもう!! 団長自らが囮になってどうするんですか!!>
<――――今はオルガを信じよう!! さあ、今の内に早く戻ってきて!!>
冷や飯ぐらいと言うか、自己犠牲を平気でやるオルガの姿にタカキやビスケットも不満の声を上げる。 しかしながら逃げ切れるチャンスが生まれたのは事実で、それを無にするべきでないと言う気持ちは、皆痛いほどに分かっていた。
ラウラ達は一斉にイサリビのドックへ着艦! 慌ててブリッジにいるビスケット等に着艦の通告をすると、艦内にいる皆に対しアナウンスが為された。
ビスケットの絶叫が響くと同時に、艦が大きく揺れる。
同時にワープ航行中特有の、形容しがたい強烈な違和感に艦内が支配され、重力制御すらままならなくなる程の超加速に体が押し潰される。
それはまるで、巨大な手で押さえつけられるかのような感覚だが、ラウラ達にとってはオルガを見捨てて逃げた罪悪感の重さのようにも感じられた。
(……すまない、団長!)
ラウラは心の中で謝罪する。 長いとも短いとも言えない奇妙な感覚に支配される中、やがて視界は光に包まれた。
光が晴れると機体の揺れや圧迫感は収まり、イサリビが無事にワープによる避難を完遂した事を告げられる。
安堵するようなビスケットの言葉だが、その声色に嬉しさのようなものは感じられなかった。 そしてそれは皆も同じ気持ちだった。
鉄華団……この星々の海を渡る世界において、初めて明確に敗北した瞬間だった。