No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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 今回からは暫く団長不在だ! な新章スタート!


熱砂の惑星
第33話


「お疲れ様です皆さん……機体の整備はやっておきますので、今はゆっくり休んで下さい」

 やっとの思いで帰艦を果たし、疲労困憊の重い足取りでブリッジに戻ってきたシャルロット達を見るなり、タカキはこちらをねぎらうように声をかけてくれた。 しかしながら、帰艦を喜ぶ口ぶりながら嬉しさのような気持ちはあまり感じられない。 

「……団長はきっと生きてますよ。 自他共に認める殺しても死なない男なんですから、きっとその内「――――アタシが」

 

 タカキのフォローを遮ったのはキャルだった。

「アタシが船に乗り込む前にこれに気付いてたら、こんな騒きにはならなかったわ……」

 キャルは重々しい口調で潰れたニップニップのつぼみを指で転がすと、それを地面に投げ捨てマルチツールを抜いた。

 

「こんなもの!!」

 

 そしてツールの銃口から魔力を放ち、潰れたつぼみを熱波で粉々に粉砕する。 禁制品がただの灰に燃え尽きるのを見ると、そこらの機材に背をも垂れかけるように座り込み、ツールを持っていない左の手で頭を抱え項垂れた。

「……キャルちゃんのせいじゃないです。 私がそれを禁制品だと知らずに調理に使ったせいで「それは言いっこナシって話だったでしょ? ペコリーヌ、キャル」

 キャルに次いで、ペコリーヌが自身を責め始めようとした様子を見かねたのはシャルロットだった。

「あの時団長と一緒にボク達も言ったじゃない。 あれは誰かが悪かったって言う話じゃ無い」

「そうだぞ。 だから自分達をそう責めるな」

「――――でも!

 誰も悪くない、と宥めるような二人に対して、それでもキャルは食い下がろうとした。

 するとそこにビスケット達もわざとらしく咳払いし、皆の会話を遮って視線を集めるような素振りを見せると、ゆっくりと語り始めた。

「キャルやペコリーヌが責任を感じるなら、皆の身体チェックが不十分だった僕達にも責任があるよ」

「ビスケット君の言う通りだよ。 これは皆の問題なんだから、誰かを悪者にしようなんて私達は思わない」

「そうですよ。 ……それに今は」

 みほやタカキもフォローに入ろうとした所で、ふとブリッジの照明が落ちて周囲が暗くなった。

 

「停電!?」

 

 シャルロットの声と共に空間にざわめきが広がるが、束の間を置いて赤い非常灯が点灯した。

 それは先程まで居た自由の声のアジトのような赤く仄暗い雰囲気で、辛うじて窺えたビスケットの顔はため息をついてるようで、ぼやくように言い放った。

「……主電源が落ちて非常用に切り替わったんだ。 こうなるからあまり緊急ワープはしたくなかったんだよ」

「……ワープと何か関係あるんですか?」

 スペシャルウィークが問い掛けると、タカキが代わって答えた。

「大ありだよ。 ハイパードライブに過負荷を掛けて行き当たりばったりにワープさせる機能だから、何らかの機器を巻き込んで故障をしてしまうんだ。 こっちがワープで逃げられないように、敵が仕掛けてくるある種の妨害電波(ジャミング)に無理矢理対抗する為に、ね」

「だからイサリビの主電源が壊れちゃったってこと?」

 テイオーが聞くと、みほは申し訳なさそうに首を縦に振った。

「と、言う事は……そろそろあの機能が――――」

 

 

 

<無重力状態に入ります>

 

 

 

 

 無機質なアナウンスの後に、ブリッジに居る皆が浮遊感に包まれた。

「うわわっ! 何よコレ!!」

「この浮遊感……やばいですね!

「アンタ他に言う事ないの!?」

 初めての無重力に遭遇したペコリーヌ等は、スペシャルウィークやトウカイテイオー同様に身体の制御がままならない。 しかしながらそのリアクションは慌て半分、残りは興味と言った具合だ。

「ああ、やっぱり……」

 ビスケットはぼやいた。 電源周りの故障を招くと、重力を発生させる機構にも影響を与えるらしい。

 身体が浮き始めて宙を回るテイオー、スペシャルウィークやペコリーヌにキャルも同様に無重力の浮遊感に不安げであるが、一方でそれ以外の面々は直ぐに地に足ついて平然と立っている。

ウソ! どうしてビスケット達は普通に立ってるの?」

「僕達はPICの機能をいじれば、好きに重力の向きを変えられるから」

「それにテイオー達も、靴底に重力を発生させる機能がスーツに内蔵されてるはずだよ。 探してみて」

「えっと……あ、コレかな?」

 テイオーはスーツのHUDを起動し、『重力ブーツ』と書かれた項目をONに切り替えると、靴底にだけ重さがかかったように地面に吸い付いた。 浮いていた他の皆も地面に着地する。

あ、良かった! ちゃんと地に足ついた感じ――――はするけど」

「ちょっと弱いですね。 まだなんとなくふわふわします」

「でもこれで、とりあえずは普通に動けますね!」

「まあ、浮ついたままよりかはよっぽど良いわね……」

 宇宙を旅する面々にしては初々しいリアクションだが、彼女らの立ち寄った場所は全て人工重力の発生している施設ばかりの為、シャルロット等IS組と違って無重力には馴染みが無かったのだろう。

「……さて、そう言う訳だからもう自分を責めたりするのはナシ! 早くイサリビを修理してオルガを探しに行こう!」

「そうですね……でもその前に宙に散った資材の代わりを集める必要がありますし」

 タカキが言いかけた所で、皆の腹が一斉に鳴いた。

「――――何より先に腹ごしらえですね! 分かりました! 幸い食料庫は無事だったと思いますし、まずはお腹いっぱい食べましょう!」

 腹の音を聞いて、沈みかけた感情に灯が灯ったペコリーヌ。 どうやら自身の役割を思い出した事で元気を取り戻したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

<... ... ... zzktt ... どこに zzkttk 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中で、辛うじて生きているイサリビの通信システムに何者かの通信が入った。

 突然の通信に一瞬センチネルを警戒してどよめきが走るが、こちらが受信を受け付ける間もなく通信機がオーバーライドされ、独りでにホログラム通信に切り替わる。

 

 ブリッジの中央に設けられたホログラフィーに投影されたのは、黒一色の大きな目を持つスマートな出で立ちの知的な宇宙人の姿だった。 シャルロットは皆に目線を配るが、自身を含め誰一人として彼か、あるいは彼女化の姿に対して見覚えのある者はいない。

<誰かそこに kzzkt いるのか? それは外にある どこか zzzkkt 何かがおかしい ->

 ノイズにかき消される中でのか細い声だが、しかしシャルロット達にはその声だけは心当たりがあった。

「この声……確かプロミス/48で基地を建てて間もない頃の……」

「それ以前にもありました! 初めてオルガさんと一緒に宇宙に出た時にも――――」

「!」

 

 シャルロットにとってはキャルと共に基地のコンピューターのアーカイブによって、スペシャルウィークにとってはテイオーやオルガと共に宇宙船の中で聞いたあの妙な通信。 聞いた切っ掛けは様々でも、その声の主については定かでは無いものの、確かに聞き覚えがあったのだ。

 その話は既にこの2週間の間にビスケット等やみほ達と情報を共有済みで、ビスケット等はその人物について、スペースアノマリーで会話したナーダ達の友人であるとシャルロット達は教えて貰ってもいた。

 

タカキとビスケットは顔を見合わせてうなずくと、謎の人物へと応対を試みた。

「……『アルテミス』さん、ですね?」

 それがこの人物の名前なのだろうか、アルテミスと呼ばれたその人物も首を縦に振った。 どうやら肯定と言う事だろう。

「僕はビスケット。 貴方と幾度かやりとりをしていたオルガ・イツカの仲間で、貴方の友人のナーダさん達からも貴方を捜索するように頼まれていました」

 相手の顔をよく見据えて言うと、しばしの沈黙の後にアルテミスは答えた。

<君は、君達は私を見つけた……>

 それは何処となく感極まっているような声色で、アルテミスは改めて言葉を続けた。

<光はほとんどなかったのに。 もう二度と自分以外の存在の声を聞けないと思っていたのに、どうやって私の声を見つけた?>

「それは――「墜落した船をダンチョー達と見つけたんだよ! あの極寒の星で、ボク達遭難した時に!」

「あんな場所に誘導されてあの時はカッとなったけど、なんやかんやで助けにはなったわ。 一応感謝しとくわね」

 テイオーとキャルが代わりに答えた。 当事者だけあって説明は手短かつ感情を込めて言い放った。

 先の初めてのハイパードライヴのテスト直後に、散々な目に遭ったとテイオー達からは聞かされていたが、しかしアルテミスはそれを遮って独り言のように話し始めた。

<それは外にある。 でもどうやら kzzzkt 私は安全... それは16個ある、 それはまるで kzkzkzt 

「……ボク達の話聞いてるのかな?」

「シッ!」

 シャルロットは思わず人差し指を口元に立てて、テイオーに注意を促した。

 そんな彼女達をしておき、上の空なやりとりをするアルテミスに対し、この場に居る皆がつかみ所のなさに困ったような仕草を見せる。

 会話の流れを掴み損ねる中で、不意にスペシャルウィークがアルテミスに問い掛けた。

 

「アルテミスさん……? 『16』ってどういう意味なんですか?」

 

 それを問い掛けた途端アルテミスは驚いたように、明らかに挙動不審になったように振る舞いを見せた。 まるで聞いてはならない事を聞いたように、恐怖に怯えているようにも見えた。

しかし、それに対する返答はなく、沈黙が流れる。

だが、やがて何かを決意したように、ゆっくりと語り始めた。

<自分が何者なのか分かっていないだろう? あなたは kzzkt それは私に嘘をついた。 それは全てに嘘を...>

 要領の得ない発言をここに居る誰にぶつける訳でなく、ただぶつ切りのセリフを呟く。

 まるで、壊れたラジオのように……それでも、何かを伝えようとしているように。

 

 そしてしばしの後、肝心な事を何も聞き出せないままに音声も映像もノイズに飲まれ、やがて無に消えていった。

 後に残された鉄華団の面々は、ただ呆然と立ち尽くしていた。

「な、何だったんでしょうか? ビスケットさん、私、何か聞いちゃいけない事を……?」

「分からない。 本当に何も分からないよ……だけど」

「……信号が弱すぎるのかも知れませんね」

 今の慌てふためいたまま消えていったアルテミスとのやりとりの中で、タカキが何かに気付いたかのように声を上げた。

「今の会話中に、相手がどこから通信をしているのかを逆探知していましたが……信号そのものが微弱すぎて、正直やりとり出来ただけでも奇跡的と言わざるを得ません。 強力な長距離発信装置、つまりは通信タワーのような設備が必要です」

「それ、どこか近くの惑星にあったりするかな?」

 みほからの問いかけに「探してみます」とタカキは一言告げた後、直ちにブリッジの端末を手早く操作する。 非常用の電源に切り替わっても稼働はするらしい。     

 

 

 

 しばし端末のキーボードを操作する打音のみが聞こえるが、直にその答えは出たらしく、タカキは顔を上げて口を開いた。

 

「ありました、ここです!」

 

 タカキは更に端末を操作すると、先程アルテミスの姿が投影されていたホログラフィーにお目当ての惑星が投影される。 目前に映し出されたのは、所々に緑青の点在する赤茶けた星であった。

 

 

 

 イトゥチ/97

 

 惑星

 

   砂塵の舞う土地

 

   黄鉄鉱

   サボテン果肉

   

   センチネルの脅威:低

 

 

「砂漠の星……か」

 映し出された情報と惑星の全貌を見たビスケットが呟いた。 大気の成分分析は酸素が薄い以外はほぼ窒素と残りは二酸化炭素とメタンが少々。 空気の問題はないが温度差が中々激しく、朝昼は耐熱に夕方以降は寒冷と危険防御システムを酷使する可能性が高いだろう。 海と思わしき緑青の斑点もある為、それなりに水資源は存在するのだろうが、地表が緑に覆われていないのを見るに、サボテンなどの砂漠植物のみが点在する乾燥した星に違いは無さそうだ。 食料の調達には難儀しそうだと窺える。

「まあ、この宇宙で海や植物が必ずしも青や緑とは限らないんだけどね……あと空も。 タカキ、イサリビは後どれくらい進めそう?」

「この惑星なら12時間程度で行けます。 パルスドライブは現状使用出来ませんので少し時間がかかるかと……現地で必要な資源も採取する必要がありそうですね」

「そう、なら早速出発しよう。 今後の人員の割り振りは移動中に決めてしまおう……そろそろお腹も空いてきたし、食事もしないとね」

 ビスケットはペコリーヌにアイコンタクトを送ると、ペコリーヌははにかんで「任せて下さい!」と鷹揚に肯いた。

 

 

 

 

 

 

 ペコリーヌの料理によって一先ずは普段通りに落ち着いた鉄火団の面々は、予定通り次の惑星への航行中に再度ブリッジに集合し、今後の方針について話し合った。

 地球時間にて11時間、惑星『イトゥチ/97』近辺に到着後は人員を半分に割って、地上組と貨物船に残る側に分ける。

 半分は地上に降下後アウトポスト(前哨基地)を建設し、物資のてレポーターを設置後、随時地上から資源を輸送する。 もう半分はそれを受け取って貨物船の修理に従事するというやり方に決まった。

「そして地上に降下するメンバーは……みほ達あんこうチームを中心に、スペシャルウィークとシャルロット、キャルとペコリーヌ、そして僕でいいかな? 残りの皆は貨物船に残って、修理と万一の海賊に備えた見回りを行って欲しい」

「えー、今回地上に降りるのはボクじゃないんだ」

 人員の割り振りにテイオーはどこか不満げだ。 その様子にビスケットは申し訳なさそうに苦笑して頭を掻く。

 テイオーはどこか地上に降りる機会を楽しみにしていたのだが、今回はあくまで船の修理要員として留守番になった事にあまり納得がいってないようだ。

「ごめんねテイオー。 君は皆の役に立ちたいって覚えてきた、機械修理のスキルをこの艦に発揮して欲しいんだ。 それに荷物の運搬や資源採取は、これまでペコリーヌ等と一緒にやって来たスペの方が適していると思ったし、何よりあそこまで必死に説得されたら、ね?」

 ビスケットは視線をスペシャルウィークにやる。 本人の希望ときて彼女を見れば、そこから想像できることは一つだ。

「えー!? スペちゃんまさか降下チームに入りたいって直談判したの!? 抜け駆けはずるいよー!!」

 テイオーは頬を膨らませてますます反発した。

「あはは、その……ごめんなさいテイオーさん。 でも私、どうしてもじっとしていられなくって……これから宇宙船も仕立てて貰う必要あるから、海賊さんの船から見繕わなくっちゃ――――」

「しかも船まで貰えるの!? ボクだって専用機持ってないのにーー!! ヤダヤダヤダヤダッ!! ボクも行くー!!」

 地団駄を踏んで抗議するテイオーを、みほが手を差し出して制する。 何とか宥めつかせると、今度はスペシャルウィークに向き直して語った。

「スペちゃん、ここまでするからには例の訓練、()()()忘れないでね? それが一緒についてくる条件だし、何より命に関わる事だからね?」

「……勿論です!

 どことなく厳かな雰囲気を漂わせるみほに、しかしスペは気圧される事無くハッキリとした声で答えた。

 そんな2人して納得する姿に、テイオーは入り込む余地がないとむくれるも、ビスケットが小声で耳打ちすると一転して上機嫌になった。

 何とかテイオーを宥めつかせたであろうビスケットは、改めて集まった面々に対し宣言した。

「これで決まりだね。 それじゃあ、惑星に到着次第早速行動を開始しようか。 早く皆でイサリビを修理して、僕達の基地に帰ろう」

 

 ビスケットの言葉に皆がハツラツと大きな声を上げ、腕を高らかに突き上げた。




 2023/7/18:追記
 章の名前と最後の展開を少し修正しました。
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