No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~ 作:Easatoshi
<テクノロジーを修理しました>
「修理カンリョー! これでいつでも出られるもんね!」
メンテナンスドックに保管しておいた、先の戦いで海賊から鹵獲した宇宙船の内の一つ。 修理完了のアナウンスと共に、トウカイテイオーはメンテナンスハッチを閉じた。
「わあ! ありがとうございますテイオーさん! すっかり機械修理出来るようになったんですね!」
「へへんっ♪ ボクだってやればできるんだもんね! ……ま、スーツのナビゲーション機能のおかげでもあるんだけど」
スペシャルウィークからの賛辞にテイオーは気を良くするも、すぐ小声で照れ隠しをするように謙遜した。 最初は抜け駆けして降下班に志願したと不満げだったテイオーだが、どういう風の吹き回しか自らも整備の仕事を覚えたいと、彼女もまた整備を担当するメンバーにお願いして、共にスペシャルウィークの宇宙船を整備したのだ。
「ううん、テイオーちゃん寧ろ筋が良い方だよ?」
「私達のやり方を見よう見まねですぐ覚えちゃったし、コツを掴むのが早いね」
「そうそう。 実際に工具を手に取って、エンジンの積み替え作業ができるなら立派なものだと思うよ?」
「えへへっ、そうかなあ?」
それに待ったをかけてテイオーの手際が良いと賞賛するのは、みほ率いる戦車道の面々の中でも、元々自動車部に所属していた『レオポンさんチーム』なる、今は宇宙船やイサリビのメンテナンスを買って出る少女達だ。
地上への降下が近づく中で、自分用の宇宙船を選ぶ際にスペシャルウィークが選択したのは『輸送船』タイプと呼ばれる宇宙船だった。 展望出来る範囲の広いキャノピーを備えたコックピットに、胴体の左右を覆うような半月型のウィングを持つそれは、硬い装甲と豊富な積載量を備えた、戦いよりも文字通り運送に重きを置いたタイプの宇宙船だ。
当機は通常戦闘向きではないものの、海賊は鹵獲した物をそのまま用いる傾向にある為、ロケットランチャーやビーム兵器など色々な武装を搭載していた所謂魔改造が行われていた。 しかし荒事ではなく支援に専念したいスペシャルウィークの希望により、自衛用の最低限の装備だけを残して大半を取っ払った。
カラーリングも白を基調にアクセントにピンクに近い明るい紫に塗り替えられ、ウィングの部分も左側だけを黒にするなど左右非対称に。 シンボルマークに蹄鉄と鉄華団の燃えるような華のマークを重ね合わせたデザインで、アクセントカラーと同じ紫色であしらっている。 名実共に彼女の専用機になった。
「でもスペちゃん用の船だからって、一緒に整備を手伝った甲斐はあったよ。 そうじゃなきゃ、あんまりにも破損が酷いと自力で修理せざるを得なくなるっての知る事もなかったし……それに以前のボクだったら
「ですね……」
テイオーは修理、カスタムにこぎ着けた船の作業風景をしみじみと思い出す。
友達の船だからと自分も役に立ちたいと整備班に頼み込んで一緒に作業に取り組んだが、当初彼女はスーツのナビゲーション機能によって、該当箇所に表示されるホログラフィーの枠に必要素材を合わせれば、スーツのクラフト機能が作業を勝手にやってくれると思い込んでいた。 それはオルガと初めて再開した時に彼が目の前で実演した事で、軽度の修理なら間違ってはいなかった。
しかし今回のケースのような重大な破損を招いた場合は、きちんと専用の設備や工具で自力による修理を求められる事がある為、クレーンを使ってエンジンを吊して載せ替えたりと、整備班の主導の下で専門性の高い作業に従事せざるを得なかった。
だがそれも乗り越えて、むしろ現役の整備班を唸らせるような高い学習能力と適応力を発揮し、無事に作業を済ませる事が出来たのだ。
「色々あったけど整備班の人達の折り紙付きだから、出来映えについては安心してねスペちゃん!」
「はい……ありがとうございますテイオーさん」
得意げに笑うテイオーにはにかむスペシャルウィーク。 そんな朗らかな雰囲気の中、メンテナンスドックに艦内放送が響き渡った。
<スペ、そろそろ次の星に辿り着くよ。 一旦ブリッジに戻って来て>
「あ、そろそろみたいです。 それじゃ行ってきます」
「オッケー! 船はボク達で乗船ドックに運んでおくから、スペちゃんはブリッジに行ってきてね!」
「お願いします!」
そう言ってスペシャルウィークは、テイオーやレオポンさんチームの面々に見送られながら、一足先に船内へと戻っていった。
去り際、背後からは「この調子なら、テイオーには一番良い宇宙船宛がってあげなきゃねー」「ホント!?」と和気藹々と声を上げていたのを、スペシャルウィークは笑みを浮かべながら聞いていた。
(大事に使わせて貰います。 皆さん、そしてテイオーさん)
その言葉を飲み込みつつ、彼女はビスケット達のいるブリッジへと向かったのだった。
かくしてブリッジにやって来たスペシャルウィークを待ち受けたのは、ビスケットと降下するグループであるペコリーヌにキャル、シャルロットとタカキ、そしてみほ率いるあんこうチームの面々だった。 その奥のブリッジの窓の外に広がるのは、これから降下する予定の惑星『イトゥチ/97』が佇んでいた。 緑青の斑点がある、赤茶けて乾燥した星だ。 ビスケットはスペシャルウィークの到着を確認すると、予定通り降下前のブリーフィングを始める。
彼女達降下班に与えられる主な任務は、資源の収集とアルテミスとの通信回復。 降下地点は件の長距離通信用の設備である通信塔のすぐ側となっており、通信塔の近くには今は使われていないベースキャンプがあったのか、まだ現役で稼働しているシェルターも設置されていると、事前の調査で分かった。
「どうやらこの星……以前は通信と貿易の拠点として登録されていたみたいですけど、気候変動で磁気の乱れを伴う砂嵐が頻発するようになったせいで、通信施設は放棄。 惑星自体のデータ登録も抹消されているらしいんです。 だから登記上こそ未知の星となっているようですけど、それでも嵐の少ない交易所の方は現役で使われているようですね」
タカキは次いで交易所と、目的の長距離通信タワーをホログラフィに投影する。 前者は複数の宇宙船の発着場に囲まれたような、高台の建築物と言った出で立ち。 そして後者の長距離通信用のタワーは、枝分かれした先に平らな傘を持つキノコのような、テーブル状の姿を持つ黒い塔。 正式名称は『ホロターミナス』と言うらしい。
「これが通信タワー……ホロターミナスって言うんだ。 それはそれとして現役の交易所……今でも人がいるのに
「そう言う星、この世界の銀河だと割とあるらしいの。 だから新発見って出る割にはしっかり
「ややこしいわね……未発見って言葉の意味を考えたくなるわ」
「後は資源の問題ですね。 水や食料も仕入れたいところですけど、この環境だと中々手に入らなくてやばいかもですね」
「だね。 やっぱり先ず降下後はベースキャンプの建設と、資材集めに注力した方が良いかもしれないね……スペはどう思う?」
「私もビスケットさんと同じ意見です。 補給は大事だと思いますし、まずは拠点を作って安全に動けるようにしてからだと思います」
各々が意見を出し合い、降下後の方針を改めて確認し合う。 団長であるオルガは居ないものの代理であるビスケットやタカキを中心に、今後の話し合いは滞りなく行われているようだった。
「なら当初の予定に変わりなし、だね。 このまま人員の交代も地球基準で1週間を目処に行うつもりだけど、異論はない?」
ビスケットの問いかけに、皆が黙ってうなずいた。
「それじゃあ、予定通り今から30分後の降下に備えて。 降下後は先述の通り、磁気嵐による通信トラブルの可能性も考えられるから、皆そのつもりで気を引き締めて……解散!」
そして30分後、いよいよ降下が差し迫ったその時。 乗船ドックに運ばれていた自身の専用機を前に、スペシャルウィークは緊張した面持ちで佇んでいた。
操縦に当たって手を貸して貰えるとは言え、
「これがスペちゃんの専用機かぁ……良い機体だね」
「テイオーさんやレオポンさんチームの人達が頑張ってくれたおかげです。 あの、みほさん……」
「大丈夫、ちゃんと機体を誘導するから。 万一突入後に操縦が効かなくなった時は、
みほの気遣いにスペシャルウィークは笑顔で感謝の意を述べた。 そして宇宙船のキャノピーを展開し緊張した足取りで乗船すると、直ぐさま降下班全員が通信によってビスケットを中心とするイサリビの残留組と繋がった。
<そろそろ出発ですね。 少なからず困難が予測されますけど、ご武運を>
<スペちゃん気をつけてね! ボク達も1週間後に交代だから、それまで頑張ろうねっ!!>
<済まないなシャルロット……。 私もゆっくり休養をとって必ず回復する。 それまではお前達に任せたぞ……>
激励の声をかけるタカキ達に対し、スペシャルウィークも深呼吸をして気を引き締める。 それから束の間をおいて、シャルロットが他の降下班に対し口を開く。
<僕が先導するから、みほはスペの誘導をお願い。 ラウラも万一出動する自体があっても、AICを使わないようにね……それじゃ、出発しよう!>
<タカキ、イサリビの皆をお願い>
<了解! スペちゃん、落ち着いて操縦席の感覚に慣れてね……出発します!>
皆の合図と共に、みほの遠隔操作によって彼女の宇宙船にワンテンポ遅れる形で発進。 宇宙船ドックからイサリビを離れイトゥチ/97への航路をとった。
(これが……宇宙に出る緊張感なんだ)
宇宙における座席の浮遊感は、オルガの後ろに乗る事で幾度か体験している。 しかしながら操縦桿の重みを感じながら握りしめる中で宇宙を出る感覚は、スペシャルウィークにとって初めての事だ。 無論、機体の加減速や操縦桿の操作は全てみほに倣う形で自動的に動作している。 それでも、自分が今この瞬間、未知の領域へ足を踏み入れようとしているという実感は、否応なくスペシャルウィークの心拍数を上げていた。
<スペちゃん大丈夫ですか? 緊張していませんか?>
マイルドながらも宇宙船の操縦という未知の感覚に戸惑っているのは、誰の目にも明らかだった。 そんな彼女を心配したのか、ここにきてペコリーヌが声をかけてきた。
「だ、私は大丈夫です。 でも、正直緊張してないって言ったら、嘘になります……!」
<その感覚を忘れないで下さいスペちゃん。 宇宙に出るって言うのは本来とても怖くて、素質や訓練がいるぐらいらしいですから。 変に慣れ過ぎるとやばい事故の元ですよ!>
<アンタも操縦に慣れるまでは随分スリリングな運転してたのに、今じゃ立派にこなせるんだから……人って変わるものねぇ>
<もう、キャルちゃん! 言わないで下さいよぉ!>
茶化すようなキャルからの暴露に、柄にもなくペコリーヌが慌てたような声を上げ、一同の無線が笑いに包まれる。 あまり宇宙船の操縦は得意でないとペコリーヌ自身の口から耳にした事はあったが、どうやら恥ずかしさを感じるレベルだったようだ。
そんな彼女でさえも、普通に人を同乗させて宇宙に出られているのだから、改めて皆が当たり前のように物事をこなしている姿に感心する。
(そう考えたら、生身で宇宙に出てるシャルロットさんなんかは特に……)
スペシャルウィークは先頭を飛ぶシャルロットのいでたちに、尚のこと凄みを感じていた。 ISと言う先進的なパワードスーツを纏い、バリアで守られているとは言え生身で宇宙空間を自在に飛び回るその姿。 自分と対して違わないじ年頃の少女でありながら、シャルロットに尊敬の念すら抱いていた。
そう思うと、いつかは自分自身も彼女達の足を引っ張らないように、もっと色んな事が出来るようにならなければと奮起させられる。 そうすれば――――
(いつオルガちゃんが帰って来ても、きっと安心してくれるよね)
スペシャルウィークはここにいない我らが団長、オルガ・イツカの姿を思い出していた。 自分達を庇おうとして敵の群れに向かって行き、安否が分からない彼。
仲間の為なら無鉄砲になる彼だが、いつも不敵に笑って危機を乗り越え帰って来たし、自身もそんな姿をまた見せてくれると信じて頑張ろうとしている。
きっとオルガも疲弊しているだろう。 彼がいつ帰ってきても温かく迎えられるように、今自分が出来る事を精一杯やり遂げようと、決意を新たにした。
<そこまでだよ、任務に集中しよう。 大気圏突入も間近に迫ってきたし、気を引き締めて>
<了解――――じゃあ僕が先に行くから、皆も後に続いて!>
ビスケットからの一言に皆が気を改めると、いの一番にシャルロットが大気圏への突入を開始した。 赤く燃え上がるラファール・リヴァイヴの姿をなぞるように
ペコリーヌも、ビスケットも、みほも、そして自身も厚い大気の層に突っ込んでいく。
「……ッ!!」
赤い灼熱に呑まれ揺れる機体に全身がこわばり、スペシャルウィークは歯を食い縛って耐えた。
慌ただしい突入の瞬間とは対称に、無機質なアナウンスが響き渡る。 彼女はこの瞬間にこそ、本当の意味で宇宙船に乗っているのだと実感していた。
オルガの後ろに乗せられ、煌めく宇宙を無邪気に駆け抜けた時とはまるで違う感覚。
恐ろしいまでの緊張を伴うそれはまるで、自分の中の何かが変わっていくような不思議な高揚感さえあった。
やがて機体の周りから灼熱の光が剥がれ、その先に黄色みのかかった空と赤茶けた大地が広がっていた。
<熱砂の……惑星……>
無線越しに呟いたのはビスケットだった。 目前にどこまでも広がる荒野を前に息を呑む彼の声に、誰もが同じような印象を抱いた。 次いで機体の高度を下げていく。
地表は赤茶色の岩場が目立ち、命を焼き尽くすような強い光を前にサボテンと思わしき草木はまばらにしか生えていない。
眼下に広がる景色は、まさしく異界そのもの。 自分達の住む地球とは違う空気を肌で感じ、一同は興奮を隠しきれなかった。
<あ、あれかな? 僕達の目指すホロターミナス!>
降下中、シャルロットは遠くに見える蜃気楼を指さした。 熱気で実像が歪んでいるものの、この明るさの中にあって黒く光るテーブル状の建築物は、降下前に割り出した座標からして例の建築物に違いないと当たりをつけた。
<良かった、着陸地点からこれくらいの距離なら誤差の範囲かな? 早く近くまで飛んで設営しよう――――>
先を急ぐ彼女達を足止めするかのように、唐突に一番警戒していたであろう厄介な障害が現れた。
<これは……皆気をつけて、機体の計器が乱れてる!>
<僕もだ! なんだかバーニアや手足のレスポンスが悪くなってきた!>
<着陸を急いだ方が良いかもしれないですね……皆さん! 一旦その場で着陸しましょう!>
<賛成! 3回も墜落するのはごめんよ! さっさと降りてペコリーヌ!>
<分かってます!>
砂嵐と共に磁場に異常が出る事は知っていた、が。 あまりに早く、優れた耐環境性能を持つ宇宙船にさえ干渉する磁気嵐の強さに、予期せぬトラブルに見舞われたスペシャルウィークは戦慄した。
「えっ――――ッ!!!!」
そんな彼女に対し更に冷や水を浴びせかけるように、先導していたみほとの宇宙船とのリンクが強制解除!
突如として手動操作に切り替わり、意図しない機体の振動も相まってスペシャルウィークは声にならない叫びを上げた。
(嘘ぉッ!?)
<スペち kzzkt 大へ スペちゃんの kkzzt のリンクが!!>
ノイズも混じり、慌てるみほの声が途切れ途切れになるのも相まってスペシャルウィークはパニックを起こし、操縦桿やスラスターのペダルを乱雑に操作してしまう。 当然ながら機体は錐揉みのように回転し、なまじ重力を無視して縦横無尽に飛行出来る機動力が徒になり、瞬く間に平衡感覚を喪失する。
<スペ 落ちついて kkzzkkt 練習 非常時の 練習 思いだし kzzzkzzt !!>
空中でとっちらかって混迷を極めるが、みほのある言葉……
そうだ、宇宙船操縦の初心者にトラブルはつきものだと、付け焼き刃でも緊急時の対策をしたばかりではないか。 ここで焦ってしまえば更なるトラブルを招くだけだ。 そう考えた彼女は一度深呼吸をし、冷静になって状況を見極める事にした。
(そうだ! 確かこう言う時はみほさんに言われた通り――――)
スペシャルウィークは11時間前の事を思い出していた。
最初に方針を話し合う前、自身はいち早くブリッジに集まったビスケットやみほ等に対し、いち早く降下班に志願を申し出た。
しかしながら、同乗できる宇宙船もなく操縦経験もない、到着後の惑星環境で機体トラブルに見舞われる可能性も鑑みて、ビスケットらには地上での体制が整うまではと反対された。 そこを食い下がって必死で頼み込み、宇宙船についてはみほがオートパイロットで先導する事を条件に、何とかメンバーに加えて貰っていた。
しかしながら、その頼みの綱が万が一に効かなくなって、墜落という事態を招いてしまえば目も当てられない。
そこでみほ達が考えた結果……スペシャルウィークには
天と地が入れ替わり地表に落ちていく実感も無い中、スペシャルウィークは外には目もくれず必死で
(運転席のすぐ側に
それは見つかった。 スペシャルウィークは迷う事無くそれを
機体は目にも止らぬ速さで地表に向けて水平に――――しかる後にキャノピーが展開!
――――悲鳴を上げた後、空中遊泳。 シートベルトが切り離され、自身の身体から座席が離れていく。
地面に向かって自由落下を始め、手足をばたつかせるスペシャルウィーク。 だが、荒れ狂う機体のくびきから解き放たれたとなれば、もう彼女にはすべき事が理解出来ていた。
(それから、それから……地面に激突する前に――――)
空中推進ジェットパックを点火。 慌てず小刻みにブーストを噴かせながら減速を重ね――――
勢い余って砂山に落下! 嵐の中に砂塵を巻き上げながら、下半身が熱い砂の中に埋没してしまった。
しばしの後に少し離れた場所で落下する、機体の激しい落下音の後は……吹き荒れる砂嵐の音が聞こえてくるのみ。
「痛たたたたたたた……」
スペシャルウィークは目を回しながらも何とか身を起こし、下半身を重々しく砂から引き抜いてやる。 減速が不十分で砂に突き刺さってしまったが、幸い軽く打った程度で脚や臀部の骨折と言った重傷には見舞われずに済んだ。 しかしながら怪我無く身体が埋没する程の柔らかな砂の上は、彼女がまっすぐと立ち上がろうとする姿勢を保ちづらい。
(砂が柔らかい……立ちにくいよぉ……)
それでも何とか四つん這いから二つの足で立つと、おぼつかない足取りで落下した宇宙船に向かった。 幸いにしてそれ程遠くない位置にそれはあった。
落下地点は半ばクレーターのように穴が広がり、激突前に水平姿勢を保っただけあって、機体はその向きのまま砂に半分近く埋もれていた。
慌てて地形操作機で周囲の砂をどけるスペシャルウィークだが、露わになった機体の底は頑強な装甲のおかげかひしゃげる程度で済んでいた。 しかしながら、砂をどけた途端に煙が上がったところを見るに、かなりの損傷を負ってしまったのは間違いないだろう。
「うう、やっちゃったぁ……」
スペシャルウィークはつい半泣きになりながら、無残に成り果てた愛機を前にウマ耳を折りたたんで佇んだ。 無理を言って折角テイオーや整備班の人に仕立てて貰った機体を、物の1時間足らずで台無しにした悲しみと申し訳なさに打ちひしがれた。
そんな彼女の少し離れた背後から、ビスケットやシャルロット達の声が聞こえた。 振り返ると、段々強くなっていく砂嵐の向こうから、夜間用のランプをストロボ代わりに点灯する仲間達が姿を現した。
「やっと見つかったわね! ゴツゴツした岩の壁だらけで中々座標までまっすぐに進めなかったわよ!」
だだっ広そうな砂漠に見えたが、どうやら思いのほか障害物が多かったようだ。 岩場に行く手を阻まれたとキャルが不満をごちる。
「……皆さん「よかったあああああああああああああッ!!!!」
失意にくれるスペシャルウィークを、ペコリーヌが飛びつき押し倒した。
「スペちゃん大丈夫!? 怪我は無いですか!? 心配したんですよ! あんな落ち方してやばい事になるんじゃないかって!」
「だ、大丈夫ですよペコリーヌさん! ちょっとその、離して」
「あ、ごめんなさい!」
押し倒しに気づいたペコリーヌは慌ててスペシャルウィークから身を離す。
「良かったぁ……スペちゃんに怪我は無いみたい……いざという時の練習をして貰って良かった」
「無事で何より、だね。 ありがとうみほ、スペを訓練してくれなかったら本当に危なかった……」
胸をなで下ろすみほやビスケットだが、対してスペシャルウィークは浮かない面持ちだ。
「……みほさんやレオポンさんチームの人達のおかげで助かりました。 でも……機体が」
底面を破損し煙を噴く宇宙船を指さし、スペシャルウィークは自身の未熟さが機体を壊してしまった無力感に涙する。
「無理を言って機体を仕立ててくれたのに、テイオーさんにだって申し訳が立たないですよ」
「こう言う時は、感謝をするべきだよスペ」
しょげるスペシャルウィークをビスケットは厳しく、それでいて優しく諭す。
「元々トラブルはつきものだったんだ。 それが分かっていたからこそ、みほや整備班はこうなった時の対策をしてくれたんだ」
「はい、でも……」
「機体が壊れたのは残念だけど、それ以上に大事なスペの命を救えたんだから本望だよ。 もっと胸を張らって前向きにならなきゃ、それこそオルガに止まった事を怒られちゃうよ?」
「!」
ビスケットにそれを言われて、スペシャルウィークは何かを思い出したようにハッとした。 そうだ、自身が無理を承知で降下班に同行したのは、鉄華団を1日でも早く立て直してオルガの帰りを迎えたい。 そんな鉄華団に貢献したいという強い意志からだった。 なのにいざ事故の当事者になって、落ち込んだまま尻すぼみになっては、無理を頼み込んだ仲間達にだって申し訳が立たない。
そう思い直した彼女は、自身を叱咤するようにヘルメットの頬を叩いた。
「ごめんなさい皆さん! 私……!!」
「――――謝ったら許さない。 だよ? これは三日月の受け売りだけどね」
「!! はい!」
ビスケットの、三日月の受け売りだという言葉に、スペシャルウィークは改めて力強く返事をした。
「――――大丈夫だよ、スペ」
そんな彼女の背後にて、機体を検めるようかがみ込んでいたのはシャルロットだった。
「故障箇所全てに修理用のダイアログが表示されるって事は、スーツの機能による自動修理は可能だよ。 心配しなくても、これくらいなら現地修理で十分に対応出来るよ」
「! 完璧に直るって事ですか?」
シャルロットは無言でうなずいた。
「~~~~~~!!!! 良かったぁ……」
折角の機体をすぐ傷物にしては直してくれた皆も落胆する。 そう不安だったスペシャルウィークは、安堵からその場にへたり込んでしまった。
その様子にシャルロットはクスリと笑みを浮かべた。 しかしすぐに表情を引き締めると、この星の気象情報を再度確認する。
「……でも、悠長な事は言ってられないね。 ビスケット、それに皆……スーツの機能に問題は無い?」
言われてみて、スペシャルウィークやビスケットをはじめとする皆は、スーツの機能が不全に陥っていないかを確認する。
<アトラスシステムスーツの機能をスキャンしています>
スーツの機能をスキャンしたいと呟くと、その場で
<シールドディフェンスシステム、稼働中>
<空中推進ジェットパック、稼働中>
今のところ、これと言った不具合は少なくともスーツ側には発生していないようにも思えた。 しかしビスケットやみほは、念の為にマルチツールのチェックも実行すると――――
「! まずい、砂が囓ってる!!」
「西住殿は大丈夫ですか!?」
「ダメ! 私のもやられてる!!」
「アタシのもやられてるわ! ペコリーヌは!?」
「私のツールもやばいですよ!」
皆次々と悲鳴のような声を上げる。 どうやら皆の持っているマルチツールに砂が入り込み、異常が発生していたようだ。
「砂の粒子が細かすぎて中に入り込んだんだ……じゃあ僕も――――ダメだ、トリガーが引けない!」
注意を呼びかけたシャルロットのマルチツールも同様だった。 スペシャルウィークも不安に駆られ、手持ちのツールに対しスキャンを実行する。
「――――!! よかった、まだトラブルは起きてません! 動きます!」
「本当かい!?」
どうやら不幸中の幸いか、それとも本格的に砂嵐が強くなる前に宇宙船を掘り返そうとツールを稼働させたのが良かったか、スペシャルウィークのマルチツールは砂がこびりつきつつあるものの、辛うじて動作する程度の状態だった。 これには皆も歓声が上がる。
スペシャルウィークはこれ以上ツールの状況が悪化しないよう、周りの勧めに従ってツールを量子化してインベントリに納めた。
「動くツールが1つでもあればとりあえずは十分だ。 ……それよりも次は――――」
シャルロットに次いで、ビスケットが更なる懸念を想像し始めた直後、それは起こった。
砂塵が辺りを舞う激しい砂嵐の中で、スペシャルウィークのウマ耳は確かにその音を聞いた。