No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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第35話

荒れ狂う砂塵の中に轟く爆音を感じ取るスペシャルウィークを切っ掛けに、共に居た仲間達もその異変を感じ取ったようだ。

「そう言えば聞いた事がある」

 神妙な面持ちでビスケットは語った。

「例え乾燥している砂漠地帯であっても、海からの風なんかの条件さえあれば積乱雲が発生して」

 語気を強めるように語るビスケットの言葉に合わせるように、砂嵐は徐々に黒く濁り、その合間から轟きと雷光が垣間見え――――

 

 

「雷雨が発生するってッ!!!!」

 

 

 それは猛る龍の如く、天より降り注ぐ!

 白き落雷の直撃を受けた砂は弾け飛び、巻き上がった土砂は空高く舞い上がると共に溶解、閃光を放つそれはビスケット達の網膜と鼓膜をも白く染め上げた!

 

 炸裂した雷光に意識を刈り取られそうになるも、束の間を置いて持ち直したその先には、歪に枝分かれした赤い樹木が唐突に生えていた!

「な、何これ……!? 雷が落ちた場所から」

「木が生えちゃいました!? やばいですね!!」

閃電岩(フルグライト)だ!! 砂漠の砂に落雷が落ちると、その熱で砂が溶けて急激に冷え固まって、時に枯木のような歪な形と枝分かれした()を持つんだ!」

 ビスケットの熱のこもった説明に、一同は喉を鳴らす。 一瞬で砂を焼き固めてしまう雷のエネルギーに戦慄する傍ら、ふと辺りを見渡したみほが更なる異変に気付く。

「!! スペちゃんッ!!!!」

 みほは、自分達の直ぐ側で唯一地面に卒倒して蹲るスペシャルウィークを発見した。

 慌てて駆け寄り抱き起こすも、幸いにも目立った外傷は無く呼吸は安定していた。 しかし完全に気を失っているようで、呼びかけても返事が無い。

「どうしちゃったの!? 雷は直撃していないはずなのに――――」

「ひょっとして、ウマ娘って聴覚や嗅覚が普通の人より鋭いって言ってたから……!!」

 シャルロットからの指摘を受け、みほはスペシャルウィークの異変に気付いたようだ。 常人よりも音に敏感な彼女が至近距離で落雷に遭遇すれば、言うなればフラッシュバンを直撃したようなショック症状に陥らないとも限らなかった。

 

「!! 見て皆! 薄ら見えるこの周りの岩、今できた岩に似ていない!?」

 みほに言われて辺りを見てみると、所々砂嵐の向こうでシルエットに、あるいは薄らと岩肌を確認出来るそれは、今し方形成された閃電岩と同一では無いにせよ、似たような肌合いや歪さの特徴が似通った岩が当たり前のように多数見受けられた。 本来この岩は、地球上においては砂漠に雷雨が押し寄せると言う、年に数回しか無い希な状況が起きる事が条件の為めったに生成されない代物だが、そのめったな事がどういう訳か辺り一面にかなりの数が生成されていた。 それもかなり大きく、いずれも身の丈の何倍もある巨大な代物だ。

「まさかアタシ達が隆起した岩壁だと思ってたのって、これと同じ物……!?」

「大変! そんなのが沢山あるって言う事は――――!!!!」

 キャルとペコリーヌの懸念は的中し、立て続けに雷光があたふたするビスケット達を襲った。

 轟音と閃光と共に、赤黒いガラスの樹が一瞬にして無数に増殖していく。 それはもはや稲妻のカーテンとでも形容すべき光景だった。

 まるで、天から降り注ぐ無数の槍に貫かれているかのような錯覚さえ覚えてしまう程に。

「皆逃げろッ!!!! 降下予定ポイントのホロターミナスまで全力で走るんだッ!!!! こんな雷に当たったら一瞬で黒焦げだッ!!」

 ビスケットは叫んで仲間達に逃避を呼びかけた! 気絶したスペシャルウィークはビスケットが背負った。

 元より一番役に立ちそうなISは磁気嵐で機能不全に陥っている。 ならばこういう時、男所帯が頼りになるだろうと一瞬で判断した故の行動だった。

 

 

 

 

 

 

「出来る限り背を低くして走って!!」

「びゃああああああああッ!!!! 雷が!! 雷が当たるぅぅぅぅううううううッ!!!! ヤバイわよおおおおおおおおお!!!!」

 逃避行の最中、荒れ狂う稲妻は容赦なく鉄華団の仲間達の側に落ちる。 行く先々で閃電岩が形成され、時には行く手を阻むように形成され、足止めを食らった挙げ句に迂回を強いられる事が多々あった。

 ホロターミナスとの距離は直線距離で残り1㎞、普段ならなんてことの無い距離だが、雷が降り注ぐ切羽詰まった今だけは相当に長い距離に感じられた。

「くそっ、どうしていつもこうなるんだ!!」

 悔しさに歯噛みしながら、ビスケットは必死に走り続けた。

 背後からは幾重にも重なる落雷の音が鳴り響き、時折り稲光と爆炎が視界を覆い尽くす。 それでも彼は足を止めなかった。 背に負ったスペシャルウィークや仲間達を守る為、そして何時の日かオルガと再会する為に。

 ビスケットは、鉄華団を守ると言う己の信念を貫くためにも決して諦める事無く走った。しかし、そんな彼らの生きようとする意思を嘲笑うかの如く、無慈悲な落雷が鉄華団の頭上に振り下ろされた。

 

 それはあまりにも唐突で理不尽極まりない出来事であった。 まるで狙いすましたかのように、突如として放たれた雷の一撃。 それはビスケット達のすぐ側にある一際大きな閃電岩の頂点に直撃!

 

 石柱が崩落し、岩のつぶてとなってビスケット達に降り注いだ!

「ペコリーヌ! キャル!」

「ああもう! 分かってるわよ!!」

「やってみます!!」

 ペコリーヌとキャルは、迫り来る岩のつぶてに対してそれぞれのマルチツールを構えた。

 マルチツールとしては使い物にならなくとも、魔力の媒体としてならかつての剣や杖のように使う事が出来る。

二人は同時にマルチツールに込めていた魔力を解放し、その力を解き放った――――ユニオンバーストだ!

 

 

 

「プリンセス……ストラーーーイクッ!!!!」

 

「グリムバーストッ!!!!」

 

 

 

 強力なエネルギーの奔流により降り注ぐ岩石の大半粉砕され、そのまま勢い余って空の彼方へと消えていった。

 だが、残った僅かな撃ち漏らしがビスケット達に襲い掛かる。

「まずい!!」

 ビスケット達は内心舌打ちをしながらマルチツールを取り出す――――が。 トリガーを引く事は叶わない。

 ツール類は砂を噛み込んでいて使用出来ない。 だからこそのペコリーヌ達のユニオンバーストだったのだが、土壇場でついそれを失念していたのだ。 今からでは間に合わない!

 このままでは押し潰される……そう思った時。

 

「させま……せん!!」

 

 ビスケットが背負っていたスペシャルウィークが、岩石のつぶてに地形操作機を発射! 迫り来る全ての岩々を全て砕き散らした。

「スペ! 良かった、目が覚めたのかい!?」

「えへへ……ごめんなさい、凄い音と光で気を失っちゃいました――――うひゃぁ!!

 気絶から立ち直ってまだ意識がハッキリしないスペシャルウィークだったが、鳴り止まぬ落雷が再びどこかの地面に落ちた轟音に、尻尾を立てて飛び上がるように背筋を伸ばした。

「ビ、ビスケットさん!! 背負って貰って言うのもアレなんですけど! 早くここから離れて下さい!! 耳が、鼓膜が破れちゃいそうです!!」

 人間でも一歩間違えれば昏倒しそうな音と光を、ウマ娘の優れた聴覚があっては尚のこと苦痛に感じるのだろう。 スペシャルウィークの必死の懇願にビスケットは改めて皆に声をかけると、その場から駆け出していく。

 

 砂塵に視界を遮られ、落雷が絶え間なく降り注ぐ荒れた環境に背中のスペシャルウィークが身悶えし、それでも懸命に彼女を背負って走るビスケットと鉄華団の仲間達。 すんでの所で稲妻を回避し、必死で危険地帯を駆け抜けた一同は、ようやく目的地であるホロターミナスの影が薄らと砂塵の向こう側に浮かび上がってくるのを見た。

 

「皆、もうすぐだ!! あの建物の側にはシェルターがある! まずそこに避難しよう!!」

 走りながら呼びかけるビスケットの声に、皆も息も絶え絶えながら大きく返事を返す。

 その声は悲鳴に近いが、やっと見えてきた希望を前に足を止める者は一人として居ない。 全速力でホロターミナスに駆け寄ると、その巨大なタワーの側に円柱を縦半分に割って横倒しにしたような小さな建物の影が二つ、砂塵の中におぼろげながら出現した。

「あれだ!」

 ビスケットの合図と共に、チームは二手に分かれ現れたそれぞれのシェルターに駆け寄った!

 

 シェルターの外装は砂嵐に曝されて傷は目立つものの、その割には骨組みはしっかりと残ったまま意外なほどに綺麗な状態が保たれていた。 電気系統にも問題は無し、人の気配は無く長らく放棄されている様子が窺えたが、驚くほど保存状態は良好。 そのまま使えると判断したビスケット達は、みほ達あんこうチームとそれ以外とで分かれてシェルターの中へ駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中に入ると、そこは狭い一室の空間が広がっていた。

 最奥にはデスクが、壁際にはいくつかの端末が設置され、この星の生物などの生体データや貯めたまま引き出されていないクレジットに少々の物資等々、いずれもパスワードのロックも無く持って行けと言わんばかりにほったらかしにされている状態だった。 ハッキリ言えば少し散らかっている、が。

「暫く砂塵をやり過ごすには十分だね」

「ですね!」

 安堵したようなシャルロットとペコリーヌの言葉を合図に、ようやく皆が一様に肩の力を抜いたようだ。 ビスケットもここに来て、やっと背中に背負っていたスペシャルウィークを横にしてやった。

「もう大丈夫、これで暫くは問題ないよ」

「暫く横になってなさいよスペ。 アンタ結構無理しちゃってるから」

そう言ってビスケットとキャルは、備え付けの毛布を取り出してスペシャルウィークにかけてやる。

「うう、ありがとうございますビスケットさん……キャルさん……」

 すると彼女は疲弊した様子で礼を述べる。 ずっと背負われてはいたものの激しい轟音と閃光に曝され続け、スペシャウィークはグロッキー状態に陥っていたようだ。

 

<こちらあんこうチーム。 ビスケット君、スペちゃんの調子はどう?>

 デスク上の通信機から、隣のシェルターに入ったみほ達の声が聞こえた。 エクソスーツの無線では電波障害が発生する為、シェルターに備え付けられている有線式の通信機でやりとりしているようだ。 ビスケットはデスクの通信機のマイクにスイッチを入れると、応対をする。

「こちらビスケット、スペはいま横で寝ているよ。 安心して、鼓膜が破れたりしてる様子は無いみたい」

 ビスケットは毛布を掛けられて横になるスペシャルウィークを流し見ながら答えた。 見るに彼女はもう寝息を立てているようで、それを他の仲間達が微笑みを浮かべながら見守っていた。

<良かった……一時はどうなるかと思ったけど、この子がいなかったら今頃岩つぶてに潰されていたかも知れないから……>

「だね。 こっち側のシェルターに異常は無いけど、そっち側はどう?」

<それは大丈夫。 問題なく全設備は稼働しているよ? 砂塵は暫く吹き続けるだろうから、それまではこの中で待機して置いた方が良いかも……この嵐じゃイサリビとの通信は無理そうだし>

「うん、じゃあ砂嵐が収まり次第アウトポストの設営にかかろう。 このシェルターも補修して、基地の一室に取り込む形で利用させて貰おう」

<了解。 それなら私達も一旦待機するから、何かあったらまた連絡してね?>

 みほはそう言い残し、通信を打ち切った。

 

 

 

 通信切断後、砂嵐は数時間に渡ってシェルターの外に吹き荒れ続け、ビスケット達はその間ずっと狭いシェルターで過ごす事になった。 空間は狭いものの、複数人がやり過ごすだけならばそれほどスペースを圧迫する心配も無く、各々砂の入り込んだマルチツールの整備を行い、無事復旧させた。

 衣食住についても幸いにも水と食料は備蓄されており、ギリギリではあるが消費期限内にあった事もあり、毒も無く地球人種の自分達でも安全に喫食出来ると確認するや否や、ストレスによる空腹も手伝って食料の大半を食べてしまったりもした。

 

 そうして時間を過ごす事5時間後、狭いながらも十分に休息を取ったビスケット等のタイミングを見計らうように、稲妻を伴う砂嵐がようやく収まった。

 

 

 

 

<気象情報:嵐が過ぎました>

 

 

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