No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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第38話

砂嵐の吹き荒れるイトゥチ/97の広大な砂漠を、2台のエクソクラフトが砂を巻き上げながら駆け抜けていた。

 先行きの見えない砂塵の中を、カメラ越しに見えるわずかなシルエットとあらかじめ設定した座標だけを頼りに、2台のエクソクラフトを操縦するのは鉄華団の面々だ。

 1台はみほ率いるあんこうチームで固まり、運転手はメンバーの『冷泉麻子』が担当している。 そしてもう1台は残りの面々が集まり、ビスケットが操縦を行っていた。 時折頭を押さえるような仕草を見せるビスケットを、同乗するスペシャルウィーク達が心配げに見つめる。

「ビスケットさん、大丈夫ですか?」

「ん、大丈夫。 心配かけさせてごめんね。 僕は何ともないから」

「……無理はしないでくださいね? さっきあんな事があったばかりなんですから」

 何もない体でふるまうビスケットだが、メンバーの内心はビスケットの体調を心配する気持ちでいっぱいだった。

 それもその筈、先ほどビスケットは通信タワー屋上のホロターミナスにおいてアルテミスと会話中、何かを見せられたのちに唐突に悲鳴を上げて倒れた。

 何らかの形で彼の精神に多大なショックを与えたようにも見受けられたが、しかしビスケットは後の今となっても辛そうな様子を見せる事もなく、自らエクソクラフトの操縦を続けている。

 このメンバーで自分が一番エクソクラフトを運転出来るからと自ら操縦を買って出たものの、仲間として彼を気遣うなという方が無理な話であり、特にスペシャルウィークは自分で彼を介抱したこともあって一番心配そうな素振りを見せていた。

<こちらあんこうチー -kzzkkz- ビスケッ -kzkt- 調は問題ないですか?>

 こちらビスケット、平気だよ。 ありがとう、皆にも余計な心配掛けさせちゃってるね……」

 運転中、みほ達の乗るエクソクラフトから無線通信が入る。 雷鳴の伴う砂塵で電波障害が出ていて随分とノイズが酷いが、先の着陸時のトラブルを受けてエクソクラフトを送信して貰う際、無線電波のブースターと本体部の磁気シールドの設計図も併せて送信して貰い、出発前に現地改修を実施。 短距離なら何とか連絡が取れ合うほどには改善出来た。

 その電波で、みほが心配そうな声を漏らす。

「本当に体調については問題ないから……あ、それに。 もう少しでこの砂嵐も一時的に止みそうだから、一先ず嵐が止んだら立ち止まって休憩しよう。 それでいい?」

<了解 -kzktk- 無理だけはしないで―――― -kzzzkktt-  通信終わり>

 それを最後に通信を打ち切った。 先の見えない砂塵の舞う未知の惑星という事もあり、先程から10分刻みで定期的に無線を送るようにしていた。

 今のところ通信にもエクソクラフト本体にも異常は見られないが、万一のトラブルを考慮しての判断だった。

「しかし、この嵐って嫌になるよね……折角のISの性能を完全に持て余すんだから」

 通信を切った後、シャルロットはエクソクラフトの外で吹き荒れる砂嵐にげんなりした顔を見せる。

 シャルロットが乗るISはエクソスーツと宇宙船の良いとこ取りをしたような性能である反面、ひとたびエネルギー切れを起こしたり何らかのトラブルを発生させたら最後、生身で極限環境下に放り出されるリスクを抱えている。

 故に宇宙船でもトラブルの発生したこの砂嵐では、同様に機器の異常を発したこともあって絶対防壁の展開以外控えているのだが、自在に地上と空を行き来出来るその真価を発揮出来ず、どうにもフラストレーションを溜め込んでいる節があった。

「なんだか、こっちに降りてきて役割の一つも果たせる気がしない感じだよ。 早くこの砂嵐が止んでくれないかなぁ?」

「まだ地上に降りてきたばっかりですよシャルロットさん。 きっとこれから先、活躍の場はありますよ!」

 天気の悪さもあって気分が沈みかけているシャルロットを、スペシャルウィークが励ましの言葉を贈る。

「それに、私だって宇宙船の操縦も自力で覚え切れてないのに、荷物持ちをやるってだけでついてきちゃいましたし……大丈夫ですよ、いざとなったら根性です根性!」

「スペ……」

「スペの言う通りよ」

 そこにキャルやペコリーヌも会話に参加した。

「まだまだこの惑星に降り立ったばっかりよ、上手くいかない事なんてあって当たり前なんだから」

「そうですよ! それにどんなに気分が沈んでも、私がこの星でやばいぐらい美味しいサボテン料理を作っちゃいますから、へっちゃらです!☆」

「……ふふ、そうだね。 ありがとう皆」

 スペシャルウィーク達の言葉に少し明るさが戻ってきたシャルロット。

 そんな彼女達を微笑ましく見ながら、ビスケットは改めて操縦に集中し直そうとしたその時である。

 

 

 

 

<気象情報:嵐が過ぎました>

 

 

 

 

 

 砂の舞う中に現れた、束の間の晴れの時間帯。 2台のエクソクラフトを側に置き、ビスケット達はあんこうチームの面々と合流し、道中に生えていた巨大サボテンから採取を行っていた。

 しかしながら、サボテンを前にするビスケット達の面持ちは、ペコリーヌを除き皆重々しい表情に包まれていた。 スペシャルウィークに至っては、少し離れた所の岩の影に隠れて様子を伺っている始末だ。

「ペコリーヌ、お願い出来る?」

「お任せあれ!☆」

 ビスケットはこの巨大サボテン……『エキノカクタス』と分析されたこの植物が食べられる品種であると確認を取ると、それの採取をペコリーヌに委ねることにした。

 目の前にそびえ立つサボテンは身の丈のサイズからその何倍以上にも大きい物までが群生しており、そのいずれもが非常に鋭利な棘で覆われていた。 しかしながら、単なる植物の棘と思うなかれ。 それらの鋭さはエクソスーツを貫通し、試しにとISのアームで掴んでは見たものの、関節の隙間に入り込んでは引っかかったり、装甲にさえ傷を入れるほどの厄介な代物であると言うことが分かり、断念した。

 とは言えこの星で滞在するのならどうしても水や食糧問題が付きまとうし、それはイサリビに居る皆も同じであった。 今後の食糧事情を考えたら目の前のサボテンが諦めきれずにどうしたものかと考えている中、採取に手を上げたのはペコリーヌだった。

「大丈夫です、私のスーツの手袋なら触れる気がするんですよ。 多分」

「た、多分って――――そんなあっさり決めちゃって大丈夫なんですかペコリーヌさん!?

 得意げなペコリーヌに対し、スペシャルウィークは依然として離れた物陰で恐る恐る顔を出しながら声を上げる。

 ウマ娘という種族はどうにも先端恐怖症の気があるらしく、一般人に比べて針のような鋭利な物が苦手な傾向が多く、特にこの場に居ないトウカイテイオーは、定期検診に注射を打とうとするのを逃げ出すほどで、是が非でも針を刺されようとするのを嫌がるなどその傾向が顕著であるほどだ。

 そんな程度がマシとは言え、例に漏れず尖った物が嫌いなスペシャルウィークは、シャルロットのISの爪甲に傷を入れてしまったのを見てすっかり怖じ気づいてしまい、こうやって距離を置いて難儀なコミュニケーションを取っている有様だ。

 そんなスペシャルウィークに対してペコリーヌは安心させるように笑いかけると、心配はないと見せつけるように巨大サボテンへと手を掛けたのだった。

「では、行きます……!!」

 意を決するようにペコリーヌが手を近づけると、皆も固唾を呑んでその様子を見守った。 スペシャルウィークは耳を塞いで蹲るように身を縮めた。

 色々な仕草で皆が見守る中、ペコリーヌの手が巨大サボテンの棘だらけの茎を掴んだかと思えば――

「えい――――やっ!

 そんな掛け声と共に、まるでバナナを取るようにあっさりと引き千切ったのだった。

『『おおおおおおおおおおおおッ!?』』

 思わず皆の口から感嘆の声が上がる。

「わぁ……! 色んな食材が回収出来るから行けるって思ってましたけど、やっぱりこの手袋やばいですね! 突き刺さると思ってましたけど全然大丈夫でしたよ!」

引き千切ったサボテンの棘だらけの茎を、誇らしげに掲げるペコリーヌ。

そんな様子を見たみほとビスケットは顔を見合わせると――二人揃って笑顔を浮かべてハイタッチした。

「ぺ、ペコリーヌさん!? ひょっとして採れたんですか!?」

「スペちゃんやりましたよ! やばいサボテンがしっかり採取出来ました!」

 歓声を聞きつけたスペシャルウィークが駆け寄ってくると、ペコリーヌは誇らしげな面持ちで手に取ったサボテンを掲げて見せた。

「う、うわああ! すごいです! 中身が詰まってて瑞々しくて、なんだかちょっと甘い匂いがします……!!」

 その大きさと中身の詰まった立派な葉肉に目を丸くして驚くスペシャルウィーク。 そんな彼女に微笑むと、ペコリーヌはサボテンから針を丁寧に抜き取り、丸裸にした所で葉肉の一部を摘まんでちぎると、そのまま口に含んで見せた。

 その次の瞬間、彼女は顔を綻ばせながら幸せそうな声を発し、見事にサムズアップをして見せたのである。

「薄味ですけど、爽やかな酸味と甘みのバランスがやばいですね!☆ そのままでも食べられますよ!」

 そして彼女は続けてサボテンを口に含むと、もぐもぐと美味しそうに咀嚼して見せた。

 それを見たスペシャルウィークも我慢できず、ペコリーヌが残した葉肉を手に取って口に含んでみると――その表情はみるみる内に笑顔になっていき、尻尾をぶんぶんと振りながら絶賛しだしたのだった。

 

「……どうやら、食糧問題はこれで解決かもね」

「うん。 でも、採取出来るのはペコリーヌさんだけだから、イサリビに戻ったらあの人の持つ手袋を量産出来るようにしないと」

「だね」

 ビスケットとみほは、そのままで鋭い針を持つサボテンを摘み取ったペコリーヌの手袋、危険物を処理する為の特殊な加工がなされていると、他ならぬペコリーヌ自身から告げられたそれの有用性に強い関心を寄せていた。

 自分達と合流する以前から食料集めの為に、色んな植物をもぎ取ってきたと教えてくれたペコリーヌ。 場合によっては高温を発したり、ガラス状の鋭い物質やスーツにさえ浸透しかねない劇物を発する物など色々あったらしいが、彼女だけは安全にそれを取り扱い、栄養プロセッサー共々機器を総動員しては安全に調理が出来たのだという。

 ならばその手袋、内部構造を解析しあわよくば、ペコリーヌと共に資材集めに奔走するスペシャルウィークをはじめ、いずれ鉄華団の皆にそれが行き渡るようにすれば、今後の採取がぐっと楽になるだろうと確信していた。

 爽やかで甘酸っぱいサボテン果肉に舌鼓を打つペコリーヌ等に生暖かい視線を送っていると、不意にビスケット等の背中に影がかかる。

「皆お待たせ、偵察終わったよ」

 砂嵐の途切れているこの僅かな時間、ようやく訪れた電波障害に悩まない瞬間を利用して空を飛び回っていたシャルロットが、ISを展開した状態のまま空から舞い降りたのだ。

「お疲れ様、シャルロット」

「シャルちゃんやりましたよ! サボテンの果肉、無事回収出来ました!」

「ペコリーヌの手袋がまさかの針山を防いだのよ! これで食料と水の問題は何とかなるわ!」

本当!? それは良かった――――と、言いたい所なんだけど」

 皆が喜びに満ちあふれる中、一方で戻ってきたシャルロットは何やら浮かない表情だった。

 その雰囲気を察してか、何気なくスペシャルウィークが代表してシャルロットに声を掛ける。

「あの、どうしましたシャルロットさん? 何だか浮かない顔してますけ――――ど!?

 するとスペシャルウィークは急に青ざめた表情で鼻元を押さえる。 その耳や尻尾は毛という毛が逆立ち、ただならぬ何かを嗅ぎ取ったようにも感じられた。

「その、失礼を承知で聞きたいんですけど……この、変な臭いは?」

 恐る恐る訪ねるスペシャルウィークに、シャルロットはため息をついてこう答えた。

「やっぱり、スペには気付かれちゃうか……臭いがつかないように触れずにいたんだけどなぁ」

「……何の話をしてるの?」

 意味ありげに語るシャルロットにみほが尋ねてみる。 シャルロットは重々しく言葉を続ける。

 

 

「スぺには分かったんでしょ? 僕から血の臭い……死臭がするって」

 

 

 

 

 

 

 

「――――これは……!?」

 シャルロットに案内され、訪れたその場所を少し離れた所から見て皆が唖然とする中、ビスケットは一人言葉を漏らす。

 目の前に広がるのは無残に食いちぎられたサボテンと思わしき植物と、その周りに散乱するのは大量の白骨死体。 その遺骨の中には食べ残しと思わしき肉片が残っており、いずれもまだ新しい。 まだ瑞々しい骨付き生肉とおびただしい血糊が砂の上に染みを作り、その周囲には茶色い臭気を放つ塊のような何かが散乱しており、死臭漂うビーフストロガノフをぶちまけたような光景がそこにあった。

「間違いありません、さっきシャルロットさんから臭ったのはこの臭気です……!!」

 青ざめた面持ちで鼻を押さえながら、スペシャルウィークは震え声を上げる。

「偵察時に妙な光景が見えたって思って、恐る恐る地上に降りてみたんだよ。 そしたら……」

「……酷い」

 みほの一言は、この光景を初めて見たシャルロットの内面を代弁するかのような言葉だった。 生物の墓場と言うよりは、乱雑に身体のパーツが飛び散ったこの光景は、凄惨な殺人現場も想起させる有様だ。

「そうですよ! こんなに食べ残しをするなんてバチが当たっちゃいますよ!」

「……アンタ、間違ってもこれを調理しないでよね?」

 ペコリーヌは少しずれたポイントにて憤慨し、キャルもそんな変わらない相方の仕草に呆れながらも、どこか安心するような仕草をして見せた。

 そんな中、ビスケットとみほは意を決したように互いに顔を見合わせると、その惨状の広がる現場に二人して足を踏み入れる。

「ビスケットさん!?」

「西住殿!?」

 

 仲間達が呼び止める間もなく、二人は現場を調査する。 食いちぎられたサボテン果肉をみほが、動物の死骸は『現場慣れ』しているビスケットがその断面図をまじまじと調べた。 シャルロットも彼らの後に続き、慌てて他の皆もシャルロットを追った。

「うう……気分が悪くなってきました」

 神妙な面持ちながらも躊躇いなく死体をあさるビスケット達の様子と、近づくことで一層強くなる死臭。 いよいよスペシャルウィークが両手で口と鼻を押さえ、音を上げそうになっている。

「無理してこの場に来なくてもいいわよスペ……にしても、見れば見るほど凄惨ね」

「スぺちゃんには刺激がきついかもですね。 本当に大丈夫ですか?」

「いいんですぺコリーヌさん。 この場で皆から離れる方が心細くて……うっ」

 見かねたキャルとぺコリーヌがスペシャルウィークを介抱するが、しかしそれでもなお、スペシャルウィークは現場から決して目をそらそうとはしない。

 そんな彼女の姿を痛ましく思いつつも、みほはビスケットと意見交換をしながらこの光景の理由を解き明かさんとしていた。

 そして、ビスケットとみほは一つの結論に至る。

「やっぱり……ビスケット君」

 ビスケットはみほの問いかけに無言でうなずくと、その場にいた皆に一つの推論を話し始めた。

「皆、聞いてくれ。 どうやらこの星には、相当巨大な生物が棲んでるかもしれない」

 ビスケットの口から出た言葉に、皆は驚きを隠せなかった。

 無理もないだろう。 不毛なこの星にはそんな巨大な生物が育つような環境など存在しないと、皆が考えていたのだから。 しかしビスケットは続ける。

「根拠はこのサボテンや食べられた生物の断面だ。 刃物やレーザーで切られたようなきれいな切断面も焦げた跡もない。 肉から骨まで巨大な塊に挟まれて寸断されたような乱雑な切り口なんだ」

 ビスケットは心を鬼にして、あえてその断面を皆に見せた。 一瞬

 するとそこにはビスケットが口にした通り、大きな何か……恐らくは歯に圧壊されたような痕跡があったのだ。

「それに、血以外の臭いがするけど……周りに落ちているこの臭い塊、これは多分……」

「動物の、フンですね?」

 ぺコリーヌが真剣な表情で問いかけると、おそらくはと言わんばかりにビスケットとみほは首を縦に振る。 じっくり眺める気にもならないが、所々に周囲と同じ動物の骨が散りばめられているのを見てしまい、臭いも相まって思わず顔をしかめてしまう。

「……実は、さ。 ここだけじゃないんだよ、こんな風に動物の死体が散らばってるの」

 不意にシャルロットが口を開いた先に出た言葉に、一同は改めて戦慄する。

「一番近かったからここに連れてきただけで、他にもこんな風景が所々にあったんだ……死体の痛み具合や乾き具合とかはまちまちだったけどね」

「……いずれにしても、あまりここに留まるべきじゃないかもしれない。 それに――――」

 

<気象警報:嵐が接近中>

 

「砂嵐もまた来てるみたいだし、ね……」

 ビスケットの言葉に異を唱えるものはいなかった。

 

 

 

 

 再び砂嵐が吹き荒れる中を、2台のエクソクラフトが砂埃を巻き上げて走行する。 雷を伴う砂嵐の真っ只中では、相も変わらず視界が著しく制限される。 速度を控えめに、しかしかろうじて表示される決められた座標めざし、少しずつだが確実に目的地へ近づく。

 そんな車内の空気だが、せわしなくハンドルを切るビスケット以外の様子は、どこかお通夜のような静けさが漂っていた。

 ……無理もない。 サボテンに舌鼓を打って喜ぶも、その後すぐにあんなひどい現場に遭遇したのだから、気分が悪くならない方がおかしい。

 皆も気を遣って悪態をつかないよう配慮はしているが、どこかぎこちなさが残ってしまう。

 そんな中、不意にスペシャルウィークが口を開く。

「……なんだか、妙に揺れません?」

 その言葉に釣られるように、車内の皆も揺れを感じる。 しかし砂漠の上を大げさなタイヤで走り抜けているのだ。 多少の揺れがあるのは当然だろう。

「舗装されていない場所を走るし、これぐらいは当たり前じゃないかな?」

「やっぱりスペったら、さっきので気分悪くなりすぎたんじゃない?」

 心配を寄せる皆だが、しかしスペシャルウィークは少し考えた後に首を横に振る。

「いえ、タイヤをとられたり石を踏んだとか……そう言うのじゃないんです。 ただなんていうかその――――」

 自身の感覚を形容しづらいのか、しばらく考え込んでいる様子だったが、やがて思い当たる言葉が当てはまったのか意を決したように口を開いた。

 

「地震、でしょうか? 地響きっていうか、地面そのものが揺れてる、ような――――」

 

 気のせいを疑っていた皆だったが、その瞬間――――今度はハンドルが取られるくらい、車体全体が大きく揺れた!

 ビスケットはとっさの判断で強くブレーキを踏み、併走していたみほ達も同様にその場で急停止した。 急ブレーキの勢いで乗員が将棋倒しになってしまう。

「危なかった……だ、大丈夫皆!?

「痛たたたた――――ビスケット! もうちょっと優しくブレーキ踏みなさいよぉ! 結局ぶつけてるじゃないのよ!

「ご、ごめん!」

 思わず急停止してしまったことを謝罪する前に、キャルから抗議の声を上げられてしまった。慌てて謝罪しながら、皆の無事を確認する。

 幸いにも誰も怪我はしていないようだったが、いち早く揺れに気づいたスペシャルウィークはあからさまに不安げな面持ちだった。

 そんな中、みほ達あんこうチームからの無線が入る。

<こち -kzzzt- チーム! ビスケット君応と -kztzt- います!>

「こちらビスケット! みほ、大丈夫だった!? あんこうチームの皆は!?」

<私達は大 -zktzt- です! でも、この揺れ――――ひょっ―――― ザザザ...

 相変わらずのノイズで聞き取りがしづらいが、どうやら彼女達も異変の正体がなんなのか察しがついているようだ。

「ビスケットさん……ひょっとしてこれって」

 喉を鳴らすスペシャルウィークの声色は、まるで死刑宣告を受けたかのように重いものだった。 ビスケットもこれから起きうることを察しているからこそ、あえてその質問には答えなかった。

 

 

 

<警告:動体反応を確認>

 

 

 

 エクソクラフト内に警告シグナルが発せられ、全員が総毛立つ。

「……判断を誤ったかもしれない。 あの時点で一旦引き返すべきだったんだ」

 先の食い散らかしの時点で十分警戒をしていたのだが、いかんせん目的地が近く到着を優先してしまったのは悪手だと、ビスケットは天井を仰いで後悔する。

「どうだろう……あそこから引き返した所でリスクはあまり変わらなかったかもしれないよ?」

 シャルロットがフォローするも、車体に走る振動は徐々に大きくなっていく。 今やるべきことは判断ミスを責めるべきでも反省会でもない。

「仮にミスだって失敗ぐらいはあるわ」

「そうですよ、それよりも――――」

「と、とりあえず皆さん。 ここはひとまず」

 皆の心は一つだった。 それは無線機越しにやりとりを聞いていたみほ達さえも同じだった。

 

 

<退却しますッ!!!!>

 

 

 一転、2台のエクソクラフトは進行方向から向きを変え、一斉に逆方向へと舵を切った――――その瞬間。

 

 揺れが最高潮に達し、砂を大きくかき分けて()()は地中から一気に飛び出した!!!!

 

「――――ッ!! で、でかい……!!」

 

 ビスケットは車内の動体センサーに検知された映像をモニター越しに見て、その巨体に戦慄する。

 

 

 

 

そう、砂塵のカーテンのすぐ向こうに現れた……百足ともワームともとれる、巨大な砂の蟲のシルエットを――――。

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