No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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 ギリギリだけど、なんとか今月中に投稿できた……。


第39話

 

 砂のカーテンを引き裂いて踵を返したビスケット等の背後に現れたそれは、巨大な建築物を思わせるような巨体を持つ、ミミズの胴体に無数の節足を持つ蟲だった。そして、その頭部にあたる部分は……まるで巨大な百足のような鋭い歯を持つ形状をしていた。

 

 

 

<警告:敵性生物を検知 『タイタンワーム』と推測>

 

 

 

 動体検知器のフル稼働によってスキャナも同時に稼働、その分析結果と共にけたたましいブザーが車内に鳴り響く。 そしてタイタンワームと分析された巨大生物が威嚇と共に咆吼すると、先程の地面を掘り返したものであろう地響きに負けない振動と威圧感がエクソクラフトを襲う!

 

(な、なんて大きさだ……EDN-3RDのカテゴリGに匹敵するぞ!?)

 

 ビスケットはモニターに映る巨大な敵影に気圧される。 ここまでの巨体で砂漠の底から勢いよく飛び出す俊敏性、そのたった一つの動作だけで感じ取れるポテンシャルに、ビスケットはかつてない危機的感情に身を震わせる。

(落ち着け、落ち着くんだ……! オルガがいない今、俺が皆の命を預かっているんだ! びびってる場合じゃない!)

 自らに言い聞かせるように感情を落ち着かせると、ビスケットはみほに通信を送る。

 

「みほ! こんなに巨大な相手じゃ、俺達の持ってる武器だと攻撃が通らない!! 回避に専念して基地に全速力だ!!」

<――――麻子さ -kzkt- 全力で回 -zzkt- 動を取ってください!!>

 

 みほは操縦手に再度撤退を強く訴え、ビスケットも並んでアクセルペダルを底まで踏み抜いた。 一瞬のホイルスピンの後、空転をものともしないオフロードタイヤによる強力なトラクションにより、乗員が後ろ倒しになる勢いで車体が加速!

「皆!! 何でも良いから掴まって!! 身体をぶつけるよ!?」

「ああっ!! もう遅いわよ!!」

 指示が遅いと言わんばかりにキャルは頭を押さえながら理不尽に抗議する。 しかしビスケットにとってはそれに耳を傾ける余裕もなく、ただ全速力での離脱を図る。

 だがタイタンワームは獲物を逃すまいと、節足を大きく広げ砂に沈めながら猛追してくる! その速度はエクソクラフトの最大速度と同等かそれ以上であった!!

(まずい!!)

 ビスケットはモニターから得られる情報と感覚でそれを感じた。

 

 

<警告:回避行動を取ってください>

 

 

 敵が攻撃を仕掛けてくる。 そう判断したビスケットは、ステアリングをみほの居る車両と距離を置くようにステアリングを切った!

 

 

 その刹那――――ビスケットとみほの開かれた車両間隔に割って入るように、タイタンワームが突貫!

「危ないッ!!!!」

 間一髪!その巨体が掠める寸前で回避に成功! しかしその衝撃は凄まじく、ビスケット達の乗るエクソクラフトは大きく吹っ飛ばされてしまう!!

「うぉああ!!」

「きゃあぁっ!!」

 車内が大きく揺さぶられながら地面を滑るようにスライドしていき、エクソクラフトの側面に砂煙が立ち上る。 タイタンワームは体勢を立て直すかのように、左右に大きく身体をくねらせて一旦身を引いた。

 そうした中で意図せず発生したドリフトを立て直すも、幸いなことに車体へのダメージは回避。だが操縦していたビスケットは何とか踏ん張るも、同乗者達は車内の壁に身体を叩き付けられる。 エクソスーツで守られていなければ頭を強く打っていただろう。

 そして、砂煙も晴れぬ内に再びタイタンワームの巨体が再びエクソクラフトに突貫!! 今度は左右に身体を振りながらではなく、真っ直ぐな軌道での突進だった!

 

<警告:回避してください。 回避してください――――>

 

 

「そんなの分かってるよ!!!!」

 ビスケットはステアリングを慌てて切り返すも間に合わない!

 そのままタイタンワームは車体後部に衝突!! その衝撃でビスケット達の視界は激しく揺れ動き、車体が大きく吹き飛ばされてしまう!!

「うわぁああ!!」

 車内に激しい振動と衝撃が伝わる。

 派手に横転するが、しかし車体は綺麗に一回転し姿勢を元通りに! そしてそのまま砂塵を巻き上げながらエクソクラフトは大きくスライドし、結果として距離を取ることに成功する。

「ああもう!! どうしてこっちばっかり狙うのよ!! いや、向こうを狙えば良いって訳じゃないけど!?」

「み、皆さん大丈夫ですか!? どこか怪我をしたりしてませんか!?」

「僕は大丈夫!! それより、あの蟲を何とかしないと! このままじゃ基地まで付いてこられる!」

(どうする? どうやってコイツを撒けば良い!?)

 車内が混乱する中、ビスケットは忙しなくハンドルとペダルを操作しながら、必死で打開策を考える。

 想像よりも遙かに敵が機敏で、こうも執拗に追撃を浴びせられては車体が持たない。 エクソクラフトが爆散するか、それとも車体ごと敵に食べられるか――――あの無残な食べ散らかしの中に自分達が加わる想像をしたところで、背筋に悪寒が走る。

 

 そんな中で、タイタンワームが更なる追撃を浴びせようと、大きく身を振りかぶって力を溜める。

 

<警告:回避してください>

 

 AIはエクソクラフトの操縦よりも敵の次の行動を察知し、ビスケットにそれを伝達する。

(どうする!? このままじゃ時間の問題だ!!)

 ビスケットの脳裏に、惨たらしい捕食の瞬間がよぎる。 そんな彼らに一気にトドメを刺すべく、タイタンワームが次なる一撃を加えようと突貫してくる。

 諦めず回避しようとビスケットが再びハンドルを大きく切ろうとした瞬間――――

 

<華さん!!>

 

 みほのエクソクラフトに搭載された砲口から、迫り来るタイタンワームめがけて砲撃が放たれた! その攻撃はタイタンワームの開かれた口内に命中! サボテンの張りも貪るワームだが、高エネルギー体の砲弾には流石に怯んだようで、飛び込んだ際の勢いが他方に反れ、その隙にビスケットは一気にペダルを踏んで見事回避行動を成功させる!

 エクソクラフトは再び横転しながらも地面を滑るようにスライドして距離を取り、何とか体勢を立て直した。

 

 今の射撃はみほがその名を口にしたように、彼女らあんこうチーム随一の砲撃手『五十鈴 華』の手によるものだろう。 戦車戦においても屈指の命中率で敵戦車をなぎ倒していったその手腕は、この土壇場においても遺憾なく発揮されたらしい。

 しかしながら、ビスケット達への捕食を妨害したことで、タイタンワームの注意がそちらに向くのではないかと危惧するビスケットは、慌ててみほ達に無線通信を送る。

「助かったよみほ! だけど――――」

<分かっ -zzkzkt- ます!>

 みほ達に警告するも束の間、一瞬怯んだだけのタイタンワームは今度は彼女らの乗るエクソクラフトに標的を変え、一転してそちらめがけて頭部を突っ込ませる!

 

<優香里さ-zkzt-願いします!>

<了解です! イヤッハアアアアアアアアアアアッ!!!!>

 

 そこはパンツァーハイ、この異常事態に否応なしにテンションの上がった彼女はすんでの所で攻撃を回避! 神がかり的なドライビングで、ワームの変則的な軌道を華麗に躱す!

 回避に成功したみほは続けざまに砲撃! が、しかし。今度の狙いは外れてしまう。 避けたその動作から反撃に飛び出すワームの攻撃を、同じく脇を掠めるように車体をスライドさせるみほ達のエクソクラフト。

 撃っては避け、偶に当たるも一瞬身じろぎする程度で直ぐに反撃されてはそれを避けると言う、撤退しながらも攻防を繰り広げる。

 

「す、すごい……!! みほさん達的確に避けてる!」

 あんこうチームの息の合った連係プレイにスペシャルウィークが感嘆の声を上げる。

 しかし、タイタンワーム自体に一切のダメージが見られる様子もなく、激しい動作に息が上がるような仕草も見当たらない。 このまま防戦一方ではみほ達が疲弊してしまうのも時間の問題だろう。

「――――だめだ! 倒せないまでも撃退しなきゃ、やられるのも時間の問題だよ!!」

 シャルロットが焦燥感に駆られながら叫ぶと、ビスケットは焦りながらも頭を回転させる。

「何かアイツに対抗できる方法は!? せめて戦車砲以上に強力な一撃を口の中に叩き込まないと!!」

 だが、必死で思考を巡らせている内にタイタンワームの攻撃は激しさを増していく! みほ達は懸命に回避するも、車体を降るテンポがワームの掘り返した地面に足を取られ、ごく僅かに回避のタイミングがずれて行っている。

 

「ビスケット君! 私とキャルちゃんが迎撃します! 主砲の準備をしてください!!」

「しょうがないわねぇ!!」

 

 名乗りを上げたのはペコリーヌだった! 彼女に呼ばれ、キャルも渋々ながらそれに答えるように上部ハッチに手を掛ける。

 有無を言わさずに飛び出した二人にビスケットは焦りを禁じ得ないが、しかし有効と思われる方法がこれしか思い当たらない。 ビスケットは頭をかきむしりながら叫ぶ。 

「もうやぶれかぶれだ!! みほ達のほど強力な主砲じゃないけど、何とか振り向かせてみる! いつでも放てるように準備して!!」

 ペコリーヌとキャルは首を縦に振ると、マルチツールを展開しつつ上部ハッチを開放。 同時にビスケットは主砲の向きを荒れ狂うタイタンワームへと向けた。

 

<ペコリーヌさん!? キャルさん!? 何を!?>

「あんこうチームの皆! アイツの口の中に二人の技を叩き込む! 出来る限り距離を取ってくれ!」

<! ――――了解!!>

 ビスケットからの問いかけに、みほ達あんこうチームのエクソクラフトが一際大ぶりな回避行動をとる。 タイタンワームはそれを執拗に追撃しようとするが、それはビスケットのエクソクラフトの砲口から放たれたエネルギー弾によって阻止される。

 2~3発発射、命中したのは1発のみで残りは明後日の方に飛んでいく。 当たったのも堅い外殻でロクなダメージも与えられないが、しかしワームの注意を引くには十分だった。

 大口を挙げて威嚇の後再度飛びかかろうと一瞬身を引き、再びこちらに頭部を突き出すように飛びかかってきたのを見計らい――――既にエクソクラフトの屋根に立って身構えていたペコリーヌとキャルからユニオンバーストが放たれる!

 

 

 

「プリンセス……ストラーーーイクッ!!!!」

 

「グリムバーストッ!!!!」

 

 

 

 二人のマルチツールから放たれるエネルギーの奔流。 岩石の雨あられを容易く撃ち払ったそれが、タイタンワームの開かれた口内に叩き込まれる!

 巨大な炸裂音が響き、ワームの悲鳴と思わしき砲口と共に頭部が大きくのけぞった。その巨体がバランスを崩して転倒するのを、みほ達はエクソクラフトを巧みに操って回避した。

二人は見事命中させた手ごたえに満足気な笑みを浮かべると、すぐさま返す動きで地面に潜っていくタイタンワームから距離を取るべく後退するのだった。

 ビスケットはその様子を見て安堵のため息をついた後、改めて無事だったみほ達の姿を見据えた。

 

《big》「皆、無事かい!?」

<……こちらあんこ-zzkzkt-ーム、なんとか無事です! 助かりまし-zzkzkt-さん!>

「無事で何よりですね!☆」

「マルチツールにまた砂が入っちゃったけど」

 

 車内に戻ってきたペコリーヌとキャルが上部のハッチを閉め笑顔で答える。 安全な食糧確保に危険な外来生物の撃退、間違いなく今日のMVPは彼女らだろう。

「よかった! 無事にあの怖いモンスターを撃退できたんですね!?」

 歓喜に沸くスペシャルウィークだったが、しかしペコリーヌは一転神妙な面持ちで首を横に振る。 それは他の皆もそうだった。

「……どうだろう。 撃退はしたけど、車内から見てた感じダメージが通ったかは分からない」

「そうね。 怯んで逃げていったみたいだけど、あれだけ硬い生き物があれくらいで引き下がるとも考えづらいわ」

「え、ええ……」

 冷静に事態を見ていたシャルロットと、撃退した張本人であるキャルの言葉を聞き、スペシャルウィークは思わず黙り込んでしまう。

 確かに彼女の言う通り、あの程度の大きさでは怯んだところですぐに立ち直りそうだ。 もしもう一度追ってこられたらエクソクラフトで逃げ切れる保証はどこにもない。

「やはり不本意だけど、一度基地まで撤退するべきだ。 敵がこちらを見失っている内に逃げて対策を立てないと――――!?」

 ビスケットが総括しようとしたその直後、大きな地震が辺りを襲った。 それは先ほどまでワームが暴れ回っていたものとは比べものにならない、大きな縦揺れ。

 しかも一度ではない。続けて何度も、まるで怪獣が暴れているかのような激震が周囲に響き渡った。 明らかに普通では無かった。

 

 やがてその震動は、エクソクラフトが蹴り上げる砂の地面そのものにまで影響を及ぼした。

「ビスケットさん!! なんだか砂が動いています!!」

 スペシャルウィークが画面を指さすと、砂の地面が流砂に変わったようにうねりを見せ始めている。 次第にその動きは激しくなり、やがてエクソクラフトの足元まで迫ってきた。

「!! まさか!?」

<地面が、割れ-zzkzkt-

 そのまさかだった。 猛るタイタンワームの激しいうねりは、辺りの地殻をも粉砕するあまり脆くなった地面が、エクソクラフトを乗せたまま一気に沈下したのだ。そして、激震によりひび割れた地面は砂を飲み込み始め、それはビスケット達の乗る2台のエクソクラフトをも飲み込む勢いだった。

 

「ダメだ、もう回避できない!! 車体が飲み込まれる!!」

<ビスケット君!! 皆ッ!!>

「皆!! 身を低くして衝撃に備えてッ!!」

 

 最早落下は避けられない。 それを悟ったビスケットとみほの叫び、それと同時に最悪の事態に備えるよう声を上げるのはシャルロットだった。 最早抵抗は無意味、2台のエクソクラフトの操縦手はせめて車体のダメージを最低限にする為、車体のエネルギーの振り分けを危険防御に全振りすると同時に、その身を車内に伏せさせる。

 

 

鉄華団の面々はなすがまま、砂の海の奈落へと落ちていく――。

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