No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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第43話

 激しい攻撃に傷ついたイサリビの修復に当たり、船内にある程度備蓄されていたはずの資材が外壁に空いた穴のせいで吸い出され失われ、それを補う為にもイトゥチ/97に訪れるのは必然であった。 何故なら惑星上は勿論のこと、星のすぐ周辺にも小惑星帯が存在する為、穴の空いた外壁を修復するのに必要な鉱物資源を得るのに都合が良かったからだ。

 そんな鉱物資源の豊富なイトゥチ/97の朱い輝きを背に、小惑星の1つに取り付いてマルチツールによる採掘を行っているのはトウカイテイオーだった。

「ふぅ……これでこの小惑星からとれる『ピュアフェライト』はこんなものかな? あんまり掘るとガスも吹き出しちゃうし、潮時だね」

 小惑星上から資源を掘り返し、鉱物の回収を終えるとトウカイテイオーは汗を拭いながら、そろそろ減ってきた『酸素』のカプセルをスーツの生命維持システムに接続し、補充する。

 

<テクノロジーをリチャージしました>

 そろそろ底をつきかけていた酸素が補充され、心なしか息の詰まるような感覚が取り払われた。

 かれこれ半日程無線越しにメンバーと定期通信を欠かさないようにしつつ、小惑星の数々を転々と移動しながら採掘を続けた甲斐もあり、それら作業自体は順調に進みつつあった。

「ふわぁ……でも流石にボクも眠くなってきちゃった」

 しかしながらマルチツールの出す波形1つで地殻を採掘できるとは言っても、宇宙空間のような高ストレス環境で延々と作業を行うのは、心身にとって想定以上負担を強いられていた。 ましてやテイオーはつい先程スペシャルウィークと船内の消火に当たっていた際、一歩間違えたら外壁に穴の空いた衝撃で空気共々吸い出されていたかもしれないのだ。 トラウマになってもおかしくない経験をしてきた彼女は、気丈にそれを押さえ込みつつもやはり無理が祟ったか疲れきった状態であった。

(素直に船内での修理作業をしてても良かったかなぁ? ……ううん、皆大変なんだ。 今は弱音を吐いちゃダメだ!)

 テイオーは首を横に振って思考を振り払う。 無論、そんな大変な経験をしたテイオーの心身を考慮して、実際に船内での修理作業にシフトを組んだ方が良いのではと仲間達からも提案された。 しかし資材不足のこの中で、スーツの初期仕様も相まってそれらを大量に持ち運ぶことの出来るのはテイオーだった。 ならばと採掘作業に従事した方が効率が良いのは事実だと、他ならぬ彼女自身が主張したのでは皆も受け入れざるを得なかった。

(そろそろここから離れよう。 えっと、重力靴だっけ……それの機能をオンに切り替えて――――って!!)

 地殻の採掘を無事に終えたと安心した瞬間、気を緩んだのかテイオーは、地殻の隙間から漏れているガスの圧力が加速度的に増していることに気づくのが遅れてしまった。

「やば――――!!」

 咄嗟にジェットパックを吹かして噴出口から離れるが、跳び退いたその身体に地殻から漏れ出した高圧のガスが吹きかけられ、彼女の身体を容赦なく明後日の方向に跳ね飛ばし、さらに加速をさせていった。

 

 悲鳴を上げる間もなくその身体が小惑星帯の中を縫うように飛んでいき、母船であるイサリビとの距離が開きそうになるも束の間、何かが彼女の背中を受け止め空中遊泳はすぐに終了した。

!! っはぁ!! はぁ……ラ、ラウラ?」

 極度の緊張から一気に引き戻され、息を荒げるテイオーは背後を振り返ると、そこには彼女の言った通りシュヴァルツェア・レーヴェンを纏ったラウラがテイオーを抱き留めていた。

 ラウラは一息ついた様子で、しかしテイオーを叱咤する。

「高圧のガスには気をつけろと言ったろう」

「た、助かったぁ……ありがとうラウラ」

テイオーはお礼を言ってシュヴァルツェア・レーヴェンのアームから離れようとするが、ラウラはしかし手を離さない。

「待てテイオー、そろそろ休んだ方がいい。 イサリビに戻れ」

「え? ボクもうちょっと作業は出来るよ? そうするのはせめて次が終わったらのつもりだったんだけど」

 ラウラは首を横に振る。

「それだけ注意力が散漫になっていたら、また事故を起こすかもしれんぞ? 今回はすぐに見つけ出して助けに入ったが、次も私が間に合うとは限らないのだからな……なによりガスが吹きだした際に、そもそも岩石も一緒に飛散して命中していれば――――」

「うう……分かったよ」

 頭を垂れるテイオー。 ラウラはこの宙域内でISの機動力を生かし、警備と飛来する隕石の排除をメインに辺りを飛び回り警戒に当たっていた。 そんな中で正にガスに吹き飛ばされた瞬間のテイオーを発見、即座に救助に当たれたのは正にその任務が役に立ったからと言えるだろう。 とは言え、助け出されることが当たり前ともなれば、今度はラウラの負担を増やしてしまう。

「素直にイサリビに戻る。 これでいいでしょ?」

「ああ、だが安心しろ。 先程レオポンさんチームの皆が、ADSの修理を完了したと連絡してきた。 これで飛来する隕石の心配は無くなった」

「! アレ直ったんだ!」

 テイオーは目を輝かせた。 ADS(アステロイド・ディフェンス・システム)とは、イサリビをはじめとする多くの大型宇宙艦船に装備されている、飛来するデブリや小惑星を破壊する為のシステムで、艦船の砲台より先述の通り飛来物を自動迎撃する制御装置であった。 イサリビがセンチネルの攻撃にさらされて一部機能が故障し、修理の資材も散らばってしまったが、テイオーが鉄を始め金・銀・プラチナ等の貴金属類を採掘した事で修理の目処がついたのだ。

「テイオーが十分過ぎる程に働いてくれてたからだ。 だから気に病む必要は無い……むしろ本当に休む必要があるのはお前と」

「……タカキだね」

 ラウラがその名を口にするよりも、目星のついていたテイオーがその名を紡いだ。

 タカキ・ウノ。 オルガやビスケットが不在の現在、イサリビ船内における管理者として一番の権限を持っているが、責任者を名乗るだけあって船内全体の指揮を取っている。 その責任の重さはさることながら、システムダウンしたイサリビのプログラム再入力も休み無しで行っている。 勿論交代要員として大洗学園において生徒会をやっていたかめさんチームの面々も協力、シフト制を取って対応しているものの過労の域に達しており、現場をチラ見したテイオーから見ても、その時点で目の下にクマを作っていた彼の面持ちは、とてもではないが見ていられるものではなかった。

 しかも今も他の船員達が宇宙に散らばった資材や道具の回収作業に追われている中、彼はイサリビに居残って管理を行っているのだ。

「いつも頑張りすぎなんだ、その内死ぬぞ……」

「ボクが戻ったらタカキにも休むよう言ってみるよ……にしても、鉄華団の旧メンバーってワーカーホリックしかいないのかなぁ?」

「お前も片足を突っ込みかけてるぞ? さあ、今はイサリビに戻ろう。 私が送っていく」

「お願い」

 テイオーはラウラの背中に回ってしがみつくと、ラウラは彼女が振り落とされない程度の低速飛行でイサリビのドックを目指す。

 イサリビへの帰還は特に問題なく行われ、開かれたドックのハッチをくぐり、ラウラに抱え降ろされたテイオーはイサリビの船内を見渡した。

「半日も経ってないのに随分久しぶりな気がする。 ラウラはどうするの?」

「私はまだ警邏の必要がある、また会おう」

「ラウラも無理しないでねー!」

 こちらの返事を待たず飛び行くラウラ。 振り返らずとも軽く手を振り去って行く彼女を見送ると、テイオーは改めて船内を歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 船内は傷ついた箇所やそれらを修復材で覆っていたり、そこかしこで補修作業を行うクルー達……戦車道の面々ともすれ違うが、皆テイオーの存在に気づくと笑いかけたり手を振ったりしてそれに応じる。 皆がテイオーが宇宙に出る不安感を押し殺して献身してくれたことを知っており、ねぎらいの意を示していたのだ。

 テイオーは一区画だけとは言え、修復が進みつつあるイサリビの様子に安堵していた。

(無事に修理が進んでるみたいだし……後は食料とかが補充されれば言うこと無いよね)

 唯一の懸念材料は食料などで、至る所に穴が空いて資材が漏れ出した際、当然ながら生活に必要なものもそこに含まれていた。 おまけに直撃を免れたはずの保管庫の電源まで落ち、衝撃でハッチが解放もされていたことで中身が一気に流出。 大事な食料の大半も他の有害な物質等と混じってダメになってしまっていたことも記憶に新しい。 清掃自体はこの宙域に来るまでに終わらせ、無事だった食料や資材も近くの空き部屋を仮倉庫として保管しておいたが、持っていた重要な物品の大半が駄目になったときは流石にげんなりしたことも記憶に新しかった。

 現状、ここにいるメンバーだけでは食料と水は1週間足らずの分しか無い。 それらについては降下したスペシャルウィーク達地上班の頑張りにかかっていると言って過言では無いだろうと。 そこまで考えた辺りで、件の仮物置の前をテイオーは通りかかった。 彼女達の仮設の休憩所はこのすぐ近くにある。

 

 まだまだ仕事はある、早いところ身体を休めて仕事に復帰しなければと考えた辺りで、ふとテイオーは仮物置の前に違和感を覚えた。

(ん? 何だろこの物音)

 それはテイオーのウマ娘としての聴覚が僅かに捉えた物音だった。 何かが這い回るようなどことなく不気味な、しかし小さな物音。 船内の各フロアの機密はしっかりしており、ほんの僅かにテイオーだけが捉えられる音だったが、その物音は仮倉庫の中で起きているようだった。 この船内でそんな音を立てるものなど思い当たらない、不審者が隠れているのかと訝しんだテイオーは恐る恐る仮倉庫に近づくと、耳を当てて中の様子を探る。

 すると中からははっきりと、何かが動き回るような音が耳に届いた。 それは蟲と言うべきか、節足動物のような足音を立てているような気がした。

(やっぱり何かいる……!)

 テイオーは異変を感じ取ると、マルチツールを引き抜いて武器の発射モードに切り替る。 そして自動扉の手前に浮かぶ開閉のホログラフに手をかざし――――かけたところで慌てて手を引っ込めた。

(ヤッバ!! 1人で部屋に入りそうになった!!)

 テイオーは自身の疲れから、無意識に判断ミスを犯しかけていたことに気づく。 基本として独断専行はしない、こういった不測の事態においては必ず仲間に連絡をするという決まり事を、危うく忘れそうになっていた事実に冷や汗をかいた。

(こう言う時先走ったら酷いことになっちゃうよ! 危なかったぁ)

 すかさずテイオーは無線機を通し、タカキに連絡する。

<こちらタカキ。 どうしたのテイオー?>

「うん、ちょっと気になる事があって」

 テイオーは事の顛末をタカキに伝えた。 するとタカキは一瞬驚いたような表情で、応援が来るまではその場から動かないように指示を飛ばしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テイオーは指示に従い部屋の入口のすぐ側で待機、そして程なくしてADSの修理を終えたレオポンさんチームの面々が慌てたように駆け込んできた。

「テイオー! 大丈夫!?」

「何か仮倉庫で不審な物音がしたって!」

 ホシノとチームリーダーのナカジマがテイオーに問いかけた。

「うん、その中の音はまだ続いてるみたい。 ボク一人で中に入ろうか一瞬悩んだけど、念のために」

「よかった。 何かは見当はつく?」

「……わからないけど、何だかでっかい虫みたいな足音がする」

 身震いしながら答えたテイオーに対し、レオポンさんチームの面々は顔を見合わせると、意を決したように倉庫の扉の側に背を向ける。

「開けて!」

 テイオーは無言で頷き、扉の前に浮かぶホログラフ式のコンソールにアクセスすると、圧の抜ける音と共に自動扉が開く。 テイオーとレオポンさんチームの計5名が足を踏み入れると、照明を切って暗い部屋の中にフラッシュライトの眩い光が差し込んだ。

「うっ……」

「うわ……なにこれ」

 5名はそこで目にした光景に思わず呻く。 手持ちのライトに照らされた部分、仮倉庫として利用するために間に合わせで設置した棚や、それも足りず適当な小型のコンテナに詰めて重ねて置いていたそれがひっくり返され荒らされて、泥棒にでも遭ったかのように乱雑に散らばっている。

「……中々に酷いことになってないかな?」

「電気付けよ、電気」

 ライトで照らしながらナカジマが呟くと、見かねたテイオーが翻って突入した入口の側にある部屋の照明のスイッチを入れる。

 部屋はすぐに明るくなったが、照らされた部屋の中は想像以上に荒れていた惨々たる有様だった。

「こ、これは……」

「うわぁ……」

「ピェ!? 何これ!! 色々荒らされてるけど、食料のコンテナが一番ぐちゃぐちゃにされてるよぉ!!」

 ナカジマ達が言葉を失う中、テイオーは特にショックを受けているようだった。

 

 テイオーの言う通り特に食材がらみが壊滅的で、調理前の生の食材から、調理され日持ちのする食品などが皆一様に乱暴に荒らされた跡があった。

 それらはケースごと蓋を完全に破壊され、葉肉の切れ端や肉片のついた骨の欠片など、食材と思わしき僅かなかけらだけを残して散らばっていた。 そしてまるで飢えた獣がそれを食べ散らかしたのだと言わんばかりに、得体の知れない粘液などが床や壁に付着している。

 特に食べ盛りなウマ娘であるテイオーにとっては、船内に残った食料品が無残に食べ尽くされた事実が精神的に堪えて仕方なかった。

「うえぇん!! ワケわかんない!! こんなの絶対許せないよぉ!!」

 何たることか! 食料を盗み食いする不届きものがいたとは!! テイオーは怒りのあまりに涙さえ浮かんだ目で周囲を見回した。 初見で分かるくらい一切食料が残っていないのは理解した上で悪あがきをしてみるも、やはり何も見つからない。

 ここまでくると本当に、何者かが倉庫に侵入して食料を荒らした可能性は高いだろう。 この事実を踏まえた上で最初に口を開いたのは、ナカジマだった。

「……一体何が艦内に? 本当に外部から侵入したの?」

「ラウラさんがイサリビの外を見回っているから、万一には連絡が飛んでくるはず……」

 彼女達の言う通り、イサリビの外はアヒルさんチームやカバさんチームなど、大多数が採掘やイサリビの補修に宇宙へと駆り出された者達、そんな彼女らを事故が無いように見回るラウラがいるし、タカキやカメさんチームら生徒会組が指揮を執ったり艦内の監視をカメラ越しに行なっている。 メンバーの疲労による見落としの可能性は0ではないものの、そう言ったヒューマンエラーを限りなく低くなるようにシフトを組んでいるはずだ。

「!? 皆、ちょっとこれを見てよ!!」

 不意にテイオーが慌てた様子で叫んだ。 それもその筈である。

 

 テイオーは震える指を指していた。 謎の粘液が道を指し示すように続き――――その先は崩れた棚の陰、蓋を強引にこじ開けられたであろう通風口へと繋がっていたのだから。

 

「……さっきから僅かに響くように聞こえてたんだ。 ボクの聞いた、虫のようなガサガサって言う音が、気になってもう一度見渡したら……ここが……!!」

 

 

 ナカジマは即座にタカキに連絡を送った。

 

 

「緊急事態発生!! 何者かが通風口を通ってイサリビ艦内を徘徊してるッ!!」

 

 




 早くこのエピソードにケリつけたいけど、忙しくて中々続きを投稿できなくてごめんやで……(白目)
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