No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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 前回から約3ヶ月ぶり、ほぼほぼ不定期連載でワロタ……ワロタ……。


第44話

 どうしてこんなことになってしまったんだろう。

 テイオーは辛うじて機能を取り戻しつつある、しかし照明の光も薄暗いイサリビの廊下をマルチツールを構えながら、レオポンさんチームの皆とおっかなびっくり歩いていた。 

 敵の襲撃からの緊急ワープに始まり、惑星への移動中にスペシャルウィークの宇宙船の準備に尽力し、外壁修理と足りなくなった材料の採掘。 一日中働きづめで疲労困憊と言った状況からのこの仕打ち。 前世で何か悪いことをしたとでも言うのかと内心文句を言ってやりたい気分だった。

 そうした中で先程エイリアンに荒らされたブロックとは反対側の廊下に繋がる、大きな二枚扉の前にやってくる。 それは手前にも同様の構造の扉が開かれた状態で保たれており、エアロックも兼ねた構造となっている。 反対側のフロアは現在修理が進んでいない為、真空かつ無重力状態なのは彼女達もよく知っていた。

「この先に侵入者っているかな……?」

「分からないよ。 でも物音は確かにこの先に向かった筈なんだ」

 ナカジマの問いかけにテイオーはマルチツールを強く握りしめて返した。

 既にこちら側のフロアはクリアリングを済ませており、むしろ最後の部屋を調べ終わった辺りで、テイオーの耳が何者かが通風口をくぐり抜ける音をはっきりと捉えており、其の向かった先が反対側のフロアだった為にここを訪れたのだ。 仮倉庫の資材の荒らされ方からして何らかの生物なのは間違いないが、そうだとしたら宇宙空間とほぼ同じ環境になっている反対側にわざわざ逃げ込むだろうか?

「居なかったらそれに越したことは無いよ。 いっそさっさと出て行ってくれた方が……」

「兎に角確認だけはしよ? ……皆、動体探知機の機能に問題ない?」

 一同頭を垂れる。 ナカジマはそれを確認すると、扉のホログラム式コンソールに手をかざす。 すると空いていた側の扉が閉まって狭い空間が形成され、閉鎖されたフロア内の空気が一気に抜ける。

 

<真空状態に入ります>

 

 フロア内の音が消え、心音に連動した小刻みな電子音のみが各々のスーツ内に響き渡る。 直後、反対側へ向かう扉が音も無く開かれた。 目前には破壊されて壁内の機材がむき出しで、奥に見える廊下の突き当たりからは星々の煌めきが見えていた。 それ以外の明かりは非常灯の朱い光のみ。

 緊張した面持ちで一歩踏み出すと、身体からの重力感が一気に消失する。

 

<無重力状態に入ります>

 

 この先でテイオーの聴覚に頼ることは出来ない。 皆はどことなく頼りない、スーツに内蔵された動体探知機のソナー音を頼りに、正体不明の何かを探さねばならない。 なるだけまとまって分散しないように気をつける必要もある。

<ボクが殿を務めるよ>

 テイオーは皆の背後を守るように、最後尾に陣取った。ナカジマはそんなテイオーを頼もしく思うと同時に、その心意気が嬉しかった。

<じゃあ……行くよ?>

<……天井にも気をつけてね>

 ナカジマの合図と共に皆は慎重に歩を進めた。 音も光も無い、虚無のような空間。 皆は無重力の中を重力靴の僅かな引力だけを頼りに、おぼつかない足下の中慎重に進んだ。 突き当たりであるT字路の手前に到着し、いきなり飛び出さないよう左右の壁に張り付いて様子をうかがう。

 それぞれ廊下を確認するが、破壊された外壁から覗く宇宙空間と、其の反対側の壁に連なる扉の数々が見えるだけで、何かが居る感じはしない。 動体探知機にも変化無し。

<居ないね>

<でも部屋はまだ調べてない。 注意して>

<OK>

 一同はナカジマを先頭に、トウカイテイオーを殿に位置した隊列のままT字路を左に曲がった。

 薄暗く地に足着いた気のしない無重力の空間。 そして規則正しい電子音だけの静寂が支配する空間に不気味さを覚えながらも、ナカジマ達は意を決して歩を進める。

 本来このフロアは長期的な旅を見越して、資材の製造と精製を担う生産プラントを兼ねたフロアだった。 船内の食料や酸素を生み出す農業プラントに本来の倉庫、そしてエクソクラフトや宇宙船以外に関連する機械類や鉱物の抽出に精製を行う部屋など、様々な部屋が存在する。

 皆は丁寧に1つ1つの部屋の扉を開き、入念にクリアリングする。 部屋の中は壁に掛けられたプレンターが青々と茂っていたり、機械類がぶら下げられていたりと特色のある作りだが、いずれもその機能を失い見るからに寂しげな様相を醸し出している。

 早くこれらの部屋の機能を元に戻したいと誰もが思ったが、しかしやはりと言うべきか、部屋の中もくまなく見て回るが侵入者と思われる存在は影も形もない。

 結局探索したフロアの隅々まで調べ尽くしたが、遂に何も発見することは出来なかった。

 

<こちらラウラ。 レオポンさんチーム、イサリビの外郭を一周した。 応答願う>

 そんな時、ラウラからの通信が入った。 ラウラからの連絡通り、破壊された廊下から外をうかがうと、少し離れた場所でラウラがISを展開してこちらの様子を見ていた。 テイオーが手を振って合図を送る。

<こちらテイオー、『何か』はまだ見つかってないよ! そっちは?>

<外壁に逃げ出していないか見回ったが、こっちも確認出来ていない>

<了解。 ……念のためもう1度確認して。 真空状態でも活動可能な生物は少数だけど存在するから、くまなくね>

<任された。 もう1周終えたら再度連絡する>

 そう言って、ラウラは再びイサリビ外郭の警戒に戻っていった。 火力や機動力等優れるISを操り、かつ従軍経験のあるラウラには共に見回って欲しい気持ちもあったが、(部分展開も考えたが)大柄なISは外からの監視に充てた方が敵を発見するに都合が良いとの判断だった。

 彼女はシャルロットの言う通り、地上班の降下直後にはしばしの休息を約束通り取ったのだが、それは本当に小一時間ほどの文字通り申し訳程度。 テイオー達共々体力、気力等は色々とガタが来ているはずだった。 にも拘わらず、船外活動という危険な環境でも気を張って、いまなお仲間のアクシデントを監視してくれているのは頭が上がらない思いだった。

 

 して、一通り破壊された区域も見回ってはみたが、どこの部屋を見回っても不審な姿を確認することが叶わなかった。 配管内を動き回っていることも考慮しても、メチャクチャに倉庫を荒らすような気性の悪い生物が、一度も外に出た形跡が見つからないのは腑に落ちない。

<おかしいなぁ……確かに探知機の反応はこっちに向かっていたはず――――ん!?

 テイオーが頭を悩ませたその時、彼女らの動体探知機に一斉に反応があった。

<……反応あり……!!>

 皆に一斉に緊張が走る。 ソナーによって指し示された其の位置情報は、まだ調べていない廊下の最奥の部屋。 資材の精錬と還元を行える『大型精製機』が設置された部屋だった。

<ここだね……>

 ナカジマは武器を突き出しながら扉を開放する。 どうやら部屋の奥に侵入者が潜んでいるらしく、皆は一層警戒を強める。

 室内に手早く入り、全員で一斉にクリアリングする。 薄暗い室内をフラッシュライトで照らしながら、ナカジマは精製機へ近づきつつテイオーは入口を振り返って不意打ちに備え、残りの皆は部屋の探索を始めた。

 

 

 

 沈黙が支配する中、一同はじっと息を殺しながら辺りを警戒する。だが、やはり室内には誰も居なかった。

<誰もいない……>

 拍子抜けしたかのようにナカジマが声を漏らし、皆がマルチツールの銃口を下げた。

<っぷはぁ……、何だか疲れちゃったよ~……。 見つからないのは広い船内だからってのもあるのかなぁ?>

 緊張の糸が抜けたようにため息を漏らすテイオー。 状況は違えど緊張には慣れっこ……といいつつも、流石に油断すれば命を刈り取ってくるかもしれない危険生物の捜索は、流石に神経を酷使せざるを得ない。

 そんな中で妙に息苦しい思いをしていたテイオーであったが、よく見れば生命維持装置のエネルギーが今にも切れかけており、文字通り酸素の供給量がそろそろ落ち始めるだろうと言った段階だった。 慌ててインベントリから酸素のカプセルを取り出し、供給口へと接続する。

<テクノロジーをリチャージしました>

 カプセルの中身が注がれ、エネルギー残量のインジケーターが回復する。

<ふぅ、危なかったぁ……ボクうっかりしていたよ――――!!

 忘れかけていた大事な生命維持装置のエネルギー供給を行い胸をなで下ろすテイオーだったが、すぐそれは再度の緊張に塗り替えられる。

 

 動体探知機が再び反応した。 その反応は急速にこちらに向かってくる。

<急に消えたのにまた――――危ない!! そこの通風口!!>

<は!?>

 テイオーが叫んだのはナカジマに対してだった。 その声にナカジマは慌てて背後を振り返った。 そう、彼女のすぐ後ろにあった通風口に――――

 

 音もなく、通風口の蓋をぶち破って飛び出したソレはナカジマの上半身にのし掛かった!

<うわああああああああああああああああッ!!!!>

 思わず狂乱するナカジマに飛びかかったソレは緑の怪物だった。 虫のような節足にシュモクザメのように張り出した頭部、爛々と緑に輝く複眼と大きく開かれた牙の生え揃う口は、随分と小さいが彼女らがプロミス/48で駆除したはずの危険なエイリアンであった!

<――――こいつッ!!>

 マルチツールを使えばナカジマに当たってしまう。 そう直感で判断したテイオーは駆けだしてエイリアンと一気に距離を詰め、ナカジマの頸動脈にスーツ越しに噛みつこうと牙を剥いていたエイリアンの首根っこを掴む。 そしてそのままウマ娘の力を生かして力任せに引きはがし、部屋の隅に投げ飛ばした!

 エイリアンは部屋の端に叩き付けられるも、それをものともせずすぐに立ち上がってこちらを威嚇する。

<撃って!!>

 そう叫んだのは、テイオーに介抱されるナカジマだった。 残りのレオポンさんチームのメンバー全員が、エイリアンの幼体めがけてマルチツールの銃口を向け、ボルトキャスターによる一斉射撃!

 エイリアンは叫び声を上げる間もなく複数名のバースト射撃により、その身体を節毎にバラバラにされ、一瞬で絶命した。 周囲に体液が飛び散り、周辺の機材や床の一部が溶解する。 どうやらエイリアンの体液は強酸性だったらしい。

<……>

 計らずとも自分の判断が正しかったことにテイオーは戦慄する。 もしあのまま飛びついた敵を直接撃っていたら、この強酸の液体をのし掛かられていた仲間が浴びていたかもしれないのだから。 しかし幸いなことに溶ける工程自体はやがて直ぐに収まり、念のためスキャンをかけてみれば、周囲を溶かした体液は直ぐに中和され中性になっているようだった。

 しかしそんな中でも残った身体の節が小刻みに痙攣する。 敢えて誰もが「やったか?」とは、ジンクスめいたやりとりを気にして言葉を発しなかった。 皆が武器を構えたまま、固唾を呑んで見守る中、しばしの痙攣の後にエイリアンはやがて完全に動かなくなった。

 

 ナカジマはテイオーの手を借りながら立ち上がり、恐る恐るエイリアンの死体に近づくと、その節々をマルチツールの銃口で突っついて安全を確認した。 どうやら完全に息の根を止めたらしい事を確認すると、ようやく全員の緊張が解れた。

<……ふう。 どうやら無事に駆除できたみたい>

 ナカジマの安堵した声と共に、皆が一斉にため息を漏らす。

<このエイリアン……前に基地の近くで駆除した奴だよね? なんでまた現れたのかな……?>

 テイオーが顔をしかめながら、バラバラにされたエイリアンの死体を眺めながらぼやく。

<……テイオーが倉庫で見つけたあの薄皮みたいなのって、ひょっとして『幼生コア』だったんじゃなかったかな?>

<え?>

 ナカジマの指摘に、テイオーが思わず間の抜けた声を上げる。

<ほら、廃墟からキャルさんが回収してた――――>

ええ!? マッキーの所で全部売り払ったって思ってたけど!?>

<結構色々な資材も纏めて取引してたし、コンテナから出しそびれたのがあったんじゃないかな……>

 あくまで想像でしかないものの合点がいった気分だった。 成長すればエイリアンの幼体になる幼生コア、ソレはコンテナの保管機能が働いている内は成長することはないが、あいにくイサリビの大半はセンチネルの半ば言いがかりによる襲撃で大破し、その機能を失っている。 おそらくはその後に空き部屋に無事だった他の資材と纏めて仮保管したことで、ソコが幼生コアの成長環境として孵化を許してしまい、結果今回のエイリアンの徘徊に至ったのだろう。

<うえぇ……こういうのを持ち込むのも考えモノだね……>

<事故みたいなモノだから仕方が無いよ。 それより、無事に解決は出来たからラウラさんやタカキ君達にも連絡しておくね? あとはその、エイリアンの死骸を片づけないと……>

<う”っ>

 そう言い放ってナカジマはラウラ達に任務完了の報告を入れるべくこの場を離れた。 一方で残されたテイオー達は、一斉射撃でメタクソになったエイリアンの死骸を前に、心底ゲンナリとした。

 

 

 

 

 

<これ、何とかしないと駄目……?>

 テイオーが涙目で皆を見渡す。 レオポンさんチームの面々も、しかめっ面で首を縦に振る。

<これを放置する訳にもいかないし……ね?>

 その返答にテイオーはとため息を漏らすのだった。 死骸は無害化されていると理解はしつつも恐る恐る手を近づけ、バラバラになった死骸をかき集めるようにして一斉に拾い上げた瞬間、震えが止まったと思った死骸が再びのたうち回るように痙攣する。

<ピエエェェェェェェェェェェェッ!!!! まだ動くよコレェッ!!!!>

 腕の中で踊るエイリアンの死骸にテイオーは気色悪さに悲鳴を上げ、周りの面々も身じろぎして近づくことをためらうばかり。 辛抱溜まらなくなったテイオーは兎に角コレを処分したいという思いで周囲を見渡した。 最早、正常な判断は出来なくなりつつあった。

<て、テイオーさん!! ココ空いてる!!>

 慌ててメンバーの一人であるスズキがあたふたするテイオーに声をかける。 すると彼女は何か部屋を占める大型な装置の蓋を開いており、ココに放り込めというジェスチャーをしてきた。

<え? ええ!? ココに!? わ、分かったよ!!>

 そのジェスチャーを理解したテイオーは、少し躊躇いつつも言われた通りにエイリアンの死骸を機械の中に突っ込み蓋を閉めた。

 そして、そのままスズキが装置の起動スイッチを押す! すると装置は作動し始め、機械の可動部らしき箇所から蒼い電光を上げる。 どうやら非常用電源が生きていたようで、装置が作動したのを見届けると、テイオーは安堵のため息を吐いた。

<良かったぁ~……これで何とかなったよ~……ってアレ? コレなんの機械だっけ?>

<あーーーーーっ!!!!>

 今度こそようやく一息ついたと思いきや、通話を終えたナカジマが今頃になって驚きの声を上げていた。

<今度は何!?>

<そ、それ資材加工用の大型精製機!! リサイクル用の有機転換炉じゃないよ!?>

<ぶっ!?>

 震える指で稼働する機械……ナカジマが大型精製機と呼んだそれに慌てて振り返るテイオー達。 そう言えば、この部屋はそれ用の機械を設置してある部屋だと言うことを、先程の奇襲と動く死骸に触れたパニックで完全に頭から抜け落ちてしまっていた。

 これは調理した際の食用不可な部位などの生ゴミや、金属や無機物を中心に加工及び精製して合成物を製造、あるいは分解する為の機械である。 ただしそれは食料ないし、それを育てる為の化学肥料などを生み出すモノと言うよりは、工業的製品の原料などを精製する為のモノで、しかも加工出来るレシピを持たない代物の場合、先ず機械自体が作動しないようフェイルセーフがかけられている筈であった。

<で、でも機械フツーに動いてるよ? 一応何かには加工出来る程度には問題が無いってコトだよね?>

<う、う~ん……それはそうなんだけど……でも何に精製してるか見当もつかないって言うか……>

 ナカジマは腕を組んで考え込んでいる。 こちらの世界に来るのが早かった彼女達レオポンさんチームの面々も、危険なエイリアンの死骸を『加工』した経験は流石に無い。 だとすればこの機械がコレを如何ほどに加工するモノなのかが見当もつかない。

 戦々恐々とする中でやがてその機械は稼働を停止し、そして作業完了の合図を告げるランプが点灯する。

<……開けてみるね?>

 テイオーは皆に声かけし、周囲がそれを無言でうなずいて了承すると、精製機の蓋を恐る恐る開く。

 蓋から溶けたドライアイスを思わせる白く薄い煙が漏れ、そして徐々に中身が見え始める。

 うっすらと見えた何かのチップのようなそれは、どうやら小型のペレットのようにも見えた。

<何コレ?>

 無害な代物のようだが、テイオーはそれを拾い上げて再度スキャナーで分析してみた。 たちどころに結果が出たが、彼女はその内容に目を丸くした。

<ええ? あのエイリアンから何でこんなのが?>

 テイオーはそのペレット差し出し、分析結果を皆で共有した。

 

 

 

 

 

 

『ナノマシンクラスター』

ナノマシンの高密度瘴気で、潜在力に起伏がある。

これらのクラスターは安定しているが、制限のないナノマシン形態は、有機物があると望ましくない暴走反応を引き起こしかねない。

 

高度テクノロジーの生成に使われる。 専門的なトレーダーにはかなり貴重。




 やっとテイオーの下りが終わった。 次は地上編です!
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