No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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第45話

 テイオー達が艦内で一悶着あったその頃……。

 

 幼体のタイタンワームの群体に奇襲攻撃を仕掛けられ、ビスケット達のいる鍾乳洞は乱戦の最中にあった。

 戦闘開始から既に2時間が経過、そろそろ全員の集中力が落ちてくる頃合いでもあった。

「シャルロットさん! 弾薬です!」

「助かるよ!」

 スペシャルウィークは精製したての『発射弾』を手早くマガジンに装填し、シャルロットに投げて渡してやる。 受け取ったシャルロットはマガジンのリリースと同時にスペシャルウィークから受け取った新しい弾倉を再装填。 手早くボルトを引いてタクティカルリロードを果たすと、今なお襲いかかる他の幼体達に弾丸を叩き込んでいく。

<援護します!!>

 そんなシャルロットの背後を襲いかかろうとした別の個体へ、みほ達が乗る修理したてのエクソクラフトの砲塔から『エクソクラフトマインレーザー』を放つ! マルチツールのそれよりもより大出力な光のエネルギーは、容易く敵の胴体を両断!

<いよぉぉっし!! 敵機撃破!>

「助かった!」

 あんこうチームのファインプレー、みほと優香里の連係プレーにシャルロットは惜しみない賛辞の代わりにサムズアップを送る。

 

 他方では、ペコリーヌ・キャル・ルイズ・コルベール、そしてビスケットの5人が激しい白兵戦と援護魔法による応酬を、取り囲むワーム達相手に繰り広げていた。

 コルベールが炎の壁を周囲に張って足止めをし、それでも強引に突破してくる個体をルイズとキャルが小規模な攻撃魔法で各個撃破、撃ち漏らしをペコリーヌとビスケットの白兵戦で仕留めると言った連携で、なんとか戦線を保っている状態だった。 しかし、それも既にほころびが見え始めていた。

「コルベール先生! 炎の壁を維持出来るのはあとどれくらいですか!?」

「くっ……流石にそろそろ限界が近い……!!」

実戦経験があるとはこの優男のような風貌のコルベールの弁だが、それでもいつかは限界が訪れる。

節制を怠っていないとは言え、体力のピークなどとっくに過ぎている中で絶え間なく襲ってくる敵の数に押される疲労もあるだろう、このまま押し切られれば戦線は崩壊しかねない状況だ。

「はぁ、はぁ……ルイズだっけ!? アンタ、後その爆発魔法、どれくらい使えそう!?

「まだ魔力には余裕があるわ! でも」

 ルイズは自身のマルチツール……と言うには些かかけ離れた、頭頂部に赤い球体とそれを取り囲む三対の錐が取り付けられた長い棒――――言うなれば機械の『杖』そのものに目をやりながら呟くように答えた。

 頭頂部からは、高熱を発していると思わしき陽炎が立ち上っていた。

「これ以上やったらこっちのツールが持たないわ!」

「……アタシもよ!」

 キャルも愛用のライフル型のマルチツール、その銃身周りのカバーを解放して放熱フィンを露出させている状態だった。

「それ、『ボルタスタッフ』って言うんだっけ? アタシも魔法使いなんだから、同じタイプのツールのが有り難かったかも!」

「だったら自分で作ってきなさいよ、作れるアテぐらいなら教えて上げるから!」

「二人とも、また来るぞ!!」

 掛け合いの最中、コルベールの炎の壁を突破してきた複数のタイタンワームに意識を向け、間髪入れずにツールをかざして魔法を放ち、敵の攻撃を挫く!

「ならそうさせて貰うわ! アンタのより更に良いの作ってやるわ!」

「ええ! だったらまずはここを生還することね!」

 軽口をたたき合いながら、次々にワームを排除していく魔法使いの2人。 一見不敵に笑ってみせるものの、しかしツールの消耗を考えれば決して楽観視出来る状態ではない。

 そんな中で、彼女らの処理能力を超える数のワームが一気に押し寄せた。

「――――――ペコリーヌ!!」

「お任せあれ!!」

 彼女らの死角から迫るワームを排除しつつも、間に割って入ったのはペコリーヌ。 迫り来るワームの群体を魔力を帯びた剣の一振りでなぎ払う。 チームのタンクとして仲間を守ることを主軸に立ち回った経験、そして名だたる敵と相対してきたが故のその実力は折り紙つきであった。 

 だがそれでも、敵の何匹かはその攻撃の隙間さえも縫って飛びかかろうとする。

「!!」

 さしものペコリーヌも目を見開き、咄嗟にルイズ達を守りつつ防御態勢を取った――――

 

 

 

「水の呼吸、陸ノ型――――」

 

 

 

 そんな彼女達の前に颯爽と現れたのは、メンバー随一の巨躯を持つ頭脳役である筈の彼。 インベントリ内にこっそり持ち込んだ、刀身の黒い刀を持ちながらその太った身体をモノともせずねじって敵に飛びかかる、ビスケットの姿!

 

 

 

「ねじれ渦ッ!!」

 

 

 

 それは刀身から本当に水を放っているような渦の闘気を帯びながら、激しい回転と共に複数のワームの動体を一瞬で輪切りにする。 幼体とは言え堅い殻に覆われているそれをバラバラに切断しながら、ビスケットは軽やかかつ荒々しく飛んだ後で着地を決めた。

っぷはぁっ!! に、『日輪刀』を持ち込んでいて助かった……!!」

 太った体型に見合わない激しい動きの後で、ビスケットは身体にかかる負担に肩で息をする有様だった。 しかし身体から迸る闘気は、見る者に確かな威圧感をも感じさせる。 そんなビスケットでさえも凄まじい気迫を見せてみたのが敵にも伝わったか、あるいは倒され続ける同胞の姿を前に怯んだのか、タイタンワーム達も一旦攻勢を諦めて撤退を選んだらしく、波が退くように来た道を慌てて戻っていった。

 

 ビスケットは去って行く敵の群れを見送るとため息をつき、黒い刃……日輪刀の刃先に目をやった。 急所を狙う研ぎ澄まされた太刀筋から負担を最小限にはしたものの、それでも刃先に若干の刃こぼれが見られるようだった。 エクソスーツのファブリケーターで精製できるレシピがあること自体に驚きだが、刀鍛冶の里で鍛えた代物には流石に及ばないようだった。

(職人の鍛えた業物じゃないから、こんなモノか……)

「ビスケット君! 大丈夫ですか!?」

 ペコリーヌは遊撃を買って出たビスケットに、気遣うように声を飛ばす。

 当の恩人たるビスケットは途切れ途切れに息を荒げながら答えた。

「な、何とか大丈夫……それよりケガは無い?」

「え、ええ……でもアンタ大丈夫なの? かなり息が上がってるけど」

「感謝するわ。 なんて言うかその、見た目の割に意外って言うか、軽快に動けるのね?」

 言葉を濁すようなルイズの問いに、ビスケットは苦笑いを浮かべながら答える。

「あはは、コレでも昔は『鬼退治』してた時期があったから」

「……太刀筋には鬼気迫るモノがあった。 君にも複雑な事情があったのだろうね」

 何かを察するようなコルベールの問いに、ビスケットは頷く。

「そう、ですね……もう『随分と昔』の話ですが……」

 遠い目で語る彼の姿に、コルベールもビスケットに対して労しい気持ちを抱いたようだった。

 

 

「――――それはさておき、とりあえずは凌いだようだ」

「ええ」

 何がともあれ、ひとまず戦いは凌ぎきった。 あるものは深呼吸をし、あるものはため息交じりに膝をつき、またあるものは額に汗を拭って束の間の安息を味わう。

「……スペ、資材はあとどのくらい残ってる?」

 ビスケットはスペシャルウィークに問い掛けた。 この戦闘中、戦う力のない彼女にはひたすら補給の役割に徹するように頼んでおいた。 彼女にだけは出来れば手を汚して欲しくない、そんな誰に言われたのでもない奇妙な連帯感が生まれており、当のスペシャルウィーク自身もそれに従って黙々と物資の生成と補給を行い続けていたのだ。 そんな彼女の面持ちは、あまり芳しくないモノだった。

 スペシャルウィークは無言で、彼女の背後にあるものに目線をやるよう、大きく右腕を開くようなジェスチャーをする。

「ここにある廃材で、最後です」

 それは、乗ってきたエクソクラフトのニコイチ整備であぶれた、文字通りの破壊し尽くされた残骸だった。 丁度一台分はあったはずのそれが、今はもうそれほど大きくない彼女の両腕に、収まりきるほどの量しか残されていないのだった。

「もう、弾に作り直せる量もあまりないね」

「魔法で補おうにも、それを使う為のツール自体が消耗しているわ……正直、そんなに期待は出来ないかも」

 ルイズが顎に手を当てて呟くように、対するコルベールも困ったような表情でそう答えた。

「あまり長い間この場には留まれそうにないな……」

「ええ、急いで鍾乳洞から脱出した方がいいかもしれません。 ……できる限り地盤の安定している部分を見つけて、そこから穴を開けて脱出路を確保しましょう」

 ビスケットは提案した。 彼自身、この地盤の不安定な鍾乳洞故の崩落のリスクから、実行を見送ろうとしていたプランだった。 しかし地下にもこれだけのワームが潜んでいるとなれば、次もまた出口を探している間に襲われた際、とても凌ぎきれる保証はない。 危険は承知だが、早期に脱出するのが最善。そう考えたのだ。

 皆もそれは承知の上か、神妙な面持ちながらも頭を垂れてビスケットの意見に賛同の意を示した。

「……分かったよ、そうしよう」

 

 ビスケットは意を決し、スーツのスキャン機能で周辺の地盤の安定している箇所を探知した。 ただ安定しているだけでは意味が無く、穴を開けてもなお崩落のリスクを最小限にできる部分を掘らなければならない。 彼はそれを判別し、そしてそれは見つかった。

「陸続きの直ぐ対岸か……スペ、インベントリに余裕はある?」

「大丈夫です。 残りの回収はすぐにやっちゃいます」

「お願い」

 スペシャルウィークに残りの廃材を全て解体、回収させ、ビスケットはエクソクラフトらを引き連れ先導する形で対岸へと歩いて行き、掘削予定地へはすぐたどり着く。

 そびえ立つような一際大きい一枚岩が、彼らの目の前には存在していた。

「岩ハネや砂利層を掘り当てるリスクは無いと出ているけど、言ってもここら一帯がそもそも脆い砂岩地帯だ。 慎重に掘り進めよう」

「殿は僕とみほ達で務めるよ。 背後から襲撃を食らったら不味いからね」

「分かった。 ルイズ君達みたく魔法が使える組は、できるだけ範囲を絞って使うようにしてくれ。 威力が強すぎてトンネルにひびが入る可能性がある」

「分かりました先生……爆発範囲を絞る、ね……何とかしなきゃ」

 まず、岩の前にビスケットとスペシャルウィークが先頭に立ち、その後ろをあんこうチームが駆るエクソクラフト、ペコリーヌとキャルにルイズ、コルベール。 そして最後にシャルロットが並ぶ形になった。

「スペ、地形操作機の調子は?」

「大丈夫です。 問題ないです」

「よし……掘っていこう」

 ビスケットとスペシャルウィークは、地形操作器の掘削範囲をできる限り広げ、波形を岩に照射! 岩はいとも簡単に削り取られ、大型トラック程の大きさを持つエクソクラフトの車体が、何とか通り抜けられる程度の大穴が空いていく。

「いいぞ、これなら無事に通り抜けられそうだ」

 地形操作機による掘削は、シールド工法のように掘り返した周囲をある程度固めることも同時並行でできる。 なので、地殻の性質を事前に把握していれば、比較的安全かつ極めて早い作業スピードでトンネルを掘り進めることが出来るのだ。

「よし、みんなも続いてくれ!」

 ビスケットの号令に、あんこうチームのエクソクラフトは砲口を背後に向け、次々とその穴へ入っていく。

 後にルイズらが続き、シャルロットも周囲を警戒しながらトンネルへと続く。

 

 脆い地殻に穴を開けながら前進し、ゆっくりと坂道を上りながら地上を目指す一同。

「この調子なら何とか安全に脱出できそうだ」

「ですね! 後はさっきみたいな地震が来なければ――――」

 スペシャルウィークが眉を寄せたその時だった。 突如後方から何かの生物のような雄叫びが響き渡る!

 この鳴き声には、皆がウンザリとする程聞き覚えがあった。

「!! 大変だ! アイツらがまた追いかけてきた!!」

 声を上げたのはシャルロットだった。 続けて地面を這い回るような虫のような足音、アイツらというのはもう細かい説明をするまでもない。

 

 

 

「タイタンワームの群れだ!!」

 

 

 

 シャルロットが前方にいたビスケットらのバイザーに、自身のハイパーセンサーからの視界を共有する。 投影されたウィンドウにははっきりと映し出されていた。 一度は逃げ出したワームの群れが、体勢を立て直して再び群れを成してトンネル内に殺到する様子が。

 

「やばいですね!」

「ああもう! しつこいわね!!」

「あれだけやられたんだから、いい加減諦めなさいよもう!」

 

 悪態をつきながら、得物を構えて応戦するキャル達。 みほ達もあらかじめ反転させておいたビーム砲を敵に放ち、後方の支援攻撃を行う。

 ビスケットも内心舌打ちをしながら、しかしトンネルを掘り進めるマルチツールの引き金を緩める気は無かった。

「ビスケットさん! 何とか反対側に回って私達も加勢に!」

「それはダメだ! 穴を掘り進める手を止めたらアイツらに押しきられる! このまま進むしかない!」

「ッ!! 分かりました!!」

 助けに行きたいが、今は自分の役割をこなすしかない。 スペシャルウィークは苦虫をかみつぶしたように、改めて進行方向の壁に向き直る。

 

 

 

 

 

 

 

 ビスケットらがひたすら前進を行う一方で、後方は若干押され気味となっていた。

「コルベール先生! 炎の壁で敵の侵攻を遅らせられますか!?」

「無理だ! こんな上向きのトンネルで逆さまに火を放てば、立ち上る熱気で我々が蒸し焼きになる! 備え付けの武器で応戦するしかない!」

 コルベールも得物である、ルイズと似た形のボルタスタッフと呼ばれるツールを敵にかざし、その先端からプラズマエネルギーを放ち、敵を迎撃する。

 ルイズと彼もキャルと同じ魔法使いではあるが、マルチツールに武器が備わっているのならそれをフルに駆使する事も厭わない。

 弾幕を張りながらワームの群れを食い止める一同。 しかし敵の数は多く、仲間の死体をも踏み越えてじりじりとシャルロット達殿との距離を埋めていく。

「このっ! しつこいのよ!!」

「はぁ、はぁ……さ、流石にそろそろ息が上がって来たわ……」

 息を切らして応戦するキャル達。その額には玉のような汗がにじんでいる。

 何せトンネルを掘り進めるビスケットらを守りながら戦闘を行わねばならないのだ。 疲労しない訳が無い。

「クッ! これも弾切れだ!」

 シャルロットは残弾が切れたIS用アサルトライフルをバススロットに格納し、ショットガンと左腕部にシールドを展開! 盾で身を守りながら散弾を放ち、面制圧を試みる。

(これの残弾も心許ない……。 スペからの補給が見込めない以上、これの弾が切れたら後は白兵戦しかない!)

 トンネルをもう少し広く掘って貰い、その横から補給物資を投げ込んで貰うことも考えはしたが、脆い地殻を迂闊に広く掘り返して崩落が起きたら目も当てられない。 地上に出るまではあるもので何とか凌ぎきらなければいけない。

 

 そんな中、敵の一匹が弾幕をくぐり抜け、遂にシャルロットに牙を剥いた! 

「シャルロットちゃん!」

 ペコリーヌが叫んだまさにその瞬間、シャルロットの左腕のシールドにワームが噛みついた。

「!! この……!!」

 シャルロットはISの力で壁にぶち当てないように腕を振り回し、食らいついたワームを何とか振り払う。 そしてのけぞってがら空きになったワームの土手っ腹に、先程かじりつかれたシールドの先端を突きつけ――――

 

 

 

「貫けッ!!」

 

 

 

灰色の鱗殻(グレー・スケール)による刺突――――杭打ち機(パイルバンカー)に分類される内蔵武器で、タイタンワームの甲殻を頭部もろとも粉砕! 別名盾殺し(シールド・ピアース)とも呼ばれるそれはトンネル内に豪快にエビミソをぶちまけた後、杭はゆっくりと盾内に収められた。

「やるわねシャルロット!」

「まだまだ武器があったんですな!」

 賛辞の言葉を贈るキャルとコルベール。 一方でシャルロットは敵をいなしながら苦笑いを浮かべた。

「そうも言ってられないかな!? コレ(グレー・スケール)は一撃必殺で連射が効かないからね!」

「おいおい……」

 引きつった笑みはキャルにも伝播した。

「大丈夫、まだ近接専用のナイフも持ってるから! ペコリーヌだってやってるでしょ、白兵戦!?」

「やぶれかぶれ、ですね!☆」

「そうとも言うね!」

 軽口をたたき合いながら、押され気味でも何とか戦意を喪失しないように励まし合う一同。

 しかし、残りの残弾も魔力もいよいよ限界に近づきつつあるのが正直なところだった。 どれくらい掘り進めているのかは後方にいるシャルロット達に把握できておらず、このままでは地上にたどり着く前に敵に押し切られるのも時間の問題だった。

 

「皆! 後どのくらい弾が残ってる!? 魔力の残量は!?」

 

 

 

 

 

 

 

 不意に、前方で穴を掘っているビスケットからの叫ぶような大声が聞こえた。

「そろそろ最後のショットガンの弾が切れそう!」

「私もやばいですね!」

「アタシらも次にでかいの一発撃ったら魔力が切れるわ!」

「このままじゃ厳しいわ! 地上はまだなの!?」

「ビスケット君! 地上まで後何メイル……じゃなかった、何メートルなんだ!?」

 コルベールらの問いかけに、ビスケットは答える。

「10メートルです! ですが、マルチツールの負荷が予想より大きかった! このままじゃオーバーヒートします!」

「そんな!?」

 驚愕の声を上げたのはルイズだった。 皆も目を大きく見開いて動揺を隠せずにいた。

「ならエクソクラフトの装備か何かで、穴を掘り進めることは出来ないの!?」

<このコロッサスには地形操作器はついてません!>

「じゃあどうすんのよ!? ここまで来て脱出は無理なんて許さないわよ!?」

 キャルがたまらずに怒鳴り声を上げた。 危ない賭けなのは承知の上だったが、しかし大なり小なり希望を抱いてここまで来た。

 それが絶望に変わるなど真っ平御免だった。 そんな彼らの思いはビスケットも十分理解しているが、しかし今進行速度を落とさざるを得なくなっているのは事実なのだ。

 

「……キャル、それとルイズ。 単刀直入に聞くよ」

 

 焦りの中、不意に前方からのビスケットが声のトーンを落とした。 それは顔色を窺えずとも、神妙な表情になっていることを想起させるには十分だった。

「2人とも、大きな魔法なら一発分は撃てるんだね?」

「「!」」

 ビスケットからの問いかけに、キャルとルイズは顔を見合わせて無言でうなずいた。

「できるわよ!? それがどうしたっての!?」

「今から斜め上、進行方向めがけて強力な魔法を放って欲しい! トンネルを一気にぶち抜こう!!」

「「はぁ!?」」

 それは突拍子もない提案だった。 キャルとルイズは互いに素っ頓狂な声で問い返してしまう。 周りの皆も目を丸くしていた。

「少なくともキャルの魔法のコントロール力なら、障害物の向こう側にも魔法を発動できるんだよね!? 俺やスペの前の壁に直接魔法陣を発動して、2人でトンネルを一気に開通させて欲しい!!」

「ま、まちなさいよ!! そんなことしたら衝撃でトンネルが崩れちゃうじゃない!! 今まで何の為にルート決めて穴を開けてきたの!?」

「万が一崩れなくたって、爆破の際の衝撃が吹き返してアタシ達全員ぐしゃぐしゃよ!?」

 抗議の声を上げるが、しかしビスケットは「それでも!!」と強引に押し切る。

「もうトンネルを律儀に掘り進める余裕は無い! それに強力な一撃で一気に風穴を開けてさえしまえば、爆風の吹き返しはむしろ減らせるはずだ!! 俺たちも発破の瞬間にエクソクラフトの背後に隠れるし、これの装甲なら吹き返しに耐えられる!! 危険は承知の上だけど、どうか力を貸して欲しい!」

「「……ッ!!」」

 キャルとルイズは周りを見渡した。 ムチャクチャな言い分だが、一緒に聞いていたシャルロット達は、むしろ覚悟が決まっているような面持ちで圧をかけるようなまなざしを送る。 覚悟を決めた女達の気迫に、2人も軽くいらだちを覚えたように歯ぎしりし、やがて彼女らも決意したかのように肩をすくめた。

「どうなっても知らないわよ!?」

「やばいことするんだから、おっ死んでも恨みっこ無しだからね!」

「オルガならこう言うよ!! 勝手に死んだら団長命令でもっかい殺すって!!」

「無茶振りが過ぎますな!!」

「承知の上です!!」

 それは鉄華団の仲間達として時折耳にしていたオルガの命令。 はっきり言えば理不尽この上ないが、仲間達を死なせないというオルガの心意気を感じさせる、そんな熱い言葉だった。

 そして、これらのやりとりをじっと聞いていたスペシャルウィークからの、同じくオルガの魂が乗っかったダメ押しの一声。

 

 

 

「だから止まれません! それが私達鉄華団ですからッ!!」

 

 

 

「止まるんじゃねえぞ」 その一言がキャルとルイズをこれでもかと奮い立たせた。

 

 爆破を決定した瞬間、皆の行動は早かった。 キャル達からの返答をまたずとも、追いつかれる危険を承知で一旦立ち止まる一同。

 

「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ・オス・スーヌ・ウリュ・ル・ラド――――」

 

 ルイズは間髪入れずに魔法の詠唱を開始、キャルもそれに倣い目を閉じて魔力の集中を始める。 

 目標はエクソクラフトのすぐ向こう側、下界を隔てる砂岩の地殻。

 彼女らが詠唱を始めた直後、エクソクラフトの側の壁面が掘削され、ビスケットとスペシャルウィークらが後方に待避し、そして未だ必死の抵抗を続けるシャルロット達に加勢する!

「使って下さいシャルロットさん! 弾薬です!」

「ありがとう!!」

 スペシャルウィークは残り少ない弾薬をシャルロットに渡すと、シャルロットは弾切れを起こしていた数多くの銃器類に、新たな息吹を送っていく。

 隙を見てワームの一匹が飛びかかるも、間髪入れずに振り返りパイルバンカーの一撃! 再び敵を粉砕する!

 そしてその手でアサルトライフルのハンドガードに手を添え、発射!

「2人の邪魔はさせない!!」

 キャルとルイズを除く全員が、ワームの撃退に全力を尽くす!

 

 その一方で、2人の詠唱も最終局面を迎える。

 

「ベオーズス・ユル・スヴェエル・カノ・オシュラ・ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル――――」

 

 全身を迸る魔力の奔流、それを類い希なる集中力で収束――――術者よりも少し離れた、エクソクラフトの向こう側に纏め上げ、それをこじ開けるべき袋小路めがけ――――一気に解き放った!!

 

 

「エクス、プロージョンッ!!!!」

「グリム、バーストッ!!!!」

 

 

 猛烈な地響きと眩い閃光が、脆弱だがしかし分厚い砂岩の地殻に突き刺さる。 それは莫大なエネルギーの塊となって空への蓋を強引にこじ開け、遂には周囲の岩盤をも巻き込んで激しい爆風を巻き上げ、巨大な風穴を開けた!

 全員がエクソクラフトの影に隠れ、吹き返しの衝撃と大きな揺れに耐える。 大半がエクソクラフトが盾になったおかげで直撃を免れたが、爆風は数メートルほど後ろ辺りで合流し、それらは丁度迫り来るワーム達を圧殺しながら地底へと一気に押し返していった。

 激しい振動に歯を食いしばる一同。 洞窟も崩落が始まり、ワーム達が押し寄せてきていた後ろのトンネルが瞬く間に埋まっていく。 長いようで短い地震のさなか生き埋めをも覚悟し、強く顔をしかめ目を閉じるものもいた――――が、それらは揺れの収まりを感じる中で杞憂となった。

 

 

 

 やがて揺れは収まり、しばしの静寂の後で最初に口と目を開いたのはキャルだった。

「……イヤに眩しいじゃない……まだ、魔法の余波が残ってる……の?」

 うっすらと開くまぶたに入り込む強い光に、キャルはまだ夢うつつだった。

「は!?」

 続いて目を開けたルイズが目を丸くし、そんな彼女らに続いてシャルロット達も状況を把握しようと次々と目を開き始め、次に彼女達の眼前にあった光景は想像を絶するものだった。

 

 

 

「……でっかい穴、開けちゃったわね」

 

 

 

 目前に飛び込んだのは数時間ぶりの空だった。 魔法の威力が強すぎたあまり周辺の地面を巻き込み、直径にして30メートル近いすり鉢のような斜面、キャル達のすぐ前を爆心地にクレーターを形成してしまっていのだ。

 

「やれって言っててなんだけど、ここまでとは……」

「威力のある魔法を集中的に放ったせいで、相乗効果でも生み出してしまったの……かな?」

「分かりません、でも」

 

 困惑するビスケットらだが、しかしその声色には確かな隠しきれない喜びの色が滲んでいた。 たった数時間、されど数ヶ月近くも閉じ込められていたような閉塞感からやっと解放された。 その嬉しさが、彼らに勝利の雄叫びを上げさせた!

 

「「「「「「「やったーーーーッ!!!!」」」」」」」

 

「っはは!! やっと外に出られた!!」

「僕達どうなるかって思ったよ!!」

「無事に生きて帰れたご褒美に、今日はごちそうですね!」

「ふふっ! アンタいっつもパーティーしてるわね!」

 地下からの生還を果たし、喜びを分かち合う鉄華団の面々。 閉塞感のある地下からの脱出とワーム達からの追撃を逃れきった嬉しさはひとしおだ。

「――――っぷはぁ!! 機体が壊れるかと思ったよぉ!!」

 そんな中、エクソクラフトの上部ハッチを開け、ため込んだ息を一気に吐き出すように溜飲を下げるみほと、同じく生還に身を震わせる優花里の姿が。

「! みほ、無事で良かった!!」

「全くだよ……あんなに強烈な吹き返しが来るなんて思わなかった」

「流石のコロッサスも圧壊するかと思いましたよ!」

 予想以上の爆風の吹き返しに晒されたエクソクラフトだが、機体を見る限りは煤こけ、足回りに多少のダメージは入っているが、それ以外に目立った損傷は見当たらないようだった。

「ふむ、これくらいなら応急修理で対応できそうだね……イヤしかし不思議だ、機体にバリアのようなものでも実装されているのかな?」

「いえ、そんなテクノロジーは実装していないはずですけど……」

 疑問を呈するコルベールに、ビスケットはインベントリから小さなスプレー缶を取り出した。

「唯一思いつくとしたらこの『ナノラミネート塗料』ぐらいしか……いやしかし」

「! なんと、その塗料に何かヒミツでもあるのですかな!?」

 技術屋の血が騒ぐのか、興味津々と言った様子で食いつくコルベール。 ビスケットの持っている塗料は、かつて自分の世界でのモビルスーツに用いられていた、『ナノラミネートアーマー』を構成する主立った構造物の1つで、エクソクラフトのニコイチ修理の際にも用いた塗料だ。 重たい近接攻撃で直接斬られたり殴られる以外の大体の物理エネルギーと、特にビーム兵器などを拡散、衝撃を吸収することの出来る塗料だ。 無論爆風に対してもある程度の耐性を持っているが、それでもビスケットは腑に落ちない。

「ビスケット殿、その塗料はエイハブウェーブの影響がないとただの塗料ではないのですか?」

「……そうなんだよなぁ」

 理由は優花里が話してくれた。 彼女の言う通り、この塗料がその効果を発揮するのは、モビルスーツの動力源たる『エイハブリアクター』から放たれる波長を受けてこそのもので、肝心のリアクターがそこになければこれはただの薄膜の塗料に過ぎないのだ。  ビスケットもわざわざこの塗料を用いたのには特別な理由もなく、イサリビと共に異世界転移した際に、艦内にこの塗料の備蓄が大量にあった為に補修用として持ち出しただけである。

「つまり、結局の所どうやって機体が破損せずに済んだかは分からないと……」

「……そうなります」

 結局の所、機体が壊れずに済んだ理由は分からないと結論づけた。 予想以上の爆風に晒されて無事だったのは結果オーライだが、もし一歩間違えたらエクソクラフトも破壊され、結局は自分達全員が巻き添えを食っていたかも知れない事実に、ほんの僅かながら戦慄する。

「……今は無事だったことを喜ぼう」

「……だね」

 冷や汗混じりながら、みほはビスケットのフォローに回る。 ある意味彼女達あんこうチームが一番の被害者になりそうな状況であったが、あの場でビスケットの提案に反対するものは当初のキャルとルイズ以外にいなかった事もあり、細かいことは不問にしようと、これ以上口を開かずとも場の空気がそう語っているようだった。

 

「それより、これからどうしますか?」

 気まずい空気の中、口を開いたのはスペシャルウィークだった。

「流石に私達もう戦えませんよ? 物資も色々尽きちゃいましたし」

「そうだね」

 ビスケットがため息混じりに答えた。

「どの道デカい敵に追われて撤退を決めた訳だし、このまま前哨基地に戻って体勢を立て直そう」

「ですね……私もそろそろお腹ペコペコです……」

「集めた食料もなくなっちゃったし、また道中で色んな資材を集めながら……ね?」

 どうやらメンバー全員が同じ考えのようで、先程からいっそ気味が悪い程の一体感があった。 文句なしの満場一致の撤退に、ビスケットはひとまず安堵し、すぐに号令をかけた。

「それじゃあ撤収しよう! 皆、コロッサスに乗り込んで――――」

 

 

 

 

 

――――地震。

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