No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~ 作:Easatoshi
やっとの思いで地上に戻れたビスケット達を襲ったのは、再びの地震であった。
「うわわわッ!?」
「キャルさん危ない!」
バランスを崩して倒れかけるキャルを、咄嗟にスペシャルウィークが抱き抱えた。 しかし、今度はそれだけでは済まなかった。
地震の揺れは収まるどころか、今度は地響きと共に地面が激しく揺れる。
まるで何かが地中を這いずっているかのように、その振動は徐々に大きくなっていく。
「……ま、まさか」
ビスケットの脳裏に、嫌な想像がよぎる。 そう、地底からは脱出して幼生ワームの群れからは逃れる事は出来た。 しかし――――
その原因を作った巨大なタイタンワームはどうなっただろうか。
そしてそれは唐突に訪れた。
轟音。 近場の大きな砂丘を粉砕、吹き飛ばしながら巨大な影が天に突き上げるように現れる。
「!!」
「そ、そんな……!!」
ビスケットらの面持ちが驚愕に歪む。 最大火力のペコリーヌらの攻撃でも怯んだだけで、ビスケット達を文字通り地下へたたき落とした、あの巨大タイタンワームだった。
「コイツは……!!」
「地底に侵入する前に砂漠の向こう側で暴れていたワームか!!」
ルイズとコルベールも、どうやら見覚えがあったようだ。
「コイツのせいで俺達は地下に落とされたんですよ!!」
「!! だからあの時、激しい爆発や地震が起きていたのか――――まずい、来るぞ!!」
タイタンワームが身を振りかぶり、こちらに飛びかかってくるのが見えた。 全員、とっさの判断でその場をジェットパックで飛び去り緊急回避!! 刹那、今し方立っていたところへワームの巨体が突き刺さり、激しく砂が舞い上がった! 横っ飛びのような体勢で飛んだ為か、何名かは回避後に地面に叩き付けられ、派手に砂の上を側転し受け身を取った。
「あんこうチームの皆さん! エクソクラフトに乗って下さい!!」
「任されましたッ!!」
みほの指示を受け、優花里を中心に一斉に素早くエクソフラフトに乗り込み持ち場につく。 直後エクソクラフトは軋む足回りをフル駆動させてスピンターンを決め、再び首をもたげるタイタンワームに数発ビーム砲を打ち込んで気を引く。
<ほらほらぁ!! こっちを見ろおおおおおおおおおおッ!!>
的を目の前にした異常な興奮からか、搭乗するなり早くも彼女らの言うパンツァーハイに身を任せ、拡声器からの勇ましい声かけと共にタイタンワームを挑発する。 挑発に反応したか、タイタンワームは標的をエクソクラフト1台に変更。
前傾姿勢になると今度は地上から砂を巻き上げながら突進を始める!
<よしきた!! かかってこーーーーーい!!!!>
優花里の勇ましい声と共に、エクソクラフトは急速発進! その巨体をものともせずに砂の上を滑走し、突進してくるタイタンワームに真正面から突撃する!
<いっけえええ!!>
衝突寸前で機体の向きを横にずらし回避。 そのまますれ違い様にビーム砲とミサイルを一斉発射!! ビーム砲はタイタンワームの口元に放り込まれ、ミサイルは身体の側面に着弾し爆発する。
しかし……やはりと言うべきか、それだけで倒せるような生易しい相手ではなく、意にも介さない様子で再びエクソクラフトを追跡する。
<やはりこの程度の攻撃では……ならもっと強力なのをお見舞いするまで!>
しかし、それでも食い下がるように優花里は機体を急旋回させ再び突撃! 今度は真正面ではなく側面から攻撃を仕掛ける!
「す、すごい……」
様子を見ていたルイズが思わず言葉を漏らす。 天才的なあんこうチームらの操縦技術に、その場の全員が目を見張っていた。
「おっと! 僕らもみほ達に加勢しなきゃ!!」
「このままみほちゃん達だけに任せ切りじゃやばいですね!」
「ああもう! こうなったらとことん付き合ってやるわよ!!」
シャルロットもISをフル展開、ペコリーヌもティアラの力を全開に、キャルも消耗したマルチツールを再び掲げ、みほらの加勢に走る。
「待ちなさいよ!! アンタ達だけに良い格好はさせないわ!」
「子供を差し置いて大人が逃げる訳にはいきませんな!」
ルイズとコルベールも、負けじと彼女達に加わった!
「プリンセス――――ストラーーーイクッ!!!!」
光線に魔法に実弾が飛び交い、派手に戦闘を繰り広げる鉄華団の仲間達。 そしてルイズにコルベールの援護射撃。
「皆戦っている……私達は……!?」
対してスペシャルウィークとビスケットは出遅れもあり、その中に入っていく事が出来ずにいた。
「……ダメだ、俺達には加勢できる力が無い!!」
「! そんな、何かないんですか!?」
否、行ったところで武器がなくては戦力にもならないだろう。 前者にはフィジカルと、後者には剣技があるが――――いずれもあの巨大な相手には焼け石に水だ。
先程のように補給に徹するやり方を取ろうにも、ワームが暴れ回るせいで資源は荒らされ、金属として回収可能な鉱石も粉砕されて1つ1つ採集するには時間がかかりすぎる。
それだけならまだしも、次々と限界を超えて大技を放っていく仲間達を見るも、肝心のタイタンワームに対しては攻めあぐねている。 やはり巨体過ぎて、まともに攻撃が通っていない。 時折威力のある攻撃を出せるペコリーヌやキャル、そしてルイズらも連携して同時にタイタンワームの顔めがけ魔法攻撃を繰り出すのだが、既に消耗しきっている事情もあって、あまり大したダメージソースになっていないのが現実だった。
「アイツを倒そうと思ったら、あの3人よりも更に威力のある攻撃で倒しきらなきゃならない……でもそんな装備はどこにも!」
「落ちてないんですか!? その材料になりそうな何かが!!」
「俺も考えてるよ!! だけど、アレを倒しきろうなんて思ったら、もうそれこそとんでもない威力の爆弾でもないとどうにもならない!! ――――それこそ」
ビスケットがそこまで言い出そうとした辺りで、焦るスペシャルウィークの脳裏に1つの考えが浮かんだ。
とんでもない威力の爆弾、そのビスケットの言葉に1つの心当たりがあった。
「ビスケットさん、あの人達の攻撃を合わせたのより威力があれば倒しきれるかもしれないんですね!?」
「そんなのがあれば、その辺掘り返してでも見つけるよ「見つかるかもしれません!!」えっ!?」
スペシャルウィークはビスケットに話す。 地下に落ちてみほを探しに行ったその帰り、彼女を背負った状態で幼生ワームに襲われたが、偶然落ちていた可燃物で相手の頭を粉々に吹き飛ばしたその時の事を。 地下に構造物があり、今にして考えればそれは何らかの貯蔵庫だった可能性があるのではないかと。
「凄く都合の良い考えかもしれないですけど、今から探してみませんか!? アレをやっつけられるような、爆薬とかそう言うのを!」
彼女からの突拍子もない提案に、しかしビスケットは反論すること無く頷いた。
今は藁にも縋りたい状況であり、可能性があるならそれに賭けるべきだと踏んだからだ。
「乗った!! ダメ元でもやってみよう!!」
ビスケットはすかさず、スキャナーに高カロリーを発生させる燃料や爆発物を検索条件に入れ、辺り一面を捜索する。
(頼む!! 破れかぶれなのは承知の上なんだ!! だけど、もし本当にそんなものがあるのなら……ッ!!)
慌ただしい中で焦る気持ちを抑えながら、スペシャルウィークと共に周囲をくまなく探る。
それは、最後まで諦めない姿勢がたぐり寄せた幸運であったと言えるだろう。 何故なら――
「ありました!! なんか強力そうな武器が近くの地下に!!」
「本当かい!?」
スペシャルウィークが指し示す方向の地面に、ビスケットは急いでスキャンをかけてみる。
するとそこには確かに、何かの発射装置のような大型の火器とその弾頭のような物が見つかった。 見ればそれはロケットランチャーのようなそれにも見えたが、弾頭を発射するカタパルトのような推進装置にも見えた。 残念ながら形だけでその詳細は分からないが、ビスケットらに希望を持たせるには十分だった。
ビスケットはすぐさま仲間達に無線で指示した。
「皆聞いてくれ!! もう暫くそこでそいつを釘付けにしていて欲しい!! もしかしたら、そいつを倒せるかもしれない!!」
<!!>
<本当!?>
無線機越しにも伝わる動揺の声。 しかしそれは決して絶望という意味ではなく、希望が見えてきた事による喜びと驚きが入り混じったものだ。
「威力のある武器が近くで見つかったんです! 掘り返す時間と、万一の修理の為に少しだけ時間を下さい!!」
<――――分かったわ! 頼むわよスペ!! ビスケット!!>
<そういうことなら是非もないね!! 皆、もう少しの辛抱だよ!!>
キャルとシャルロットも、降って湧いた希望に色めきだちながら即座に承諾してくれた。
確証のない希望にすがる程皆は愚かではないが、しかし切羽詰まった状況では利用できるものは何でもするし、その為なら仲間を全力で信じる事だって厭わない。
その期待に報いるべく、了承を得るなりビスケットはスペシャルウィークと共に見つけた武器を掘り出しにかかった!
「ビスケットさん! ツールの消耗は大丈夫ですか!?」
「冷却は済んでる!! 急いで掘り出そう!!」
二人はマルチツールを地面に向け、地形操作機の波形を放って砂の地面を掘削し始めた。 フル出力での掘削はたちまち周囲の砂を吹き飛ばし、しばらくするとその下から機体本体が姿を現した。
「あった!! これだ!!」
「! 表面がかなり錆びてますね」
その発射機は事前にスキャナで確認した通り、カタパルトのついた大型の発射機だった。 所々塗装が剥げて錆びているものの、軍用と思わしきつや消しの黒が塗られていた事が辛うじて窺える状態だが、幸いにしてフレームの強度やひずみ、発射機構には何ら問題が無い良い状態だった。
そしてその側に落ちているのはこの発射機で打ち出す為の弾頭だろう。 オリーブカラーを基調に黄色の輪を描くラインに先端が赤く塗られ、細い輪で囲まれた小さい尾翼が4つ揃えられた、丸みのあるロケット弾頭。
(問題はこれだ)
ビスケットは発射機とそれを拾い上げ、弾頭の方を手づかみで回しながらスキャンをかけてみる。
(中の状態は使える……か――――――ッ!!!???)
そして凍り付いた。
「ビスケットさん? どうしました、まさか使えないって「な、なんてこった……!!!!」え!?」
スペシャルウィークが心配そうに声をかけるが、ビスケットはわなわなと震えながら恐怖におののいた様子で呟いた。
「まさか、やっぱり朽ちてダメだったんじゃ「違う!! 状態は良い、むしろこれなら確実にアイツを倒せるよ――――だけど」
震え声で告げたそれを聞いたスペシャルウィークが、感極まって発射機とその弾頭をビスケットからふんだくるように手に取った。
「じゃ、じゃあ早速これを皆の元に持って行きましょう! これがあればあの怪物をやっつけられます!! 重くて撃てないなら私がこれを「絶対ダメだッ!!」
それを鬼気迫る表情でビスケットが奪い返す。 有無を言わせない圧にスペシャルウィークは身じろぎした。
「! あ、ご、ごめんなさい!! つい感極まっちゃって……乱暴に引っ張ったら怒り「そうじゃない!! これはスペには絶対撃たせられないんだ!!」
「え?「いいから! スペは何も悪くない!! これは俺の責任で俺が撃つ!! 後でちゃんと説明するから、今は黙って言う事を聞いて、いいね!?」
半ば押し切るように食い気味にビスケットがまくし立てる。 その剣幕に押され、スペシャルウィークはおずおずと頷いた。
言い方がきついのは承知の上だが、全てを理解したビスケットにとってこの武器でワームを撃破するのを、特に彼女にだけは撃たせる事だけはなんとしても阻止しなければならないのだ。
ビスケットは叫んだその勢いで皆の元に駆け戻る。 後ろから「待って下さい!」とスペシャルウィークも慌ててついてくる。
その道中、ビスケットはスペシャルウィークに叫んだ!
「スペ! 君はこの近くの岩場に隠れて、あのワームからできるだけ姿を隠すんだ!」
「!!」
意図を理解しかねているようだったが、先程のビスケットの必死の様子が伝わって来た為か、スペシャルウィークはそれ以上は聞かずに頷いた。
そしてビスケットを追うのをやめ、その近くの岩場の影に身を潜めた。
(よし!)
ビスケットは慌てて皆の元に戻りながら、発射機に曰く付きの弾頭をセットして肩に担ぐ。
息を荒げる事にも気を止めず全力疾走し、遂に暴れ回るタイタンワームと必死に抵抗する仲間達の元へと帰還した。
そして、担いでいたそれの銃口をタイタンワームへ向け、大きく足を開いて発射態勢を取る。
ビスケットは無線を入れ、戦う皆に警告した。
「皆ッ!! 地上に降りて物陰に隠れてくれッ!!」
必死の叫びにも聞こえるそれを言い放った瞬間、仲間達が一斉にビスケットの姿を確認する。
<ビスケット君!?>
<まさか例の武器が見つかったって――――――ッ!!!!!!??????>
ビスケットには理解した、皆がこの武器がなんなのかを理解する、しないに関わらず……一瞬で恐怖に染まったのを肌で感じていた。
IS故にヘルメットで覆われていないシャルロットの表情に至っては、明確に青ざめていた。
<その兵器はッ!!!!>
慌てて戦闘をやめて物陰に待避する一同、シャルロットもできるだけ距離を取ってからISを解除し、みほ達も全力でキャタピラを回転させ、脱兎のように走り去る。 タイタンワームの視線がビスケット一人に注がれ、皆の安全が確認されたと知るや否や、ビスケットもその威圧感と、これから起こる出来事にそれ以上の恐怖を感じながらもワームに相対した。
ワームは首をもたげるように身を退きながら、次に一気に飛びかかる体勢を取る。
ビスケットもそれに呼応してトリガーに指をかけ、発射の準備を整える。
ワームの体勢が飛びかかりに移行したその瞬間、恐怖で顔をひきつらせながらもトリガーを引いた!
弾頭はカタパルトに押し出されるようにして、兵器としては恐ろしく静かに解き放たれた。 放物線を描いて今にも飛びかかるタイタンワームに飛んでいく、そのラグビーボールのような大きさの弾頭はいやにゆっくりと感じられた。
ビスケットは発射直後から発射機を捨てて踵を返し、全力で背を向けて逃走する。
そして、弾頭が口を大きく開けたワームの中に飲み込まれるや否や――――――
それはいかなる攻撃でも怯むだけだったタイタンワームの身体を、あまりにあっけなく炭化、蒸発させ、一部はガラスやダイヤモンドへと作り替えながら莫大な熱量の暴力を撒き散らし、果てしない光と熱の渦に飲み込んだ。
巨大なタイタンワームの上半分は、この世から完全に消滅した。
「うわあああああああああああああああああッ!!!!」
爆風と衝撃にすっころばされるビスケット達鉄華団の悲鳴も、全てを飲み込むようにして――――砂漠のど真ん中にあまりに小さいが、全てを焼き尽くしたキノコ雲が上がった。
激しい閃光と爆風、それらに巻き込まれた鉄華団の面々は、前もって物陰に隠れた事もあって辛うじて無事だった。 ビスケットもスーツの危険防御システムと、咄嗟に逃げて距離を取り背を向けていた事が幸いして、同様に事なきを得た。
「ううっ……敵は、倒したか?」
砂を振り払い、おぼつかない足取りで何とか立ち上がるビスケット。
クレーターの中から立ち上る煙と、未だ勢いの衰えない熱量が凄まじい勢いで吹き荒んでいる中、ビスケットと、彼以外のメンバーの危険防御システムがフル稼働しているのをインジケーターを通して確認した。
「ッ!!?」
スーツに守られていなければ人体を焼き尽くすであろう無慈悲なアナウンスと共に、着弾地点に目をやった全員があまりの光景に絶句した。
特に発射した張本人であるビスケットは、青ざめた顔で呆然と立ち尽くしていた。
(こうなる事は分かっていた……でも……!!)
陽炎に包まれる爆心地の中には、半分を吹き飛ばされ残った部分も炭化して横たわる、タイタンワームの亡骸を確認できた。
それはまさしく、ビスケットが手ずから撃った弾頭による戦果だった。
そのおぞましい光景に全員が呆然とする中、いの一番に待避させたスペシャルウィークが震える足を引きずってやってきた。
「び、ビスケットさん……ど、どうしてなんですか?」
完全に恐怖に引きつった顔でスペシャルウィークはビスケットに尋ねた。
「どうして放射能なんか出てるんですか……一体、私達は何を掘り出しちゃったんですか!?」
「スペ……」
「あれは、一体何だったんですかッ!?」
スペの悲痛な叫びに、ビスケットは沈痛な面持ちではっきりと答えた。
こんなのスペちゃんに撃たせたらイメ損どころじゃ済まないからね……しょうがないね。