No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~ 作:Easatoshi
<そんなことが、あったんですね……>
ビスケットからの報告に対し、ホロスクリーン越しに映るタカキ達は複雑な表情を浮かべていた。
巨大なタイタンワームという危険生物に地下鍾乳洞への墜落。 そして脱出劇からの核発射……。 紆余曲折あってタイタンワームを倒し、前哨基地へと凱旋を果たした頃には既に日が沈みかけていた。
そんな一連の事件の後で束の間の休息を取り定時連絡を迎えた今、ビスケット達降下班とタカキ達イサリビ班の面々が、それぞれに遭遇した出来事を話し合おうと、先にビスケットから地上での戦闘について話をした所、その内容に驚きをもって受け止められた。
「でも、ここまでやったからには地上はもう大丈夫。 あのタイタンワームを倒した後はもう他の個体に襲われることは無くなった。 それに、この人達の協力のお陰もあったしね」
ビスケットは得意げながらも、疲れのにじみ出ているルイズとコルベールに目線をやる。
<そうですか……ルイズさん、コルベール先生。 我々の仲間を助けて頂いて感謝致します>
ありがとうございましたと付け加え、タカキは会釈と共に二人に対しこの上ない感謝の意を述べる。 対するルイズ等も、タカキ達に礼を言う。
「こちらこそ感謝致しますぞ。 人捜しで流浪の旅に出ていた我々を受け入れてくれるというのだから」
「本当に助かるわ。 サイト……私の大切な使い魔が見つからずに、どうして良いか途方に暮れていたから……」
心からの笑顔を浮かべるコルベールとルイズに、タカキもにこやかに返答する。
<お互い様です。 こちらもうちの団長を探していますし、大事な人が見つからない気持ちは分かりますから。 そのサイトって人の捜索も、出来る限りの協力を致しますよ>
「……ありがとう」
ルイズはタカキの返答に、心からの感謝を返した。 そんな中で、タカキの後ろで一緒に話を聞いていたレオポンさんチームのナカジマが口を開く。
「それにしてもヌカランチャーだっけ? 個人携行式の核兵器なんて物騒なモノよくあったというか……」
「あの辺りが兵器や可燃物の貯蔵庫だったって分かったのは、地下を駆け抜けたスペやみほが切っ掛けなんだけどね」
ビスケットは軽く頭に手をおいて語る。
ワーム撃破後、念の為周囲を掘り返して改めて同様の兵器がないか確認してみた所、それはもうおびただしい量の爆薬や燃料、そして兵器が発見された。 いずれも大半が壊れていて機能せず、そんな中でビスケット達がヌカランチャーを発見したのは、スキャナーの優秀さに助けられた側面もあった。
とは言え彼の使ったそれと同様の代物が、壊れて核燃料の漏れた状態の危険な代物も存在した為、可能な限り回収か分解して、今は大半が素材としてストレージに収まっている状態だった。
会話の中でラウラが口を開く。
<いずれにせよ、脅威を取り払えたのは幸いだった……いやしかし、星の表面で一瞬光を感知したが核爆発とは……>
口元に手を当てて思い返すように語る彼女の口ぶりに、どうやらヌカランチャーの一撃は核としては小規模ながら、ISのハイパーセンサーなら軌道上からでも確認出来てしまうほどの代物だったようだ。
「宇宙からも見えてたんだ……」
<幾ばくか休憩を挟みながらだが、イサリビ周辺の見回りもやっていたからな……>
「……何度も言うけど、そんな核爆発を間近で見てたなんて、僕達よく生還出来たね」
「うん。 確かにアレならあのタイタンワームだって一撃で倒せるけど、全身の毛穴開いたよね……」
シャルロットとみほが苦笑いを浮かべて言うと、ビスケットも同様のリアクションを取る。 当然だろう。
あの状況下でビスケットが何を持ち出してきたのかを、二人の特殊な学校事情から来る知識と、ISのハイパーセンサーとエクソクラフトのアラート機能でハッキリと理解出来てしまったのだから。
「シャルロットちゃんの顔色が凍り付いたのを見ていやな予感がしたんですが、まあ実際やばいですね」
「全くよ。 あんな凶悪な兵器だって分かってたらもっと遠くに逃げてたかも……」
同様に乾いた笑いを浮かべるペコリーヌ等に核兵器の知識などは無い、しかしほんの一瞬シャルロット等が迷わずに逃げ出したのと、戦いの記憶からの『悪寒』による正しい判断で、瞬時にその脅威を理解していた。
そんな中、同様にタカキ等と一緒に話を聞いていたテイオーが口を開いた。
<……それで、スペちゃんショックを受けちゃったんだよね……?>
「! ……う、うん」
ビスケット等一同は背後を振り返る。 互いのメンバーが一堂に会しているこの場において、彼女はそこにいなかった。 精神的摩耗から前哨基地の寝室において一人先に寝かされている。 ビスケットと共に自分が掘り出した兵器が危険な代物だったことに酷く動揺し、ついには基地への帰還後に堰を切ったように熱を出してしまったのだ。
元々ウマ娘は闘争心に溢れ、加えて彼女は実家が農家や牧畜も経験しているだけあって、害獣駆除を通した命のやりとりについても何らかの心得はある。
その一方でやはり本質的には心優しい少女であり、強い意志があると言っても主に発揮されるのはレースという競技での話だ。 文字通り命が飛びかねない実戦のような血生臭いやりとりに耐性があるかは別の話だ。
ましてや地下でも生き残る為に、爆発物を投げつけ中身を飛び散らせた爆死するワームも見ているし、地上に出てからは今度はそれが核爆発ときた。 全てが終わった後でビスケットを問い詰めた件といい、この時点で心身の摩耗は限界に達しつつあっただろう事は想像に難くない。
「全ての責任を背負ったつもりだったけど、甘かった……スペには気の毒なことをしてしまった」
ビスケットは目頭を押さえて反省していた。 そこにテイオーが口を開く。
<……大丈夫。 今はショックが大きすぎて受け入れ切れてないけど、スペちゃんはきっと立ち直るよ>
「テイオー」
心底ばつの悪そうなビスケットに対し、トウカイテイオーはニシシと笑って見せた。
<スペちゃんだって仲間を助けたい一心で皆の力になろうって、一緒になって武器になりそうなモノを自分の意思で掘り返したんだよ? そりゃ、現実を目の当たりにして辛い気持ちにはなってるけど……それでビスケット達が助かった選択自体を後悔はしていないはずだよ?>
テイオーはそう言うと、一呼吸置いてビスケットに更に告げる。
<だからスペちゃんに対して出来ることは責任の話じゃ無くて、助けてくれてありがとうって感謝することじゃないかなってボクは思うよ? ……後でスペちゃんを励ましてあげてね?>
「そうだね。 その通りだ」
テイオーの言葉に、ビスケットは頷いた。
全くもってその通りだ。 スペシャルウィークは起きてしまった出来事に恐れおののき、結果として相手の命を奪う選択に加担したことを悔やんでいる。 全ては自分達を救いたい、その一心で。
ならばやるべきことはありのままに彼女を受け入れ、ただ居場所になってやるべきではないか。
「……君の仲間は良い子達ばかりだ」
話に聞き入っていたコルベールがしみじみと口を開く。
「ええ、鉄華団は僕達の自慢の家族ですから」
「そんな家族に、我々もなれますかな?」
「貴方達が望むのなら、是非」
ビスケットは答えるとコルベールに右手を差し出した。 握手を求められたことに少し驚きながらも、コルベールはその手を取り、二人は互いに笑いあった。 それはこの出会いが決して悪いものでは無いという証左であった。
<……そうだ! 皆に言っておかなきゃいけないことあったんだ!!>
突如、何かを思い出したようにテイオーがスーツのインベントリから何かを取り出した。
<コレ! ビスケットには何か分かるよね?>
手のひらサイズに収まるそれは、何かの小さなペレットだった。 ビスケットは過去の取引との記憶の中に、それに対して見覚えがあった。
「ナノマシンクラスターのペレットじゃないか? それがどうしたんだい?」
<倒したエイリアンの死骸を精製機に放り込んだら、出来てしまったんです>
テイオーの取り出したナノマシンを、タカキが補足した。 ビスケット等は目を丸くする。
「エイリアンって、どういうこと?」
<実は――――>
タカキらは告げた。 船の設備が破損したせいで資材をコンテナに保管できなくなり、空いた部屋を仮倉庫として利用していた。 そんな部屋に置かれた荷物の中に、マクギリスらのいたコロニー内で売りそびれた幼生コアが孵化、資材を荒らし回った挙げ句艦内を徘徊し、幸いにも早期に駆除できた事をタカキの口から聞かされる。 コレにはビスケットらも驚愕した。
「タカキ達も大変な目に遭っていたんだ……!!」
<それで死骸を処理して出来たのがこのナノマシン……でも、生物の遺骸から直接精製出来るなんて俺も聞いた事がありません>
タカキはナカジマに目線をやるも、彼女もまた理解が追いつかないと首を横に振った。
「エイリアンの……身体を分解して出来た……ねぇ?」
訝しがるビスケットだが、実際にナノマシンの精製に成功しているのだから否定しようもない。
広く第二の通貨代わりに普及しているこのナノマシンだが、その実態についてビスケット等は実は何も分かっていないのが現状だ。 テクノロジーの強化モジュールという便利な物に取引出来る観点から、特に考えずに収集に勤めていたが、いよいよもって謎が深まってきていた。
「ごめん、正直言って分からないや……スペースアノマリーにいたキリトみたいな専門家なら理解出来そうだけど」
「む、君達はキリト君の知り合いなのか?」
コルベールが若干驚いたような反応を示すと、ビスケットもそれに応じる。
「ええ、つい最近施設の主のナーダってコーバックスの人にスペースアノマリーに誘われて、そこで知り合った技術畑の人なんです」
<そう言えば、キリトさんも知り合いに科学技術に聡い人がいるって言ってました。 桃色の髪の女の子を連れているとも……貴方のことだったんですね?>
タカキにも思い当たる節はあったようだ。 スペースアノマリーに初めて訪れたあの時、キリトに連れられていたのはオルガとビスケット、そしてタカキの3人だったのだから。
質問に対しコルベールは頭を垂れて肯定の意を示すとともに、ビスケット等に対し提案する。
「もし良ければそのナノマシンを私に預けてくれるのなら、彼の元に持って行った上で共に解析してみたいのだが、差し支えはないだろうか?」
「本当ですか!」
コルベールはにべもなく答えた。
「私とてこの世界では未熟も未熟だが、科学に惹かれた者としてはテクノロジーの秘密を解き明かしてみたいものなのだ。 それよりも、貴重なナノマシンだが本当に良いのかい?」
「正直、得体の知れないまま使い続けるのは怖いというか……あと勿体ないって言うのもありまして」
「承知した。 このコルベール、良い結果を皆にもたらすと約束いたしましょう!」
<分かった! このナノマシンは使わずに取っておくもんね!>
テイオーは嬉々として返事をすると、手のひらに収まる小さなナノマシンクラスターのペレットをインベントリへと収納した。
<あ、そうだビスケットさん。 もし良ければ、食料の方をできるだけ早く融通して貰えないでしょうか?>
<倉庫の食料がバケモノに食べられちゃってすっからかんなんだよー>
テイオーはお腹を押さえながら、空腹である事をビスケットらに切実に伝えた。
「……ペコリーヌ、帰ってきたばかりで済まないけど」
「わかりました! 幸い食料は地上で調達できますから、すぐにでも調理して宇宙にお届けしますよ!!」
「うん、ありがとう。 それじゃ、すべき報告はこんな所かな?」
<ええ、よろしくお願いします。 こちらも資材が届き次第、すぐに作業を再開しますから――――>
「くれぐれも無理はしないようにね……それじゃあ」
そう言って、ビスケットはイサリビとの通信を終了した。 ようやく訪れた束の間の安息に、皆は深くため息をつく。
しかし、休憩するにはまだ早い。 やらなければならない一仕事が各々にはあるのだから。
「それじゃ、私は早速イサリビにいる皆の為に食材を調理してきますね!☆」
「一人じゃ流石にしんどいでしょ? アタシも手伝うわ」
「我々はスペシャルウィーク君の看病をしてこよう」
「メンタルケアも必要かもしれないですからね……先生、お手伝いします」
「軌道上に打ち上げる資材搬出用のロケットも準備しなきゃ……」
「装備のメンテも必要ですからね……ビスケット殿も指揮の連続で疲れたでしょう。 先に休んでいて下さい」
そう言い残して、皆はそれぞれの然るべき持ち場へと散っていった。 一休みを迎えるには、しばしの時間がかかりそうである。
会議室には、シャルロットとビスケットだけが残された。
「僕もISのメンテをしなくちゃ……」
「そうだね……休みはくれたけど、装備にガタが来てるから修理しなくちゃな……」
「ビスケットもお疲れ様」
はにかむシャルロットだが、一方でビスケットは会議室の側面……大きなガラス窓を通して夜空を眺め黄昏れている。 あの騒々しかった1日が嘘のように、砂だらけの世界に浮かぶ星々は静寂に包まれていた。
その光景を見ていると、つい先ほどまで戦っていたことが夢のようだ。
「……今日1日」
ふと、ビスケットが呟いた。
「今日1日、オルガ無しに現場で指揮を執った」
「うん。 ビスケットやみほは凄く頑張ってた。 特にビスケットが皆をまとめてくれなかったら、僕達はこうして生きて帰れなかった」
「本当にそうなのかな?」
ビスケットの疑問に、シャルロットは首をかしげた。
「結局は行き当たりばったりだった。 撤退や洞窟からの脱出といい、良かれと思って判断した指示を翻すようなことが度々あった」
「――――それは、状況がそれだけめまぐるしく変わっていたから「オルガなら」
ビスケットは、少しだけ口調を強めていった。
「オルガなら、もっと上手くやれていたかもしれない。 こんなにも皆を振り回す事無く、もっと安全に皆を導いていたんじゃないかって思うんだ」
「結果論だよビスケット」
シャルロットはそう言ってフォローするも、ビスケットは悔しそうに拳を握りしめた。
「危ない橋ばかり渡ってしまうのは自分も同じだった。 オルガがいるからこそ、落ち着いて慎重に判断する事が出来たんだ……僕は指揮官として未熟だ、皆のリーダーにふさわしくない。 こんな自分が皆を引っ張っていいのかなって思うんだ」
そう言って、ビスケットは自嘲気味に笑った。しかし、シャルロットはそんな彼の肩に手を置き、優しく微笑みかけた。
「……そうだね、ビスケット一人だと荷が重いかもしれない」
「うん……「だからこそ、だよ?」
シャルロットの一言に、ビスケットは思わず顔を上げた。彼女はそのままビスケットに語りかける。
「間違いは誰だってあるし、それはオルガだってそうだったよね。 だから、皆で力を合わせる。 ビスケット一人が全てを決めなくちゃいけない訳じゃないんだ。 皆で話し合って、皆で考えて、皆で実行する。 それがこれからの鉄華団のやり方でしょ?」
その言葉に、ビスケットはハッとした表情を浮かべた。 それはかつて自分がオルガにそうするべきだと話し合った、新しい鉄華団の在り方ではなかったか。
ビスケットは知らず知らずのうちに、オルガがいなくなった分の隙間を一人で抱え込みすぎていたかもしれない。
「うん、その通りだ……ありがとうシャルロット」
ビスケットは大きく深呼吸すると、改めてシャルロットに頭を下げた。 さっきの落ち込んだスペシャルウィークに対するテイオーといい、頼れる仲間はこんなにもいるものだとビスケットは再確認させられた。
シャルロットはクスッと笑うと、会議室の扉へと歩いていく。
「だから、これからも皆をいっぱい頼ってね? そうじゃなきゃ、本当に決めなきゃいけない時に落ち着いて考えられなくなっちゃうんだから」
「うん。 少し頭を冷やすとするよ」
そう言って、シャルロットが自動扉を潜って部屋の外へと去って行くのを見送った後、ビスケットは再び窓の外へと向き合った。
夜空は相変わらず静寂に包まれ、煌めく星々が自分達を見守るようにただただ輝いている。
ビスケットはしばらくそれを眺めた後、目を閉じてここにはいない団長の姿に思いを馳せた。
(オルガ、君が異世界で出会った仲間は本当に頼れる素晴らしい人達ばかりだ……皆が皆、居場所を守っていこうと力を合わせようとしている)
ビスケットは心の中で呟く。 それは、かつてがむしゃらに前に突き進んできた自分達と比べて、より理想に一歩近づけたような気がして、ビスケットは嬉しさと同時に誇らしさを感じていた。
今の鉄華団は、オルガが異世界で得た経験を元に、新しい形で生まれ変わろうとしている。
それは決して悪いことでは無い。むしろ良いことだろう。
しかしそれだけにビスケットは、オルガだけがここにいない事実に寂しさを覚えずにはいられなかった。
(僕達はいつでも君を待っている。 シャルロットやみほ達のような素敵な女の子だって、君をいつでも思っている)
そう、今この瞬間にも。
ビスケット君に全てを一任していない。-47アグニカポイント
でも皆で力を合わせて状況を打破したので、アグニカ度自体は高くないけど+143000アグニカポイント
追伸:次回からいよいよ1年越しにオルガ編が再始動!
……ただし、これまでの異世界オルガの中でも最悪な目に遭いますが。