No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~ 作:Easatoshi
第48話
IS学園が高い権限を持つ教職員のみ立ち入りを許される地下50メートルに存在する、極秘の研究室。
あらゆる先進技術を解析が出来る、大小様々な機材やそれ用のディスプレイが所狭しと配置されたこの部屋に、あろう事か一夏達がそこにいた。
建前上いち生徒に過ぎない彼らがこの場所に居られるのは、この部屋に立ち入りを許可された職員である千冬による手引き。 そしてそれらを許可するに至った大きな要因でもある、一夏の腕の中に抱え込まれた、くぼみの中に赤く丸いランプの添えつけられた、黒光りする金属製の重々しい球体がそこにあったからである。
「束さん曰く……これを使えば、オルガ達を見つけられるかもしれない、か」
一夏はそう呟きながら、その球体―――通称『アトラスデバイス』と呼ばれるそれを見つめる。
今朝方において束が学生寮の庭に突き刺さるように送りつけてきたニンジン型の輸送用小型ロケット。 いの一番に駆けつけた千冬の手によってその中から取り出された、ファンシーな輸送機とは裏腹に無機質な球体は異質さを醸し出していた。
「……あの人らしくない造形だな」
一夏によって抱きかかえられたそれを見て呟くのは、束の実妹にして一夏の幼馴染みの少女である『篠ノ之箒』。 ポニーテールの凜とした面持ちの剣道少女だ。
姉である束とは決して打ち解けているとは言えない間柄ではあるが、それでも実の妹として目の前にある機械が明らかに姉らしくない異物であると理解出来るくらいには、彼女も束のセンスがいかほどかを理解出来るほどには付き合いがあるのだ。
そんな彼女の言葉を受けて、一夏もまた腕の中にあるアトラスデバイスに対して同じ感想を持っている。
「それだけに、なんて言うか……その。 オルガが必要だからってこんな物を作って寄越してくるぐらいには」
「ただ事では無いって感じがしますわね」
「全くよ。 アタシ等のことなんか気にも留めない人が、オルガの事でこんな物を送りつけてくるんだから……どういう風の吹き回しかしらね」
それは、彼らの側にいたもう2人の少女。 金髪ロールの白人である『セシリア・オルコット』と、ツインテールの快活なチャイニーズ少女にしてセカンド幼馴染『凰鈴音』も、同じく怪訝な表情を浮かべながら呟いていた。
彼女たちは箒や一夏と違い束とはそれほど接点がある訳では無いもの、束の技術力の高さと裏腹にファンシーな趣味をもっていることは理解しているからこその言葉であった。
「お前達、私語はそのくらいにして機械をセットしろ」
そんな彼女らのやりとりを一夏の実姉にして担任でもある千冬が注意する中、一夏達は言われた通りにアトラスデバイスを起動させるべく、千冬に指示された通り中央の大型解析機にデバイスを設置する。
そして、千冬が懐からマニュアルを取り出し一夏に所定のケーブルを接続するよう指示する。 これらも束が一緒に送りつけたものだ。
一夏は指示に従い全てのケーブルをデバイスと解析機に接続すると、千冬の方を振り返って準備が完了した旨を伝える。
すると千冬は無言のまま小さく首肯してコンソールを操作して解析機の電源を入れようと――――したところで改めて伝える。
「もう一度だけ言う。 これは極秘事項な上に、一度機械を作動させたらおいそれと電源を切ることは許されない。 理由は分かるな?」
「これは単純に電波のやりとりや向こう側の映像を投映したりするものではない」
「薄皮一枚に見立てた空間の壁を、意図的に突き破るようにして接続する……でしたわね?」
その問い掛けに箒とセシリアが答えると、千冬は肯定した。
「その通りだ。 束の言うことが全て正しければ、だが」
「正しければ……って、何かの間違いがある可能性もあるんですか?」
「正直に言うとそうだ。 作ったあいつ自身も全てを理解しきれている訳では無いらしい」
鈴が疑問を呈すると、千冬も少しばかり返答に困ったように歯切れが悪く言った。
「つまりそれだけの代物と言う訳だ。 正直この案件に保護者として生徒達を絡ませたくは無い、が。 何せこれはオルガ達に関わる案件だ。 無関係ではいられない……」
「覚悟は出来てるよ。 千冬姉」
決心の改まった態度を見せる一夏に、千冬もそれ以上は何も言わなかった。
「……後から更識姉妹もここに来る。 一夏、機械から離れろ。 電源を入れるぞ」
一夏は黙って指示に従い、大型解析機から降りて安全と思わしき距離を取る。 それらを見届けた千冬はコンソールを操作し、いよいよアトラスデバイスに電力が供給され、起動される。
直後、アトラスデバイスの赤いレンズが発光し、同時に解析機にも次々と通電ランプが灯り始める。
淡々と起動シーケンスが行使されるその光景に一夏達が息を飲む中、ふとアトラスデバイスのものと思わしき内蔵スピーカーから、女性的だが無機質な音声が聞こえてきた。
「……こちら側の機械のプログラムを書き換えている……!?」
千冬は目を丸くしていた。 この機械はトロイの木馬などが仕込まれている可能性の高い、それこそ先の学園を襲撃した無人機に対しても、極めて高い安全性と秘匿性を保ったまま解析を実行出来るほどの機械なのだが、このアトラスデバイスはお構いなしにプログラムの中身を逆に解析し取り込み始めたのだ。
「これ、大丈夫なのか?」
「分からん……あいつを信じるしかない」
全てが手探りで先例の無い事項に取り組もうとしているのだ。 不安げな一夏の問いかけにも千冬はただ成り行きを見守るしか無い。
機械から発せられる稼働音が徐々に音量を上げていくとともに、熱量も相応に発するようになっていく。 端子接続部からはスパークが飛び、尋常で無い処理が行われていることが一夏達の目にも理解出来た。
直後、アトラスデバイスの直ぐ上の空間にノイズのようなものが走った事を、この場にいた全員が感じ取った。 咄嗟に全員が腕で頭部を庇い、専用機持ちは瞬時にISを部分展開したりして万一に備えた。
それはまるで、言うなれば空間にあるべきで無い物が現れたかのような違和感だった。 それら空間のノイズは次第に大きくなり、やがてはISのインターフェースにあるような立体式のウィンドウ、とは似ても似つかない……時空の裂け目のような穴が出現した。
「開いたか!?」
千冬は叫ぶように言葉を発した。 その穴の向こうは砂嵐のようなものに包まれていたが、次第にその『映像』はクリアになっていき、やがては鮮明に映し出される。
「――――あれはッ!?」
そこに映っていたのは、所々に赤い光の走った無機質なオブジェに包まれた黒一色の空間と、そこに倒れている赤い宇宙服を着た何者か。 両腕と両脚、左肩には斜めに赤くラインが引かれた大型のショルダーガードが備えられ、そしてバックパックといずれも見覚えのある白い装甲で包まれており、特に目を引いたのはバックパックに刻まれたあの赤い花のようなエンブレム。
「何よあれ……
「じゃあ、あそこに倒れているのは……!!」
慌てて一夏が穴の先に飛び込もうと身を乗り出したが、それを千冬が腕を横に差し出し制した。
「何してるんだよ!! 早くアイツを助けないと「馬鹿者、先走るな!!」!?」
千冬は一夏を一喝して制すると、どこからかおもむろに何かを摘まんで一夏達に見せてみた。 金属片のようだが、そこそこのサイズのボルトのようだった。
「よく見ておけ」
そう言って千冬はボルトを開かれた穴に投げ込んだ。 するとボルトはプラズマにでも触れたように高熱を発しながら空間に弾かれ、地面へと着く事無くそのまま燃え尽きて消えてしまった。
「な……!!」
「ボルトが燃え尽きてしまいましたわ!?」
「『アノマリー』だ。空間の繋がりが不安定になると発生する怪現象……らしい」
束の受け売りだがと一言を交え、千冬はそれ以上何も言わなかった。 しかし、一夏達はそれで充分に理解出来た。
もしあのまま足を踏み入れていたら、恐らくはISを展開していようがタダでは済まなかっただろうと肌で理解出来てしまったのだから。 見えているのに触れる事も出来ないのかと一同は落胆するが、しかし千冬は言った。
「幸い、と言って良いかは分からんが……向こう側とやりとりをする為の無線システムも機械に実装はされている。 不安定な接続でどこまで通じるかは分からんが、致し方あるまい」
「そんな……」
一夏は思わず言葉を漏らす。
自分達が今いる世界と、おそらくはあの謎の存在がいるであろう空間は、どうやら本来ならば干渉する事すら不可能なほど隔絶された場所のようで、こちらからは何も出来ず、あちらもこちらの存在を認識する事は叶わない。
千冬が言う通信というのも、恐らくは検証も不十分な中で実装した心許ない代物だろう。 一夏は落胆したような表情を見せるがそれは千冬も同じようで、仏頂面なまま無線の接続を確立しようとコンソールを操作し続けていた。
そんな中、ふと空間の向こう側で……宇宙服を着た何者かに動きがあったように見えた。
天も地もない白一色の頭の中に残響が響き渡る……。
大柄で屈強な四肢を持った、様々な種類の獣の顔を持つ獣人。 あれはヴァイキーン。 この宇宙で遍く存在する3種族のうちの1つだ。
奴らは腕を突き上げ雄叫びを上げ、その前に横たわるは同族と獣の死骸……センチネルと思わしき残骸。 彼らは獰猛で勇敢な戦士である事で名を馳せている。
そんな奴らの一人がこちらに向かって歩いて、そして手を差し出す。
トラベラーよ、我らが英知受け入れるか? そう言わんばかりの表情だった。
俺は震える手でそいつの手を取ると――――――
「……ここは?」
思い瞼を開けたオルガの目に飛び込んだのは、赤い光の反射する無機質な黒一式の空間。
それは冷たくもどことなく厳かで、ある種神聖な雰囲気すら感じさせる場所であった。 オルガはこの場所になんとなくの覚えがあった。
「アトラスステーション、か?」
それは以前まどろみのなかで、三日月と再会を果たす事になった不思議な空間のことだ。
あの時は訳も分からず気が付いたらここにいたのだが、それは今も変わらないようだ。
「俺はどうしてここに……そうだ、あの時!!」
何故ここにいるのかは分からないものの、気を失う直前の瞬間はハッキリと思い出す事が出来た。
逃げるイサリビの為に囮になろうと、ケリオンで単身センチネルの戦艦と迎撃機の群れに突貫したあの直後。
ただの作業用シャトルを改装しただけなのに加え、既に機体は半壊状態でスラスターも限界を迎えていたケリオンでは、なすすべ無くセンチネル達に取り囲まれ集中砲火を受けていた。
それでも少しでも時間を稼ぐために、自らを犠牲にしてでも皆を守る為に戦うも奮戦虚しく、オルガが搭乗するケリオンはいよいよ撃破される秒読み段階に入った。
そんな時だった。 オルガらの戦場に突如として、空間に小さな暗闇の穴が開いたのは。
「……ブラックホールに飲まれたんだ」
その穴から発せられる重力により機体ごと引き寄せられ、一切の操作も受け付けずなすすべ無く、それは周囲にいたセンチネルの迎撃機をも飲み込んでいった。
強大な重力によって空間に穴が空いたように見えるその現象によって、いよいよオルガは機体もろともかのクジャン公のようにペシャンコにされてしまうことを覚悟した。
しかし、オルガの乗っていたケリオンは潰される訳でもなく、ハイパードライブを起動した時のような空間の裂け目に飲み込まれ――――そこで気を失ってしまったのだ。
「この様子だと俺はどうも別の場所に飛ばされちまったみてぇだな……」
目覚めたばかりで軽い頭痛がする。 オルガは額を右手で押さえようとして――――そして気がついた。
「右手が……!!」
オルガの右腕が、左腕同様に白い獅電の装甲に包まれていることに気づいた。 気になって全身を見渡すと、それは両足にも及んでいることに気がついた。
「おいおい……俺のエクソスーツが段々モビルスーツに近づいてるじゃねぇか」
それはまるでガンダムフレームを纏っているかのような姿であり、また同時に、それそのものでもあった。
かつてオルガが鉄華団で保有していたシンボルとしてのMS。 それが人呼んで王の椅子、獅電の鎧である。
(目覚める直前にみたあのヴァイキーンの夢が関係してるのか……それとも……?)
オルガは背後を振り返る。 そこにあったのは何らかのコンソールと巨大な台座。 三日月と再会を果たしたそこと同じ作りなら、脈動するような巨大な赤い球体があるはずだが……。
「……何もねぇ」
そこにはただ無機質な壁と床が広がっているだけだった。 今もそうだが、あの時は訳も分からないままここに迷い込み、そして唐突にアトラスプロトコルとやらで元の場所に追い返された。 同じものがあるのなら帰される前に何かを調べる切っ掛けになると思ったが、当てが外れた。
(ま、何もねぇってんなら、この場に留まってりゃ元の星系に帰してくれんだろ……)
オルガは階段に座り込み、しばし佇んだ。 ブラックホールに飲み込まれた瞬間、センチネルも一緒に飲み込まれたが奴らはこの場にはいない。 おそらくこの感じなら元に場所に送り返される時も、今の自分とは違う座標に送り届けられるかもしれないと言う楽観があった。 そうなればいち早くステーションに逃げ込み、マクギリスから預かった偽造パスポートでもぶち込んで意図しない犯罪歴を消してしまえばいいと、そう思っていた。
じっとおとなしく待っているオルガだが、一方で妙に落ち着かない気分だった。
(しかしなんだ? 何もねぇ筈のこの空間だってのに、背後から常に覗かれてるような感じがするな)
オルガはこの何も無いはずの空間にも関わらず、ふと『誰か』に行動を見られているような感覚があった。 それは以前宇宙ステーションで行きずりのゲックをつかまえた時に垣間見たような、赤い目をした何かに覗かれた時のような……ものではない、不特定多数の何かだ。 誰かが監視カメラ越しに覗いているような、そんな背中をくすぐられるような視線だった。
そんな折、オルガの無線機に何者かの無線をキャッチする。 オルガは不審に感じながらも無線機のスイッチを入れてみたが。
「アンタ何モンだ? 俺の通信機にいきなりかけてきてどういうつもりなんだ?」
<- ttzzkkkkztz - - kkztztzkkz ->
「……なんだこりゃ?」
ノイズだらけで全く聞き取ることも出来なかったので通信を打ち切った。
しかし、またも同じような通信がかかってくる。 オルガはため息をつきながらももう一度通信機のスイッチを入れてみたが、ノイズが酷くまともなやりとりは望めなかった。 そして、これらは何度か繰り返された後、しびれを切らしたオルガはとうとう相手をするのを止めてしまう。
「何なんだよ一体……」
独りごちるオルガ。 いきなり訳も分からずにこの場所に放り出され、意味の分からないノイズだらけの通信に困惑させられて辟易を禁じ得なかった。
待てどもオルガを送り返したあの謎の現象は発生せず、おかしいと思いオルガは周囲を見渡してみる。
すると少し離れた場所に、オルガの乗ってきたUSGケリオンが傷だらけのまま鎮座していた。 それは乗降口のハッチが開かれた状態のまま、さながら乗るべき主人を待ち構えているかのような佇まいであった。
「……自分で乗って帰れって事か?」
当てが外れたと考えたオルガはため息をつきながら立ち上がり、ケリオンに向かって歩みを進める。 両足にまで装甲がついたことで、脚を動かす度に重厚感のある足音と機械の駆動する音が鳴り響く。 心なしか見た目の割には足下が軽く感じられ、どうやらスーツにはマッチョスーツのような倍力効果があるらしいと結論づけた。
オルガにしても、こんな不気味な気分のままこの場には留まりたくはなかった。 ケリオンの開けっぱなしのハッチから内部に乗り込むと、変わらず散らかった運転席が目に入る。 操縦席に座って機体を起動させると、やはりセンチネルの襲撃を受けた時の状態なまま、至る所にダメージを受けている警告が顕わになった。
オルガはため息をついてそれを無視しつつ操縦桿を握ると、ケリオンは離陸時の自動運転モードに移行したのか、独りでに浮き上がると施設の出口と思わしき、先んじてハッチを開放させる出入り口に向かって飛び始めた。
(ここが先ずどこなのかハッキリさせねぇとな……)
赤々とした光に包まれた入退場口を通り抜け、遂に宇宙へと飛び出した。 その宇宙空間は変わらず、見渡す限りの闇に包まれていた。
しかしその漆黒の闇の中に、無数の星々が輝いているのが見える。
地球からは肉眼で見ることが出来ない星座の光がはっきりと見え、それはまさに夜空に浮かぶ星の海そのもののように思えた。
「かなりの距離を飛んじまったみたいだな……」
オルガはケリオンのスクリーンに投影された情報を見て、ハイパードライブによるワープを幾度となく繰り返し、それでも長い時間をかけてようやくたどり着ける程の距離を自身が飛ばされていたことに、驚きを隠せない様子だった。 そして……。
「この星系……発見者の名前……まさか――――!!」
星系の情報の詳細を集めている最中、突如として機内に警告音が鳴り響く。 これは襲撃者の存在を検知するレーダーの反応で、どうやら敵はこちらの位置を正確に把握しているようであった。
機体のダメージが著しい状況ではまともに戦えない! オルガは即座に回避行動を取り、レーダーに表示される敵の反応に注視しつつパルスエンジンを起動。
目についた最も近い惑星へと航路を取ると亜光速移動を開始。 めまぐるしい速度で目前に現れたアステロイド帯を突っ切り、惑星が近づいてくる――――そしてそんなUSGケリオンに対しまるで流星の如く、猛スピードで接近してくる敵機の反応が確認できた。 コレはセンチネルではなく、どうやら海賊船の反応のようだ。
「クソッ!! 振り切れねぇ!!」
敵機からの妨害電波に亜光速航行は強制的に打ち切られ、USGケリオンは惑星付近の小惑星帯の中で強制停止させられる。
オルガは毒づきながら。この次に来るであろうケリオンへの攻撃を予測すると、空間を裂いてその曰く付きの相手が2機程出現した。
相手の機体の土手っ腹には、これ見よがしに髑髏のマークが描かれていた。
<ウガァ!! そこの民間機! 金目のものを置いていけぇ!!>
割り込むように現れた通信はヴァイキーンからのものであった。 厳つい見た目に違わず鋭い目つきを向けるその獣人の姿は、幾度となく蛮行を繰り返したならず者であることが窺える。
またもや厄介な連中が現れたとオルガは舌打ちすると同時に、内心驚愕していた。
(奴の言葉が分かる!?)
現れた海賊はこちらの言語を知っている『自由の声』の手合いではなく、翻訳機のようなモノを持っているような素振りは見当たらない。 当たり前のように相手の言っている言葉が理解できた事に一瞬反応が遅れたが、オルガはヴァイキーン語を理解できるようになっていた事をこの瞬間に理解する。 おそらくは、気を失っている時にみたあの奇妙な夢の影響か。
<ゲコゲコッ!! 今すぐに服従しなければ命は無いぞ!>
<jfdi8wjdwaijkokof!! skok0okt9rktgrk0k0,214!!>
オルガがそんな事を考え込んでいる間に、仲間と思わしき爬虫人のゲックや機械人のコーバックスも現れる。 コーバックスの言語のみを理解できず、自身が本当にヴァイキーン語を理解できるようになったのだと実感した。 それはさておき、ヴァイキーンは威嚇するように物資を明け渡すように、オルガの乗るケリオンに武装を向けて言い放つ。
「悪いな!! こっちは命からがら逃げてきたんで渡せるものも何もないんだわ!!」
それは事実だった。 オルガ達が先ほどまでセンチネルの襲撃を受け、荷物を積んだイサリビは攻撃を受けた上にどこかへ飛び去っていくのを見送った。
その為このケリオンにこれと言った物資は持ち合わせておらず、あるのならさっさと海賊にくれてやり、どこかにでも行って貰おうという考えをオルガは実行できずにいた。 それならそれなりに戦っても得られるモノが何もないと、敵も相手にせず去って行くかもしれないとも考えたがそうは問屋が卸さず、ヴァイキーンは下卑た笑みを浮かべる。
<そうか! それじゃあしょうがない……我々の標的艦として死んでもらう!! 野郎共! やってしまえ!!>
ヴァイキーンの号令と共に、2機の海賊船がケリオンに襲いかかった!
「クソッ!! そう甘くはなかったか!!」
オルガは毒を吐きながらUSGケリオンを動かし、あくまで回避行動を取る。
相手は2機。 まともに戦うのは分が悪いと判断したオルガは、ケリオンを加速させつつ、小惑星帯の中へと突っ込ませていく。
小惑星帯に紛れれば、敵の照準を狂わせる事が出来ると踏んだのだ。 実際にそれは正しく、小惑星に阻まれて敵の砲撃は掠りもしない。
しかし、小惑星帯は障害物が多く視界も狭いため、逆にこちらの動きも制限される。 そして何より、小惑星に衝突すればただでは済まない。
下手に動けば、ケリオン自体が小惑星に衝突してしまう。 オルガは阿頼耶識の無い機体ながら、巧みにスラスターを吹かし、時には自ら小惑星を破壊して石つぶてを発生させ敵からの目くらましをする。
<ウガァッ!! 逃げるな臆病者!!>
「殺られると分かってて誰が待つかッ!!」
それでも、敵からの砲撃は容赦なく襲い掛かってくる。 敵がケリオンの進路を予想し、的確に砲弾を当ててくるからだ。
アステロイドと敵の攻撃を二重に躱しつつ、目の前に見える惑星に航路を取っていく。 ジリ貧なのは目に見えている。 このままではいずれ直撃を受けて、ケリオンごと木っ端微塵になってしまうだろう。
何かしら打開策はないのかとオルガは考え込むが、そんな時……小惑星に紛れるように、一つの大型の宇宙船が姿を現した。
(あれは?)
それは非常に大きく貨物船と見間違えんばかりの巨大な船であったが、よく見れば貨物を積み込む為のコンテナの容積はそれほど大きくはなく、それとはまた違う種類の船に見えた。
縦長のバーニアを備えた巨大なエンジンに長い船体を、あばら骨のように歪曲したカバーが幾十にも連なって覆っており、船底にはハの字に開いた大小2対の巨大なアームが伸びている。 サイズは桁違いだが、この船が所謂宇宙に漂う鉱物をかき集める『採掘船』と呼ばれる種類の船だと言うことに、この世界に徐々に精通しつつあるオルガは気づいた。
忙しなく操縦桿を揺する中でオルガは、この宇宙の真っ只中にあって明かりの点っていないこの船を分析した。
USG石村
・採掘船
船長 最高司令官 ベンジャミン
種族 ヴァイキーン
艦隊サイズ 62
クラス プラネットクラッカー // S:16+9
価格 889,4640,0000
(かなりでけぇ船だ。 随伴しているフリゲート艦が1つもねぇのが気になるが――――)
船自体の機能がまだ生きているようで、どうやら遺棄されている訳では無いらしい。 おそらくまだ中に作業員等がいることが想像出来るが、これで巻き添えにしてしまうことは心苦しいが背に腹は代えられない。 オルガは無線のスイッチを入れて目先の船……『USG石村』に緊急連絡を送る。
「USG石村!! こちら貿易船団『鉄華団』所属のUSGケリオン!! 今海賊船に攻撃を受けている!! 至急援護を頼む!!」