No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~ 作:Easatoshi
目に見えた星にスキャンをかけていった結果、基地の建設候補になりそうな惑星はあっさりと見つかった。
場所はオルガやスペシャルウィーク達が目覚めた一つ目の惑星と、今し方大気圏を離脱した火山性の惑星の二つ目、それらから更に距離の離れた三つ目の惑星があった。
エメラルドの海に白い雲、緑の大地が窺える見た目地球に似た惑星のようだ。
スキャンの結果は以下の通り。
惑星
楽園の土地
コバルト
スターバルブ
銅
パラフィン
「この星の土地の所有者はいなさそうなんだってよ」
「見るからに恵まれた環境ですよ皆さん! ここにしましょう!」
「賛成だよスペちゃんっ!! 早く着陸しよ!」
「ああそのつもりだ。 で、シャルにラウラ、パルスドライブはあるのか?」
オルガの問いに、二人は目前にインベントリのウィンドウを展開する。 そこには当然のようにオルガのラディアントピラー同様の機能が備わっており、心なしかインターフェースのデザインもアトラスシステムよりになっているように見受けられた。
<勿論! こっちに迷い込んだ時から最初から備わってたんだ。 オルガの宇宙船と同じ技術みたいだね>
<OSもアトラスシステムにアップデートされているが、ハードウェア的な部分についても一定の互換性はあるらしい>
「いざという時には修理も簡単って訳か、そりゃ心強え。 それじゃ、次の目的地までいっちょ競争するか!」
<ふむ、面白い。 そこな二人に『シュヴァルツェア・レーヴェン』の性能を見せつけてやろう>
「はい! 私達も負けませんよ!!」
「にっしっし! ボク達の宇宙船だってそう簡単には追いつけないんだからね!?」
<あははっ。 張り切っていこうか、みんな!>
5人は同時にパルスドライブを展開。 速度は共に一定を保ったまま一機の宇宙船と二機のISが銀河を駆け抜ける。
星々を光に近い速度で駆け抜け、船内からの幻想的な風景を眺めている間に目標の惑星は直ぐに接近する。
それは地球に似た青い海と緑に覆われた大地が窺える美しい惑星だった。 懐かしき故郷に近い惑星の姿に否応なく期待は高まる中、宇宙船は大気圏突入の後弾道飛行に移った。
<あ、そうだ。 一段落ついたらこの星系の宇宙ステーションにも寄っておこうよ>
シャルロットの提案にオルガは首をひねる。
「宇宙ステーション……? そう言えば星系マップに映ってたな」
「そんなものまであるんですね……ひょっとして、お二人はそこで情報を?」
<会話の通じる宇宙人がいなくて身振り手振りだったがな……>
「ピエッ! その人達、ボクのお尻噛んだりしない!?」
<なんなんだそれは……>
「おうお前ら、もうすぐ地表へ到着する――――」
オルガが言いかけたところで、全員が目前に広がる風景に目を奪われた。
星々の姿がおぼろげに浮かぶ青い空に白い雲、よく知るそれよりも緑がかってはいるが、エメラルドグリーンの輝きと言えば納得する大海原、新緑の芝生に生い茂る木々、そして青白く背の高い巨大な花が局所的に咲き乱れるその環境は、地球のそれとは異なるものの雄大な自然環境そのものだった。
「すごいです! 私こんな綺麗な景色見たことありません!」
「本当だよね! なんかもうリゾート地に匹敵するって感じだよー!」
<ほう、これはなかなか……>
<夏合宿の時を思い出すよね!>
「あぁ。 基地を建設するのにうってつけの星だ。 良い場所を見繕って着陸しようぜ」
オルガが言うと、皆はそれぞれ同意を示し、着陸ポイントを探すために高度を下げる。
しかしそんな中、オルガは景色を見渡す中あることに気付く。
「どうしたんですかオルガさん?」
「いや、あそこの海際の所なんだがな……」
森林のすぐ側にある開けた場所、海のすぐ側と言う景観の良い好立地。 スペシャルウィーク達は是非あそこにしようと言いかけたところで、オルガの指摘したそれに気がついたようだ。
そこには今自分達が乗っているような、しかし形状は随分違う宇宙船らしき乗り物が火を噴いて難破している姿が見えた。
<大変! 遭難しちゃったのかもしれないよ!>
シャルロットは慌てて火を噴く宇宙船に飛び込んでいった。 オルガもそれに続き、機体を着陸させる。
3人揃ってコクピットから飛び降り、ラウラも同じタイミングで着陸すると先に降りたシャルロットに続いて様子をうかがった。
フリージア星系 Eustiana von Astraea が発見
■■惑星 ―楽園の土地―
気候 心地よい
センチネル 存在を確認できず
植物 生命レベル 高6
動物 生命レベル 高3
「プロミス……我々の知る言葉と同じかは知らないが、正に約束の地だな」
着陸するなりラウラはこの惑星への率直な感想を口にする。
気温は少し肌寒い20℃前後。 自然のもたらす澄んだ空気に海から吹き付ける風は心地よく、極限の気候だった前二つと重ねてみてしまう事も相まって、オルガ達はこの星の楽園という響きが決して誇張ではないと感じていた。
「……誰もいないね」
「あぁ。だがこいつは……」
して、オルガは墜落した機体に持ち主の情報が残っていないか、分析レンズで機体の情報を調べてみた。
「!!」
「ど、どうかしました? 何か変な情報でも?」
「……あぁいや、何でもねえ。 ただ墜落してそれほど時間は経ってねえみたいだ。 死傷者の姿も近くにはねえし恐らくは大丈夫だろうな」
見たところコクピットの破損は無く、血のりのような物騒な痕跡も見当たらない。
機体の損傷具合から判断すれば、不時着してからそう時間が経っていないことは容易に推測できる。
パイロットの不在も相まって、墜落した衝撃で乗員が死亡した可能性は低いと考えていいだろう。
それを聞いて安心したのか、シャルロットとラウラはほっとした表情を浮かべた。
「とにかく、慌てて探し回ってもどうにもならねえ。 まずは俺達自身が態勢を整えるべきだ……そこでだ」
「ダンチョー、その前に……」
オルガに待ったをかけたのはトウカイテイオーだった。彼女は周囲をキョロキョロと見回しながら、何かを探しているようだった。
テイオーの意図を読み切れないオルガが彼女に問い掛ける。
するとトウカイテイオーはお腹をさすりながら皆に告げた。
「そろそろなんか食べない?」
この世界に迷い込んでそれほど時間はも経っていないものの、未知の環境によるストレスから空腹に気付く余地もなかった。 そんな彼ら5人が安全な環境によって安堵した時、揺り戻しによって一気に襲いかかる空腹を前に、基地の建設を余所に食料探しを優先するテイオーの提案をあっさりと受け入れたのは当然のことであった。
森林の中を意気揚々と進む集団の先頭を買って出たのは、声高らかに歌うトウカイテイオーだった。
彼女達はオルガの分析レンズで発見した、小麦をかたどったと思わしきタグ……食料の在処を指し示す位置に向かって歩を進めているところであった。
シャルロットとラウラについてはエクソスーツはISに機能統合されている為、現在は装甲をしまい込んで見た目インナーのみの姿となっているが、万全を期して絶対防壁による保護機能は生かしたままにしている。
「はちみー♪はちみー♪はっちーみー♪はっちーみーをーなめーるとー♪」
「あはは……テイオーさん、流石に蜂蜜はあるかどうか……」
「でも、食べられそうな野菜や果物くらいはあるかもしれないよ?」
「うむ。 宇宙で目にする未知の食材か、心躍るな」
「何が何でも見つけねぇとな、そうでなきゃ……」
オルガはインベントリからあるアイテムを取り出して見せつける。
「俺らはこのけったいな生のレバーを口にしなきゃならなくなっちまう」
皆肩が震え、朗らかに歌っていたはずのテイオーの『はちみーの歌』がやんだ。
オルガの手元にある血の滴る肉片……テイオーの尻にかぶりついた異星生物の『猫レバー』と呼ばれる代物だった。 優秀な宇宙服、もといエクソスーツのインベントリーによって、鮮度自体は保たれてるが……。
「……ボクはイヤだよ、乙女のお尻にかぶりつくケダモノの肉なんか」
振り返るテイオーの顔に、表情というものが見当たらない。 ついでに瞳にハイライトも見当たらない。
「本当に、食べて大丈夫なんですか?」
食いしん坊のスペシャルウィークも同様に抵抗を感じていた。
「一部の魚は刺身と言って口に入れた事はあるのだが……日本人なら生でいけるのではないか?」
「いえラウラさん、日本は確かに寿司とかユッケとか生食はありますよ? レバ刺しだって鹿肉なら食べたことあります……後で危ない行為とは知りましたが、それはそれとして流石にあの未知の食材は……」
「スペの言う通りだよね……正直安全に食べられる種類なのかも疑ってかからないといけないもの」
ラウラはまだしもシャルロットは引き気味だ。 当然だが、進んで食べたがる人間はいない。
それは食うに困った幼少期を持つオルガでさえも同じ気持ちだった。
故郷の火星での食事において、ある程度ものが食べられる程度に豊かになってきた時でさえも、オルガ達の食事の基本と言えば野菜と穀物が中心で、タンパク源は植物性タンパクに動物性のそれを添加した人工肉が基本だった。 肉を食べる機会が無かった訳ではないものの経験は少なく、魚に至っては地球で見たゲテモノじみた見た目(鉄華団男性陣一同談)から敬遠していたほどだったのだ。
流石に転生後には幾ばくか改善はされたが、依然として好き好んで積極的には口に入れることは少ない。
「……雰囲気をぶち壊しちまってすまねえ。 だが、何としてでも安全に食える食料見つけようぜ……!!」
切羽詰まったような話を切り出したことを謝罪するオルガだが、こと緊張感を植え付けるという意味では絶大な効果を見せつけ、気持ち一行の足の動きがテイオーの歌のテンポと共に速くなった。そんな時だった。
森の奥の少し開けたところに、巨大なサイズの小麦と蜜の滴るうねった巨大な球根が現れたのは。
「『七倍体小麦』に『甘い根』……おい、食える奴だぜ!」
一同、歓喜に沸いた。
「やった! これでひとまずご飯が食べられるよ!」
「お腹いっぱい食べられますねっ! この大きさなら十分皆にも行き渡ります!」
「あぁ。……やっと、メシにありつける」
「ふむ、食い応えがありそうだ。 味はどうかな?」
「わーいっ!! はちみー♪ じゃないけど、甘い蜜が飲めるんだ!」
食材を見つけて大はしゃぎする一同、彼自身も空腹だが、期待に湧き上がる女性陣を前にオルガは一歩引いた位置で過去の記憶に思いを巡らせていた。
(未知の食い物を前にあんなに騒いでな……思い出すよな)
あれは確か『美食殿』と言うギルドの一員になった世界での話だったか。 世界に散らばる未知の食材を探し、味わって楽しもうと立ち上げた一人のお姫様とその仲間達。 やっつけたモンスターもその場で調理して食べてしまう健啖家ぶりに、オルガも圧倒されていた懐かしい思い出がこみ上げてきた。
(そう言えば、あいつと出会った時も食い物を前に現れたんだったな)
「収穫完了! それじゃあ次は――――」
「お腹ペコペコ~……」
「そうだ、確か今にも死にそうなぐらい弱った状態で現れて――――」
直後、スペシャルウィーク達が悲鳴を上げた。
「な、何をするんだよー! それボク達が集めた食料だよ!!」
「もぐもぐもぐ!!んぐっんぐっんぐっ!!」
オレンジのエクソスーツに身を包んだ謎の乱入者が、しがみつくトウカイテイオーの制止をもろともせずに食材を貪っていく。 言っておくが、食材は取れたての『生』である。
よく食べるウマ娘二人分を考慮しても確実に足りるはずの小麦と根が、呆気にとられるシャルロットとラウラを余所に恐ろしい速さで平らげられていき――――
「ふう! エネルギーが尽きかけて危ないところでしたが、ごちそうさまでした! いやあ、たとえ調理していないとは言え料理の源の食材。 これはこれで美味しくいただけました☆」
バイザー越しに見えるは満足気に笑うオレンジの髪の少女、乱入者はぺろりと口の周りについた蜜を舐め取った。
満腹感から幸せに笑う少女と裏腹に、背後で無の表情でにらみ付けるはスペシャルウィークとトウカイテイオーだった。
「……げません」
「はちみー……」
ハイライトオフ。 怒り以外の感情が見受けられないその様子は、正しく乱入者の命が掛かっているといった有様であった。
異常を察知したシャルロットとラウラは、慌ててスペシャルウィーク達が凶行に及ばないよう、羽交い締めにして押さえに掛かるものの、怒りに駆られたウマ娘の膂力は想像を遙かに超えていた。
「食べ物はあげませんッ!!!!」
「食料の持ち主は、ボク達だッ!!!!」
「お、落ち着いて二人ともーーーーーー!!!!」
両手足だけのISの部分展開も行うも、それでもなおべそをかきながら両手足を振り回すスペシャルウィーク達は止まらなかった。
そしてこの騒動を引き起こした当事者も、流石にしまった様子でこちらを伺っていたものの。
「……やばいですね☆」
笑ってごまかした様子だった。
その瞬間、オルガは彼女に向かって駆け出していた。 墜落していた宇宙船の持ち主の……『名前』。 このタイミングでエクソスーツを身にまとって現れ、あっさりと食料を食べ尽くしたその健在な健啖家ぶり。 確信からオルガは彼女に駆け寄りその名を大声で叫んだ。
おなかペコペコの人、参戦!