No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~ 作:Easatoshi
ちなみに、一夏達からは『No Man's Sky』や『DEAD SPACE』の本編同様、常に背後からの三人称視点で見えてる設定だったり。
(おい!! 一体何が起きやがった!?)
部屋中を駆け巡る突然のブザーと赤色灯、コンソールにはバイオハザードの警告マークが表示され、重篤な有害物質を探知したとのアナウンスがオルガの耳に入ってきた。
それと同時に海賊達もオルガを見つけたことをそっちのけで、一斉に辺りを警戒し始めた。
「な、なんだ!? 機器の故障か!?」
「フシューッ!! ldpldpofekwroldpd;――――qdepqwdwgr、cpadlpldwpqwpdlp!!」
「!! え、ええ! 確かに聞こえますねェ!」
ただ事でない様子に4人の間に緊張が走る。 しかしそれをリーダー格のヴァイキーンが制止した。
「落ち着けお前達……ダニエルズ、そこのエレベーターを稼働させてくれ」
「jfe9fkweok!!」
ヴァイキーンによって『ダニエルズ』と呼ばれたそのコーバックスが、何やらゲックのいる直ぐ上の天井を指差した。
ゲックが気づいてマルチツールを指差されたそこに向けた瞬間、天井の通風口の蓋が何か突き出してきた物体によって貫かれ、すかさずゲックがそこに銃弾を叩き込んだ。 トリガーを引ききったまま弾幕を張る『パルススピッター』と思わしきそれをありったけ叩き込むも、現れた何かは直ぐに引っ込んで手応えを感じない。
「ッ!! おいお前!! 後ろだ!!」
そしてオルガは、窓越しにゲックに向かってつい反射的に叫んだ。 よほど自身が切羽詰まった面持ちで、自ら窓に身を乗り出したことに驚いたのだろう。 ゲックは目を見開いてこっちと目が合った。
その瞬間、鋭い刃がゲックの胸から装甲を突き破る!
「グハッ!! あ、アァ……!!」
赤く彩られた鋭い刃を生やしたゲックの背後には、人型をしたシルエットが立っていた。 そいつは大きな刃を突き立てたまま、勝ち誇るように獲物であるゲックを高々と持ち上げる。 ゲックの胸元から赤色灯の回る空間でも視認できるくらい、赤々としたスープを窓めがけてぶちまける。
そして背後から刺したそいつは、誰もが呆気にとられる中で容赦なく、ゲックの肉に執拗に何度もナイフを突き立てた。
「――――やばいッ!!」
「hfeijdweo20e120!?」
「チェンッ!! やめろぉッ!!」
ゲックが物言わぬステーキ肉に料理される中、もう1人のヴァイキーンが猟奇殺人犯に銃口を向ける。
しかし、その銃口からは弾丸が飛び出ることは無かった――――持ち主の首が赤い噴水をあげながら胴体と泣き別れをしたのだから。
「ジョンストンッ!! ――――ダニエルズ、早くエレベーターのドアを開けてくれッ!!」
「03wo4r23lfpsd!! i9t4ir34pdqwol-qwpsd@ッ!!」
生き残ったリーダー格のヴァイキーンが標的を変えた正体不明の何かに銃撃し、ダニエルズという名のコーバックスが扉に向かって端末を向けてクラッキングを行い、迫る何者かは銃弾を身体に受けても怯みはするが足は止まらず、徐々に距離を詰めていく。 オルガの側から見れば、絶望的な状況に対する必死の抵抗に過ぎない光景だった。
「クソッ、俺もこうしちゃいられねぇ!!」
自身をここに追い込んだ敵ながら、あまりにあっけなさ過ぎる死に直面し2人を失った海賊へ同情を禁じ得なかったが、しかしオルガも自身の置かれた状況を即座に把握し、行動に移る。
分解したままだったマルチツールを即座に組み直し、鍵がかかったままだったもう1つの扉の前に立って解錠を試みる。 しかし扉のホログラムはアクセスを受け付けない旨を表示し、何度試しても解錠が成功する気配はない。
「このポンコツが!! さっさと開けろ!!」
もはやなりふり構わず扉を殴りつけるオルガ。 しかしそれでも扉は開くことはなかった。
そんな折、背後の天井辺りから何か金属のようなモノが突き破られ、重たい物体が地面へと落ちる音を耳にする。
オルガは即座に振り返り――――そして自身の目前にも謎の人影が現れる!!
「――――――ッ!!!!」
即座に組み直したばかりのマルチツールを構え、引き金を引こうとした。 しかし動作が早かったのは、両の腕に大ぶりの刃物を携え、それを振りかざしてきた何者かの方だった。
背後には扉、後ろ飛びで回避は出来ない! 動作をキャンセルして銃を構えた腕を引っ込め、咄嗟に身を構えるオルガ。
そんな敵からの一連の奇襲攻撃からオルガを守ったのは、他ならぬ彼が引っ込めたマルチツールだった。 敵が振り抜いた攻撃を頑丈なマルチツールが受け止め、刃先に串刺しにされた。
(ツールがッ!!)
そのまま扉のすぐ側の壁際に押し倒され、壁を背に足を大きく開いて転倒するオルガ。 何者かは空いたもう一つの右腕を振りかぶり、一気にオルガの脳天めがけて振り下ろす! 咄嗟にオルガは回避し背にしていた壁の、蓋と思わしき部分に突き刺さる。
「グウォォオオオオオオオオオオオッ!!!!」
感電。
突き刺さった壁の蓋から火花が散り、何者かが小躍りする。 しかしその感電仕草は、突き刺さった箇所からの火花が直ぐに止まったことで中断される。
そしてオルガは、あらためて自身に襲いかかったそいつの面構えを拝む。
「な、なんだこいつッ!!」
隆々とした身体、あらゆる種類の獣を人をかたどったような面持ちに並び替えた獣人。 目の当たりにしたそれは、正にヴァイキーンだった。 だが両手からは身体の中身が突き出て変形したように骨の刃が伸び、精悍な面構えは血みどろに口元が大きく裂けて牙が露出。 腹部も大きな穴が空いたかと思えば、本来はおさまっているべき筈の内臓がもう一対の両腕を模り、オルガの身体につかみかかっていた。
その異様な出で立ちにオルガは戦慄し、そんなオルガをなめ回すように顔を近づけて威嚇するヴァイキーンのような何か。
「ッ!! 離しやがれッ!!」
オルガは反射的に、異形と化したヴァイキーンのような顔に向かって、渾身の頭突きをお見舞いする。 硬いヘルメットに叩かれて鈍い金属音が部屋中に響きわたり、頭突きを食らった異形が怯んだ隙にオルガは脱兎のごとく駆け出す。
幸いあれほど難儀した扉は開かれているようで、どうやらこの異形が貫いたのはこの扉の配電盤だったらしく、感電が発生したことで安全装置が働き、回路も遮断されて扉が開いたのだろう。
「うぉおおぉおおッ!!」
異形の隙をついてオルガは扉の向こうへと駆ける。 扉の向こうは左に直角に曲がった廊下だった。
しかし、その背後から異形が凄まじい速度で追いすがってきた!
「グォオオオッ!」
そしてそのまま右腕を振りかぶり、今度はオルガの脳天めがけて振り下ろしてきた――――オルガ、身をかがめその勢いでわざと転がり回避! 転がった勢いのまま起き上がり、振り返ること無く走り抜ける。
迫る曲がり角、止まることなく直角を曲がろうとするオルガの頭上から、通風口の蓋が貫かれ破片が落ちてくる! 払いのけるも追撃は無い。
そして曲がった先は今度は右曲がり、正面には通風口のファンが回っており――――その裏からファンをぶち抜いて別の個体が出現!
現れた勢いで這い出してくる新手を、オルガは脇をすり抜けるように右側に回避! その足で更に右曲がりの通路の先に存在する、扉の開かれたエレベーターを発見した。
「クソッ!! 何体いやがんだ!?」
オルガは悪態をつくも、しかし開かれたエレベーターを逃すつもりも無く、その勢いのまま飛び込み、翻ってエレベーターのエレベーターの階数ボタンを押した。
追いすがる異形をバックに、頑丈なエレベーターの扉が強く閉まる。 息を荒げながら、オルガは束の間の生を噛み締めた。
「ハァ、ハァ……な、なんとか逃げ込めた、か」
荒れた呼吸を整えるようにオルガは肩で息をして、背中の壁にもたれかかった。
あの異形はエレベーターに侵入できないようで、しばらくの間ドアの前で暴れていたが、やがて諦めたのかその気配もなくなった。
「……アイツらは一体何者なんだ――――」
扉の隙間から、2本の白い刃が縫って現れた。
それはオルガが間抜けな声を上げる間も与えず、固く閉じられたはずの聖域の扉を強引にこじ開けようとする。
「お、おい……おいおいおいおいおいッ!!」
こじ開けに反発するエレベータードアの隙間から窺えるのは、先程自身を襲った異形の腐った面構え。 それは頑丈な自動扉など知ったことかと、執拗に刃をねじ込ませ餌物であるオルガの首を狩ろうと、強引に扉をこじ開けてしまった。
「ウソだろ――――」
異形が一歩踏み出した瞬間、反発したエレベーターの扉からの制裁が下った。
マナーの悪い侵入者を両側からのギロチンで処し、エレベーターフロアとオルガのエクソスーツの全身に赤黒い液体をまき散らす。 エレベーターは無情にもその扉の向こうに異形の刃先と頭以外の部位を残し、我関せずと言わんばかりに当初のオルガの指示……下階への移動を再開した。
不意に転がった異形の生首がオルガと目が合う。 一切の輝きがないその死んだ目に恐怖さえ感じながら、オルガはたまらず荒げた声がエレベーターに響く。
「何なんだ……何なんだクソッタレが!!」
叫んだ所で誰かがその疑問に答えてくれるはずもない。 それでも感情をぶちまけずにはいられなかった。
昇降機の機械音だけが響き渡る中、フラストレーションの発露から肩で息をしながら、ようやく気持ちを落ち着けたオルガが、事態の冷静な分析をはじめる。
解体場と化した宇宙船ドックと荒れっぱなしのフライトデッキ、そして海賊達があっという間に命を刈り取られ今自身が襲われた、正体不明のクリーチャー。 変異したヴァイキーンにも見えたそれは、オルガの知るソレとは似て非なるモノであり、少なくとも手が刃物で身体に空いた穴から第二の両腕が生えている個体を、これまでに見た事は無かった。 何より同様に襲われた海賊達にもヴァイキーンがおり、躊躇なく刃物を突き立てられ殺害されていた。
そして何より、そいつは決して1体だけではなかった。
「……この船の荒れ具合、まさかさっきの連中が船内に蔓延ってるって言うんじゃねぇだろな?」
誰も答えてはくれない疑問をオルガは口に漏らす。 そうしている内にエレベーターは目的のフロアに到着。 赤い糸を引きながらエレベータードアが左右に開閉する。
(……戻れなくなりやがった)
どの道上階は今あのバケモノが闊歩しているだろうと、オルガは両断された異形の頭に「化けて出てくるなよ」と念を送りながら、目前に現れたフロアに足を踏み入れた。
そこそこに広い一部屋の正面右よりには鍵のかかった扉と蓋が外れて漏電している配電盤、左側にはくぐもったガラスのパーテションがあり、それは何かを引きずったような地面の跡とともに赤黒く彩られ、生理的な嫌悪感を煽り立てられる。
気は進まないが、オルガはそのパーテションの前に足を進んでのぞき込み――――そして少なからず後悔した。
「……やっぱりか」
そこは、喉を切られて横たわるゲックの姿があった。 瞬き一つせずに天を仰ぎ見るその姿に、オルガは既にその個体が絶命している事を瞬時に悟る。 念の為スキャンをかけてみるも結果は同様。 オルガは軽く十字を切ってやった。
「さっきのと同じ奴に殺られたのかもな……ん?」
オルガはパーテションで区切られた中に、壁に書かれた血文字らしきものと、その手前のテーブルの上に見慣れない、『
まずオルガは血文字を読み上げる。 どうやらこれはゲック語で書かれているようだ。
「『
奴ら……と言うのはこの倒れているゲック等を襲ったであろうあの正体不明の敵の事だろうか? オルガは背後を振り返りながらゲックの遺体を流し見ると、特に損傷していない指先にもその血糊がついている。 恐らくは彼(?)が書いたのだろう。 そして次は机の上のハンガーに掛けられたこの機材。 オルガはスキャナーをかけてみる。
「……『211-V プラズマカッター』……金属資材切断用の工具か。 だがトリガーはついてねぇな」
オルガは機材を手に取り考える。 この世界の大体のツールは、採掘用のビームから地殻破砕用の地形操作機、そしてスキャナーの機能増幅モジュールと数々の武器などを一纏めにしたマルチツール。 そしてエクソスーツに内蔵されたファブリケーターで大体の作業を進める事が出来るが、その上で特定の作業に特化した専用設計のツールや重機もまだまだ健在で需要もしっかりある。 この工具もその類いなのだろうと、オルガは機材……プラズマカッターのレシーバーを手に取りながらそう推測した。
すると、オルガは機材を見ていてある事に気がつく。
「ん? このパーツ……俺の持ってるマルチツールと組み合わせられるんじゃねぇか?」
パーツの接合部がオルガの持っているマルチツールのトリガーとかみ合わせの形状が似通っている。 そんな感想を抱いたが、共通規格化が進んでいるこの世界の機材ならあながち間違いでもないだろうと、オルガは試しにマルチツールを取り出してみる。
どの道敵の攻撃を受け止めた時点で備え付けられていたレシーバーは破損している。 いっその事この機械を使わせて貰っても罰は当たらないだろうと、オルガは破損したパーツを破棄してプラズマカッターを組み合わせてみた……案の定、この機材と組み合わせても違和感のない形に収まっている。
<テクノロジーを修理しました>
ファブリケーターは使用不能ながら、目の前の機械修理が上手くいった事をスーツのアナウンスは律儀に告知すると同時に、このマルチツールの取り扱い方法をポップアップしてくれた。
トリガーを引けばプラズマの刃が発射され、側面のボタンで刃の角度を回転させて調整してくれるようだ。
数回刃の向きを回転させると、オルガはほくそ笑んでプラズマカッターを確保した。
「どうやら当たりみたいだな……大事に使わせて貰うぜ」
恐らくはそこで倒れているゲックが誰かに託そうとメッセージ共々残したのだろうと、オルガは最後に祈りを捧げるように手を組んで黙祷し、その場を立ち去ろうとした。
「ゲコゲコッ!! 誰か!! ここを開けてくれぇッ!!!」
唐突に、オルガの耳に悲鳴が飛び込んできた。
「この声は――――どこだ!?」
「!! 誰かいるのか!? 助けてくれ!! 奴らが天井に、通風口にいるんだ!!」
ゲック語――――ゲックの声のようだ、そしてそれは閉ざされた扉の向こうから聞こえてきた。 何かに追われているような必死の声色に、オルガは恐らく先程の敵と同様の相手に追われていると判断する。
「こっちからじゃドアをハッキング出来ない!! 頼むから開けてくれッ!! 頼む、ドアが開けられない!! ここから出してくれぇっ!!」
「わかった!!」
オルガはあのガラス越しの開かない扉を開ける決断をした。 恐らくはさっきと同じであのショートした配電盤を完全に破壊してしまえば、通電が止まって扉が開放されるものだと判断――――そう思った瞬間、オルガは早速このプラズマカッターを使ってみようと決断する。
カッターの銃口を向けると、銃口から縦並びに青いレーザーサイトが飛び、一目見ただけでわかりやすい照準器が露わになった。
オルガは狙いをガラス越しの扉の配電盤に定めて引き金を引くと、カッターの刃から凄まじい音と共にプラズマが発射される!
「当たれッ!!」
あまりの轟音に思わずオルガも驚く中、放たれたプラズマはガラスを突き破って扉の配電盤を瞬間的に溶断する。 ワンテンポ遅れてガラスの雨が地面に降り注ぎ、電力を失った扉が独りでに開閉される。
直後、命拾いしたゲックが部屋に駆け込んでくる。
「た、助かった――――」
安堵するも束の間、入り繰り付近の天井の蓋をぶち抜いて両手刃のバケモノが飛びかかる!
「しまっ――――」
オルガが瞬時に構え直すも間に合わない! バケモノは落ちてきた勢いでゲックの脳天と左肩をその鋭い刃で貫通! 押し倒し貫いた刃が地面に突き刺さると、刺されたゲックは助かりたい願いも空しく、左肩を切り落とされたばかりか数回の痙攣の後に物言わぬ肉塊と化した。 そして、バケモノの次の目線はオルガの眼へと向けられる。 ヴァイキーン崩れの腐った目つきに救うものも救えなかったオルガは逆上。
「野郎ッ!!」
オルガはプラズマカッターを構えなおして、こちらに矛先を変えたバケモノに照準を合わせ、トリガーを引く! 発射されたプラズマ刃は容赦なくその憎たらしいバケモノの頭部を吹き飛ばした!
「やったか――――!?」
大きくのけぞるも確認する必要さえなく、バケモノは頭部を失ってもなお踏みとどまり、大きく刃を振り回しながら辺り一面に攻撃を加え始めた。
頭を失っても死なず、こちらを捕捉して回り込んでは来るものの、大ぶりな攻撃を繰り返す様子から正確な位置は掴めていないようだ。
(死なねぇ!? ――――はっ!)
頭を吹き飛ばして絶命しない様子に面食らうオルガだが、同時に脳裏にあったある言葉が彼に冷静さを直ぐ取り戻す切っ掛けを与えた。
「――――そう言う事かッ!!」
怯む事なくプラズマカッターの照準を、今度は敵の脚部に向け――――大腿筋を両断するようにプラズマカッターを発射! 金属資材を切断する専用の工具は、相手の骨格もろとも粉砕、溶断! 姿勢を崩した敵に対しカッターの刃を寝かせ、両の腕に1~2発ずつすかさず発射! 両腕さえ吹き飛ばされ、武器と言えるものを失った敵は数回痙攣し、やがて動かなくなった。 その死に様は、皮肉にも敵自身が今し方殺害したゲックの姿とかぶって見えた。
「成る程……全身をバラバラにした方が効果的って訳だ」
オルガはエネルギーの残量を確認しながら、今し方倒した敵を冷静に分析していた。 頭部を吹き飛ばしても効果がなく切断面は、気持ちの悪い線虫のようなものが動き回ったと思えば断面の中に引っ込んだ……それにヴァイキーンに似たその外見。
その生態はまるで異世界の旅の中で見た活性死体……ゾンビを連想した。
(こいつらは死体にでも寄生して操ってやがるってか……!?)
そこまで考えてオルガは気付く。 もしかするとこの石村という採掘船、未知の寄生生物か何かで艦内全体が汚染され、深刻な
(想像以上に厄介な所に入り込んじまったみたいだな)
嫌な事実に気付き頭を抱えるオルガだが、落ち込んでもいられない。
外から見ただけでろくに警備システムも働いていない時点で、既に船内の秩序は完全に崩壊していると見て間違いない。 その原因である敵さんは通風口などの狭いダクト内でさえあっさりとくぐり抜け、いつ奇襲を仕掛けてくるか分からない以上、この場に留まり続けるのも危険だろう。 オルガはため息をつきながら、目の前で殺された名も知れぬゲックに哀悼の意を捧げた。
「……あんたには悪いが、俺もこいつらに殺される訳にはいかねぇんだ、さっさとこんな所はおさらばするぜ……うん?」
オルガは、切断され近くを転がっていたゲックの左腕に、見慣れないデバイスが装着されている事に気付いた。 何の気なしに気になってスキャンをかけてみると、その四角く小さな機材は『ステイシスデバイス』と表示された。
オルガはその機材に対して耳に覚えがあった。 それは生物が本来の寿命を越えて何千年単位で老化を遅らせる事が出来ると評判のアンチエイジング・デバイスだった。
しかし、裕福なものにしか携帯出来ない程に極めて高額で、レアリティゆえに市場価値が高く中々世間には出回らない代物でもあった。
(見たところ特に金持ちでもねえみてぇだし、何でこんなものを持ってやがる?)
オルガはその機材をモジュラー化して左腕に装備していた理由を見いだせずにいた。 手向けとして貰っておこうかとも思ったが、価値があるとは言え用途の分からないものを、今みたいな状況でわざわざ追い剥ぎしてまで持っていく気にもなれずにいた。
「ま、流石にこれを手につけるのもな――――」
そっとしておこうと思った矢先、開きっぱなしだった扉が突如として凄まじい勢いで閉鎖された。
「!」
人の身体もあっさり両断しかねない勢いに一瞬身じろぎするオルガだったが、直ぐさま扉はゆっくりと開き――――そして小刻みに何度も開閉を繰り返す。
(配電盤は壊したろ!?)
扉の電源を壊したにも関わらず何故通電、それも異常な開閉を繰り返すのは理由が分からずにいたが、このままではこの扉を通り抜ければ、自分の身体が切断されてしまうのは自明の理だった。
「どうすりゃいいんだよ……こんな勢いで開け閉めされたんじゃ通れねぇぞ」
オルガは取り急ぎあの通路を通れるようにする方法を考えた。 敵のように通風口を移動する方法も無くはないが、内部構造を知らないオルガにとって敵の遭遇やハマって抜け出せなくなる可能性を考えると、とても現実的とは言えない。 あの扉を通らざるを得ないならせめて通り抜ける時ぐらい、動きを止めるかゆっくりしてくれればと突拍子もない事を考えてしまう。
「教えてくれよアトラスシステム……あの扉の動きを止める方法とかよ」
<ステイシスエネルギーの放射で、対象の時間を遅くする方法が最適と思われます>
「は?」
何気なく口にした一言が、まさかの最適解を提示してくれた事にオルガは呆気に取られてしまう。
<デバイスのインストールが必要です>
そしてスーツのナビゲーターは、入手を見送ろうとしたゲックのステイシスデバイスを指し示していた。
「マジかよ……」
オルガは再び死体に向き合って喉を鳴らした。 流石に助けを求めていた相手からの追い剥ぎはためらわれたが……しかしこちらの生き残りがかかっている以上、きれい事は言っていられない。
「悪いが……使わせて貰うぜ」
オルガは切り取られたゲックの左腕を掲げ、そこからステイシスデバイスを取り出して自身の左腕の装甲を開放し、露わになった接続端子に収めた。
<テクノロジーをインストールしました>
使用方法はプラズマカッター同様に、スーツのナビゲーターが教えてくれた。
オルガは再度振り返り、激しく開閉する扉に向かって手をかざす。 故障時の無理な使用や不適切な取扱は使用者にも影響があり、専門知識が必要と書かれていたそれを使うのは些か緊張する。 が、全てを説明通りに従えば酷い事にはならないだろうと、覚悟を決めてオルガはスーツと同期している背中の阿頼耶識を通し、デバイスに対しステイシスエネルギーの放射を命令!
直後、強烈な青白い光が扉に放たれ、青いエネルギーが散ったと思えば扉の開閉が急激に遅延した。
「うおっ!!」
咄嗟に身じろぎするオルガだが、デバイスの説明通りの効果が発揮されていると知り、素早く扉をくぐり抜けた。 そして数秒の後に、効果が切れたか再び扉は激しい開閉を繰り返すようになった。 オルガは安堵のため息をつく。
「マジかよ……助かったぜ」
オルガは扉の向こうに置いてきた、ゲック達2人に敬意を示す。 武器と便利なデバイスの2つを入手し、一先ずは生き残れる可能性が出た事にオルガは一旦安堵の表情を浮かべたが、再び引き締める。
自身には所謂『
「早々くたばってやるつもりもねぇがな……気ぃ引き締めて行くか……!!」
覚悟を決め、オルガは先行きの見えない石村の艦内を進み始めるのだった……。
初期装備にして万能な相棒のプラズマカッター君、入手!
そして繰り上げでステイシス(動きの鈍化効果)も一気にゲット。