No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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第51話

「グウォォオオオオオオオオオオ――――オッ!!!!」

 両の腕を上げて襲いかかる怪物の奇声は、オルガの放ったプラズマカッターの刃でその腐敗した肉体共々両断された。

 両腕の刃と右足を切り取られ、バケモノは糸の切れた人形のように冷たい採掘船の床に崩れ落ちる。

「これでひとまずは掃討完了だな……」

 オルガは額を拭って一息ついた。

 人を襲う得体の知れない怪物の襲撃を掻い潜り、オルガはこの採掘船の艦内を進み続けていた。

 道中で遭遇したモンスターは数知れず、その全てを切り伏せてきた。 弾は幸い採掘船という特性からか、専用のエネルギーであるプラズマカートリッジが豊富に手に入った。 それは船の至る所に無造作に散らばっているのを含め、倒した敵の死体からもスカベンジすることが出来た。 しかしそれは同時に今まで切り伏せてきたこの敵が、かつての船の作業員であった存在のなれの果てであると言うことを思い知らされるものであり、オルガは内心気が滅入っていた。

 とは言え、それでもオルガは歩みを止めなかった。 敵に殺されれば最後、自分も奴らの仲間入りをするのではないかという恐れもあったからで、何よりも鉄華団の団長として無事に五体満足で、イサリビにいる仲間達の元に帰還しなければならないといった使命もあったからだ。

 そうやって廊下の……特に曲がり角の先や通風口などの死角に気を払いながら、足を進めた先に待っていたのは一つの自動扉だった。 回路がショートしたりロックがかかっている様子がないことは、扉の前に浮かぶホログラムがそう伝えてくれていた。

 オルガは扉のすぐ側に背中を預けながら、逆手でホログラムに手をかざす。

 

 

 扉を開放する指示を受け付け、ゆっくりと上に開かれていく自動扉の先に見えたのは、横長に広いコンピューター機材の備え付けられた一室。 奥は閉じられたシャッターが連続して続いていた。

 そしてそれはオルガがプラズマカッターを構えて素早く部屋に侵入、左右を、上下を素早く確認しクリアリングを行った瞬間に唐突に開かれていった。

 シャッターの向こう側はいずれもガラスで区切られており、その向こう側には駅のホームらしき空間が広がり……先程逃げていった海賊連中の2人、ヴァイキーンとコーバックスが驚いたようにこちらを見ていた。

 ヴァイキーンは咄嗟に銃を構えながらこちらを威嚇しつつ、隣のコーバックスの方が無線でこちらに問いかけてきた。

<jfe8w9jdew9kdqw90? alldl0l0l。 ;4-;ddfffww3!>

 コーバックスの方は機械的な音声ながら、どことなく感嘆したような声でこちらに声をかけてきた。 当然のようにこちらの無線の周波数をあっさり特定する、その技術の高さに舌を巻きつつも、しかしながらオルガは気まずそうに返答した。

「あー……。 悪いが、煽りとか抜きにコーバックス語はまださっぱりなんだ。 翻訳機か何か通せねぇか?」

 オルガはあえてのヴァイキーン語で返答する。 すると隣で声を聞いていたであろうヴァイキーンが何かをコーバックスに伝えると、コーバックスは恐らくは耳元?に手をかざし、一言。

<翻訳機を調整してみた……多少の齟齬はあるかもしれないが、伝わっているか?>

「バッチリだ」

 どうやらこちらの意図が伝わったようだ。 コーバックスの言語が驚く程流ちょうに翻訳された。 やはりというか、敵の襲撃を掻い潜り逃げ切ったことを驚いているようだった。 それはお互い様ではあるのだが、オルガは気を取り直して対話を試みる。

「色々言いたいことはあるが一言だけ言わせて貰う……アンタらの仲間のことは気の毒だった」

<貴様に心配される筋合いはないな>

「だろうな……だが皮肉で言ったつもりもねぇ」

 銃を構えたままこちらを睨むヴァイキーンは依然として警戒を解こうとはしないし、オルガもそれは想定の範疇だった。 当然だろう、先程までオルガの命を狙っていた相手が、一転して殺される側に回ったからと言って同情を寄せられたところで、嫌みに聞こえなくもないだろうと。 オルガ自身に他意はないが。

<……笑いたければ笑えばいい。 貴様を追い詰めたつもりが、まさか我々まで脅かされる羽目になるとはな……我々は抵抗が精一杯だった、奴らは何者だ>

「何人かは制服を着ていた。 道中で転がってた死体と同じものもあった」

<! まさかアレがクルーだというのか!? 馬鹿な、どうやったらあんな姿になると言うんだ!>

「知ってたらこんなに必死になんねぇよ……ここまで逃げ延びるのに必死だったんだ」

 オルガが毒づくと、ヴァイキーンの方も舌打ちをして銃口を下ろす。 その面持ちは苦虫をかみつぶしたようで、この短時間の間に酷く憔悴しているようにも思えた。 どうやら、こちらに敵意を向ける気力もないらしい。

(アイツらなりに仲間意識が強かったみてぇだな……だとしたら、無理もねぇか) 

 オルガも元の世界含めて、宇宙海賊みたいな輩とやりあった事はあったが、中にはヒューマンデブリをはじめ自分の部下を使い捨てにしかねない、目も当てられないようなろくでなしが圧倒的に多かった。 そう言った意味では、仲間の死を悼むだけの理性がある目の前の連中には、いささか同情的な部分があった。

 無論、自分で下した選択に対し責任がつきまとうのが世の常だ。 相手を全てにおいて可哀想だと決めつけるのは流石に無礼であるとオルガも理解はしていたものの、今回のような誰もが想定していないような状況であった場合、そうも言っていられないというのが本音だった。 

 故に、しばしの間を置いてオルガは一つの提案を持ちかける。

「一時休戦だ。 この際、あんたらが俺の命を狙ったことは水に流す」

 その問いかけに、ヴァイキーンらは訝しげにオルガを見つめる。 だが、オルガは構わず続けた。

「安心しろ。 背後から撃ったりはしねぇし、出し抜いて宇宙船をパクったりするような真似はしねぇ」

<何のつもりだ? 信用出来んな>

「100%打算だ。 今言った通りのことをあんたらにやられたくねぇからよ……こんなどこから得体の知れねぇ敵が出てくるか分かんねぇ場所でな。 敵は減らしておきたいんだ」

 しばし、沈黙する。

「それにだ。 ここの腐った脳みその連中より、まだ生きて死んだ仲間を悼んでる海賊連中の方が話が通じるからよ」

 オルガの提案に、ヴァイキーンとコーバックスは互いに目を見合わせて、ため息をついた。

 

 

 そして互いに頷くと、銃を下げつつこう言った。

<……良いだろう。 確かに貴様と争うより、ひとまずこの船から脱出するのが最優先だ>

「幸い海賊連中には顔の利く相手がいるからよ。 逃げ延びた先の当てなら『自由の声』の連中なら何とかなるだろうな」

 あそこには幸い組織を掌握したマクギリスらがいる。 オルガがその口にした名前、ヴァイキーンとコーバックスは驚いたような表情を見せた。

<自由の声……ふむ。 思想の強い連中だが、勢力だけならこの近辺の星系を含めても屈指の連中だ。 それが後ろ盾ともなれば……>

「――――決まりだな」

 二人の間から警戒が解けたのを、オルガはハッキリと手応えを掴んだ。 どうやら仲良しこよしとはいかなくとも、一時的な共闘関係を結ぶことは出来たようだ。

 束の間を開けてヴァイキーンが、そしてコーバックスが告げた。

『ハモンド』だ。 殺されたあのファミリーを引き連れていた、隊長だった>

<私は『ダニエルズ』、システムエンジニアだ……君の名を聞こうか>

「俺は、鉄華団団長……オルガ・イツカだぞ……」

 ヴァイキーンはハモンド、コーバックスはダニエルズと、そして自身の名を名乗ったところで、早速オルガが切り出した。

「現状を確認しよう……ハッキリ言って状況は最悪だ。 先ずこの石村とか言う採掘船だが、恐らくは艦内はあの化物共で溢れかえっている」

<ああ、我々もここにたどり着く道すがら、手から刃の生えたあの奇妙なクルーのなれの果てに何度も襲撃された>

<一秒たりともこの場に留まるべきではない。 幸い我々の宇宙船は、君の乗ってきた船が石村のドックに不時着したのを見て、慎重に着艦を果たした……だが>

 ダニエルズが言い淀んだと思えば、少し後に続けてこう告げた。

<着艦と同時に我々の船も『パルスドライブ』の回路と『ハイパードライブ』の主要部品である『シンギュラリティコア』が故障した……原因は経年劣化、修理不能だ>

 おいおい、碌なメンテもせずに乗ってたって言うのか?」

 オルガは驚愕する。 それに対しハモンドがため息をつきながら答えた。

<言いにくい話だが、我々も不景気でな……それこそお前の船をバラバラにしてでも必要な資材を得る必要があったのだ>

「マジかよ……」

 頭を抱えるオルガだが、一方でダニエルズが補足する。

<だが、不幸中の幸いとも言える。 ここは大型採掘船……今はないが、地上に降り立つ為の船をいくつも抱えていた。 当然修理する為の部品も残っている可能性は高いだろう>

 そこまで言われてオルガは気づく。 ダニエルズの言ったシンギュラリティコアと言えば心当たりがあった。

「シンギュラリティコアなら、俺のUSGケリオンのを確保しておいた方が良いかもな。 こっちも少し回路がショートを起こしてはいるけどよ、心得のある奴が修理すれば何とかなるかもしれねぇ」

<そうか、ならばそうしてくれ。 確実に入手が見込めるなら、修理できそうな程度の故障ならそちらを当てにした方がいいからな>

<では我々はまずブリッジへと向かおう。 あそこならば艦内の区画が閉鎖されていても、恐らくはそちらから解放することも出来るだろう。 艦内のトラムを呼び出すにはそちらの端末を操作しなければならない。 探してくれないか?>

「……成る程、そっちのスペースが駅っぽいのはトラムが通ってるからか。 待ってろ」

 どうやらこの石村の艦内は短距離テレポーターではなく、モノレールのような小型の鉄道車両で大まかに区画を行き来する仕様のようだ。

 オルガは窓の側にあるコンピューター端末にスキャンをかけてみると、トラムを制御する為の端末は直ぐ目の前にあった。

「こいつか……と言いたいが、悪いが俺はこの手の機械操作はさっぱりだ」

<コンピューターをオーバーライドする。 機材と君のスーツを接続してくれ>

 オルガは言われた通り、スーツのコネクターを制御端末の外部入力端子に接続する。 するとダニエルズはタブレットを手早く操作し、オルガの目の前の端末から機器がオーバーライドされたという通知がホログラムで浮かび上がる。

<無線オーバーライドによる外部入力を受付中……トラムの呼び出し申請が受理されました>

「クリアだ」

 数秒後、左側からハモンドらのいる駅舎に小さな車両がやって来た。

<フライトデッキ ― トラム制御室に到着します>

 ホームに響くアナウンスと共にレールの軋むような音が聞こえるが、車両は恙なく動作しているようだった。 トラムの車両はハモンドらの前で停車すると自動扉を上に開放し、何食わぬ顔でハモンドらはトラムに乗り込んでいく。 そして何事もなかったかのようにオルガから見て右側にトラムは発進していった。

<乗ったぞ。 ……何かが天井に当たったようだが、運行に支障はないようだ>

「おっかねぇこと言うなよ……で、俺はこのまま宇宙船まで引き返せば良いのか? 俺が乗ってきたエレベーターは、この階について直ぐにイカれちまったんだが」

<それなら我々の逃げてきたこちら側の通路を迂回して行くと良いだろう。 幸いエレベーター等のトラブルは発生していない>

「分かった。 さっさと船を修理して、ここから脱出しようぜ」

 

 

 

 そう一言告げて無線を打ち切るオルガだが、終わったあとでふとため息をつく。

 自分の意識が戻るなり、宇宙海賊に遭遇したかと思えば次は化物はびこる謎の採掘船に辿り着いてしまい、そこで今度はここに追い込む原因となった海賊と一時的に手を組むことになった訳だ。 色々と言いたい言葉はあるものの、オルガの脳裏にはそれらを一纏めにした一言しか出てこない。

「……クソッタレ」

 ぼやくように天を仰いで呟くオルガだったが、少なくともこれで当面は生き残る目算がついた。 それだけが不幸中の幸いだったと言えよう。

 オルガは首を軽く横に振ると、気を取り直し駅のある方へ続く扉を開ける。 扉の向こう側の広々とした空間へと出ると、そこは幾ばくかの崩落は見受けられたものの、線路を跨ぐように設置された作業用のキャットウォークとそれに通じるはしごは生きていた為、それを渡り駅のホームへと降り立った。

 駅のホームには透明なガラスで仕切られた待合室と、その側にあるダニエルズが言っていた『こちら側の通路』、エレベーターの扉があった。 さっき乗り込んできたと言うだけあって特に故障は見受けられない。

 早速オルガはエレベーターに乗り込み、上の階層へと向かった。

(……また敵が乗り込んできたりしねぇだろうな)

 先程の事情もあり警戒するが、幸いなことにエレベーターは無事に目的の階層へと到着した。 内心胸をなで下ろすが、それでもいつ奇襲を受けるかは分かったものでない。 オルガはプラズマカッターを構えながらエレベーターの外へ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目前に続く荒れた廊下はT字に曲がっており、正面の奥には今し方自分が逃げてきたフライトデッキ。 そして廊下の途中に左側へと突き出た通路があり、壁でその先の様子を窺うことは出来ない。 足を進め廊下の分岐路に近づく度、壁際によって銃口を少しずつ下に向け、廊下の先に身体を乗り出さないよう注意を払う。 際まで接近し、しばしの間を置いて曲がり角に飛び出すと――――

「……トイレじゃねぇか」

 トイレと表示される電光表示板の掲げられた、小さな扉が一つあるだけだ。 敵の姿はなかった。 脅かしてくれる……安堵からかオルガはため息をついた。

(わざわざ寄りてぇとも思わねぇし、まあクリアリングはいらねぇだろ)

 どの道敵は通風口を通ってそこら中から現れる。 こんな所に一々気を取られてやる必要は無いとオルガは無視を決め込もうとした――――――だが。

 

 その扉の向こうから、何か金属の蓋が破られる音と……その直後に大きな物が落ちる音が聞こえた。

 調べるに値しないと判断した矢先にこれだ。 無視して背後から襲われたらかなわないと、オルガはやれやれと言った様子で扉を開け放って中へと入る。

 扉の向こうにあったのは左右に分かれた小さな通路だった。 男性と女性で分けているのだろうか、オルガがそう考えた辺りだった。

 

「……ああクソ、よりにもよってトイレか……ここも死体だらけだ」

「!」

 

 左側の壁の向こうから男性の声がした。 声は若く、どこか聞き覚えがあるそれにオルガは目を見開いた。

 何故ならその言葉は、この世界特有の言語ではなくれっきとした『日本語』によるものだったのだから。

(この声はまさか……)

 他の敵に気づかれるかもしれない恐れがあったが、生存者なら誤射は避けなければならない。 オルガは意を決して入口側から声をかけた。

「誰かいるのか?」

「――――生存者、か?」

 敢えて同じ日本語で呼びかけると、壁の向こうの誰かも反応したようだった。 声色から少し弱っているような印象を受けるが、少なくとも言葉の通じる相手らしい。

「ああ、生身の人間だ。 今からそっちに行くから撃たないでくれよ、兄弟」

 そうオルガは言いながら通路の左側に向かって歩き出した。 銃口を下げ気味に壁の淵に手を添えて右側に続く曲がり角を曲がる。

 

 目前にあったのは、おびただしい血痕と白目を剥いて壁の洗面台に突っ伏す、右半分をそぎ取られた物言わぬヴァイキーンの死体。 そして奥には蓋をこじ開けられた通風口と、その直ぐしたには血塗れで壁に背を預けるように座り込む、スリムな黒い宇宙服の男らしき何者か肩で息をしていた。 左右には小さな銃が握られ、ヘルメットはオルガのエクソスーツのようにスモークのバイザーではなく、甲冑と右目のあたりに縦に二連のアイセンサーで覆われ、中の顔を窺うことは出来ない。

 

 しかし、それはオルガにとって……のみならず、相手にとっても互いに見知った姿であった。

「……オルガ、か?」

 黒ずくめのスーツの男……声の主はこちらを見るなりそう呟いた。 男は首元に手をかざすと、ヘルメットが眉間の辺りから口元と後頭部を回り込むように2分割されて収納され、中の顔が露わになる。

 

 その中性的な造形は変わらずも、憔悴し目に隈もできたその面持ちに、オルガは息を呑んだ。

 

 

 

 

 

「キリト……!!」




 キリト君、再登場!
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