No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~ 作:Easatoshi
そしてすっごい今更ですけど、本作品は元ネタになった作品のネタバレとかがあったりするので、読む際には注意してくださいな。
目次にも改めて書かなきゃ。 と言ったところで53話をどうぞ!
<嘘だ……!!>
目を見開いたハモンドの一呼吸置いてからの一言は、受け入れがたい現実に打ちひしがれた様子がにじみ出ているようだった。
<オルガと我々の船を使ってこそここを脱出出来るのに……これで望みが絶たれた……!!>
それはハモンドの隣にいたダニエルズも動揺を隠しきれないでいた。 無機質で表情の窺えないコーバックスだが、身振り手振りに顕著に表れているようだった。 そんなダニエルズに対し、ハモンドははっとした様子で首を横に振って勇ましく叫んだ。
<ウガァ! ――――ここで我々も諦めたら、死んでいった仲間達にも申し訳が立たない! ……そうだダニエルズ、そこのコマンドコンピューターはどうなっている?>
何かを思いついたように、ハモンドはダニエルズに問い掛ける。
<――――これではただの鉄の塊だ。 艦長のコードで全てのシステムがロックダウン状態にある>
<ならベンジャミン艦長の位置は把握出来るか? 見つけ次第艦長のRIGをトラッキングしてくれ>
「なにか案があるのか?」
こちらを余所に何らかのコンソールを忙しなく操作し始めた2人に、オルガは困惑の色を浮かべながら問い掛けるも、反応はなく黙々とタイピングを続け――――そして何かを見つけたようだ。
<見つけた! ベンジャミン艦長……場所:[医療室]、状態:[死亡した]?>
「艦長が死んでんのかよ! なんてこった……!」
オルガは頭を押さえた。 しかしそれはそれとして、突然艦長の所在を調べ始めた2人の意図を掴みかねている。
<オルガ、お前の方が医療室に近い。 引き返して艦長のRIGのデータを入手しろ。 彼のデータがあれば――――今のはなんだ?>
「?」
突然ハモンドが何かに気付いたように明後日の方向を見た。 目を凝らし視界を掠めたそれを注意深く見やる。
ダニエルズもそれにつられて周囲を見渡し始めた。
「おいどうした?」
<チェン……か?>
通信越しのハモンドが怪訝な眼差しをしばし送っていた直後、何かのうなり声が彼らのいる部屋に響く。 この声はゲックのような、喉を鳴らす爬虫類を思わせる奇妙な声だった。
(
<!! まずいハモンド、逃げるぞ!!>
先に異変を正確に察知したのはダニエルズの方だった。 タブレットを脇に抱え、ハモンドの肩を叩いて逃走する。 ハモンドも狼狽した様子で、側に立てかけてあったであろうライフルを拾い上げてその場を立ち去った。
その直後、まだ消えていないホログラムウィンドウにそれは一瞬映り込んだ。
四つん這いで背の低いずんぐりとしたその体の背から、鋭い先端を持つ幾ばくの触手を生やした何者かを――――映した辺りで通信が途絶した。
「今のはゲックか……それよりも」
オルガは呆然と、たった今見たそのバケモノの後ろ姿に思考を巡らせていた。
アレはゲックだ、それも身に纏っていたエクソスーツの残骸のデザインには見覚えがある。 それとハモンドが呟いたその名前は、つい先程ウィンドウ越しにオルガの目の前で、背後から胸を貫かれた仲間のゲックではなかったか――――?
そこまで考えた辺りで、オルガはふと我に返るなりキリトの方を振り返った。 どこか自嘲めいたような雰囲気を漂わせ、オルガの目にはばつの悪そうな気まずそうな様子にも見てとれた。
「キリト、気を取り直していこうや。 シンギュラリティコアの事は残念だった」
キリトは深々とため息をつき、ヘルメットを手で押さえながら項垂れた。
「姿勢さえ崩さなかったら、壊されずに済んでたかも知れないって思うとな」
「船ごと吹っ飛んだんなら同じ事だろ。 気にすんな」
「……分かってはいても、な」
キリトは気落ちした様子で沈鬱な気分は拭えないでいた。 オルガも彼の心情を慮り、余計な慰めはしないことにした。
今の彼にとって必要なのは慰めよりも、次にすべきことに向かい合うよう告げるべきなのかも知れない。 そう思ったオルガはキリトに問いかけた。
「それよりもだ。 ハモンドの奴、どうして艦長のRIGがどうのと言いかけたんだ?」
「……情報じゃないか? あれは当人のバイタルだけじゃなく、周辺で起きた出来事なんかの情報を記録する役割もある……まあ、早い話がブラックボックスにもなる訳だ」
キリトからRIGについての話を聞かされた時に、オルガは腑に落ちたような気分になった。
「成る程、艦長程の権限を持つような奴のデータなら、艦内の大半の情報と脱出の手がかりが他に見つかるかも知れねぇって事か」
「そう、かもしれないな……きっとそうだ」
何とか気を持ち直しつつあるキリトに対しオルガは前を向き、自らの意思を固めるようにキリトに告げた。
「行こうぜ、その医療室とやらに」
「そうだな。 腐ってばかりもいられない」
オルガとキリトは自分を鼓舞するように言い聞かせ、艦長のRIGを求めて医療室へ向かうことにした。
当初は道を引き返してトラムを使用し、医療室までショートカットを行う予定だったが、医療室側のトラムステーションがオフラインになっていたことからそれは断念し、別の連絡通路を使ってフロアを移動することになった。
「……ハモンドだっけか? 海賊にしては、随分理知的な奴だったじゃないか」
医療室への道中、不意にキリトはオルガに対しハモンドのことを問いかけた。
「ああ、それについては俺も意外だった。 あれでもここに俺を追い込むまでは、部下に野郎共とか声を荒げてたんだぜ」
「そこはヴァイキーンってのもあるんだろうな。 あいつらは戦闘種族だ、雄叫びを上げたりするのはままあることだ」
キリトはヴァイキーンという種族のことを、オルガよりは知っていると言ったような口ぶりで話した。
「で、仲良くやれそうか?」
「勘弁してくれよキリト……そもそも俺をここに追い込んだのはあいつらなんだぜ? 第一まだあいつらの事をろくに知らねぇんだ」
「だろうな」
困惑気味に返答するオルガに、キリトは苦笑いを浮かべながら返した。 オルガからすれば、あの海賊の船長達は自分に厄介ごとを背負わせた存在だ。
彼らのせいでこんな得体の知れない採掘船に迷い込んだことを少なからず根に持っているオルガにとって、相手と手を組んでるのはあくまで利害上の問題で、まだ人柄云々をそう易々と受け入れられる訳もなく、彼らもまた同じように考えているだろうと踏んでいた。
これが初めての死を迎える前の元の世界での出来事なら、筋が通らないと頑なに協力をしなかったろうが、しかし長年の異世界放浪により見た目以上に老練となったオルガは、そう言ったムキになる部分を一旦側に置いておき、一先ずは状況を打破する為に協力することに努めていた。
故にこそ、こうして冷静に対応出来ているのだろう。
「……そろそろ連絡通路を抜けるぞ」
キリトの先導で短いようで長かった死臭漂う通路をくぐり抜け、医療室側のトラムステーション……その入り口にたどり着いた。
オルガとキリトは互いに壁を背にドアを挟み込み、顔を見合わせて頷くと扉に手をかざす。 扉の開閉を制御するホログラムが回転し、しばしの後に扉が開放される。
武器を構え2人揃ってフロアに足を踏み入れた先に待っていたのは――――
「グハッ!!」
ケリオン内でキリト達を襲ったのと同じ、サソリのようなバケモノが尻尾の槍で乗組員の胸を貫いていた!
血を吐き悶絶するヴァイキーンの乗組員を見るなり、オルガはモンスターに対しあらん限りの怒りを向ける。
「この野郎ッ!!」
オルガはプラズマカッターを構え、モンスターが乗組員から槍を引き抜いて振りかざしてきた瞬間にそれを叩き込んだ。 直撃を受けたサソリの尾は焼き切られ、体液を撒き散らして吹き飛んだ。
そこにすかさずキリトによる追撃。 両の手で構えた二丁の拳銃らしき何かを素早く構えトリガーを引く――――素早く数回タップするとシリンダーから空気の抜ける音と共に、サソリの顔面に金属片がヒット! 頭部に鋲を生やしながらサソリは大きく仰け反り仰向けに転倒。 痙攣の後完全に動きを止めた。
「キリト! そいつを頼む!」
「分かってる! おい、しっかりしろ――――うっ!?」
負傷者に駆け寄り身を屈めて介抱するキリトだったが、その貫かれた胸の傷を見るなり険しげな声を上げる。 オルガの方を振り返るも、フルフェイスヘルメットの為にその表情は窺えないが、刺された被害者のうめき声と首を横に振るキリトの様子から、最早助かる見込みがないことが見て取れた。
「ウ、ウガァ……た、頼む……奴をここから……」
致命傷を負ったヴァイキーンが震え声でキリトに懇願し、その命が今まさに尽きようとしていることをオルガは悟った。
彼は震える手をキリトの左肩に置き、その手に力を込めるもその手は空を切るばかりだ。
「ダメだ……喋ったら死ぬぞ……!!」
「お、俺はもう、助からない……これを、持って、行け……!!」
ヴァイキーンは虫の息で、自身の左腕のリストにくっつけていたモジュールをたどたどしく取り外し、それをキリトに渡してやる。
「た、頼む……奴らを石村の、外に出して、は……」
それだけを言い残しヴァイキーンは力なく頭を垂れると、二度とその顔を上げることはなかった。
「……了解した」
キリトはヴァイキーンに黙祷を捧げると、託されたモジュールを片手に側のライフルを拾い上げ、オルガに向き直った。
「何を、預かったんだ?」
オルガが問いかけると、キリトはそれらの装備をオルガに渡してやった。 オルガは預かったそれにスーツのスキャンをかけてやる。
「『キネシスモジュール』……だと?」
「早い話が念動力を扱えるようになる機械だ。 これがあれば重量物や固着した物体も簡単に動かせる、限度はあるけどな……」
キリトの説明にオルガは感心したように声を漏らす。 似たような力である魔法については異世界の旅の中で、技術として体系化されていることは知っていたが、この世界においても類似した力を科学技術によって実現しているとは、オルガの想像だにしなかった事だ。
「こいつはすげぇな……少し使ってみるか」
そう呟いたのちオルガは、モジュールをヴァイキーン同様に左腕のリスト、ステイシスデバイスとスペースを共有する形で実装する。
操作についてはスーツがガイダンスをバイザー内に投影してくれたが、そこにキリトが注意を呼びかけた。
「おっと、取り扱いに気をつけてくれよ? それはちょっとした程度の重量物なら、勢いよく投げ飛ばせてしまうんだよ……そう言う
含蓄のある言い方にオルガは神妙に問うた。
「どの程度のうっかりなんだ?」
「パイプがぶっこ抜けた上、吹っ飛んだ勢いで近くにいた作業員を掠めるように壁に突き刺さった」
「金属パイプが金属製の壁をぶち抜いたのか」
「その後、頬を掠めた作業員の拳が投げた奴の顔に刺さった」
「とんだうっかりだな……気をつける」
「そうしてくれ」
皮肉を込めた応酬を終えると、オルガもキリトと同様にヴァイキーンに哀悼の意を捧げようと、左腕のモジュールを翳すとそっと触れた。
すると淡く光を放ったモジュールから不可視の力が発現し、ヴァイキーンの遺体を持ち上げてみせた。 そのまま遺体を床に横たえると、オルガはそっと手を合わせ黙祷を捧げるのだった。
「大事に使わせて貰うぜ」
そんなやり取りを2人で交わすと、改めて医療フロアへと足を踏み入れた。
道すがら、オルガはキリトに問いかける。
「キリト、そう言えばさっき何を撃ったんだ? そもそもお前、飛び道具に精通していたか?」
「こんなでも工具だよ」
キリトは先程サソリに叩き込んだ二丁の工具をオルガに見せてやった。
「『リベットガン』、読んで字のごとく金属製の鋲を打ち込む機械だ。 低反動で狙い通りに飛ぶけど、点制圧でストッピングパワーは無い」
「だからしこたま叩き込んだ訳か。 でも、よく二丁拳銃なんか使えたな? 二刀流はゲーム内のスキルかと思ってたんだがよ」
疑問を口にするオルガに対し、キリトもそれについては怪訝なまなざしで返した。
「何だったらSAOの中みたいにソードスキルも使える。 アスナもな……アトラスシステム風だけどしっかりUIも実装されてるぜ」
「……つまり、ここは現実の世界じゃねぇってか?」
キリトは首を横に振る。
「主観的な話し方でロジカルじゃないが、少なくともこのクソッタレな空気感はゲームでは感じられない……むしろゲームであって欲しかったけど、な」
キリトは自嘲気味に鼻を鳴らす。 彼とてゲームには何かしらのトラウマはあるだろうと思ったりもしたが、それでもそうであって欲しいと感想を漏らすキリトに対し、自身も同じ目に遭っている身の上として気持ちは痛い程に理解できた。
そんなやりとりをしつつ二人は医療フロアの探索を続けていくうちに、とある大部屋へとたどり着いた。
2階建て構造の2階部分、手すりで囲まれた大きな吹き抜けのある部屋。 その吹き抜けに近づき、手すりに身を預けて下の1階部分をのぞき込むと、何かしらの研究機材のようなものが散乱しており、そんな様子からここは医学の研究室の1つではないかと推測した。
「立派なもんだな。 随分とデカい船だ」
ふとオルガがこのUSG石村の規模の大きさについて口を漏らす。
「この石村は就航60年以上、正規のクルーだけでも1000人超えの人員が勤めてたんだ。 正直今でも全ての構造を把握できてないな」
「その数が何らかの原因であんなバケモノに変異した……?」
「……これでも数時間まではまだ大勢の生存者がいたんだ。 考えたくもない」
身震いするようにキリトがそう漏らしたその時、フロアの奥から何かの動く気配があった。
とっさに身構える2人が遭遇したのは、オルガをこの地獄へと誘った赤く禍々しいサイレンの光だった。
全ての出入り口がロックダウン! ドア前に浮かぶホログラムが全て一切の操作を受け付けない状態になったその瞬間、締め切った通風口の扉など何の意味もないとばかりに、正面の少し離れた場所のファンを蹴破り現れたのは、両手に鎌と腹部から新たな腕を生やしたヴァイキーンだったものだ!
「『スラッシャー』かッ!!」
キリトはリベットガンを突き出し、二丁拳銃で敵の体の節々に金属の鋲を叩き込む! 速度が落ちはするがしかし、相手を足止めし転倒させるまでには至らず、敵の接近を許しそうになる――――しかしそこにオルガのフォローが入り、間接に鋲を打ち込まれて脆くなっていたところへのプラズマの刃! 両手足を難なく切断し身動きのとれなくなった鎌のバケモノ、キリトがスラッシャーと呼んだそれは、赤くどす黒い体液を散らし物言わぬ死体に返っていった。
「助かった」
「こいつそんな名前だったのか?」
「ここのクルーが便宜上そう呼んでた。 名付けたそいつはもういないけどな……」
「チクショウめ――――まだ来るぞ!!」
皮肉めいた掛け合いをする間もなく、今度はオルガ達の周囲全てのダクトから、同様に蓋を破って敵が出現する。 互いの死角を補うように背中を合わせ、周囲を見た先にはスラッシャーと先程クルーを刺し殺したのと同様のサソリが取り囲んでいた。
第一陣にサソリが飛びかかった。 上半身のバネだけで驚異的な跳躍を見せ、キリトに飛びかかる。
「キリ――――「任せろ!!」
キリトはサソリの顔面に鋲を叩き込み、双眸に金属片を埋め込んで視界を潰す――――着地点を見失ったサソリに対し、キリトはリベットガンを真上に放り投げ、腰元から2本のナイフを引き抜く。 グリップを強く握りしめたそれは刃の部分が赤熱を帯び、炎に包まれたエッジを交差させ、ハの字を描くように振り抜いてサソリの首と両の腕めがけて一撃!! 関節を引き抜かれた人形のように各パーツがバラバラに、着地をしくじったそいつに対しキリトは落ちてきたリベットガンをキャッチ。 ダメ押しと言わんばかりに容赦なく重力靴によるストンプの追撃――――鋭い針の生えた尻尾を押しつぶしちぎった! 敵沈黙。
「やるな、キリト!」
「オルガ!! 前!!」
目を見開いてオルガに叫ぶキリト。 つい振り返ったオルガの背後には敵の影が、スラッシャーらしきそれが腕の鎌を事前動作なしに振り抜き――――それはオルガの首にヒットすることなく空を切った。
とっくにお見通しだった。 身を屈め、振り抜かれたその腕を掴んで見事に一本背負いを決め、床にたたきつけるオルガ。 首元にキリト同様にストンプを叩き込んで喉を潰すと、プラズマカッターで両腕を泣き別れさせる。 これも沈黙。
「オルガこそ、どこでそんな近接戦闘を習ったんだ?」
「俺は元々PMC出身だ! それと異世界での経験が少し!」
「納得!」
再び背中を合わせると、後続の敵が次々と迫っていた――――次は同時に3体接近! キリトに2体、オルガに1体だ。 近接攻撃を除きストッピングパワーに劣るキリトの方が数が多い――――身構えたキリトだが、瞬時にオルガが出した判断は――――
(アレを使ってみるか!)
オルガはそんなキリトの背後から左腕を突き出し、ステイシスデバイスを作動! 淡い光が放たれると、2体のスラッシャーに命中。 スローモーションに減速した。
「――――ステイシスか!」
キリトはオルガの方をむき直すと、オルガの目前に迫っていたもう1体の敵、スラッシャーにリベットガンを放つ! 先程と同様に目潰しをして仰け反らせると、オルガが跳び蹴りを浴びせ、重力靴の暴力で両方の方を潰す! 沈黙。 向き直ったその勢いでちぎったスラッシャーの腕を拾い上げ、その鎌でスローモーションに陥ったスラッシャーの片割れの胴体を袈裟斬りにする! キリトもオルガに倣い、両手に構えた2本の熱伝導ナイフでもう1体の両手両足を手早く切断! 排除に成功する。
「どこで手に入れたんだそれ!?」
「クルーのゲックから遺品分けして貰った!」
「そいつは8桁ユニットはする高級品だ! 大事にしろよ!?」
「腕時計にしちゃゴツいがな!」
オルガらは苦笑しつつも数少ない武器の弾を駆使しながら、接近戦、時には強力なツープラトンも駆使して極力弾を節約しながら敵を捌いていく。
一体のサソリの胴体をプラズマカッターで横に両断し、沈黙させる。
「はっ、はっ……こ、コイツのことは、さしずめ『
キリトは今排除したサソリを見て口を漏らした。
「見たまま、スコーピオンとかじゃ、ダメなのか?」
「動きの方を、名前にした! それで、いいか!?」
「OKだ!」
時に応酬し、戦意を高めながら猛攻を凌ぐ2人。 しかし開いたままのダクトからはまだ敵が続々と現れる。
オルガは息も絶え絶えにプラズマカッターに浮かぶ残弾数の文字を確認しながらキリトに問うた。
「俺は、後6発だ! キリト、リベットの数は、後、どれくらいだ!?」
「右が8発、左が、6発だ! ついでに、ナイフの、バッテリーも、そろそろ、切れそうだ!」
たどたどしい言葉で互いの情報を共有する。 オルガは内心毒づいた。 現れた敵は6体、しかしこちらの残弾で全てを倒しきるには弾が足りない。 ステイシスのエネルギーも最大で3発、既に底をついている。
そんなこちらの窮状を察したか、敵は戦力の逐次投入を止め、まとまった数で一気にこちらに迫ってきた。 後続が現れる気配はない、最後の突撃だ!
(落ち着け! 他にもまだ武器になりそうなものはなかったか!?)
ゆっくりとした時間の動きにも感じられる程、集中力を研ぎ澄まし思考を巡らせるオルガは、この残弾不足を補う一手は無いかと思考を巡らせた。 近接戦闘も出来なくはないが、いくらノックアウトを狙っても敵は痛みを感じず、身体の一部がもげようともお構いなしに突進する。
これまで余裕で捌いているようにも見えるが、体格はそもそも相手の方が上。 屈強なヴァイキーンの身体は、にわかには信じがたいがウマ娘の膂力にも勝るとも劣らない。 捌けるだけ凄いのだが、それでもこちらの息は既に上がっていて、苦痛をものともせずに襲ってくる相手に何度も同じ事を繰り返すことは出来ない。
迫る敵、その内のサソリ……リーパーが飛びかかりの態勢に移るのを見た瞬間、オルガはあることを思いだした。
(クッ、アイツ!! 勢いよく飛び跳ねようと――――勢いよく、飛び――――!?)
オルガの脳裏に思い返される、先程キリトと話していたキネシスモジュールとやらの事故。 今はステイシス同様オルガの左腕に装備されたこのモジュールに一瞬目をやり、閃いた。
「これだッ!!」
オルガは左手をかざし、ぶっつけ本番でキネシスモジュールを作動させた! 伸ばした先は、敵の後ろで転がっている消火器!
目視できる磁気のようなエネルギーがそれを掴むと、目にもとまらぬ勢いでオルガのかざした左腕の前に引き寄せられ、浮遊する。
「オルガ!?」
キリトが驚いたように声を上げるが、しかし返事はしない! オルガは迫り来る敵達の足下めがけ――――そのキネシスモジュールで掴んだ消火器を解き放つ!
キログラムの金属のボンベは弾丸のような勢いですっ飛ぶと、一体のスラッシャーの足下で炸裂し消火剤と金属片をまき散らし破砕! 敵一体をズタズタにした後にまき散らされた粉末が敵の目をくらませた! 千載一遇のチャンスを逃さないオルガと、条件反射で動いたキリトらのありったけの弾を、怯んだ敵達に叩き込む。
プラズマと鋲の的確な攻撃が1体、2体、そして3体と屠り、残りは2体!
オルガは先程と同じ動作でキネシスを用い、折れていないスラッシャーの鎌を拾い上げ、残り2体に手当たり次第に撃ち込んでいく。 現れた敵の分だけ、その鋭い破片を雨あられのように叩き込まれ、1体は根負け失意にダウン。 しかしもう一体は既に負け戦も同然ながら辛うじて耐えた。
「てめぇは串焼きにでもなりやがれ!!」
オルガはトドメと言わんばかりに、自身の背後の壁に備えられていた手すりにキネシスを作動させ、ネジをぶち抜きながらもぎとると、それを満身創痍の敗残兵に解き放った。
手すりのパイプが心臓に突き刺さると、その勢いのまま人体だったものを壁に張り付けに! 勢いよく叩き付けられ大の字に、突き刺さったパイプは大きく震え、やがてその収まりと共に最後の敵も力尽きた。
消えゆくアラームと無機質なアナウンスが、オルガらの試合終了の知らせを告げた。
「なんだよ……結構当たんじゃねぇか」
オルガは安堵のため息を漏らすと、そのまま床にへたり込んだ。
「大丈夫か? オルガ」
キリトが心配そうに声をかける。
「あぁ、何とかなったな……」
「まさかキネシスにそんな使い道があるなんてな」
「キリトの積もらない話のおかげだ。 もっとも、敵さんに殴られちゃかなわねぇから、黙らせてやったがな」
2人は互いに顔を見合わせると――どちらともなく笑いあった。 辺りは死屍累々、アラームが消えてもなお白亜の城を染め上げる血だまりに、凄惨な空間だが束の間の休息を得ていた。
「とにかく、ひとまずは脅威を排除できたな。 正直これ以上来られたらヤバかったけど、な」
「あぁ……あとはこのフロアの探索だけだ。 下へ降りようぜ」
2人は肩で息をしながら、奥に見える1階へのリフトを発見。 重たい足を引きずりそこに乗り込むと、簡単なボタン操作で昇降機を作動させ、研究フロアとも言える下の階へ降りる。
戦闘は全て2階で行われた為少々の破片は飛んでいるが、辺り一面赤く染まった先程の階層と比べれば幾分はマシに感じられた。
して、リフトを降りた先には上部に『カイン博士』と案内表示が書かれた部屋の入口と、それと向かい合う形で小さな小部屋があった。 こちらの案内表示はノイズがかかっていてハッキリとは窺えない。 オルガはなんとなくであるが、案内板にノイズが走っている部屋の探索から始めることにした。 お互い扉の側の壁に背を預け、互いに目でやりとりをするとホログラムに手をかざし、扉を開放する。 先にキリトが飛び込み、オルガがその背後を守る形で背後からの奇襲に備えた。
中は何かしらの詰め所のようだった。 研究機材ではなく、壊れた武器と思わしき破片の数々とおびただしい血が部屋中に散乱しており、部屋を赤いブチ模様で彩っているような毒々しい有様だった。 これが数時間前のオルガやここに来る前のキリトならも顔をしかめていただろうが、慣れというものは恐ろしいもので、敵が今は現れないと言うことで安堵するばかりか――――
「良かった。 大量の発射弾が残ってる」
「弾切れで不安だったが、しばらくは凌げるな」
淡々と残弾を漁っていた。 キリトが拾い上げたマガジンを手に持ち、オルガも同様にプラズマカッターにエネルギーを充填していく。 この2人は当然のように誰かが死んでいく生き地獄に、哀しい程に適応しつつあった。
「弾は可能な限り持っておけよ?」
「言われなくても――――ん?」
部屋を漁る中、キリトはテーブルにのっかったままのちぎれた腕の下に何かを発見する。 おもむろにそれを掴んで引っ張り出すと、それは何らかの記録媒体のようだった。
「どうしたキリト?」
「
「俺が再生する」
オルガはキリトからメモリを預かると、それに入っていたであろうデータを漁ってみる。 その中に入っていたのは映像記録のようだ。 にべもなくそれをキリトにも見えるよう目前に映像を投影しつつ再生してみる。
そこに映し出されていた内容に、オルガらは驚愕した。
<オルガ……ゴメン。 許してくれなくてもいい。 でも、どうしても言っておかなくちゃダメなんだ>
映像の中で自身の名を呼ぶ……同姓同名の別人が相手とは絶対にあり得ないと断言できる、あまりに懐かしいその姿。
<思いがけない形で再会して、直ぐに別れたあの時にした約束。 それを果たそうとこのUSG石村に乗り合った>
しかし今スクリーン越しに現れたその出で立ちは酷く憔悴して、目の下に深々と出来たクマの深さが困窮を物語る。 引き締まるもそれなりに気にはしていた低い背丈が、一層小さく見える程の弱々しい姿。
<……ここは地獄だ。 あのギャラルホルンになぶり殺されそうになって、深海棲艦やネウロイ、ガストレアと戦ったあの戦場よりも、ずっと酷い。
皆死んだ。 もう俺の周りには誰もいない。 乗り合っただけだけど、それなりに親身になってくれたクルーと一緒に、この艦は死に絶えた>
その背後には、黒光りするうねった巨大なオブジェが静かに、そして不気味に鎮座していた。
<オルガ、このメッセージを見てるなら、聞いてくれ。 ……石村には着艦するな。 もう一度言うよ、石村には、絶対に、着艦するな>
映像の背景に、次第に大きくなってくるうめき声の数々……それはオルガらをしきりに襲おうとする、あのバケモノ達の忌々しい声。
<アイツらが言った、あの『ネクロモーフ』って死に損ないを、この船から出す訳には、行かないんだ……!!>