No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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感想欄を見て、暗に修羅場期待されすぎてて変な笑いが出た今日この頃。


第7話

基地建設から初めての夜を過ごしたその翌朝。

「おはようございます」

 一足先に目覚めて朝食の準備をしていたトウカイテイオーとペコリーヌに、オルガはイヤに丁寧な口調で朝の挨拶を済ませる。

「おはよーダンチョー。 相変わらず朝の挨拶は丁寧だね」

「おいっす~☆ オルガ団長! 今朝ご飯の準備中ですよ! もうすぐで出来ますからしばしお待ちあれ!」

 そう言って二人も手際よく朝食を作りながら、笑顔でオルガを迎え入れる。

「俺も何か手伝うぜ?」

「ありがとダンチョー! でもこっちは手が足りてるから、スペちゃん達起こしてきて!」

「おう!」

 テキパキとペコリーヌと共に朝食の用意をするトウカイテイオーはそう言うと、オルガにこの基地で寝泊まりする残りの面々を起こしてくるように頼む。

 頼まれたオルガは快く返事をして、残り4人のいる部屋の外から壁を叩いてノックする。 シェルターに実装される扉は全て自動扉なので、うっかり開いてラッキースケベを決めてしまうわけにもいかないからだ。   

 軽く拳を当てて音を立ててまわりながら、外から声をかけていくオルガ。

 

「ふわぁ、おはようオルガ」

「後もう少しだけ寝かせてよぉ」

「ダメだ。 こういう時だからこそ節制を怠るなよ」

「おはようございますオルガさん……ああよく眠れたぁ」

 呼びかけに答えるように、シャルロット、キャル、ラウラ、スペシャルウィークの順で部屋から出てきた。

 全員が寝間着のようで、どうやらエクススーツではない普通の服も、彼女らの手荷物の中にあった事が窺える。

「ペコリーヌとトウカイテイオーが朝飯作ってくれてるぜ。 今日も探索が始まるんだ、美味いもん食って精をつけとこうぜ」

 オルガの言葉に一同は広間のテーブルに向かう。 テーブルには既に人数分の配膳が済んでいた。

 質素な材料ではあるが美味しそうな盛り付けに皆が顔をほころばせ、トウカイテイオーとペコリーヌの二人は互いに見合って得意げに笑う。

「それじゃあ皆さんごいっしょに~?」

 

「「「「「「「いただきます!」」」」」」」

 

 オルガ達は朗らかに朝食を楽しんだ。

 

 

 

 

 そして一時間後、団欒の中の朝食を満喫したオルガ達は気を引き締め、エクソスーツを身に纏い基地の外へと足を踏み出した。

「気温は19℃、少し肌寒いかもだけど十分過ごせる温度だよね?」

「この星の空気は『窒素』『酸素』で出来てますし、そのままの服でも外に出られるかもしれませんね?」

 トウカイテイオーとスペシャルウィークは、この周辺を普段着で出歩きたそうに口を出すが、それに待ったをかけたのはシャルロット達であった。

「成分的には地球の大気に近いだろう……が、今はダメだ」

「未知の病原菌の可能性も有るし、危険生物がいるかどうかの調査も済んでないからね。 普段着はまだフィルタリングの完璧な基地内だけにしておいた方が良いよ」

うっ!! ……そ、そうする」

 尻を押さえながらトウカイテイオーは覇気の無い声でか細く答えた。 どうやら尻を噛まれたことが余程堪えたらしい。

「それで? 次はどうすんのオルガ?」

「あー、まずはそうだな。 ペコリーヌの宇宙船だろ? アレ」

 キャルからの問い掛けにオルガは目線をやると、昨日から変わらず故障したままの宇宙船がそこにあったことを思い出す。

 球体のようなコクピットに、黄金色の鳥のくちばしのような先端部と垂直尾翼を装備した、シンプルだがそれでいてどことなく優美さを感じる宇宙船……名前は『プリンセスストライク』となっている。

「何だってこんな派手に故障してんだ? 俺達の宇宙船も見つけた時は故障してたけどよ、まさかこの状態のまま宇宙行ってたとかねえよな?」

「違うわよ。 アタシ達襲われたのよ……この惑星に着陸する直前に、『自由の声』とか名乗る海賊に」

「! 本当か!?」

 キャルの言葉を聞きオルガは表情を変える。

 自分達はまだ遭遇したことは無かったが、どうやらこの世界にもならず者の類いはいるらしいと言うことを、キャルとペコリーヌの談から明らかになった事に衝撃を受けた。

「流石に私も宇宙船の戦闘なんかやったことないですからね……やばかったですよ」

「ギリギリ逃げ切れたんだけど結局不時着しちゃって……ああもう! 思い出しただけでムカついてきた!!」

 思い出しただけで怒りがこみ上げる様子のキャル。 そんな彼女と怒りを共有するのはオルガだった。

 見知らぬ間に仲間達が傷つけられ、下手をすれば命を落としていたかもしれない事実と、ここに来て治安の悪さに翻弄されるやもしれぬ可能性に憤りを覚えていた。

「……安心しろキャル、ペコリーヌ。 今度は俺も一緒にそいつらに落とし前つけてやる」

 その目はギラついた獣の目になっていた。 気圧されかねない程の怒りにたじろきかけるキャルだったが、今はその怒りが心強かったらしい。 キャルとペコリーヌは真剣な眼差しでうなずいた。

「何にせよ今は宇宙船の修理だ。 二人も一緒に作業工程を見ておいた方が良い。 これから先、応急修理の手順を知るのは必要だからな」

「そうね、そうさせて貰うわ」

「おいっす! オルガ君の修理テク、しかと拝見させて貰いますね☆」

「オルガ、僕達はどうすればいい?」

 シャルロットの問い掛けに、オルガは顎に指を当てて考える仕草を見せると、その指を今度は『基地のコンピューター』に向けた。

「コンピューターのログをもう一度確認してくれねえか? 以前のユーザーのログ、まだ一部しか見れてねぇんだ」

「うん分かった!」

 オルガは向こうのことを彼女達に任せ、自分はペコリーヌ達にレクチャーしながら、彼女の乗ってきた宇宙船の修理に取りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方で、オルガに任されたシャルロットは、手持ち無沙汰な他の3人を集めて、一緒に基地のコンピューターを確認する。

 するとコンピューターの画面には、以前のアーカイブの復元が完了したと突如通知が現れ、中を開いてみる。

<以前のユーザーのログにアクセス中...追加のアーカイブを発見...エントリー#4925Eが残っています...>

 シャルロットは無言でメッセージの続きを送る。

<建設はほとんど -kzztktz- 上手くいった。 近くで『回収データ』を手に入れた。 場所は -kzzkktzz-

<設計図を記録した。 スキャンによると他にも地下装置があるようだ。 探索に行こうと思う...>

 そして、メッセージには例によって設計図もセットになっていたようだ。 メッセージログを見る限り、これを残した者の計画は概ね上手くいっていることがシャルロット達には窺えた。

「何か役に立つ設計図入ってると良いなあ」

「うむ。 しかしこの回収データというのがよく分からんな……」

「ええっと……あ、また見たことない機械の設計図みたいですね。『建設調査ユニット』って書いてあります」

「ふーん、とりあえず建物の中にでも設置してみようか」

 シャルロット達は回収した設計図を持って建物内に戻り、まだまだ余裕のある空きスペースの隅にその機械を設置してみることにした。 目前に現れた細長いその筐体は『磁化フェライト』『カーボンナノチューブ』で容易に製作できた。

「ふむ、どうやらこれは先ほど出てきた回収データを分析する機械のようだ。 場合によってはこの基地に設置できるテクノロジーの種類を増やせる可能性があるみたいだな」

 機械の説明書を読み上げるラウラは、ここにきて先ほどのログにおいて触れられた回収データの重要性に気付かされたようだ。

「でもラウラさん、肝心の回収データはどこにあるんですか?」

「……スキャンして地下装置のような物を見つけたとも言っていたな。 恐らくは……」

 そう言うと、ラウラはおもむろに立ち上がって窓の外へと視線を向ける。

「辺りを分析して地面を探れば、埋まっている痕跡を見つけられるのだろう。だが……」

「このコンピューターを見つけたのって前の惑星の話だよね? そう都合良くこの星にそれらしいのが埋まってるかどうか……」

 シャルロットの疑問に対して、スペシャルウィークとトウカイテイオーも不安げな表情を浮かべていた。

彼女の言い分が正しいのなら、下手をすればまたあの惑星に戻って調査を続けなければならない。 出来ることならテイオーとしては、あのような危険な生物とセンチネルに襲われることを考えればそれは避けたかった。 しかし実際問題、動かなければ手をこまねいて一歩も前進できずに終わってしまう。 それだけは耐えがたかった。

「……とりあえず、ダメ元で辺り探してみる? 幸いスペちゃんもダンチョーみたいな『マルチツール』持ってるみたいだし、インストールしてやるだけやってみようよ」

「そう、ですね……!」

トウカイテイオーの提案に、意を決したスペシャルウィークは、早速『分析レンズ』を実装した。

<テクノロジーをインストールしました>

 そしてテイオーの言う通りダメ元で辺りを見渡すと――――

「あれ? このアイコンがひょっとして……ああっ!!」

 ハッキリと『埋没したモジュール』と書かれたアイコンが、それなりに広い間隔ではあるがこの基地周辺にちりばめられるように埋まっていることが発覚した。 それも内一つは、建設した基地のすぐ側にあった。

「スペ! 早く地面を掘り返すんだ!」

「は、はいラウラさん! えっと、『地形操作機』のレシピは――――」

「これくらいの深さならもう素手で掘っちゃうよ!! おりゃああああああああああ!!!!」

 スペシャルウィークがしかるべき機能を実装する前に、テイオーがウマ娘のバ鹿力を生かして乱雑に掘っていった。

え!? ちょっと待って下さい、せっかくなので……!」

「にっしっし♪ そんなこと言ってる間に、ほら! 掘りあてちゃったもんねー♪」

 テイオーの言った通り、掘り返された地面の中から輝きを放つ機械が発見された。 すかさずラウラはその機械を物色し始め、青白く光る基盤のそれと思わしき目当ての物はあっさりと見つかった。

「ビンゴだ。 お手柄だテイオー」

 一同ガッツポーズ! 早速データを読み取ろうと建設調査ユニットによる分析を試みた。

 驚くことに、このデータには断片化されているが『テレポートユニット』『電池』『ソーラーパネル』等々の設計図のデータが入っており、これらを復元するにはもっと大量の回収データを要求されるらしい。

「な、なんか聞いたことも無いような機械が次々と出てきましたよ!?」

「テレポートって……ひょっとして瞬間移動できちゃったりするの!?」

 驚くスペシャルウィークとトウカイテイオー。 一方で、ラウラは静かに分析結果のデータを眺めていた。

「ねえラウラ、これって僕達の行った宇宙ステーションにあった、あの光る輪っかみたいな奴だよね?」

「そうだな……もしかしたらこの装置を作れば、ここと他にテレポートユニットのある場所を一瞬で結びつけたり出来るかもしれないな」

「凄いよ! よーっし! そうと分かったらどんどん発掘しちゃうもんね! スペちゃんツール頂戴!」

 テイオーはスペシャルウィークの返事を待たず、マルチツールをふんだくるようにして受け取ると、脇目も振らず基地の側にある森の中へ走り去っていった。

「ちょっとテイオーさん!? どこに行くんですかー!?」

「近くにもモジュールって言うの埋没してるんでしょー? ボクがいっぱい集めちゃうもんねー!」

「ま、待ってくださいテイオーさん! 一人で行っちゃ危ないですよ!!」

 そう言うと、トウカイテイオーを制しようとしていたスペシャルウィークまでもが後に続いて行ってしまった。

「こら、待たないか!」

「二人とも! 先走っちゃダメだよぉ!!」

 シャルロット達はついて行ってしまったスペシャルウィークをも見逃してしまった。 いくら膂力に優れたウマ娘の中で、更に鍛え上げられたトップアスリートの二人であっても、鉄火場という意味の実戦経験などあるはずも無い。 むしろ散々前の星で追いかけ回された二人に対し危機感さえ抱いている。

 大変なことになってしまったと、二人して見合わせた顔に焦りの色がにじみ出ていた。

「やっと終わったわ~……思った以上に色んなとこ壊れてて焦ったわ」

「でも、持ってた素材で全てまかなえてラッキーですね! いっぱい働いた後のご飯はサイコーですよ!」

「もう食べること考えてんの……」

「宇宙船の修理は出来たぜ……どうしたシャル。 あいつら二人はどこ行った?」

 直ちに仲間に報告せねば、そう思っていた矢先に作業を終えたオルガ達がこちらに戻ってきた。

 こちらで起きた出来事を関知していないからか、ペコリーヌとキャルは暢気な掛け合いをしているようだった。

「オルガ大変だよ! 二人が――――」

 

 

 

「何やってんだあいつら……」

 シャルロットからこれまでのいきさつを耳にしたオルガは、頭を抱えて力なく項垂れる。

「どうすんのよ……危険な動物は今のところ見かけてないけど、植物の場合は話は別なのよ? 毒ガス噴き出したりハエトリグサみたいなのとか、あとツタで叩いてくる奴とかいるのに……」

「スペちゃんとテイオーちゃんが心配ですね……何かあったら大変です!」

 キャルとペコリーヌの言葉にオルガは焦りを募らせる。 先にこの星に上陸した二人の言うことならば、知られていないだけでこの星にも危険な生物はいると言うことだ。 特にお調子者のトウカイテイオーならば、動物と違ってじっと獲物を待つ植物の場合無警戒に近づいてしまう場合がある。

「あいつら二人はどっちに行った!?」

「そこの森の入り口だよ! 僕達も二人を追いかけよう!」

 仲間思いのメンバーは、返事をするまでも無く一斉にウマ娘二人を追って森の中へ足を進めた。

 

 

 

 

 それから十数分ほどして、五人は森の中で辺りを見渡しながら急ぎ足で、しかし周囲に警戒しながら足を進めていた。 その手には各々マルチツールが握られているが、オルガが丸みを帯びたオレンジのベーシックなピストルタイプのそれに対し、シャルロットとラウラは持ち越したIS共々、標準でバススロットに納められていた突撃銃タイプの武装を、キャルとペコリーヌもピストル型ではあるが、オルガのそれと違った形状のどことなく実験器具を思わせるようなマルチツールを構えていた。

「スペーー! テイオーー! 返事しろー!」

「どこにいるのー!? 危ないから早く戻ってきてー!」

 声かけをしながら足を進めるも、二人のいずれも返事は得られない。 そうして成果を得られないまま森の奥に進んで行くにつれ、徐々に薄暗くなってゆく。

 木々の入り組んだ日差しの強い場所ではないのか、背の高い樹木が多く立ち並ぶそこはまるで自分達を歓迎していないかのようだ。

 そんな中でオルガ達は二人の姿を求めて奥へと進むが、不意にキャルが何かを見つけて声を上げた。

「あ、あそこ! 茂みが動いた!!」

 皆のマルチツールの銃口が、キャルの指さした森の茂みに一斉に向けられた。 襲撃者を予感した皆の間に剣呑とした空気が流れる中、次の瞬間。

 

 

 

 茂みから出てきたのは、人の頭ほどの大きさしか無い小さな生物だった。 は虫類のようなそれは腕の退化したダチョウのように二本足で歩く、二股の尻尾をもつ他愛の無い生き物に見えた。

「……ほ、何よコイツね……」

「皆さん大丈夫ですよ! この子は無害な生き物です☆」

 キャルとペコリーヌが警戒を解く。 先にこの星を見て回っていた二人が言うのだ。 信じて良いだろうとオルガ達も続く。 すると生き物の方も警戒心という物が無いのか、素早くこっちに駆け寄ってきてペコリーヌの足に頬ずりした。 ペコリーヌも生物を拾い上げ、胸の中に抱え込む。

「何だよ……驚かせてくれるな」

 オルガも思わずため息をつく。

 それからペコリーヌがそっと手を差し伸べると、生物はその手をペロペロと舐めてきた。

 くすぐったいのかクスリと笑う。 どうやらこの生き物は、かなり人懐っこいらしい。

「上手くいけばこの子飼育できるかもしれませんね! お肉も美味しいのでお勧めです!」

 食ったのかよ! そう言わんばかりのオルガとシャルロットが引きつった笑みを浮かべた。

 シャルロットもそういった訓練を受けていない訳では無いが、軍属で無い彼女は生物を殺して肉を得る工程に経験は無いく、迷いの無いペコリーヌに若干引き気味だ オルガに至ってはそもそも動物性のタンパク質は、合成肉以外に殆ど経験が無い。

「そいえば、コイツと同じ生物が何匹もやってくるなり、内一匹を誘い込んで迷いも無く屠殺してたわねえ……」

「お肉もしっかり食べなきゃ、このサバイバルを乗り越えられません! お肉もパワーの源です!☆」

「うむ、その通り。 兵站を疎かにして作戦の遂行などあり得ん。 当然の選択だ」

 遠い目をして語るキャルを余所に、ラウラはペコリーヌと固く握手をする。 その口元にはよだれが垂れていた。

「……念のため分析レンズにかけておくか……」

 オルガはペコリーヌの抱える生物を解析した。 入ってきたデータに寄れば、どうやら彼女の言う通り毒も細菌も無い、人なつっこいだけの無害な生き物らしい。

 

 結局の所、人騒がせなだけだったこの生物は食料が間に合っていると言うことと、生物を生育できる手はずも整っていないことを理由に、買うも殺すもせずそのまま逃がすことになった。

「さてと、スペとテイオーの捜索を続けるか――――」

 

 

 

 その瞬間、森の向こう側からスペシャルウィークの悲鳴が聞こえた。

「今の声、スぺちゃんですか!?」

「!! 急ぐぞ!!」

 オルガ達は声のした方へと走った。

 

 オルガ達が駆けつけるとそこには、身の丈ほどの高さと大きさのある黒っぽい円柱状の石と、その側で倒れ伏すトウカイテイオー。 身を屈めて彼女に必死に呼びかけを行うスペシャルウィークがいた。

「おい大丈夫か!? どこか身体を痛めたのか!?」

「何をしているんだ! 仲間もなしに走って行ったら危ないだろう!」

「! ごめんなさいラウラさん! それよりテイオーさんが! テイオーさんがこの石に触れたまま倒れていたんです!!」

 スペシャルウィークは、テイオーの触れていたという黒い円柱状の石を指さした。 どことなく、目を描くように丸く縁取られた光を放っている気がする。

「なんだこいつは? うさんくさ――」

「オルガ! 不用意に触れたら――――」

 シャルロットの忠告虚しく、オルガはその石を引き寄せられるように触れてしまうと、強い宇光が放たれ自身の意識が白く塗りつぶされていった。

 

 その直後にオルガの脳裏に流れ込む――――宇宙の星々において繰り広げられる破壊と戦禍の数々。 逃げ惑う機械のような人間を相手にそれを行うは、かつて銀河を股にかけた始まりの民と呼ばれる種族、後に『ゲック』と呼ばれるは虫類のような異星人による、壮絶な蹂躙劇。

(これは、あのとき拾った像の?)

 オルガはスペシャルウィーク達が回収した小さな像を思い出していた。 あれはこいつらを象った像なのか――――考える間もなく次々と押し寄せる情報の波にオルガは真っ白に塗りつぶされ、ゲック達の言葉らしき見慣れない文字の羅列が頭に焼き付いていく。 そう、これは太古の記憶と彼らの言葉を伝える為の――――

 

「ち、『知識の石』―――グゥ!

「お、オルガさんっ!!」

「オルガ――――かりして――――大丈夫!?」

「大変です――――オルガ君――倒れ――――」

 

 急速に薄れゆく意識の中で、オルガは自分が消えぬよう必死で意識をつなぎ止めようとするが、やがてそれも眩い光に溶け込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが白く塗りつぶされる刹那、光の中にオルガはある少年の姿を見る。

 

黒いくせっ毛に青い瞳、緑のジャケットの背中に白く描かれた、決して枯れない鉄の華。

 

幼き頃から運命を共に駆け抜けた、懐かしき相棒の姿――――。

 

 

 

 

 

 

 

「……ミカ?」


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