No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~   作:Easatoshi

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第8話

 

「何これ?」

 黒一色の中で赤い光を帯びる無機質な空間の中、『三日月・オーガス』は幾何学模様を描く輝ける丸いオブジェクトを前に率直な感想を口にした。

 故郷の火星の暦なら1ヶ月程度だろうか。 この世界にたった一人迷い込んでからと言うものの、頼れる相方と家族に等しい仲間達を探して回っていた。

 孤立無援ながらかつての孤児としての経験が彼を生かしたのか、言葉も通じない相手と身振り手振りながらもやりとりし、時には拾い物の宇宙船を駆って宇宙海賊との戦いに身を投じながらも何とか逞しくやって来ていた。

 そんな彼は、ある星系を宇宙船で飛び回っている最中に菱形の黒い建造物を見つけ、誘われるままに足を踏み入れたのだが、何も無い殺風景なこの建物内の最奥に輝くオブジェを見つけ、今に至る。

「……ここにもオルガや仲間はいない」

 喜怒哀楽をあまり表に出さない彼をしても、どこか寂しげに独りごちる。

(一人でやる事色々考えるの、久しぶりだな)

 いつも持ち歩いているデーツのようなドライフルーツ、『火星ヤシ』を口に入れ、濃厚な甘みを舌で転がしながら黙々と味わいながら考える。

 三日月は初めて、本当の意味で自分で考え行動する機会に向き合っていた。

 それは決して彼自身に自分の意思がなかった訳ではない。 しかし一方で、いつだって自分の行く道やこれからの事を左右する意思決定は、いつもオルガありきで彼の意思に委ねる事が多かった。 

 オルガによって拾われたこの命は、オルガの為に使わなければならないという思いがあったから。

 そしてそれは結果として一度彼らに破滅をもたらし、未来への種を残しながらも彼自身は命を失ってしまった。

 しかしそれは文字通り生まれ変わる機会を与えられたことで、自身のあり方と共にやり直す切っ掛けを得た。 それ以来、彼と共に異世界の旅を繰り返して経験を重ねた事もあり、依存ともとれる関係から徐々に脱却し、本当の意味でオルガや鉄華団の仲間達を助ける努力をするなど成長も見られていた。

(今度こそ、オルガの力にならなきゃって……)

 だがその相手がいない今の状態は、三日月の心に寂寥感を植え付けていた。

 オルガだけでない。 どんな状況であろうとも必ず鉄華団の仲間達……異世界で受け入れた団員達も、そうでなくても共に力を合わせて冒険した者達。 彼らは自身の身の上を知らずとも、笑顔でオルガと共に受け入れてくれたりもした。 それがどれだけ幸せな事か、今の三日月には痛い程わかる。

 だからこそ、この世界で再び舞い込んだ孤独と言う状況に不安を覚えていたのだ。

(あの時俺自身がクーデリアに言ったみたいに――――今度は俺の行く先は俺自身で考えなきゃダメなんだ……)

 だが、すぐに思考は途切れる事になる。

 

 

<jiogjreiafklmsdkkeo9aldksldkknfvsmkcmskemdiaklklmnisjfikdoskm>

 

 

 突如として空間内に響き渡る声によって。 それは人の声ではなく、機械の合成音声のように聞こえる。

 無機質で感情の無い、ただロクに意味も理解できない言語のような音を発する装置。

 それは、三日月が背を向けた幾何学模様の刻まれた機械から発生していた。

 その無機質な音声に絵もしれぬ不気味さを覚えながら、振り返った三日月は表情に表さないながらも恐る恐る問い掛けた。

「誰、アンタ?」

<jijaifjiekfodldwdowekifjskdjjfiwek9weokolkdslkala>

 再び合成音声が響くが、やはり言葉の意味は解らない。 三日月は怪訝な眼差しを送りながらぶっきらぼうに返す。

「アンタ何言ってんの? こっちの言葉喋ってくんなきゃ分かんないや」

 こちらの言葉に合わせず一方的に喋る機械に言いようのない煩わしさを覚える。 普段の三日月なら相手にせず、さっさとこの場を去ってしまうのが常だ。

 だが、今回ばかりは様子が違った。

 不安と不満を露わにしながらも、まるで何かに引き寄せられるようにして、奇妙な機械に意識を傾けてしまう。

(何か、変な感じ)

 思えばそれは、この宇宙に浮かぶ建物を見た時から感じていた。 三日月がそれを言葉として口に出来ない感情だが、何処となく神秘的な印象を受けるこれに対し、引きつけられる何かを味わっている気分だった。

 それはまるで三日月が、この機械に歓迎され導かれているかのように……。

 三日月が機械に対し様々な考えを巡らせている次の瞬間、彼と機械の間に浮かび上がる淡い光――――

 

 

 

 

「ミカァッ!!!!」

 

 

 大声を上げて目覚めたオルガが目の当たりにしたのは、先日築き上げたばかりの基地の自室だった。

 オルガは反射的にベッドから跳ね起きて周囲を見回す。 そこには三日月の姿は無く、驚きのあまり身を引く仲間達であった。 どうやら、あの石に触れて気を失っている間に基地に運ばれ、その間オルガは夢でも見ていたようだ。 視界に入った窓の風景を見れば、既に日は沈み満点の夜空が浮かび上がっていた。

「お、オルガさん!!」

「良かったです! オルガ団長が無事に目を覚ましました!☆」

「オルガ!! 本当に無事で良かった!!」

 仲間達から口々に声を掛けられ、シャルロットが涙ぐんで抱きついてきた。 オルガは戸惑いつつも安堵した。 オルガは抱きつくシャルロットの頭を撫でる一方で、少し離れたところから様子を見ていたトウカイテイオーを見つける。 少しばつが悪そうに、そして目覚めたオルガを見るなり泣き出してしまった。

「ぐすっ……ごめんねダンチョー……ボクが余計な事しなきゃこうはならなかったのにぃ!!」

「おいおい、いつものようにちょっとあの世行ってただけだろ?」

「ええ。 でもいつもみたいにすぐ生き返らなかったのよ……流石に私達でも心配になるわよ」

 死ぬことを軽く考えがちなオルガに対し、キャルはこうなった当事者でもあるトウカイテイオーの意もくんでやれと窘めた。

 確かに、今回の件はオルガが迂闊にあの石に触れたせいであり、そこから意識が回復しないともなれば仲間達がオルガの身を案じるのも無理はない。 心配をかけさせたことを申し訳なさそうに頭をかくが、オルガは気を取り直しテイオーに問い掛けた。

「テイオー、お前こそ大丈夫なのか?」

「ううっ、ちょっと気分は悪いけど、ボクは大丈夫……心配かけさせて本当にごめんねダンチョー」

「気にすんな。 今度から気ぃ付けろ」

 オルガは泣きじゃくるテイオーを優しげにあやしてやった。 これで一件落着、そう思われたが……。

「で、俺もあの石に触れた訳なんだが……お前もなのかテイオー? あの過去の映像と……ミカの姿を見たのは?」

 オルガからの問い掛けに、トウカイテイオーどころか全員が驚愕した。

 触れた先で何が起きて、そして何かが見えたのか……その内容に三日月の名が出てこればそうなるのも無理は無い。 皆が言葉を失う中、オルガは話を続けた。

「あれはどうやら過去の記憶を知識として保存する石だったみてぇだ。 俺も触れた途端、頭の中に一気に情報が流れ込んできた。 この宇宙で起きた過去の戦争の記憶、言葉に文化、それに……」

「嫁の、か?」

 ラウラの問い掛けにオルガは首を縦に振ったが、それに疑問を呈したのはトウカイテイオーだった。

「待ってよダンチョー! ボクはあの石に触れた時、ミカの姿なんて見てないよ?」

「……本当か?」

「倒れていたのはその、辛い映像を見せられて気分が悪くなったからかもしれないですし、三日月さんの姿を見る前に気を失っちゃったんじゃ無いですか?」

 スペシャルウィークの疑問を、トウカイテイオーが首を横に振って否定した。

「ううん、スペちゃん。 頭にハッキリ浮かぶぐらい強烈に焼き付いちゃったせいで気を失ったから……ミカの情報にも触れてるなら、むしろダンチョーみたいに思い出せなきゃおかしいんだよ」

「あ、そっか……」

 トウカイテイオーの説明に納得がいったスペシャルウィークだが、一方でオルガはテイオーの言葉に新たな疑問が生じていた。

 何故自分だけが三日月の記憶らしきものに触れられたのか? ラウラの存在を加味しても誰よりも密接な関係なのは否定しないが、だからと言って他の連中にも見せられないほど強い記憶を、何故自分だけが見られるように調整されていたのか? 疑問は尽きないばかりだった。

 

「コホンッ! とにかく、オルガ君やテイオーちゃんが無事で何よりです! 今日はもう仕事を休んで、美味しいもの食べてお休みしましょう!☆」

 流れを断ち切ったのはペコリーヌだった。 明るくハキハキした様子で、場の雰囲気を和ませようと試みる。

 その心遣いに一同も少し気が楽になったようで、表情が緩み始める。

 問題が解決した訳ではないものの、今はこれ以上気苦労の種を増やしたくない。 誰もがそう思っていた。

「……そうだな」

 オルガが賛同したことで、とりあえずこの場での話は終わりを迎えた。

 ペコリーヌはにっこりと笑うと、早速夕食を作りに部屋を出て行った。

「手持ち無沙汰じゃねぇか……ぶっ倒れちまったし、せめてもうちょっと何かするか」

「あ、それならボクも!」

「ダメだよ!」

 オルガとトウカイテイオーを、シャルロットが制止する。

「二人とも病み上がりなんだから働いたりしちゃだめ! 特にオルガはワーカーホリックの気があるんだから!」

え、シャルロットさんと一緒にいた時もそうなんですか!? オルガさん夜通し牧場で働こうとするからお母ちゃんにいつも止められてて……」

「アンタねぇ……」

「……オルガ団長、貴様と言う奴は」

 思わぬ所でスペシャルウィークからシャルロット達に暴露されたオルガの働き過ぎっぷりに、キャルとラウラも呆れたような視線を向けてくる。

「休める時に休め。 でなければ、いざという時戦えなくなるのは知っているだろう?」

 念を圧すようにオルガの身体をベッドに押し付けると、弱った身体で抵抗できずオルガは布団に沈められた。

 トウカイテイオーもそれを見て、渋々自室に戻ることにしたようで部屋から重い足取りで出て行った。

「ゆっくりしててねオルガ。 ペコリーヌがご飯作り終わったら呼びに来てあげるから」

「無茶はしないでね? リーダーってのはどっしり構えてるものなんだから」

 シャルロットとキャルも、オルガがこれ以上無理をしないように釘を刺して出て行った。部屋にはオルガだけが残った。

 オルガは仰向けに寝たまま、天井を見つめている。 いつだって忘れたことは無いが、焼き付いた記憶の中で見えた三日月の姿に、郷愁の念のようなものに駆られる自分がいる。

 何より、三日月はあの記憶の中で共にいた存在から何をされたというのか。 まだ見ぬ三日月のことも心配だが、しかし今の自分にできることは殆ど無い。

 今は自分の身体を回復させることに専念しなければならない。

 オルガはゆっくりと目を閉じ、少しずつ部屋の外から漂う温かな夕食の香りに鼻孔をくすぐられながら、束の間の眠りについた。

 

 

 

 

 オルガとテイオーを寝かしつけてから、シャルロットは外に出て夜空を見ようと建物の外に出ると、そこで同様にのんびりとしていたキャルと会い、無茶ばかりするオルガについて言葉を交わしていた。

「……アイツ、アンタの所でも無茶な事ばかりしてたのね」

「うん。 学校行事の手伝いとかそう言うの、学生生活満喫する傍らで結構駆けずり回ってたね……あと、()()()()()()()()()()に巻き込まれたりとか……」

「修羅場って訳ね……なんとなく分かるわ」

 含蓄のあるシャルロットの言葉を、キャルは察したように苦笑いを浮かべていた。

 オルガは面倒見が良い性格である一方、自分の決めた道を突き進む頑固さも持ち合わせている。

 時にはそれは仲間の為に無茶をすることに繋がり、全てを自分で背負い込んで自壊してしまう危うさも孕んでいた。

 そんなオルガの気質を、恋人として弱さを打ち明けられたこともあるシャルロットはよく知っていた。

 そしてそれは別世界の話ではあるものの、キャルも同様にそのオルガの無茶をする姿を見てきたようで、シャルロットの口ぶりに納得していたようだった。

「無茶をしないでくれるのが一番良いんだけど、でも……そんなところを僕は好きになったんだ。 鉄華団の団長、オルガ・イツカを……」

「鉄華団ね……そう言えばアタシ達の世界でもよく口にしてたわね。 結局何だったのか分からずじまいだったけど……なんかの組織のリーダーだったって訳?」

 キャルの言葉にシャルロットは疑問を抱いた。 オルガと付き合いがあって鉄華団を知らないと言うのは妙だ。 あれは、オルガにとっては単なる組織では無く仲間(かぞく)を象徴するものなのに。

 何かを言いたそうな表情がにじみ出ていたのか、するとキャルはこちらが疑問を口にする前に答えてくれた。

「そう言えば、オルガったらリーダーになりたがってたっぽいけど、結局一緒にいたミカに阻止されてんのよ。 出しゃばりすぎだって……結局ペコリーヌの作った『美食殿』ってギルドの一員になったんだけど、諦めきれてなくって……バッカみたい」

 呆れたように笑うキャルの口ぶりにシャルロットも同じように、しかし乾いた笑いを浮かべる。 どうやらオルガの上昇志向は異世界であっても変わらないらしいが、そっちでは三日月がブレーキ役として働いたらしい。 ペコリーヌの意思を尊重したのは良いが、個人的には鉄華団は鉄華団で存続しても良かったのではと、ほんの少しだけ思ったりもした。

 

 シャルロットがひっそりと考えていると、不意にキャルは何かに気付いたように言葉を漏らした。

「……あれ? じゃあそう言えば……」

何かを思い出したかのように、キャルは視線を上に向けた。

シャルロットもつられて顔を上げると、そこには幾多の星々が浮かんでいる。

夜空に浮かぶ光の展覧会は、雲一つない空に煌々と輝いていた。

それを見上げながら、キャルはぽつりと呟く。

 

「何でペコリーヌ、時々オルガのこと……」

 

 何気なくキャルが疑問を口にした時、野外に置いてあったままの『基地のコンピューター』から通知が届く。

「あ、いっけない! 基地のコンピュータ―外に置いたままだった!」

「忙しすぎてすっかり忘れてたわね。 一々確認に外に出るの億劫だし、建物内にしまい込んじゃわない?」

 シャルロットはコンピューターを運ぼうと、不意に画面をのぞき込んだ時だった。

 

<以前のユーザーのログにアクセス中...追加のアーカイブを発見...>

 どうやら、コンピューター内部のデータの復元が引き続き行われていたらしい。 二人はコンピューターを運ぶ手を止めて、つい中身をのぞき込んだ。

 

<エントリー#4925Fが残っています...>

 

<スキャナーが不審な信号を発見した -kkzztzk- ' 16 'と繰り返して -kkkzt- 宇宙ステーション...>

 

警告 ■■ アーカイブを終了 ■■ 録音を中断

 

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