No Orphan's Sky ~異世界オルガ外伝~ 作:Easatoshi
「二人とも、それは本当か?」
翌朝、朝食後の団欒の際に皆の前でアーカイブの中身を公表したシャルロットとキャル、その内容に皆が一様に食いついた。
「うん、昨日キャルと話してる時に偶然通知が来たんだ。 内容が内容だから、翌朝落ち着いてから話をしようって」
「アタシも確認したわよ。 まさかあの『宇宙ステーション』にもう一回行かなきゃいけないなんてね……」
キャルとシャルロットはため息交じりにそう言う。 よく見ればラウラも少し困った様子で、ペコリーヌは特段気にしている様子は無かった。
「宇宙ステーションですか!? そんなのもあるんですね!」
「宇宙人の人たちが店を出していたり、ギルドがあったりとやばい場所ですね!☆」
「凄い凄い! 宇宙人までいるなんて、本当にSF作品の世界そのものだね! 早速行こう!」
「む、むう……そうか。 お前達三人はそうなんだな」
目を輝かせるウマ娘二人に対し、ラウラは変わらず乗り気で無い態度を見せる。
「何だよお前ら、随分しけた顔してるじゃねぇか。 イヤな事でもあったのか?」
オルガが問い掛けるが、ラウラは首を横に振って否定した。
「あー、多分それはきっと、アレですかね?」
その疑問に口元に指を当てて考える仕草をした後に答えてくれたのはペコリーヌだった。彼女は何か思い当たる事があるらしく、それについて語り始める。
「……成る程な、通りでミカの捜索が進まなかったって訳だ」
「ボディランゲージだけじゃ限界ありますからね……」
プロミス/48の大気圏離脱後、7人は各々の宇宙船とISに乗り込んで星系に浮かぶ宇宙ステーションを目指していた。 シャルロットとラウラは各々のIS、『プリンセスストライク』にはキャルとペコリーヌが、そして『ラディアントピラーBC1』にはオルガとスペシャルウィークにトウカイテイオーが乗り込んでいた。
ペコリーヌも出発前に口にした言語の壁についてだが、この宇宙にあまねく存在する宇宙人の主な種族は三種。
スペシャルウィークが手に取った像と、オルガが知識の石にて触れた記憶で知ったは虫類のような人種『ゲック』、長身で機械の身体を持つ『コーバックス』、そして同じく長身……と言うよりは巨躯とも言う体格の良いみるからに血気盛んな獣人『ヴァイキーン』。
そして皆が皆、地球人の使う言語とは全く異なる言語体系を持っていて、幸いにも身振り手振りを理解してくれるだけの高い知性は持ち合わせているという点だった。 ひょっとすると詳しい情報を知っている可能性もあったのかも知れないが、シャルロットとラウラの身振り手振りと、三日月の写真を見せるだけの体当たり的コミュニケーションではいささか無理があったというのが真相らしい。
無論、その三種族が更に各々異なる言語を持っているという事実は、宇宙ステーションを訪れたメンバーは誰も知らない。
<……当然、また言語の壁にぶち当たる訳だよねぇ>
<いささか面倒だが、背に腹は代えられまい。 団長達の受信した謎の無線の手がかりの件もあることだしな>
<大丈夫です☆裏を返せば相手を怒らせない程度には、コミュニケーションがとれると言うことです!>
<相変わらずねぇアンタは……まあ、それでも聞いてみなきゃ分かんないんでしょうけどね>
無線を通し、各々が会話が通じるかどうかに話題に花咲かせる中、オルガは前席に身を乗り出してきたトウカイテイオーと互いに顔を見合わせる。
「なんとなーく、なんだけどね」
「……ああ、言いたいことは分かっている」
そのやりとりを見ていたスペシャルウィークは首を傾げていた。 彼女に分かろう筈も無い。
二人が通じない言葉に対しアテがあるかもしれないと、確信めいた予感をしていたなど。
そして一分後、宇宙船の警告文と共にパルスドライブが自動停止。 目前に漂う巨大な黄色い球状の建築物が件の宇宙ステーションらしい。
「ホントだぁ~! 宇宙ステーションなんてボク初めて見る~!」
<あの青い光が宇宙船ドックになってるよ。 範囲内に入れば後は自動で機体を誘導してくれるから楽で良いよ>
「凄いです! こんな事まで出来ちゃうんですね――――」
スペシャルウィークが言いかけた瞬間、突如ステーション付近で青い光の帯が発生する。 何事かと皆がそちらに注意を向けると、突如として巨大な船が次々と出現。 オルガ達の度肝を抜いた。
「お、おいなんだありゃ!! まさか、貨物船かなんかか!?」
<うむ、どうもそうらしい。 私達も初めて見た時は驚いたぞ>
<いきなり宇宙に現れたって事は、ワープ出来るって事ですね! やばいですね☆>
<ホント、この世界の文明レベルってどーなってんのよって話よね>
シャルロットやペコリーヌ達は一度見ていた為か、ワープ可能な宇宙船に驚きはするも慌てふためいたりはしない。
オルガもかつて巨大な船で宇宙を航行した経験がある以上、巨大貨物船に驚きはしなかった一方で、ワープ技術という物語だけの設定と思い込んでいた物をしれっと実現している技術水準に驚きを隠せなかった。 スペシャルウィークやトウカイテイオーに至っては、大きく口を開けたまま完全に硬直してしまっている。
「と、とりあえず着艦すっか」
オルガ達はシャルロットの言った通りに機体を近づけると、宇宙船はオートパイロットにより中の宇宙船ドックに導かれ、ゆっくりと着艦する。
シャルロット達も着艦すると、ISを生命維持システムが機能する部分展開だけに留め解除する。
宇宙船から下りたオルガ達の目にとまったのは、青白い電子の光に包まれた広い空間だった。 人の行き来が頻繁にあるようで、自分以外にも着艦する宇宙船や、逆にこれから出ていく者も居た。
そして何より、宇宙船から下りてきたその人種は、オルガが知識の石の記憶で合間見たゲックと思わしき姿だった。
「……改めて、本当に宇宙に出てきたって感じですね」
スペシャルウィークは目を輝かせながら周りを見渡してそう呟く。
この宇宙ステーションにはゲックと呼ばれる者達だけでなく、一つ目を輝かせる細長い機械の身体を持つ者や、角の生えた獣人のような姿の宇宙人もいた。
彼等も彼らで一斉に宇宙船から下りてきた地球人類のオルガ達を見ると、驚いたように目を丸くする。
「にししっ♪ ここじゃボク達の方が珍しいみたいだね♪ 特にボクとスペちゃん、ウマ娘だし」
「えっと、確かあっちの機械っぽいのがコーバックスで、獣人がヴァイキーンだったわね……種族の名前とかは流石に知ってるわ」
一部は一度ここを訪れているものの、何もかもが真新しい光景に皆が心を踊らせている。 そうしていると、遠目で様子を窺っていた宇宙人達の内から、ゲックの一人がこちらに歩み寄って来た。
手を振りながらオルガの目の前に立つゲックに、オルガは不思議と驚いた様子も無く面と向き合った。 ほんの少し、彼の者の吐息から果物のような甘く優しい香りがした。
「jiasdj8fjeafij94iawkjlsadklkofk49akwoafkolsd?」
「ふぇ?」
ゲックの口から発せられたよく分からない言葉に、スペシャルウィークは首をかしげた。
「……ね? ペコリーヌの言ってた通りでしょ? 言葉の壁にぶつかるって」
「え、ええ。 ちょっとどうしようか決めかねちゃってます」
耳打ちするシャルロットに対し、スペシャルウィークは完全にタジタジといった様子で目を泳がせている――――が。
「hjf8aejiofjjfajwi」
「lifajikfloskofadskoafklfprewlfe-wlfe」
「「「「「え?」」」」」
あろう事か、オルガは当然のようにやって来たゲック達と会話を始めたのだ。 これにはシャルロット達はおろか、ペコリーヌも目を丸くして驚いた。
「はじめまして、トラベラー、よく来た。 良い船、仲間、いっぱい」
そしてそれはテイオーも同じだった。
「そうだ。 そんな所……私、労働者ゲック、名前は~ジョック」
「「「「「ええっ!?」」」」」
オルガとゲックの会話をなぞるように呟く言葉の羅列。 どうやらオルガほど流暢ではないが、トウカイテイオーまで彼らの言葉の一部を理解していたのだ。
「すごいですね☆ テイオーちゃんも言葉を理解できるんですね!」
「あの人達にあった事なんて無いのに、一体どうやって言葉を理解できるようになったんですか!?」
興奮気味のペコリーヌはともかく、シャルロットはどうしてこうなったのか分からず、混乱しているようだ。
「……まさかテイオー、それはひょっとして」
何かに気づいたラウラが問いかけると、トウカイテイオーは腰に手を突いて胸を張った。
「へへんっ♪ どうやら昨日触った石の効果で、ちょっとした会話なら理解できるようになっちゃったみたいなんだよね~♪ ま、ボク自身もちょっと驚いてるけど」
おどけた調子で言うテイオーに、残りの面々は納得がいったようだ。 オルガも救出後口にしていたが、あれは知識を保存しておく為の物で、触れた途端に脳に焼き付くように映像や言葉といった
「でもあれ、テイオー達の様子じゃ人によっては……」
「うん、実際ボク倒れちゃったもん……あれ脳みそに負荷が掛かるんだよね」
「ふむふむ。 でもその代わりに言葉を覚えられるのなら、アリですかね!☆」
「うへぇぇ……私は遠慮しておきます」
対話を行えるというのならそれもアリと言ったペコリーヌに対し、スペシャルウィークは痛いのは嫌だと頭を抱えていた。 知識の獲得に対し、三者三様の反応を見せる一同だった。
「
「
オルガとゲックはお互いに手を振ると、会話を打ち切ってその場を離れる事にした。 二人の間に笑顔のやり取りが行われていたようで、どうやら円満にコミュニケーションを取れたらしい事が窺える。
「すまねえ、ミカやあのデータに載ってた奴の情報までは手に入らなかった」
そう言って謝るオルガだが、シャルロットは首を横に振って笑みを浮かべた。 円満に会話が出来る事実を知れただけで、得られたものは大きいのだから。
しかし転んでもただでは起きないのか、オルガはさっきのゲックに色々と質問していたようだ。
曰く、このステーションに訪れるような人種はコミュニケーションを積極的に取りたがる傾向にある。 中には自分達に円滑に言語が通じるよう、性能の良いリアルタイム翻訳が可能な機械を持っている者も居るし、そうでなくても単語一つ程度なら見返りはなくとも教えてくれるとのこと。
「リアルタイム翻訳……そんなのまであるんですね」
「教えてくれるって言うのはどんな風に?」
シャルロットの問いかけに、オルガは頭を指でトントンと音を立てる。
「あの知識の石と同じ、頭に情報を焼くんだそうだ」
「ふぇ!? じゃ、じゃあまた痛い思いをするって言うんだ」
「ほんの僅からしいけどな……頭の使い過ぎで頭痛がする程度じゃねぇか? だからこそ単語一つまでって話かも知れねえしな」
スペシャルウィークは不安げにオルガを見上げるが、オルガは心配ないと笑いかける。
それよりも、この宇宙ステーションは銀河系でも人の行き来の多い部類らしく、彼らでなくともここには様々な
そして、結果だが――――
「うーん……ほとんどが欲しい情報じゃなかったですね」
「ま、そう都合良く情報なんて見つからないわよねぇ……」
正直芳しくはない。 誰もが三日月・オーガスやデータ上の何者かの存在など知らないと答えられ、見事撃沈した。
「でも、コーバックスやヴァイキーンの人達から、色んなモノもらっちゃいました☆」
「うむ、一応の収穫はあった。 多少だが彼らの言語を知る事も出来た……頭痛はするがな」
「店もいっぱいあったよ! 宇宙船やマルチツール用のモジュールって言うの売ってたりとか!」
「もうここにいる大半の人には聞いちゃったし……後はあそこでベンチに座っているゲックの人くらいだね」
「だな。 これでダメなら今日はもう出直そうぜ……疲れたろ、シャル達はそこで休んでな。 俺が行ってくる」
オルガはシャルロット達に休んでいるよう促すと、一人でのんびり休んでいるゲックの元へと足を進めた。
「ンンッ……邪魔するぜ」
軽く咳払いをしながら話しかける。
ゲックは突然の来訪者に少し驚いた表情を見せたが、オルガの友好的な態度にすぐに笑顔になった。
「
「
とりとめの無い会話から入り、三日月達の情報について尋ねて行くというやり方で、オルガは道行く人々を捕まえては質問を投げかけていった。
しかしどうだろうか。 最後に話しかけたゲックはどうも相当なおしゃべりだったようで、会話の中でオルガが聞きたい情報について誘導しても、かなりの長い時間身の上話や商売がどうのだの、現状オルガにとってはどうでもよい話ばかりをを聞かされてしまった。
これは参った。 ここまで来て何の収穫も得られないというのは、オルガ自身にとっても中々に堪える展開だった。
(ああクソ……長ぇな。 何か最後に質問だけして切り上げるか)
長話に辟易したオルガは、まだ問い掛けていない質問をしようと口を開いた。
「
オルガが話を切り出すと、おしゃべりなゲックは饒舌ぶりが嘘のように口を閉じ、オルガの次の言葉を待った。
「
そしてオルガが言葉を言い終わるその瞬間、オルガは突如として口を閉じていたゲックの瞳が赤く輝いていたことに気付く。 その瞳の奇妙な輝きに、己の心を見透かされたように動揺する。 そんなオルガの内心をも読み取ったのか、ゲックは驚くほど無機質なイントネーションで言葉を紡ぐ。
「我々は君を見ているぞ、旅行者よ。 ■■ 君に残した物を見つけなさい」
「ッ!!??」
ゲックの口から放たれたその言葉は彼らが知りようも無い、オルガ達と同じ言語に聞こえた。
同時に彼の瞳から放たれた赤い光はコードとしてオルガのエクソスーツに刻まれた。
驚き呆れるオルガの姿を、対して異変の当事者である筈のゲックには、よく分からないと言った様子で首を傾げていた。
(自分の身に、何が起きたか分かってねぇのか?)
ゲックの方も急にオルガへの興味が失せたのか、一言軽く別れの挨拶を済ませ棒立ちになるオルガを置き、立ち去ってしまった。
「……オルガさん?」
少女の声に振り返ると、スペシャルウィーク達が目を丸くして立っていた。
「今の話、何? あの人翻訳機か何か持ってたの?」
「あ、いや……よく分からねぇ」
ウマ娘の聴覚が遠目ながらオルガ達のやりとりをしっかりと聞いていたようだ。 トウカイテイオーも怪訝な眼差しを向けてくるが、しかし面と向かって話していたオルガが一番聞きたい質問を答えられるはずも無く、歯切れの悪い返事しか出来ずじまいだった。
オルガは今の会話の中で受け取った奇妙なコードについて話をすると、一度基地のコンピューターで読み取ってみようと言う意見で一致した為、今日の所はお開きにしようと言うことで皆宇宙船に乗り込んだり、ISを展開してステーションのドックから飛び去った。
「ハァ、よく分かんねぇ情報といいミカのことも芳しくねぇと来て。 俺達は先の見えねぇお使いさせられてる気分だ」
ステーションから宇宙空間へと飛び出す宇宙船の中、一人呟くオルガの言葉に他の者も同意する。
<言葉が通じるっていうだけでも一歩前進だよ。 まだまだチャンスも時間もあるんだし、諦めずにもう一回ここに来よう?>
「しょーがねぇなあ……」
シャルの励ましにも、オルガはため息交じりにしか答えられなかった。
<……>
<? どうしたのよペコリーヌ……って何してんの?>
<ごめんね皆さん。 やっぱり内容が気になっちゃいましたから、さっきのオルガ団長の貰ったコード、読み取ってみますね☆>
突如、無線機越しにペコリーヌが妙なことを言い出した。 思わずオルガ達は、側で飛ぶペコリーヌのプリンセスストライクへ視線をやる。
<やめときなさいよ。 そんなの読み取れる機械なんてそもそも――――>
<宇宙船のコンピューターなら読み取れるかもですね! ちょっとやってみます☆>
「ペコリーヌ……おま……」
苦笑いする一同を余所に、恐らくは止めようとしているであろうキャルを押しのけ、機体のコンピューターにコードを入力しているペコリーヌの姿が、宇宙船のキャノピー越しながら思い窺えた。
するとその読み取ったコードと思わしきその内容が、突如としてオルガのエクソスーツのログにまで送り込まれてきた。
「ピェッ!? 何この数字!?」
「私の所にまで変なログが来てますよ? ……やだ、何か不気味」
スペシャルウィーク達にもそれは届いたらしく、動揺の色が表情に窺えた。 そしてそれは、IS故に表情が丸見えなシャルロットとラウラにも同様だった。
周囲を巻き込んだログの解読は続く。
<メッセージ:トラベラーは翼を手に入れた。 私たちのもとへ飛んでくるのだ。 そしてこの宇宙に居場所を確保せよ!>