【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み   作:きりぼー

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7月23日(土)終業式

 第一話は状況説明も多めでスロースタートですが、是非英梨々を応援してあげてください。

 チラ裏までついてきてくれた方には、支援を何卒よろしくお願いします。

 今回は脱線せずに、最後まで駆け抜けます。





01 終業式の帰り道にガリガリ君を食べる英梨々

 終業式こそオンラインで十分ではないか?そう思いながら、全校集会での校長の話がバックミュージックと同じぐらい頭に入らない。冷房のあまり効いていない体育館で、どの生徒も気だるそうにしていた。

 

 高校三年生の夏休みは楽しいものではない。部活を頑張っている人には最後の夏で、燃えるような青春の日々を有意義に過ごしている人もいる。けれど、多くの生徒にしてみれば受験のための夏で、この夏が将来を大きく左右すると頭でわかっていても、何も集中できず、参考書を眺めるだけの人も多いはずだ。

 

 俺、安芸倫也(あき ともや)も、そんなありふれた受験生の一人で、学校が終わってほっとするものの、夏休みに浮かれるような期待は何もなかった。それどころか、どうせ勉強に集中できない自分をわかっているので、バイトまで予定にいれている。将来はたかが知れている。

 そんな風に自己分析するクールな俺ってかっこいいと、まだまだ中二病が治っていないことも自覚しているつもりだ。

 

 周りの人間がぞろぞろと動き始めた。どうやら集会が終わったらしい。俺も教室に戻ろうとすると、

「倫也!」

と声をかけられた。振り返ると、金髪ツインテールが揺れていた。「何、ぼんやりしているのよ」と、ツンと口調で話かけてきたのは、学校一の美少女と名高い英梨々だ。

 

 澤村スペンサー英梨々。その容姿は童話のヒロインといった趣で、欠点のない美しさと言っていいだろう。ママレードジャムを溶かしたかのような綺麗な金髪に、サファイヤブルーの瞳。白皙の肌に華奢でスラリと長い手足。小柄でペタンコの胸だが、それが小動物のようにコロコロと表情を変える英梨々には似合っていた。

 学校では一番人気で、告白された回数は三桁らしい。もはや芸能人以上と噂されるが、本人は無頓着。一応、学校では愛嬌を振りまき、お嬢様然としているが、中身は一言でいうとアレ。アレだよアレ。『腐女子』。

 

 オタク。その上、学校では秘密だがエロ同人作家。コンタクトレンズを外すとド近眼で、マンガを描いている時は黒ぶちメガネで髪はボサボサ。残念美人を体現したかのような容姿になる。俺としては、その時の英梨々の方が親しみやすく、オタク話も盛り上がれるので嫌いじゃない。

 

 けれど、隣にいる学校仕様バージョンの英梨々だと、未だに少し緊張してしまう。なんというか・・・オタクで背の低い俺には美少女すぎる。吊り合いがとれないというか、分不相応というか・・・。

 

 こうして英梨々が隣にやってきて、並んで教室まで歩いて帰ると、周りの視線を強く感じずにはいられない。英梨々も英梨々で学校ではあまり無駄口を叩かず、ましてや絶対にオタクの話題などをせず、しずしずと静かに歩いている。男子生徒のため息を洩れる声だけならまだしも、女子生徒からは俺が英梨々を脅迫していると思われているらしい。

 

 そう。俺と英梨々は付き合っている。そして、この英梨々の持つ二面性こそが問題だった。

 

「ねぇ、倫也。今日の予定ある?バイトとか」

「今日は特に何もねぇな」

「じゃあ、後で行くわね」

「ああ」

 

 今日も英梨々が家に来る。

付き合い始めたのが去年の12月のクリスマス。それから無難に恋人たちのイベントの正月やバレンタインを過ごした。二人の仲は急速に縮まる・・・なんてことはなかった。一応、チューはしたけれど・・・それから発展はない。

 プラトニック。それもオタク仲間で、一緒にアニメ観たり、ゲームしたり、ひどい時には英梨々のエロ同人制作を手伝っているから、汚れきったプラトニックといっていい。その関係性がお互いに心地良く、それはそれで楽しいのだけど・・・恋人的な発展はしていなかった。

 

 高校生の年頃が、部屋に2人きりで長い時間を過ごし、時には泊まり込む時も(厳密いうなら、明け方までゲームをして退廃的にすごしている)、何事もなかった。そういう雰囲気にならない。

 オタクの時は、オタク生活を楽しむのが英梨々のポリシーらしく、髪の毛がボサボサの時は、チューもしない。

チューするときは、それなりの服装でデートや買い物など、特別なシチュエーションになった時だけだ。そして、その時の英梨々は美少女なので、俺は・・・一言でいうなら怖気づく。綺麗な英梨々に見惚れてしまって、何も手がだせないまま、英梨々を家まで見送ってしまうのだ。情けない。

 

「あんた、さっきから何をぼっーと考え事しているのよ」

「エッチなこと」

「は?バカなの?死ぬの?」

 

 とまぁ・・・こんな感じでボケをすると、お約束のツッコミをいれてくれる。心優しいツンデレでもある。

 

 教室に戻ってきて、席に着く。俺の席は一番後ろの窓側の席で、ラノベ主人公の指定席みたいな場所だ。英梨々はその隣の席に座っている。こちらは席替えの後に英梨々が男子生徒に頼んで交代してもらった。俺の知る限りでは、英梨々が何か頼んだことを断れる男子生徒は皆無だ。英梨々に声をかけてもらっただけで、青春の1ページとなる生徒も多い。気持ちは痛いほどわかる。けれどそいつらは英梨々の上っ面だけを見て、英梨々のイタイ部分を知らない。

 

 プリントやら夏休みの分厚い課題用テキストが配布された。それから先生がお決まりの挨拶をしてクラスは解散になった。みんながバラバラと教室から出ていった。俺と英梨々は教室に少し残って、下駄箱が空くのを待つ。

 

「倫也、明日はうちにこれるかしら?」

「明日?用事はないけど、何かあるのか」

「うん。ホームパーティーがあるのだけど、手伝って欲しくて」

「ああ、別に構わないけど」

「午前中から来てもらえる?」

「昼からパーティーがあるのか?」

「ううん・・・夜からだけど、ちょっと準備を手伝って欲しいのよ」

「それは構わんが・・・」

 

 英梨々の父は外交官で、ホームパーティーがしばしば開催される。俺は以前からそれを手伝いにいっていた。バイト代がかなりおいしい。ウエイターや掃除などの裏方もするが、一番の役割は英梨々のご機嫌とりだ。元々内向的な英梨々は、ホームパーティーで愛嬌を振りまくと、だんだんと疲れてきて目つきが悪くなる。そんな英梨々がボロを出さないようにケアするのが俺の役目となる。タレントのマネージャーみたいなもんだ。

 

「流しソーメンやるのよ」

「流しソーメンって・・・あの竹筒にソーメンを流すあれのことか」

「そうよ。それで、庭に設置して、どうしたらうまくいくか考えてもらおうと思って」

「ほう・・・」

 

 英梨々の家はでかい。屋敷といっていいだろう。庭もとても広く、数十人規模のホームパーティーなら余裕すらある。そこで流し素麺をするらしい。

 

「親が思い立ったのはいいけど、それを人任せってどうなのかしらね」

「まぁ・・・でも、予算は潤沢なんだろ?楽しそうでいいけどな」

「夏らしいとは思うわよ」

 

 とりあえず明日の予定が埋まった。夏休みの初日だし、別に勉強を焦ることもない。俺は配られたプリントとテキストを鞄にしまって立ち上がった。英梨々も立ち上がる。終業日なので荷物が何かと多く、鞄はパンパンだった。さらに英梨々は美術部で作った作品も持ち帰るらしく、両手が塞がっている。大き目のバックには油絵のキャンバスが入っていた。

 

 これも英梨々の大事な一面で、美術部に所属していて油絵の制作をしている。美術全般が得意で水彩や色鉛筆などでももちろん絵は上手だ。彫刻や版画なども上手い。そういうわけで進学希望は美大らしい。

 

 下駄箱にいる人がだいぶ減っていた。まだ学校から帰るのが名残惜しい生徒があちこちで立ち話をしている。英梨々が下駄箱を開けると、お約束通り手紙がバラバラと落ちた。英梨々ファンによるラブレターだ。以前よりはだいぶ減っている。

 以前の英梨々はラブレターをちゃんと受け取って鞄にしまっていた。その辺の外面の良さは、小学時代のいじめにあった経験からの学習らしい。八方美人で敵を作らない。それが英梨々の基本方針だった。ただ、俺と付き合うようになってから変わった。ラブレターを受け取らなくなったし、告白のためと思われる呼出にも応じなくなった。

 だから英梨々は、落ちたラブレターを拾い集めると近くのゴミ箱まで持っていき、そこで破りながら捨てていく。これももはや様式美と化している。ショックを受けたり、陰口をたたく人もいたりすると思ったが、案外とこの行為は好評らしい。

英梨々に彼氏ができたことで、当たってくだけて、気持ちに踏ん切りをつける生徒があとを絶たない。一説には、英梨々に振られてから他の女子に告白すると上手くいくという、ゲン担ぎもされているようだ。さすがに告白回数三桁は伊達じゃなく、斜め上の存在になっている。

 

 英梨々が袋に上履きをしまった。もう手荷物でいっぱいなので、それぐらいは俺が持ってやることにした。英梨々の小柄な体型で大きな鞄を抱えていると、なんだかコミカルで可愛く見える。

 

 校舎の外は、ムワッと暑かった。日本らしい湿度のある暑さで、これから真上になる太陽がギラギラと校庭を熱している。遠くのアスファルトがゆらゆらと揺れていた。真っ白な雲がいくつか浮かんでいて、濃い蒼い空が広がっている。そして、やたらとセミがうるさい。

 

 夏だ。

 

金髪のツインテールが光輝いて、細い黄色のリボンと一緒に揺れていた。

 

「暑いわね・・・」

「まったくだな」

「倫也、団扇を仰ぎなさいよ」

「どこの貴族だよ。あいにくだが俺も両手が塞がっているんでな」

「つかえないわね」

「従者じゃねぇんだから」

 

 英梨々と一緒に帰ると、遠巻きに見ている人達がいつもいる。英梨々ファンのみんなだ。芸能人の出待ちみたいなもので、下級生の女子生徒もちらほらといる。そして俺はその全員から敵視を受けている。今ではもう慣れてしまったし、英梨々も気にしていない。

 

「暑いわね・・・」恨めしそうに英梨々が少し歩くたびに呟いている。往生際が悪い。

「暑いな」俺は相槌を打つ。東京の夏はアスファルトで照り返された熱でさらに熱い。ヒートアイランドといわれて久しい。

 

 駅前に着くと、コンビニの駐車場にうちの生徒のグループがいくつかいた。買い食いをしてアイスを持っている。気持ちはわかる。冷たい炭酸飲料か、アイスが一番おいしく食べられるタイミングだと思う。

 

「倫也・・・」

「どうする?」

「あたしもガリガリ君食べたい」

「なら・・・我慢だな」

「なんでよ」

「これだけ注目される場所で、英梨々がガリガリ君喰うわけにはいかないだろ。お嬢様イメージでいったら、ハーゲンダッツだな」

「なんでそんなこってりしたものを食べないといけないのよ」

「なら我慢しろ」

「別にお嬢様だって、ガリガリ君ぐらい食べるでしょ?時の総理だって食べていたんだから」

「あれは、あの総理だから成立するんだろ。別にイメージ崩してもいいなら、ガリガリ君ここで喰えば?」

「いい」

 

 興味のある方は、『麻生副総理 ガリガリ君』で画像を検索してくれ。世界一かっこよくガリガリ君を食べている。普通、ああいう大人にはなれない。

 

 英梨々が諦めて改札へと向かう。荷物が多すぎて定期券が出せないので、俺が荷物をもってやった。改札を抜け、恨めしそうにコンビニでアイスを食べている生徒を睨んでいた。逆恨みも甚だしい。

 

 電車を乗り継いで、地元の駅に戻ってくる。電車の中の冷房が効いているだけに、外に出るとその度に辟易とする。英梨々が待ってましたとばかりに、コンビニでなく、スーパーへと向かった。こちらのほうがアイスは安い。地元だと気取らずに庶民派なのも英梨々のいいところだろう。

 庶民派英梨々は地元商店街では知らない人はいない。金髪で目立つから当たり前だが、商店街の中ほどにある写真屋は未だに英梨々の七五三の写真を飾っていた。英梨々の成長に合わせた写真もその都度飾っているので、もはや専属モデルといってもいいだろう。

 そういうわけで、「ああ、あの写真の子ね」とみんな知っている。

 

 俺は荷物を持って待っていると、英梨々がガリガリ君ソーダ味を2本買ってきた。新作を買わないあたり、無難に過ごしたいようだ。

 

「はい」

「どうも」

 

 俺は荷物を地面において、ガリガリ君を一本受け取った。実にひんやりとしていて、白い冷気が落ちているのが見える。一口齧ると爽やかな味が広がった。やっと生き返った気がする。

英梨々は目がランランと輝いている。ガリガリ君一本でテンション上がるとか、未だに精神年齢は小学生ぐらいか。

 

「はむっ」

 

 英梨々がガリガリ君にかじりつき、前歯で一口噛み切った。その時に八重歯をちらりとのぞかせた。

学校では口を閉じて、かしこまった笑顔を作るからあまり八重歯は見えない。

 

 でも、こんな時の油断した英梨々は屈託なく少女のように笑う。すると八重歯見えて、最高にキュートなわけだが、これはできるだけ秘密にしたい。

 

 別にさっきのコンビニで英梨々がガリガリ君を食べても問題なんて何もない。お嬢様ならハーゲンダッツなんて誰も気にしないことだ。ただ、あそこでガリガリ君を食べてしまうと、英梨々のこの無邪気な笑顔がみんなに見られてしまう・・・。俺はそれが嫌だった。ちょっとした独占欲なのを自覚しているが、もちろん英梨々には悟られたくない。

 

 俺も英梨々も無言でガリガリ君を食べる。中心部はかき氷タイプのアイスなので、けっこう早く溶けて落ちてくる。手が汚れるよりも前に食べきってしまうのが大事だ。

 

 英梨々は食べ終わってから、咥えていた棒を取り出して、クジを確認し少しだけ眉をひそめた。俺も棒を確認するが何も書いていない。二人ともいつものようにハズレクジの棒を引き、ちょっぴり、ほんのちょっぴりだけ自分の期待が裏切られたことにがっかりし、その棒をゴミ箱に投げ捨てた。

 

 俺としては、この夏に英梨々との関係をもう少し深めたいと思っている。少し?いや、あわよくば一線を超えてしまいたいが、英梨々がどう思っているかはわからない。相変わらず天真爛漫な少女といった感じで自由だった。セクシーさに欠け、未だに小学生のように見える時もある。

 

 ガリガリ君や流しソーメンを食べるイベントでは、一線を超えるようなことにはならないだろう。

 

 今はそれでいい。

 

 夏休みは明日から始まるのだから。

 

(了)




 毎日更新。時間は適当にずらして投稿します。

 全40話完結済なので投稿予約をしていきます。更新もれや、日付のずれ等、お気づきになりましたらお知らせください。

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