【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み 作:きりぼー
原作にはサイドストーリーがあるらしいのですが未読です。
英梨々の生い立ちを考えた時、凌辱エロ同人作家にしてしまう両親がいることを踏まえると、英梨々に対して良識を教える人や、間違ったら叱る人が必要なのかなっと。
本作ではなんどか登場します。
8月1日(月)夏休み9日目
目が覚めた後、俺は天井をぼんやりと眺めたまま余韻に浸っていた。さっきまで見ていた夢の内容は思い出せないが、それも甘い夢だった気がする。
昨日のあれは嘘のだった気もする。英梨々とラブホテル取材の名目で結局は戯れてしまった。最後の一線は超えられていないけれど・・・その日がいつであってもおかしくなかった。
今日という一日が始まる。
英梨々はだいたい午前中に遊びに来ていた。そしてランチを一緒に食べることが多い。ランチを家で食べてくる時は連絡がLINEにくる。
英梨々が来るまでの間、俺はあんまりやる気が起きない。英梨々が来ると一緒に遊んでしまうから、少しでも課題用テキストを進めないといけないのはわかっているが、ついつい無駄に時間を使って過ごしてしまう。ラノベを読み返し、マンガを読み返し、アニメをつけっぱなしにする。
時計を確認する。もうすぐ12時なのに、今日は英梨々が来なかったし、連絡もなかった。
俺は英梨々にLINEでメッセージを送ったが既読がつかない。こちらに向かっているのだろうか。ランチをどうしようかと迷っているうちに時間だけが過ぎていく。別に12時にランチを取らなくても問題ない。ただ英梨々のことが気になった。
昨日の事を・・・英梨々は気にしているのかもしれない。口数が少なかった。ホテルを出た後はすぐに家に帰ってしまった。2人の関係は大きく発展したけれど、もしかしたら英梨々と俺で認識が違うのかもしれない。
俺は外出する準備をして外に出た。英梨々の家の方まで歩いていく。途中で英梨々がこちらに歩いてくるのではないかと期待していたが、英梨々と出会わなかった。そして、LINEを確認するが既読もまだついていない。結局、英梨々の家の前まできてしまった。大きな洋風の門がある。その脇のインターホンを鳴らすか迷う。何もせずに帰っても家で悶々とするだけだろう。問題があるなら解決したい。俺はインターホンを鳴らした。なんだか謝罪に来たような気分になる。
インターホンに出たのは、澤村家に仕える執事の方だった。名前は細川さんという年配の男性で、英梨々が産まれるよりも前から澤村家に仕えている。ご結婚はされているが子供には恵まれなかったらしく、英梨々を子供か孫のように可愛がっている。英梨々からもおじいちゃんのような気がしているに違いない。俺も小さい頃から知っている。優しい紳士で怒っているのをみたことがない。
門の横の勝手口のオートロックの開く音がした。俺はそこから中へと入った。玄関先に細川さんが迎えにきてくれた。いつもなら英梨々が出てくるはずだ。スリッパに履き替え応接間に案内された。応接間・・・?
そこでしばらく待たされる。バイトのメイドさんがアイスティーとクッキー缶をもってきくれた。そして、俺の耳元で、「いったい、何をしでかしたのです?」と聞いてきた。「えっ、何も・・・」と俺は曖昧に答えた。メイドさんは笑いながら部屋の外に出ていった。可愛らしい女性だ。名前はわからない。
どうやら、昨日のことがバレているらしい。とはいえ、どこまでバレているのやら・・・
さらに時間が経った。時計を見る。1時を回っている。こんなことならランチを何か食べてくればよかった。高級そうなクッキーなので、ボリボリと全部喰うわけにはいかなそうだ。いや、別に喰ってもなんの問題もないけれど、もう高校生なので節度を示したい。あっ、昨日は分別を超えてしまったか・・・
俺は考える。英梨々から話をするとは思えないので、スマホのGPS追跡ではないだろうか。お嬢様の英梨々に専属の護衛が付いているわけではないが、それなりに管理されているのかもしれない。だとするとラブホテルにいったことは絶対にバレる。
ドアが開いた。細川さんが入ってきた。身なりはいつも整っていて清潔だ。白髪のまじった髪が渋い。枯れた男性の鑑みたいな人だ。
「お嬢様はお会いになりません」
「はい!?なぜですか?」
「なぜ?なぜとおっしゃいましたか。ご自身でおわかりになりませんか?」
語気が強いわけではない。穏やかな口調だが断固たる意志がある。これは手ごわいどころか、俺がどうこうできるものではなさそうだ。ただ、事情がわからない以上は、認めるわけにはいかない。英梨々のためにも。
「ええ、わかりません。英梨々がどうかしました?」
「そうですか。では、昨日、お二人がお出かけになられた、ホテル〇〇について、ご存じないと?」
「記憶にありません」
「監視カメラに映像が残っております。501号室に入られたことも」
「ぶぅー」と俺はお茶を吹き出してしまった。もう勝てない。なんてプライバシーのなさ。
「とにかくですね。俺は何もしてないですから・・・」
「そのようなことを申し上げたいわけではないのです」
俺を諭すように話す細川さんだったが、扉の奥が何やら騒がしい、英梨々の声が聴こえる。
バタンッ!と大きな音で扉が開いた。
英梨々がかっこよく登場といいたいところだったが、パンダの着ぐるみみたいなパジャマ?を着ている。おまけにフードまでかぶっている。もうちょいマシな恰好はないのかよ、と心のなかでツッコミつつ、様子を見守る。
「細川さん!昨日から話した通り、あたしとこいつでは何もなかったから!」
「お嬢様。そこにお座りください」
「いやよっ!」
「英梨々、そんなに困らすなよ。ほらほら、隣座って」
「もう、しょうがないわね」
「はぁ・・・」
俺はため息をつく。
「よいですか、お二人とも。わたくしが申し上げたいのは、何もお二人の関係性について言及しているのではありません。あのようないかがわしい場所に行ったことに、軽率な行動だとご指摘申し上げているのです」
「ごもっとです」と俺は全面的に相槌を打つ。全面降伏。これが最良。
「だから、いかがわしい行為なんて、こいつとはしてないですから。ね?倫也」
「ソウダネ シテナイネ」
「なんで、そうやって含みを持たすのよ!あんたバカなの?」英梨々が俺の首をしめて揺らす。
これでも細川さんは笑ったりしない。俺は困った。ただ言いたいことはわかった。高校生同士でラブホに行ったことを懸念しているであって、英梨々と俺の関係を怒っているわけではないようだ。だいたい、英梨々が俺の家に入り浸ったり、泊まったりしている時もあるのだから、そこは黙認なのだろう。何事ないが。
「でもね、倫也。そのせいであたしが倫也と会うのは当分の間は禁止っていうのよ。今日だって軟禁されていたし、スマホは没収されるし」
「ほうぅ。で、ふて寝してその恰好なわけだな?」
「そうよ。これ、カワイイでしょ」
「ああ、パンダはカワイイよな。バカっぽく見えるが」
「なによ」
「コホンッ」と細川さんが咳払いした。ほんとこんな真面目な方に申し訳ない。
「わかりました。お嬢様。今回の件は無かったことに致しましょう。ですが、くれぐれも今後はお気をつけください」
「わかったわよ。ほんと、細川さんも気苦労が絶えないわね」
「おまえのせいだよねぇ!?」と俺がツッコンでおく。
「というか英梨々。このペナルティーを決めたのって、細川さんなのか?」
「そうよ。あたしの両親がこんなことで干渉してくるわけがないじゃない」
「こんなことってお前・・・一応、バレたら学校停学だからね!?」
「あたしの両親は、あたしに凌辱同人マンガを描くように育てたような人なのよ?あたしと倫也が結ばれたら喜ぶだけよ。ラブホぐらいでガタガタいうわけないの」
「ほぉー」
英梨々の周りでは、まともなのが細川さんだけというわけだな。澤村家の良心といったところか。英梨々が辛うじてまともに育ったのは、細川さんのおかげなのかもしれない。ありがとう細川さん。もう手遅れですが、立派な腐女子に育ちましたよ。ああ、なんだか細川さんが不憫に思えてきた。
「それではお嬢さま、わたくしはこれで失礼をさせていただきます」
そう言って、細川さんが応接室から出ていった。扉の向うにはメイドさんが聞き耳を立てていた。
「ほんと、倫也が来てくれて助かったわ」
「そりゃどうも。けっこう大変なことになってたんだな」
「まぁね、大騒ぎしすぎなのよ」
「お前のスマホにGPSでもついているのか?」
「スマホにGPSはついてるでしょ普通。別に家の人に追跡されたわけじゃないのよ」
「じゃあ、どうしてバレたんだ?」
「たまたま、あのホテルがうちの系列だったらしくて、ちょっと気付かれちゃったのよね」
「せっかく変装してたのにな」
「あんたも変装させればよかったわね。あたしらしき人で確認されたようだけど、あんたが映っていたことが決定的だったのよ」
「恥ずかしい・・・というか、普通はああいう場所のプライバシーって極秘じゃないの?」
「受付にいたのが、親族だったのよ」
「はぁ・・・まぁしゃあないな」
「ほんとよね。何もなかったのに」
「ナニモ ナカッタノニ」
「ぷっ」といって英梨々が笑った。やっと明るい笑顔で八重歯見える。
「倫也、部屋いきましょうよ」
「それはいいけど、ランチ喰ってなくてさ」
「あら、あたしのこと待っていたのかしら?」
「そうだよ」
「悪かったわね。じゃあ、部屋に運ばせるわよ。何がいいかしら?」
「なんでもいい」
「そういうのが一番困るのよ。ピザでいい?」
「頼む」
俺たちは二階の英梨々の部屋に移動した。英梨々の部屋だけでも普通の家ぐらい広い。天蓋付きのベッド、大きなクローゼットは壁一面に並んでいるし、鏡も大きい。モニターも大きく、ゲーム機も各種そろっている。勉強机とマンガ制作用の机が別々にある。最近買ったゲーミングチェアが二つあって、一つは俺用のだ。
俺はそのイスに座りながら、アニメを再生した。
『彗星のさみだれ』
今放送中の最新作で、特殊能力を持った騎士(ナイト)が姫を守る話だ。守るといっても、姫もものすごく強い。だんだんと敵が強くなっていき、こちらも戦力が向上するが、だんだんと追い込まれる。そんな話だ。
俺は届いたピザを齧り、ウーロン茶で流し込む。やっと食事ができて落ち着いてきた。英梨々はイスを左右に揺らしたり、イスの上で体育座りしたりして、アニメを観ている。ナイト物語なので英梨々好みなのだろう。いつもはもっと、「こんな展開あるわけないじゃない」とか、「そうはならんやろ(なってるやろがいと俺が相槌を打つ)」とか、「これ、〇〇フラグよね」とか、文句や感想をいいながら観るが、今日は無口で静かに観ている。
「ああ~倫也ぁ、あたしもやってみたい」
「何を?」
「この跪いた騎士が、姫の手にとって騎士の忠誠を受けるやつ」
「キザなやつだと、キスするよな」
「それそれ。やってよ」
「おう、なら立て」
英梨々姫が立った。パンダの着ぐるみを着た我が姫は、わがままで、自由奔放で、ちょっとエッチで、腐女子のオタクだ。忠誠を誓う気にはなれないが、まぁ一緒にいて楽しい。
俺は跪いて、英梨々姫の差し出した右手を手にとった。そして、思い出した。この細い指と俺より少し冷たい。なによりも英梨々の右手はタコでゴツゴツしている。
俺は手に手をとったまま英梨々の方を見上げた。
「なぁ英梨々・・・」
「なによ?」
「昨日のアレ・・・左手だったろ?」
英梨々の顔がみるみる赤くなった。口を波にして、もごもご動かしている。
「ほんとバカ!早く忘れなさいよ!」
怒ったふりして、英梨々の顔もにやけている。片側の口角だけを上げて、八重歯がちらりと見えた。
もちろん。『やなこった』と俺は思った。
(了)
以下、前回と今回の話の余談です。
R15描写とR18描写の差は、直接的な性的表現にあるようです。
今回、わざわざ『左手』を言及した理由は、性的描写の補足になります。
倫也の左側に英梨々が寝ていた場合、英梨々が倫也の方に体を傾けると、左腕が上になります。右手の自由は利きにくいので、左で持つことになるわけです。
もともと、作品上で手をつなぐときに右てのペンダコを気にすることを何度も言及していますので、この『左手』というのは自然ですね。
身長差があると、女の手は『逆手』になります。(根本が親指)
英梨々にブランケットに潜らせた理由は、距離が近いと『順手』(上が親指)で持つことができ、左手に右手を添えることも可能になり、行動の選択肢が増えるわけです。
繊細な指使いを含めて描写するとR18になるので、サラリと流しました。
好評ならR18版で書いてみようかなと思いまふ。