【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み   作:きりぼー

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水曜日の英梨々は、少し子供っぽいことをしている。

今回のテーマは火遊びだったが、ろくなアイデアが浮かばないので、この話に落ち着いた。


12 焼きトウモロコシのために火を灯せ

8月3日(水)夏休み11日目

 

 快晴。もううんざりするぐらい空が蒼い。その上、雲がない。辛うじて飛行機雲の消えかかっているのが見えるだけだ。そして、例にもれず暑い。セミがまだまだがんばって鳴いている。

 こんな日は冷蔵の効いた部屋で、ダラダラと過ごしたいと思うが、朝から英梨々に呼び出されてしまった。できるだけ早く来て欲しいという。俺は朝の身支度をして、9時前に英梨々の家に到着した。チャイムを鳴らすと、英梨々が玄関から出てきた。

 

「倫也ぁ~。これ、食べてみなさいよ」

 

 英梨々が手にトウモロコシを持っている。葉っぱもついた状態だった。

 

「なんぞ?」

「いいから、食べてみなさいよ。朝採れを空輸してきたのよ。鮮度落ちる前に食べてみて」

「トウモロコシって空輸するものなの!?」

「ほら、早く早く!」

 

 そのために呼び出されたらしい。俺は空輸された朝採れのトウモロコシの葉を剥いた。

 

「英梨々、これ、生じゃねーか」

「そうよ?」

「いやいや、トウモロコシは生じゃ食えねーだろ」

「はぁ?あんたバカなの?貧乏なの?トウモロコシは生で食べれるわよ」

「貧乏関係ねぇだろ。親をディするなよ」

 

 どうやら、俺の知らない間に世間ではトウモロコシは生で喰うようになったらしい。

 しょうがないので半信半疑で、トウモロコシを齧る。カシュリと歯がすんなり通って皮が柔らかい。すぐにジュワァ~と汁が溢れてできて、これがなんというか、すっごく甘い。

 

「甘いなっ!」

「でしょ。なんと、糖度が驚きの20度」

「いや、よくわかんねぇ」

「もう・・・苺の高級品がだいたい15度ぐらいなのよ。20度はバナナぐらいの甘さね」

「すげぇなそれ・・・もう果物じゃん」

「そうよ。ねっ、美味しかったでしょ?」

「そうだな・・・」

「不満?」

「いや、でもさ、やっぱり生で全部喰うよりは、茹でたり焼いたりしたいかな」

「まぁ、そうよね」

「納得なのかいっ」

「うん。そういうわけで作るわよ」

「何を?」

「トウモロコシ焼き装置」

「なんだそれ?」

「とにかく、中に入りなさいよ」

 

 俺たちは玄関先で会話していた。そんなにトウモロコシが食べてもらいたかったのか。家の中に入りそのまま英梨々の部屋にあがる。朝から英梨々はいい香りがする。日向の優しい香りだ。

 

 今日の英梨々は、ゆったり目のベージュのサロペットを着ている。肩のサスペンダーのところに、猫のキーホルダーみたいなアクセサリーが揺れていた。それにオレンジと黄色のチェックの長袖を着ている。すごくオシャレな感じの田舎の農家風ファッションということらしい。確かにトウモロコシ畑の農家はこんな感じのイメージだ。大きな麦わら帽子でもかぶれば完璧だろう。

もちろんトウモロコシからの連想であって、普通の人が街で英梨々をみかけても、カワイイファッションの女の子にしか見えないだろう。

 

「で、これが設計図ね」

 

 俺は英梨々から画用紙を受け取った。クレヨンで描いてある。中央に火が燃えていて、レンガの上に金網がのっているようだ。両脇には子供の俺と英梨々が平面的に描かれている。幼稚園児が描く画風だが、俺の知る限りでは、幼稚園の頃の英梨々はこれよりも絵が上手かった。

 設計図といいながら、なんの設計もされていないがイメージはわかった。俺が確認したいのはただ一つ。

 

「バーベキューの器械でいいんじゃね?あれでよくトウモロコシ焼いているのをテレビで見かけるけど」

「・・・」

 

 英梨々が天井を見上げている。きっと素で忘れていたのだろう。俺としてはわざわざ素人が火遊びをする必要はないと思っている。

 

「却下ね。それじゃつまらないじゃない」

「誰が」

「あたしが」

「なら、しょうがないな。じゃあとりあえず消防庁に連絡をしれて許可申請でも出すか」

「はぁ?あんたバカなの?死ぬの?」

「っと、お決まりのセリフが出たところで、やるか」

 

 まったくもって、英梨々の考えていることがわからない。俺たちは受験生で勉強をしないといけないのに、毎日遊び呆けている。なんと夏休みの4分の1が終わってしまった。早い。課題が1ページも終わってない件について、俺は英梨々に質問する気にもなれない。

 

 庭に出てスコップで少し穴を掘った。そこに丸めた新聞紙と練炭をいれる。花壇の横に重ねてあったレンガを運んで、その周りを囲んだ。そして、英梨々が用意していた金網をかぶせると、あら不思議。意外といい感じのトウモロコシ焼き装置なるものができた。俺、天才かもしれん。

 英梨々が満足そうに見ている。屋敷から執事の細川さんが出てきて、俺と目があってから軽く会釈していた。手には消火器をもっていて、外に1つ置いてくれた。まったく気苦労の多い方で頭が下がる。こんなおてんば娘の執事など大変だと思う。

 

「よし、じゃあ英梨々。ライター貸してくれ」

「ない」

「ないなら、キッチンから持って来いよ」

「いやよ」

「なんでだよっ!」

「あんた、ここまで手製で作ったんだから、火ぐらい起こしなさいよ」

「ほう・・・」

 

 英梨々がわけのわからないことを言い始めた。何か?トウモロコシを焼くのに、火はライターでつけるのと、火を起こすのでは違うのか?オリンピックの聖火みたいなものか?

 

「じゃあ、虫メガネを貸してくれ」

「それ、不正よね」

「ルールを知らされてないよねぇ!?」

「あんたねぇ。火を起こすって言ったら、板と棒でしょ」

「ほうぅ・・・」

「だいたい、火も起こせないで、あんた。無人島に漂着した時に困るでしょ」

 

 よしわかった。英梨々がその気ならこっちも考えがある。

 ・・・とりあえず、動画を見よう。きっと火を一生懸命起こしている人がたくさんいるに違いない。

 

「はい。これ、板と棒。枯れ葉もサービスしておくわよ」

「そりゃどうも」

「あと倫也。ここだと風が強いから、あっちの家と壁の間あたりがいいと思うわよ」

「そうだな・・・」

「それと、勇者倫也にこれを授けよう」

 

 英梨々の口調が変わったので、何かと思ってみたら、松明だった。木の棒に布が被せてあって麻ひもで結んで留めてある。灯油の匂いがする。もしかしてものすごく燃えるんじゃないだろうか。それにしても見事な出来栄えだ。

 

「それ、どうしたんだ?」

「そりゃあ、8ゴールドで買ったに決まってるでしょ」

「あっそ」

 

 まぁたぶんディテールが細かいことから、英梨々の手製だろう。ちなみにこの二重表現は慣用句化してOKらしい。「ディテールに凝っている」の方がいいかもしれない。

 

 俺は道具を運び、壁際の風のないところで火起こしに奮闘した。グルグルと手で回すのはNGらしい。手の皮がすぐに破れて危険だ。板の上に石ころで溝を掘る。そこに落ち葉をいれて、あとは力をいれて素早く棒をこするだけだ。

 

 ・・・

 

 ・・・

 

 ・・・ うん。知ってた。まったく火が起こらない。ただ、ちょっと焦げた匂いや、焼け跡ができた。コツをつかめば火が起きるかもしれない。もう少し努力を重ねてみるが手が痛い。軍手でもあればもう少しチャレンジできそうだが、この辺でギブアップしようか迷う。

しかし、これもトウモロコシのためだ、もう一度だけ太陽神アポロンに祈りを捧げる。

 

 落ち葉がけっこう粉々になっていい感じではある。最後にヤケになってガァーと強くこすったら、煙が出てきた。ふぅーふぅーと息を吹きかけて、もう一度こすると火が灯った。おおぉ。ちょっと感動。

 俺は原始人から文明人になった気がする。時代が違えば英雄に違いない。火が燃えたので松明を近づけた。

 

ボッ! と音が鳴ったわけではないが、一気に燃え上がった。さすが松明である。

 

 俺は松明を掲げ、何やら怪しい原住民のように、変な踊りを踊りながらテンションMAXで英梨々の元に戻っていった。何やらいい香りが漂っている。

 

 香ばしい香りは、醤油の焼けた匂いだと思う。英梨々が焼きトウモロコシ装置、いや間違えた。トウモロコシ焼き装置の前でトウモロコシを焼いていた。傍らには細川さんがいる。過保護だな。

 

「英梨々、火が付いたぞ」

「あら、本当に火を起こせたのね。すごいじゃない」

 

 英梨々の言葉には感情がこもっていない。こいつ・・・

 

「そこのバケツに水が張ってあるから、そこで消してくれるかしら」

「おう・・・」

 

 俺は苦心して灯した火を消した。アポロンの祝福はアクア様に捧げられたのだ。これで良しとしよう。妙に達成感があって満足した。

 俺が戻ってくると細川さんは屋敷の中に戻っていった。

 

 英梨々が長いトングでトウモロコシをつかんで皿の上に置いた。

 

「はい、倫也」

「ありがと」と素直にお礼を言う。トウモロコシの柄の部分を持つが熱かった。割りばしの先をナイフで尖らせたものが用意してあって、英梨々がトウモロコシをトングで支え、俺が割りばしを刺した。

 

 それを二つ作った。

 

「いただきます」と2人で言った。熱いトウモロコシをふーふーと息を吹きかけながら齧った。これがまた香りがあって美味い。暑いのに焼きトウモロコシは合う。

 

 氷水に冷やした瓶コーラを英梨々が取り出すと、栓抜きで開けから俺に差し出す。

 俺はそれを受け取って、喉の奥に流しこむ。キンキンに冷えていた。炭酸がシュワシュワと心地よく跳ねる。

 

「夏だな!」

「夏よねぇ~」といいながら英梨々もコーラを飲んで、それから焼きたてのトウモロコシを齧った。

 

 英梨々が楽しそうに笑ったが、残念なことに歯にトウモコロシが挟まっている。

 

「やれやれ」といった風に、塀の上の野良猫がシッポを垂らして振っていた。

 

(了)




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