【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み 作:きりぼー
水着回。場所が大事だ。
夏だ!海だ!白い砂浜だ!
と、はしゃぎたいわけです。オイルとか塗りたいじゃん。
英梨々としては、湘南や九十九里浜は嫌で、ハワイかモルディブあたりを計画していたが、これは棄却された。妥協の沖縄旅行が防衛ラインとして係争中。
そんな裏の話はどうでもいいけれど、そういうわけで機嫌が悪い。
8月10日(水)夏休み18日目
信じられないことに夏休みが半分すぎた。課題は1ページたりとも終わっていない。おかしい。けっこう毎日楽しく遊んでいたのに、小人さんが来ないなんて。
俺と英梨々は焼き肉屋で冷麺を食べた。何かの本でカップルは焼き肉屋に行くようになると一人前だと読んだ。なぜだろう。うぶな俺たちにはわからなかった。
サービスランチはなかなかお得で、肉が3種類もついて、お1人様3千円だった。
上質の肉は表面を炭火で軽く炙るだけで十分で、口に入れたら溶ける。味は申し分ない。贅沢なものを口にした満足感がある。厚切りタンがこれまた柔らかく旨かった。
「冷麺ってどこで食べても冷麺よね」
「お前、なにいってんだ?」
英梨々が冷麺を口にほおばり、固い麺を噛みながら眉間に皺を寄せている。
「だから、高級店だろうが、安かろうが、そんなに変わらないじゃない」
「そうかもしれないな。あんまり食わないのでよくわからんが」
「3千円もするのに期待はずれだったわ」
「それ、肉の値段のせいだよねぇ!?」
麺が柔らかければ、それはそれで問題な気がする。
黒を基調にした高級感溢れる内装の店だ、それなりの値段をとるのも分る。
英梨々はデザートのカシスシャーベットを食べ不服そうにし、俺の方のユズシャーベットを一口食べ、また不服そうにした。そりゃあ、アイスなんてどの店もそうかわらないって。果汁から手作りしている店なら別だが。
「ほんとがっかりよね」
「店の人に聞こえるから、文句は店をでてから言えよな。でも、肉は美味しかったろ?」
「焼肉屋の肉がおいしいのは当たり前じゃないの?どうしたら生の肉を客に焼かせて不味くなるのよ?」
「おおぅ・・・」
でた。天然お嬢様発言。
庶民がたべる480円カルビをこいつに食わせてやりたい。形成肉の恐ろしい不味さと、焼きすぎるとソーセージみたいになる固い肉。タン塩だって豚だ。小さな字で(豚)って書いてあるのを、庶民は見ないふりをして、「タン塩おいしぃ~」と自分をいつわりながら、焼肉を楽しむのだ。英梨々は何もわかっていない。
だいたい、今日は朝から機嫌が少し悪い。俺には原因がわからないが、当の本人もわかっていないだろう。そういう日もある。
英梨々が会計を済ませ、レジ横のガムを一枚取る。俺ももらった。懐かしい板ガムだった。エレベーターを降りつつガムを食べる。でたゴミは英梨々が回収しバッグにしまっていた。
外は暑い。もうそれはうんざりするぐらい暑かった。景色が少し揺らめいている。太陽がアスファルトを照らし、その反射熱でさらに暑い。
「・・・倫也。海行こうか」
「今から?」
「ううん。今度」
「それはいいけど」
「だから、水着でも買いに行こうかしら?」
「水着?」
「まさか、旧スク水で行けって言うの?」
「いや、去年のとかあるだろ」
「なんであたしが流行遅れの水着を着なきゃならないのよ。恥ずかしいでしょ」
「流行なんて今時あるのか?」
「あるわよ。タブン・・・」
「自信ねぇんじゃねーか」
流行とか誰が作っていたのだろう。多様性の社会になり、もはや共通の流行を持つことは無くなった気がする。それがいいことなのか、悪い事なのかわからない。
「ほら、買いに行くわよ」
英梨々が白い日傘をさした。レース模様のUVカット仕様。柄のところが金色で持ち手もスケルトンになっていて、中に花が細工されている。まったく手が込んでいる。
さて、今日の英梨々。黒のチューブワンピースだ。胸元のところはレースになっている。スカートの丈は短く、走ったらめくれてしまうだろう。肩がでていて、英梨々の白いうなじがお日様の元でよく映える。ブラ紐が見えないところから、同じくチューブブラをしているのだろう。薄い黒生地のくせに、俺の千里眼をもってしても、下着の色はわからない。まぁ同系色だろうな。
スカートが短いので、何かの拍子に下着が見えるかもしれない。フラグを立てて期待しておこう。
英梨々の黒い靴は少しヒールが高い。英梨々にしては珍しいのだが、ファッションの統一感はある。
セクシーなお姉さま風をイメージしているのだろう。しかし、暑さのせいでダレている英梨々は、夜の街で余った女に見えなくもない。ツインテールも心持ち元気がないように見える。黒いリボンが垂れているせいだろうか。
※ ※ ※
駅ビルにあるテナントに来た。英梨々は水着を見て回っている。俺は目のやり場に困る。下着売り場と同じで男性には居心地が悪い場所だ。店員のお姉さんと目が合っても、相手は表情一つ変えない。
英梨々は店内を一通り見終わったあと、気になったものを手にとって眺めては戻し、別のものを手にとっては眺めている。
そしたら普通は鏡の前で自分に合わせたり、「ねぇ、倫也。これどうかしら?」と可愛く言ったりするものじゃないだろうか?
今の英梨々はただの絵の資料として脳内にインプットしているようにしか見えないし、実際そうなのだろう。水着売り場は資料置き場じゃねーぞ、と心で呟いておく。
だいたいもって、女性の買い物など無駄に長い。フロアのエスカレーター横のベンチに座って、スマホでもいじっていたいのが本音だ。最初はドキドキしていた水着にも目が慣れる。マネキンなどまじまじと見てしまうが、別にエロく感じない。
よし、暇だし、ここで水着に関する基礎知識を披露しよう。そもそも水着の歴史は・・・
「倫也ぁ」
「なんだよっ」
もう、これからだったのに。うんちくさせろ、うんちく。
「あんた、ワンピースタイプとビキニタイプのどっちが好み?」
「へそがでてればどっちでもいいぞ」
「なによそれ。ビキニってことね」
ふふふ。ワンピースタイプもバリエーションが豊富だ。へそのところがカットされていて見えるものもある。体型を隠せるのはワンピースタイプが多いが、エロいのもまたワンピースタイプなのである。もちろん圧倒的に布の面積が小さいのはビキニだ。だが、裸以上にエロくなるのが着衣の魔力である。布の面積は関係ない。
ハイレグ好きなら圧倒的にワンピースだろう。ビニール素材のブーツと合わせたい。背の低い英梨々には似合わないだろうから、英梨々にはやっぱり少しフェミニンな感じがいいだろうか。
「じゃあ、色は?」
「そうだなぁ・・・」
色は難しい。英梨々のイメージカラーは黄色だが、水着に関していうと、青系統がやはり夏らしい爽やかさでいい。
黒も捨てがたい。今の黒のワンピースだって似合うのだ。黒い水着を着ればさらに可愛くなるのは間違いないだろう。
赤、緑の原色二つはここでは諦めよう。水玉模様や、セパレートカラーもちょっと除外したい。シンプルな中にワンポイント加えるのが英梨々だ。
ピンク系は捨てがたい。ピンクのパレオなどはツインテールにぴったりあってカワイイと思うが、少し幼すぎるか。ということを一瞬で妄想し、俺の出した結論は。
「白」
「冒険しないわね」
「白が一番デザイン豊富だろ」
昔の素材の白い水着は赤外線カメラで透過していたらしい。今は改良されているようだ。白い水着は無難なようでなかなか難しい。白は対比的に肌の色を強調する。肌が汚いと観ていられない状態になる。白はその時点で完璧な無垢であり、人間の存在が邪魔になりがちなのだ。それに膨張色であり黒よりも太って見える。
まぁ英梨々まったく関係ない話で、白い水着も着こなすに違いない。
「すみませ~ん。あの変態が言ったような、白くてへその見える水着探してもらえますかぁ~?」
「エリリッ!?」
びっくりした。店員が笑っている。俺は目があってバカですみませんと謝る。店員は何も感想を言わず、白くてヘソの見える水着をピックアップしだした。すごいやっぱりどの道にもプロがいるもんだ。
用意された水着は3種類だった。
一つはワンピースタイプもので、大きく布がカットされている。左の胸の部分だけが下とつながっていて、前からみるとワンピースっぽいが、後ろからだとビキニに見える。曲線にカットされていて、いわゆる悩殺系だな。黒髪ロングのナイスバディーのお姉さんが着たら似合うだろうが、胸の小さな英梨々では、水着に負けるかもしれない。
二つ目はタンキニだ。これがなかなかどうして・・・素晴らしい仕上がり。布面積も大きく、体型を隠せるわけだが、上のタンクトップはゆったりしていて、胸の形が強調されず、下もショートパンツっぽい形をして、男がついつい見つめてしまう股下のラインがまったくでない。こんなの水着じゃねーよと言いたいが、たった一点すばらしい所がある。上下がつながって見えるが、上の布をめくるとへそが見える。
『めくるとヘソが見える』これ。チラリズムのなんたるかをわかっているデザインは秀逸だ。何もかも最初に見せずに、特定の状況下で見える。考えた人は天才か変態か、もしくは天才の変態ではなかろうか。
最後の物が、ワンショルダービキニだ。もうこれはデザイナーの執念が生んだような傑作だった。水着にも関わらずドレスのようでもある。右肩が出るデザインで、チューブタイプのシンプルな胸を、ひらひらとした布で肩から隠している。これにより、デコルテラインが強調され、うなじから鎖骨にかけて彫刻のような美しさの英梨々にはちょうど良さそうだ。大き目のTシャツを着た時にずり落ちて肩が出ているのに近いかもしれない。お腹は完全にでているので、体型に自信のない人には無理だろう。胸が強調されないところもポイントが高そうだ。さらに、このひらひらしたデザインが下のパンツ部分にもあり、パレオのようになっている。しかしラインがしっかりでる小さめのデザインなので、太ももの細い英梨々にはデルタスポット・・・そう絶対領域が確認できるに違いない!
神様どうもありがとう。人類は天才だよ。裸よりもエロいなんてどうかしている。
「よし、英梨々。試着してみよう」
「倫也。これあげる」
俺は英梨々から100円玉を二枚受け取った。
「ん?」
「あんた、ちょっとそれでジュースでも飲んでらっしゃいよ」
「俺は子供かっ」
「ほらほら、はやくいって、へんたーいって叫ぶわよ?」
「・・・えっ、お前まさか、俺に試着を見せないわけ?」
「当たり前じゃない」
「・・・」
俺はテナントから追放された。エスカレーター脇のベンチでスマホをいじって過ごす。やったぁ、願いがかなった。あれ、なんだろう目から鼻水が。
※ ※ ※
ソシャゲ3つのデイリーミッションが終わり、ペットボトルのアクエリアスが半分ほど減った頃、英梨々が買い物袋をもって戻ってきた。
「決まった?」
「うん」
「どれ」
「秘密」
「だよなぁ・・・」
「なんで、そんなにがっかりしてんのよ」
「想像には限界があるからだろうなぁ」
「ほんと、バカよね」
英梨々があきれて、俺を見下ろしている。そうはいってもさっきまでの俺のテンションはどうなる?英梨々によって直接悩殺されるから、オチになるんだろうに。
英梨々が手を出すので、俺はペットボトルを渡した。英梨々は黒いワンピースを着ている。スカートの丈は短い。俺の目の前でペットボトルのキャップをクルクルと回し、アクエリアスを飲んでいる。
俺としては、もう世界が終わってしまうような絶望感しかなかった。水着を彼女と買いに来て、試着を見られないとかある?ありえないよね?俺は悪くないよね?
そう俺は悪くない。悪いのは神様で、人類に天才的なデザインをさせて、いたいけな少年に妙な性癖とリビドーを植え付けるのが悪い。俺はさっきまでは平凡なただの男だった。
目の前に英梨々が立っている。
俺はそのスカートの丈を、えいやぁ!!!!!とめくった。
「ぶはっ」と英梨々がアクエリアスを吐いた。その後、固まって俺を蔑んだ目で見降ろしたまま、俺にドボドボとアクエリアスを頭からかけている。
ふふふっ、好きにするがいい。俺は悪魔にもう魂を売ったのさ。そして、一瞬を見逃さず、俺の脳裏には英梨々のパンティーがばっちりと残った。
色?想像に任せる。
店内アナウンスが夏のバーゲンを宣伝していたが、俺には何をいっているかわからなかった。
(了)
うん。ただの変質者。