【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み   作:きりぼー

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 今年は6月の末からやたら暑いですが、今日の天気はどうでしょうか?
 せっかく40話書いたので投稿予約するまでは死にきれない。ということで今投稿作業中。

 今回は夏らしく流しソーメンのお話です。


02 流しソーメンをやりたい

7月24日(日)夏休み初日

 

 今日も夏日で暑いが、からりと晴れた日で気持ちがいい。

 午前中からソーメンパーティーの準備のために英梨々の家に向かう。

 大きな門の横のインターホンを押すと英梨々が出た。それから門の横の小さい扉のロックが自動で開いた。俺はそこから中へ入る。玄関から英梨々が出てきた。

 英梨々はDIY用の黄色いつなぎ服を着ている。見たところ新品だった。なんでそんな恰好なのか俺は不思議に思ったが、庭先に案内されて理解した。そこには、大きな竹が一本横たわっていた。笹には七夕の願い事の短冊がまだたくさんついている。

 

「これ、商店街の七夕のだけど、処分する代わりにもらってきたのよ」

「あのさ・・・もしかして、竹から流しソーメンを作る気か?」

「当たり前でしょ。倫也の服も用意してあるから、着替えなさいよ」

「準備いいなっ」

 

 今更断れないか。そもそも素人が作れるのかよくわからない。用意されている以上はとりあえずやれるだけはやってみよう。俺が物陰で着替えていると、英梨々が壁から顔を半分出して、じぃーと見ている。何かツッコミをいれてやるべきだけど、まだ午前中でテンションが上がらない。俺は下着姿になってから、用意された青色のつなぎ服に身を包む。思ったよりも軽くて柔らかい素材だった。

 

「はい。これ」

「これ・・・使うのか」

「知らないわよ、そんなこと」

 

これまた用意のいいことにDIY用の道具ベルトを渡された。ドライバやペンチなどがすでにセットされていた。これは流石に金属の道具なので、腰に巻いてみるとずしりと重い。英梨々も同じものを腰に巻いている。

 

「で、どうするんだ・・・」

「これが設計図ね」

「ほう・・・設計図ないと無理だよな」

 

 受け取った設計図を見て、俺は少しでも期待していたことを後悔した。まさに小学生の設計図。斜めに描かれた竹とそれを支える台が縦に何本かの線で描かれていた。

 

「じゃあ、倫也は竹の加工をお願いね」

「英梨々は?」

「あたしは竹をのせる台の方を作るわよ」

 

 英梨々の示す方をみると木材が並んでいる。そこには電ノコや丸ノコ、電動ドリルなど大工道具もそろっていた。英梨々の頭の中には設計図が入っているのかもしれない。

 

「危なくない?」

「別に平気でしょ。それとも竹と変わろうかしら」

「いや、竹でいい・・・とりあえず枝を落とせばいいよな。ゴミ箱は・・・」

「あの辺の横に置いといてくれるかしら、そしたら後で処分してもらうから」

「あいよ」

 

 そういうわけで、日陰の場所まで竹を移動し、俺は小さな植木用のノコギリを使って竹の枝を切り払っていくことにした。やれることをやって、詰まったら動画でも見ようと思った。

 竹は意外と固く、コツをつかむまでは苦労をした。切った枝の七夕飾りや短冊は付けたままでいいだろう。どうせ燃やす。最初は興味深く短冊を読んでいたが、人間の煩悩なんてどれも似ている。そして時々混じる「世界が平和になりますように」という漠然とした願い。お金が欲しいという直接的な願いとどっちがマシだろうと考えながら、枝をすべて切り払った。ゴミをまとめて横の方に移動しておく。

 一本の竹の幹が残ったが、これをどうやって半分に割るのかわからない。立てかければ3階に届きそうなほど大きくて立派だ。

 

 英梨々は電動ドリルで木製の板に穴を開けている。あいつの中ではわかっているのだろう。長さの違う棒のような板が量産されていた。真剣に作業している時に声をかけて邪魔するのも悪い。俺は端の方に座って英梨々が没頭する作業を少し見ていた。

何か炭酸飲料が飲みたいので家の中に入って、働いている執事かメイドさんを探した。パーティーなので厨房の方には料理をしているスタッフがいた。そこに声をかけて瓶のコーラを二本受け取り、その場で栓を抜いてもらう。

 

 英梨々のところに戻ると、一段落したようで電動ドリルを置いて体を伸ばしている。俺は「お疲れ」と一言添えて冷えた瓶のコーラを渡した。なんとなくお互いに瓶を軽くキンッとぶつけてから飲む。これが暑い日には最高に美味い。このために働いていると言っても過言ではないだろう。大人になったらビールになるのかもしれないが、コーラも楽しめる大人でありたい。

 

「でだな。一応あそこまで準備できたけれど、どのくらいの長さにするんだ?」

「5メートルもあれば十分だと思うけど、長い方が見栄えがいいじゃない?適当に細くなる当たりで切ってもらえれば」

 俺は竹のところにいって、「この辺でカットするか?」と聞くと、英梨々がうなずいた。

 

 飲みかけのコーラを脇に置き作業へ戻る。言われたあたりで竹をノコギリでカットする。あとはこれをどう二つに割るかだが・・・

 

「英梨々、これってどうやって割るんだ?」

「知らないわよ」

「ネットで見るか・・・」

 

 スマホを出して動画を検索する。これぐらいの情報ならすぐに集められる。

 

「けっこう普通にナタで割れるんだな・・・」

「というか倫也・・・竹を乗せる台って、余った竹をクロスにさせればいいのね・・・」

「少しは予習してから、作れよ」

「創作は予備知識がないほうが奇抜なのができていいのよ」

「創作じゃなくて、工作だろ」

 

 英梨々が頬を膨らませて少し怒った表情をしている。英梨々の中ではH型を木材で作り、橋げたのようにする予定だったらしい。作りかけた以上はそれでいいだろう。別に正解があるわけじゃない。

 

「英梨々。鉈ってどこかにあるか?」

「裏手の物置にあると思うけど・・・探してみてくれる?」

「はいよ」

 

 俺は屋敷をぐるりと周って物置小屋に行く。100人乗っても大丈夫なあの物置だ。中に入って電気をつける。広い・・・俺の部屋ぐらいありそう。幸い、鉈はすぐに見つかった。壁にもたれかかっている柄があったからだ。刃の部分は皮製の鞘で保護されていた。俺はそれを右手にとって、皮のケースから抜いた。抜刀という表現がいいかもしれない。

 刃渡りは50cmぐらいあり、幅も10cm程あった。これはもう武器だ。しかも刃の部分は鋭く研がれていて、文様も浮き出ている上に、銘も打ってあった。これはもう伝説の武器クラス。ちょっとテンションがあがる。もう一度ケースに戻してから、英梨々のところに戻った。

 

 英梨々の周りにはH型に組まれた木材がいくつかできあがっていた。ネジを電動ドライバで締めている。

 

「英梨々。見てくれ!これ!もはや武器!」

 

英梨々の前で、それらしい型構えから抜刀して、両手で鉈を構えた。ちょっとした勇者気分。もしくは山賊。

英梨々は俺を一瞥して、何も言わずに自分の作業に戻っていった。つれない。

 

・・・さては、英梨々が俺を覗いた時に、何もツッコミを入れなかったことを根に持っているらしい。こうなったら、さらに何かボケるしかない。

 

「俺・・・このソーメン台作り終わったら、結婚するんだ・・・」有名な死亡フラグをアレンジしてみる。英梨々はため息をついて、俺を睨むと、

 

「すぐにゾンビになりそうね」と言った。

「弱いのは自覚あるけどなっ! ・・・なぁ、これ使って竹を割るのは怖いんだが・・・」

「あたしがやったほうがいいかしら?」

「いや・・・竹を抑えるのを手伝ってくれるか?」

「いいわよ」

 

 俺は竹の太い方を台の上に乗せて角度をつける。それを両足ではさみ動かないように固定した。後ろで英梨々が竹を転がらないように支えてくれている。

竹の切り口に鉈の刃を当てる。鋭い刃が自分の方を向いているので非常に怖い。木槌をつかってトントンと慎重に叩くと、竹が裂けて中へ刃が入っていく。思ったよりもずっと切れ味がいい。そのままリズミカルに木槌を叩いていく。ある程度まで割る。ここでいったん鉈を抜いて、竹を地面におろした。

 

「ここからは、横に寝かせたままでもできそうだな」

「割れたところを少し持ち上げるようにしておくから、さっさと終わらせましょ」

 

 英梨々が竹の先端側を持ち上げて角度をつけた。俺は鉈を裂け目に戻して木槌を当てると、もうほとんど抵抗もなく竹を割くことができた。節目のところだけ少し固いが、上手に二つに割ることができた。竹を割くようにとはよくいったもんだ。体験しないとわからない。

 

「あとは、この節のところをキレイに整えればいいんだよな?」

「そうね。あたしのほうもだいぶできたから、それが終わったら、組み立ててみましょ」

 

 とりあえず鉈をケースに戻して物置にしまってきた。物騒なものなのでその辺に置いとく気がしない。ぬるくなったコーラを飲み干し、俺はまた作業に戻る。

 

 先端の尖った金槌で、節目の薄い所を砕いていく。もちろん砕いただけではギザギザしているので、そこをノミか彫刻刀で削ろうか思案していたら、英梨々が電動ドリルの先端に、研磨用ヤスリをセットするといいと教えてくれた。俺はそれを使って、ガリガリと削っていく。手で感触を確かめると、すでに凹凸はなくなっていて、つるつるとした手触りになった。これを全部の節目に加工をした。これならきっと素麺は上手に流れるに違いない。

 

「倫也、これ建てるのを手伝ってくれるかしら」

「はいよ」

 

 俺は英梨々の作ったH型の木材を持ち上げた。そんなに重くもないし頑丈ではない。英梨々の指示に従って芝生の上に置き、それを木槌で叩いて埋め込んでいった。太陽が真上になりギラギラと輝いている。時々雲の影になった時だけ、ほっとする。セミの声が妙にうるさかった。

 全部の橋げた部分の設置が終わると、俺と英梨々で竹を一緒に抱える。これがなかなか重い。「せーの」と息を合わせて英梨々の作った台の上に乗せると、これがなかなか立派で、見事な流しソーメンイベントの舞台が整った。

 

「固定しなくても大丈夫そうだけど、やっぱり針金か何かで固定しておいた方がいいわよね?事故につながるかもしれないし」

「そうだな。台の上に濡れた布でも置いておけば、すべらずに固定すると思うが」

「いいわね、それ」

 

 英梨々が家の中に入って、ボロ布を何枚か抱えて戻ってきた。それを水で濡らし、絞らずに台の上に干していく。そこに改めて竹を乗せると、今度はまったく動かなかった。

 

「これでいいわよね」

「そうだな。一応、両端だけ針金で固定しておくか」

「そうね」

 

 2人で両脇だけ針金で台と固定する。これで完成だ。

 英梨々はそれを眺めているが、不服そうだった。

 

「どうした?見事なもんだと思うが」

「なんか、もっとこう・・・レインボーブリッジみたいになると思ったけど、普通に流しソーメンマシーンよね」

「こんなもんだろ。即席で素人が作ったにしては、立派だと思うぞ」

「うん」

 

 それから、二人で道具を片付け、軽く掃除も済ませた。お昼を過ぎているので、お腹がだいぶ空いていた。ここは労働の代償として、何かランチをおごってもらおう。

 

「英梨々、昼飯なんだけど、何喰う?」

「はぁ?あんたバカなの?死ぬの?」

「なんだよ・・・普通のこと聞いただけだろ。そろそろ腹減ったし・・・」

「そうじゃないわよ。せっかくこれを作ったのだから、試してみないとわからないじゃない。実際にどんな感じで、不具合があるかどうか」

「そうだな」

 

 英梨々の意見はごもっともで、俺たちは流しソーメンをすることになった。英梨々が家の中に入っていく。俺はその間、日陰に座って飲み干したコーラの瓶を口につけたが、もう入っていない。空気を吹き込んで、「ホォーホォー」と奇妙な音色だして遊んでみる。暇だ。

 

 空には大きな白い雲が流れていた。塀の上に近所のノラ猫がこちらを見ている。ソーメン台は立派だし、綺麗な芝生の上にうまく調和していた。けっこう納得のいく仕事ができたと、我ながら感心する。

 

「倫也~」と家の中から声が聴こえた。俺は家にはいって英梨々のところへ行くと、トレイに何やらいろいろ乗せている。「これ、先に運んでくれるかしら?」というので、俺は受け取って庭に運ぶ。

 

 氷水に浸かった素麺と、そう麺つゆの入った器、それに薬味がいくつか用意されている。英梨々の方の皿はいろいろと綺麗に盛り付けられていた。今日のパーディーの料理の前菜か何かだろう。

 

「英梨々、あとテーブルがあった方がいいかも」

「そうね、そこに折り畳みテーブルがあるから、出してくれるかしら」

「OK」

 

 ソーメン台の近くにテーブルをセットする。立ながら食べられる高さに調整をした。

英梨々は水道からホースを伸ばして、上から水を流してみた。竹の上を水が綺麗に流れ涼しい感じがする。そして、俺たちは気が付いた。受けるところがない。最後のところにタライとザルでも置かないと、ソーメンが地面に落ちてしまう。また水もすぐにびちゃびちゃになって、芝生がぬかるむかもしれない。英梨々がいったん水を止めた。

 

 プラスチックバケツを持ってきて、電動ドリルで横に穴を開けた。そこにもう一本のホースをねじり込む。もう一方の端は下水に流れるようにした。これで万全だ。バケツの上にザルをセットし、ソーメンだけを受けられるようにした。

 

 もう一度水を流してみると、バケツから水が多少は洩れるが量は少ない。あとで防水テープで固定するば大丈夫だろう。水はホースを通って、無事に下水へと流れていった。即席にしてはいい感じだ。英梨々がなかなかできる子で驚く。もう少しポンコツかと思っていたが工作の上手さが役にたった。さすが教育テレビの工作番組を欠かさずに見ていただけのことはある。

 

「いい感じね。ソーメン流してみるから、倫也が先に食べなさいよ」

「悪いな」

「ほらほら、薬味適当にいれて」

「そんなに慌てるなよ」

 

 薬味を適当にいれる。左手に麺つゆの入ったお猪口を持って、右手で箸構えた。

 

「よし、こい!」

「いくわよ~」

 

 英梨々が適当な量を、箸でつまもうとしたが上手くつまめなかった。トングでも難しい。

 

「手でいいかしら?」

「そういうのは、普通は手じゃないか?」

「本番だと衛生的に問題よね」

「薄い使い捨てのビニール手袋でもしたら?」

「そうするわ」

「とりあえず今はいいぞ」

「じゃあ、いくわよ~」

 

 英梨々がソーメンをつかんで、竹の中に入れた。水と一緒に流れて来る。なかなかの速度だった。俺は箸を待ち構えたが、ソーメンのすべてをつかむことはできなかった。

 

「倫也、下手くそ~」

 

英梨々がケラケラと笑っている。黄色いつなぎ服もよく似合っているし、頭の上にまとめた髪型もいい。何よりも、こうやって無邪気に笑っている英梨々は、八重歯ちょっとだけ見えて文句なしに可愛い。そして、俺はそんな英梨々の笑顔につられて一緒に笑ってしまった。

 

 塀の上の猫はアクビをしてから、どこかへ行ってしまった。

 

(了)


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