【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み   作:きりぼー

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バイト編はけっこう毎回楽しく書けている。

他のバイト編も全5話ぐらいで作ったらいいのかもしれない


20 マンガ喫茶バイト③女教師風

8月11日(木)夏休み19日目

 

 今日はマンガ喫茶でのバイトの日である。お盆休みが始まったからなのか、今日が休日だからなのかわからないが、客の数がいつもより多かった。そして常連さんが来店されていない。

 

 英梨々は受付横のラックに自分の同人誌を並べレイアウトしていた。ポップアップを作り、サイン色紙を置き、大きめのポスターまで自作している。ちょっとした同人誌サイン即売会みたいになっているが、もちろん誰も、「エゴスティック・リリィ」なる変態凌辱同人作家が、この可憐な美少女だなんて微塵も思わないに違いない。

 

「それは、や・め・ろ」

「うるさいわね、変態」

「お前にだけはいわれたくねぇわ!」

 

 やれやれ、昨日のスカートめくりの事をまだ根に持っている。

俺がやめるように指示したのは、英梨々が作ったでかいポスターの縮小コピーだった。題材は俺をモデルにした四つん這いの裸だ。さすがに縮小コピーなら、俺がモデルとまではわからないだろうが、飾られていい気分のものではない。断固反対する。

 だが、英梨々はラック前面の空白部分にそのポスターを貼りつけた。

 

「剥がしたら訴えるから」

「何を?」

「あんたの変態行為をよ」

「あれはちょっとした出来心だろ・・・」

「出来心でスカートめくりが許されたら警察いらないわよ」

「英梨々、声でかい・・・」

 

 そして、俺は肩身が狭い。彼氏特権とか、イケメン無罪とかないのだろうか。後者は俺には当てはまらないか。しかしどうなんだろうか。

 

「陪審員が同年齢の男だったら、俺の主張が通ると思うぞ?」

「どんな主張よ」

「彼女と水着を買いに行って、いざ選ぶ時に試着を見せてもらえず、お店から追放されました」

「それで?」

「それで、つい彼女のスカートをめくってしまいました」

「前半の事が、後半の動機につながらないわよね?ましてや正当な理由にならないわよ?」

「だから、同年代の・・・」

「はぁ?あんたバカなの?死ぬわよ?」といって、英梨々はメガネをクイッとあげた。

「えっ死ぬの?」

「同年代の男の子が陪審員なのよね?」

「そうだよ。俺に同情が100%集まるだろ」

「あたしが泣いたら、あんたが100%悪で死刑判決間違いないと思うわよ」

「・・・」

 

 うーん。ごもっともかもしれない。

 

「じゃあ、同年代の女の子なら俺の無罪が証明されるってことだな?」

「審議される前に死刑判決が下るでしょうね」といって、メガネをクイッとあげる。

「ですよねぇ・・・」

「あんたねぇ、ほんと真剣に謝ったほうがいいわよ?」

「そうだな。ちょっとバックヤードでいいか?」

「いいわよ」

 

 俺と英梨々はバックヤードにいった。狭い3畳ぐらいの部屋にロッカーと、冷蔵庫と、電子レンジがある。

 

 今日の英梨々は、一言で言うなら女教師風の衣装だ。実にテンプレ的な衣装にしてしまったために、胸にパットを盛っているのが痛々しいのは指摘しないでおこう。丸い大きな襟のブラウスに、黒のタイトスカート。すらりと伸びたあしは当然黒いパンストを履いている。

四角い細長い銀縁メガネまで新調している。ことあるごとに、メガネをクイッとあげているのが今日の英梨々のお気に入りの仕草だ。芸が細かい。ベージュのエプロンに、カメのワンポイント刺繍がされていた。ここらへんに妥協はない。

 

 俺はさっさと英梨々との関係が修復したかったので、何のためらいも見せず土下座をする。

 

「ごめん。英梨々。俺が悪かった」

「もういいわよ。ほんとバカなことやめなさいよね」

「わかった。もう二度とあんなバカなマネはしないと、お前のそのカメの刺繍に誓う」

「それって守る気ないわよね」

「守れない嘘はつかないだけだ!」

「かっこよく変態アピールしないでよ」

 

 ふぅ。これ一段落。俺は土下座した顔をあげて、ついでに英梨々のスカートをのぞき込む。

 

「ぐっじょぶ!・・・グフゥ・・・」

 

 うん、見事なパンストだった。下着の色は白かな。はっきり見えないのでわからなかった。でもって、英梨々は俺を容赦なく顔を踏んづけた。さすが英梨々だ、お約束のなんたるかを心得ている。

 

 英梨々は何も言わずに、受付にもどった。来客のチャイムが鳴ったのだ。「チッ」と舌打ちをするあたり、英梨々もそれなりに楽しんでいるようだ。よかった。本気で怒っていたらどうしようかと思っていた。忘れないうちにトイレ行きたい。

 

※ ※ ※

 

 来る客がほとんどが受付横の同人誌を手に取り、パラパラとめくり、そしてひきつった顔をしてラックに本を戻した。英梨々はそれを横目でみている。

 

「人気ないわね」

「まだ昼間だしな。軽いテロ行為に近いと思うぞ」

「そう?」

「一般人からすれば、見開きで男の裸とか、あるいは凌辱されている女の子みたらヒくのは当然だろ・・・」

「了見が狭いのよ」

「どうだかな」

「夜だと違うのかしら?」

「ああ、夜だとちょっと事情が変わるからな」

「なんでよ」

「なんでもだよ」

 

 説明できるか!何のために個室が用意されていると思ってるんだ。トイレに篭られないためだぞ?まったく、トイレをトイレ目的以外で使用するやつの顔がみていたい。迷惑だよね、ほんと。ああ、個室行きたい。すっきりしたい。

 

「あとさ、英梨々。言いにくいけど、俺、お前のこと好きだし・・・」

「なによ、突然告白してきて。仕事中はキスしないわよ?」

「そうでなくってだな。その盛りすぎた胸パットはやめた方がいいと思うぞ?」

「やっぱり?」

「コスプレ的に気持ちはわからなくはねぇんだけどな」

「でしょ」

「でも、バレバレなのはよくないだろ」

「それって、あんたが元の大きさを知ってるからじゃないかしら?」

「元の大きさも俺は知らんぞ?触ったこともねぇし」

「変態」

「ちょっとまって、そういう流れだったか?」

「いいわよ。ちょっと外してくる」

 

 英梨々が立ち上がってバックヤードに下がった。今、裏では英梨々がブラウスのボタンをはずし、胸元をいじっているわけだが、まったくエロさなどなく、まぬけ極まりない。

 しかし、果たしてどうだろうか。英梨々は本当に胸がペタンコだろうか。あの日・・・山で遭難しかけたあの時に、Tシャツに透けてはっきりとそれなりの膨らみと小さな乳首が浮きあがっていた。あのエロさ・・・

 

 あっ、いかん。思い出したらいよいよやばい。なんで朝から発情してるかなぁ。大丈夫か俺?しかたない。トイレで落ち着ける前に、俺はラックの前にたって俺の裸の絵を見る。このド変態彼女が描いた、俺の四つん這いの後ろ姿を見れば、なるほど、げんなりとする。あいつバカなんじゃないだろうか?やっぱり剥がそう。

 ペリペリと両面テープをはがした。ご丁寧にラミネートされているから、絵は傷つかない。

 

「倫也ぁ・・・あっ、あんた何剥がしているのよ!訴えるわよ」

「英梨々。声でかいって・・・」

「・・・もう、やめてよね」

 

 お客様の視線が気になる。まったく、仕事中にどうして俺と英梨々は騒いでしまうのか。普通のバイトだったら首になるところだが、ここは澤村家の系列店だから問題なし。

 

「で、何かいいかけてたけど」

「うん。これでどう?」

 

 英梨々が体をくねらせ、片足をあげてポーズをとっている。この変なポーズって、まいっちんぐマチコ先生あたりが元祖なのかな。ついでに舌を出してテヘペロしてあざとい。ツインテールが揺れている。ああ、可愛いよ、ほんと英梨々は可愛い。これで変態でなければなぁ。惜しい。

 

「いいんじゃね?」

「あんた、もう少しまともな感想いいなさいよ」

「まともな感想は独白しているからいいんだよ」

「なによそれ」

 

 英梨々が受付に座った。白いブラウスからブラジャーが透けてみえる。英梨々にしては珍しく、ライトグリーンのブラで目立つ。衣装とはちょっと合ってない気がした。

 

「いや、英梨々。そのライトグリーンの艶やかさはなかなかいいと思うぞ」

「あんたって、ほんとバカよね。どうしてこう男の子ってバカなのかしら?」

「年頃だからな」

「たまってんでしょ」

「おかげさまでな」

「はぁ?あたしが悪いっていうの?」

「だから、声でかいって・・・」

 

 俺は客の方へ向いて頭を下げた。お客様の来るチャイムが鳴った。英梨々が「ちっ」と舌打ちをする。

お前はそんなに客が来るのが嫌なのか?

 

 今日はお客が多い、店内はたえず10名ほどいる。受付の前を通りドリンクバーを利用する人の数も当然増えるので、俺も英梨々も今日はできるだけおとなしく仕事をしたい。といってもやることもないが。

 

「ねぇ、倫也」英梨々が俺の方へ寄ってきて、

 

『また、してあげてもいいわよ』と耳元で囁いた。

 

 英梨々の吐息で耳がくすぐったかった。『また?』またってなんだ・・・

 俺が英梨々の方をみると、英梨々はすぐ近くで俺のほうをのぞき込むようにしてみている。レンズ越しにサファイヤブルーの瞳が見える。その時、英梨々がメガネをクイッと直した。

 

「それ、やめろよw」と思わず、笑ってしまった。

「ふふふっ」と英梨々も笑っている。

 

 まったく。くだらない。真面目なんだか、不真面目なんだか。笑ってしまってなんだか負けた気がする。

 

 そして俺たちは沈黙した。何食わぬ顔で受付に並んで座り、前を不自然に向いて固まる。

 

 なぜなら、客の1人が英梨々の同人誌ラックの前に来て、手にとって見ているからだ。しかもこの20代前半の少し小太りの男性は、ラックの前で物色すること3度目である。水色のTシャツを着ていて、腹が少しでている。メガネはセロテーブで補修されていて、ずいぶんと使い込まれていた。

 そう。俺たちと同類のはずである。オタク。パンピーとは違う怪しい世界の住人の気配がする。周りが見えず、自分の世界に篭りながらも、世間の目をそれなりに気にして生きている。空気が読めず、ちょっと変わった人といわれても、自分ではなぜかわからない。そんな人達の仲間だ。

 

 ゴクリッ 

 

 英梨々がツバを飲んだ。こいつ、少し興奮しているかもしれない。英梨々の耳が赤くなっている。そういえば英梨々は同人誌を描くが、販売は担当していない。自分の作品を客が手にとるのをみるのは初めてかもしれなかった。ネットで何度もエゴサーチをする性格である。これは気になるだろう。

 

 そして、チラッチラッとお客様が俺の方を見てくる。ふむ。わかった。俺はうなずいた。

 

「英梨々、ちょっとバックヤードで隠れてろ」

「なんでよ」

「いいから」

 

 英梨々が不服そうに立ち上がって、バックヤードに消えた。こちらに聞き耳は立てているだろう。そもそも英梨々が受付をやっていることが問題なのだ。初日に愛嬌を振りまきすぎるなと注意したが、それにはちゃんと理由があるのだ。男性には男性の世界がある。

 

「個室、空いてます?」

「空いています」

「一時間で」

「かしこまりました」

 

 俺は鍵を渡した。余計な会話はしない。ここはマンガ喫茶で、マンガを読むためのフリースペースだ。それ以上でもそれ以下でもない。それをどう利用するかは、客の自由である。そして、需要と供給がある。ここは風俗店ではない。堂々と18禁のエロ同人誌などレジ横においてはいけないのだ。クレーム、あるいは通報されるかもしれない。エロ漫画はどこか隅の棚にこっそりとあればいいのである。節度が大事。法律はグレーには寛容なのだ。

 

「倫也~」と英梨々が声をかけてきた。「もういいぞ」と俺は答える。

「もう、いったいなんなのよぉ~」

「なんでもねぇよ」

「あの人、あたしの本借りていったかしら?」

「ああそうだな。ところで英梨々、今日のランチは何食べようか?」

「えっ?そうねぇ・・・」

 

 俺は話題を変える。そして、さりげなく手元にあった漫画本を監視カメラのモニターの前に置いた。英梨々には悟られないように話題を変え、さっきの男性のことは忘れさせる。

 

「手作りのハンバーガー屋があったわよね」

「あるな。ちょっと高いけどな」

「あそこがいいかしら」

「そうだな」

 

 そう、どうでもいい会話をする。また来客があってチャイムが鳴った。英梨々が「ちっ」と舌打ちをする。

 その後は英梨々が適度な笑顔を作りつつ受付を済ませた。

 

「よし。じゃあ、そろそろ英梨々は休憩でいいぞ。ついでに俺のハンバーガーセットも適当に買ってきてくれ」

「はぁ?なんであたしがあんたのパシリをしないといけないのよ」

「頼むよ。俺さ、どーしてもハンバーガーを喰いたくなったんだよ。なっ?」

「そう・・・いいけど」

 

 英梨々が不審そうに俺をみたが、俺はニコニコと作り笑顔をする。英梨々が店の外に出ていった。

「ふぅー」と俺は大きなため息をついた。これで当分はばれない。

 

 監視カメラのモニターは個室の中も映す。それを知った時はショックだった。俺のバイトしている日中にはいなかったが、当然予想できることなのである。

 英梨々は気が付いていないようだった。性に対するアートの部分で知識があっても、こういう世俗的な知識は人並みのJKと同じぐらいしかない。自分のエロ同人誌がどのように使われるかを知っていても、想像が結びつかず、ましてやこの日中に個室を借りることに発展するなど、考えもしないだろう。

 

 英梨々は女の子で、変態、いやド変態美少女だが、やっぱりウブな処女でもあるのだ。

 

 また来客のチャイムが鳴った。今日は忙しい。

接客を終えてから、俺は問題に発展する前にラックの同人誌を片付け始めた。マンガ喫茶の昼は暇人が集まって、マンガ読みながらのんびりすごせばいいのだ。

 

 やがて英梨々が戻ってきて、バックヤードで食事を始めた。ハンバーガーのいい香りがする。

 

 その間に男性が個室からでてきて、ラックに同人本を戻そうとしたが、すでに他の本はない。どうするか迷っていた。

 

「よろしければ、それ、あげます」と俺は言った。

「えっ、いいの?」と聞き返してきたが、俺はうなずいただけで答える。

 

 男性は清算をすませ、同人本をもって帰っていった。

 

「ねぇねぇ、倫也~」

「なんだよ」

「さっきの人、個室利用したわよね?」

「・・・そうだな」

「やっぱり、抜いたのよねぇ~きゃぁ~」

「・・・」

 

 ああ、訂正する。ウブな処女はどこにもいなかった。童貞の俺の幻想だったわ。英梨々の脳みそは芯まで腐っていた。期待した俺が悪かった。可憐なのは見た目だけのようだ。これだけ一緒にいて、俺は見抜けなった。

 

 バックヤードで、嬉しそうにハンバーガを齧りながら、英梨々がニヤニヤ笑っていた。その笑顔が同人作家の歪んだプライドなのか、ハンバーガーがおいしいだけなのか・・・いや、歪んでいるだけだな。

 

 そんな笑顔でも、八重歯がちょっとこぼれて可愛かった。

 

 また来客のチャイムが鳴った。今日は忙しい。

 

(了)




倫也の気づかいを台無しにするスタイル。

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