【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み   作:きりぼー

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駄菓子で昔を思い出せば、自分達がずっと大人に成長していることに気が付く。
それでも、まだまだ子供でいたい時もある。そんな話。


26 駄菓子といえばアレだな

8月17日(水)夏休み25日目

 

 今日は暑い。再び真夏が戻ってきたように太陽はギラギラと中天に輝いていた。

 

 俺と英梨々は駄菓子屋にいる。染色工房近くの駄菓子屋だ。なんでも、英梨々の発注した浴衣が仕上がったので直接取りに来たのだ。別に配送でもいいと思うのだが、あの染色職人の老夫婦に呼ばれたようだ。

 

 約束の時間までまだあったので、俺はあの時に見つけた駄菓子屋に英梨々を案内した。古き良き時代の佇まいを残した駄菓子屋で、発泡スチロールの薄い組み立て飛行機や、プラスチック製の飛ばすヘリなども売っている。

 中年になりかけているお姉さん?が1人で店番をしていた。店内に座れるスペースがあり、ベーゴマなどでも遊べるようになっていた。

 客の子供の数は5名。小学生高学年ぐらいの男子で、そこでカードバトルをして遊んでいた。

 

「倫也、駄菓子と言えば何が好き?」

「好きなのは、コーンシュガーかな」

「あれも美味しいわよねぇ」

 

 英梨々は人の話を聞いているのか、聞いていないのか。片っ端から籠にいれている。大人買い。

 ちなみに今日の英梨々は、モスグリーンのオシャレなポンチョを着ている。透けるような薄い生地で、下は白のワンピース。全体としてなんだかふわふわした印象を受ける。およそ、駄菓子屋とは不釣り合いでセレブっぽい。

 

「あたしはこのビニールチューブに入ったブドウ糖が好きなのよね」

「それ、最後までは食べにくいよな」

「そうね、でもカッターで切ると綺麗に食べられるのよ」

「なんか邪道だな」

「スモモも食べる?」

「少しもらえれば十分かな・・・一つはきついかも」

「そう?そうね」

「あと、その桜餅のシリーズも頼むよ」

「これも、ずいぶんと種類が増えたわよね。内容量減っているけど」

「原価があがっているからなぁ。昔の大きさで値上げして欲しいよな」

「ほんとよね。子供には買いにくくなるでしょうけど」

 

 英梨々が一通り駄菓子をえらび小さな籠いっぱいにした。スナック系は0だ。会計をしても千円にもならない。小さいころに100円玉でお菓子を選ぶ様な楽しさは失われていた。

 

 そこから英梨々はさらに選んで鞄に入れた、残りを遊んでいた子供にあげようとした。

 

「知らない人はお菓子もらってはいけないで」 と、あっさり断られている。

 

 世知辛い世の中である。だいたい、もう少し仲良くなってから買ってやるものだろう。例えばカードゲームをしばらく眺めるとか。

 

「なら、捨てなさいよ」

「おいおい、子供相手にムキになるなよ・・・」

「それにどうせならこのカード付のお菓子が欲しいよなー」子供は素直だ。

「・・・このガキ」その子供相手にさらにムキなる英梨々。

「そういうことだ英梨々。こちらが良かれと思ったことが、相手にとって良いとは限らないだろ」

「あっ、ボクは食べます。ありがとー」空気を読む子供もいる。

「あっ、そう?じゃ、君に全部あげるわ」

「ありがとうございますー」

 

 子供も人それぞれ。こういうところで遊んでいれば、英梨々みたいな大人が時々はいるだろう。実は子供たちは駄菓子屋のサクラだったりして・・・

 

「なんで、君が食べるよのー」

 

 さっき英梨々を断った上に、カード付きがいいと言い放った子供が、友達がもらった駄菓子を食べている。

 

「これは友達からのものなので、知らない人でないし」

「・・・こいつ」

「はははっ、英梨々帰るぞ」

「腑に落ちないわ」

 

 英梨々が機嫌を損ねて駄菓子屋を後にした。俺としてはちょっと面白い。子供に一本取られている気がする。

 

「なんなのかしら、ほんと頭くるわよね。素直じゃないというか」

「でも間違ったこと言っていないだろ。頭のいい子なんよきっと」

「そうかしら?」

「だいたい、もう俺らも小学生と感覚がずれているんだよな。勉強になった」

「カード付きがいいか・・・言われてみると確かにそうよね」

「今はカードもBOXで大人買いしてそろえる時代だからな。持っていない子からすると案外切実かもしれんぞ?」

「そういうのって、結局は販売者側に踊らされているわよね」

「オタクグッズを買い漁っている俺らが言えた義理でもないだろ」

「・・・そうね」

 

 蝉の鳴いている道を歩き、染色工房に向かう。打ち水をしている人に軽く会釈をした。

 

※ ※ ※ 

 

「わぁ、すごい。倫也、見て、見て」

「見てるよ。これは驚きだな」

 

 和室に通されて、英梨々は出来上がった浴衣と帯を確認している。老夫婦も満足気にしている。

 

「こんな感じだけど、大丈夫かしら?」奥さんが英梨々に尋ねた。

「ええ、もちろんです。ありがとうございました」英梨々もご満悦。

「うん。いい仕上がりだ」旦那さんも目元が優しくなっていた。

 

 浴衣は白地に黄色と青の模様だ。ピンクが少しアクセントになっていて、朝顔の柄に見えなくもない。全体的にシンプルで夏らしい涼しさがある。

 帯は英梨々デザインの親子熊で、パッチワークのぬいぐるみ風だ。こちらは手が込んでいて、とても染色とは思えないほど多数の色が使われている。細部まで手が込んでいる。

 

「うん。色も思ってた通り。ううん。それ以上ね」

「色?」

「染色は蒸して定着させた時に色が変わるのよ。鮮やかになるのもあれば、くすむ色もあるの」

「へぇ」

「だから、出来上がるまでは不安だったけれど・・・」

「良かったな」

「うん」

 

 英梨々はニコニコと満面の笑みを浮かべている。

 

「一度着てみるかしら?」

「えっと・・・」

 

 奥さんに言われて、英梨々が迷っている。俺の方を見たということは助け船が欲しいのか、決断がつかないのか。

 

「せっかくだし、着てみたらいいと思うぞ」

「そうよねぇ・・・」

「どうした?何か問題があるのか」

「そうじゃないけど、じゃあ倫也はちょっとその辺散歩してらっしゃいよ」

「なんで!?」

「そりゃあ、いろいろあるわよ。あんた女心わからないんだから、ほら、さっさと行きなさいよ」

「ええっ」

 

 俺は追放された。試着の時には追放されるルールでもあるのか?外はまだまだ暑かった。さっきの駄菓子屋に戻る気も起きないし、駅前のスターマックスで時間をつぶす。もうあそこに戻らなくてもいいだろうか。どうせ、英梨々は駅に向かってくるわけだし。

 

 一人でスマホをして過ごす。時間をつぶす分には何の問題もない。老夫婦も英梨々の浴衣姿が見たかったのかもしれない。あの夫婦に子供や孫がいるのか聞いていないのでわからないけれど、まぁ孫みたいなもので可愛いのだろう。

 

 1時間ほどして、英梨々からLINEで連絡があり、「戻ってきていいわよ」という。俺は駅前で待っていると返事したら、「戻ってきていいわよ」と同じ文章だった。日本語が通じない場合はしょうがない。俺は暑い中また歩いて工房へ向かった。

 帰りの支度が終わっていて、英梨々はお礼をいって工房を後にした。手にはけっこうな量の荷物になっていたので、俺が半分をもってやる。

 

「どうだった?」

「そうね。やっぱりコミカル過ぎたわね。子供っぽいのはしょうがないのでしょうけど」

「まぁ、熊だしな」

「帯の正面に親子熊というのがいけないのよね。ちょっとずらして、子熊を前面、親熊を横にしたら多少は印象がかわるでしょうけど」

「難しいもんだな」

「浴衣の方がシンプルな純和風でしょ?やっぱり、そういうのって調和が大事なのよね。そこまで考えていなかったから、ちょっと後悔するわね」

「それはしょうがないだろ。浴衣の方も手で描けば別かもしれないが」

「どういえばいいのかしらね。『作品』として見て、美術館に展示されるならとてもいいと思うのよ。でも、実際に着たら浮くわよね。ファッションショーみたいな感じになるの」

「ああ、それはわかる気がする」

 

 ましてや英梨々は金髪で、和服を着るだけで違和感があるのは否めない。だからこそ、純和風よりも俺はいいと思うが、まぁ見てないのでなんとも言えない。案外、こういう和風ものだと金髪がコンプレックスになっていたりして。

 

※ ※ ※

 

 ローカル電車の中で、俺と英梨々は並んで座る。まだ夕方になっていないので外は明るい。英梨々はバッグから、『モロッコヨーグルト』を取り出して、ちいさな木のヘラと一緒に俺に渡した。プラスチックの容器に少量の白い謎のクリームが入っていて、ねっとり感と爽やかさが味わえる。駄菓子の定番の一つだろう。

 

「これも、良く食ったなぁ」

「謎よね。」

「ショートニングなんだろ?」

「そうらしいわね。でも、知らないままの方が幸せよね。この謎さが一番いいのよ」

 

 俺はクリームをすくって食べる。英梨々も食べる。飴ちゃんなら口にいれて終わるが、ちまちまと食べなければならない。空いている電車なので別にいいが、電車で食べていい食べ物のギリギリのラインではなかろうか。

 

「この、最後まで食べれないところがいいのよねぇ」 英梨々が容器の中をヘラですくっている。気持ちはわかる。

「それは、子供が長い時間をかけて食べられる楽しさがあるから、いいんだってさ」

「へぇー、そうなの?」

「子供の頃って、「食べで」が大事だろ。少ない金額でどれだけ食べられるか、長持ちするか」

「よくわかんないけど、楽しいってだけではダメなのかしらね?」

「いや、別にいいと思う」

 

 そもそも少ない金額で楽しむというところが、英梨々は共感しにくいのだろう。大量に買って友達から反感を買って、友達に配っても嫉妬を受ける。とかく子供社会でも難しい。

 そういえば英梨々の家に行った時は、箱のままのこのお菓子があった。食べ放題になって嬉しいものでないが、羨ましかったのを覚えている。

 

 食べ終わったゴミを英梨々は回収し、ビニール袋にいれてからバッグにしまった。

 

 荷物が多いのでガリガリ君を食べ歩きすることを断念し、暑い中を英梨々の家まで荷物を届けた。

 英梨々に誘われたので、少しだけお邪魔をして上がらせてもらった。執事の細川さんの代わりに、すでに新しいメイドさんが入っている。メイドといっても、お決まりのメイド服でなく、しっかりとしたスーツを着た女性だった。

 俺は軽く会釈をする。英梨々は無視をしていた。新しいメイドさんは俺が英梨々の部屋に入るのを怪訝そうに見ていた。新しい職場で慣れるまでは大変だろう。

 

 英梨々は部屋で荷物を整理する。それから部屋から出ていって、お茶と梨を持って戻ってきた。俺としてはさっきのメイドさんへの態度が気になっていたが、小言をいう必要もなさそうだ。英梨々だってもう子供でないから、自分が子供っぽい態度をとっている自覚ぐらいあるだろう。

 

「この梨なんだけど」

「さては高いな」

「どうなのかしらね?」

「非売品か」

「うん、開発中の新種らしいのだけど、梨は梨よね。皮まで食べられるらしいのだけど」

「確かに皮が薄くて食べやすいな。近年の果物の流れだよな。皮まで食べられるのって」

「若者の果物離れが進んでいるんですって」

「単に果物が高いだけだよな。あれってさ。バナナは売れているし」

「どうなのかしらね?アンケートでもしているんじゃないの。それに、自宅に包丁もない一人暮らしは増えているらしいわよ。たぶん、あたしもそうなるわね」

「うーん・・・時代だな」

 

 梨は瑞々しく美味しかった。やっと一息付けた。でも贅沢をしている気分にはならない。この梨が一個何千円、あるいは万を超える金額でも、俺はモロッコヨーグルトを箱買いする方が贅沢な気がする。今となっては、そんなには食べたくないけど。

 

※ ※ ※

 

 英梨々は体育座りをして、身体を小さく丸め、膝に顎を乗せていた。つまらなそうに録画しているアニメを観ている。その姿は何かにじっと耐えているようにも見える。

 部屋の中に、執事とかメイドさんがいるわけではない。彼らは英梨々の部屋の外で屋敷の仕事をしている。大きな屋敷だから、掃除や庭の手入れだけでも大変だろう。いないわけにはいかないのだ。

 

「慣れるしかないだろ」

 

 俺はつい口に出してしまった。そんな風にいじけてみせたって解決はしない。うまくやっていくしかないのだ。

 細川さんという長年勤めてくれた執事がいなくなって、英梨々の情操は少し不安定だった。

 

 英梨々は顔を上げて、俺の方をみた。それからまた目線をテレビにうつし、

「わかってるわよ、そんなこと」と小さな声で言った。

 

 俺はゲーミングチェアから降りて、英梨々の左に体育座りをした。同じような恰好をしてみる。

 

「なにしてんのよ。あんた」

「寄り添ってんだよ」

「・・・そう」

「そこは『はぁ?あんたバカなの?』っていうとこだろ」

「ううん」

 

 英梨々が俺の方に腕がくっつくぐらい寄ってきて、俺の右肩に頭を軽く乗せた。

 

 外の音もエアコンの音も聞こえない。静かな部屋にアニメの場違いな笑い声だけが響いていた。俺も英梨々も少しも笑わずに、ぼんやりと画面の光を眺めていた。

 

 英梨々の日向の匂いがする。子供のままの君がいる。子供のままの俺がいる。

 

(了)




今回は蛇足のような後書き。(読まなくて大丈夫です)

英梨々を書くにあたって、細川さんというオリキャラを登場させた。
英梨々の精神的な依存を担う人が必要だった。
倫也と英梨々が結ばれるということは、肉体的にではなく、精神的にすべてを受け入れることが必要で、その一つとして細川さんから倫也へと精神的依存が移っていく。
自立というのは、まずは経済的自立が大変なのだが、英梨々はすでにお金を稼いでいる。あとは精神的な自立が必要でそこにお嬢様としての甘さがある。

細川さんが辞めることで、英梨々の心にはぽっかりと穴が開き、そこに不安な感情が流れ込む。倫也はその一部を埋めようと寄り添うが、倫也では埋められない。
大人になるというのは、そのぽっかりと開いた穴を自覚しつつも、なんとか踏ん張って歩くことなのだろう。だから自立だ。倫也は英梨々が1人で立てるまで側にいることしかできない。そっと支えるだけだ。

こういう倫也の優しさは、「俺についてこい」というような強いものでないから、英梨々を抱けない。

これは倫也と英梨々が共依存の関係にあると言えるだろう。

英梨々は倫也と仲良くなると絵が描けなくなったが、倫也もまた英梨々ルートではゲームを作れない。子供の頃夢みたゲーム会社の社長にはなれない。
2人は内在的に補完し合ってしまうから、外部の世界に発信する必要がなくなってしまう。
英梨々が資産を受け継ぎ家賃収入で細々と生きても、倫也と2人なら穏やかで静かな暮らしができてしまうだろう。栄達とは無縁でいられる。

対比的に恵がいて、彼女の場合は倫也を出世させることができる。倫也は恵との関係性を外部に求めた。恵と過ごすための口実としてのゲーム作りが必要だった。
外界を必要としない英梨々とは本質的に真逆の存在だ。

さて、物語はいよいよ後半戦。倫也と英梨々の距離はますます近くなっていく。今日という二度と戻らない時間を駆け抜けていく・・・

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