【全40話】英梨々とラブラブ過ごすエッチな夏休み 作:きりぼー
8月18日(木)夏休み26日目
久しぶりに外は強く雨が降っている。夏の厳しい暑さは一段落。
木曜日の俺と英梨々はマンガ喫茶で仲良くバイト中だ。お昼休憩を終えて、2人して受付でマンガを読んでいる。あんなに真面目に働けと言っていた英梨々もバイト三回目でやることがないことに気が付いたようだ。
それでもチラシを配った効果がでている。30分無料延長券の使用が目立つし、学生半額もなかなか好評で高校生らしい人もちらほらと来ていて、店はなかなか繁盛していた。
「ねぇ倫也、つづき持ってきてぇ~」
「自分でやれ」
英梨々は3冊ずつマンガを持ってきて読んでいる。今読んでいるのはチェンソーウーマン。話題作で完結もした。俺は新刊のラノベを読みつつ、運営サイトに感想を書いていた。こちらは鮮度が大事で発行から早く更新しないとサイト利用者が減る。例えアフィーカスと罵られようと大切なお金である。そのお金でまたラノベを買い、俺はサイトを更新しているのだ。
「倫也、それどう?面白い?」
「そうだな。なんか、異世界転生ものも食傷気味だったが、この食堂経営は面白いぞ」
「ふーん。あたしも読もうかしら」
「いいんじゃね」
「じゃあ、これが読み終わったら貸しなさいよ」
「いいぞ」
「読み終わるために、つづきもってきぇ~」
来客を知らせるチャイムが鳴った。英梨々が舌打ちをする。そして受付でしっかりと座り直す。もはや四六時中緊張して働いていた英梨々は無理で気をぬくようになった。
俺が客に対応する。
「高校生です」
「学生証の提示をお願いします・・・はい、確認しました」
「えっと、個室って空いてますか?」
「空いています。ただ個室の利用料は半額対象外ですが」
「構わないのでお願いします」
「お時間はいかほどになさいますか?」
「えっと・・・2時間ぐらいで」
「かしこまりました」
俺は手続きして、その高校生に鍵を渡した。
「ねぇねぇ、倫也。今の高校生、ちょっとイケてたわね」
「そうか?顔は見てなかった」
「あんた、どんだけ興味ないのよ。お客様の顔を覚えるのも大事でしょ」
そうは言われても男の顔なぞ興味はもてない。言われてみれば、ちょっとオシャレそうな男だった気がする。俺よりちょっと背が高くて、髪も少し色を抜いていて・・・
英梨々は立ち上がってマンガを取りに行った。ついでに本棚を見て回り軽く整理している。客の中には棚には戻すが順番を気にしない人もいるのだ。そろえる人からすると信じられないだろうが、それなりのお客さんがバラバラのまま棚に戻す。
最初はブツブツ文句をいっていたが、それが仕事だと諭すと納得し定期的に直している。その間に俺はドリンクコーナーを少し掃除して、バックヤードでグラスを洗った。
そんなにたくさん仕事があるわけじゃない。緊張するのは清算時の計算とお金を扱う時ぐらいだ。万引き防止のために見回りをしたりしないし、監視カメラもそんなに一生懸命見ない。録画はされているから何かあれば警察へ渡す証拠になる。
騒がしい客がいたら注意をするべきだが、そんな客もいない。いたって平和だった。
英梨々がまたマンガを3冊ほど持って戻ってきた。コーラとアンバサのまぜたドリンクを用意し、またマンガを読みはじめている。
俺は監視カメラを見ると、さっきの高校生は寝そべりながら退屈そうに雑誌を読んでいる。ぐーたらしたいだけだったようだ。
チャイムが鳴った。客がもうすぐ入ってくることを知らせてくれる。英梨々はマンガを読むのをやめて、客の対応をする。俺とはだいたい交互に接客していた。
その女の子は小柄な子で、髪の片側だけヘアゴムで留めていた。服装は黒にラメの着いた派手なミニTを着ていて、ファンシーなファッションだった。顔立ちもまぁまぁ可愛いが、つけまつげがあり、化粧も濃かった。あと貴金属がジャラジャラとあちこちに着いていた。俺の苦手なタイプだ。
あまりマンガ喫茶に縁のなさそうな子に見えたが、マンガを嫌いな子もいないし暇なのかもしれない。
「英梨々。今の子、可愛かった」
「はぁ?」
「見たろ、なかなかマンガ喫茶にはみかけないタイプだぞ」
「あんたバカなの?死ぬの?なんで彼女の前で堂々と浮気しようとしてんのよ」
「してねぇよ!お前だって、さっきの高校生男子にイケメンとかいって浮かれていたろ」
「別に浮かれてないわよ。あたしは事実をいっただけでしょ」
「俺のも事実だろ」
「あんたのは下心でしょうが。どうせミニTの下のヘソのあたりをじっと見てたんでしょ」
「・・・するどいな」
「お見通しよ」
あっ、今日の英梨々ね。胸パットをいれている。うん。
髪型は2つに分けた三つ編みで、丸い大きなメガネをかけている。服装は黒のゴスロリだ。ドジッ子メイドをイメージしているようだ。大変グッドである。が、胸パットをいれている。そこまで胸を強調したデザインでもないと思うのだが、本人は思うところがあるのだろう。そこはそっとしておいてやる。
ふぅ・・・。さて、本題だ。先ほどのファンシーちゃん(仮名)だが、すでに俺の視界から消えている。そして監視カメラを見て発見した。そう、個室に先ほどの高校生と一緒にいる。
これは始まる予感
もちろん、注意書きがあり淫らな行為は禁止されている。監視カメラがついていることも貼り紙でそれとなく知らせてある。しかし、お金がなくラブホに行けないカップルが、カラオケBOXやマンガ喫茶の個室を利用するのは公然の秘密だ。某お笑い芸人みたいに多目的トイレを使用しないだけ偉いとすら思う。大人の俺としては、ここはノックをして邪魔をしにいくよりも、黙って静観してあげたい。全力で総理大臣みたいに注視したい。
問題は英梨々に気付かれないことだ。英梨々はこう見えて仕事にお堅い時がある。この千載一遇のチャンスをバカ正直に邪魔しかねない。まずは気付かれないように、俺はなにげなくマンガを読み始めた。
「倫也」
「どうした?」
「さっきの女の子いないわよ」
「トイレじゃねーか?」
「倫也、マンガ本が逆」
「何ぃ」
「『お前、知ってたな』という」
「お前、知ってたな・・・はっ!」
「って、ほら、バカなことしてないで、注意しにいくわよ」
「まてまて、英梨々。早まるな。ここで注意して誰が得をする?よく考えろ」
「ルールでしょうが。怪しい噂がたっても困るのよ」
「いやいや、そういう場所だから。半ば公然の秘密だから」
「そんなこと知らないわよ」
英梨々が漫画本を置いて立ち上がった。クソォ、この女、いつもは変態のくせにバイトの時だけ真面目ぶりやがって。俺は慌てて英梨々の右の手首をにぎって、行くのを阻止した。
「まぁ、まて、まだ始まると決まったわけじゃない。ここは大人になってだな」
「大人になっているのは、あの子達であって、あんたは子供でしょ」
「お前もな」
「そうよ?だから何?ヘタレ彼氏のせいでしょうが」
「その話はとりあえず置いといてだな・・・」
俺はチラリと監視カメラを見る。ほら、早く始まれ。始まったら英梨々だって声をかけにくくなるはずだ。おっ、寄り添い始めている。これはヤる。絶対にヤる。
「あんた、本気で言ってるの?」
「ああ、ほんき・・・」
英梨々の俺を蔑む瞳にハイライトが入っていない。あれ、けっこう真面目に軽蔑されてる?俺の主張ってそんなにおかしい?高校生カップルの愛の営みを見守ることがそんなにいけないかな。俺が監視カメラに気が付いてないだけって、別に問題ないよね。
バシッ
英梨々が俺の腕を振りほどいた。勢いで俺の手が受付台に当たってしまった。もう、英梨々ったらお堅いんだから。さて、どうしたものか。
俺はメイド服のスカートの裾をもった。このままめくり上げたい衝動を抑え、再度英梨々を説得しようとした時に来客を知らせるチャイムが鳴った。
今日は忙しい。席も半分以上埋まっていた。こんなバカなことをしている場合じゃない。
「チッ!」と、英梨々が大きな舌打ちをした。お前はパブロフの犬か?チャイムを聞くと舌打ちせずにはいられないのか?とにかくこのスカートの手を離したら、英梨々が1人で個室に行ってしまうかもしれない。が、もったまま接客はできない。
悩んだが、俺は手を離して仕事を優先した。客に利用予定時間を聞き、先に会計を済ませる。それから時間の書いた札を渡す。
この中年のおじさんは常連客の一人で、たぶん英梨々ファンだ。しかし、声はかけられない内向的なマンガ好きのおじさんであり、いたって無害。英梨々のゴスロリ姿を拝むようにして、中へ入っていった。
英梨々は立って待っていた。
「ほら、早くしなさいよ」
「何を!?」
「ちゃ・・・ちゃんと持ちなさいよ」
「お・・・おう」
うん。こいつ、さすが俺の彼女だよ。大事な事をわかっている。俺はまたスカートの裾をもった。なんならバックヤードに連れ込んで、スカートの中にもぐりたい。いやいや、今はそんなバカなことを考えている場合じゃない。
「ほら、早く、説得して」
「おう・・・」
なるほど。こいつはやっぱり変態少女で、こいつもどうやら覗きたいらしい。さすが英梨々だ。俺の期待を裏切らない。とはいえ、自分を偽る建前が必要だ。偽るというか正直になる理由だ。
「英梨々。こう考えてみてはどうだろう?神様がくれた同人漫画のリアルな資料」
「ふーん。それで?」
「リアリティーの追及だよ。作り物でない、生の吐息が聴こえて来るような作品が作りたいだろ?当然、人気凌辱同人作家として、さらなる高みをめざすよな?それが英梨々だ。そうだろう?」
『ぴんぽーん』と能天気な音のチャイムがなった。これはエレベーターから出て、店に近づくとセンサーが反応して鳴る仕組みだ。扉が開く前に俺らは客がくることがわかる。
「倫也。ちょっとあんた、店閉めてきなさいよ」
「できるかっ!」
「ほんと、じゃま・・・いらっしゃいませ~♪」
女は怖い。豹変した。英梨々が接客をしたので、俺は監視カメラを見るベストポジションをとる。よし、キスシーンから男の手がファンシーちゃんの胸を触っている。もう止められまい。
ゴクリッ
英梨々の生唾を飲む音がする。いつの間にか真横にいた。
「近い」
「だったら、場所を替わりなさいよ」
「ここは、特等の有料席だからな。早いもの勝ちなんだ」
「早い者勝ちなのか、お金なのか、はっきりしなさいよ」
「しっ。英梨々。始まりそうだぞ」
「あら、ほんと始まるのね。これ、扉の外に立っていたら音聞こえるんじゃないの?」
「まぁ、トイレにいく通路の横だしな、多少は声が漏れても問題ないだろ。一応防音仕様だしな」
英梨々がガン見している。元々FC2の無修正すら映像を止めながらデッサンする英梨々だ。これぐらいの映像では驚かないはず・・・だが、生放送は(放送じゃねー)初めてらしく、耳まですでに赤い。
うんうん。もう人前に出せない英梨々になっている。このマンガに囲まれた環境が英梨々を油断させたな。
「場所を替わってやろうか?」
「ほんとっ」
声が少し上がってカワイイ。そしてこの腐女子の鑑のような英梨々は、そわそわしはじめた。ここまで釣れるなら、せっかくだ何か条件を出しておこう。
「ただし、条件がある」
「いいわよ。何でもいうことをきいてあげるわ」
「よし、言ったな」
『ピンポーン』チャイムが鳴った。
「チッ」「チッ」と、俺と英梨々が同時に舌打ちをする。英梨々は、姿勢を正してお客様を迎える。俺は店内をぐるりと周って、棚の整理をし、ドリンクバーの零れたジューズをふいて掃除をした。
『なんでもいうことをきく』この魔法の言葉には、暗黙のルールがある。常識内で可能なものだ。王様ゲームの指示に似ている。まぁ、ストレートに『一発やらせろ』は意味がないんだよな。だいたい拒否されてないし。俺がヘタレなだけだ。
「よし、英梨々。おっぱい揉ませろ」
「いいわよ」
「あっさりだなっ!」
すでに英梨々は監視モニターの前に陣取っていた。
「そんなことより倫也。このモニターって白黒なの?あと、画面が切り替わるのが気になるのよね」
「まぁしょうがないだろ。白黒の方が録画時間長いんだよ」
「画面が切り替わるのは?」
「そこの操作で固定できるけど、そこに映っている映像がそのまま録画に残るから、お前が覗いているのがバレるぞ」
「・・・もう。使えないわね」
べぇー。俺は舌を出す。本当は個別に映像がそれぞれ録画されている。HDDで保存しているバックヤードのノートPCなら、カラーでチェックもできる。が、それは秘密だ。英梨々がバックヤードで、フルカラーのタイムリーなものを見るのは、さすがに変態すぎる。あいつを犯罪の道に(すでに手遅れかもしれないが)、進むのを少しは遅らせたい。
「あんまり進展しないわね。生乳は揉んでそうだけど」
「もうけっこう時間が経つよな」
「ほんと、何イチャイチャしてんのかしらね。ほんとにこれ最後までヤるの?」
「俺に聞かれても知らん」
「ちょっと、倫也、扉の前で見てらっしゃいよ。何か聞こえるかもしれないし」
「あのなぁ・・・」
それはいいアイデアだな。ついでにトイレにいって掃除もしてこよう。個室の前に移動して中の様子を伺ったが、声は聴こえなかった。まぁ当然か。仮にヤるにしても、声は押し殺すに違いない。
ガチャ その時、扉が開いた。
「あっ」ファンシーちゃん(仮名)と目が合った。服装は乱れていないが・・・貴金属の装飾品はとれている。ヘソが眩しい。
「あの、すみません、この辺に薬局ありますか?」
「薬局なら、駅ビルに大手のドラックストアがあります。そこが一番わかりやすいと思います」
「あっありがとうございます」
「お客様。すみませんが」
「はい?」
「個室の利用はお1人様のみとなっておりますので、ルールをお守りいただきますようお願いします」
「はっ・・・はい。すみませんでした!」
さっきまでクールな感じのファンシーちゃんは、顔を真っ赤にして店を出ていった。俺はつい、仕事モードで対応してしまった。さすがに個室の前で同伴を認めるわけにはいかなかった。
いや、英梨々に・・・あんまり見て欲しくなかっただけかもしれない。同世代の高校生男子の裸を・・・
受付に戻った。英梨々には注意したことを伝えなかった。英梨々はファンシーちゃんの帰りを健気にそわそわしながら待っていたが、結局、個室の時間終了までに戻ってはこなくて、高校生男子は清算して帰っていった。
それから何事もなく時間が過ぎバイト終了の時間になった。店長がやってきて、俺と英梨々は傘を持って店を出た。
※ ※ ※
エレベーターの中で、俺は下へのボタンを押さなかった。扉の閉まったまま、俺と英梨々はじっとしていた。
「英梨々」
「なによ」
「約束覚えているな?」
「覚えているわよ。ちょっとあんた、後ろ向いてなさいよ」
「ああ、わかった」
なぜ、後ろを向く必要があるのか問い詰めない。エレベーターが動き出した。どこかの階で誰かがボタンを押したのだろう。止まったらそこで降りて、1階でなかったら階段を使って降りるだけだ。
もそもそと後ろで英梨々が服を擦る音がした。
「いいわよ」
「ん」
「はい。約束だから」
「おうっ・・・って、おい!」
エレベーターの扉が開いた。俺は慌てて受け取ったものを後ろに隠しもった。分厚い白い布パット。
「約束だから触らしてあげるわよ。胸」
「パットじゃん!」
「おあとがよろしいようで」
「オチいらんわ!」
きも~ちこの胸パットが生暖かい気がする。が、これをもらって妥協するわけにはいかない。俺はこれを男らしく突き返した。英梨々は何もいわず、それをバックにしまった。英梨々のゴスロリファッションの胸がペタンコになった。まぁ、そこまでペタンコじゃないけど。
雨はまだ降っていた。
「ねぇ倫也。せっかくの雨だし、相合傘してあげてもいいわよ」
「そうだな。せっかくの雨だし、相合傘してみるか」
「ふふっ」
俺は紺色の傘を右手で差した。雨がポツポツと当たる音がする。英梨々が傘の中に入った。雨の中を2人で歩いていく、英梨々は歩きながら髪のリボンをほどき、三つ編みを解いた。首を振ると髪がバサァ~と広がった。クルクルと癖がついている。それを手櫛で整えている。メガネを外してバッグにしまう。目つきが少し悪くなる。
英梨々はニヤニヤと笑っている。何がそんなに楽しいんだか・・・
「こうしてみると、やっぱり恋人みたいよね」
「何を今さら?」
「だって、倫也、ぜんぜん手を出してこないんだもん」
「そうでもなくね?」
「そうねぇ・・・」
俺達はなんどか一線を超えるかもしれない状況になっている。その都度、いろいろあって未だに成し得ていないが・・・それでも、けっこう満足していた。
英梨々は俺にピッタリとくっつき甘えてくる。水たまりも気にせずに靴を濡らしながら歩いた。
その後の英梨々は特に何もしゃべらずに静かに歩いて、傘にあたる雨の音を楽しんでいた。
※ ※ ※
俺の家の前に着いた。
「ねぇ、倫也」
英梨々が俺の前に立った。それから潤んだ瞳を閉じた。
左手で英梨々の頭をなでて、乱れた髪を直してやる。それから、そっとキスをする。道路から見えないように傘で2人の顔を隠した。
唇を離す。ちょっとしたキスを別れ際にする。キスをそこまでドキドキしないでできるようになって、ずいぶんとたった気がする。
「倫也ぁ~」甘えたネコナデ声。
「ん?」
「ヘタレなんだからっ」
英梨々はそう言って、俺の左手をとって、そのペタンコの・・・ペタンコの胸に押し当てた。それは柔らかい膨らみで、ゴスロリの複雑な布上からでも、はっきりと手に感触が残った。
外だからこれ以上は発展のしようがない。今の俺たちにはそれがちょうどよかった。
もう一度唇を重ねたまま、左手に幸せな感触を感じ、ただ傘に当たる優しい雨の音を聴いていた。
(了)
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